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常には穏やかな表情を浮かべるセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、今は気難しげな表情で、集まったケルベロスたちを見回した。
「東京焦土地帯に、エインヘリアルの要塞が出現しました。出現した要塞は、磨羯宮『ブレイザブリク』で、第九王子サフィーロと配下の蒼玉騎士団が守護しています」
要塞出現と同時に蒼玉騎士団の尖兵が、東京焦土地帯を制圧、周辺の市街地へと略奪を仕掛けようと出陣したようだ。
この略奪部隊は、殺戮を好む『狂紅のツグハ』が指揮しており、市街地で殺戮と略奪を行おうとしている。
「市街地の殺戮をさせるわけにはいきません。ですから、蒼玉騎士団の略奪部隊を迎え撃たなくてはなりません」
強い感情をその瞳に宿し、セリカは静かに伝える。
ケルベロスたちもまた、起こりうる惨劇を幻視し眉をひそめた。
「敵は統率の取れた騎士団で数も多いですが、本国のエリートであるため、ケルベロスの実力を過少に評価しています。こちらは幾つかの小部隊に分かれて、奇襲や伏撃を繰り返すなどして敵を翻弄し、指揮官である『狂紅のツグハ』を討ち取るか撤退させれば、騎士団も撤退していくでしょう」
相手が増長し慢心しているのであれば、つけ入る隙もあろうというものだ。
一度内容を確かめてから、セリカは資料を指し示す。
「戦場についてですが、『八王子の東京焦土地帯』であり、周辺に一般人はいません。騎士団の規模は蒼玉衛士団督戦兵が50体、蒼玉衛士団一般兵が250体で、300体程度となります」
督戦兵1体が一般兵5体を率いる『小隊』が50あると考えると分かりやすいだろうか。
何か異変があった場合や敵が現れた場合は、この小隊規模で偵察を行ったり、敵の撃退を行うようだ。
「戦闘時は、別の小隊が増援として派遣される可能性が高いので、戦闘を行う場合はある程度本体から引き離して行ない、増援が来る前に決着をつけるか、撤退するのが良いでしょう。或いは、戦闘は行わずに撹乱して、多くの小隊を本体から引き離すことができれば、本陣への強襲も可能かもしれません」
戦闘するか、撹乱するか。どちらにせよ、一筋縄ではいくまい。
思案するケルベロスたちに、ヘリオライダーは地図を出して見せた。
「周辺の地形は、自然地形や廃墟となった市街地、幹線道路などとなります。廃墟となったビルや駅ビルの地下街、下水道などをうまく利用することができれば、敵を撹乱することができるでしょう」
正々堂々と正面切って戦うだけでなく、周囲の状況を利用するのもまたひとつの戦い方だろう。
どちらを選ぶにしても、あまり時間はかけられない。
「一般兵のエインヘリアルの戦闘能力は、あまり高くありません。督戦兵のエインヘリアルで、罪人エインヘリアル程度の強さがあると思われます。全力を尽くして戦えば、督戦兵1体と一般兵5体を同時に相手にして、五分五分で勝利する事が不可能ではありませんが……」
その場合は、戦闘後は戦闘不能者を抱えて撤退するしかなくなるので、よほどのことがない限り選択するべきではないだろう。
どう備えるかと思案するケルベロスたちに、セリカが説明を続ける。
「督戦兵は、傲慢で、自分は面倒なことは全て一般兵に押し付ける傾向があるので、それを利用すれば、派遣されてきた小隊をさらに各個撃破できるかもしれません。また、小隊の指揮官である督戦兵を撃破できれば、残りの一般兵は戦闘を中断して撤退しようとするので、指揮官をピンポイントで狙う戦術も有効です」
傲慢かつ怠慢とはなんとも呆れたものだ。だが、作戦を立てるのにはそのほうが都合がよい。
……もちろん、だからとこちらが油断しては元も子もないのだが。
「磨羯宮『ブレイザブリク』は、エインヘリアルのゲートを守護するために出現したのだと思われます。磨羯宮『ブレイザブリク』を攻略しない限り、エインヘリアルのゲートへの道は開かれないでしょう」
説明を終えた資料を閉じながら告げるヘリオライダーの言葉は、柔らかな声と裏腹に重い。
つまりこれは、次の一手のための行動なのだ。
「蒼玉騎士団はエインヘリアルの王子直属のエリートで、実戦の経験は少ないようです。皆さんのような歴戦のケルベロスであれば、それを利用して有利に立ち回れるでしょう。或いは、ツグハの略奪部隊を撃破できれば、ダンジョン化した磨羯宮『ブレイザブリク』の攻略を開始することもできると思います」
だから、これはとても重要な作戦なのだと念を押してから、セリカはケルベロスたちを改めて見回した。
「皆さん、どうかご無事で。よろしくお願いします」
信頼を込めて告げ、セリカは静かに頭を下げた。
参加者 | |
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ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352) |
立花・恵(翠の流星・e01060) |
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329) |
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399) |
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095) |
ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652) |
エマ・ブラン(銀髪少女・e40314) |
リリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820) |
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もはや人がいた頃の面影を見出せぬ廃墟と、衰える気配のない熱気をはらむ大地。それが、ケルベロスたちの知る八王子焦土地帯の姿だった。
この地に磨羯宮『ブレイザブリク』を出現させ、エインへリアルのゲートである天秤宮『アスガルドゲート』を守護せんとする第九王子サフィーロの目論見を砕くため、ケルベロスたちは焦土地帯を疾走する。
磨羯宮『ブレイザブリク』から東京焦土地帯を制圧・略奪せんと、『狂紅のツグハ』の指揮する蒼玉騎士団の尖兵が、いくつもの小隊を編成して出陣している。
これを止めるため、多くの仲間たちがこの地に展開し、あるグループは伏撃を狙い周囲の廃墟などに潜伏して奇襲をかける形で襲撃し全体の半数もの小隊を引きつけ、あるグループは引きつけきれなかった小隊を自らを囮としてなお引きつけ、そして。
「とうとうエインヘリアルの本拠地もお目見え……ってか」
ブレイザブリクを眺め、立花・恵(翠の流星・e01060)が呟く。
すべての作戦開始の信号弾が打ち上げられてからおよそ20分が経過している。すでにあちこちで戦闘が行われ、敵意と凶意、或いは覚悟と決意が空気に混じっている。
ひりつくような風を受け、バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)は目を細めた。
「自分たちからゲートへの道を出してくるなんて、追い詰められての攻勢か、他に何か考えがあるのか……」
だが、今はそのようなことに気を取られる時間ではなかった。
「ひとまず、眼の前の事に専念しましょう」
気を引き締める彼女の言葉に、白い肢体を今はケルベロスコートに包んだソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)が首肯する。
この場にいるケルベロスたちは皆一様にケルベロスコートを着込み、揃いの帽子をかぶっている。そして、皆ぴりとした緊張をまとっていた。
事前に打ち合わせしていたことを再度確認しつつ、周囲の状況を確かめる。
用意した資料と現状にそう違いはないようだ。あるとすれば、
「ザルバルクいないねー」
もはや風景のようにそこにいる存在の不在に、マイペースな感想を述べるエマ・ブラン(銀髪少女・e40314)。
「いたらいたで邪魔なんだけど、いなくなるとそれはそれで寂しいような」
物騒な意見の賛否は仲間たちの複雑な表情が表していたが、同時にそれは彼女たちの剣呑な緊張がほどよくほぐれた様子でもあった。
そんなケルベロスたちの視界の遠く、およそ人ならぬ巨躯の一団の移動する様子が見えた。あれが、第九王子サフィーロが指揮下に置く蒼玉騎士団の、略奪部隊の小隊なのだろう。
これ以上他に気を取られ戦力が減る様子はない。いや、或いはどこかの戦闘に勝利するなどして戻ってくる小隊が出てくる可能性すらあった。
であれば、もうここで動くしかない。
ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)は頭に乗せた帽子をかぶりなおし、彼女のテレビウム、シュテルネがそっと寄り添う。
「何としても殺戮は防がないとね」
長い髪を背に払ってバジルが口元を歪め、きりっと主を見上げるビーストに頷き敵を見据えたベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)の端正な顔に地獄の炎が走る。
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)は息を吐いてから、今は彼女のビハインドとして共にある双子の姉、イリスに微笑んだ。
「さて、噂の本国軍の実力はいかに、だよ」
皆を元気づけるように言って笑うエマの言葉にリリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820)がびくりとし、けれど、と思う。
できるなら、戦いは勝てる相手としかしたくない。
だけど、先の戦いで交流したアイスエルフたちのためにも勝たなければ。
そう普段より気合が入っている模様の彼女につられて、皆も気合を入れて得物へと手をかけた。
●
敵はまだこちらに気付いていない。そのほうが、不意をつくだけでなく注意を引きつけられるだろう。
ツグハを討たせるために、可能な限り直接戦闘は行わず、可能な限り多くの敵を引きつける。そのために。
「ド派手に先制してやろう……!」
敵に聞こえぬよう低く押さえた声で吼え、ソロは自身の周囲に展開したミサイルを敵兵めがけて撃ち放つ。エインへリアルを襲った爆撃は、周辺に散っている廃塵もろとも巻き込み煙が上がる。
間隙おかず銃弾に闘気を込め、恵が高く跳躍した。
「彗星の光を……刻み込め!」
ガガガガガッ!!
獅子吼と共に連続射撃。放たれた弾丸達は彗星のような輝きを放ちながら周囲に降り注ぎ、敵の自由を奪おうとする。
驟雨さながらの弾丸をかいくぐり、立ち上がる煙のなかから現れた一般兵が、襲撃者に向けて素早く放つ一撃は雷閃の如き速さ。
凶牙の届く最直前、ケルベロスコートの裾を翻しローレライがその身を滑り込ませて攻撃を受け止めた。
彼女の前に出て羽ばたくシロハとリリベルの癒やしを受け、礼を言いながら、ダメージのみならず攻撃を受けた衝動に、演技でなく畏怖を浮かべる。
(「久しぶりの戦場は、やっぱりドキドキするし」)
珍しく緊張しているわ。
まして相手は強敵である。敵との距離をはかりながら自身を落ち着かせようと試みた。
(「敵には慢心させるけれど、私が慢心しないようにしなきゃ」)
深呼吸してから地面を強く蹴る。
虹をまといしなやかな脚から繰り出された蹴撃は一般兵を狙うもかわされ、シュテルネがフラッシュを放ち敵の注意を引く間に下がって間合いを取った。
エインへリアルの小隊はケルベロスたちを攻撃目標として追跡しはじめる。ケルベロスたちもその場に留まろうとせず、次の行動のために移動を始めた。
全体の状況を把握して、エマは指示を出しつつ敵に識別されないよう仲間たちのなかに入り混じり、督戦兵の位置を見極める。
走りながら生成された細長い筒状の発射器……要するにロケットランチャーを構え、わずかに速度を落として叫んぶ。
「ファイアー!」
射出された弾丸の軌跡を忌々しげな表情で睨んだ督戦兵が一閃のもと叩き落とし、鋭くなにか声が飛んだのを命令と取ったバジルは地面を踏みしめ影の弾丸を放つ。
「さて、お仕事お仕事……っと」
軽快に口にしながら、ロベリアが精神を集中させ、解放するとともにグラビティが爆発する。見えない位置からの攻撃を受けた一般兵が叫びを上げ、少し離れた位置で指揮する督戦兵は不甲斐ない部下たちを叱責した。
ベルベットの掲げた魔法陣型ホログラムが色彩を変え、攻撃を仕掛けようとしたエインへリアルに、飛びかかるビーストと同時に怒れる女神の幻影が襲いかかる。
虚をつかれた敵はぐっとのけぞり、しかしかろうじて踏みとどまった。
「そんな! ワタシの攻撃が利かないなんて!」
焦りを見せて後退するが、決して無防備に背をさらさず敵の動向に注意しながらあえて追われる。
かよわい女子を演じて油断と追撃を誘う彼女の作戦は、女子のせいかはともかく敵を引きつけられていた。
「我ら美少女軍団にかかれば敵の引きつけなんてお茶の子さいさいです♪」
当然の如く恵も美少女にカウントしているベルベットの言葉に一同は同意しかけ、
「お、俺はだから、男だってば……!」
端整な容姿ゆえに女性と間違えられることが多い恵の抗議の声が上がった。
が、誘引の為には我慢我慢。仲間の茶化しにも、我慢我慢。
もっとも敵は、相手が女子供だからと油断したり手を抜いたりしてはくれない。話している間にも。
ぞんっ! と一閃がケルベロスたちに向けられ、かろうじて回避し身を翻した。
「くっ、引くぞ!」
「つ、強いわね! ここは戦略的撤退よー!」
いかにも強敵から逃げようとするそぶりで恵とローレライが叫ぶ。……そこはかとない棒読みで。
仲間たちも、いささかわざとらしい演技をまじえて逃げ回るように見せる。シュテルネも、わたわたしながらついてきて。
「さて……これで少しでも多く釣れると良いんだけど」
注意しながらロベリアは敵がちゃんとついてきているか確認し、
「ふふっ、付いてきたね。我ながらいい演技」
確かに成功していると見てこっそり微笑む彼女に、イリスがやや心配そうな表情になる。
「エリートが聞いて呆れるな。この程度ならシャイターンやオークの豚頭のほうがよっぽど手強いぞ」
なおも誘うために、挑発を交えソロがキャハハと笑ってみせる。
だが、それでは足りない。まだ完全にはその役割を果たせない。次の小隊を誘い出すには、この程度では足りないのだ。
であれば、どうする? 攻撃しても足りない、挑発しても足りない。焦りがケルベロスたちに広がる。
戦闘は避けるべき、戦闘になれば撤退すると決めてあったが、逃げ回らずに戦うしかない。
ツグハを討つためのチームを突入させるためには、ひとつの小隊を倒してから次の小隊を狙う時間はない。つまり、同時に相手をしなければ。
「やろう」
じりじりと距離を詰めようとするエインへリアルを見据えながら、銀髪の少女が笑う。
視線が集中しているのは気付いていた。このエマ・ブランという少女がこのケルベロスたちの指揮官だと、エインへリアルたちは判断したのだ。
このまま2チームを同時に相手すれば、逃げることもままならなくなるだろう。このままでは。
ひとりでも欠ければ勝ち目はない。だから、ひとり以上戦力を割くことはできない。
明るく笑う彼女には、悲壮も自己犠牲もない。ならばその覚悟を無下にしてはならない。
「……気をつけて!」
駆けて遠ざかる仲間たちの声を背に、エマは彼女たちとエインへリアルたちを遮るように立った。
相手はひとり。窮して血迷ったかと督戦兵が嘲笑し、ただただ一方的な蹂躙を指示した。思いどおりになってやるもんか。
敵の放つ、鋭く正確に狙った一撃をぎりぎりで受け流し、その隙を狙った攻撃をかわす。
次の手を打たれるより早く砲口を向け、村雨の如き勢いで弾丸をばら撒き牽制後、手榴弾のピンを抜く。
無論、ただの手榴弾ではない。爆発すれば絶対零度の冷気が拡散する。
「これでも食らえ、なんだよ!」
気合を入れて思いきり投擲した手榴弾を、攻撃を警戒していた一般兵が落とす。衝撃で破断し吹き出た冷気は熱気と混じり煙幕となった。
「さすがエリート様の部隊、教科書通りの綺麗な動きだね」
……だから避けやすいんだけど。
しかし、避けるだけでは何の解決にもならない。
みんなは他の敵を引きつけられたかな。ううん、きっと大丈夫。
「じゃあわたしも、頑張らないとね」
ささやき、祈り、念じる。
「あなたは元気になるでしょう、多分」
リリベルの詠唱とともに柔らかな光に包まれて傷が癒され、いささかダメージを負いすぎていたローレライは礼を言いながら体勢を整える。
機械兵装を手にソロが疾駆する。得物をしっかりと掴み地を蹴る様は、愛らしくも素早く力強いウサギの如く。
その一突きは如何なる障害も穿ち抜き、その一振りはあらゆる悪を断ち切る。攻撃を仕掛けようとするエインヘリアルたちに向けて振り抜かれた一閃は、その巨躯をひと薙ぎに断ち斬る。
切っ先の届かない位置にいた1体が隙をついて繰り出した攻撃を蝶舞うようにかわし、彼女のそばから飛び出したシュテルネの手にする凶器が敵へと追い討ちをかけた。
こちらの攻撃がまったく当たらないわけではない。敵の一撃が重すぎるわけでもない。だが致命傷を与えられず、力を交えるにつれ軽くはないダメージにじりじりと体力が削られていく。
ずあっ! っと鋭く放たれた一撃を、ベルベットが遮るように正面へ滑り込みハルバードを掲げて受け止めた。
「……っう!」
「大丈夫!?」
武器を通し伝わる衝撃を受け思わず声をこぼしてたたらを踏む彼女に、バジルが治療を施す。
「あまり無理はしないでね」
癒しながらいたわりの言葉をかけるが、無理をしないでいられるはずもない。
次の一手を繰り出そうとするエインヘリアルに向け、ふたりを護るようにローレライの放った矢は、かわそうとする敵を追尾してその巨躯を射抜く。
「イリス、防御お願い!」
叫んだロベリアが巨大なハンマーを手に高く跳躍する。狙いすました強打はまっすぐに振り下ろされ、悲鳴ごとエインヘリアルを地面に打ちつけた。
優勢は崩されていないものの、予想以上に抵抗するケルベロスたちに焦る督戦兵の号令が飛び、包囲しようと敵の動きが変わるのを見て取った恵の手が素早く天をさす。
その先にある無数のきらめきは無数の刀剣。気付いて早急に包囲を狭めようとするエインヘリアルたちに向けて、一刀のごとく掲げた手を閃かせると同時に、解き放たれた刃が斬り刻み包囲を崩す。
「ここは一気に駆けぬけましょう! はぁぁあっ!」
裂帛の声を上げ、ベルベットの端整な顔が炎に包まれた。かつて怨讐であり、大切な仲間と乗り越えた炎に。
「……女の子舐めんなこんにゃろーっ!」
残酷な炎を今は力に変え、迫り来る敵に向けて超至近でグラビティごと叩きつける。
間隙なくビーストに引っ掛かれてひるんだ隙に、なおも攻撃を放とうとしたその時。
●
不意にエインヘリアルたちは、攻撃を受けないようケルベロスたちに注意を払いながら間合いを広げ、充分に距離を取ってからようやく背を向けた。
戦闘を継続する意志もこの場に留まろうとする様子も伺えず、素早く撤退していく背中に恵が呆として呟く。
「ツグハを倒したのか……」
そうでなければ、蒼玉騎士団の尖兵たちはケルベロスたちを制圧していたことだろう。
「みんなお疲れ様」
バジルが皆を労い、負傷の激しい者から治癒を施していく。リリベルも彼女に従い治癒をしようとし、その足元でシロハにぐっと頭を押し付けられた。
「エマは?」
鮮やかな笑顔もはつらつとした声もないことに気付いたのはソロだった。
彼女たちとは別の小隊をひとりで相手にしていた、あの少女の姿はどこにもない。
「まさか……」
追いかけていってしまったのか。ひとりで。
じりじりとした焦燥感がケルベロスたちの間に広がる。しかし、今更彼女を追い探すこともできない。
燃えたぎる地獄がその表情を隠すベルベットの頬に涙のように炎が伝うのを見て、ビーストが心配そうに寄り添う。
「大丈夫よ」
シュテルネを抱きローレライが告げる。
「彼女は強い人だもの。だから、今は引きましょう」
どちらにせよこのままでは彼女を探すこともできない。一度態勢を立て直さなければ。
イリスに肩を抱かれ、ロベリアは頷いて仲間たちに笑った。
「そうだね。みんなで笑って迎えに行こう」
きっと彼女も笑って帰ってくるだろうから。
そして、次に進むために。
作者:鈴木リョウジ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:エマ・ブラン(ガジェットで吹き飛ばせ・e40314) |
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種類:
公開:2019年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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