大菩薩再臨~まだだ、まだ死にたくない

作者:なちゅい


 とある洞窟。
 虹色の翼をもつビルシャナ、天聖光輪極楽焦土菩薩。
 そいつは力を使い尽くして疲弊しており、今にも力尽きようとしていた。
 それでも、大菩薩再臨の為に、最後の力を振り絞って儀式を行うようだ。
 洞窟の岩壁や地面には、ビルシャナの曼荼羅陣が彫られている。
 その曼荼羅陣に、そいつは最後の1滴までグラビティ・チェインを注ぎ込み続けようとしていた。
 やがて、天聖光輪極楽焦土菩薩の目の前に3つの光が灯っていく。
 そして、その光はそれぞれ、ビルシャナを形作っていった。
 そのうちの1体、浄妙菩薩が力尽きかけた天聖光輪極楽焦土菩薩へとこう告げる。
「ご苦労であった、お前の集めた力は大菩薩顕現には足りぬが、後は我らが引き受けよう」
「…………」
 何も言葉を返さない天聖光輪極楽焦土菩薩へ、浄妙菩薩がさらに告げる。
「あぁ、定命に苦しむ者の嘆きの声が聞こえる……。必ずや、ビルシャナ大菩薩を再臨させ、全ての定命に苦しむ者達を救ってみせようぞ」
 そう告げ、浄妙菩薩は洞窟から去っていったのだった。


 とあるアパート。
 そこでは、寝たきりになっていた90代男性、松元・和夫が床に臥せっていた。
 体力的には限界がきている。お迎えが近いと本人も実感がありはしたようだったが……。
「いや、まだだ、まだ死にたくない……」
 彼は自らの死を受け入れていない。
 だが、そんな和夫は今まさに寿命が尽きようとしている。
 そんな彼の元へと、ビルシャナ『浄妙菩薩』が現れた。
「お前の死は、本来の寿命では無い」
 この場には誰も現れない。ビルシャナの出現によって、同居していた彼の家族は皆意識を失って倒れていたのだ。
「ビルシャナ大菩薩によって世界全てが合一する事で、全ての存在は『星と同じだけの寿命を得る事ができる』のだ」
「おお……」
 それは、命の灯が消えかけた和夫にとって、素晴らしき教義に感じられた。
 ――全ての生物が本来の寿命を得る事ができるように、共に戦おう。
 浄妙菩薩の教義に強く共感した和夫の体が急に変化を始め、老体に若かりし頃に力が宿り、全身に羽毛が生えていく。
「……伝えねばならん。わしのように命尽きかけた者達にな」
 ビルシャナとなった和夫は爛々と目を輝かせ、自らと同様に人々を寿命による死から解放するべく外へと飛び出す。
 それを確認した浄妙菩薩は小さく微笑み、その場から姿を消していったのだった。


 ヘリポートにて。
 ビルシャナ勢力による新たな動きが確認されている。
「寿命が尽きかけているご老人を狙うビルシャナがいるようだね」
 事件を予見したリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)の話によると、ビルシャナが老人の元に現れ殺害、その力を急襲してパワーアップしていくという事件が起きる。
「この事件、ビルシャナ大菩薩の再臨を目論む有力なビルシャナ『浄妙菩薩』が引き起こした事件なんだ」
 今回現れるのは、寿命を迎えた老人の死にたくないという思いを受け、現れた浄妙菩薩が死から救うとしてビルシャナ化させた存在だ。
 このビルシャナには、寿命で死ぬ間際の老人を殺して吸収する力を持つ為、放置すると、手が付けられなくなるかもしれない。
「早いうちに、対処しておきたい相手だね」

 ビルシャナとなった老人は、別のアパートで自宅療養しているご老人を狙っている。
 すでに、ビルシャナは家族を眠らせ、老人と接触している状況だ。
 敵が老人を殺害して吸収する為には、殺害後に数ターンの集中が必要らしい。
 この為、ケルベロスが乱入した場合、ビルシャナは老人の殺害を止め、邪魔者であるケルベロスを先に撃退しようとするようだ。
「老人を寿命から救おうとするのが目的だからね。確実に吸収できる状態でなければ、手をかけることはないようだよ」
 戦闘になれば、ビルシャナはジャマーとして戦うが、その最中も『定命であれば、必ず死んでしまうが、自分はまだ死にたくない』といった主張を繰り返す。
 そして、『ビルシャナ大菩薩と合一する事で、星の寿命まで生き続ける事ができる。それを、何故邪魔するのか?』といった主張を行ってくるようだ。
 もし、思うことがあるなら、言葉をかけながら交戦するといいだろう。

 一通り説明を終えたリーゼリットはヘリオンの離陸準備を進める。
 そんな中、依頼に臨むケルベロス達が挨拶を交わしてこの事件について語り合う。
「このおじいさんビルシャナに、何か語り掛けるべきかしらね?」
 ユリア・フランチェスカ(慈愛の癒し手・en0009)が首を傾げて、疑問を投げかける。
 どうすべきか、皆考える。被害が大きくなる前に倒すべき相手なのは間違いないのだが……。
「お待たせ。準備できたよ」
 ヘリオンから顔を出すリーゼリットは、参加メンバー達へとヘリオンに乗るよう促す。
 ケルベロス達を乗せたヘリオンは一路、現地を目指してヘリポートを飛び立ったのである。


参加者
神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)
大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)
真木・梔子(勿忘蜘蛛・e05497)
秦野・清嗣(白金之翼・e41590)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)
藤堂・武光(必殺の赤熱爆裂右拳・e78754)

■リプレイ


 事件の起こる街へと降り立つケルベロス。
 白い髪、4対の白い面梟の翼を持つオラトリオ男性、秦野・清嗣(白金之翼・e41590)は予知を元にした情報から、部屋の位置、要救護の老人がどの部屋で寝ているかなど、居場所を確認していく。
 衣服を着崩し、ややのんびりして緩さも感じる清嗣だが、確認した状況、行動方針をしっかりと仲間達へと周知へと当たっていた。
「フハハハ……。我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大首領!」
 現地へと現れた黒鎧に怪しい仮面を装着して全身を覆い隠した大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)が高らかに笑い、名乗りを上げる。
「ほう……、死への恐怖と生への渇望に付け込むとは考えたものだな」
 すでに、その姿はこの近場からいなくなっていると思われるビルシャナ『浄妙菩薩』。
 そいつが生み出した新たなビルシャナが死の縁にいるご老人を狙っているという。
 世界全てが合一する事で、全ての存在は『星と同じだけの寿命を得る事ができる』。
 それが彼らの教義だ。
「ひとつになるから殺しても構わない、なんて考えてるのかな」
 チーム最年少、狸っぽい容姿に、鼻のあたりに横一線の傷が入った少女、藤堂・武光(必殺の赤熱爆裂右拳・e78754)はそんなことを考えてから、力強く拳を握る。
「もし、そんなこと考えてるようなら、絶対に許さないぞ。堂々猛る右手に誓い、悪は討ーつ!」
 そう叫ぶ武光は悪の新入社員であり、領の部下だ。
 ただ、今回ビルシャナとなった老人に対しては、複雑な思いを抱くメンバーもいて。
「死の恐怖、拭えないものですが。人を辞めてまで、生きる意味はあるのでしょうか?」
 四肢を地獄化させたレプリカントの女性、真木・梔子(勿忘蜘蛛・e05497)はそんな疑問を皆に投げかける。
 しばしの沈黙の後、銀の髪を纏めたシャドウエルフの青年、神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)が口を開いて。
「多分、俺みたいな若造が言っても、聞きはしないと思う」
 普段、楽観主義者な印象を抱かせる瑞樹だが、ビルシャナとなった老人が聞いてくれるのであれば、こんなことにはならないと冷静に捉えて。
「生きたいという気持ちは、誰にも止められないのかもしれないね」
 そこで、金髪碧眼の人派ドラゴニアンの青年、ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)が語る。
 死に瀕するという状況を推し量るのは難しいが、いくら生に縋るにしても、ビルシャナとしてあり続けるのであれば、ケルベロスとして止めねばならない。
 ウリルはそうして、人ならざる存在となり果てたご老人を止める決意を見せて。
「出来ることなら、人の尊厳を持ったままで」
「残りの時間が迫っているとしても、もし人に戻れるなら……。まだ間に合うかもしれないから」
 梔子も、ウリルも、そのビルシャナを人として、最後を迎えさせたい。そんな希望を告げた。
 そんな仲間達を目にしながら、瑞樹はふと抱いた疑問を口にする。
「それに……、星の寿命って、どこからどこまでを言うんだ?」
 文字通り、星の崩壊のことなのか、それとも……。
 実際、どこまでを捉えているのかは、ここで語っても推論にすぎず、瑞樹も一旦考えるのを後回しにしていたようだった。


 現地へと到着し、ケルベロス達は急いでビルシャナが襲撃した部屋を目指す。
 すでに、扉を破壊したビルシャナは家族を気絶させ、寝たきりで死期の近い老人に接触しようとしていた。
 突入に当たり、正面から突入するメンバーも多いが、空が飛べる清嗣やウリル、ユリア・フランチェスカ(慈愛の癒し手・en0009)が窓を突き破って駆け付ける。
 ご老体とビルシャナの間に割り込み、ケルベロス達は敵を牽制していく。
「自らは死にたくないと言いつつも、合一という自己であることを捨て、星の寿命などという曖昧なものに縋った者よ」
 領はこの場のご老人殺害を止めるべく呼びかけると、ビルシャナとなった松元・和夫はゆっくりと振り返って。
「ケルベロスか……。我らの教義、邪魔はさせんぞ」
「合一言ってもビルシャナになるんじゃ、結局自分自身のままじゃない、別人になるような物じゃないか」
 瑞樹は説得などビルシャナは聞き入れないだろうと考え、言いたいことをそのまま口に出す。
「そんな存在になってまで、生き延びることに意味はあるのか?」
 いきなり交戦を始めぬようにし、一行はまず寝たままの老人を避難させる為の時間を稼ぐ。
 そちらは武光とユリアが担当し、安全な場所まで老人の避難へと当たる。
「もちろんだ。全てが一つとなれば、私は生き続けることができる……」
 やはりかと、首を横に振る瑞樹。
 ビルシャナはすでに応戦モードだ。
「かくなる上は、排除せねばなるまいて……!」
 経文を唱え、ケルベロス達を惑わせて来ようとするビルシャナ。
 武光達がうまくこの場のご老人を外へと運び出したのを確認し、梔子も仲間の盾となるべく前線に立って。
(「少しでも、私の経験が伝えられたなら……」)
 彼女は仲間を護りながら、目の前のビルシャナとなり果てたご老人の説得を開始するのである。


 早速、ビルシャナとなった老人、松元・和夫は、ケルベロス達へと経文を唱えてくる。
 身構える梔子がオウガメタルを使って黒太陽を具現化し、ビルシャナへと絶望の黒光を浴びせかけていくが、敵の詠唱は止まらず。
「――ビルシャナ大菩薩によって世界全てが合一する事で、全ての存在は『星と同じだけの寿命を得る事ができる』のだ」
 その抑えに毛玉のようなボクスドラゴンの響銅が当たってくれる中、主の清綱はできる限り室外へと戦闘を拡散させぬよう気掛けながらも、室内でステップを踏む。
 フェアリーブーツにグラビティを込めて踊ることで、周囲に振る花びらのオーラが響銅を正気へと戻していく。
 その箱竜はというと、盾となる梔子から自らの属性を注入し始めていた。
「合一すれば、個は失われ、意識は消滅しかねない」
 せめて、最後は人間として逝ってほしい。
 そう願うからこそ、清嗣は戦いながらも誠心誠意を込め、ビルシャナの説得へと当たる。
「寿命も他者からグラビティを奪ってこそで、真実永遠の命ではない。結局は奪う事になる」
 この教義は余りにも視野が狭隘すぎて、多面的な視点に欠ける。
 故に、心理には程遠いことを清嗣はビルシャナに気づかせようとしていた。
 一通り、先に言いたいことを告げていた瑞樹は、ゾディアックソードを手に床へと守護星座を描いて仲間達の耐性を高める。
 そこから、瑞樹はチームの火力として攻撃を始めていた。
 同じく、火力役として攻撃を行うのは、世界征服を企む秘密結社の首魁である大首・領だ。
 彼は腕に装着したパイルバンカーに螺旋力を込めてジェット噴射し、ビルシャナへとぶつけていく。
 続けざまに、ウリルは皮のロングブーツ『Ensemble l'avenir』で強く重力を宿して蹴りを浴びせかけ、相手の足止めをしつつ話しかける。
「生きたいという気持ちは判る」
 ――命あるものは皆、そう思って日々過ごしているのだと思うから。
 ウリルは、そのビルシャナの考えに一定の理解を示す。
「星の寿命まで生き続ける事はできるのかもしれないが、自分の持っている全てを失う事になる」
 しかし、そこで敵はウリルの主張を遮るようにして、命の炎を燃やして放ってくる。
「あなたは、その姿で長生きしたくて今まで生きてきたのですか?」
 チームの盾として炎を防いだ梔子が今度はビルシャナを諭すように語り掛ける。
「人として生きてきた事を誇りにもってほしい。成れ果てた姿に……、私の様にならないでほしい」
 元々は地球人であった梔子だが、ダモクレスの襲撃に遭った際に彼女は人として死んでしまったと言う。
 そして、一時はダモクレスとして。また死して、レプリカントとして生を受け、彼女はこの場にいる。
「壮絶な人生察するが、私にはこれしかないのだ」
 言い返すビルシャナは、全く動じる素振りを見せない。
「たけやん軍団出撃!」
 その時、避難と説明を任せて先に戻ってきた武光が仲間へと紙兵『たけやん軍団』を出撃させつつ相手を見据えて。
「和夫さんは死にたくないと嘆いた恐怖を、与える側になっているんだよっ!」
 自らは死にたくないが、他の人には害を与えるという状況をビルシャナが作り出していることを武光は指摘する。
「ぬうっ……」
「そんなことしちゃったら、絶対に後悔するもんね」
 人は死神になど、なれるはずもないのだ。
 それを、ビルシャナ、和夫が理解してくれるといいのだが……。
 人外となり果てた相手に立ち向かう領は、目の前のビルシャナを見つめてふと思う。
 寿命が尽きかけた者をビルシャナにするという『浄妙菩薩』の行為。
 それは、生への強迫観念にも似たものなのだろうと感じて。
 ――戻れない者に救いがあるとすれば。
(「害成すデウスエクスの一体として、滅ぼされるか人として死ぬかしかあるまい」)
 改めて、領は目の前のビルシャナを止める為、自らのグラビティと共に思う言葉をぶつけていくのである。


 ケルベロス達は、ビルシャナとなった老人、松元・和夫に対して攻撃を続けていて。
「しばし、凍り付いてもらおうか」
 ビルシャナが放つ氷の輪。それがやや前のめりに布陣する形の一行、前方に布陣するメンバー達を傷つけていく。
 それを受けた瑞樹は自らの身に卸した御業から炎の弾丸を放ち、続けて、領が『戦鎚ヴァルカン』で素早くも的確な一撃を叩き込む。
 身体を燃え上がらせるビルシャナは同時に、別の個所を凍りつかせていた。
 そんな敵へと武光がさらに近づいて。
「初めまして和夫さん、藤堂・武光です、よろしくお願いします!」
 なお、武光と書いて「たけみ」と読む彼女。
 自己紹介しながらも、武光は毘盧遮那の足を強く踏みつけていた。
 畳みかける攻撃に、やや怯むビルシャナ。
 度重なる足止めを受け、動きが鈍り始めたビルシャナへとウリルが告げる。
「ビルシャナとなり、自分自身さえも無くして、その全てを引き換えにしても生き続けたいのか?」
 呼びかけながらも、ウリルは黒き竜との契約による狂宴の中で敵を鎖で縛り付けてしまう。
 戦いの中、ウリルの脳裏に過ぎるのは、家で待っていてくれる妻の姿。
「傍らに大切な人の姿もなく、永遠と思えるほどの時間を一人で過ごす事に、何の意味があるのか」
 梔子もまた、呼びかけを続けて。
「やり残したことがあって、悔いが残るから行きたいと願う気持ち……」
 言葉をかけながら、彼女もまた遠隔操作した黒い鎖でビルシャナの体を締め上げていく。
「それに少しでも叶う様に、罪を犯さず人に戻ってほしいのです」
「人に戻れば、私は死を迎えるだけだ」
 やや物悲しそうに一言発したビルシャナがすぐに炎を飛ばすと、武光が身を盾として受け止める。
 そこで、老人の避難と説明を済ませたユリアが戦線に加わり、
「定命であることの何が悪いのかしら。定命として生を全うできることはこんなにも素晴らしいのに……」
 柔和な笑みを浮かべ、ユリアは天使の翼を広げてオーロラの光を放つ。
 それによって癒しを受けた武光は逆に、ユリアに対しても紙兵を撒いて万全を期していたようだ。
 少しずつ、敵に迷いが見え始めてはいる。
 清嗣はそれを見て、人に戻すことはできないかと木版刷りの嘉留太……シャーマンズカードで青い光の中に凋落のきっかけを映す。
「懺悔と自新の札」
 懺悔と後悔の念を起こさせ、改過自新へと向かわせるべく働きかける白い光。
 それに相手を包むことで、清嗣は彼が……和夫が今後へのきっかけをつかめる機会になればと願って。
「どうか、その教義を捨てて、元の姿に」
 響胴も清嗣に従い、仲間のカバ―に当たり続けてくれる。
「死ぬときは、俺は俺としてって願っているし、そうありたいと思う」
 だからこそ、何をしても生き続ける気持ちなど分からないと、瑞樹は影のごとき斬撃を星辰の剣で浴びせかけつつ、ビルシャナへと伝えようとする。
「お、ああっ……」
 瑞樹の一撃を受け、ビルシャナの上体が大きく揺らぐ。
 そこで、領が攻め入って。
「本来、寿命の尽きかけたところにビルシャナと化してしまった段階で、お前への選択肢は最早、限られていたのだ」
 ――我々に滅ぼされて死ぬか。
 ――僅かに残る人の尊厳を持って死ぬかだ。
 『戦鎚ヴァルカン』にグラビティ・チェインを破壊力に変えた力を上乗せし、彼は敵に向かって天から地へと落ちるかの如く叩きつけていく。
「あ、ああ……」
 強い衝撃に、さすがのビルシャナも耐えられず、前のめりに崩れて落ちてしまう。
 倒れた直後、ビルシャナは……いや、和夫は我に返って。
「わ、私は……」
 若いケルベロス達の呼びかけに、彼は最後の一時で我を取り戻す。
 ――これでよかったのだ。
 そうして、その姿はゆっくりと消えていく。
 止めの一撃を繰り出した領に対し、武光が大声で絶賛して。
「オリュンポス万歳、大首・領万々歳!」
「…………」
 胸を張る領だが、領は和夫が消え去った跡を何か思うことがあってか、見つめ続けていたのだった。


 ビルシャナとなった松元・和夫を止め、彼が安らかに眠ったところで、ケルベロス達は事後処理へと移る。
 ともあれ、自分達が破壊した窓などを含め、清嗣はフェアリーブーツでステップを踏み、室内に花びらのオーラを舞わせて修復に当たる。
 ウリルは他者向けヒールを所持していなかった為、他のメンバー達のサポートをしながら、外へと気を回して。
「避難した老人やその家族は無事だろうか」
 家族は室内のあちらこちらで倒れており、大きな怪我はない様子。
 そちらには、梔子が経緯を説明していたようだ。
 また、外へと運び出したご老人は、再び家族の元へと武光がユリアと慎重に運び、清嗣が元の通りに床へと寝かしつける。
 武光は静かに寝息を立てていたそのお爺ちゃんとそれを見守るその家族の姿に、これでよかったと感じていたようである。
 一通り事件も解決して、清嗣は仲間達へとレモンのグミを配って。
「はぁ……、お疲れ様」
 彼自身グミを口へと含み、その酸っぱさを感じて少しだけ顔を顰めていたのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月31日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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