竜十字島救援~追う狼と、阻む狼

作者:青葉桂都

●狼対狼
 竜十字島への調査に向かったケルベロスたちは、巨大な『月の鍵』を手に入れることに成功したものの、大きな危機に見舞われていた。
 鍵を託された少女を追おうとする敵は螺旋忍軍の一派『ズーランド・ファミリー』。
 そのうちの1体である狼獣人の螺旋忍軍の手に、投擲用のナイフが現れた。
 鋭い三本爪のごとく構えられたナイフが手から放たれようとした瞬間、妨害に入ったのは同じく狼の獣人だった。
「やらせるかよっ!」
 グレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)は愛用の得物を大振りに振り回し、鍵を手にした仲間との間に飛び込む。
 狼の忍軍は牽制の攻撃をたやすくかわしてみせた。そればかりか、半円を描く動きでグレインの背後に回り、体勢を崩しながらもナイフを放つ。
 とはいえ、不自然な姿勢から投げたナイフは空を切り裂いただけだった。
「この『愚連』アレクセイがナイフを外したのは久方ぶりだ。邪魔をしてくれたな、ケルベロス」
「何度だって邪魔してやるさ。リューインは絶対に狙わせないぜ」
 アレクセイの凶眼を、グレインは真っ向から青い瞳で受け止める。
 鍵を持つリューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)の様子は気になるが、少しでも目をそらせば即座にアレクセイのナイフがグレインを針山に変えただろう。
「ふっふふ、良かろう。貴様のような勇気ある若者が、無惨に死ぬ様を見ることこそ我が悦びよ。まず貴様から血祭りにあげてくれる!」
「師の元で身につけた降魔と螺旋の力、簡単に砕けると思うなよ!」
 勝ち目がないのはわかっている。挑んだところで、リューインが逃げきるまで足止めできるかも怪しいものだ。
 それでも、ここまで来てなにもしないわけにはいかなかった。

●救援を急げ!
「皆さん、緊急事態です」
 言葉とは裏腹に、落ちついた様子で石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)はケルベロスたちへと告げた。
「竜十字島の調査に向かっていた方々について予知することができました。隠されていた鍵を発見するものの、突然現れた敵の襲撃を受けて危機に陥るようです」
 鍵が隠されていた洞窟から出たところで、強力な敵の一群による攻撃を受けた調査隊は全滅してしまい、発見した鍵は奪われてしまうのだ。
「ですが、今からヘリオンで急行すれば、襲撃の数分後に現場へかけつけられるはずです」
 調査隊は『鍵』を持ち帰るために、バラバラになって敵と戦っている。
 急いで現場に向かい、調査隊を助け出して欲しいと芹架は言った。
 次いで、芹架は自分が予知した戦いについて説明を始めた。
 襲われる側のケルベロスは狼のウェアライダー、グレイン・シュリーフェンだ。
「敵は獣人タイプの螺旋忍軍が集まった『ズーランド・ファミリー』という集団で、グレインさんを襲うのは『愚連』アレクセイという狼型の獣人です」
 投げナイフを得意とし、殺戮と戦いを好む螺旋忍軍だ。
「ズーランド・ファミリーの全員に言えることですが、アレクセイはケルベロス1チームが相手でも渡り合える強力なデウスエクスです」
 そんな敵と、数分とはいえ単独で戦うことになるグレインは到着した時点で戦闘不能になっていてもおかしくない。よくても大きなダメージを負っているのは確実だ。
 到着したらまず回復を行わなければならないかもしれない。
 そう説明した後、芹架はアレクセイの戦闘手段について語り始めた。
 先述の通り投げナイフを得意とする敵は、無数のナイフを一気にばらまくことで、敵の足を止めつつ範囲に対して攻撃することができる。
「また、まったく同じ軌道で複数のナイフを投擲し、同じ場所に連続して命中させる強力な技を使用するようです」
 狂気を込めたナイフを命中させることで対象の魂を汚染し、対象のトラウマを呼び起こすこともできるらしい。
「いうまでもないかもしれませんが、もしもケルベロスの突破に成功した場合、アレクセイは鍵を持つリューイン・アルマトラさんを追跡します」
 そうなれば、『月の鍵』を奪われる可能性が高くなってしまうだろう。
「『鍵』はマスタービーストに関わる品である可能性が高いと推測されます。詳細は不明ですが、デウスエクスに渡していいものでないことだけは間違いありません」
 せっかく得た鍵の発見という成果を台無しにさせないためにも、ケルベロスたちの力が必要打なのだ。


参加者
伏見・万(万獣の檻・e02075)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)

■リプレイ

●1対1の戦い
 竜十字島の一角を舞台に、デウスエクスとケルベロスの戦いはもはや始まっていた。
 グレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)は敵から目を離したつもりはなかった。
 だがそれでも、肩口に突き刺さった『愚連』アレクセイのナイフがいつ投げられたのか、はっきりと認識はできなかった。
 体内に黒いなにかが広がっていき、視界になにか嫌なものがちらつく。
(「早いな……我ながら、さっきはよくアレに割り込めたもんだ」)
 頭を大きくふって、ナイフを引き抜いて投げ捨てる。
 刀身に牡牛座が刻まれたゾディアックソードを構えて、グレインは竜十字島の大地から力を引き出した。
「大地よ、力を貸してくれ!」
 エレメントから引き出した力が球体となってグレインを包み込む。
 それは自然の守り手が、自然から受けとる恩恵の力。
 次いで放たれた2本のナイフが連なって同じ場所に命中し、2本目に押された1本目が内蔵をえぐるほど深く刺さる。
 それを、風に呼びかけて力を借り、グレインはなんとかこらえた。
「守る一方か。しかけてこないなら、俺は行かせてもらうぞ」
 アレクセイがグレインの横を抜けようとする動きを見せた。
「通さねえって言っただろ!」
 降魔の力を拳に込めて、グレインは行く手を阻もうとする。
 その目の前にナイフが迫ってきた。
「だろうな」
 誘いだったと気づいたときには、またアレクセイの攻撃がグレインをとらえている。
 いや、もし止めなければ本当に突破していたはずだ。止めない選択肢はなかった。
 至近距離から投擲されたナイフが突き刺さり、そしまた目の前に暗黒がよどむ。
 グレインにしか見えない『なにか』が襲いかかってくる。
 だが、倒れない。守りを固めていたおかげで、とっさに致命的な場所に刺さらないよう防ぐことができた。
「自然が味方してくれてんだ……そう簡単に……」
 拳に、いや、師とともに鍛えた牙に力を込める。
「……倒れちゃいられねえさ!」
 手裏剣を握りこんだ拳がアレクセイへと食らいつき、その体力を奪い取る。
「なかなかの気合だ。だが、俺はそんな強い意思を刈り取るのが好きなものでな!」
 グレインの体が押し退けられた。
 開いた隙間を利用して、アレクセイが両手のナイフを放とうとする。
 降魔の力でいくらか体力を奪ったが、耐えられる可能性は恐ろしく低いだろう。
 それでも、グレインはゾディアックソードと手裏剣を交差させて必死に守りを固める。
 島に降り立った大きな影が見えたのは、その時のことだ。
「助けに来たぞ!」
 誰かの声が、届いた。

●救援を急げ
 ヘリオンは竜十字島へ高速で移動し、地面に着陸すると同時に7人のケルベロスはそこから飛び出した。
「……あっちだ」
 素早く周囲を見渡したヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)が言った。
 ゾディアックソードを掲げてグレインが合図をしているのが皆にも見えた。
「グレインってさ、格好いい人だよね? そんな人なら失わせるわけにはいかない。ぼくがここまで来るのには、その理由だけで十分すぎるんだ」
 褐色の肌をした幼いサキュバス、セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)は戦う狼に視線を向けていた。
「無事に帰るまでが調査依頼。皆は探索で疲れているんだから、早く帰らせてあげないといけないよね」
 体に巻き付いた蔦を揺らしながら、アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)が言う。
「そうね。ささっと合流して、バシっとやっつけるわよ!」
 狐耳の少女、遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)が力強く言った。
 戦場にたどり着く。
 アレクセイが一瞬新手に目をやり、しかしナイフをグレインに向ける。
「やらせはしない。一瞬こちらに注意を向けた、それが君の失敗だ!」
 八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)が堂々たる声を発しながら、アレクセイとグレインの間に割り込む。
 投げられたナイフがしっかりと張った胸板に突き刺さり、まったく同じ軌道のもう1本が深々と押し込む――が、彼はまとった冷たい風を操って刃の威力を和らげた。
 紫々彦だけでなく他のケルベロスたちも、グレインと敵の間を妨げるべく立ちはだかっていた。
「さあドワーフの鎧装騎兵として、全力を尽くして護らせていただきますよ」
 ミミックの『相箱のザラキ』を連れたイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)も、護る意志をオーラとしてまとって紫々彦と並ぶ。
「まだ生きてるか、シュリーフェン。……落とし前つけるまで、おめェはくたばンじゃねェぞ」
 伏見・万(万獣の檻・e02075)がハンマーをアレクセイへ向けて構えた。
「厄介だな。これだけいると……誰から殺すか迷ってしまうからな!」
 グレインを守るために集まってきたケルベロスとサーヴァントを前にして、アレクセイはひるんだ様子を見せなかった。
 そして、改めて、戦いは始まった。

●番犬たちは狼に立ち向かう
「さて、やはりまずは……」
 アレクセイがグレインへと視線を向けようとした。
 だが、その視線を黒い刃がさえぎった。
「よそ見をしていていいのか?」
 ヴォルフは冷たい声を投げかける。
 射程に入ったと同時に、彼は偃月刀を投げていたのだ。
 回転しながら視線をさえぎった刃が、一度通過してから弧を描いてアレクセイへと戻る。
「どこまで逃げてくれますか?」
 避けようとするアレクセイを、ヴォルフは静かに観察する。
 螺旋忍軍がいかに避けようと、偃月刀は狂える執拗さで敵を追いかけ続けていた。
 他のケルベロスたちも仲間たちへの支援や、あるいは支援の技を使い始める。
「これは、最初から正念場ですな」
 イッパイアッテナが仲間たちに呼びかけた。
 グレインはあと一撃食らえば倒れてもおかしくない。
 戦言葉を応用して仲間たちに注意を促し、イッパイアッテナは前衛の集中力を高めた。
 後方からは万や篠葉が攻撃をしかけてアレクセイの足を止めようとしていた。
 セラフィは戦場に到着してすぐに、グレインへと心霊手術をほどこしはじめた。
「おまたせ! 生きてる、おにーさん?」
 声をかけるとグレインは微笑を浮かべた。
「――更なる味方の到着だな」
「他に誰か味方がいたの?」
 グレインの言葉に、セラフィは首をかしげた。
「いや、こっちの話だ。見識ったやつも、そうでないやつも、――心強い」
 体は傷ついていたが、心はくじけていないのが見てとれた。
 いい男に見惚れながらも、手術をほどこすセラフィの手は的確に動く。
 一度の手術では十分に回復できなかったが、グレイン以外の仲間も補助するためにセラフィは顔をあげた。
 さすがは強敵というべきか、ケルベロスたちはアレクセイに集中攻撃をしていたが、そのすべてが敵をとらえてはいない。何人かの攻撃はかわしてみせたようだ。
 それでも、負けるわけにはいかない。
「狼狩りに番犬がやって来たよ。さあ、勝負はここからだ。一匹狼は、相手が犬一匹なら楽勝だろうけど、犬の群が相手じゃ勝ち目無いよ」
「そうですね。今回は私も含めて犬の群にも狼が混ざっていますから、なおさらです」
 雨のごとく降り注ぐナイフから、イッパイアッテナがグレインをかばう。
 他の前衛たちにもナイフが突き刺さっている。彼らを守るために、セラフィはピンク色のギターの弦を弾きはじめた。
 アレクセイの動きは素早かった。
 けれど、後衛から狙い撃つ万と篠葉はその動きを止めるべく攻撃を続けている。
「狩られるのはテメェだ、逃げられると思うなよ!」
 万が叫んだ。
 その足元から影が伸びていく。人の影ではない、獣――狼の影。アレクセイは飛び退こうとするが、後方から狙いをつけて放たれた攻撃はさすがにかわせない。
 影は絡みつき、敵の足を止めた。
 篠葉は愛用のネクロオーブを両手に掲げる。
 狐の呪詛がオーブに絡みつき、たゆたう闇が大地に隠棲する怨霊を引きずり出す。
「冥府より出づ亡者の群れよ、彼の者と嚶鳴し給え」
 怨霊たちの呪いが影に絡みつかれているアレクセイへと襲いかかり、怨嗟の声を上げながら狼を拘束していった。
「1mの鍵なんて、もはや鈍器よね。どうせロクでも無い事に使うんだろうし、スーパー呪いパワーで成敗しちゃいましょ!」
 気楽な調子で狐娘は敵へと呪いをかける。
 そして、その呪いは確かに、敵をむしばんでいた。
「ロクでも無い、か。だが、あの鍵をお前たちが渡さねば、もっとロクでも無いことになるぞ? 例えば……あの月が落ちてくるとかな。ハハハハハ!」
 面白い冗談のつもりなのか、アレクセイが高らかに笑い声をあげて見せる。
 声と共に放たれたナイフがまたケルベロスたちを傷つけた。
「戯言はそれだけか」
 ヴォルフは冷淡に吐き捨てると、大型のシースナイフで敵の足をジグザグに切り裂いてさらに動きを鈍らせる。
「それでボクたちが引き下がるとでも思っているのかい?」
 アンセルムが狼へと接近した。
 青年の体から伸びる呪紋を刻んだ蔦が敵へと絡みついて、締め上げる。
「くだらん冗談だな。仮にそれが事実でもその時も私たちが対処するまでの話だ。月が落ちてくるか……なかなか楽しそうな状況ではないか」
 紫々彦は不敵に笑った。
 かつて冬の獣を討ち取った斧で、今は狼を討ち取ろうと狙いを定める。
 もっとも、攻勢に移るよりも、まず仲間たちを強化するのが先決だ。
「この香気に身を委ねて」
 斧を構えたまま、紫々彦は水仙を周囲に出現させる。眩暈がするほどの香気が、竜十字島の空気を侵食していく。
 甘く澄んだ香りは仲間たちの闘争心を煽り、ケルベロスたちはさらにアレクセイへの攻勢を加速していった。

●狼の終焉
 とらえきれぬほど早かったアレクセイの動きがケルベロスたちの攻撃で鈍っていく。
 狙撃役以外の攻撃も命中するようになったころ、グレインは戦いに復帰した。
「てめえはここで止める……!」
 牡牛座の剣を、まだ傷の残る腕で構えて彼は告げた。
「もう大丈夫そうだな、シュリーフェン」
 万はグレインに声をかけた。
「ああ。あと1発ならな」
 言った彼を見て、万はかつてグレインと共に戦った時のことを思い出した。
 グレインと縁のある敵だったが、倒せなかったデウスエクス。かすかに心に引っかかっている記憶。
 ここで彼を死なせるわけにはいかない。
「さて、足止めの次は氷漬けにしてやるぜ。無理するんじゃねえぞ」
「死ぬつもりはないぜ」
 グレインが素早く手裏剣を放った。
 乱暴に大地を蹴って、万はハンマーを振り上げる。
 螺旋軌道を描いて飛んだ手裏剣がアレクセイのナイフを破壊した直後、超重のハンマーが敵から可能性を奪って凍結させていた。
 グレインは危険な状態を脱したものの、その間に他のディフェンダーたちの体力はだいぶ削られていた。
 だが、セラフィを中心として回復に勤めているおかげで、すぐに倒れそうな者はいない。
「押しきることができると見たが、なかなかねばるな。ならば……まずは貴様からだ!」
 抜く手も見せずに放たれたナイフがセラフィへと飛ぶ。
 イッパイアッテナはとっさにその射線に割り込み、連続して飛んだナイフをドワーフの胸板で受け止めた。
「助かったよ。ぼくが集中攻撃されたらまずいね」
「私たちが守りますよ。セラフィさんは回復に注力してください。頼りにしていますよ」
 なんの変哲もない杖で、ナイフをさばきながらイッパイアッテナは一撃を加える。
 サキュバスの生み出す桃色の霧が背後から彼を包み込み、刺し傷を癒してくれた。
 防衛役と回復役が戦線を支えている間に、ケルベロスたちの攻撃は少しずつ、しかし確実にアレクセイを追い詰めていた。
 打撃役のアンセルムはすでに威力を重視した攻撃に切り替え、如意棒を器用に蹴りで叩き込んでいる。
「皆の闘争心も十分に高まった。そろそろ攻勢に移るタイミングだな」
 幾度目か放たれたナイフから仲間をかばいながら、紫々彦が言った。
「ならば、やつの守りを崩しておこう」
 言ったときには、もうヴォルフは動いていた。
 幸運の星を素早く蹴り飛ばして、アレクセイのコートを引き裂く。
 降魔の力を宿して、グレインの拳や紫々彦の玄帝が敵を打ち、イッパイアッテナの絆の戦斧が頭を砕く。
「お月様からわざわざ降りてきたところ悪いけど、この場で滅する。誰も君の牙の餌食になんかさせるつもりはないからね」
 セラフィの言葉にアレクセイが舌打ちをした。
「それじゃ、最後までたっぷり呪いをプレゼントするわよ! ランチ食べようと思ったら、売り切れで食いっぱぐれる呪いとか、嫌いな奴が上司に褒められる呪いとか!」
 篠葉がオーブを掲げると、そんな軽い呪いとはとても思えない禍々しい気が立ちのぼる。
 熱を持たない水晶の炎がアレクセイの防具をさらに切り刻む。
「狐の呪いは当たるも八卦、当たらぬも八卦。さ、あなたは生き延びられるかしら?」
 そうしながら、篠葉の言葉はあくまで楽しげだった。
 アレクセイがなおも攻撃してくるが、ケルベロスたちは誰も倒れない。
 万が獣の影を飛ばして螺旋忍軍を縛り上げた。
 アンセルムは足が止まった敵の前へと静かに立った。
「悪いけど、グレインは連れて帰らせてもらうよ」
 人形を抱えて立つ彼の体から、呪紋が刻まれた蔦が伸びていく。それはまるで、彼の体や人形から直接生えているように見えた。
 逃れようとしたアレクセイは自分が不可視の檻に包まれていたことに気づいたようだ。
 だが、もう遅い。
「爆ぜろ、檻よ」
 守りの結界であったはずのその檻は、今回もいつものように中にいる者へ不幸をもたらした。
「馬鹿な……ズーランドファミリーの一員であるこの俺が……」
 アレクセイの声が爆発の中に消えていく。
 そして、爆煙が消えたとき、螺旋忍軍の姿はもはやどこにも存在しなかった。
「無事片付いたわね。狐の呪いを甘く見てたからよ」
 先程まで敵がいた場所へ視線を送り、篠葉が得意気に言う。
「助かったぜ、みんな。ありがとな」
 グレインが大きく息を吐いた。
「ま、気にすんな。さっさと帰って一杯やるとしようぜ」
 万が壊れかけたスキットルを取り出す。
「狼が多い戦場でしたな」
 自身も狼の名を持つイッパイアッテナが言った。
「グレインさんもみんなも、やられなくてよかったよ」
「そうだね。疲れているだろうから、早く帰ったほうがいい」
 セラフィの言葉にアンセルムがうなづく。
「次の敵が出たら対抗できない。早急に撤退した方がいいだろうな」
 ヴォルフが皆をうながすと、手当てもそこそこにケルベロスたちは動き出した。
「そうだな。月の鍵のことも気になるが、今はあちらに向かったチームを信じるとしよう」
 紫々彦が言った。
 他の戦場がどうなっているかはわからない。だが、きっと全員無事なはずだ。
 そう信じて、ケルベロスたちは竜十字島から離れていった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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