星が照らす黄金

作者:星垣えん

●黄金の爪
 まるで粉砂糖でも撒いたみたいだ――。
 気まぐれに訪れた夜の砂丘を歩きながら、ルチル・アルコル(天の瞳・e33675)はどこまでも星々が瞬く天蓋を見上げていた。
「少し遠かったが来てよかった」
 ぼーっと藍色の瞳に星を映しながら、ちょっと笑うルチル。
 ひとりきりの天体観測だった。ミミックのルービィ(当然のように椅子にされてる)を連れてはいるが、一緒に来た友人知人は誰もいない。
 星が綺麗に見えると聞いたから。
 ただそれだけを理由にして、ルチルはその砂丘に足を運んだのだった。
「しかし、意外と涼しいものなのだな」
 涼風に体を撫でられて、薄手の上衣を羽織るルチル。つい先日まで暑い暑いと言われてきた世の中も、今はすっかり盛りを過ぎて、秋が近いのを感じる。
「また、冬に来るのもいいかもしれない」
 そのころは天上の星模様も変わっているだろう。
 観賞を終えたルチルがルービィから腰を上げる。
 そして歩き出そうと砂を踏み出した――そのときだった。
「見つけたぞ。UM-08」
「…………ミザール……?」
 目前に現れた者の姿に、ルチルは固まった。
 華やかな白い道着、結ばれた長い青髪、そしてルチルが纏う黄金の具足に酷似した『黄金の機械爪』を持つその機人は――巨大な爪の鋭い輝きを機械娘に向ける。
「さして期待などできないが、少しは足しになるだろう」
「何を言っている……?」
 後ずさりするルチル。ルービィも立ち上がり、口をひらいて威嚇する。
 が、爪の機人はそれもこれも構わずに、大爪を振るって迫りくる!
「俺の糧となれ。UM-08!!!」

●夜空へ
「皆さん、依頼に応じていただきありがとうございます。ですが時間がありません。今すぐにヘリオンに乗って下さい」
 ヘリポートへ猟犬たちが集まったのを見て取るや、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は皆を待機中のヘリオンに促した。
 そして一同がヘリオンに向かう僅かな時間で、イマジネイターは告げた。
「ルチルがデウスエクスに襲撃される未来を予知しました」
 そう口にした彼の表情には、幾許の余裕もない。
 いちばんその予知を伝えねばならないだろうルチルと、連絡が取れないのである。
「今すぐに、皆さんでルチルの救援に向かって下さい。それでも彼女が襲われる前に合流することはできないでしょうが……急げば襲撃直後のタイミングには到着できるはずです」
 話を受けた猟犬たちが、ヘリオンに乗りこむ。
 それを確認するとイマジネイターもまた操縦席に座り、ヘリオンを浮上させた。
「ルチルを襲撃するデウスエクスは『UM-07 ミザール』というダモクレスです。その動機やルチルとの関係までは掴めていませんが……彼女の具足にも似た『黄金の爪』を駆使して戦うようです。くれぐれも注意して下さい」
 ヘリオンの、高度が上がる。
 機械娘がその爪に切り裂かれる前に――猟犬たちは夜空へと飛び立った。


参加者
桐山・憩(鉄の盾・e00836)
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)
鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)
アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)
ギュスターヴ・トキザネ(ケルベロスの執事・e03615)
フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)
ルチル・アルコル(天の瞳・e33675)
雨後・晴天(本日は晴天なり・e37185)

■リプレイ

●機械なんかじゃない
 意識が、沈んでゆく。
「対象を同一シリーズ機体と認識。戦術思考展開、人格休眠」
 襲いくる大爪を見て、ルチル・アルコル(天の瞳・e33675)の体は速やかに戦闘準備を済ませていた。不器用な少女の自我は奥へと消え、頭は周囲の情報を処理するためだけの部品へと成り代わる。
 ミザールは彼女の無機質な瞳を見て、笑った。
「そのほうが似合いだな!」
 黄金の爪がルチルを薙ぎ払い、軽い体を小石のように転がす。
 だがルチルは砂に手を突いて止まると転回。追撃にきたミザールに大鎌『Phecda』の一撃を見舞った。
「その鎌……!」
「――!」
「おっと」
 背後から迫っていたルービィ(ミミック)の武器をひらりと避けるミザール。足元に転がったサーヴァントを蹴り飛ばすと、ルチルへ再び機械爪を伸ばした。
 欲望の切っ先が白い喉に触れる。
 その、瞬間だった。
「……上ッ!!」
 空気がひりつくのを感じたミザールが天を向く。
 炎が落ちてくる。
 そしてそれを追って、降臨するオラトリオ。
「くっ!?」
 砂の上に着弾した炎がミザールの機械爪を遮り、同時に飛来したオラトリオの蹴撃が体のほうを弾き飛ばす。
 踏みとどまること叶わず地面を転がるミザールの体。
 それを見ていたルチルの視界に、2人の背中が割りこんだ。
「よっ、と……何とか間に合ったみたいだね。ルチルちゃん、大丈夫?」
「ルチル、助けにきた」
 こちらを振り返り、その顔を見せたのは――フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)とアウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)だ。
 途端、感情の消えたルチルの瞳に、光が宿った。
「どうにか耐えられたか、待っていたぞ」
「ごめん。少し遅くなった」
「でももう安心だよ!」
「そーそー。そのとおりだぜ、アルコル!」
 フィオたちがルチルに歩み寄ると、そこに桐山・憩(鉄の盾・e00836)がやかましいまでの大声を響かせて降り立つ。着地するなり取り出したのは爆破スイッチだ。
「糧だのとエラソーにフきやがる。糧になるのはテメェだ爪野郎!」
「わらわらと……俺の邪魔をするか!」
 ミザールの足元から爆炎が噴きあがった。だがミザールは衝撃に体を巻き上げられながらも、中空で身を翻し、その黄金の爪を猟犬たちへと向ける。
 そこへ、音もなく舞い降りるギュスターヴ・トキザネ(ケルベロスの執事・e03615)。
 およそ戦場の空気が似合わぬ初老の紳士は、その腕に纏わせたブラックスライムの剣をミザールの爪に叩きつける。
「貴様も俺の前に立つか! 老いぼれ!」
「ええ。仰るとおりわたくしめは、さしずめ老兵でございます。正に綺羅星たる若きケルベロスの皆様に随う伴星。或いは名も無き六等星」
 着地したギュスターヴが、柔らかな笑みを作る。
「されど己自身が輝く強さより強く輝くものを守りし者の矜持、ご覧入れましょう」
「下らん! そんな腑抜けに俺を阻む資格はない」
 機械爪をかち合わせ、一笑に付すミザール。
 鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)は灰の瞳をわずかに見開いた。
「あらあら怖い。こんな素敵な夜に無粋ね、あなた。きらきらした星の下では愛や絆を深めるのがお決まりなのに」
「それこそ下らん話だな。UM-08と俺とに、絆などない」
「……」
 ミザールが冷たい爪の先を向けられたルチルは、何も言わずただ見返すのみ。
 けれど、纏は彼の言葉に首を振る。
「UM-08? いいえ、ルチルちゃんは、其処に居るルチル・アルコルはわたしのともだち。それ以上でも、それ以下でも無いわ」
「つくづく笑わせる奴だ。そんな機械を友だと」
「友さ。それの何が面白い?」
 纏たちの会話に割りこんだのは、雨後・晴天(本日は晴天なり・e37185)。シャーマンズゴーストの快晴とともに現れた彼は、未だ傷のあるルチルを中心に攻性植物の光を振りまいた。
「久しいな、ルチル。ルービィもこんばんは。星見には絶好の日和だな」
「ああ、久しぶりだ。こんな状況で悪いな」
「確かに」
 頬を綻ばせた晴天が、ミザールへと振り向いた。
「――で、確認だ。誰が誰を糧にする、と?」
 一転して、その顔に暗い敵愾心が浮かぶ。
 乱れはしない。殴りもしない。だがその胸には煮えたぎる怒気が満ち満ちていた。
 しかしミザールは何を悪びれることもなく、片眉を跳ねる。
「そこの機械だ。俺のために、消えてもらう」
「悪いが、それは聞き入れられない」
 晴天が言い返すよりも早く、口を開いたのはジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)だった。ロッドから放つ雷光をルチルらを守る障壁と変えながら、レプリカントは静かな声音で告げる。
「キミの目的になど興味はないが、彼女は私達の同僚だ。糧になどさせる気はないよ」
 その言葉と呼応して、猟犬たちが得物を構え、ミザールへ揺らがぬ眼差しをぶつける。
 カチ、とミザールの黄金爪が擦りあった。
「俺も、俺の意志を曲げる気はない」

●黄金が唸る
 静かな星の空に、剣戟が閃く。
「私の刃、そう簡単にはかわせないよ」
 灯喰い刀を携えたフィオの体から、魔力に満ちた血煙が噴き出す。視界を遮るほど色濃い血煙に紛れ、ミザールの懐に潜りこんだフィオはその背中に容赦ない斬撃を浴びせた。
「貴様……!」
 苛立ちで顔をしかめるミザールの巨大爪が振るわれる。
 だがフィオは兎らしい軽やかな体捌きで、その爪を紙一重のところで避けた。そのまま素早く距離を取り、追撃を許さない。
 歯がかち合う音が聞こえそうなほどミザールの表情に怒りが覗く。そこへギュスターヴは抜け目なく接近し、鉄槍のように尖らせたブラックスライムを突きこんだ。
「騎士道というものにはもとりますが、容赦はいたしません」
「そこかしこから……鬱陶しい!」
 黄金の巨手で弾こうとするミザールだが、刺突は手に触れるより早くミザールの肩口に突き刺さる。傷から侵入する毒素がその体に染みわたり、命を蝕んでゆく。
 ミザールは舌打ちを響かせ、ギュスターヴに機械爪を振り下ろした。刺突から間髪入れずの反撃が、紳士執事の穏やかな顔に肉迫する――が、その間に体ごと介入するルチル。
「UM-08……!」
「好きにやらせはしないぞ。ギュスターヴは知らない人だが、それでもわたしを守るために来てくれたのだからな」
「ルチル様、恐れ入ります」
「うむ。恐れ入るといい」
 執事として恭しく礼をするギュスターヴに、むふーと満更でもない気分のルチル。
「ならばおまえのほうから消してやる!」
 立ち塞がるルチルへ、ミザールが爪の刃を煌めかせる。わざわざ自ら攻撃の的になるならば都合がいい、と表情を歪ませながら。
 が、その矢先に、ミザールの背後を衝撃と熱が襲う。
「ルチルを叩かせはしない。叩こうとするならその前に私が叩く」
「この女……」
 前のめりに体勢を崩したミザールが倒れざまに見たのは、舞踏靴にごうごうと炎を宿したアウィスの立ち姿。高々と片脚を掲げたその姿は、まったくの自己流にしてはなぜだか結構サマになっている。
 膝をついて彼女を見上げるミザールを、憩はこれ見よがしに笑い飛ばした。
「ハッ、情けねェ! アルコルをどうのと息巻く割に大したことねェな!」
「……ギザギザ女、もう1度言ってみろ!!」
 ぴくりと反応したミザールが、わかりすぎるほどの怒りを発露させる。それが憩のグラビティによるものだとも気づかずに、突っこんでくる敵を見て、憩はさらに性悪な笑みを強めた。
 だが万事うまく運んだとも言い難い。ミザールの大爪の一撃は確かに強烈で、人工皮膚ごと体を裂かれた憩はその場に膝をついてしまう。
「……ッチ、当たるかよ……!」
「安心しろ桐山。傷を癒すのは、医者の務めだ」
 文句を吐き捨てた憩の体からダメージが抜ける。いつの間にやら背後に近づいていた晴天が魔術的なオペを施し、すぐさま裂傷を治癒させていたのだ。その手際の良さはさすがに医者の面目躍如だった。
「ンだよアメノチ。ほっぺ柔らかそうなのに結構やるじゃん」
「ほっぺは放っとけ」
 ぶすっと不機嫌になる晴天(ドワーフ)。
 そんなことをしている一方。
「巻き返す隙は与えない。このまま一気に倒させてもらおう」
「ええ、まったくね。そうしましょう」
 ミザールめがけて仕掛けたのはジゼルと纏だ。ジゼルの杖の先で閃く雷撃がミザールの機械体を撃ちぬき、痺れさせると、立て続けに纏の指から放たれた虚無球体が動きの鈍いその体を撫でてゆく。
「っが、ああああ……!!」
 虚無球体に肩を抉られたミザールが、大きく苦悶の声をあげる。
 その反応は明らかにほかの攻撃を受けたときとは違う、と、ミザールを観察していた纏は感じた。
「どうやら、魔法は苦手なのかしら?」
「……小賢しいクソ女が……!」
 蹲ったミザールのギラついた眼差しが、纏の肌を刺してくる。
 しかしそれが何よりの証拠。
 纏はその刃のような視線を受けて、ふふっと笑うのだった。

●二重星
 戦いの天秤は、猟犬のほうへと傾いていた。
 ミザールの攻撃は強力だった。だが晴天と快晴、ルチルやエイブラハム、途中から援護に回ったギュスターヴの治癒で致命的な一打は防いでいた。さんざん憩が挑発して被弾を一手に引き受けたのも大きい。
 おかげでフィオや纏は存分に攻撃を振るい、ミザールを削ることができた。さらにはアウィスの正確な攻撃で足を止められ、ジゼルによってその身の不調が増大させられ――そのたびミザールは自己修復を余儀なくされた。
「なぜ……なぜおまえが俺を見下ろす!?」
 片膝をついたミザールが、声もなく自分を見下ろすルチルへと声を荒らげる。
 だが少女は答えない。
 代わりに、その体を覆って燃える蒼炎が、言を放つかのようにゆらりと盛る。
 ギュスターヴが駆使する癒しの炎だ。
「貴方様の輝きよりも、ルチル様の輝きが勝る。そういうことでございましょう」
 執事がその腕をひろげ、指し示すのは居並ぶ壮健なる猟犬たち。彼の言葉に頷く面々の中から、晴天はスッと進み出る。
 傘をかざした暗天から、暖かなグラビティの陽光をルチルに降らせながら。
「俺の仕事は、彼女を何が何でも生かして無事に帰すことでな。故に、貴様がいくら粘ろうと、貴様の望む未来は訪れない。諦めて、さっさと彼女に倒されたまえよ」
「……ふざけるな! 倒れるべきはUM-08だ……!!」
 脚を震わせつつもミザールが立ち上がる。
 同時に星々の光が、黄金の機械爪に集約する。凝集した光はやがて黄金を眩く輝かせ、ミザールはその力でもって辺り一帯を縦横無尽に切り刻んだ。
 が、憩はその斬撃の嵐の中をむしろ進む。
「貴様……っ!」
「なァ、随分と妹に御執だが、どうして拘ってんだ? アルコルが欲しいと心から願ってるってことか? ……笑わせるぜ。んなわけねェよなァ」
 たじろぐミザールへ向けて、憩は歩を止めない。
「テメェで笑顔ひとつ作れない奴に! 脳みそから心まで私より劣ってる偽物に! ルチルはやらねぇよ、ばーか」
「ぐっ……!?」
 間近まで歩んでみた憩が、縛霊撃をミザールにぶちかます。
 ぐらりと傾くミザールの体――そこへさらに肉迫するのは、一直線に駆けてくるアウィスだ。
「私もあなたにルチルを渡す気はない」
 軽やかに跳躍したアウィスのひと蹴りが、ミザールの脚を砕いた。バランスを失ったミザールは抗することもできず倒れ、その顔を乾いた砂で汚す。
「ぐ……あああっ……!?」
 歩き、駆ける脚を奪われたミザールが砂を掴み、もがく。
 それを見て、フィオや纏はルチルへと振り返った。
「「ルチルちゃん」」
「わかっている。だから少しの間、私とミザールだけにしてほしい」
 2人の間を抜けて、ルチルが前に出てきた。
「自分で決着をつけたいなら、止める理由はないよ」
「そうね。この刀が召し上がった幾つもの御霊と、わたしの想いも一緒に連れて行ってあげて。さあ、いってらっしゃい」
 フィオが肩に置いた手から、纏が紅と翠の二振りの刀から、それぞれ力がルチルの体に流れこむ。託すものを託すと2人はその場を離れた。
 そして入れ替わりにやってきたのは、ジゼル。
 トン、と押し当てたロッドの先端から賦活の電気を送りこんだ。
「キミのしたいように、すればいい」
「うむ。そうする」
 ルチルが頷いたのを見て、ジゼルもまたそこを離れる。離れながら周囲を、夜の砂丘の景色を見つめて、ここでない遠くに思いを馳せた。
(「あの時、友に救われた私が今度はまた別の誰かを救う手伝いが出来る。今はそれを、少しだけ誇りに思う」)

 星空の下に、冷たい砂の上に。
 ルチルとミザールは2人だった。
「俺は……朽ちない……俺は……パーツなんかじゃ……ない……」
 うわごとのように口走るミザールは、もはや牙の抜けた獣に見えた。
 熱しやすく、攻撃的で、偉そうだったかつての姿は、もうない。
 ルチルは彼の黄金爪にそっと触れると――『Phecda』を振り上げた。
「……U……M……」
「ミザール、兄さん。その望み、形は違えど叶えよう。お前がどんなに拒もうとな」
 断首の鎌が、下ろされる。
 ひどく冷たい金属音が、何もない砂丘に響いて消えた。

●星天
「……あ、ルチルちゃん!」
 岩に腰かけてじっと待っていたフィオが、歩いてくるルチルの姿に気づいて立ち上がる。
「お待たせ。そしてありがとな」
 そう告げるルチルの両腕は――黄金の爪に替わっていた。
 その体に似合わぬほど巨大な機械爪に、否が応でも仲間たちの視線は留まる。だが猟犬たちは何を訊くこともなく、ただルチルに微笑んだ。
「お疲れ様、ルチルちゃん」
「無事に終わって何よりだぜ」
「そうだな。それが一番だ」
 彼女を囲んで笑うのは、纏と憩、晴天だ。纏がルービィともどもルチルを撫でると、ルチルはされるがままにむにむに撫でられておいた。
 で、ある程度撫でられたところで、ルチルはふと言った。
「なあ、すこし星を見ていこう。ここは星がきれいだと聞いて来たんだ」
「星。いいと思う」
 賛同したアウィスは、もう夜空を見上げている。
「きらきら輝く、シリウス。見えるか探そう」
「星見か。アルビレオも見えるだろうか」
「見えるだろう。たぶんな」
 目を細めて星の天蓋を眺めるジゼルに、ルチルは抑揚なく告げる。
 そこへ、かちゃりと食器音が聞こえた。
 ギュスターヴが上等なティーポットを手にして、にこりと佇んでいた。簡素なトレーの上に並ぶのは湯気を立てる紙コップたちと、空腹を埋めてくれる軽食だ。
「こんなこともあろうかと紅茶と軽食をご用意致しましたが、鑑賞のお供に如何ですかな?」
「それはいいな」
「そういえば私もおなかすいた」
「砂丘での茶会か。悪くない」
 ルチルとアウィスが紅茶に寄せられ、ジゼルはふっと口角をあげた。
 夜の砂丘の優雅な茶会。
 それを、名も知れぬ二重星が静かに、照らしていた。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。