竜十字島救援~脱出せよ、疾き風のごとく

作者:桜井薫

 竜十字島探索において、螺旋忍軍『ズーランド・ファミリー』とで対峙することになったケルベロスたち。
 交わす言葉の下で思惑はぶつかり合い、発見された『月の鍵』をめぐる攻防が始まろうとしていた。
「待ちねえ、と言って待つワケもねぇが……ここで逃しちゃ、カシラの刀の名折れというもの。そぉれ!」
 太刀の赤い鞘を払い、鍵を託されたリューインに斬りかかるのは、獅子の頭を持つ獣人。その太刀筋は鋭く、ずんと腹に響く風音を立てて空を薙ぎ払う。
「あいにくだが、通すわけにいかないのはこちらも同じだ。私が相手になろう」
 怯むことなくその身を割り込ませたのは、空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)だ。明らかな強敵を前にしても、あくまで冷静に……ここまで遂行してきた任務の確実な完了を求め、モカは獣人の剣士に得物を向けた。
「ほう、この俺を前にして眉一つ動かさないたあ、いい度胸だ。気に入ったぜ……カシラの『剣客』レオン。いざ尋常に、ぶつかり合おうじゃねぇか!」
 嬉々として、レオンは太刀を大上段に構える。
 このまま一対一で対峙すればただでは済まないのが明らかな強敵を、モカはいつもと変わらぬ表情で迎え撃つのだった。

「押忍っ! 皆に、急ぎの頼みばせにゃあならん。竜十字島の調査に向かっとったケルベロス達が、隠された『鍵』を見つけたんはええが、突如現れた敵によって危機に陥ることが予知されたんじゃ」
 円乗寺・勲(熱いエールのヘリオライダー・en0115)は、太い眉をぎゅっと寄せ、集まったケルベロスたちに急ぎ説明を始める。
「こんままにしといたら、調査隊は全滅し、見つけた『鍵』も敵に奪われるんは確実じゃ。勿論、そんなことにはさせられん。今から急ぎ駆けつけて、彼らに加勢ばして欲しいんじゃ」
 今から現場に急行すれば、予知された襲撃の数分後には駆けつけられるだろう、と勲は言う。
「調査隊の皆は、『鍵』を持ち帰るため、バラバラになって敵と戦っちょる。皆に向かって欲しいんは、『剣客』レオンと、それを抑えに回った空国の所じゃ、押忍!」
 続いて勲は、向かうべき戦場と目標となる敵の詳細について説明を始める。

「『剣客』レオンは、獅子の頭ばした獣人の刀使いで、そん腕前は『ドラゴンの首をも落とす』とも言われちょる。ズーランド・ファミリーん中じゃ、ボスに次ぐ強さらしか。どうやらボスのカリスマ性に心酔して、自ら付き従っとるようじゃな」
 そんな相手を一対一で足止めしているモカの戦況は、言うまでもなく厳しい。
「空国も実力者じゃが、さすがに一人で持ちこたえられる相手じゃなか。皆が駆けつけられるんは戦いが始まって2,3分っちゅうとこじゃが、それまでに倒されとる可能性もある。皆が着くまで倒されずに頑張っとっても、かなりのダメージを受けとるはずじゃ」
 戦況はたどり着いてみないと分からないが、いずれにしてもモカのフォローは必須となるだろう。
「さて、『剣客』レオンの具体的な攻撃手段じゃが、主な攻撃手段が3つあるじゃ」
 1つめは、大きな太刀を大上段から振り下ろし、力任せに叩き切る攻撃。高威力の近距離攻撃で、受けた者の防御を削ぐ力も持っている。
 2つめは、大口を開けて牙を剥き、相手の生命の息吹を喰らう攻撃。距離を問わず狙いを定め、ダメージを吸い取って体力を回復させる。
 最後は、豪快に太刀を振り回し、真っ直ぐに力強い衝撃波を飛ばしてくる攻撃。広い範囲を一度に薙ぎ払い、風をまともに受けた者は攻撃の力を削がれてしまう。
「こちらの攻撃の威力を削ぎ、受けるダメージを増やし、攻撃ついでの回復で粘ってくる。そこらへんを視野に入れてうまいこと対策して、一刻も早く空国を助け出してつかあさい」
 勲は一礼し、集まるケルベロスに再確認するように、ぐるりと皆の顔を見回す。
「調査隊が掴みかけた『鍵』、なんとしてでも持ち帰るためにも、まずは散り散りになった皆を助け出すのが先決じゃ。どうか全員で、ヘリポートば帰って来てつかあさい……押忍っ!」
 最後にひときわ力強いエールを送り、勲はケルベロスたちを送り出すのだった。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
上野・零(焼却・e05125)
小車・ひさぎ(ロンリーグラヴィティ・e05366)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)
咲嶺・麗華(天空に咲き佇む白銀の姫騎士・e18276)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)

■リプレイ

●虎口に在るは美女と野獣
(「そういえば3年前か、オークのドン・ピッグのアジトに潜入したのは」)
 両の手に『疾風』『旋風』の名を冠した惨殺ナイフを構えながら、空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)の脳裏に浮かぶのは、過去の任務の記憶だ。
 その時は囮と言っても、救援が来るのは織り込み済みだった。実際、モカはひどい傷を負いながらも、予定通り駆けつけた仲間はオークを討ち果たし、無事に任務を果たすことができた。
 しかし今回の孤立は、調査の現場で起こった結果であり、予定の行動ではない。
「何を考えてるかは知らねぇがなぁ。俺に一人で敵うとでも思ってるのかい、ケルベロスの嬢ちゃんよ!」
 低い風音を伴って、『剣客』レオンの太刀が振り下ろされる。レオンの体ほどもある大太刀は激しく唸り、モカの頭上を直撃しようとする……!
「……!」
 咄嗟にモカは腕で頭部をかばい、ナイフを交差させて強烈な打撃の勢いを殺す。初手で趨勢を決めかねない重い一撃を、どうにか防具の相性と守りの戦術でしのいだ、というところか。
「なるほど、言うだけのことはある腕前だ。だが、希望は捨てない」
 必ず、仲間が助けに来てくれると信じて。
 モカは螺旋を籠めた掌に力を込め、レオンの胴に向けて全力で振り抜く。
「……っと、油断しちゃぁ噛み付かれるか。いいねぇ……諦めが悪ぃ敵ほど、滾るってぇもんだ」
 脇腹をかすめたモカの攻撃に、レオンは手応えを楽しむかのように獰猛な笑みを浮かべ、摺り足で間合いを一歩広げた。そして今度は豪快に振るう太刀から放つ鋭い風で、容赦なくモカを攻め立てる。
「諦めが悪いって? ……最近、恋愛というものに少々興味があってな。それにはまず生きて、デウスエクスの脅威を断ってからだ!」
 モカは勢いよく飛びすざり、あえて周りの木々にぶつかるように荒く体を捌いて剣風を受け止めた。ことさらに大きな物音を立てて戦うことが、自らの居場所をまだ見ぬ仲間に知らせると信じて。
「命短し恋せよ乙女、か。悪くねぇ……俺に斬られる短い命、せいぜい楽しませてもらおう」
 獅子の瞳が、ぎらりと光る。
 凶暴な視線に怯むことなく、モカは再び刃を握りしめた。

 一方、その頃。
「まずはモカの無事が最優先だ、飛ばしていくんだぜ!」
「ハーイ! モカさんをロックにお助けするのデス!」
 ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)が防具の力で拓く木々の小路に沿って、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は戦いの痕跡を見逃すまいと瞳を凝らしつつ、駆ける。
 彼らをはじめとした7人のケルベロスたちはヘリオライダーの急報を受け、この竜十字島のどこかで孤軍奮闘しているモカを探すべく、全力で森を走り抜けていた。
「モカ、すぐ行くからね……この島では、もう誰一人倒れて欲しくない」
 小車・ひさぎ(ロンリーグラヴィティ・e05366)は集音デバイスに聴力を集中させ、友の気配を探る。ひさぎが住まう町の長は、かつて命を引き換えに、ゲートの場所を仲間に託した。街のシンボルをあしらった羽織にかけて、同じ場所での犠牲者を出させるわけにはいかない。
「……ああ、二度と御免だ……間に合うっていうなら、当然行くさ」
 応えを返す上野・零(焼却・e05125)の思いもまた、同じだろう。地獄がもたらす力を使うべき時があるとしたら、今まさに予知された危機に立ち向かうために違いない。
「分かっちゃいたが視界悪過ぎだぜ、クソっ」
 スコープを覗きながら悪態をつくのは、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)。可視範囲を動かすたびに邪魔する木や岩を睨みつけながらモカの姿を探す。
「空国君とは限らないが、複数の打撃音を感知した。速やかに確認しよう」
 きびきびとした足取りを一瞬だけ止め、神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)が青い鱗に覆われた首を上げる。その方角は、おおむね一行が向かっていたルートの正面方向……掴んだ痕跡が正しいことを願いつつ、7人は足を早めた。モカの方がこちらに気づく助けとなるように、双吉はライトを振って光を、晟は『号笛 (甲)』に息を吹き込み音を立て、救援者たちの存在をアピールする。

●追うは深い森の中
 ほどなく一行は、進行方向から派手に争う物音を聞く。
「……! 私の恩人に何をされているのかしら?」
 突如開けた視界に見えた姿は、見間違えようもない。咲嶺・麗華(天空に咲き佇む白銀の姫騎士・e18276)は柳眉を逆立て、誇り高い怒りを顕にした……モカには初依頼で助けられ、その後も助言を貰ったり何かと世話になった恩人だ。全力で恩に報いるため、麗華の戦意はのっけから最高潮だ。
(「2年前、ワイルドハントに襲われた時モカが助けに来てくれたの、覚えてるよ。今度は、あたしの番」)
 ひさぎにとってもモカは恩人だ。山猫は恩を忘れない……戦う意志をグラビティに変え、まずは挨拶代わりの一撃とばかりに、警告で済ませる気はさらさら無い『警告射撃』のモーションに入る。
「なんだ、もう邪魔が入ったってのか……まぁ構わねぇさ。俺の刀は、カシラの刀。何人束になって来ようと、たたっ斬るだけよ!」
 レオンは救援の到来をどこか予想していたように、慌てるでもなく太刀を構え直し、近づいてくるケルベロスたちをしかと見据えた。
「やぁ我が友人たち。来てくれると信じていたよ」
 モカは静かに振り返り、駆けつけた仲間に礼を述べる。その簡潔な言葉に込められていたのは、どんなに理不尽な危機でも抗うために力を尽くすケルベロスそのものへの信頼と、そして何より、共に戦い確かな絆を築いてきた仲間が応えてくれたことへの感謝だろうか。
「おうよ、仲間の危難に駆けつける、そういう『徳』の高い行為はお手の物なのが、俺たちケルベロスなんだぜ!」
 目の前にあった岩を豪快にバスターライフルで打ち砕きながら、双吉はレオンに正面からメンチを切ってみせる。
「モカ、もう大丈夫だ」
「レスキューするのデス!」
 ハインツとシィカはヒールを重ね、強敵の攻撃を一身に受けたモカをすかさずフォローする。
「ありがとう。私はまだ戦えるはずだ、あなたたちの援護と新緑の祝福で!」
 まだ残る回復可能ダメージを『新緑の祝福』で補い、モカはレオンに向き直った。
 主人と雰囲気の合った服がどこか誇らしげに見える晟のボクスドラゴン『ラグナル』も、可愛らしい茶色の体で臆せずレオンを見上げるハインツのオルトロス『チビ助』も、怯む様子はまったく見せずに臨戦態勢を取る。
「……レオンだったかな? ……当然、空国さんに手を出させないさ。……出すのなら……まずは私らを倒すといい……!」
 零は灰白がかった瞳に地獄の炎にも劣らない闘志を宿らせ、高らかに宣言した。
 それは、一対一の耐える戦いから、仲間全員の力をぶつける攻勢へと局面が変わる合図だった。

●番犬は集いて獅子を狩る
「……燃え上がるは我が心体、我が地獄」
 零は全身を地獄の炎に包み、レオンの全身を焼き尽くそうとする勢いで黒い炎の拳を引き絞る。
「―――さぁ、いざ至れや地獄道、黒き焔は此処に一つ……ッ!!」
 威力重視の戦術による初撃は、地力のある零をもってしても命中を確保までには至っていない。だがそれでも零の気迫はレオンの足捌きを捉え、その胴体に炎を叩き込んだ。
「空国さんも、皆様も、必ずや万全な状態に保ってみせますわ!」
 零と繋いだ感情は、本来よりもずっと早く麗華の体を動かす。麗華から迸る蒼白のオーラはモカを包み、強烈な打ち下ろしが削いだ彼女の守りを元通りに整えた。
「力の差があるなら、埋めてしまえばいいんよ」
 続いてひさぎが出会い頭の警告射撃から繋げた攻撃は、流星と重力を宿した煌めきの蹴り技だ。格上相手に対する定石は、まず攻撃を当てられるようにするところから……狙いすましてしっかりと命中を確保している自分が適役の仕事を、ひさぎは着実に積み重ねる。
「そっちが埋めようとしたって、力で押し返すのが俺の流儀ってもんよ、そら!」
 レオンは不敵に片頬を歪め、言葉通り豪快に太刀をぶんと薙いだ。薙ぎ払いが引き起こした鋭い風は、前寄りの4人と1匹にまとめて襲いかかる。
「さすがに重い一撃だが、ならばこちらも力で受け止めるまで。ドラゴンの首を落とせるからと言って、ドラゴニアンの首を落とせるとは限らんからな」
 晟は堂々たる筋肉と鱗が覆う上半身でモカをカバーしつつ、愛用の刀を返し、弧を描く斬撃を返した。肩代わりした分も合わせたダメージが痛くないはずもなかったが、晟は守り手の矜持を持って衝撃を受け止め、戦場に安心感を与えるように平然とした態度を取ってみせる。
「レッツ、ロックンロール! ケルベロスライブ、スタートデース!! イェーイ!!」
 身を挺する守りもあれば、力を取り戻し強化を施して反撃に備える守りもある。シィカの明るい声は愛用のギターと共に空間を制し、シィカの信頼するロック仲間たちもその場に居るかのようなハーモニーを奏でる……『天穹へ至れ、竜たちの唱』のメロディは、戦況を、そして世界を変えようと高らかに響き渡った。
「実力は流石だな……だけど、強さってのは腕っ節だけじゃないってことを教えてやる。きつい時は早めに言うんだぜ、守りを固めるから!」
 前衛たちの傷を見れば、それが楽に耐えられるものではないことは明白だ。ケルベロスチェインを地面に展開し、ハインツもまた援護を重ねる。攻撃は全て捨てて持てるだけのヒールを積んできたハインツは、状況に応じたグラビティを選ぶにあたり、なんの迷いもない。
「ほぅ、そりゃ殊勝な心がけだ……なら、お前さんから喰らってやらぁ!」
 癒やしの要を戦線の要と見てか、レオンはハインツに真っ直ぐ狙いを定め、獰猛な獅子の牙を剥いて大口を開けた。そして鋭く短く息を絞り出し、腹の底まで空気をしっかり抜いてから、命の輝きを全て呑み込むかのように激しく気を吸い寄せる!
「そうはさせまセーン! スナオに言うコト聞かナイ、イッツ・ロックなのデス!」
 息吹の斜線を遮って、シィカが代わりに攻撃を受け止めた。レオンの思惑通りにはさせないとばかりにシィカは痛みに逆らい、ことさらに華やかなスマイルを浮かべて見せる。
「倒れさせません、私の誇りにかけて!」
「クソライオンが、その牙も刃も、錆びつかさせてもらうぜ!」
 すかさずシィカの傷をフォローしたのは、麗華だ。そして双吉はバスターライフルを腰だめに構え、敵を弱体化させるエネルギーを景気よくぶっ放し、レオンの太刀ごとまともにその身体を捉えた……!
「……っ!」
 喉の奥から怒りに満ちた吐息を漏らし、獅子はたてがみを逆立てる。
 それはケルベロスたちの団結が、強き獣に迫り始めた証だった。

●死線に轟くは咆哮と剣戟
「ちったぁやるじゃねぇか、そう来なくっちゃなぁ!」
 度重なるケルベロスたちの波状攻撃を受けてなお、レオンは意気軒昂に眼をぎらつかせ、がむしゃらに太刀を振り回す。その力強さは傷が深くなればなるほど鋭さを増すかのようで、依然強烈な威力を保っている。
「立派な強がりだけど、でも、足元はお留守みたいなー!」
 ひさぎは金魚の形をした御業『花房』を放ち、レオンに燃え盛る華のような炎弾を叩きつける。ひさぎの言う通り、レオンの足捌きは最初と比べると随分鈍くなり、回避を削る攻撃を重ねられた効果がはっきり表れていた。
「卑怯上等、畳み掛けるぜ……形質投影。シアター、顕現(スタンド)ッ!!」
「この……っ!」
 悪魔のように凶悪な姿と化したブラックスライムで、双吉は容赦なく追い打ちをかける。レオンは手負いの獣が頭を振るように太刀を振り回すが、斬られたゲル状の残滓はねばねばとうねり、獅子の頭部にしつこく纏わりついていった。
「……鬱陶しそうだ……まとめて、焼き払ってあげよう……」
「……!! 要らねぇ、世話、だ……っ!」
 零は黒い地獄の炎を纏ったまま、自らの炎をレオンにぶつけ、そして、力を喰らう。貪欲な炎はレオンの生命力をすすり、たてがみを焦がし、己の力に自信を持つ剣客に確かな苦悶の表情を浮かべさせていた。
「あなたたちは詰めを誤った。それは、強引にでも鍵を持つ一人を複数で追うという選択を捨てた事……そして、我々ケルベロスを甘く見た事だ!」
 モカは両の手の風切る刃を構え、仲間の援護で取り戻した力で思い切り斬りつけようと体制を整えながら、彼女を追い詰めかけた強敵に挑発的な言葉をぶつける。
「ハッ、俺達は……最強の個になる為に集まった、カシラの『ファミリー』だ。複数の有利なんざ考えてちゃあ、最強の個になどなれやしねぇよ」
 手負いの獅子は瞳に怒りをたぎらせ、モカに反論する。
「集まった……? 大阪城の一派にでも、関係あるん? それとも、何か他の目的のために……」
 レオンが漏らした言葉にひさぎが問うも、応えはない。
「さぁ、知らねぇ、なぁ……!!」
 レオンは荒々しく吠え、ただふてぶてしく顔を歪めた。
 そして返事の代わりに刀を高々と掲げ、ケルベロスたちに振りかぶる……それは渾身の、死なばもろともの一撃であるのは明らかだった。
「……遅い!!」
 レオンの構えが崩れた一瞬を、晟は見逃さなかった。
 蒼雷を纏った竜頭の如き得物は輝き、その巨体から繰り出されるのが信じられないような超高速の突きが、唸る。
「その獅子の首、貰い受ける……!」
 その一突きは、ドラゴンの首を落とすと言われた剣客の太刀筋に勝るとも劣らず……巨竜の甲殻すら刻む勢いで、刀は翻った。
「……やるもんか、っ……!!!」
 獅子の意地だろうか……首元への太刀筋だけは許さじと体を捌いたのが、最後の抵抗だった。
「……俺ぁ、どうやらここまでだ。だが、俺達の『最後の一人』が、必ず……」
 残した言葉の意味は、果たしてどのようなものか。
 動きを止めた剣客の手から落ちた大太刀は、何も語らない。
 ともかく確かなことは、強敵を討ち果たし、窮地の仲間が無事に救い出されたことだった。

●全員でたどり着いてこそ
「リューインさんやゼーさん、ティアンさん、キソラさん、グレインさん、一十さん、カロンさんが心配だ。探しに行きたい」
 息が整ったモカは、何よりも先に、同じ窮地に立たされた仲間を案じた。
「お気持ちは分かります。ですが、まずは全員生きて帰ること……それが第一ですわ」
 こう言った麗華自身も、気持ち自体はモカと同じだ。ただ、今得られた戦果を台無しにしないため細心の注意を払う必要があるのも、また厳然とした事実である。
「行き違いにならないよう、まとまって動こうなー」
 ひさぎにケルベロスたちはうなずき、慎重に歩みだす。
 残りの7人と、彼らの救出に向かったケルベロスたち、その全員の無事のために。

作者:桜井薫 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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