大菩薩再臨~振りかざされる悪意の拳

作者:なちゅい


 とある洞窟。
 虹色の翼をもつビルシャナ、天聖光輪極楽焦土菩薩。
 そいつは力を使い尽くして疲弊しており、今にも力尽きようとしていた。
 それでも、大菩薩再臨の為に、最後の力を振り絞って儀式を行うようだ。
 洞窟の岩壁や地面には、ビルシャナの曼荼羅陣が彫られている。
 その曼荼羅陣に、そいつは最後の1滴までグラビティ・チェインを注ぎ込み続けようとしていた。
 やがて、天聖光輪極楽焦土菩薩の目の前に3つの光が灯っていく。
 そして、その光はそれぞれ、ビルシャナを形作っていった。
 そのうちの1体、悪意の鋒が力尽きかけた天聖光輪極楽焦土菩薩へとこう告げる。
「お前の努力は認めよう。しかし、お前は成し遂げる事はできなかった。何故ならば、お前には悪意が足りなかったのだ」
「…………」
 何も言葉を返さない天聖光輪極楽焦土菩薩へ、悪意の鋒がさらに告げる。
「世界を、そして、全てを染め上げる悪意こそが、ビルシャナ大菩薩降臨の力となる。我が悪意を、そこで見ているがいい」
 そう告げ、悪意の鋒は洞窟から去っていったのだった。


 とある深夜のコンビニ。
 そいつは、ひたすら殴りつけていた。
「おら、おら、早く金出しな!」
 近くのコンビニへと出向いたその男は、強盗を働いていたのだ。
 最初はナイフを突き出していたのだが、あまりに店員が金を出さないと感じたその男、カウンターへと乗り込んで店員へと殴り掛かったのである。
「へっ、最初から金を出していりゃ、よかったのによ……」
 血まみれになって気を失った店員へと唾を吐きかけ、男はレジから有り金を全部盗み、店から逃げ去っていく。

 逃げていく途中、その男は嬉々としていたのだが、その男の前に悪意の鋒が現れる。
「な、なんだお前!?」
「この程度の悪が、お前の望みであるのか?」
 驚く男は尻もちをつき、現れたビルシャナを見上げる。
 しかし、悪意の鋒は構うことなく言葉を続けて。
「そんな筈は無いであろう? お前の心は更なる悪徳を望んでいる筈だ。その為の力を、私が与えてやろう」
 そして、ビルシャナは男の内なる悪意を増幅していく。
「うう、うう……うわあああああ!!」
 男の姿は見る見るうちに変貌し、全身から羽毛を生やしていく。
 叫びが止まった時、そこには新たなビルシャナが誕生していたのだった。


 ヘリポートにて。
 ビルシャナ勢力による新たな動きが確認されている。
「悪人のビルシャナが悪意のままに、事件を引き起こすようだよ」
 リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)はそんなコメントで説明を始めた。
 ビルシャナが事件を引き起こす前に討伐できれば、問題ない事件ではある。
 そこで、彼女はこんな話を付け加えた。
「この事件、ビルシャナ大菩薩の再臨を目論む有力なビルシャナ『悪意の鋒』が引き起こした事件なんだ」
 この事件が、このビルシャナは事件を起こす度に悪意が増幅し、より強力なビルシャナとなって更に大きな事件を起こし続けると思われる。
 質の悪いビルシャナなので、早いうちに討伐しておきたい相手だ。

 このビルシャナ、とある別のコンビニを強襲しようとしている。
 強盗を繰り返し、悪意を増幅させようとしているのだろう。
「狙うのは、とある駐車場のある大通り沿いのコンビニだね」
 入ってすぐ、カウンターの店員につかみかかり、金をゆすろうとするようなので、できるだけそれを水際で食い止めたいところだ。
 後はそのまま倒せばいいが、店のことを考えれば外に出してから交戦する方がいいかもしれない。
 その場合でも、戦闘後のヒールは必須となるだろう。

 一通り説明を終え、リーゼリットがヘリオンの離陸準備を進める中、依頼に臨むケルベロス達が顔合わせを行う。
「悪意を強めるビルシャナ……か」
 雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)が話を聞き終えて呟く。
 今回の相手を倒すのは絶対だが、際限なく悪意を増幅させて力を増すという『悪意の鋒』は脅威。手合わせする機会があれば、早いうちに倒しておきたい相手だ。
 回り出すヘリオンのプロペラ。どうやら離陸準備が終わったらしい。
「みんなの準備はいいかい? ……それでは行こうか」
 リーゼリットはケルベロス達の状態を確認し、準備ができているメンバーから自身のヘリオン内へと案内するのだった。


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
秦野・清嗣(白金之翼・e41590)
嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)
 

■リプレイ


 某所の大通り沿いにあるコンビニエンスストア。
 そこに、ビルシャナと化した強盗が襲ってくるとの予知があった。
 あまりにも自分勝手であり、一般人に被害を及ぼす敵に対し、現地に向かうケルベロス達の表情は険しい。
「むっきゅー! 平和を乱すような奴は許さないぞ!」
 見た目は女の子な成人男の娘、平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は可愛い仕草で今回の敵に腹を立てている。
「『悪意の鋒』……」
 その名に、椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)は一瞬だけ全身を強張らせてしまう。
 女性と見紛う容姿の彼は普段から、女性のような服装を纏って廓語を使うが、今回は男性的な装いかつ男性的な語り口で依頼に臨んでいる。
 話によれば、ビルシャナ『悪意の鋒』は悪意に満ちた人間をビルシャナに変えているという。
「悪意が救済になるはず、なかろう」
 熊耳熊尻尾の女性、端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)がはっきりした口調で断言する。
 僅かばかりならば誰しもが抱き、或いはことを為す原動力にさえなりえる其れ……悪意も、過ぎたれば万人に仇なす毒薬以外の何物でもない。
「ビルシャナは、衆生一切を救済するのではなかったかの。なんじゃ、その有様は」
 括はビルシャナの活動にさえも疑問を投げかけ、呆れてしまっていたようだ。
「悪徳で世界が染まらんとするとき、必ず善が現れ、革命を起こすだろうな……」
 ワイルド化した両目を閉じたままのオウガ、嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)が悟ったように語る。
 星や国々の歴史がそれを証明していると、槐はいくつもの史実が裏付けていることを指摘していた。
「まぁ、それはそれとして、目先のコンビニ強盗を止めねば」
 今回の討伐対象も、悪意を抱く故にビルシャナへと変えられた1人。
 どうやら、幾度かコンビニ強盗を働くような男だったらしい。
「もともと犯罪者だから、もう容赦する事もないか……。まったくねぇ」
 緩い口調と服装をしたオラトリオの男性、秦野・清嗣(白金之翼・e41590)は、今回の討伐対象が引き起こす事件が元々警察沙汰だったことを指摘して。
「まぁ、日ごろの行いって事かな。多少の慈悲もなしだねぇ……今回は」
 口調こそ緩いが、引き締まった表情の清嗣は無駄に色気を醸し出しつつも今回の事態に当たる。
 そんな仲間達の会話を聞きつつ、所持するスキットルの中身を煽る黒狼のウェアライダー、伏見・万(万獣の檻・e02075)。
 先日の暴走からの復帰でやや心身に不安定さを抱きつつも、彼は依頼に参加し続けている。
 そして、笙月は僅かにだが小刻みに震える腕を押しとどめ、長い後ろ髪をきゅっと一本に結う。
 すでに、現場のコンビニが遠くへと見えてきていることもあり、軽く深呼吸した笙月は気を取り直してから現場へと向かうのである。


 すでに、そのコンビニにはビルシャナと化したコンビニ強盗が押し入り、店員を脅していた。
「金だ! 金を出せ!」
「ひ、ひっ……」
 深夜で、店員は2人。大通りとあって、利用者は深夜でもちらほらといるようだ。
 相手はデウスエクス。警察を呼んだところでと躊躇する店員達。
「悪意を挫きに、ケルベロスの登場だー!」
 そこに、和が入り口から堂々と店内へと入り、レジで拳を突きつけるビルシャナと店員の間へと強引に割り込んでいく。
 同じく、妖刀魔剣の類がベースとなった実験機の少女、アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)もまたビルシャナの体を無理やり引いて店外へと誘導しようと動く。できるだけ、店内の商品に被害が出ないようにする為だ。
「何だ、貴様ら、離せ!」
「自分が無敵に思えるか? 随分、浮かれてンじゃねェか」
 相手が強盗であるならば、万もチンピラ口調全開で対しつつ敵をケルベロスチェインで絡めとっていく。
 敵が暴れる度に、レジ前に陳列していた商品が荒らされる。
 その様子は一見すれば、駄々をこねている子供のようにも思えてしまう。
「唆されて踊らされて、実際は無様だがよ」
「ぐぬぬ……」
 万に煽られた強盗は歯ぎしりしてしまっていた。
 そんな敵へと、笙月が問う。
「……悪意の鋒、その名に覚えはあるか?」
「ああ?」
 強盗はガンを飛ばしてくるが、笙月がそれに怯むはずもなく。
「もちろん知っているよな? 貴様をそのようなバケモノに変えた、奴のことだ」
「知るかよ、っせーな!」
「頓着しないにもほどがあるな。そんな姿になって、頭まで鳥になったのか?」
 メンバー達が敵を挑発指摘を引く中、別働で動くメンバー達。
 括は即時大通り側へとキープアウトテープを張り巡らし、無関係の者達の接近を防ぐ。
「今のうちに、裏口から逃げろ」
 店員に退避を促す槐。
 ケルベロスの介入もあり、彼らも礼を告げながら槐の指示に従っていたようだ。
「リュエン、手はず通りに頼んだよ」
「心得た」
 サポートに駆け付けた雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)は清嗣の要望に応え、店員と客の避難に当たり始める。
 残念ながら、清嗣自身が一般人に声掛けする余裕はなさそうだ。
 メンバー達は強引に暴れる強盗を押さえつけつつ、煽りも交えて外へと連れ出そうとする。
「悪意って言っても、この程度とはやっぱ小物だよねぇ。力を授かったにしてはやる事は結局これかい」
 結局、この強盗にもっと大きなことをするような度胸はない。
 清嗣はその男の心情を鋭く突いて見せる。
「それだけの力を与えられたのに、コンビニ強盗で満足とは……」
 笙月は強盗に悪意を与えたビルシャナの話を持ち掛け、強盗を煽り続ける。
「ククッ。所詮は貴様も其処迄の男なのだろう……。奴も耄碌したものだな……」
 自らの煽りには過敏に反応する強盗だが、そいつをビルシャナと化した悪意の鋒についてはさほど関心を見せない。
「悪意が教義の鳥野郎を知ってるぜ」
 だが、万がこう告げると反応が変わる。
「……こないだ俺が喰っちまったから、てめェが会ったのとは別モンだろうが」
「なっ……!?」
 自らに被害が及ぶことには過敏な敵。
 実のところ、暴走しての辛勝ではあったのだが、強がる万はにやりと笑いかけて。
「てめェも同じ所に送ってやらァ」
「ぎったんぎったんにしてやるんだからー!」
 なんとか敵を店外まで引きずり出し、和は仲間に合わせて本格的な攻撃を仕掛けていくのである。


 コンビニ店内から外の駐車場へと強盗ビルシャナを引きずり出したケルベロス達。
「敵が妙な動きをしないよう注意しよう」
 向かい来る強盗目がけて仕掛ける清嗣は仲間達へとそう一声かけながらも、自らの体に御業を卸す。
 彼はそのまま御業の力で強盗を鷲掴みにし、強く拘束して。
「くそっ、離せ、離しやがれ!」
 悪意の拳で強盗は清嗣を叩きつけてこようとするが、この場はアリャリァリャが割り込んでそれを受け止める。
「その程度がキサマの悪カ?」
 口元を吊り上げたアリャリァリャの煽りに、強盗は聞えよがしに歯ぎしりしていた。
 その間に、清嗣が連れていた毛玉のようなボクスドラゴンの響銅がケルベロスの支援に動く。
 属性注入によってケルベロス達へとビルシャナが使う毒やプレッシャー、炎といった異常状態に対する耐性を与えてくれていたのだ。
 周囲を見回す和は言葉通りに相手をぎったんぎったんにする気満々だが、チームの回復役としてまずはゾディアックソードを握り、アスファルトに描く守護星座で仲間達の護りへと当たっていく。
 火力となる笙月もまた本格的な攻撃へと出る前に、自分達へと星座の光を重ねて敵の攻撃に備えていたようだ。
 そこで、一般人の避難をリュエンに任せた括が駆けつけ、強盗へと問う。
「其はおぬしの意思によるものか。其がおぬしの望んだことであるのか」
「はぁ?」
 見たところ、強盗はおそらくそこまでは考えていない。
「己が身を滅ぼすその行いは、誰の救済になるのか、と」
「知るか、俺が良ければいいんだよ!」
 叫びながらも暴れる敵目掛け、括はいたずら野鉄砲から素早く銃弾を発して強盗の動きを牽制しようとする。
「いくぜ!」
 万は仲間達が仕掛けられるようにと声をかけ、拘束する強盗目がけて砲撃形態としたドラゴニックハンマーの砲口を向ける。
 そして、彼は一気に竜砲弾を発射し、強盗の動きを止めようとしていく。
「欲しいモノを手に入れて嬉しイカ? 誰かを傷つけルノが愉しイノカ?」
 続けざまに、アリャリァリャがチェーンソー剣の刃に空の霊力を込め、強盗の体を大きく切り払う。
「キサマにとって、イイコトダナ。イイコトダ!」
「うざってぇ奴らだな!」
 体を切り裂かれた強盗はビルシャナとなったことで与えられた力を解き放ち、周囲へと閃光を放ってケルベロス達を牽制する。
 それを瞳を閉じたままで受け止める槐。
 彼女は聴覚などを生かし、仲間達の場所を把握して回復グラビティを使う。
「穢れなく純真であれ、混じりなく清浄であれ」
 槐のグラビティ『無垢』は事象の逆転を起こすことで、仲間達の傷と弱体をなくしてしまうというものだ。
「えーい! ヒールだー!」
 さらに、和が回復を重ね、マインドリングを煌めかせて浮遊する光の盾を具現化させることで盾役となる仲間達の防御を固めていく。
「よーし、これでまだまだイケるよー!」
 万全の支援状態で、敵の討伐に臨むケルベロス達。
 そんな中、フェアリーレイピアを手に、ビルシャナへと攻め入る笙月。
 彼がその剣先から美しき花の嵐を強盗に浴びせかけ、戦意を失わせつつも言い放つ。
「私の知る限りでは、奴に力を与えられた者は少なからず、表舞台には出てこなくとも裏でなにかと賑わせておったのだがな」
「奴のことはよく知らんが、感謝はしているぜ……」
 ビルシャナはさらに、内なる悪意を膨れ上がらせて。
「だって、こんなに素晴らしい力を俺にくれたんだからなぁ!」
 強盗はなおも孔雀型の炎を発し、抵抗してくるのである。


 悪意を振りまき、その力を暴力に変えて攻撃してくる強盗ビルシャナ。
 そいつが暴れるのを止める為にも、ケルベロス達も全力で討伐に当たり続ける。
 槐は前線に出て、強盗が発する燃え上がる炎を止めていた。
 自ら直接止められるのであれば、槐も癒しの拳を自らへと向けて振るって傷を塞ぎ、戦線を維持させていく。
 そこに、店員や客を避難させたリュエンが加わる。
 彼は和や清嗣の要望に応え、バイオレンスギターを手に歌い始める。
「走れ! 振り返らずに 脇目も振らず逃げ続けろ……」
 立ち止まらずに戦い続ける者達の歌。リュエンの歌が前線で戦う者達を奮起させていく。
「……人の身の罪なれば、裁く人の法もあったじゃろうに」
 さらに、敵の阻害へと当たる括は御業を宿らせた眼力で強盗を睨みつける。
「もはや償いも、改悛も、ありはせぬ」
 彼女は敵の体に流れる気の流れを見極め、それを塞ぐように銃弾を撃ち込んでいった。
「ぐぬぬ……」
 弾丸浴び、身体を硬直させた強盗。
 笙月はオウガメタルを纏い、そいつの体を強く殴りつける。
 所詮、目の前の男は、『悪意の鋒』が撒いた種の一つに過ぎない。
 攻撃に専念し、笙月は確実にこのビルシャナの殲滅を目指す。
「くそが、大した力じゃねーじゃねえかよ!」
 ケルベロス達にボコボコにされ、強盗の悪意はすでに感謝していたはずの『悪意の鋒』に向けられている感すらある。
 そいつが大通りへと視線を走らせるのを見て、万がすかさずそちらへと回り込む。
「逃がさねえぜ」
 後方から仲間達が支援していることもあり、万も命中重視でグラビティを使い、再びケルベロスチェインを伸ばして強盗の体を絡めとり、きつく縛り付けていく。
「離せ、離しやがれええ!!」
 なおも暴れて、ビルシャナの閃光を発してくる強盗。
 その姿に、人を説くといった行いはまるで感じられず、自らの思うままに振舞う子供じみた印象を抱かせる。
 徐々に、強盗ビルシャナを追い詰めるケルベロス一行。
 木版刷りの『嘉留太』を含め、清嗣は自らが持つシャーマンズカードを駆使して黄金の融合竜のエネルギー体を呼び出す。
 箱竜響銅がブレスを吹き付けて牽制したところに、竜が強盗目がけて剛腕に鋭い爪を振るい、畳みかけるように強盗の体へと食らいつく。
 状況は万全な上、皆全力で攻撃を繰り返す。
 悪意の拳、孔雀炎と滅茶苦茶に攻撃してくる強盗の攻撃をアリャリァリャは受け止め、降魔の拳を叩きつける。
 荒ぶるアリャリァリャはなおも、摩り下ろすかのような猛烈な連撃を加えて。
「ダイ、コン――おろーし!!!!」
 撒き上げた破塵に着火したアリャリァリャは地獄の窯を顕現し、強盗の体をこんがりと焼き上げていった。
「ぐおおおお……」
 全身の羽毛を焦げ付かせる強盗の体はあまり美味しくはなさそうだが、アリャリァリャは舌なめずりしていたようである。
 そこで、止めが近いと感じ、和が回復の手を止めて飛び込んでくる。
「今だ! 渾身のー……」
 和は敵の頭上に、自らの全知識を一冊の本としたものを錬成して。
「てややー!」
 その質量を強盗の頭へと落下し、ぶつけていく。
「あ、あぁぁ……」
 白目を向いた強盗は意識を失い、前のめりに倒れてしまう。
 敵を倒したことで、和は思いっきり喜んで。
「ヴィークトリー! 括お姉ちゃんやったねー!」
 一方の括は倒すしかなかったこの男に対して苦い思いを抱きながらも、力なく笑って和にはいたっちを返したのだった。


 無事に、ケルベロス達は強盗ビルシャナを討伐して。
「ヒールするまでがー、お仕事でーすってねー♪」
 和は戦場となったコンビニの店の内外へと、真に自由なる者のオーラを発して修復へと当たる。
 ビルシャナが破壊した箇所へと、槐は撒いた紙兵を使って力を与え、リュエンもギターをかき鳴らして破壊箇所を幻想交じりに埋めていく。
「コイツ、ウチが回収するゾ」
 残っていたビルシャナの遺骸はアリャリァリャが引き取っていた。
 彼女は物陰に連れて行って何かしていたが、気にしない方がいいかもしれない。
 ある程度済んだら、今度は店内整理だ。
 ケルベロス達がうまく立ち回ってくれたこともあり、店内の商品などに被害はほとんど出ていない。
 レジ周辺の破壊箇所には括が気力を放って補修を行い、さらに彼女は店内の商品陳列などにも気をかける。
(「土産はプリンなんていいな」)
 笙月は娘が大好きなデザートに目を付け、それを買って帰ろうと考えながらも、自動ドアに守護星座の力を与えて元の通り稼働するよう動かしていた。
 エネルギー光球を発して作業に当たっていた万は、あらかた補修が完了したと判断し、店を出てスキットルの中身を煽り始めていたようだ。

 そうして、ケルベロス一行は店の修復をほぼ終えたものの。
「ヒールはしても、商品の被害はさすがにねぇ」
 店の被害を慮った清嗣は、少しでも穴埋めしようと店でこの場のケルベロスの人数分買い、手渡していく。
 それぞれ、メンバー達がイートインスペースで冷たい飲み物で喉を潤すのを見ながら、清嗣もまた茶を口に含む。
「ふう、ひと段落……かな」
 とはいえ、笙月にとって、これは因縁の相手が引き起こす事件の一つに過ぎず。
 娘の為にと買ったプリンを脇に置きつつ、彼はぼんやりと何かを考えていたようだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月25日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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