マダ終ワラナイ!

作者:麻香水娜

●朝陽に照らされて
 早朝6時──。

 カタカタ……カタカタ……。

 小さな公園のゴミ箱の中から物音がする。
 カッと眩い光が放たれ、ガタガタとけたたましい音を立てだした。

 バーン!!

 金属製のゴミ箱が内側から破裂するような大きな音がすると、光が引いていく。
 すると、巨大なサーキュレーター──だったと思われるダモクレスがいた。
 側面からは太いコードにグローブをつけた腕が生え、底面からは短い脚が生えている。
『アッツ~~~~~~イ!!』
 機械的な音声を発したダモクレスは、羽を高速で回転させて凍結光線を発射した。

●ゴミ箱から生まれるダモクレス
「何故公園のゴミ箱に……」
 眉間に皺を刻んだ祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が溜め息混じりに吐き出す。
「もしかして……不法投棄のダモクレスですか?」
 苦笑した交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)が、遠慮がちに声をかけた。
「えぇ、しかも交久瀬さんの危惧されていたサーキュレーターが、です」
 この地区では、燃えないゴミの袋に入れば家電も持って行ってくれる事になっている。ゴミ袋に入れて燃えないゴミの日に捨てればいいものを、公園に捨てて行った者がいたらしい。
「コンビニのゴミ箱に家庭ゴミを捨てていくみたいですね」
 麗威が苦笑混じりに口を開くと、蒼梧はただ深い溜息を吐き出した。

 この公園は住宅街の中、大通りから1本入ったところにあるが、周囲は民家やアパート等に囲まれている。
 誰かが通りかかるかもしれないし、戦闘音に様子を見に来る人がいないとも限らない。人払いの対策があった方がよさそうだ。
「公園から出さない方が被害を少なくできそうですね」
「そうですね。人払いをしていても建物に被害が出てしまう可能性もありますからね。かなり巨大化したようですし」
 麗威がぼそりと漏らすと、頷いた蒼梧が大きさや見た目の説明を加える。
「レプリカント同様のグラビティに加え、バスターライフルも内蔵しているようです」
 かなり高い火力の攻撃をするようなので充分注意して下さい、と説明を締めくくった。

「付近には人が住んでいますし、すぐにでも大惨事になってしまいます。被害が出る前に、ダモクレスの撃破をお願い致します」


参加者
エリアス・アンカー(鬼録を連ねる・e50581)
風柳・煉(風柳堂・e56725)
交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)
ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)

■リプレイ

●不法投棄は問題だけど
「公園の出入り口は2つですか」
 交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)が公園の周囲をぐるっと一周して確認する。
「んで、ゴミ箱はあそこだけっぽいな」
 公園の中で遊具の位置を確認したり、足元に障害物などはないだろうかと確認していたエリアス・アンカー(鬼録を連ねる・e50581)が、丁度麗威と合流した。
「人がごみの分別が出来なくなったのは、何時頃だろうね?」
 公園のゴミ箱を確認した風柳・煉(風柳堂・e56725)がぼそりと呟く。
「不法投棄は問題だけど放置は出来ないからね……」
 同じくゴミ箱を覗いたラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)も深く息を吐いた。
「しかしなぁ、いくら小型っつってもここまで捨てに来る方が大変だろ。収集日くらい待てねぇもんか、まったく!」
「最近引っ越してきて燃えないゴミの袋に入れば捨てられるって知らなかったのかも……」
 のんびりとゴミ箱の傍まで歩いてきたエリアスが眉を顰めて憤慨すると、一緒に歩いてきた麗威が苦笑する。
「それが不法投棄をしていい理由にはならないけどねぇ」
 ファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)が肩を竦めた。
 指定ゴミ袋に入れば持っていってもらえると知らず、家電量販店等では処分料がかかる場合もあり、使えなくなったものにお金を払いたくない、という心理が不法投棄に繋がったのだろう。
「ま、ここで何か言っても始まらないし、私達にできる事をしようか」
 予定時刻も近づいてきたし、とラグエルが微笑むと、ケルベロス達は軽く息を吐いたり、苦笑して頷いた。
「ざっと見た感じ、一般人はいねぇかな」
 エリアスが再度公園の周辺をぐるっと見渡す。
「じゃ、まずは──」
 煉がスッと視線を鋭くし、一気に殺気を解き放った。
(「久々にお会いしたけど、風柳さんの殺界形成は流石……」)
 鋭い凍てつくような殺気に、麗威が息を飲む。

 その殺気に朝の空気も張りつめた──。

●人々を守るために
 ケルベロス達はそれぞれゴミ箱を視界に入れられる位置で遊具や木の陰に身を潜める。
 ゴミ箱から小さな物音がすると、眩い光が放たれ、巨大なサーキュレーター──だったダモクレスが姿を現した。
「おらぁ! こっちだぜ!」
 周辺の住宅に向かわないよう、いち早くエリアスがダモクレスの前を通り過ぎて公園の中心で向き直る。
『アッツ~~~~~~イ!!』
 ダモクレスは、飛び上がって攻撃をしかけようとしたエリアスに向かって、羽根を高速で回転させて凍結光線を放った。
「……ッ! こんなに冷たくなくていいんだよ」
 攻撃の気配を察知したエリアスは、攻撃態勢から即座に防御態勢に切り替えて腕を凍らされる。
「んじゃこっちの番だぜ!」
 ニヤリと好戦的な笑みを浮かべて跳び上がった。
 ダモクレスの真正面から後ろに倒させるように星型のオーラを蹴り込む。
「エリアス!」
 麗威は、攻撃を受けてもすぐに反撃にうつる相方の姿を頼もしく思いつつ、ケルベロスチェインを展開して前衛に守護をつけながらエリアスの傷を癒した。
 すると、すぐに後方からひやりとした冷気と共に、ラグエルが聖なる光で前衛を進化させながらエリアスの傷を塞ぎ、腕の氷を取り去った。
 更に煉が前衛の2人の前に雷の壁が構築して異常耐性を高めて、ファランがケルベロスチェインを展開して更なる守護をつける。
「みんなありがとな!」
 エリアスは次々に回復してくれる仲間達に明るい笑顔を向けた。
『スーズシ~~~』
 後ろに倒されるように蹴り込まれたダモクレスだったが、態勢を立て直した勢いでドリルにした腕をエアリスに突き立てようと猛突進する。
「おおっと!」
 防御をしようとしたエリアスの前に麗威が割り込んで、ドリルをガッチリ掴んだ。
「助かったぜ!」
 エリアスが庇ってくれ、更にはダモクレスの動きを止めて隙を生んでくれた事にニカっと笑顔を広げ、
「これでもくらいやがれ!」
 ダモクレスの足元にスライディングで滑り込み、バスターライフルを上に向けてゼロ距離でエネルギー光弾を射出する。
『!?』
 その強力な攻撃は、巨体のダモクレスを跳ね上げた。
 麗威は痛みに眉を顰めつつ、サークリットチェインで後衛に守護をつけると、その後衛にいるラグエルから冷気のオーラが放たれ、キラキラと氷が煌めきながら麗威の傷を癒して服を修復する。
「ありがとうございます。冷たくて気持ちがいいですね」
「どういたしまして」
 振り返ってラグエルに微笑みかけると、ラグエルもにこりと柔らかく微笑み返した。
「もう、君のお役目は終わったよ」
 ぽつりと漏らした煉から雷が放たれる。
「ヒュゥ、いいね! 機械には雷だな!」
 エリアスが楽し気な歓声をあげると、煉は軽く片手を上げて口元を緩めた。
「ん……? ありがとうございます」
「盾、頑張っておくれよ」
 自分の周りに分身がいる事に気付いた麗威が微笑むと、ファランは笑顔で軽く手を振る。
「よし! でけぇボールで朝の運動すっか!」
 左手のひらに右手の拳をパァンと打ち鳴らしたエリアスが楽し気な笑顔を広げた。

●さっさと片付けるぞ!
 エリアスと麗威が息のあった連携攻撃を決め、煉は高い命中率でだんだんダモクレスの動きを鈍くする。ラグエルとファランは予め打ち合わせしていたように回復過多にならぬよう、満遍なく仲間の傷を癒した。

 10分近くが経過し、ダモクレスは所々へこんだり、あちこちから小さな火花を散らしだした頃──。

「あ~~~~~~」
 ダモクレスのすぐ傍で死角にいたエリアスは、少し休憩と言わんばかりに風を受けて涼んでいる。風の振動で声が震えるのを楽しみながら。
「何やってンだ。そんなところで攻撃されても知らないぞ」
 麗威が呆れながら声をかけると、
『セツヤク! デンキ代!』
 ダモクレスが羽根を回転させながら自分自身も回転し出した。
 その瞬間表情を引き締めたエリアスは軽く後退して身構える。
 ダモクレスの背面にミサイルポッドが出現し、回りながら後衛に向けてミサイルを大量に発射した。
「下がってください!」
 麗威がファランの前で両手を広げて盾となる。
「く……!」
「……っ!」
 ラグエルと煉はミサイルの直撃を受けて体に痺れを走らせた。
「麗威! パス!」
 悪戯でも思いついたような顔を向けたエリアスが飛び上がり、星型のオーラを散らしながらダモクレスを麗威の方へ蹴り飛ばす。
(「まったく……こっちは体が痺れてるっていうのに……」)
「しょうがないな!」
 無邪気に戦いを楽しむような笑顔に釣られて、痺れる体を無理矢理動かし、赤い雷を纏わせた左脚でダモクレスを蹴り飛ばした。
「ルイ、交久瀬を!」
「あいよ!」
 ラグエルが後衛に黄金の果実を使って煉と自分を回復させると、ファランが分身の幻影を纏わせて麗威を回復させる。
 蹴り飛ばされたダモクレスが滑り台に当たって止まると、その足元にシャーマンズカードが投げられた。
 煉がパンッと両手を合わせて、地面に両手をつく。
「咲け『炎』よ! 真夏の『向日葵』のように! フィアンマ・ジラソーレ!」
 発火性のグラビティが地を走りシャーマンズカードに到達すると一気に燃え上がった。
『アツ! アツイ!! アッツーイ!!!」
 炎に包まれるダモクレスは、ガシャガシャと音を立てながら暴れる。
 暴れながら腕をドリルのようにして、ふらふらと定まらない足取りでエリアスに向かった。
「どこ狙ってんだよ!」
 サッとドリルを避けたエリアスが、無数の角を生やした腕で地面を穿った。
『!?!?!?』
 すると、地中から突き出した無数の角が針山の如くダモクレスの体を貫く。
『ア、アツ、イ……アヅ………………』
 プツン、と電源が切れたような音がすると、ダモクレスは動かなくなった──。

●平和な朝を
「安らかに」
 動かなくなった後、ガラガラと崩れたダモクレスに、煉がそっと祈る。
「今度こそ、ゆっくり眠れるといいですね」
 残骸を拾い集めておこうと近づいた麗威が、柔らかく微笑みかけた。
「さて、遊具はきっちり直しておかないと、子供が怪我をしてしまうね」
 2人から少し離れたところでラグエルがキラキラ氷が煌めく癒しの冷気で壊れた遊具を念入りに修復する。
(「公園だし、幻想化してもそれはそれで受け入れられるかな……」
 そんな事を考えながらヒールをかけていると、
「ラグエルの傍って涼しいよなー」
 ニカッと笑ったエリアスが、先ほどダモクレスの風で涼んでいたように、気持ち良さそうに目を細めた。
「じゃあ、私の傍なら片付けがはかどるね」
 にっこり微笑むラグエルは、どこか優しい教師が生徒に諭す様で。
「あー……そうだな。そういえば、ラジオ体操? とかいう夏の鍛錬に人が出てくる前に終わらせないとだしな」
 しょうがないな、と苦笑したエリアスは、思い出したように気合を入れ直した。
「それって夏休みしかやってないんじゃないかい?」
 各所をヒールしながら丁度通りかかったファランが首を傾げる。
「夏休みじゃなくてもやるだろうけど、公園で集まって、っていうのは多分夏休みだけじゃないかな」
 あとはどこがヒール終わっていないだろう、と煉が合流した。
「ラジオ体操があってもなくても、人が動き出す前には綺麗にしておかないとね」
 ラグエルが微笑むと、頷いた仲間達はもう少しだと作業を再開する。

「こんなところですかね」
 麗威が一息吐いた。
 遊具やベンチ、フェンスをヒールで治し、崩れたダモクレスの破片は集めてゴミ袋に纏める。
「あれだけ巨大化してたから、崩れても凄い量だね」
「皆で少しずつ持とうか」
 煉が小さく息を吐くと、ラグエルが微笑んだ。
「ここは怪力王者の出番かな、エリアス」
 麗威がにこりと笑顔で進み出る。
「だな! 俺たちが運ぶぜ!」
 話を振られたエリアスもニッと笑顔を広げながらゴミ袋を持った──。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月14日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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