浜辺のぽっぽこーん!

作者:星野ユキヒロ


●ぽっぽこーんの目覚め
 千葉県、海の近くの小さな町。お盆もすぎ、まだ暑いとは言えもうさすがに遊泳にはクラゲ的な意味で向かなくなってきた浜辺にもう海水浴客の姿は見えない。
 かきいれ時も終わり、店じまいされた海の家の倉庫の中に、壊れたポップコーンマシンがあった。海でポップコーン? という気もするが、このマシンはかつて海の家の持ち主の一人息子の誕生日に導入されたものだ。もうその子も大人になり、年季の入ったそのマシンもとうとう天寿を全うし、粗大ゴミの日を待つばかり。
 そんなポップコーンマシンの眠りを妨げるのは小型ダモクレス! 蜘蛛のような動きで忍び寄ると内部に侵入し、中枢機械を乗っ取った!
『ぽっぽこーん!!』
 壊れたはずのマシンは奇っ怪な叫びを上げながら倉庫のドアを吹っ飛ばし、ざくざくと浜辺を歩き出す!

●ポップコーンマシンダモクレス討伐作戦
 千葉県の浜辺の倉庫でポップコーンマシンダモクレスの事件が起こることを影守・吾連(影護・e38006)は懸念していたという。
「吾連サン、バッチリ的中ヨ。皆サンには、ポップコーンマシンのダモクレスを倒しに行ってもらうヨ」
 クロード・ウォン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0291)が今回の事件の概要を話す。
「シーズンでなければ人はあまり来ないところヨ。浜辺の持ち主と警察に頼んで人払いしてもらってあるのことだケド、ほうっておいたらやがて誰かが襲われてグラビティチェインを奪われてしまうね。そんなことになるのはなんとしても阻止するヨロシ」

●ポップコーンマシンダモクレスのはなし
「このダモクレスはポップコーンマシンに足が生えたダモクレスヨ。はじけ飛ぶポップコーンがそのままガトリングガンとして機能しているネ。いい匂いだし、ウキウキしそうなものだけど、ダモクレスの武器だからそれなりの殺傷力は持ってるヨ。アチチじゃすまないから、油断は禁物アルネ」
 クロードは手持ちのモバイルで浜辺の航空写真を見せて戦闘区域を説明した。
「ここからここまで、警察に封鎖と避難をお願いしたアル。だから人払いは気にせず、純粋に戦闘頑張っチャイナ」

●クロードの所見
「ポップコーン。ウォンサン達は玉米花って呼んでたネ。楽しくなりたい時に食べる食べ物アルネ。それも子供の誕生日に送られたマシンが人を傷つけるなんて、台無しも二乗というものヨ。そんなことが起こる前に皆サンには阻止してきて欲しいと思うアルヨ」


参加者
鉄・千(空明・e03694)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
鉄・冬真(雪狼・e23499)
影守・吾連(影護・e38006)

■リプレイ

●朝日の海はキラキラと
『う~みっ!!』
 ヘリオンから降り立った鉄・千(空明・e03694)と影守・吾連(影護・e38006)、通称どらごにあんずは、誰もいない砂浜に向かって手をつないで大ジャンプをした。
「ダモクレスがどこかにいるんだから、あまりはしゃいだらダメだよ!」
「八月も末とはいえまだ全開に暑いですね……しかし浜辺でポップコーンメーカーのダモクレスとは……慧眼ですな」
 どらごにあんずの後ろから、鉄・冬真(雪狼・e23499)とイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)の大人の男組がついてきていた。
 朝の海は登りたての太陽の光をキラキラと反射させ、子供たちのはしゃぐ気持ちもわからないではない。しかし今日はダモクレスを退治に来たのだ。クラゲもいるし。暑いし。冬真は少し小走りになって二人を追いかけた。砂に足を取られて歩きづらい。日差しも強い。どこからともかくポップコーンの香ばしい香りが漂ってきている。敵は近いらしい。
「匂いに惹かれて人が来ちゃったら大変だし、早めに戦いを終わらせたいね」
「夏の海でポップコーンを食べるのもなかなかオツな感じがしそうなのである!」
 冬真の静止に足を止め、吾連は荒ぶるめんだこぬいぐるみをぶんぶか振り回す千に戦いに来たということを思い出させるように話しかける。食欲をそそる匂いに千はひくひくと鼻を動かした。
『ぽっぽこーん! ぽっぽこーん!』
 奇怪な叫び声とともに砂をざくざくと踏み分ける足音が近づいてきていた。四本足の先端は砂を踏み分けるのに適した形に変形しており、ここに破壊を振りまくのだというダモクレスの意思を感じられる。
「人の想いがこもった機械だ。誰かが傷つく前に止めないとね」
 冬真の一言で、ケルベロス達は戦闘配置に付いた。

●機動ぽっぽこーん
「役目を果たしていようとも、オーナーの息子さんの思い出の品を利用させたくはありませんね」
 イッパイアッテナは前衛にヒールドローンを飛ばし、ポップコーン攻撃に備えて防御を底上げした。サーヴァントの『相箱のザラキ』はガブリングでぽっぽマシンダモクレスに噛みつき、身動きを邪魔する。
「むむ。これがぽっぽこーんマシン……頑張ったならちゃんとお休みしてもらわないとなのだ……」
 羽根としっぽを出した千が流星の煌きと重力を蹴り込む。きらめく星屑がポップコーンのように飛び散り、弾ける。
『ぽっ……ぽこーん!!!!』
 星屑舞い散る中、ぽっぽマシンダモクレスはポップコーンを広範囲に撃ちだし、ばらまいた!!
 千の前に羽根をばんと広げて立ちはだかる吾連、その前に飛び出したザラキがポップコーンの弾丸に喰らいつきかばう! そしてそのまま、熱々のポップコーンを口の中ではちはちさせて砂浜をどこどこと走り回った。
「ふわあ、すごい量のぽっぽこーんなのだ、こんなのおうちにあったら毎日ぽっぽこーん祭りしちゃうな……」
「毎日祭りは困るし、買わないよ!」
 爆裂ポップコーンに目を白黒させる千の独り言を食い気味に制し、ガネーシャパズルから竜を象った稲妻を放つ冬真。ぽっぽマシンダモクレスはしびしびと痺れている。
「熱っ、ザラキ大丈夫? 塩かキャラメルか、はたまたカレー味か気になってたけどこれは確認どころじゃないや、みんな気をつけてー!」
 ザラキを逆さまに振ってポップコーンを出してあげた吾連は足にかすったその熱さに驚き、そのままドラゴニックミラージュの幻影を撃ち出す、が、シャカシャカと歩き回るぽっぽダモクレスは器用に炎を避けた。
「カレーの匂いはしませんし、カレーの線はなさそうですねえ」
 吾連の素朴な疑問を軽口で拾って、イッパイアッテナは再びヒールドローンを操った。舌のやけどが回復したザラキがエクトプラズムで武器を産み出し、積極的に石化を狙っていく。
「あちあちすぎるのか……や、別にお口でキャッチしてみたかったとか思ってないのだ!」
 いい匂いだからって食べちゃダメだからね! とやや離れたところから釘を刺す冬真に答えながら。歩き回るぽっぽマシンダモクレスをなんとかしようと千はまた星屑を蹴りつける。細かい星屑が砂浜の歩き心地を変えているのか、敵も先ほどより俊敏ではなくなってきているようだ。
『ぽっぽ! ぽっぽ!』
 足をもつれさせながらもぽっぽマシンダモクレスは千に向かって追撃弾を連射する。両者の間に躍り出た吾連がそれを全て受けた。
「ちょっと冷やそうね」
 冬真の達人の一撃で、高まっていたその場の熱がやや冷まされたようであった。ケルベロスたちの額の汗にすずしい風がそよぐ。
「わあ、涼しい。冬真さんありがと!」
 次にまたドラゴニックミラージュを出そうとしていた吾連は、連続の炎攻撃による熱さを嫌だなあと思っていたので、ありがたく攻撃を繰り出した。
 太陽は浜辺の戦士たちをじりじりと照らしながら、だんだんと上に登り続けていくのだった。

●灼熱のダンスステージ
 照りつける日差しの下、砂をかき乱しながら彼らは戦う。
「さすがにポップコーンだ、際限なく爆発が起こるね。ならこちらから爆破していこう」
 冬真のサイコフォースが爆発を起こす。
「さすが、冬真さんは頼りになりますね。では全てを跳ね返す力を」
 イッパイアッテナの言葉が頑健を暗示し、吾連の傷を癒していく。その間にもザラキはガブリングで捕縛を強化していった。
『ぽっぽこぽーーーーーーん!!!!』
 炸裂するポップコーンが後衛を襲う。
「指天殺で相殺するぞ! だいじょぶ、たこ焼きみたいに指が中まで刺さる訳じゃない、来い!ぽっぽこーん! ……そんなに熱くない、はず」
 千が両手指をあちょっと構え、指先で迎え撃つ。熱っぢゃぁー!!!! という叫びを尻目にザラキもイッパイアッテナを庇った。
「千、大丈夫?」
「う~、だいじょぶ。熱かっただけでなんともなってない、ちゃんと相殺できたのだ」
 千を心配した吾連だが、大丈夫そうなので切り替えて攻撃にかかる。そろそろ効果を重ねに行きたいがぽっぽマシンダモクレスの畳み掛ける攻撃を見るにまだ不十分に感じて、斉天截拳撃で武器封じを狙った。
 千がやけどもしてないのを確認し、イッパイアッテナはザラキの傷だけ回復した。ザラキは舞い上がる砂と熱いポップコーンで口の中をじゃりじゃりさせながら石化を施しに行く。
「千さん、今のうちに攻撃を」
「もいっちょ足止め行くのだあああ」
 千が先ほどのお返しとばかりに(熱い思いしたのは自滅なのだが)星屑と重力を蹴り込むと、ぽっぽマシンダモクレスの動きが目に見えて悪くなった。悪くなったがそのまま首? をもたげ、攻撃の意思を見せる。
『ぽっぽ。ぽおおおおおおおおお』
 爆炎の炎を纏ったポップコーンの弾丸が、スナイパーの千に向かって放たれる!!
「千には絶対当てさせないぞ!!」
 躍り出た吾連が炎に巻かれた。羽根の皮膜や尻尾の先がじゅうじゅうと溶け焦げる。
「吾連!!」
「大丈夫!! 俺は大丈夫だよ!!!!!」
 吾連が大声で叫ぶと、負ったやけどが治り新しい皮膚が再生する。羽根やしっぽがところどころピンクになったが、戦闘終了後にまたヒールし直せばきっと元通りだ。
「あまり子供達ばかり狙わないでもらいたいね。終焉を望むかい?」
 哭切を腰だめに構えた冬真の声は静かだったが、深い藍色を思わせる怒りが滲んでいる。急所を的確にえぐり、ダメージを与えた。
『ぽ、ぽぽ』
 たたらを踏むぽっぽマシンダモクレス。蓄積ダメージが機械の節々に及んでいるようだった。
「そろそろ重ねていくね! 常世で眠れ!」
 魔力で作ったフクロウの幻影が吾連から放たれ、次々と襲いかかる。今までみんなで協力した脚部や射出口、ちろちろ燃える炎などを増幅させていった。
「いいぞ吾連、千もやってやるのだ! 唸れ、らいおん丸!! だだだだ、だーっ!!」
 闘志に燃えた巨大ならいおん丸の幻影が千の拳ににゃんグローブの形に集まっていく。そのまま猛烈な追撃パンチを繰り出す千に、ガシャガシャと殴られながらぽっぽマシンダモクレスは後退りをした。
『ぽ、ぽっぽこーん……』
 猛激に翻弄されながらポップコーンの弾丸をぶちかまそうとするダモクレスだったが、熱や打撃で歪んだ射出口は正確な照準をつけられない! 千にそれが当たることなく、そこらじゅうにポップコーンが散らばる。
「これはそろそろいけそうですよ」
「とどめは子供たちに譲ろうか」
 ザラキと、回復の必要なしと判断したイッパイアッテナがガブリングと斉天截拳撃で畳み掛ける。そのまま冬真もドラゴンサンダーでダメ押しの麻痺をお見舞いした。
「よし! 行くよ千!」
「よし来た吾連!!」
 吾連が生み出した羽ばたくフクロウの群れの中を、星屑をばらまきながら千がキックでブチ抜いていく。それはまるでポップコーンに群がる鳥を蹴散らす元気な子のごとし!! 麻痺や足止めを重ねがけされたダモクレスは逃げられない!!
『ぽ、ぽ、ぽっぽぽっぽぽっぽこぽーーーーーーーん!!!!!!!』
 キックがヒットした瞬間にカッ! と閃光が炸裂し、ぽっぽマシンダモクレスの断末魔とともに大量の出来立てポップコーンが真っ青な空に花火のように打ち上がった!!!
 夏の終わりの真っ白な花火に混じって、ぽっぽマシンダモクレスの破片も空に混じっていくのだった。

●この砂がぜんぶポップコーンなら
「吾連、大丈夫か? 羽根としっぽまだらになってるのだ。マナティーさんみたいなのだ」
「大丈夫だよ、千もどこか火傷してない?」
「二人ともこっちに来てください、ヒールしますよ」
「砂がほとんどだったからあまり直すところはないね。でも破片は危ないからまとめておこう」
 戦いが終わって、ケルベロス達は各自回復しあって後始末をした。撒き散らされたポップコーンはどういうわけか、全部粉々に砕けて砂にまじりもう見分けがつかない。
「しかし、シーズン終わりの海ってのも趣があるなあ」
 任務終了の連絡を入れた冬真が海を見渡す。先ほどの戦闘が嘘のように、潮騒だけが響いている。
「ふむむ……もちょっと海にいたいし、ポップコーンも食べたいのである。吾連、近くのお店行って、ポップコーンとジュース買ってこよう。おやつ食べながら波打ち際をのんびりお散歩するぞ」
「そうだね、ちょっと俺らでポップコーンとジュース買ってくる!」
 保護者の返事を待たずに駆け出した千と吾連だが、数分後吾連だけ戻ってきた。
「冬真さん、俺伝言預かってきてたんだ! 『お風呂の用意して帰りを待ってるよ』だって!」
「了解だよ」
 冬真の愛妻、有理からの伝言を伝えると、親指を立てる冬真を尻目に待ってよーと千を追いかけて言ってしまう吾連。それを見送ったイッパイアッテナが冬真を振り返るとーーー。
「おや、えびす顔」
 冬真はこみ上げる幸せが抑えられないという顔で親指を立て続けているのであった。
「夏の終わりはいつもちょっぴりさみしくなるな」
 コンビニで買った袋入りのポップコーンをまりまり食べながら、戻ってきた千が呟く。
「そっかぁ、まだまだ暑いけどもう夏も終わりなんだよね」
 千の袋からポップコーンをもらいながら吾連は海を見つめた。
「せっかくだし、ちょっとだけ足を浸して海の冷たさを楽しんでいこっか」
「波打ち際でちょびっと足ひたすくらいなら、クラゲさんだいじょぶかな? あれっ、遊べると思うと人があんまりいない海も貸切感あって楽しいな!?」
「ならば私が目を光らせましょう、クラゲに刺させはしませんよ!」
「……じゃあちょっと汗をかいて帰ろうか」
 帰宅後のお風呂を楽しむために、とメガネを光らす冬真を尻目に、残りの三人は波打ち際へ駆け出していった。冬真のスマホのフレームの中に、その姿がカシリと収まる。
 ポップコーンの匂いは楽しさを連想させるもの。ダモクレスになったポップコーンマシンも、かつて楽しさの中に働いていたのだろう。そう思うと、自分もポップコーンの香りの中で楽しみたいという気持ちが湧いてくる。
『今度、映画館デートしませんか?』
 今撮った写真とともに、妻にそんなメッセージを送った。

作者:星野ユキヒロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月27日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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