復活したドラゴン

作者:湖水映

 街に轟音が響いた。
 ビル街の一角。無残に崩れ落ちた廃墟。巻き上がるコンクリート片と砂煙。その中に、うっそりと巨大な影が浮き上がる。
 人ではなかった。
 10メートルはあろうかと思われる硬質な鱗に覆われた巨体と、長い尾。
 その尾を一振り、二振りして、屈んでいた上体をゆっくりと持ち上げたそれは、ドラゴンだった。
 翼を打ち叩いて空へ舞い上がろうとするが、できない。封印されていた間にグラビティ・チェインが枯渇した為、飛行能力が失われているのだ。
 苛立たしげな咆哮を上げ、ドラゴンは廃墟となったビルの跡からずるりと這い出し、人間の大勢いる市街地へ向かって歩きはじめる。
 グラビティ・チェインを略奪し、かつての力を取り戻す為に。

 ヘリオライダーのセリカ・リュミエールが説明を始めた。
「群馬県の高崎市で、先の大戦末期にオラトリオにより封印されたドラゴンが、復活して暴れだすという予知がありました。
 復活したばかりのドラゴンは、グラビティ・チェインが枯渇している為、飛行する事ができません。町並みを破壊しながら、人が多くいる場所へと移動し、多くの人間を殺戮しようとしています。その目的は、グラビティ・チェインを略奪し、力を取り戻す事に違いありません。
 力を取り戻せば、さらなる獲物を求めて飛び去っていくでしょう。その前に、撃破して下さい」
 セリカの説明はさらに続く。
「ターゲットとなるドラゴンは、体長10メートルほど。毒のブレスに加え、爪や強靭な尾で攻撃してきます。弱体化しているとはいえ、元々は強力な敵ですので、充分に注意して下さい。
 市民には避難勧告を出しますし、街は破壊されたとしてもヒールで治せます。ある程度建物が破壊されても構わないので、撃破を最優先に行動して下さい」
 村雨・ビアンカが力強く言い放った。
「このままだと、沢山の人達が犠牲になってしまうのデス! その前にデウスエクスを私たちの力で片付けるのデース!」


参加者
岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)
ラックス・ノウン(マスクドニンジャ・e01361)
八江・國綱(もののふ童子・e01696)
鏃・琥珀(レプリカントの鎧装騎兵・e01730)
ミラン・アレイ(蒼竜・e01993)
ジウーニャ・アイヴィース(終始剣の使い手・e02852)
アルベルト・ユーレリティ(地球人のブレイズキャリバー・e02898)
ミスラ・レンブラント(確約者・e03773)

■リプレイ

●誘い込む罠
 ケルベロス達が採択した作戦は、ターゲットを広い場所まで誘導後、包囲・撃破するというものだった。
 目標はグラビティ・チェインの補充の為、目につく人間の殺戮を目的としている。それに、特別知能が高いわけでもない。戦いやすい場所までおびき出すのは効果的な作戦だった。
 ドラゴンは、その図体と咆哮、破壊の跡も相まって、容易く補足できた。一般人の避難誘導は、リンダ達サポート組がやってくれている筈だ。
 そしてその眼前に、ケルベロス達は立ちはだかった。
 のっそりと聳え立つ威容。威嚇の唸り声を牙の間から漏らすドラゴン。しかし、ケルベロス達に怯えの色はない。
「竜退治、か」
 岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)が呟いた。
「ふふ。緊張しないといえば嘘になるけれど、腕も鳴るね。頑張っていこうか」
 その言葉に皆が頷いた。
「復活したばっかみたいやからしゃあないやろけど、飛ばへんドラゴンはデカイトカゲや」
 ラックス・ノウン(マスクドニンジャ・e01361)が飄々と言った。その表現はいかにも言い得て妙だった。
 ラックスの腕が上がる。その身に纏った、デウスエクスの残滓を武装化した黒い液体が槍のように鋭く伸び、ドラゴンの鱗を突き刺す。傷を負ったことに対する怒りに、ドラゴンが吠えた。
 狐のような敏捷な身ごなしで高速で駆け寄った響の両拳が、ドラゴンの胸を続けざまに打ち据える。ドラゴンはさらに怒り狂って咆哮した。
 ミスラ・レンブラント(確約者・e03773)の全身を足元から吹き上がる地獄の炎が覆った。
「さぁ、此方だ!! しっかり食らい付いてこいノロマなトカゲ!!」
 ミスラの手にした妖精弓から放たれた光の矢がドラゴンの鼻面に突き立つ。ドラゴンが苦痛の吠え声を上げる。
 誘導していく場所の地理はしっかりと頭に入っている。準備は万全だ。
 眼前の獲物を追い、食らい尽くすべく、ドラゴンが移動を開始した。
 ミラン・アレイ(蒼竜・e01993)が翼を叩いてふわりと飛び上がり、ドラゴンの鼻先を舞う。鬱陶しげにかじり付こうとするドラゴンだが、虚しく宙を噛む。
「そう簡単に当たるわけにはいかないよー!華麗にかわしちゃう!」
 ドラゴンはなおも食いつこうとするが、ひらりひらりと飛翔するミランを捉えきれず、苛立たしげに咆哮を上げた。
 もう一つ、ドラゴンの上空を飛行する影があった。新九郎の杖から迸った電光がドラゴンを打ち据えた。
 上を見上げたドラゴンの足元で突然、爆発が起こった。ぐらりとよろめくドラゴン。
「『外界』にはこのように便利な代物があるのだな……」
 爆破スイッチを押した八江・國綱(もののふ童子・e01696)が、感心したように言った。今まで刀や金棒、銃器といった代物でしか戦ったことがなかったため、戦いの中にも物珍しさが先立つのだ。
 ドラゴンが爪で薙ぎ払った。それを、ライドキャリバーに乗った鏃・琥珀(レプリカントの鎧装騎兵・e01730)が受け止める。硬質な音が響く。
「損傷軽微。戦闘続行」
 無機質に琥珀が言う。その搭乗するライドキャリバーの車輪が炎に包まれて唸りを上げ、ドラゴンの腕に突進した。焼けつく熱さと痛みに、ドラゴンが体勢を崩し、牙の隙間から呻き声を上げる。
「さぁて、若いもんには負けてられんな!」
 鉄塊の巨剣を二刀に携えたアルベルト・ユーレリティ(地球人のブレイズキャリバー・e02898)が、その剣をドラゴンの首筋に叩きつけた。
 しかし、まだ、深手を負わせたというにはあたらない。ケルベロス達の効果的な牽制によって体力を削られてはいるが、仮にもドラゴンだ。まだ衰えてはいない。
 ドラゴンがその巨体をたわめた。強靭な尾で周囲を薙ぎ払う。こちらもアルベルトと同様に無骨な二刀を携えたジウーニャ・アイヴィース(終始剣の使い手・e02852)が、尾の先をすれすれでかわし、返礼とばかりに斬り付けた。ドラゴンが苦痛の吠え声を上げる。
「村雨さんは、サポートとジャマ―で援護、お願いね」
 振り返ってジウーニャが言うと、
「もっちろん、任せて下さいデース!」
 村雨・ビアンカが力強く請けあった。

●包囲形成 
 目指す場所は、道路工事計画が策定されて建物が撤去された跡地だった。土は均され、周囲に余計な建物もなく、広さは充分だ。建物にもヒールが使えるとはいえ、被害は出ないに越したことはない。
 目的地にたどり着くと、ケルベロス達は散開し、巨竜を中心に包囲陣を形成した。
 罠に誘い込まれたことを知ってか知らずか、首をもたげて咆哮するドラゴン。
「殊勝な羊……いや、この場合は竜か。わざわざ狼の餌場に足を踏み入れるとは、ご苦労な事だ」
 ミスラが言い放った。
「誰に喧嘩を売ったか、教えてあげる」
 ジウーニャも同調した。爪先で地面を二回、トントンと打つのは、プレッシャーがかかる時のいつもの癖だ。敵は巨躯のドラゴン、相手にとって不足はない。
 ミスラが弓の弦を強く引き絞る。
 ドラゴンが先に動いた。鋭い爪で薙ぎ払う。その爪をがちん、と受け止め、ジウーニャが斬り付ける。ドラゴンが怯んだ隙に放たれたミスラの矢が、ドラゴンの肩口を抉った。
 吠え猛る巨竜。その口から、毒の瘴気が立ち上る。
「気を付けて! 来る!」
 ドラゴンの鼻先を飛んでいたミランから、注意を呼びかける声が飛んだ。
 ドラゴンの口から毒のブレスが迸った。
「むおっ……!」
「くっ──!」
 前衛に立っていた数人が苦悶の呻きを上げる。
 続けて、尾が振り払われた。それを琥珀が受け止める。
「損傷増大……戦闘続行、可能」
 あくまで機械的な琥珀の声。
 前衛の背後でカラフルな爆発が上がった。士気を高め、傷を癒す國綱のブレイブマインだ。
「そら、お前の相手は俺だ!」
 アルベルトが両手の巨剣を振り上げ、ドラゴンの肩に叩きつけた。ぐおう、と悶えるドラゴン。その爪が薙ぎ払われるが、両の剣でしっかと受け止め、弾き返す。
「さすがにこの巨体はそう簡単には抑えれない、か。じゃあ、これはどうかな!」
 響が古代語の詠唱を呟き、その手から光線を解き放った。ドラゴンの四肢が石化の魔力を受けて硬化していく。
 ラックスがガトリングガンを連射する。放たれた弾丸が次々とドラゴンの身体に突き刺さった。
 苦悶と怒りと苛立ちの咆哮を上げる巨竜。
 再びブレスの体勢。
「そうは、させないよ!」
 ミランの口から雷竜の咆哮が迸った。全身を雷光に打たれ、痺れたように痙攣するドラゴン。
「さすがにおっきいねー」
 ミランが感心したように言う。
「でもその巨体が必ずしもアドバンテージじゃないこと、教えてあげるよ!」
 その言葉を解したかのように、ドラゴンの双眸が怒りの色を帯びてミランを睨む。
「砲身固定。射撃開始」
 琥珀の両手のバスターライフルが、光を放ち、輝く。砲口に集束する光。二条の光線が竜の胸を撃ち抜いた。
 苦悶する竜。
「いきマス!」
 ビアンカが投擲した螺旋手裏剣が、螺旋の軌道を描いて竜の背に突き刺さった。
 フィオリナが地に描いた星座が守護の光を放ち、味方を癒す。
 捕食モードに変形したノワルのブラックスライムが、竜の肉を噛み裂いた。
 傷付いた身体を揺り起して、ドラゴンが吠えた。戦いは佳境に差し掛かっていた。

●傷付いた竜
 飛べない翼を苛立たしげに打ち鳴らし、ドラゴンが爪を振るう。
 それを敏捷にかわした響の掌から、氷の螺旋が打ち出され、ドラゴンの胸元を撃ち、氷結させる。
 さらに、ラックスのガトリングガンから爆炎の魔力の籠った弾丸が大量に打ち出され、ドラゴンの全身を燃え上がらせる。
「同じ竜の因子を持つ者として、これ以上の狼藉は許さないんだよ!」
 ミランの掌から炎が放たれ、さらにドラゴンの身体を焼く。
 氷と炎の多重攻撃に怯んだドラゴンは、しかし身体を一転させ、強靭な尻尾で薙ぎ払った。
 まともに食らった前衛が、吹き飛ばされる──寸前で、こらえた。
 アルベルトが集中を始めた。その足元からは、地獄の炎が吹き上がり、アルベルトの身体を包む。
「その牙へし折ってやる!」
 極限まで集中力を高めたサイコフォースでドラゴンの下顎を爆破する。
 ぐらりと傾ぐドラゴンの巨体。しかし、自由の利かない四肢を踏ん張って、倒れることを拒絶する。
「もう少しデースね!」
 ビアンカが皆を励ます。そして、再び螺旋手裏剣を投じる。またも竜の背に突き立った。
 苛立ちと痛みを紛らわそうと吠え猛る竜。
「みんな、大丈夫か?」
 國綱が声をかけ、あたりを見回すと、琥珀の損傷が特に激しいようだった。
「ちと痛いぞ」
 國綱が短く声をかけた。ウィッチオペレーションで損傷を修復していく。
「問題ありません。感謝します」
 琥珀が謝辞を述べた。
 その間、アレクシアが前衛に出て踏ん張っていた。近づく者には爪と尾で畳みかけてくる為、凌ぎきるのも容易ではない。
「そろそろ、交代お願い!」
 そう言って、アレクシアはサポートのポジションに引き下がった。
 ジウーニャが後を引き受け、爪の連撃を躱し、受け止め、いなす。
「今度は全力で行くよ!」
 叫ぶや、響は両の拳に重力を集中した。軽やかにドラゴンの懐に飛び込み、重い打撃の連打を浴びせる。
 ドラゴンは悶えながら後ずさりした。
「意外としぶといな。流石ドラゴンと言ったところか」
 ミスラは感心したように呟いた。
「だが、逃がしはしない。此処で確実に仕留める――それが私たち『番犬』の流儀だ!」
 研ぎ澄まされた達人級の一太刀が、ドラゴンの肩口を深々と切り裂いた。ドラゴンが苦悶の咆哮を上げた。

●消滅するドラゴン
「加勢する!」
 國綱のバスターライフルが光を放ち、閃光がドラゴンの翼を撃ち抜いた。片方の翼をやられ、バランスを崩して倒れ込むドラゴン。
「一撃一殺狙い撃ち。俺の忍術とくと見よ!!」
 ラックスが、小型爆弾を取り付けた苦無を次々と投げ射ち、ドラゴンの胸、腹、腕に突き刺さったそれが、立て続けに爆破を起こした。
 苦悶の唸り声を上げる巨竜。
 爪を振るい、尾を振るって敵対する存在達を薙ぎ払う。躱しきれず、ジウーニャの頬を鋭い爪の先がかすめた。
「なかなか厄介な敵ね……」
 呟きながらも反撃の手を緩めず、手にした斬霊刀が硬質な鱗に覆われた尾を切り裂く。こちらも毒のお返しだ。
 琥珀の背に武装したミサイルポッドから大量のミサイルが発射され、ドラゴンの上方から降り注いだ。炸裂するミサイル群。爆風と衝撃で、地面に叩きつけられたドラゴンが、食い縛った牙の隙間から唸り声を上げた。
 その隙にライドキャリバー・ウォーヘッドでドラゴンの背に乗り上げ、炎を纏った回転する車輪でドラゴンの背中を蹂躙し、跳躍して着地した。
 背に負った手傷が気になるのか、煩わしげに身を震わせ、翼をバタつかせるドラゴン。
 首をもたげ、かっと開いた顎に瘴気の渦が巻き起こる。
 またしても前衛に向けて放たれる、毒のブレス。
「ぐっ……!」
「うおっ──」
 誰かが呻いた。
「そんなもの!」
 響が疾駆する。重力を集めた重い拳がドラゴンの胸元を打ち据えた。怯むドラゴン。後ずさりして様子を伺う体勢だ。
「ちっ、中々やるな!」
 アルベルトが集中を高め、ドラゴンの腹を爆破する。煙とともにぐらりと傾ぐ竜の姿。
「──ハァッ!!」
 弓を目の前にかざしたミスラの裂帛の気合いが響き、纏わりつく毒の瘴気を吹き飛ばした。
「いくよー!」
 ミランの掌に氷河の精霊が現れ、たちまち猛吹雪となってドラゴンを襲った。凍てつく冷気に、ドラゴンの動きが鈍くなる。
 國綱が爆破スイッチを押すと、再び色とりどりの爆発が起こった。前衛の士気が高まり、傷が癒されていく。
「もう少しデース!皆さん、頑張って下サーイ!」
 ビアンカが皆を励ます。それに応えて、おう、と口々に声が上がった。
 ドラゴンが背を向けた。逃げようとしているのだ。
 目の前の獲物たちは、どうやら容易く捕食できるほどの容易な相手ではない。形成不利と見て、飛べない翼を打ち叩き、元来た道をさがろうとする。が、その退路は封じられていた。
 背後に周り込んでいた響とミスラが退路を断っていたのだ。
「好きに行かせるわけにはいかない、な!」
 響の両手に再び重力のエネルギーが集中する。しなやかにダッシュして、ドラゴンの胸に叩きつけ、素早く間合いの外まで跳び退がった。間一髪、跳び退がった空間を尾が一薙ぎ通り過ぎた。
 ミスラのナイフが紫の電光を纏った。
 「受け取れ、冥府への片道切符だ…――紫電、一閃ッ!!」
 胸を切り裂かれたドラゴンが、一際大きな雄叫びを上げる。
「竜の矜持は忘れてないみたいだね!せめて同じ竜の咆哮で眠らせてあげる!」
 ミランの口から雷光が迸り、ドラゴンの身体を打ち叩く。
 ドラゴンが苦し紛れに繰り出した爪が琥珀の身体を薙ぐ。
「損傷拡大、機能40%まで低下。予測戦闘可能時間を算出、最大戦闘継続時間、約3分ほどです。最終拘束システム解除要請……受理」
 琥珀の両手から七色の光のフィールドが発生し、球状に纏めた光の球がドラゴンに向かって飛ぶ。その光へ触れたものは全て分解され塵と化すのだ。
「終焉の獣よ、噛み砕け」
 ドラゴンの身体が七色の光に包まれ、最期の雄叫びを上げながら、消滅していった。

作者:湖水映 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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