磨羯宮決戦~おごりたかぶったえじたち

作者:質種剰

●焦土地帯の新たな危機
「東京焦土地帯に、エインヘリアルの要塞が出現したでありますよ」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が慌てた様子で説明を始めた。
 出現した要塞は、磨羯宮『ブレイザブリク』と呼ばれるもので、第九王子サフィーロと配下の蒼玉騎士団が守護してい流という。
「しかも、要塞出現と同時に蒼玉騎士団の尖兵が東京焦土地帯を制圧、周辺の市街地へ略奪を仕掛けるべく出陣したであります」
 この略奪部隊は、殺戮を好む『蒼狂紅のツグハ』が指揮している為、市街地で殺戮と略奪が行われるのは火を見るより明らか。
「市街地を殺戮の舞台にするわけにはいかないであります。ですから皆さんには蒼玉騎士団の略奪部隊を迎え撃っていただきます」
 敵は、統率の取れた騎士団で数も多いが、何分本国のエリートであるせいか、ケルベロスの実力を過少に評価しているところがある。
「幾つかの小部隊に分かれて、奇襲や伏撃を繰り返すなどして敵を翻弄、指揮官である『狂紅のツグハ』を討ち取るか撤退させられれば、騎士団も一緒に撤退するでありましょう」
 かけらはそう請け負った。
「さて、皆さんに迎え撃っていただく騎士団の規模でありますが、蒼玉衛士団督戦兵が50体、蒼玉衛士団一般兵が250体で、計300体程度であります」
 督戦兵1体が一般兵5体を率いる『小隊』に換算すれば50小隊あるといえる。
 何か異変があった場合や、敵が現れた場合、奴らはこの小隊規模で偵察を行ったり、敵の撃退を行うらしい。
「さらに戦闘時ともなれば、別の小隊が増援として派遣される可能性が高いでありますから、戦闘を行う場合はある程度本体から引き離して行い、増援が来る前に決着をつけるか、撤退するのがお薦めであります」
 また、戦闘は行わずにかく乱へ集中して、多くの小隊を本隊から引き離せれば、本陣へ強襲をかける事もできるかもしれない。
「次に戦闘能力についてでありますが、正直に申し上げて、蒼玉衛士団一般兵エインヘリアルの戦闘能力は、あまり高くありません」
 督戦兵のエインヘリアルにして、罪人エインヘリアルと同程度の強さと考えるとわかりやすいかもしれない。
「左様でありますね……督戦兵1体と一般兵5体を相手に皆さんが死力を尽くして戦って、良くて五分五分で勝てるかも……といったところであります。ですが、戦闘後は戦闘不能者を抱えて撤退するしかなくなるでありますから、充分にお気をつけくださいませ」
 ただ、傲慢な性格の督戦兵は、面倒事を全て一般兵へ押しつける傾向があるので、それを利用すれば、派遣されてきた小隊をさらに各個撃破できるかもしれない。
 また、小隊の指揮官である督戦兵を撃破できれば、残りの一般兵は戦闘を中断して撤退しようとする為、督戦兵をピンポイントで狙う戦術も有効だろう。
「磨羯宮『ブレイザブリク』は、エインヘリアルのゲートを守護する為に出現したのだと思われます。それ故、磨羯宮『ブレイザブリク』を攻略しない限り、エインヘリアルのゲートへの道は開かれないでありましょうね……」
 かけらはそんな推測を述べて説明を締め括ってから、
「蒼玉騎士団はエインヘリアルの王子直属のエリートで、実戦の経験は少ないようであります。歴戦のケルベロスでいらっしゃる皆さんなら、きっと相手の詰めの甘さを利用して有利に立ち回れるでありましょう。頑張ってくださいね!」
 と、彼女なりに皆を激励した。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
ギメリア・カミマミタ(バーチャル動画投稿初心者・e04671)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
風魔・遊鬼(鐵風鎖・e08021)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
スノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)

■リプレイ


 八王子駅周辺部。
 ひと気が絶えて久しい廃墟ばかりの市街地に、この日、派手な信号弾や狼煙があちこちから上がった。
 8人を含む、蒼玉衛士団の撹乱役を担った複数班が、兵を誘き寄せる為の作戦を開始したのだ。
 蒼玉衛士団一般兵たちが、わらわらと音の出どころを探して彷徨う中、蒼玉衛士団督戦兵の姿は見えない。恐らく部下に捜索を任せて自分だけ楽をしているのだろう。
「一般人と猫達への被害は未然に防がねばならぬ。騎士道精神無き騎士団は必ずや倒してみせよう!」
 と、青い発煙筒や白い信号弾の設置に奔走していたのは、ギメリア・カミマミタ(バーチャル動画投稿初心者・e04671)。今は打ち上がった信号弾へ一般兵が誘き寄せられるのを、迷彩服姿で物陰へ潜み待ち伏せている。
 殊更猫と平和を愛し、猫をデウスエクスの魔の手から守るべく心血を注いでいるドラゴニアンの青年だ。
「微力を尽くさせて頂くッ!」
 狙い通り、一般兵の1人が白い信号弾の発射地点までやってきたのへ合わせて、『砲撃形態』に変形させたドラゴニックハンマーを振り抜くギメリア。
「チッ、罠か!」
 予期せぬタイミングで撃ち込まれた竜砲弾に一般兵が慄くと、
「フハハ! 弱い、弱すぎるぞ!」
 ギメリアはここぞとばかりに奴を嘲笑し、意図を悟られない程度に後退してみせた。
 ヒメにゃんも主の射撃に合わせて尻尾の輪っかを飛ばし、一般兵の体力を少しでも削ろうと頑張っている。
「エインヘリアルもいい加減しつこいデスネ。ここいらでガツンと削って少しずつヴァルハラを攻略してイキマショー」
 スノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)は、仲間たちへ小声で発破をかけると共に、他班へ負けじと撹乱用の工作に勤しんでいた。
 パンクな堕天使を自称して、翼を真っ黒に染色したり大型のギターケースを常に持ち歩くオラトリオの少女。
「人の家に勝手に押しかけて強盗しようぜヒャッハーなんてそうはさせないヨー」
 あちこちへ設置したダミーの発煙装置の周辺をキープアウトテープで物々しく封鎖し、如何にも本物っぽく演出するスノードロップ。
「逆にこっちがヒャッハーしてやるネ―」
 それが終われば、手負いの蒼玉衛士団一般兵へ向かって『魔刀「血染めの白雪」』をバサッと振り抜いた。
「うぐっ……」
 紅い刀身に憑依した無数の霊体が、斬りつけた一般兵へ乗り移り、意識を汚染していく。
「何のこれしき……上官の一撃に比べたら!」
 何故味方である筈の上官から一撃を貰っているのかは知らないが、一般兵は剣に宿した山羊のオーラを飛ばして反撃してきた。
「……今までの流れをぶった切るような形で出てきたわね、このエインヘリアルたち……」
 と、実に正直な本音を洩らして、蒼玉衛士団一般兵を見やるのは、円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)。
 円らに光る金の瞳と人懐っこそうな表情が魅力的な、黒猫のウェアライダーの少女だ。
 人当たりも良く一見優しそうに思えるも、気を許したオルトロスのアロンの扱いだけは、たまに酷いのだとか。
 一般兵が交戦中と判れば、督戦兵を始めとする同じ小隊の味方が駆けつけるのは必定。
 だから奴らが援護にきた時、自分たちは既に一般兵を仕留めて別の場所へ移動しているのが撹乱としては理想だろう。
「八王子といっても広いのだから、限定的な効果があると信じたいわね」
 そう考えたキアリは魔導装甲から特殊なバイオガスを噴き出し、他の兵が奇襲された一般兵へ気づくまでの時間稼ぎを試みた。
「ザルバルク共は一体どうなっているのかしら? 周囲には居ないから幸いだけど……」
 キアリが首を傾げる傍ら、アロンは主の意思に忠実に、咥えた神器の剣で一般兵を斬りつけている。
「虐殺に略奪、ね……そういう相手だと自分の立ち位置や行動について悩む必要は無いからそういう意味では気楽だな」
 日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)は珍しくヘリオンから墜落していなかった。
 隠密気流で気配を殺しながら双眼鏡を手に、衛士団の動向を探っていたのだ。
「……さて、自称騎士団な野盗集団には速やかにお引き取り願うか、息を引き取って頂くとしますか」
 こちらの居場所を無闇に悟られるような真似はすまいと、派手に蹴落とされるのを自重しての静かな降下と相成ったが、かといって、小檻のおっぱいへ飛び込まなかった訳ではない。
「非戦闘員を虐殺して略奪しようとする騎士団を僭称する野盗集団とは貴方がたか?」
 ギメリアやスノードロップへ続けと、一般兵の前へ飛び出す蒼眞。
「雑魚が言ってくれるじゃないか」
 鼻で笑う一般兵だが、
「う~に~! うーにー!」
 突如、動くプリンに似た謎の存在『うにうに』が頭上から雪の如く降り注げば、
「何だ!?」
 流石に驚いたのか、なすすべもなくうにうにたちの下敷きになって押し潰されていた。
(「焦土地帯とはいっても、未だ火の手があがっているような事はなくて幸いしましたね」)
 風魔・遊鬼(鐵風鎖・e08021)は、八王子のもはや無味乾燥に近い光景を前に、戦火が残っていない事へ安堵していた。
 元は身寄りのない孤児だったが、育った里を螺旋忍軍に滅ぼされ、義父か身を呈して守ってくれたお陰で、命からがら逃げ延びたという物静かな青年。
 その後、螺旋忍者の腕を移殖されてケルベロスの力に目覚めたそうな。
(「信号弾や発煙筒へ順調に引っかかってくれているようですし、鉢合わせするより先に奇襲成功……幸先良い滑り出しですね」)
 この機を逃すまいと氷結輪を携えて一般兵へ肉迫する遊鬼。
 だが、今の彼にできるのは、空の霊力宿りし刃で一般兵の傷を正確に斬り広げるのみ。予定とは違う緒戦の運びとなった。
「うーん、なかなかの数。ま、このまま上手くばらけてくれたら何とかなりそうね」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)も、ずっと身に纏っていた気流を収めて戦闘態勢に入る。
「ここに出てきたのって、何かわけがあるのかしら? いくら倒してもいっぱい沸いていたザルバルクもいなくなってるし……」
 磨羯宮がどうしてよりによって八王子に出現したのかと疑問に思いつつ、かぐらは小型治療無人機の群れを操って、前衛陣を警護させた。
 さて。
「普段はひたすら手早く殲滅すんのが有り難がられる中、敢えてお仲間同士殴り合って貰う」
 伏見・万(万獣の檻・e02075)は、目立たない服装に身を包み足音のしにくい靴を履いて、敵から気づかれないよう息を顰めていた。
 人相の悪い見た目に違わず、粗暴でテキトーな性格をした黒い狼のウェアライダー。
 もっとも、今回の作戦に対する万の入念な下準備——予め八王子の地理を調べて利用できそうな地形や建造物、予測した敵軍の進行ルートの情報を皆へ伝えた辺りは、やはり人命がかかっている為か、いつにない真面目さを発揮している。
 他の撹乱班と同様に8人が八王子駅を潜伏地点へ決められたのも、万の情報のお陰だろう。
「そんな搦め手も撹乱となりゃ歓迎されるわけだ。面白いじゃねぇか」
 万はギリギリと妖精弓を引き絞るや、エネルギーの矢で一般兵の脇腹を貫き、深い催眠状態へ陥れた。
「久方振りの抱擁が世界を動かす戦いとは。我が仔も我が仔も実に傲慢で強欲な戦士だ」
 ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)は、難解な言い回しに理解をより遠ざける独自の認識を乗せて、蒼玉衛士団の愚行を嘆いてみせた。
 言葉の端々から察せられるように、総ての生命を自らの仔と認識している模様。
 とはいえ、その中でもデウスエクスは彼女曰くお仕置きする対象らしい。
 更に突き詰めれば抱擁すべき、捕食すべき対象であり、
(「胎内に還れば皆、快楽の極みへと到達するのだ」)
 そんな他者からは窺い知れない、母体回帰にも似た信念を持っているようだ。
「ならば私は常の如く番犬として『貌』を晒すのみ」
 ユグゴトは躍りかかって『病的かつ頽廃的な禍々しい混沌とした痛みを齎す、形容し難い鉄塊剣のような』を力任せに振り下ろす。
「がっ……!」
 刀身を覆う地獄の炎が、一般兵の全身鎧に叩きつけられた瞬間、その外板ごと奴の身体を燃え上がらせた。
「俺はまだ……やれ……」
 炎の中で一般兵が絶命したのを確認するや、8人はすぐにその場を離れた。


 他の兵が駆けつける前に別の信号弾付近へ潜伏した8人は、次の獲物を待った。
 一般兵はすぐに信号弾を調べにきたが、さっきの1人に比べて挙動に焦りが滲んでいる。
 恐らくは仲間の遺骸を目の当たりにして、自分たちが侮っていたケルベロスにやられた事が信じられず、驚いているのだろう。
「貴様の相手は我々だ。蹂躙を成せるならば為すが好い」
 ユグゴトは、ひとたび視界と耳に入れれば最後、地の涯まで追いかけてくると思わせる狂気を一般兵へ刻みつける。
「……!?」
 謂わば見えてる狂気なる代物はやはりデウスエクスでも恐ろしいのか、一般兵は声もなくむしろ病的に震え上がった。
「戦う術を持たない相手にしか強気に出られないとは中々に勇敢な方々だな」
 口を動かすだけなら無料だからと、安っぽい挑発を乱発するのは蒼眞。
 その傍ら、空の霊力帯びた斬霊刀を閃かせ、一般兵の傷を寸分の狂いなく抉るのも忘れない。
「シェブルを殺ったのは貴様らだな! 首を持ち帰って手向けにしてやる!」
 一般兵はいきり立って憎悪も露わに、光り輝く呪力に覆われた剣を振り下ろす。
「危ないっ!」
 すかさずかぐらがスノードロップの前へ身体を滑り込ませ、代わりに肩を斬られた。
「助かりマシタ。サア、気合を入れて斬るkillシマショ」
 反撃とばかりに魔刀へ呪詛を載せて斬りかかるスノードロップ。
 ズバッと一般兵の血肉を裂きながら狂おしくも美しい軌跡を描いた。
(「鬼の脅威は爪だけに非ず」)
 持ち味の高速機動を活かして一般兵へ最接近するのは遊鬼。
 忍び刀で斬りつけるのへ合わせて複数の斬撃を放ち、奴の刀傷を幾重にも切り刻んだ。
「さすがに連戦はキツいわね……ドローン起動。集中モードで展開」
 かぐらはヒールドローンCを自身の周囲へ集中展開させて、負傷と疲労が蓄積していた体力を大幅に回復させた。
「さァ、刻んでやるぜェ!」
 己が身の内に潜む獣の群れを、幻影として喚び出すのは万。
 放たれた獣たちは一般兵の傷を見逃す事なく、その爪で容赦なく切り裂き掻き毟った。
「百合咲く舞台、修羅を包む華の芳珠。刃を種に血を吸い上げてほころぶ白の……Ah――――」
 キアリは、かつて倒した歌詠の蘭赦の技を自分なりにアレンジして歌い上げる。
 響き渡る和ロック調の歌を媒介に波紋と漆黒の空間を展開、白い花弁を雪のように舞い散らせて、前衛陣の傷を癒した。
 アロンは一所懸命地獄の瘴気を噴射して、一般兵を毒に冒していた。
「はぁ……ヒメにゃんかわいいよ!!1」
 戦闘中でも変わらず愛くるしいヒメにゃんを時折チラ見しては、精神を落ち着かせているギメリア。決してシャウトしているわけではない。
「これが、俺とヒメにゃんのラブラブコンビネーション攻撃だッ!」
 そして一般兵へは容赦なく、ローラーダッシュの摩擦で炎を纏ったエアシューズによる激しい蹴りを浴びせ、トドメを刺した。
 ちなみに、ヒメにゃんはギメリアの妄言など全く相手にせずスルーしている。


 一般兵を倒してすぐさまズラかり、別の場所へ移動する。
 このルーチンにも慣れてきた8人だが、5人目の一般兵を倒した直後は流石に慌てざるを得なかった。
 督戦兵が5人目がやられた事へ気づく前にこちらから奴を見つけ出して戦闘へ持ち込まないと、さっさと撤退されてしまうからだ。
 だが、督戦兵は一般兵ほど真剣にケルベロス捜索へあたっていなかったせいか、大して時間をかけずに見つける事ができた。
「チッ、足止めすら碌にできない屑どもが……!」
 そして、一般兵のうち3人目から5人目の戦闘意欲かあからさまに低かったのへも、督戦兵の愚痴を聞けば妙に納得がいった。
 恐らく督戦兵は3人の一般兵へ先の2人を捜させている最中でも、散々に2人の事を悪し様に扱き下ろして、一般兵の忠誠心ややる気を失わせていたのだろう。
「貴様の強さを我々に魅せ給え。驕りに驕った連中など、嘲笑ってやろう。母からの教えも守れない愚か者にはお似合いの末路」
 と、『病的かつ頽廃的な禍々しい混沌とした痛みを齎す、形容し難い鉄塊剣のような』に混沌を纏わせて斬りつけるのはユグゴト。
 並の重さでない刀身が督戦兵の肩へ減り込み、鎧ごと身も骨も砕いて叩きのめした。
「王族直属の騎士団がこの有様とは……まあシャイターン達に選定された新参騎士なのかもしれないけど、エインヘリアルは全員が勇者とは限らないのか」
 蒼眞はついつい生来の気質か鋭いツッコミを混ぜつつ、半透明の『御業』をけしかけた。
 『御業』が全身で督戦兵を包むように鷲掴みすると、そのままギリギリと力をこめて握り潰していく。
 遊鬼は変わらず風魔式斬撃術『双鬼』と絶空斬を使い分けて、蒼玉衛士団督戦兵の体力を着実に削っている。
「とっとと終わらして酒でもかっ喰らうか」
 釘を生やしたエクスカリバールをぶん回して、督戦兵の頭にフルスイングするのは万。
「さてと、ケルベロスの力を知ってもらいましょうか」
 かぐらは力一杯ドラゴニックハンマーを振り下ろし、しかと狙い澄ました方向へ竜砲弾を撃ち出す。
 督戦兵の両足が具足ごと吹っ飛び、激痛を与えると同時に動きをも鈍らせた。
「磨羯宮ブレイザブリク……ウニ……?」
 満月に似たエネルギー光球を遊鬼へ向かって投げつけてから、ふと遠くに見えるブレイザブリクのトゲトゲした外観が気になるのはキアリ。
「磨羯宮なのに山羊の要素がまるで無いわね」
 アロンは神器の瞳で督戦兵を睨みつけ、一切触れる事なく燃え上がらせている。
「世界中の生きとし生ける愛すべき猫達よ、俺に平和を護る力を与えてくれ! 聖天使猫龍撃・改!」
 ギメリアは『絶対零度の炎を纏った猫型の波動』宿りしエアシューズを投げつけ、凍れる炎による凍傷を督戦兵へお見舞いした。
 ヒメにゃんも督戦兵の顔へバリバリと爪を立てて引っ掻いている。
「さア、アタシと一緒に踊りマショ!」
 一度抜き放たれると生き血を浴びるだけでは飽き足らず生命を吸い尽くすまで収まらないという魔剣の逸話を基に、スノードロップは鹵獲魔術を応用して魔剣を創り出す。
 召喚された魔剣はまるでひとりでに弧を描き、督戦兵を幾度も斬りつけながら美しくも残酷な円舞をスノードロップに舞わせた。
「……こんな目に遭うのも全部、無能な部下のせいだ……」
 最期まで憎らしい督戦兵である。
 その後、蒼玉衛士団一般兵たちが慌てて撤退を始めるまで、数分とかからなかった。
 最初の信号弾の発射から数えて、32分後の事である。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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