竜十字島救援~『瞬脚の』彪

作者:朱乃天

 竜十字島で暗躍する螺旋忍軍と、幾度と交戦しながらその実態を本格的に探るべく、探索に向かったケルベロスたち。
 そこで彼らが発見したのは、ドラゴンの力で封印された、黄金に光る『鍵』である。
 ケルベロスたちは『鍵』の重要性を思慮した結果、封印を破壊し、『鍵』を手に入れ、後は帰還を果たすだけだった。
 しかし洞窟から外に出た瞬間、突然『鍵』が光を放ち、まるで待ち構えていたかのように魔空回廊が出現し、螺旋忍軍の精鋭部隊『ズーランド・ファミリー』と遭遇してしまう。
 ケルベロスたちは『鍵』を絶対手渡すまいと、リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)に託して離脱を試みようとする。
 そして狙い通りに、螺旋忍軍がリューインの後を追いかけようと動く。そこで残りの7人が、敵を足止めすべく相手の注意を引きつける。
「おっと待ちやがれ。テメェの相手は、このオレだ」
 言うと同時に、キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)が敵の進路を阻んで立ち塞がる。
「ハッ、随分威勢がいいじゃない。でもたった一人で、アタシに勝てるつもりかい?」
 キソラが迎え撃つのは、虎の姿をした女性の獣人。赤いチャイナドレスを身に纏った拳士といったところだろうか。
 彼女がニヤリと笑うと、口から鋭い牙を覗かせて、新たな獲物を狩ろうとキソラを狙って襲い掛かってきた――。

「みんな、緊急事態だよ」
 玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)の一言に、ヘリポートは緊迫した空気に包まれる。
 彼女が伝える内容は、竜十字島の調査に向かったケルベロスたちに関する予知である。
 一行は竜十字島に隠された『鍵』を発見するが、突如出現した敵の襲撃により、危機に陥ってしまっているようだ。
 このままだと調査隊は全滅し、折角見つけた『鍵』も敵に奪われてしまうだろう。
 しかし今から急行すれば、予知にあった襲撃の数分後には駆け付けることができそうだ。
「調査隊は『鍵』を持ち帰る為、分散しながら敵と戦っている状況だから、どうかキミたちの力を貸してほしいんだ」
 もし彼らが倒されて、『鍵』が螺旋忍軍の手に渡ってしまうと大変なことになる。
 この一刻を争う事態を解決できるのは、ここに集ったキミたちなんだと、シュリは力説しながらケルベロスたちに助力を乞う。
 今回のこのチームの目的は、調査に向かった内の一人、キソラの救助を行うことだ。
「キミたちが駆け付ける頃には既に戦闘が始まっていて、キソラさんが負傷するのは避けられそうもない。おそらく手当てが必要だと思うから、そうした対処もお願いするよ」
 それまでキソラには、撃破されないように耐えてもらい、合流を果たした後は一緒に戦う流れになるのが望ましい。
 彼が戦っているのは螺旋忍軍の幹部『ズーランド・ファミリー』の一体、『瞬脚の』麗雷と名乗る獣人だ。
 敵の攻撃方法は、その名の通り、蹴りを使った技を得意としており、素早い動きで繰り出す体術は、特に脅威と言えそうだ。更には雷撃を放ったり、治癒の力も備えているらしい。
 戦うのはこの一体のみだが、かなりの手練れとなるので、心して臨まなければ返り討ちに遭ってしまうだろう。
 ドラゴンが竜十字島に隠していた『鍵』を発見できたのは大きな成果と言えるが、無事に持ち帰らなければ、彼らの努力は無駄になってしまう。
 更にその『鍵』は、マスタービーストに関わる何かである可能性が非常に高い。
 敵の螺旋忍軍は何故獣人型だけなのか、その理由にも繋がっているのかもしれない。
「他には大阪のグランドロンにも動きが出てきそうだね。そっちの方も気になるけれど……今はとにかく何よりも、調査隊の人たちを助けることが優先だから」
 必ず無事に救出し、全員一緒に戻ってきてほしい――。
 シュリは全てを話し終えると、戦地に赴く彼らの武運を、心の中で静かに祈った。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
春日・いぶき(藤咲・e00678)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
グレッグ・ロックハート(浅き夢見じ・e23784)

■リプレイ


 竜十字島の調査によって、黄金色に輝く『鍵』を発見したケルベロスたち。
 しかし帰路の途中で『ズーランド・ファミリー』の襲撃に遭い、敵の注意を逸らそうと、番犬たちは分散しながら戦いを挑むことになる。
「勝つつもりじゃねぇ、勝つンだよ」
 敵幹部『ズーランド・ファミリー』の一体、『瞬脚の』麗雷と対峙しながら、自身に満ちた笑みを浮かべるキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)。
 強敵相手にたった一人で挑むには、彼ほどの熟練者であっても分が悪過ぎる。
 しかし如何なる敵であっても、背中を見せるわけにはいかないと。気丈に振る舞いながら己を鼓舞させ、攻めの姿勢で立ち向かう。
「面白いわね、そういうのは嫌いじゃないわ。一人でどこまで抗えるのか、愉しませてもらおうかしら」
 キソラが身構え、相手を迎え撃とうとするより先に、敵の女拳士が番手を奪う。
 視界に捉えていた筈の、敵の姿が消えたと思ったその直後、強い痛みがキソラを襲う。
「なっ……!?」
 雷を纏った脚から繰り出す、麗雷の蹴りがキソラに炸裂。一瞬、身体が吹き飛ばされそうになる衝撃も、倒れはしまいと必死に踏み止まって、耐え凌ぐ。
「へっ、やるじゃねぇか。流石は『瞬脚』って名乗るだけのことはある。が……この程度じゃ、オレはくたばらねぇぜ」
 薄ら口から滲む血を指で拭い、気を高め、痛みを抑えてニヤリと笑んで。空を宿したキソラの瞳が、ゴーグル越しに討つべき敵をはっきり見据える。
 すると麗雷は、今度は脚から発する雷を、増幅させて周囲に放電。耳を聾さんばかりの雷鳴と、同時に奔る電光が、キソラ目掛けて撃ち込まれ――回避を試みようとするものの、躱し切れずに雷撃を浴びてしまう。
「ちっ……いい加減、こっちもお返しさせてもらうぜ」
 全身中に痺れが回る、しかしキソラは負けじと闘志を滾らせ、駆ける脚から炎が燃えて、熱く灼けつくような一撃を、敵の脇腹狙って叩き込む。
「ふぅん……アタシに火傷を負わせるなんて、少し見縊っていたかしら。だったら容赦しないで、とっとと殺してあげるわよ」
 炎の蹴りを食らった麗雷は、溢れんばかりの殺意を剥き出し――引導を渡すべく、放った蹴りが目にも止まらぬ速さでキソラを襲う。
 痺れが残った身体は反応し切れず、ならばと後ろへ飛び退り、可能な限り被害を最小限に食い止めようとする、が――麗雷の蹴りの威力がキソラの防御を上回り、宙に浮いたキソラの身体は地面に激しく叩きつけられてしまう。
「……テメェの力はこんなモンなのか。これでオレを殺るたぁ、笑わせやがる」
 受けたダメージは浅くなく、蹌踉めきながらも男は再び立ち上がる。
 例え窮地であっても不敵な笑みを崩さずに、前を見つめる瞳の奥の、闘志の炎は消えることなく燃え続ける。
 この状況でも諦めようとせず、抗う彼の気迫に麗雷は、得体の知れない不気味な空気を心の底で感じ取る。
 今すぐにでも、ここでこの男を始末しないと――何かを本能的に察したか、麗雷が力を溜めて勝負を賭けようとする。だがそこへ、別方向から妖精の力を宿した矢の一撃が、彼女を狙って放たれる。
「ッ……!! 敵襲か……!?」
 飛んできた矢が頬を掠めて、麗雷は予期せぬ奇襲に焦りを覗かせ、警戒しながら目を光らせる。すると彼女の双眸に、白い翼を広げた男の影が、迫ってくるのが映って見えた。

「少し、大人しくして貰おうか……」
 大事な友を救出せんと、グレッグ・ロックハート(浅き夢見じ・e23784)が狙い澄ました鋭い蹴りを、麗雷目掛けて打ち込むと。同時に身に纏わせた焔が、生い茂る枝葉のように敵を締め付け、機動力を削ぐ。
 そしてグレッグの攻撃を皮切りに、救出に駆け付けたケルベロスたちがキソラを庇うように陣を敷く。
「急ぎにてご無礼しましてー、活入れですのよー」
 先ずは、いの一番にキソラの傷を治すべく、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が癒しの術を使う。
「サa沙、深淵ヲ垣間見ン――吾、三明通し。汝、六輪廻る。然らば千葉蓮華空け放たれり」
 片手の掌で拝むように意識を集中、額が放つ黒い波動で損傷部位を読み取って、掌の人差し指、中指、薬指の三指で以て経脈を突き、傷口を塞ぐと共に気の流れを活性化させる。
「そう簡単に倒れるわけはないと、信じていました。帰るまでが任務ですからね。ご助力いたしますよ、キソラさん」
 春日・いぶき(藤咲・e00678)はキソラの無事な姿を確認するなり、微笑み浮かべて喜んで。もう誰も、傷つけさせはしないと十字のナイフに誓いを込めて、発する光がキソラの傷を優しく癒す。
「ひとりで足止めなんて無茶……でもやるところが、らしいというか」
 アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)はその無謀さに、半ば呆れ加減に苦笑して。でもここから先は一緒に戦い、必ず生きて帰ろうと。祈りを込めると身体に覆った流体金属が、白銀色に輝く光の粒子を散布させ、味方の戦意を研ぎ澄ます。
「これ以上、好き勝手な真似はさせません」
 キソラから敵を引き離そうと、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が間に割り込むように飛び掛かる。空中高く跳躍し、加速を増して重力を載せた真理の飛び蹴りに、麗雷は素早く身を翻して後退る。
 その隙に、一刻も早く態勢を立て直そうと守りを固めるケルベロスたち。
 三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)が念動力で鎖を操り、麗雷の四肢に絡めて動きを封じ、時間稼ぎを試みる。
「何だい螺旋忍軍ってのは火事場泥棒も始めたのかい? それとも……って話かね。ま、何でも良いけどさ」
 挑発するかのような口振りで、千尋が相手の狙いを探ろうとする。
「ああ。確かに螺旋忍軍には、そういう所があったわねぇ」
 そんな千尋の態度に麗雷は、嘗ての過去を顧みて、懐かしむような調子で言葉を返す。
 どうやら今の自分たちは、そうではないと言っているのだろうか。
「それと、アタシたちが何の関係があるの? むしろ『泥棒』はアナタたちの方じゃない」
 まるで彼女たちの方こそ『鍵』の持ち主なのだと、強い口調でケルベロスを盗人呼ばわりする麗雷。言葉の真意がどこにあるのか定かでないが、唯一つだけ、はっきり分かっていることがある。
「あーおたくらにも事情があんだろうよ。結局、どっちがより欲しがりかだろ?」
 会話を遮るようにサイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)が、口を挟んで話の流れを切り捨てる。
 どれ程御託を並べても、理屈が何であろうと、本質的な部分は違わない。
「なら俺が負ける道理はねえな。遥々『拾いに来た』のはお互いサマ、つってんだ」
 そう言って、サイガは横目で友の姿を一瞥し、鍵には興味はねぇが、と嘯きながら。
 溢れる殺気は黝く、チリチリと、火花のように弾けて今にも抑え切れない状態だ。
「……ったく、遅ぇじゃねぇの」
 サイガを始め、駆け付けてくれた仲間たちの顔触れを見て。キソラが悪態ついた台詞を言うのも、彼なりの感謝の気持ちの表れである。
 これ程頼もしく、心強く思える友人たちは他にいない。
 後は彼らと一緒に力を合わせ、眼前のデウスエクスを倒して、突破するのみだ――。


「わざわざ助けに来たところ悪いけど、一人たりともこの島から帰すわけにはいかないわ」
 八人のケルベロスたちを前にして、麗雷は飢えた獣の如く獰猛に、彼らを睨み、グルルと小さく唸り声を上げ、獲物を狩ろうと動き出す。
 紫電を帯びた脚で空を薙ぎ、生じる広範囲の雷撃が、番犬たちを一網打尽にしようと襲い掛かる。
「何度も思い通りになんて、させないよ」
 しかしすかさず千尋が魔力で鎖を展開させて、描いた魔法陣から光が溢れ、守護の力で雷の波を防いでみせる。
 個々の力量差だけならば、デウスエクスの方が圧倒的に上である。だがケルベロスには、強力な個にも負けない連携力がある。
 彼らは強い絆によって、これまで幾度も大きな危機を乗り越えてきた。だから今回も――そうした想いは千尋だけでなく、ここに集った全員が、同じ想いを抱いて戦っている。
「鉄から鉛に至り、シの戯れに敗北せよ。囲み喚くは爛れた骸、奈落に招く這い出る諸手、呪いの歌が汝を捉える――黄泉路の輪唱」
 アリシスフェイルが唱えしは、殲滅の魔女の物語の一節である。
 心の奥から込み上げる、死の感覚が両の手首を舐めるが如く通り抜け――赤と黒、二色の光が織り成す幕は、世界と黄泉を謳い、虚無とを繋ぐ扉を開く。
 そしてアリシスフェイルの声に導かれ、扉の中から伸びる闇の手が、敵を虚無へと引き摺り込まんと掴んで離さず。そこへ続いてフラッタリーが、見えざる腕に巻いた包帯を、飛ばして麗雷の身体に巻き付け、捕縛する。
「さぁて、じっくり嬲ってあげましょうかしらぁー」
 どこか緊張感を欠くような、緩い口調で語るフラッタリー。けれども敵を捕らえた瞬間、サークレットが展開し、開いた瞳は黄金色の輝き放ち、口角を吊り上げながら狂ったように嗤い、露わになった額の弾痕からは、地獄の炎が迸る。
「こりゃまたおっかねぇ。ま、俺も他人のことは言えねぇけどな」
 戦闘モードに入って変貌するフラッタリーを見て、サイガも触発されたか戦闘狂としての血が騒ぎ、闘気を奮わせ、爪を研ぐ。
 拳士同士の戦いは、臨むところと真っ正面から突撃し、荒々しく振り翳した漆黒の爪が虎の女拳士の肩を穿ち、降魔の力が彼女の生命力を啜り喰らう。
「今は確実に削っていこう」
 片やグレッグは、冷静に振る舞いながら状況を判断。蹴りならこちらも負けないと、ブーツに理力を込めて蹴り込むと、星のオーラが礫のように撃ち込まれ、跡には白い花弁が風に舞う。
「全く……五月蠅い犬共が、よく吠えるわね!」
 番犬たちが手数の多さで攻め立てる。だが相手は幹部の一体、力任せに拘束を解き、先に手近な者から倒そうと、超高速の蹴りを放つが――敵の動きを察した真理が、身を挺してこの攻撃を受け止める。
「私が、全て守ってみせるのです……!」
 蹴りの威力は凄まじく、全身中を烈しい痛みが駆け巡る。それでも真理は、表情一つ変えずに堪えて、返す刀で動力剣を振り回し、相手の武器たる脚を裂く。
 更にライドキャリバーの『プライド・ワン』が、ヘッドライトを赤く光らせながら、主を援護しようとガトリング砲で威嚇射撃する。
「灯の温もりを、あなたにも――」
 回復役のいぶきは仲間を支える役目に徹し、指先に癒しの力を注ぐと、淡い光がゆらゆら燈り、優しき聖なる灯火が、仲間を蝕む邪を祓い、再び戦う気力を呼び覚ます。
 戦場に癒し手として立つ以上、一人も倒れることなく、全員一緒に帰還を果たす。
 それが自身の使命であると、いぶきは強い決意でこの戦線を維持し続け、戦いは双方共に互角の勝負を繰り広げながら、より激しさを増していく――。


 マスタービーストへと繋がる『鍵』の争奪戦は、互いに譲らず一進一退の攻防を見せる。
 拮抗した戦いが続く中、ケルベロスたちは手を緩めることなく火力を集中、突破口を切り開こうと果敢に攻める。
「全エネルギーをアームドフォートに充填、決して逃しはしないのです」
 真理が右眼の照準レンズに映る相手に、狙いを定めて、ロックオン。
 アームドフォートのトリガーを引き、高出力のレーザービームを一斉発射。巨大な光の帯が敵の身体を呑み込んでいく。
「――以ッテ汝ノ路ヲ封ズ。吾身ハ黄泉比良坂nO岩。破レマセU也?」
 理性の箍が外れたような、狂った言語を発するフラッタリー。
 布を巻かれた両の巨腕に黒い焔が流れ込み、それは膨れ上がった溶岩みたいに恐ろしく、対する者を威圧させ、畏れの心を抱かせる。
「コノ腕ハ、獄炎猛ル黒ノ怪腕。汝ヲ死ニ囚ワントスル、怨嗟也」
 フラッタリーが炎の巨腕で、麗雷を挟み潰すように殴打する。その衝撃に、骨が軋んで内臓までも破壊され、大打撃を受けた麗雷は血を吐きながら片膝を突く。
「クッ……まさかこれ程までとはね……。でも、まだ終わったわけじゃない」
 これまで蓄積された傷により、麗雷はかなり消耗している状態だ。この場は一旦回復しようと、自身の体内に、電流を送って生命力を賦活させようと――。
 だがそうはさせじと、キソラが指を突きつけて。指先から広がる雫が手負いの虎を包み込み、癒しを赦さぬ悼みの雨が、核まで侵すが如く沁み渡る。
「……そんじゃ、後は頼んだぜ」
 そしてくるりと振り向くと、サイガと視線を合わせて目配せをして。
 合図を受けたサイガは仕方がねぇなと、頷き返し。五指に獄炎這わせて、相手の傷を抉るように捻じ込ませ――地獄の劫火が身体の中を灼き炙り、血が焦げて、臓腑が爛れるような感覚に、麗雷は呻き声を上げ、悶え苦しみ、のた打ち回る。
「一緒に帰ると誓いましたから。その為に、持てる力は惜しみません」
 流れは確かにこちらに傾いている。ここは一気に畳み掛けようと、回復役のいぶきも攻手に回り、禁忌の魔法によって生み出した、不可視の虚無球体を撃ち放つ。
「そろそろ決着をつけるとしようか」
 敵を眼光鋭く睨めつけながら、グレッグが片手にナイフを握り締め、白い翼を羽搏かせ、風を纏って地を這うように急接近。稲妻状に変形させた刃を振るい、舞うかのように相手の体躯を斬り刻む。
「さあ、これで決めるわよ!」
 ケルベロスたちが怒涛の猛攻撃で追い詰める。深手を負った麗雷に、止めを刺そうとアリシスフェイルと千尋が同時に仕掛ける。
 最初にアリシスフェイルが前に出て、巨大な鋏を模した剣に霊力纏わせ、<静>と<動>二対の刃を突き立てながら、重ね合わせるように裁き断つ。
「こいつで全てを終わらせる――三本目の刃、受けてみるかい?」
 グレッグが、アリシスフェイルが続けて刻んだ刃の、最後の一太刀。
 千尋が右腕部に搭載されたレーザーブレードユニットを、起動させると光の刃が形成される。それを手刀のように薙ぎ祓い――煌刃一閃。
 レーザー熱と霊気を融合させた一撃は、物質だけでなく、精神までも断ち斬る無二の剣。
 振り抜く電鋼雪花の刃は袈裟斬りに、虎の女拳士を切り裂いて。
 真っ赤な飛沫が花弁のように空へと舞い――自ら流した血溜まりに、デウスエクスの骸が斃れて沈む。

 斯くしてこの戦いは、ケルベロスたちの勝利で幕が下り、分散していた他のメンバーも、全員救出されたと報せが届くと、漸く緊張感から解放されて安堵する。
 結局、動物型の螺旋忍軍たちの素性は分からぬままだが、竜十字島における調査は無事に終え、マスタービーストへの手掛かりとなる『鍵』も手に入れた。
「とっとと帰んぞ。ちったぁ歩けるんだろうな」
 普段と変わらずぶっきらぼうなシャドウエルフの青年は、荒い言葉と裏腹に、連れ合う友に肩を貸し、一緒に帰路へと向かうのだった――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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