磨羯宮決戦~蒼玉の略奪部隊

作者:雷紋寺音弥

●磨羯宮、浮上
「緊急事態だ。東京焦土地帯に、エインヘリアルの要塞が出現したぞ」
 その日、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)よりケルベロス達に告げられたのは、エインヘリアルの第九王子サフィーロと、その配下である蒼玉騎士団が守護する要塞、磨羯宮『ブレイザブリク』浮上の報だった。
「出現と同時に、要塞からは蒼玉騎士団の尖兵が出撃した。目的は、東京焦土地帯を制圧及び、周辺市街地への略奪だ」
 この略奪部隊は、殺戮を好む『蒼狂紅のツグハ』が指揮しており、市街地で殺戮と略奪を行おうとしている。無論、それを見逃すわけにはいかないため、蒼玉騎士団の略奪部隊を迎え撃たなくてはならない。
「敵は統率の取れた騎士団で数も多いが、本国のエリートであることが、弱点にもなっているぞ。要するに、自分達の優秀さに胡坐をかいて、お前達を舐めている」
 根拠のない自身を持った者ほど、誘導しやすい者もいないはず。幾つかの小部隊に別れ、奇襲や伏撃を繰り返すなどして敵を翻弄し、指揮官である『狂紅のツグハ』を討ち取るか、あるいは撤退させることができれば、騎士団も撤退してはずだ。
「戦場になる場所は『八王子の東京焦土地帯』で、周辺に一般人は存在しない。騎士団の規模は、蒼玉衛士団督戦兵が50体、蒼玉衛士団一般兵が250体の、合わせて300体程度だな。督戦兵1体が一般兵5体を率いる『小隊』が、50あると考えればわかりやすい」
 何らかの異変を察知したり、もしくは敵対者が現れた場合は、この小隊規模で偵察を行ったり、敵の撃退を行ったりするようだ。戦闘時は別の小隊が増援として派遣される可能性が高いので、戦闘を行う場合は、ある程度本体から引き離して行なった方が良い。その上で、増援が来る前に決着をつけるか、撤退するのが望ましい。
 もしくは、戦闘は行わず攪乱に徹し、多くの小隊を本体から引き離す事も有効だ。多少、危険な賭けにもなるが、多くの小隊を引き付けて本陣の防衛を疎かにさせれば、本陣への強襲も可能かもしれない。
「周辺の地形は、自然地形や廃墟となった市街地、それに幹線道路などだな。廃墟となったビルや駅ビルの地下街、下水道などをうまく利用する事ができれば、敵の攪乱には役に立つだろう」
 ちなみに敵の戦力だが、一般兵のエインヘリアルの戦闘能力は、実はそこまで高くない。反対に、督戦兵のエインヘリアルは、罪人エインヘリアル程度の強さがあると見て間違いない。
「お前達が全力を尽くして戦えば、督戦兵1体と一般兵5体を同時に相手にして、五分の戦いに持ち込むことは可能だが……正直、これで確実に勝てるかどうかは、断言できないからな。戦闘不能者も多く出るだろうから、戦闘後は戦闘不能になった者を抱え、撤退するしかなくなるぞ」
 それを避けるためには、小隊を更に分断し、各個撃破を行う必要がある。督戦兵は傲慢な性格をしており、ともすれば面倒事を全て一般兵に押し付ける傾向があるので、それを利用して派遣されてきた小隊を各個撃破に持ち込めるかもしれない。
 また、小隊の指揮官である督戦兵を撃破できれば、残りの一般兵は戦闘を中断して撤退しようとする。そのため、督戦兵と一般兵を同時に相手にする場合でも、指揮官をピンポイントで狙うことができれば、戦いを有利に進められるかもしれない。
「磨羯宮『ブレイザブリク』出現の理由だが……恐らくは、エインヘリアルのゲートを守護する為だろうな。磨羯宮『ブレイザブリク』を攻略しない限り、エインヘリアルのゲートへの道は開かれないと考えて良さそうだ」
 敵の拠点へ通じる道を開くためにも、ブレイザブリクの攻略は必須。ツグハの略奪部隊を撃破できれば、ダンジョン化した磨羯宮『ブレイザブリク』の攻略を開始する事が出来るはずなので、まずは厄介な略奪部隊を倒すのが先決だ。
「蒼玉騎士団はエインヘリアルの王子直属のエリートだが、実戦の経験ではお前達に数段劣る。実戦と模擬戦は違うということを、エリートの座に胡坐をかいているだけの連中に、しっかり教えてやるんだな」
 今まで、数多くの戦争を勝ち抜き、この地球を守り抜いて来た番犬の力を見せてやれ。そう言って、クロートはケルベロス達を、東京焦土地帯へと送り出した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ

●戦いの狼煙
 東京八王子市。
 かつて、デウスエクス達との激しい戦いにより焦土と化し、今では死神達の跋扈する死の地帯と化した場所。
 そんな焦土の空を貫くようにして、突如として上がったのは無駄に派手な信号弾。しかも、単発ではなく複数だ。
「な、なんだ、ありゃ!?」
「花火に狼煙だと? ……我々の接近を察知して、仲間に救援を依頼したつもりか?」
 既に廃墟と化した八王子の駅前にて、集まった蒼玉騎士団の督戦兵達が顔を上げた。
「市街戦でオレ達を止めるつもりか? 生意気な雑魚め。お前達、狩りだして首を持ち帰って来い」
 督戦兵達の中央で、指揮官の狂紅のツグハが命じた。その言葉に頷き、督戦兵達もまた、自らの配下である一般兵達を、廃墟の市街へと差し向ける。
「よし、まずは偵察だ。孤立しているケルベロスどもを見つけたら、すぐに報告しろ」
「言っておくが、くれぐれも自分だけで手柄を立てようなんて思うなよ? やつらは俺達、蒼玉騎士団督戦兵の獲物だ。抜け駆けしたやつは、その場でブッ潰して宝玉に変えてやるから、そのつもりでいるんだな」
 自分達の手は極力汚さず、美味しいところだけを持って行きたい。なんとも身勝手な理屈を述べる督戦兵達だったが、一般兵達の中から異論が上がることはない。
 彼らは知っているのだ。目の前の指揮官は嫌なやつだが、それ故に逆らったらどうなるかということを。正論であるから正しいのではなく、力を持った者が言うから正しい。時と場合によっては、力の理論で黒も白に塗り替えられてしまうということを。
「行け! 殺せ! 逆らう者は、皆殺しだ!」
 後ろから叫ぶツグハの声に押されるようにして、蒼玉騎士団の一般兵達は、散り散りになりながら八王子の市街へと散開して行った。

●アンブッシュ
 ケルベロス達の首を狙い、市街地へと突入して来た蒼玉騎士団。だが、その行動はちぐはぐで、全く連携が取れていない。まずは偵察ということも相俟って、バラバラに行動しているようだ。
(「わざわざゲートへの道を晒すなんて、よっぽど自信があるのか、ただの馬鹿なのか……それとも何らかの意図が……?」)
 まあ、どちらにせよチャンスではあると、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)は意を決して物陰から姿を現し。
(「むぅ、略奪なんて絶対させないよ。ドラゴンも倒したリリ達相手に傲慢な態度、絶対後悔させてやる」)
 同じく、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)もまた、敢えて敵の尖兵の前へと姿を晒した。
「む……見つけたぞ、ケルベロス!」
 こちらに気が付いた蒼玉騎士団の一般兵が、アビスやリリエッタの後を追いかけて来た。敵はたった一人だが、どうやらこちらが女子供ばかりだと思い、増援も呼ばずに首を取らんとしているようだ。
(「偵察要因っぽいが、本隊に連絡を取るつもりはないようだな。まったく、舐められたもんだぜ」)
 予定していた下水道の跡に誘導されて行くエインヘリアルの姿を眺めながら、ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)が苦笑した。
 功を焦るあまり、周りが見えなくなった相手ほど、誘導しやすい者はいない。まずは予定通り、各個撃破させてもらおうかと、彼女もまた一足先に、予定の場所まで先回りすることにした。

●地下水道の罠
「……くそっ! あのガキどもめ、何処へ行きやがった……?」
 既に水の枯れて久しい下水道にて、蒼玉騎士団の一般兵は、顔を顰めながら呟いた。
 汚水こそ流れてはいないものの、壁面全体がカビ臭く、周囲の薄暗さも相俟って見通しが悪い。そんな中で、探していた者達の姿を見つけたら、つい叫び、走りたくなるのは道理である。
「……いやがったな! 散々、コケにしやがって!!」
 アビスとリリエッタの姿を見つけ、エインヘリアルは剣を抜くと、そのまま彼女達に斬り掛かって来た。
「本当に懲りない人たちだよね。黙って略奪なんてさせないよ」
 その間に割って入るようにして、影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)が姿を現す。まずは態勢を整えるべく、彼女は木の葉を身に纏う。それでも、何らお構いなしに斬り掛かって来るエインヘリアルだったが、その刃がリナへ届くよりも先に、漆黒の風がカマイタチの如く敵の足元を切り裂いた。
「重騎士の本分は守りに有り! そして……」
「な、なんだぁ!?」
 足を斬られ、バランスを崩したエインヘリアルが転倒する。そこを逃さず、二撃目を加える黒き影。
「守りとは防御! 攻撃こそ、最大の防御なり!!」
 闇に紛れて現れたジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)の斬撃が、エインヘリアルの足元を今度こそズタズタに斬り刻んだ。これでもう、こちらの攻撃を避けられたり、敵に逃げられたりする心配もない。
「ぬぅ……伏兵がいたのか! だが、こんなところで負けるわけには……」
 思わぬ敵の出現に、エインヘリアルは歯噛みしつつも立ち上がると、今度こそリリエッタ達に斬り掛かろうとした。しかし、上手く行かない時というのは、本当に何をやっても上手く行かない。案の定、下水道の闇を貫くかのようにして放たれた砲弾が、今度はエインヘリアルの顔面に炸裂したのだ。
「……ぐはっ!?」
「残念だったな。そっちの好きには、させねぇぜ」
 反対側の通路から、エインヘリアルを挟み込むようにして現れるハンナ。その手に握られたハンマーの柄からは、未だ竜砲弾を放った際の反動で、白い煙が上がっている。
「ハッハー! 撹乱なら、だまし討ちのスペシャリストの僕に任せ給え!」
 続けて現れたのは、因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)。ようやく、これが罠だったと気が付くエインヘリアルだったが、もう遅い。
「まっすぐ向いてるつもりでも、端から見ればフラフラだよ!」
「なに!? それはどういう……おわっ!?」
 哀れ、白兎の投げた奇妙な床のパネルを踏んで、再びエインヘリアルが盛大に転倒した。おまけに、どうやら軽度の催眠状態に陥ったらしく、もはやどこにケルベロス達がいるのかさえ分かっていなかった。
「くそっ! どこだ! どこにいる!!」
 メチャクチャに剣を振り回すエインヘリアルだったが、そんな攻撃、当たるはずもない。その隙に、ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)は銀色の粒子を散布して、仲間の精神を極限まで研ぎ澄まし。
「市街地への侵攻なんて絶対にさせないんだからね! 目からビーム!」
「なっ……うぎゃぁぁぁっ!!」
 最後は、敵の背後に回り込んだ平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)が、情け容赦なく必殺の一撃をお見舞いした。
 哀れ、薙ぎ払うようにして放たれた謎の光線により、燃え尽きて行く蒼玉騎士団の一般兵。単独で挑んだことが災いし、殆ど何もできないまま、彼はケルベロス達の集中攻撃を浴びて倒されてしまった。
「……片付いたか。今のところは、順調だな」
 焼け跡を見て、ジョルディが呟いた。相手が単独でいてくれる限り、戦いの流れはこちらに有利だ。
「あまり、身構えすぎる必要もなかったかな? こんなことなら、わたしも最初から斬り掛かった方が良かったかも?」
「さて、そいつはどうかな? 統率こそ取れてねぇが、曲がりなりにも軍隊相手だ。向こうはこっちを侮っているようだが、こっちも同じじゃ、足元を掬われちまうぜ」
 刃を納めるリナに、ハンナが意味深な笑みを浮かべて言った。
 敵は単純な思考で動いているようだが、しかし決して侮ってはならない。相手がこちらを舐めている時がチャンスではあるが、それに便乗してこちらが相手を甘く見れば、手痛いしっぺ返しを食らうことになる。
 ここがアウェイである以上、一切の油断は禁物だ。現に、先程から通信機器の調子が悪く、携帯電話の類も使えなければ、インターネットにも接続できない。
 恐らく、街が壊滅しており、wi-fiのような中継ポイントがないことが原因だろう。フリーのwi-fiを持ち込むにしても、そもそも通信障害を引き起こすのはデウスエクスの十八番なため、それで問題が解決するとは思えない。
「衛星写真やGPSが使えない以上、後は手持ちの地図を頼りにする他になさそうだね」
「問題ない。孤立している敵を探し出して、誘き寄せて撃破する。当初の予定に、変更はないはず」
 離れた仲間と連絡が取れないことを少しばかり厄介に思うアビスだったが、そんな彼女とは反対に、ファルゼンはどこまでも冷静だった。
「さあ、行こう。リリ達のお仕事は、まだ全部終わったわけじゃないよ」
 次なる敵を誘い出すべく、仲間達に促すリリエッタ。焦土地帯での戦いは、まだほんの始まりに過ぎないのだから。

●疑心暗鬼
 偵察に出た仲間が戻らない。そんな報を受けて蒼玉騎士団の督戦兵が下水道を訪れた時、そこにケルベロス達の姿はなかった。
「ちっ……逃げられたか。ったく、お前達がもっと早く行動してりゃ、間に合ったかもしれねぇってのに……」
 一般兵達に責任を擦り付ける督戦兵だったが、実際にモタついていたのは彼の方だ。偵察に出ていた一般兵達が全て戻るのを待ってから出陣すれば、当然のことながらケルベロス達は、新たな戦場を求めて移動した後だ。
「仕方ねぇ、仕切り直しだ。おい、お前達! 今度こそケルベロスを見つけて、俺様に手柄を取らせるんだ。いいな!!」
 部下の命より手柄が大事、そんな心情が明け透けて見えるままに指示を出したところで、本気で従う者が、果たしてどれだけいるだろう。
 一人、また一人と行方知れずなっては、その度にかかる督戦兵からの招集。だが、さすがに半分以上も仲間を失えば、一般兵達の間にも疑念が走る。
(「まったく……いつまで、こんな戦い方を続けるつもりだ?」)
(「やってられねぇぜ。こうなりゃ、適当に探すフリだけしておくか」)
 士気を失った一般兵達の中には、早くも索敵に手を抜く者が出始める始末。ケルベロス達を甘く見ていた代償は、徐々にだが確実に蒼玉騎士団を蝕みつつあった。

●焼け落ちた地で
 焦土地帯の下水道。ケルベロス達の陽動作戦は尚も続き、それにより本隊と離された蒼玉騎士団の一般兵達は、次々に哀れな末路を遂げて行った。
「地獄纏いて飛べよ我が腕! 我が拳! 受けよ怒りの鉄・拳・制・裁!」
「ひぃっ! や、やめろぉっ!!」
 数の差で圧倒されたエインヘリアルに、燃え盛るジョルディの拳が迫る。逃げ出そうにも、既にそのための力や手段は奪われており、盾を構えて勢いを殺すことしかできないが。
「レイズゥィィィィィィィングゥッ! フィストォォォォォォォォォ!」
「……っ!? ぎゃぁぁぁっ!!」
 その盾をブチ破り、ジョルディの拳は敵の胸元さえも貫いて、地獄の炎を注ぎ込む。敵は血管にマグマを注入されているかの如き悲鳴を上げ、全身から微かに白い煙を発生させて。
「ソウル……オーバー!」
 最後は、ジョルディが中で拳を握り締めた瞬間、凄まじい爆発を起こして吹っ飛んだ。
「そっちへ行ったよ!」
「任せて! 逃がさないんだから!!」
 別の敵が現れたことを和が告げ、それに合わせてリナが跳ぶ。槍を投げつければ、それは空中で分散し、驟雨の如く降り注いで敵の精神さえも侵して行き。
「……残念だけど、あなたはここまで。リリ達の敵じゃなかったね」
「な、なんだと!!」
 槍の雨に紛れて舞い降りたリリエッタが、両手に拳銃を持ってエインヘリアルへと仕掛ける。圧倒的な体格差がありながら、しかし彼女は実に機敏に立ち回り、敵の攻撃をいなしながらゼロ距離で銃撃を繰り返し。
「地より這い上る闇の鎖よ、リリの敵を締め上げろ!」
 牽制に混ぜる形で自らの足元に魔力を込めた弾丸を撃ち込み、地中を通して敵を縛る魔の鎖へと変える。相手が気付いた時には、既に遅し。動きの止まった巨漢など、もはや体の良い的でしかない。
「格下だと思った? 残念だったね……!」
「数はこちらが圧倒的有利……。そちらの勝利する可能性は、ほぼゼロだ」
 それぞれの連れたボクスドラゴンがブレスを吐き出すのに合わせ、アビスとファルゼンが弓に矢を番える。彼女達の放った矢は、まるで己の意思を持っているかの如く、不可思議な軌道を描きながら敵の脳天を貫いた。
「……がはっ!!」
 もはや、敵には抗うだけの力も残されておらず、ケルベロス達にされるがままだ。そんな状態の一般兵に、チェーンソー剣を構えた白兎が迫る。
「さて、狩られる側の立場に回った気分はどうかな?」
「う、うるさい! 本気で戦っていれば、今頃はお前達なんぞ……」
「あ~、はいはい♪ そういう月並みな台詞、要らないから」
 敵に最後まで語らせず、白兎はチェーンソー剣の刃を敵の首筋に振り下ろした。モーターが唸りを上げると同時に、周囲に肉を斬り刻むえげつない音が響き渡る。敵が自分より大柄だったことも相俟って、白兎の全体重を乗せた斬撃は、相手の肩から胸元までを食い込むようにして斬り裂いた。
「ぐぁぁぁぁっ!!」
 悶絶する蒼玉騎士団。もはや、これ以上は彼に聞くべきことなど何もない。
「……じゃあな」
 ハンナの鋭く美しい回し蹴りが炸裂した瞬間、敵の身体はズタズタに引き裂かれながら吹き飛んだ。もう、これでどれだけの蒼玉騎士団兵を倒しただろう。気が付けば、周囲に敵の気配はなく、それは下水を抜けて地上に上がっても同じだった。
「督戦兵の方は、撤退したようだ」
「こっちで倒したのは5体? 6体? どっちにしろ、敵の小隊一個分に当たる兵士は倒したわけだし、相手も打つ手がなくなったんだろうね」
 ファルゼンの言葉に、頷くアビス。指揮官を逃がしてしまったのは残念だったが、陽動としては十分だ。ここまで兵力をズタズタにされては蒼狂紅のツグハを守るための戦力もなく、彼女が撃破されるのも、もはや時間の問題だろう。
「とりあえず、ボク達の勝ち……ってことで、いいのかな?」
「一応、ね……。リリ達の役目は、ここで終わり。後は、ツグハと接触できた人達のことを信じるしかない……」
 和の問いに、静かに答えるリリエッタ。彼女の言う通り、後は他の仲間達に任せるのが得策だ。そして、役目を果たした以上、こんな場所に長居は無用。
「さて、今回は長丁場になりそうだし、無理せずやってこう」
「賛成だ。ツグハをブッ飛ばしに行ってる連中がいるなら、退路の確保も重要な仕事だぜ」
 大きく腕を伸ばして白兎が告げれば、それに合わせてハンナも軽く拳を掌へと打ち付ける。どれだけ有利に事が運んでいようと、ここが敵地であることに変わりはないのだから。
 願わくは、この戦いが新たな未来へ続いているように。ふと、そんなことを思いながらリナが振り返れば、焦土を吹き抜ける生暖かい風が、彼女の頬を撫でつつ通り過ぎて行った。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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