アイスクリームの祭りに襲い来る者

作者:塩田多弾砲

「なあ、聞いたか? 隣町に巨大ロボが出たって話」
「聞いた聞いた。最近多いよなあその手の事件」
 そういった話を雑踏の中に聞き流しながら、彼女……来栖院久瑠美は、沢山の出店が並ぶ道を進んでいた。
 そのうちの一つ……『天使のジェラート』という看板の前で、久瑠美は足を止める。
「いちご、はろー……って、閑古鳥鳴いてるわねー」
「あ、久瑠美。来やがってくれたのね」
「おー、来やがったぞ。で? 売り上げは?」
「うん、始まってから二組の客が来た。ちなみに二組目はアンタね」
 久瑠美にそう言うのは、同じサークルの地蔵河原いちご。
「で、久瑠美。何にする?」
「……じゃあ、濃口抹茶とアーモンドコーヒー、ラムレーズンのトリプルで」
 ここは、『天使のジェラート』。
 私立ラファエル芸術女子大のアイス及びスイーツ作りを行ってるサークル、『愛・スクリーム』が出している出店。
 そしてこの会場は、『アイする愛ス・フェスティバル』。暑い日々が続く中、この町で毎年行われているアイス及び氷菓、冷たいスイーツ関係のフェスである。
「でもやっぱ、喫茶店やスイーツ店の出店の方が売れてるわねー」と、客の並びを見て久瑠美は呟いた。
「でも、あっちは素人のお店だけどね。それでもあたしらより並んでるのは何故」
 などと言ういちごを横目に、そっちにも並ぼうかなーと思った久瑠美は、
「? ……ねえ、あのマンホール……」
 近くにあったマンホール、その蓋が動き出し……吹っ飛ぶのを見た。
「きゃっ!」
 中から這い出て来たのは、身長3mの巨躯の戦士。
 その体格は痩せており、ひょろ長い手足を有し、大き目の歩幅で歩いている。
 手にしているのは、長柄のルーンアックス。刃の部分は小さいが、両刃で、石突の方にも短剣状の刃が付いている。
「なにあいつ。ストライド走法してるつもり?」
 いちごの言葉通り、そいつの動きはどこか特徴的。やがて……、
 手にした長いリーチの武器で、周囲を攻撃し始めた。
 長柄のアックスが、周囲の人々に襲いかかり、切り付けたり、薙ぎ払ったりしている。
 それは、いちご、そして久瑠美にも襲いかかり、
「きゃっ!」
「いやああっ!」
 アックスによって、二人の命は奪い取られた。

「まえに、八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)さんたちがやっつけた、ダモクレスの事件があったけど……その現場の隣町で、エインヘリアルが出るの」
 ねむが言うには、その隣町にて。残暑きびしい中で『アイスクリーム』の祭りを行うも、そこにエインヘリアルが襲撃する、という。
 場所は、街中にある公園……というか、『広場』。
 各種イベントが行われる際、そこに大型テントや屋台、出店などを出し、並べ、祭りの会場としてよく利用されている。サーカスなどもよく行われているとの事。
 そして今回、『アイする愛ス・フェスティバル』という、アイスや氷菓、冷たいスイーツ関連の催しが行われているところに、エインヘリアルが『マンホール』から登場した……というわけだ。
 このエインヘリアル。アスガルドでは殺人鬼だったらしく、放置すれば多くの人々が殺されるばかりか、それとともに恐怖と憎悪をはびこらせ、エインヘリアルの地球での定命化遅延も考えられる。
 故に、急いでこのエインヘリアルを倒さねばならない。

 会場は、大まかに説明するならば『広場の周辺に屋台が並び、中央部には机と椅子が並べられている』状況。広場自体は土に覆われた地面だが、数か所にマンホールが。
 その一か所、久瑠美といちごの屋台『天使のジェラート』の近くのマンホールから、エインヘリアルは出た。
「エインヘリアルは、仮名『ストライダー』と呼ぶけど……長い柄の斧を武器にしてるのね。斧として用いるけど、棒術みたいな使い方もするから、気を付けてなの」
 ひょろ長い手足は筋張っており、その長柄の斧を振り回す様は、かなり巧みだという。おそらく能力的にはクラッシャーに近いだろう。
 具体的な対抗策としては、まず何人かが囮になって引き付け、別の何人かが周囲の人間を避難させる。
 避難誘導を大体終えたのち、人払いした広場中心部にて、ケルベロス全員でとどめを。
 ちなみに、この『ストライダー』。
 どうやら、糖分……というか、『甘いもの』を好む様子で、予見では殺戮を行った後、出店や屋台の甘味を舐め取り、口にしていたという。
「アイス好きな人に、悪いひとはいない……って何かでいってましたけど、やっぱりそうでないひともいるのは悲しいですし、ゆるせないことです! なのでみなさん……、このエインヘリアルを、どうかやっつけてください!」
 任務完了後には、おそらくアイス食い放題のオマケがつくかもしれない。ねむのその言葉に、戦いへのモチベーションを君たちは滾らせた。


参加者
除・神月(猛拳・e16846)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)
 

■リプレイ

●始まりは『ソルベット』、または『あいすくりん』の如く
「あいがいっぱいなのです! アイスもいっぱいなのです!」
 八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)が手にしているのは、純白のミルクジェラート。その白地に加えられたトッピングは、クラッシュアーモンドに蜂蜜。
「……甘々で美味しいのです!」と、小さなスプーンで一匙ずつ、ゆっくりと味わうあこ。
『天使のジェラート』で作られたそれを口にしつつ、視線の先にある『それ』……じきに『敵』が出てくる事になる、『マンホール』を見張っていた。
「チョコもぎょうさんあるで! チョコッととは言えへんくらいにな!」
 あこに相槌を打つは、田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)。彼女が手にしているのは、チョコアイス専門のお店『チョコ&ヘブン』で購入したもの。それを時折舐めつつ……マリアもまた見張っていた。
 あこの足下には、ウイングキャットのベルが寄り添っている。普通の猫を装っていたため、ベルにはアイスは与えられていなかった。
「ん? あんたもアイス食うか?」
 それに気づいたマリアだったが、
「そういえば、さっき久瑠美さんといちごさんに聞いたんですけど。猫さんって『甘さ』をかんじられないそうです」
 と、あこ。
「ほんま?」
「はいです。ベルはウイングキャットですからちがいますけど、本物の猫さんは、甘さを感じる事ができない体なんだそうです」
 実際、猫科の肉食動物は、人間と異なり、『炭水化物の糖分』より『肉のタンパク質』からエネルギーを得るため、甘さを感じる必要も機能も無い。そのため、高カロリーな人間用のアイスを食べさせるのは、猫には良くない……と、あこは聞かされていたが、難しいのであんまり覚えてなかった。
 そんな彼女たちから、少し離れた場所で。
 エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)が、木陰になっている場所で一休み……を装い、マンホールを警戒しつつ待機。
(「今のところ、異常なし。……それにしても、本当に色々なアイスの店が並んでいるな」)
 と、周囲の出店に目をやる。
『天使のジェラート』以外にも、色々な店が並んでいる。
 牧場からの出店は、本格的なジェラートを。
 個人経営のスーパーでは、昭和風のソフトクリームや『あいすくりん』。
 他にも、喫茶店の出店の『パフェ風アイス』、ハンバーガー屋の『バニラアイスにチョコソース』、果物屋の『フルーツのアイスやシャーベット』などなど、百花繚乱の様相を呈していた。
 そして、『天使のジェラート』の店先では。
「……ジェラートは、正確にはアイスクリームじゃなイ? そいつは知らなかったゼ」
 トリプルコンボのジェラート二つを注文した除・神月(猛拳・e16846)が、感心したようにうなずいていた。
「ええ。簡単に言えば、日本のアイスは『乳固形分』の違いで分類されるんです。乳固形分……ざっくり言えば、牛乳の栄養素ですね。これが15%以上入っているものが、『アイスクリーム』、15%以下、10%以上で『アイスミルク』、3%以上で『ラクトアイス』と呼ばれるものになります。入ってないもの……シャーベット、かき氷、アイスキャンデーなどは『氷菓』ですね」
 久瑠美がうんちくを語り、
「そして、ジェラートの成分は、正確にはアイスミルクに近いんですよ。……はい、できました」
 いちごが、注文されたジェラートを差し出した。
「ショコラ・ミルクバニラ・ストロベリーのトリプルと、キャラメル・ヘーゼルナッツ・ピスタチオのトリプルです」
「おウ。……こいつはうまそうダ」
 両手に花ならぬ、両手にジェラートで神月は、マンホールへと向かっていった。

「……ふう、やれやれだ」
 イベント会場の警備員たちのところへ赴き、避難誘導のヘルプを頼んだ白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)は、木陰に入り日差しを避けていた。ヘルプそのものは滞りなく了承を得たが、それ以上に気温が彼を苛んでいたのだ。
 なので彼は、アイスと異なる冷たいスイーツを手にしていた。
「……この手作りアイスキャンデー、なかなかうまいな」
 それを平らげた彼は、暑さをしのぐ。
 しのぎつつ、マンホールに警戒し、油断なく見張りはじめたが、その時。
 この場に似つかわしくない『轟音』と『悲鳴』とが、響き渡った。

●発展はボルチモアのヤコブ・フッセルみたいに
 マンホールが吹っ飛ばされ……穴から、そいつが現れた。
「……はッ、なんだコイツ。動きがヤケに……」
 キモイじゃねえカ。神月が指摘するまでもなく、目前のエインヘリアルは、妙な動きをしていた。
 手足が普通の人体よりひょろ長い。例えるなら、カマキリやナナフシといった長脚の昆虫が、そのまま人型になったかのような印象。
 そして、長柄のルーンアックスを取り出し、構えた。
「斧というより……棒術の棒みたいです」
 アイスを平らげ、あこがベルとともに身構える。
「みんな! 逃げてや! 食後の運動には丁度ええで !」
 マリアはプリンセスモードで、周囲の人々へ逃げるよう促し、自身は……チョコジェラートを一気に平らげる。
「おウ! とっととぶっ潰してやろうじゃあねーカ!」
 神月も、両手のジェラートの残りをかっ込む。
 神月、マリア、あことベル。この三人と一匹が、エインヘリアルを引き付けている間に、
「我々はケルベロスだ! 落ち着いて、避難して!」
 光の翼で飛び上がったエメラルドが、上から避難誘導に勤しんでいた。
「あの警備員に付いていけば、もう大丈夫。ママにすぐ会える! ……おばあさん! 俺がおぶっていく!」
 母親とはぐれた女児や、足が悪い老婆を助けつつ、永代も避難誘導に奔走。
(「くっ、思ったよりも人が多い! みんな、思いっきり足止めを頼む!」)
 心中で、永代は焦りを禁じ得なかった。

「……『あたしを見ロ! あたしだけを見ロ! お前の敵は此処にいるゼ!』」
 仁王立ちした、両手ジェラートの神月に……『ストライダー』は注視。そのまま……攻撃を仕掛けてくる。
 これぞ、『一鬼闘宣(イッキトウセン)』。『ストライダー』は神月しか眼中にない。棒術のごとく長柄のルーンアックスで打ちかかり、薙ぎ払う。
「……ッ! くっ、やるじゃねーカ!」
 半分残ったピスタチオのジェラートを弾かれた神月は『ジェラートを食いながら』という余裕ぶった行為が『無意味』という事を思い知らされた。
 動きが速い。刃の一撃より、柄での『薙ぎ』、石突部の『突き』、柄の長さゆえの『リーチ』。それらが素早い動きと巧みな扱いで襲い掛かるのだ。
 あこの『紅瞳覚醒』は、すでにかかっている。が、それでも心もとない。
「こんノォ!」
 旋刃脚を放つも、回転したアックスの前に弾き飛ばされる。
「……なら、これはどうや!」
 マリアのライトニングロッドから、雷がほとばしる。
『ライトニングボルト』の雷撃は……『ストライダー』が地面に突き刺した、ルーンアックスに命中。
 そして『ストライダー』自身は、武器を手放し、長い手足を利用した拳と蹴りをマリアへと放った。
「ぐっ!……はっ、大したこと、あらへんな!」
 両腕でしっかり防御したマリアだが、その言葉と実情は裏腹。
(「思ったより、やるやないか……!」)
 長い手足と武器、そして重たい一撃。格闘戦では明らかに不利。
 両手足を付いて飛び跳ねる『ストライダー』。その様子は、まさに蜘蛛や虫。
 ひょいひょいと飛び跳ね、長柄の斧を脚で引っかけ回収し、再び身構える。
「…………」
 そいつのその様子を、あこは『観察』していた。
(「『何か』が……見定めるべき『何か』が、あるはずなのです! それを見抜いてみせるのです!」)
 だが、あこのその様子に気付いたのか。『ストライダー』は、
 今度はあこ目掛け、駆け出した!

●逆転せよ、ホームランバーで当たりくじを当てるように
「……大丈夫、心配はいりませんよ。お婆様」
 白杖を付いた老婆を、お姫様だっこしたエメラルドは、光の翼で空中を進み、
 警備員たちの前に舞い降りた。
「彼女を頼む!」
 OKを貰い、エメラルドは再び空へと舞い上がった。
 そして、永代は。
「大丈夫だぜ! 兄ちゃんが二人とも安全な場所へ運んでやるからな!」
 片足が義足の少年と、意識を失っていた少年の祖父とを、同時に運んでいた。
(「くそっ、エインヘリアルの野郎! 心臓の悪い爺さんに無理させやがって!」)
 警備員へ二人を運ぶ。
「二人を頼む!」
 そう言って、その警備員に後を任せる永代。
 この二人の無事を確認したかったが、その前にやるべき事がある。そう、『ストライダー』という怪物をぶっ倒す事。
「待ってな、今すぐにぶちのめしてやんぜ!」

「今すぐに、見極めるのです!」
 自身に叱咤するかのように、あこは己への言葉を発した。
『ストライダー』は、長い手足を存分に用い、長いリーチで攻めまくる。
 アックスの長柄が、突き、弾き、叩き伏せるが、あこはあざを作りつつ、それらをガード。
 ベルが『清浄の翼』でヒールしてくれるため、なんとか耐えられる。
 何か、何か『策』を……こいつに対する『策』を、見つけるのです!
 そう思った、その時。
「調子にのんじゃねえゼ!」
 後方から神月が、
「同感や! こんボケが!」
 真横からマリアが、同時に『ストライダー』へ攻撃を仕掛けた。同時に、あこも獣撃拳を放つ。
 が、それらの全てを、『ストライダー』は長い手足と斧で受け止め、弾いてしまった。
 万事休すかと思った、その時。
『!』
 懐に入ったベルが、その爪で『ストライダー』をひっかいたのだ。
「! 見えましたです! ベルのおかげなのです!」
 そこに、戻ってきたエメラルドと永代。
「すまない、遅れた!」
「だが、あらかた避難は完了させたぜ!」
 駆けつけたエメラルドは、まず『ウィッチオペレーション』で回復を。
「皆さん! 『見極めました』!」
 そして、あこが自身の発見を告げる。
「見極めた? どうすれば、こいつを倒せる?」
「『突破口』は、『三つ』あります! それは……」
 あこが、その内容を口にする。
「うおりゃああアッ!」
 それを聞いた神月が、降魔真拳を、
「ぶち抜いたる!」
 マリアが、パイルバンカーで『デッドエンドインパクト』を、
「直撃しろーっ!」
 永代が、フェアリーブーツからの『フォーチュンスター』を、
 それぞれ三方から放った。
『ストライダー』は、手足でそれらを弾き受け流したが、
「そこですっ! 『獣撃拳』っ!」
 先刻のベル同様、懐に入られたあこの一撃を、もろに食らった。
「やった!」と、快哉するエメラルド。
 突破口の『一つめ』は、
「……敵は、三方向から同時に攻撃されても、それらを防ぐことができるのです! でも……」
『二つめ』、
「でも……その状態で、四人目が懐に入れば、攻撃を当てる事ができるです!」
 先刻のベルの動きから、あこはそれを見抜いていた。
 胸を爪で抉られ、血を流す『ストライダー』。焦ったかのように、今度は距離を取り始める。
「そして、『三つめ』! それは……『ペースを崩されると、攻撃を受けやすくなる』のです!」
 それを聞き、神月は、
「おウ! 任せナ!」
 如意棒を用いて……『ストライダー』に向かう。
「こちらも、行かせてもらう!」
 エメラルドも、フェアリーレイピアで、
「うちも行くで!」
 マリアも駆け出した。
 焦った『ストライダー』は、長柄のルーンアックスを回転させるが、
「まずはその動き、止めてもらうで! 『神鎖抑制閃弾(グラビティインヒビター)』!」
 マリアが放った光の麻酔弾が、『ストライダー』の動きを抑制。
 続き、
「薔薇の花弁とともに、飛び散るがいい! 『薔薇の剣戟』!」
 幻影の薔薇の花びらが舞う中、エメラルドの幻惑させる剣先が切り裂き、
「一気にとどめル!『双龍百裂棍』ッ!」
 神月が、二本の如意棒を百裂棍と化し、猛烈に叩き付ける。
『ストライダー』、エインヘリアルは、声なき断末魔の悲鳴を上げつつ、最後の攻撃を受け、果てた。

●クリームもミルクもラクトも、みんな愛ス
「やれやれ、ようやくアイスの時間だー!」
 事後。
 後片付けと、助けた人たちの安否確認の後、永代は一息入れていた。
「さてと、ヒールも終わったことやし……」
 マリアは、ヒールの際に壊れたものを移動する手伝いを終え、
「本格的に楽しむとするか! 久瑠美ちゃん、いちごちゃん。ラムレーズン・パイナップル・桃のトリプル頼むで!」
「はいっ!」
 マリアに続き、
「あたしも改めて頼もうかナ。その後デ、皆で繰り出さないカ?」
 神月が久瑠美といちごを誘っていた。
 あこは、『天使のジェラート』から離れた店にて。
『らぶりーGOAT』。ここはヤギミルクのアイスの店で、普通の猫も飼い主と一緒に食べられるメニューを出していた。
「ヤギミルクアイスと、猫ちゃん専用アイスキャンデー。両方くださいなのです!」
 と、買い求めたあこは、ベルとともにそれらを舐め始める。
 自分はネコ……ではなく、猫科の、虎のウェアライダー。そしてベルはウイングキャット。ここまでこだわらなくともよいが、
「それでも、『あえて』こだわりたいのです」
 などと思うあこだった。
 そして、永代は。
 久瑠美のおすすめの出店、『ヘブンズフローズン』にて、
「ああ、ストロベリーとオレンジの、ダブルを一つ頼む。永代殿は?」
「じゃ、じゃあ……バニラとチョコ、柚子のトリプルを、カップで」
 エメラルドとともに、ジェラートを頼んでいた。
 改めて再開したフェスの中を、エメラルドとともに回る永代。
(「こないだの花火の時には、はぐれてしまったが……今回は……」)
 デート、と呼べるのでは。よっし、イチャコラを狙うぞー!
 などと妄想してたら、
「……永代殿。柚子、一口いいかな?」
 エメラルドから話しかけられた。
「え? あ、ああ! どうぞどうぞ! ……でも、エメラルドちゃんのも美味しそうだね」
「いいよ。ここのストロベリージェラートは中々だ。ちょっと食べ比べしてみたいな」
 と、二人してスプーンを、互いのジェラートに入れ、一口。
「今年は日射しが強かったが、その分こうして……冷たい物をより美味しく感じる事が出来る。……夏も、良いものだな」
「そ、そうだね」
 エメラルドの横顔に、まるで初デートの中坊か高校生のように、ややドギマギな永代。
「……ちょっと、動かないで」
 と、エメラルドが彼の頬に手を伸ばし、
 頬についていた、柚子味のジェラートをぺろり。
「……こういうのも、悪くないよ」
 そう、悪くない。
 エインヘリアル討伐任務だったが、それを成功させて終える事ができた。ちょっとの間、こんな贅沢するくらいは、構わないだろう。
「……夏の思い出、結構作れて……」
 楽しかった。そう思う永代だった。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月11日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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