海は、オンナをナンパする場所だ

作者:芦原クロ

 海辺の端に、男が居た。
 見つめる先には、女性をナンパしている男たちの姿。
 成功を掴んだ男たちを見て、彼は憧れの眼差しをより濃くした。
『俺も成功を掴みたい! 海ではナンパし放題なんだ! オンナをはべらすことこそ、男としての成功であり、正義じゃないのか!?』
 突如叫びだした男は、いつの間にか異形の姿と化し、全身が羽毛に包まれたビルシャナに変わった。

「羽丘・結衣菜さんの調査により、予知出来ました。海でのナンパが大正義であると信じ、強いこだわりを持って、ビルシャナ化してしまったようです。現場には一般人が10人ほど居ますが、放っておけば大正義という熱意を向けられ、ビルシャナになってしまいます。その前に、撃破をお願いします」
「海でナンパして女性を侍らすべきなんて、呆れた大正義ね」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の説明に、羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)は、やや呆れまなこだ。

 大正義ビルシャナは、自分の大正義に賛成する意見でも反論する意見でも、反射的に応えてしまう習性を持つ。
 その習性を利用して議論を挑み、周囲の一般人の避難を行なえばいい。

「意見は、本気の意見でなければいけません。本気で男性の正義とはなにかを語ったり、メンバー内でナンパをし合ったりなどしていれば、ビルシャナは一般人のほうに向かうことは有りません」

 避難誘導時、パニックテレパスや剣気解放や攻撃グラビティなどの能力を使うと、ビルシャナは戦闘行為と判断してしまうので、注意するようにと念を押すセリカ。
「大正義ビルシャナは、自らを大正義であると信じている為、説得して人間に戻す事は不可能です。大惨事になる前に、無事に事件を解決させてください」


参加者
七種・酸塊(七色ファイター・e03205)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
新条・カエデ(まいっちんぐカエデ先生・e07248)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)

■リプレイ


「海水浴というものを勘違いしているようだな……ビルシャナに憑かれた者だし、仕方ない話ではあるが」
 生真面目なエメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)は、敵を見て呆れていた。
「ナンパが目的になってる人も確かに多いですけどね……」
 エメラルドに頷き返す、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)。
「じゃ、気を引く為に俺はナンパしよっと。おー、すっごい。一瞬羽衣に見えて天女様!? って思わず目を奪われちゃった。それって踊り子さんとかイメージしてたり?」
 白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)は、エメラルドに接近しながら自然体で声を掛ける。
『ナンパだ! どうなる? 成功するのか? いや、男ならば成功させろ!』
 敵はすぐさま食いつき、永代とエメラルドに注目する。
「正直言って、海には泳ぎに来てるからナンパされるのは迷惑だ。正義だかなんだか知らんがお前みたいな奴に付きまとわれるのは滅法ゴメンだな!」
『な、なんだと!?』
 一般人を巻き込まないよう、七種・酸塊(七色ファイター・e03205)はバッサリ切り捨てる。
「ビルシャナが暴れようとしているから危険と説いて、安全に離れてもらいましょう」
「はーい、一般人の皆さん今のうちにこちらへ来てくださーい」
 仲間が敵の足止めをしている間に、避難誘導を始める、羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)と新条・カエデ(まいっちんぐカエデ先生・e07248)。
 シャーマンズゴースト、まんごうちゃんも避難誘導を手伝い、割とスムーズに終えることが出来た。


「やれやれ……がっつきすぎるとむしろ女の子としてはドン引きなんだけどなぁー」
『なぜだ!? オンナは強引な男のほうが好みなんじゃないのか!?』
 避難誘導を終えて戻って来た結衣菜の言葉に、すかさず食らいつく敵。
 アロハとサングラスの男装姿で、カエデが結衣菜に近づいた。
「真夏の日差しの中、黒いセクシーなビキニに魅惑の二次元のバストをぎゅぎゅっと詰め込んだ君は、まさに真夏の妖精、平たい胸族のお姫様だね」
 お姫様と書いてプリンセスと読みながら、歯をきらりと輝かせて笑顔でキメる、カエデ。
「そう、ナンパするなら今のカエデさんのように、もうちょっと、爽やかにやってほしいな」
『いやいや、平たい胸って言われてるぞ!? どこが爽やかだ!?』
「誰が平たい胸だって?」
『おぶっ!?』
 にっこり笑顔で、黒いオーラを漂わせ、敵の頬をはたく結衣菜。
「……こんなんじゃ、誘われてもお断りするしかないよね」
 更にダメ出しをする結衣菜に、精神的ダメージを受ける敵。
(「恋愛に積極的なのは好きなんですが、ビルシャナなら倒さないとですね」)
 思案しつつ、カエデは結衣菜を爽やかにナンパし続けた。
「あー、やっぱり。本当に似合ってるし、鈍い俺でも分かる程に着こなしてるのすっごいねん」
 永代は明るい感じで、エメラルドの水着姿を褒めている。
「褒められて悪い気はしないな」
 エメラルドも好意的に返し、永代に向けて柔らかく微笑む。
「んー、笑顔も最高で、ついつい見とれちゃうねん。ちょっと鼓動がヤバいもん、見惚れるってこういう事を言うんだ」
『いい口説き文句だな! もう成功したも同然だな!』
 敵は結衣菜にはたかれた頬をさすりながら、自分もナンパをしようと周囲を見回す。
「海でナンパするって事自体は、私は悪い事だとは思わないのです。そういう場所だから出会える人とか、素敵だと思った人に勇気を出して声をかけるのって、凄い事だと思うですからね」
『分かっているな! セクシーな水着と無表情さが互いの良さを引き出し合っている、魅力的なキミよ!」
 黒いモノキニ水着姿の真理に近づく、敵。
「サーフィンとかダイビングで趣味が合うかもですし、そこからカップルになる事があれば、きっと良い夏の思い出になって……長いお付き合いになれたら、それは良い事だと思うのです」
 真理は動じることも無く、冷静に意見を並べる。
『そうだろう? 俺もひと夏の想い出をキミと作りたいものだ』
 敵が、真理の肩へ手を置こうとする。
 その手を思い切り蹴ったのは、酸塊だ。
「そもそもお前の魅力はなんだ?」
『いてえっ! あ、キミも可愛いな……って、え? 魅力?』
 酸塊に目移りする見境の無い敵は、蹴られたことへの怒りも消えてしまったようだ。
 魅力を問われ、しきりに首をかしげている敵。
「海には沢山女性も来てる、だから声をかけやすい。そこまではわかる。でもお前自身に魅力がないと声をかけてもナンパは成功しないぜ!」
 少し無茶でも押し通そうと、酸塊は敵をビシッと指差す。
『いや、俺……魅力、有るし?』
 敵はしどろもどろになりながら、不安そうに答えた。
「海は水着になるだろ、てことは体つきを一番に見られるわけだ。貧相な体じゃ話しかけても鼻で笑われて終いだぜ。つまりお前のやるべきことは、正義を語る前に筋トレだ!」
 酸塊の筋トレ発言は、少し本音でもある。
 鍛えていないよりも鍛えているほうが好きだったりする、酸塊。
 ショックを受けた敵は、そんなハズが無いというように首をブンブンと横に振った。
『今のままでも釣れる! オンナは絶対釣れるハズなんだ!』
 焦り出し、永代とエメラルドのほうへ向かう。
「君みたいな子と一緒に遊べたら楽しそう。……どうかな、良ければ一緒に遊ばない? 一夏の思い出って気楽にさ」
『踊り子っぽい水着が最高に似合っててキレイなキミ! 俺と遊ぼう、俺のほうがキミを満足させられる!』
 永代の言葉に頷き掛けたエメラルドだったが、必死な敵の声に不快感を露わにする。
「正座、して貰おうか」
『へ? あ、ハイ』
 大人しく浜辺で正座をする、敵。
「良いか、海水浴というのも気を抜けば命の危険に関わるのだ。口だけではくストレッチなどで体を動かしたか? 異性ばかりをみていてはいざ泳ぐ時に溺れてしまうかも知れないのだぞ。しかもこの日射しの中で長時間の雑談など体力の消耗に繋がるだろう」
 長々と説教を食らい、敵はショックで身を震わせている。
「海でナンパが最高とか語ってないで、実践すれば彼女もできたかもしれないのに。そんなだからビルシャナになっちゃうんですよ!」
 カエデが力強く、敵にインパクトを与える。
「だいたい、ナンパする事ばかり考えて、万が一ナンパが成功した後、貴方は一体どうするつもりなんですか?」
『成功したら、はべらして他の奴らに見せびらかすものだろ?』
 続くカエデの問いに、敵は小声で答えた。
「声をかけるだけならし放題だけど、闇雲とか侍らしてたら印象悪くなって成功率下がるよん」
『な、なん……だと!?』
 永代の追い打ちが掛かり、敵は更にショックを受けた。


「そういえば永代殿は、よく海に来るのか? ……もしやナンパ目的ではあるまいな?」
 冗談を交えて問う、エメラルド。
「んー、海って良いよねん!」
 上手くかわそうとする永代だったが、エメラルドの視線を浴び続けると、再び口を開く。
「そもそも、海でのナンパって案外難しかったりするし、言う程する場所じゃないねん。遊びたい子を誘って来るのが一番だって」
「遊びたい子……その中に、私も入っていたら嬉しいかな」
 永代の言葉に、思わず零れた本心。
 次第に恥ずかしくなり、じわじわとエメラルドの頬が赤く染まってゆく。
「エメラルドちゃんの反応は、かわいいねん」
 照れもせずストレートに褒めて来る永代に、更に赤くなるエメラルド。
『あれ? 俺のナンパは失敗に終わったってこと……なのか?』
「失敗して当然です。……貴方の考え方は下心しかないのですよ」
 呆然とする敵に、真理が冷静に言い放つ。
「海で遊ぶ中で素敵な出会いを求めるとかじゃなくて、貴方はナンパが目的になってますよね。ナンパだけしに海に来るのは違うと思うのです。海はナンパの場所じゃなくて、泳いだりする場所なのです。そこを勘違いしちゃダメなのですよ」
 真理の正論に、敵は反論する力も残っておらず、黙り込む。
「戦闘でいいのかな……?」
 結衣菜はプラズムキャノンで、まんごうちゃんは神霊撃で同時に敵を攻撃。
 見切られないよう意識しながら、真理はライドキャリバー、プライド・ワンと共に敵にダメージを与える。
「届かねえ、と思っただろ?」
 屈みこんでから跳躍し、飛び蹴りを放つ酸塊の一蹴は名の通り、敵の意見を一蹴するものだ。
「海で暴れる悪い子は、ちょっと痛い目にあってもらいましょうか」
 カエデは服を翻し、豊満な胸を揺らしながら赤のビキニ姿に。
 戦い続ける者達の歌を奏で、味方を奮起させる、カエデ。
「回復の必要は無いみたいだな? 合わせてゆこう」
 天空高く飛び上がり、美しい虹をまとう急降下の蹴りを叩き込む、エメラルド。
「お前のお陰で俺がおんにゃの子達の水着を拝めたからね、ビルシャナには感謝さ!」
 連携した永代はそう言うも、これはこれ、それはそれ、と割り切って地獄の焔で敵にトドメを刺し、完全に消滅させた。


「人間であるうちに実践できれば君も、こんな風にならなくて良かったのかもしれないのにね」
 敵が消滅した場所に向けて言葉を放ち、カエデは砂浜に、むにゅ無乳! と大きく書いてから去ってゆく。
「折角だし泳いでいくか。遠泳できるところだといいんだが」
 避難解除を要請してから、体を動かすことが好きな酸塊は、準備運動を始める。
「レジャーシートや飲み物入りの保冷バッグを持って来ましたので、欲しい方は遠慮せず言ってください」
「ちょうど喉が渇いていたから助かるわ、ありがとう」
 真理が結衣菜に飲み物を渡していると、一般人から声を掛けられる。
 ナンパかと勘違いして真理は赤面するが、ケルベロスの活躍に憧れたことを聞き、男女数人の一般人と遊びにゆく真理。
「ナンパもしたし、折角だから、遊べるなら実際に遊ぶー。エメラルドちゃんに言った誉め言葉は本当だし、普段のイメージと違った上でも着こなすのって本当に凄いよねん」
「そ、そうか。……今回も助かったよ、ありがとう」
 永代に褒められて少し赤くなったエメラルドは、肩を寄せて礼を言い、海を楽しもうと誘った。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月24日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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