大菩薩再臨~果物の他に甘味は赦さず

作者:柊透胡

 ――とある洞窟。
 疲弊しきった様相で突っ伏すビルシャナが1体――その名は、天聖光輪極楽焦土菩薩。
 洞窟の岩壁や地面には、ビルシャナの曼荼羅陣が彫られている。その曼荼羅陣に、最後の一滴までグラビティチェインを注ぎ込もうとしているのだ。
 総ては大菩薩再臨の為、最後の力を振り絞り、儀式を続行する。
 ――――。
 そんな天聖光輪極楽焦土菩薩の、今にも霞ゆく視界に、ボウと灯る3つの光。忽ち、その光はそれぞれビルシャナの姿を形作っていく。命を懸けた献身が、漸く実を結んだのだ。
 彼のビルシャナらは、ビルシャナ大菩薩の近侍――それぞれに、天聖光輪極楽焦土菩薩に敬意を示す中、『悪意の鋒』は悪意に塗れた言葉を投げ掛ける。
「お前の努力は認めよう。しかし、お前は成し遂げる事はできなかった。何故ならば、お前には悪意が足りなかったのだ。世界を、そして、全てを染め上げる悪意こそが、ビルシャナ大菩薩降臨の力となる。我が悪意を、そこで見ているがいい」
 3体のビルシャナは静かに洞窟を去っていく――近侍の務め、ビルシャナ大菩薩の再臨を成し遂げるべく。
 
 巷はタピオカブーム。流行に乗って、今年の夏に開店したばかりのタピオカカフェは、女子高生や女子大生を中心に、客の入りも上々だ。
 深夜――店員も帰宅して無人のカフェに忍び込んだのは、何処かフルーティーな香りを漂わせた、ビルシャナ。
 だが、その表情は鳥の面から悪意が滲み出て、醜く歪んでいる。
「タピオカミルクティー? タピオカパフェ? ……ふん、イモの分際で甘味を名乗るなど、無礼にも程がある!」
 そうして、『毒薬』のラベルがどうしようもなく物騒な薬物を、カフェに保管された材料やシュガーポットに丹念に混入していく。
「甘味として許される供物は果物のみ。流行に浮つく破戒者共に天罰を! 己が罪深さを、のたうち回って懺悔するがいい」
 
「……質が悪いな」
「そこまでさせてしまうのが、『悪意の鋒』の恐ろしい所でしょう」
 げんなりとナノナノと顔を見合わせる朧・遊鬼(火車・e36891)に肯き、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は集まったケルベロス達の方に向き直る。
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 ビルシャナと化した悪人が、悪意のままに凶悪な事件を引き起こす――事件の阻止とビルシャナの撃破が、今回の依頼だ。
「ビルシャナは端的に言えば、『甘味は果物以外絶許明王』でしょうか……元は、フルーツパーラーの店主でしたが、世の中の流行を追い切れず、店を潰してしまっています」
 最初は、果物を使わないスイーツを提供するカフェやお店に、些細な嫌がらせをしていた程度だった。
「この時はまだ、人間のままだったようです」
 それが――ビルシャナ大菩薩の再臨を目論む高位のビルシャナ『悪意の鋒』の現れた事で、事態は深刻化する。
 ――この程度の悪が、お前の望みであるのか? そんな筈は無いであろう? お前の心は更なる悪徳を望んでいる筈だ。その為の力を、私が与えてやろう。
「悪意の鋒は、人の心の中の悪に語り掛け、その悪意を増幅し、悪意をばらまくビルシャナに変化させます」
 このままでは、『甘味は果物以外絶許明王』は事件を起こす度に悪意を増幅させ、より強大な力を得て更に大きな事件を起こし続けるようになるだろう。
「極端な嗜好の明王はあるあるだが、今回は更に厄介な事になりそうだな……」
「それでも、朧さんの懸念がヘリオンの演算にヒットした事は、幸いと考えます」
 『甘味は果物以外絶許明王』は深夜、とあるタピオカカフェに忍び込もうとする。
「カフェに保管された材料に毒を仕込み、店の評判を下げると同時に果物を使わないスイーツを求める客を粛清しようとしています」
 毒物の扱いは厄介であるので、ビルシャナが毒を仕込む前に戦闘を仕掛ける方が良いだろう。幸い、タピオカカフェの周囲は深夜に人通りはないし、店内で戦ったとして店の修復にヒールは可能だ。
 戦いとなれば、『甘味は果物以外絶許明王』は『フルーツナイフ連斬』や『果物こそ唯一の甘味経文』で攻撃し、『清めのフルーツ』でヒールするという。
「ビルシャナ大菩薩の再臨を目論む、悪意の鋒が撒いた『悪意』の種が成長してしまう前に……必ず『甘味は果物以外絶許明王』の撃破を、お願い致します」


参加者
芥河・りぼん(リサイクルエンジン・e01034)
物部・帳(お騒がせ警官・e02957)
クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)
一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)
エルム・ウィスタリア(好奇心の塊・e35594)
朧・遊鬼(火車・e36891)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)
 

■リプレイ

●待伏せのお供は
 彼岸までは、まだまだ夏の名残と言えようか。日没を過ぎても、空気は熱を帯びたまま。
 飲食店に毒混入という凶悪事件を防ぐべく、ケルベロス達はタピオカカフェの内外にてビルシャナ――「甘味は果物以外絶許明王」を待ち伏せる算段だ。
(「憧れのタピオカカフェ、台無しになんてさせないぞ」)
 段ボールの陰で、決意の拳を握るクローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)。
 昼間の内に店主に話は通しており、裏口の周りに幾つもの段ボールが積まれている。待ち伏せの目隠し用で、ビルシャナの退路を塞ぐのにも使う。流石に熱帯夜に段ボールの中で待機は厳しいので、中に入るのは直前だろうけど。
(「……うん、お餅や白玉とはまた違うもちもち感だね」)
 クローネの待伏せのお供は、タピオカマンゴーミルクだ。
 流石にテイクアウトは出来なくて、タピオカマンゴーパフェを開店中に食べて来た。濃厚なマンゴーソースに大粒のタピオカがたっぷり。その上にミルクフラッペ、ホイップクリームが層を作り、バニラアイスにマンゴーの果実が贅沢にトッピングされていた。本当に美味しかったので、テイクアウトにもマンゴーミルクを選んでしまった程。
(「店主さんのおススメはミックスベリーだったっけ。次はそっちにしよう」)
「落ち着きますね~。ふわあ……」
 マイペースにタピオカほうじ茶ラテを太いストローで吸いながら、芥河・りぼん(リサイクルエンジン・e01034)は大欠伸。
 タピオカドリンクと言えばミルクティーが定番だが、ほうじ茶ラテは新発売の秋限定メニュー。ほうじ茶の風味がとても濃くて、サラサラというより寧ろとろり。黒糖風味の大粒ブラックタピオカがたっぷりもっちもちだった。うっかり吸い込んでしまわないように、りぼんは口をもぐもぐと。戦いの前に眠気も醒めそうで、何よりだ。
「へぇ、僕のは小粒の黄金タピオカなのに。タピオカも色々あるんですね」
 ジャスミンティーをベースにキウイフルーツが丸ごと1個! 贅沢なタピオカフルーツティーを飲んでいるエルム・ウィスタリア(好奇心の塊・e35594)は、他のフレーバーにも興味津々。
「皆さんのドリンクも美味しそうですね。味はどんな感じですか?」
「ずぞぞぞ……あれ、もう終わっちゃった。エルム殿、おかわり買ってきてー」
「カフェはとっくに閉まっていますよ」
「コンビニで売ってるのでもいいからさー」
 あくまでも、一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)は、エルムをパシらせる気満々か。
「あの、買い置きなら幾つかありますけど。ミルクティーとかチーズティーとか……これ、不思議な味ですね。それから、抹茶やチャイも」
「じゃあ、タピオカ抹茶オレ追加ね。当然、歳上の大人の人達の奢りだよね?」
 ついでに、タカル気全開の今回最年少13歳。
「歳上が奢り、いうと……1番歳上のうちが奢るいうことですかね?」
 だが、思わぬ所から応答があった。カフェの裏口に陣取っていた田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)だ。
「別にええですよ」
 そこは大人の余裕か、マリアは悠然と頷いて見せる。
「でも、タピオカは高カロリーですからね。食べ過ぎには気を付けへんといけませんよ?」
 更にはウィッチドクターらしく、はんなりと忠告するのも忘れない。そう言えば、タピオカドリンクの常飲が過ぎて、腸閉塞に陥ったケースもあったしね。
「……ホドホドニシテオキマス」
 毒気を抜かれて大人しくなった白を、ビハインドの一之瀬・百火が宥めている。
 改めてタピオカフルーツティーを味わっていたエルムに、ふと浮かぶ素朴な疑問。
「……えっと、張り込みの定番があるんでしたっけ?」
 エルムが小首を傾げて呟いたその頃――物部・帳(お騒がせ警官・e02957)は単身、カフェのあるビルの屋上で待機していた。看板の影に身を伏せて、敵に見付からないように気を付けていたのだけど。
「どうした?」
 電信柱の陰で隠密気流を纏い、タピオカ抹茶ラテ片手に張り込んでいた朧・遊鬼(火車・e36891)は、突然屋上から飛び降りてきた帳に怪訝そうに眉根を寄せる。
「……あの、タピオカミルクティー飲み過ぎてお腹痛くなってきたので、帰っても良いですか?」
 警官の張り込みにあんパンと牛乳はお約束、という訳で、屋上で遠慮なくもしゃもしゃごくごくやっていた帳だが……タピオカドリンクって、お腹のお掃除にも良さそうだよね。
「まだ深夜まで時間がある。その辺のコンビニでトイレ借りてこい」
 すこぶる真顔に対して真顔のまま、大通りの向こうの灯りを指差す遊鬼。帳はトンデモナイ! とばかりに頭を振る。
「嫌です! トイレは自宅か詰所と決めているのです!」
「また、お説教案件になるぞ」
「う……」
 思わず、夜空を見上げる帳。勿論、ヘリオンの影もないが、あの生真面目なヘリオライダーが問題行動と見做せば……前にもあったね、7月の終わり頃に。
「さっさと行って来い」
「……判りましたー」
 渋々横断歩道を渡る帳を見送り、遊鬼は大きな溜息1つ――そんな硬派な表情も、ナノナノのルーナがタピオカイチゴミルクを懸命に抱える愛らしさに、へにゃりと綻んだ。

●甘味は果物以外絶許明王
 タピオカドリンクを巡って、ほんのりのんびりな雰囲気のまま、夜も更けて――深夜。
 ――――。
 裏通りを渡る夜風が、フルーティーな香りを運ぶ。だが、タピオカカフェの裏口に近付く影は、こんもりもっふりとして。
「許される甘味は果物のみ……流行に浮つく破戒者共に天罰を……粛清を」
 ブツブツと呟く言葉は、悪意に塗れている。しっかと握られた薬瓶も禍々しく、逆の手が裏口のドアノブに伸ばされたその時。
 ――食を冒涜している者を発見。
「!?」
 冷ややかな断罪に鳥影がビクリと動きを止めれば、裏口がすごい勢いでバタンと開く!
「フルーツを掛け合わせたら美味しいもんは沢山あるし、その辺の試行錯誤がパーラーの腕の見せ所やのに」
 パイルに雪さえも退く凍気を纏わせ、マリアの一撃がゴオと唸る。
「頭冷やしたらええんちゃう?」
 貫かれながらも飛び退いたビルシャナ――甘味は果物以外絶許明王の周りに、段ボール箱群が迫る。
「小癪な!」
 一閃! 切り裂かれた段ボールの下から、ケルベロスが次々と現れる。
「動くな、特科刑部局だ! お前を逮捕する、大人しくしろ!」
 これ見よがしに、白が「特科刑部局手帳」を突き付けると同時。夜空に響き渡る正義の叫び!
「時代に取り残された事を、嘆く気持ちは分からなくもありません。しかし! 警官としてケルベロスとして、見過ごす訳にはいきませんね!」
 ビルの屋上よりカラスの翼を広げ、トォッ! とばかりに飛び降りる帳。
「罪を犯す前に、止める事にしましょう!」
 最初の挨拶とばかりに、編み上げた禁縄禁縛呪を放つ。
「罪、だと……『果物こそ唯一の甘味』と認めぬ咎人共がぁッ!」
 気合か念仏か、全身より迸る圧で帷の御業を相殺しながら、明王は吼える。
「寧ろ、怒りで毒物を仕込む方が罪深いのではないか?」
 顎で薬瓶をしゃくり、遊鬼は荒ぶる敵とは対照的に淡々とエクスカリバールを構える。
「さぁ、お仕置きの時間だ」
 唸りを上げて弧を描いたバールの一閃に、パッと羽毛が散った。
「負傷が大きい人を優先して庇ってあげてね」
 オルトロスのお師匠に言い置いて、クローネはドラゴニックハンマーを握り締める。
「八つ当たりで他人に嫌がらせをする心の狭い人間に、扱われる果物が可哀そうだよ」
「何だと、貴様ぁッ!」
 クローネの言葉に激高したか。甘味は果物以外絶許明王の凶相がギッと睨み付ける。ドラゴニックスマッシュをぎりぎりでかわしすや、両の刃がギラリと閃く。
 ――――!!
「今までの嫌がらせが許される訳でもありませんが、毒物を扱う辺りで一線を越えてしまいます!」
 フルーツナイフの連撃に割り込み、自らにスチームバリアを張りながら意気軒昂に言い放つりぼん。
「僕もそう思います。タピオカブームに押されて悔しい気持ちは判らなくもないのですが、毒を使った時点でアウトですよ」
 雪も積もり積もれば盾となる――9月の夜空から、ふわりふわりと白片が舞う。エルムが喚ばう六華は、仲間を癒し守る盾となるだろう。
 遊鬼の背後から、ルーナもりぼんにナノナノばりあを張っている。
「住居不法侵入、殺人未遂……おっと、これで公務執行妨害も上乗せだね?」
 寧ろ白の方が企み顔の呈で、見る見る少年の身体をオウガメタルが覆っていく。
「どう考えても重罪だ……覚悟は出来たか?」
 一気に接近するや「鋼の鬼」の拳でビルシャナを砕かんと。同時、百火のポルターガイストが、ビールの空き瓶を狙い澄まして投げ付けた。
 ヘリオンに満員とは行かずとも、今回の編成は、ケルベロス7名+サーヴァント3体。単身のビルシャナに対して、手数の多さは圧倒的。
「確実に当てていきますよ」
 だが、マリアのスターゲイザーは、間一髪でかわされた。続く白の斉天截拳撃、百火の金縛りは鳥躯を捉えるも、厄を齎すには至らない。
「この弾は、少々特別製でありますよ! ……って、こら! まだ出ちゃダメであります。私が感電する!」
 三輪大蛇の天変地災――血気盛んな雷気纏う蛇神の制御に四苦八苦しながらも、そこはスナイパーだ。蛇神の呪を込めた帷の水銀の銃弾は、狙い過たず明王を穿つ。
「冬を運ぶ、冷たき風。強く兇暴な北風の王よ。我が敵を貪り、その魂を喰い散らせ」
「さぁ、俺が鬼だ。精々綺麗に凍りついてくれ」
 クローネより冬の如き冷たい風が吹き荒れ、遊鬼はフェアリーレイピアとエクスカリバールに青き鬼火を纏わせ凍撃を放つ。
「ぐ……う……」
 だが、羽毛を膨らませ、明王は耐え忍ぶ。クラッシャーのクローネと遊鬼、いずれもサーヴァントと魂分かつ身であれば、エフェクト発動は不安定であり、武威も相当に目減りする。今回こそ相次いで当てられたが、その命中率も万全と言い難い。
「果物よ、我に力を!」
 万全を期したか、ビルシャナは羽毛の間より取り出した梨に、大口開けて噛り付いた。滴る果汁が穿たれた傷を癒していく。
「え……」
 引き続き、肩並べるクローネにスチームバリアを展開しながら、思わず目を瞠るりぼん。羽毛を凍らせていた氷結を始め、初撃と二の手でケルベロス達が重ねた厄が、まさか残らず掃われようとは。
「メディック……いえ」
 黄金の果実を掲げ、エルムは注意深く目を凝らす。厄を一掃した一方で、ダメージはそこまで癒し切れていないとなれば。
「明王はジャマーです」
 仲間にそう告げながら、エルムは温厚な表情を曇らせる。敵の経文に惑わせられれば厄介だ。癒し手として、同士討ちは避けなければ。
「回復、わたしも頑張ります!」
 りぼんの掛け声は心強く、ルーナもせっせとバリアを張っている。緊張で強張った肩の力が抜けるようで、エルムは感謝を込めて頷いた。

●悪意萌芽の前に
 最初の言葉が効いたのか、明王は専らクローネを狙う。
「お師匠、ありがとう」
 オルトロスのみならず、りぼんも白も、敵の攻撃を遮るが、流石に総ての攻撃は阻めない。
「……っ」
 本来、肉を切るに至らぬ筈のフルーツナイフが、容赦なく魔女の細身を切り刻む。元より、クローネはずば抜けて打たれ弱い。連続して追撃が重なれば、即落ちかねない危険があった。
「大丈夫です! 良い角度で首筋に打ち込みますっ! えっと……ここ! ですね!!」
 りぼん曰く、種族を問わず頸椎に右斜め45度の角度で衝撃波を当てると、意識スッキリ元気溌剌! ――正に、慈愛の右斜め45度。
 りぼんだけでなく、エルムもルーナも、早々に回復に専念している。
 所詮、ビルシャナとなったばかり……常ならば、歴戦のケルベロスの敵ではなかっただろう。だが、悪意のビルシャナに変化させた「悪意の鋒」は、ビルシャナ大菩薩の近侍だ。地力の強さは侮れない。
「……く!」
 そして、どんなに火力や厄が強かろうと、命中してこそ。
 だが、足止め技の用意はマリアのみ。唯一確実に厄の付与が見込める帳が活性化した捕縛の技は、発動の率が大幅に下がる。重ねて付与してこそだが……エルムは回復に専念している上に、ストラグルヴァインの命中率に難がある。更にジャマーのキュアで解除されては、イタチごっことなろう。
 又、エンチャントにしても、命中率を上げる帷のポジショニングの効果はスナイパーの本人のみだ。サーヴァントが多ければ尚の事、手数の多さは個人だけが高火力でも活かされない。
「……あ、ああっ!? ごめん!」
「異常なら、うちも治していきますよ」
 覚束ないクローネの手が、明王へステルスリーフを放つ――至急で重ねられたキュアにすぐさま正気に戻ったけれど。
 悪意を囁き続ける一方、己が厄は一掃する明王に、ケルベロスは思わぬ長期戦を強いられる。だが、ここで逃せば、更なる脅威となるのは必至。先に倒れるのは、クローネか明王か――危ういシーソーゲームの果てに。
「……何!?」
 それは、大いなる幸運。百火が掛け続けた金縛りが、明王の動きを止めた――一気呵成、ケルベロスの総攻撃が炸裂する!
「もう戻れへんなら、これ以上、誰も傷付けんように……その動き、止めてもらいますよ!」
 神鎖抑制閃弾――満を持して、対デウスエクス用麻酔弾を発射するマリア。
「なんで、フルーツ一辺倒に傾倒してもうたんでしょうね?」
「そうですよ、タピオカとフルーツは共存できて美味しいのに! 食べ物に毒はダメ絶対」
 憤慨の声を上げ、エルムはストラウルヴァインを奔らせる。
「援護します、今のうちに攻撃を!」
 敢えてビル壁や地面を狙い、帷の跳弾射撃が敵の死角を貫く。ビルシャナが惑うように視線を躍らせれば、オーラ纏う拳を握り、りぼんは達人も斯くやの一撃を振う。
「憂い無く、我が血肉となり逝くがいい―――喰い荒らせ、餓龍!!」
 白は魂魄を闘気に変換、抜き手に纏い鳥躯を撃ち貫く。更に闘気を刃状に変じて斬り上げた。同時に敵のグラビティチェインを吸収しながら――餓龍の飢えは、止まる事を知らず。
「今までのお返し!」
 グッと両足で踏ん張り、クローネは北風の牙を投じる。凍てつく風刃はあたかも獰猛な獣の如く。骨も、肉も、血も、魂さえも残さずに貪り尽くさんと。その軌跡を追うように、お師匠のソードスラッシュが閃く。
「流行に潰されたのは同情するが、食を扱っていた者がこんな所業はいけないだろう……扱っていなくても、罪は変わらぬがな」
 ルーナのナノちっくんと同時、遊鬼の残像を伴う超高速斬撃が、空を裂いて敵を刻む。
(「根本を断たぬ限り、こんな質の悪いビルシャナが増える……何とかせねばな」)
 これまでのダメージの蓄積もあっただろう。とうとう崩れ落ちた明王を見下ろし、遊鬼は刹那瞑目した。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月8日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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