城ヶ島制圧戦～略取の腕

■リプレイ

●いざすすめ
　自分たちのチームの担当するオークチャンピオンの居ると予測された宿方面へと、水陸両用車は波をかき分け水面を走る。
　同じ魚市場でも、他チームとは上陸予定場所が違う。
　他チームと別れてからさほど時間が経った訳でもないが、近づきはじめた戦場を前に緊張を隠せない様子で月代・風花（雲心月性の巫・e18527）は大きく息を吸った。
（「今回みたいな大規模な作戦は始めてで、ちょっと緊張するなー…… 」）
　楽しみにしていた初めての水陸両用車も、胸を衝く緊張の前には霞んでしまったようだ。
　風花が緊張を解そうと車内に目線を戻すと、月見里・カヤ（神秘捕獲巫女・e00927）が関節保護の為に包帯を手に巻き直していた。
　その横で包帯の予備をはちまき代わりに巻かれたみかん色のボクスドラゴン……。
　ミーガンが、我もやるのだ！　我もやるのだ！　大切な作戦なのだ！　と言わんばかりに、鼻息荒くぴょこぴょこと体を揺り動かして張り切っていた。
　ミーガンのかわいいとしか言いようのない、張り切りきった動きに思わず笑みを浮かべる風花。
　少しだけ解れた緊張を吹き飛ばすように、やるぞー！　と腕を突き上げた。
　樋口・琴（復讐誓う未亡人・e00905）は穏やかな様子で目的地を見据える。
「城ヶ島制圧戦の成否は、私達が如何に橋頭保を確保できるかに大きく左右されるでしょう、負けは許されません」
「他チームの皆様が無事に竜の下へ向かえる様に、私達がここを突破しなければいけませんね」
　蒼龍院・静葉（蒼月の護光を導く白狐・e00229）が頷き、同意する。目線は張り切るミーガンを追いかけがちだったが、敵に向かう気持ちは同じだ。でもかわいいものは大好き。
「ボク達が成功しなければ、この作戦は全部台無しになっちゃう。責任重大、だね。……それに、奴らは……」
　ティクリコティク・キロ（リトルガンメイジ・e00128）は言い澱み、一瞬だけ魚市場を見据える瞳の奥に憎悪の色を燻らせたが、首を左右に振った。
「……ううん、なんでもないです。よし、やろう。皆さん、行きましょう！」
　跳ねていたミーガンを捕まえて、胸に抱きしめカヤも仲間の声に応える形で頷く。
「これが大切な戦いのはじめ。なら全力を尽くして後に繋げるまでよ。ね、頑張りましょうね、ミーガン」
　水陸両用車が、一気に船着場に乗り上げる。
　並ぶトラックや、コンテナはそのままなのに人が居なくなってしまった魚市場。
　海の匂いに、侵略当時から放置されているのであろう魚の腐臭が混じっている。
　九石・纏（鉄屑人形・e00167）は、敵地と化した土地に第一歩を踏み出す。
「さ、平穏なる日常へ近づく為に、この戦いも頑張るとしようか」
　アームドフォートを展開して、警戒しながら周りを見渡すが敵影は今はまだ無い。
　しかし、直ぐに見つけはするだろう。今日はこの市街地の制圧に来たのだから。
「本隊の皆が安心して戦う為にも先発の私達がしっかり成功させないとね！」
「素早い市街地の制圧が私達の任務です。是が非でも成功させましょう」
　風花が斬霊刀の柄を握りしめて気を引き締め直すと、神無月・玲那（執行者・e02624）も同意を示し頷く。
　この地を取り戻す為に、まずは橋頭堡を築く。
　その気持ちは皆一つ。ケルベロスたちは確かな決意を胸に歩み始めた。

●たたかいのはじまり
「はッ！」
　ガントレットを纏ったソーヤ・ローナ（風惑・e03286）の拳が、オークの顎を正確に打ち抜くと、べしゃりとその巨体が地に伏せた。
　宿へと向かう道すがら、ぽつぽつと出会うオーク達を倒しながらケルベロス達は進む。
　ソーヤはこの町にくるのは二回目だ。
　一回目は生存者を探しに。
　そして二回目の今回は、オーク達を完全に排除するためだ。
　歩む道のりは、城ヶ崎の人々の生活が感じられる市街地だ。
　助けられなかった人々の生活を感じられる市街地だ。
　頭は冷えきっている。でも、心は何よりも熱い。倒れたオークにとどめを刺し、ソーヤは見下ろす。
「……倒します。あなた達がどんな思いを持っていても、容赦はしません」
「ブギュ、格好良い限りじゃのう」
　鼻と喉を同時に鳴らしたような妙な音が響く。
　音を聞きつけてやってきたのであろうか。巨体のオークが３体。
　それよりも二回りは脂肪を蓄えたであろうオークチャンピオンが、先ほど倒したばかりのオークの亡骸を蹴り、踏みしめる。
　人間の胴程はありそうな巨大の触手を一度地叩きつけてから、値踏みするようにケルベロスたちの顔と体を見やり。琴へと向けて色欲に染まった醜い笑みを浮かべた。
「ブゴ、お前はもしかして」
　どばあん。突如ケルベロスたちの背後へとカラフルな爆風が巻き上がり、オークチャンピオンの言葉は無理矢理中断される。
「……ビックリしたか？」
　ブレイブマインを放った張本人。纏は眠たげにも見えるその瞳を揺らし、首を傾げた。
　答えは短い咆哮。
　ケルベロスたちを完全に敵として認識したのだろう。
　溶解液をてらてらと分泌した巨大な触手を一直線に琴へと伸ばすオークチャンピオン。
　嘆息を漏らすと琴は身を翻し、クロスした腕でガードの体勢を取り来たる衝撃に耐える。
　強い衝撃と共に溶解液で肌と服の溶ける匂いがするが、構いはしない。
　シャーマンズカードを広げ、光る猫の群れを召喚する。
「あなた、ただでさえ醜いのに一際醜いですね。しかも人妻が好きなのでしょう？」
　琴が腕で指揮を行うと、猫の群れが一気にオーク達にじゃれつくように跳ねた
「でも、人妻と未亡人の区別もつかないみたいですね」
「女性ばかりだからと言って、甘く見ないで下さい！」
　玲那がオーク達を敵意の篭った瞳で睨めつける。
　敵意は重圧に。魔力の篭った視線、――重圧の魔眼。
　その重圧にオーク達は、怯んでしまう。その一瞬を静葉は逃しはしない。
　狙われた琴に一瞬思慮の目線を送るが、静かに構えた静葉は一気に跳んだ。
「御友人の方々の為にも頑張りませんと……。月の加護を皆様に……、参ります！」
　オーク達の頭上に蒼き法陣が出現する。――呪法・蒼雷華。
「蒼き雷の呪縛と契印において汝らの動を封せよ！」
　蒼雷の花弁と蔦が撃ち出され、オーク達の動きを封じるように地へと繋ぎ止めた。
「女性ばかり見ていないで、ボクたちも相手してくださいね！」
　くるんと両手に構えたリボルバー銃を回し、ティクリコティクは一気に間合いを詰めた。
　オークチャンピオンの巨大すぎる触手は、懐まで飛び込んでしまえば大きな脅威では無い。
　ティクリコティクは舞う様な足取りで配下の触手を避け躱し、叩き落としながら銃口から炎を纏う弾を幾度も吐き出した。
　オークチャンピオンに睨めつけられ、自らの身を挺して配下オークたちはリベリオンリボルバーの弾雨をすすんで受け止める。
　蔦を断ち切りながら１体の配下オークが飛び出し、巨体からは想像がつかない程のスピードでカヤへと迫り触手を蠢かせた。
「きゅっ！」
　飛び出すみかん色。ミーガンが触手に体当たりして軌道を反らしながら、弾け飛ぶ。
「ミーガンッ！　　……っ、猫の悪戯はどうかしら？　喰らうといいわ！」
　自らを庇った愛しいドラゴンを気にかけつつも、敵は見据える。毒を持つ光の猫の群れを一斉に駆けさせた。

●巨体の豚頭
「暗雲齎すは頽廃、辿る道は必滅。命の灯火、呑まれて消えろ！！！」
　ティクリコティクがフラスコを投げつけると、対デウスエクス用のガスが蔓延する。
　風花はオークたちのその醜い巨体に一瞬は怯んだものの、戦いを重ねる中で冷静さと集中を欠くことは無く、後衛からしっかりと観察をしていた。
　配下オークは減らす事ができている上で、ケルベロス達はまだ誰も倒れてはおらず、庇う盾が減った分オークチャンピオンの体力もしっかり削れてきている。
　なんとかなりそう、と風花はにっこり微笑んだ。
「舞い散れ、氷華！」
　霊力を帯びた斬霊刀を構え、氷の華を描くかのような乱舞を繰り出す。
　キラキラと霊力の氷が舞って花びらのように散った。その美しき刃は配下オークの息の根を冷たく仕留める。
「これでおしまいっ！」
「もう、あなたで最後ですよ」
　ソーヤがワントーン低い声で言う。
「それがどうした」
　鼻を鳴らして笑うオークチャンピオン。
　そもそもオークチャンピオンからすれば配下の命なんて使い捨てなのかもしれないけれど。仲間を、命を大事にしない時点で自分の首を締めているようなものだ。
「……私はあなた達の考えを定めません。ですが生き死には定めます。人の敵よ。この世界からいなくなりなさいッ！」
　目の前の強敵を排除する。ソーヤは気持ちを確かめるように吠えると、破壊の力の流れを拳に込めて握りこむ。
「降されし力を、ここへ！」
　地を爆ぜさせん勢いの踏み込み。巨大な触手の一撃をすり抜けて活殺自在拳を叩きつけた！
　巨体が弾き飛び、一度地面を跳ねてから転がるように受け身を取るオークチャンピオンを追い、玲那が追撃する。
「肥えきった豚のようですね」
　冷たく見下ろすと、倒れた体に螺旋の力を籠めたチェインを脂肪の塊めいた体に叩きつけた。
　どぶんと大きくオークチャンピオンの肉が波打ち、内部から爆ぜる。
「ぶぎっぶぎっ！ぶぎっ！」
　痛みに喚くオークチャンピオンは、肩を上下に震わせながら自らを癒す欲望を開放する咆哮を。
「うるさい。爆ぜろ。」
　纏が電撃爆弾を投げつけると、吼えるオークチャンピオンの口の中にピッタリと放り込まれた。
　お？　と纏は首を傾げるが、そのまま爆破スイッチに指をかける。もうなんかめんどくさかったし。
「ないっしゅー！」
　風花がおもわずぱちぱちと手を叩くと、ミーガンがぴょんぴょんと跳ねて、よくやったな！　顔でなぜかドヤ顔をする。
「ぶごっ！」
「まだ終わりじゃありませんよ！」
　口の中で電撃が弾けてびくびくと跳ねる巨体の横っ面に、静葉の重力と流星を纏う蹴りが叩きつけられる。
　再び転がったオークチャンピオンは、苦し紛れ。せめて道連れを作らんと巨大な触手をカヤに伸ばすが、琴にたしなめられるように受け止められた。
「犠牲になっただろう方々の無念を晴らさせて頂きます。……元よりデウスエクスに対する慈悲などありませんけれど」
　庇われたカヤは、ギラリと瞳を輝かせた。トドメのチャンスだ。
「さーあ、神秘の力で大突撃すっぞ！！」
　体をみなぎる神秘の力を発露させんと叫ぶと、その巨体に雷が落とされた。
　ケルベロスたちのラッシュにそのまま糸が切れたかのように、その巨体は地に崩れ落ちる。

●終わるたたかい、始まるたたかい
　戦いはまだ終えた訳では無い。
　宿の屋上から双眼鏡で周囲を確認をする纏は、片目を瞑るとアイズフォンを起動した。
「あー、もしもし。聞こえてる？　ん、敵は向こうの赤い屋根の民家と、そう、タバコ屋さんかなアレ。あの間に集まってるみたい」
　宿の中はケルベロスたち全員で捜索をしてみたが、生存者はやはり居なかった。
　オークチャンピオン達が何やら食べ散らかした跡を踏みしめると、ティクリコティクは電話を肩に挟み、弾倉に弾を込めながら返事をする。
「オーケーです！　じゃあ纏さんが準備を終え次第早速向かいましょう！」
　今から行われる戦いは、掃討戦だ。
　敵を残す訳には行かないし、自分たちが頑張った分だけ後続の部隊が楽になるのだ。
　市街地を虱潰しに、ぽつぽつと現れる一つも統率の取れていないオーク達をぶち叩く。
「今来たれや走れや」
「まとめて、吹っ飛んじゃえ！」
　カヤと風花が呼び出した暴走ロボットのエネルギー体が、居並ぶオーク達を一薙ぎする。
「……容赦はしませんよ！　覚悟してください！」
　それに玲那もあわせて、白い髪をなびかせながらケルベロスチェインを振るう。
　ブレスを吐き出したミーガンが、大きな怒りの気配にピクリと振り向いた。
　静かな怒りが篭った猫の瞳。
　ティクリコティクは感情を全てをぶち撒けるように、弾の雨をオーク達に降らせていた。
「安心しろ、お前らの馬車の切符もちゃーんとある。あの世行きの片道で取ってあるさ」
　彼は最初の最初から、ずっと怒っていたのだ。
　事前調査によって聞かされた、この島の住人たちの運命に。
　それをもたらしたオークに。ドラゴンに。デウスエクスたちに。
「……一匹も逃さないぞ悪党ども。お前らは絶対に許さないっ！！！」
　怒りを発露する小さな彼の銃は、オーク達を確実に追い詰めていた。
「――ねむさん、終わったよ」
　市街地のオークは殲滅できたはずだ。
　纏が再び片目をつぶってアイズフォンを行う姿を背に、ソーヤは海を眺めていた。
　この海に囲まれ、のどかだったはずの島を貪った、デウスエクスたち。
「……この地は傷つきすぎました。私達の力が至らなかった事もありますが……」
「以前は力が至らなかった、かもしれませんけれど。……これから助ける事は出来るかもしれません。……そして、無念を晴らすことも」
　寄り添うように琴が立ち、海を眺める。琴自身、デウスエクスが憎い気持ちは、痛い程理解はできる。
「でもでも。一番槍は大成功だもん！　次に繋げる事は出来たんじゃないかなっ？」
「私たちがここを突破したからこそ、きっと他のチームの皆様が無事に竜の下に向かえるはずですよ」
　風花がねっ？　と元気づけるように笑い、静葉も同意を示し頷く。
「……そうですね、次の方に任せましょう、悪竜を倒せるよう願う事にします」
　つられたように、ソーヤは笑った。
　ケルベロスたちは、この戦いにおいて非常に幸先の良いスタートが切れたといって良いだろう。
　彼女たちは一人も欠ける事なく、制圧に成功したのだ。

作者：絲上ゆいこ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2015年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 10／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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