結婚式をぶっ潰す!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
「いいか、お前等! 俺達がやっている事は正義だ! 何ひとつ間違っていない! そもそも、挙式なんてする必要がないだろ! 自慢か? 俺達が独り身だから、自慢したいのか? しかも、お祝い金まで要求しやがって! 結婚している奴が偉いと思ったら大間違いだからなッ! 幸せのお裾分けがしたいんだったら、俺達に金を配りやがれ! 俺達だって、幸せになりたいんだよ、こん畜生ッ! だから、壊す! ぶっ壊す!」
 ビルシャナにとって、結婚式場は忌むべき悪しき場所であった。
 その場所を利用する者達にとっては、一生に一度の晴れ舞台。
 中には、一生に二度、三度と利用する者もいるが、ビルシャナにとっては、どうでもいい事、些細な問題ッ!
 それよりも問題なのは、独身に対する当てつけの如く、自分達の幸せを押しつけてくる奴らのやり方であった。
 故に、破壊ッ!
 結婚式場を破壊する事。
 それこそが至高であると訴え、信者達と一緒に暴れ回る事を、決意したようである。
 そのため、信者達もヤル気満々。
 『何もかも滅茶苦茶にしてやる!』と言わんばかりに殺気立っているようだった。

●セリカからの依頼
「霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ビルシャナが襲撃する予定になっているのは、都内某所にある結婚式場。
 さすがに結婚式を邪魔されるような事があれば信用問題に関わるため、既に予約をキャンセルしているようである。
 その分、式場を自由に使う事が出来るため、ビルシャナを誘き寄せるための罠を張り、二度と悪さが出来ないようにして欲しいと言う事だった。
「今回の目的は、悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事です。ただし、ビルシャナ化した人間は、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やしています。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまうため、注意をしておきましょう。ここでビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていく。
 資料には、ビルシャナ達が襲撃するルートが記されていたものの、実に単純、正面から突っ込んで、大暴れするつもりでいるようだ。
「また信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。とにかく、ビルシャナを倒せば問題が無いので、皆さんよろしくおねがいします」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。


参加者
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
ソフィーヤ・クレフツォフ(お忍び旅のお嬢様・e36239)
嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)

■リプレイ

●都内某所
「結婚には、まだ遠い歳なので実感はないが……。男女の付き合いというのも、個人的には別段必要性を感じないな。強くなるために必要とは思えん」
 嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)は、仲間達と共に都内某所にある結婚式場にやってきた。
 ビルシャナ達が結婚式場の襲撃を計画している事もあり、場内は不気味なほど静まり返っていた。
「そう言えば、結婚式ってなんでやるんでしょうね? だからと言って、結婚式を挙げなくていいという理屈と、破壊するのは両立できないのです……」
 八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)が、自分なりの考えを述べた。
 恋愛については、よく分からないものの、結婚式で出される上質な肉料理が好きなので、それを食べる事が出来ないのは大問題であった。
「ある意味、ビルシャナの主張は概ね正しいのかも知れない。夫婦の中には、別れる者もいる。だが、ビルシャナは何も分かっていない。いや、理解しようとしていないというべきか」
 そんな中、鋼・柳司(雷華戴天・e19340)が、険しい表情を浮かべた。
 おそらく、ビルシャナ達は自分にとって都合の悪いモノは、すべて無かった事にしているのだろう。
 そうする事で、教義が正しいものだと思わせ、信者達を増やしていったのかも知れない。
「申し訳ありませんが、私には彼らを説得できる言葉を持ちえません。彼らの語る正義とやらを拳で破壊するのみです」
 そう言ってソフィーヤ・クレフツォフ(お忍び旅のお嬢様・e36239)が、結婚式場を守るようにして陣取った。
 その視線の先に立っていたのは、殺気立った様子で得物を握り締めたビルシャナ達の姿であった。

●ビルシャナ達の正義
「まさか、俺達の邪魔をする気か? 俺達が正しい事をしようとしているのに、邪魔しようって言うのか? だったら、俺達も手加減はしねぇ! みんな纏めて血祭りに上げてやるが、それでも構わねぇってことだよなッ!」
 ビルシャナが殺気立った様子で、ケモノの如く吠えた。
 まわりにいた信者達も、得物を持ってヤル気満々ッ!
 日頃の鬱憤を晴らすため、とにかく何かを壊したい感じであった。
「本当にこれが正しい事だと思っているんですか? そもそも、結婚式場として建てられている建物のほかに、高級なホテルや、教会・神社も結婚式場になるのです! そして何百万円というお金が動いているのです! 結婚式を破壊するなら、その辺の損害賠償額がすごそうなところと、明らかに罰が当たりそうなところと戦わなければならないのです……! それならカップルを闇討ちするほうがリスクは低いのです……」
 そんな中、あこがイケナイ誘惑で、ビルシャナ達の動揺を誘う。
「……なるほど、それも一理ある」
 これには、ビルシャナも、納得。
 多少、教義に反するところがあるものの、結果的に結婚式をやらないのだから、まったく問題がないと判断したようである。
 しかし、それでは何の解決にもなっていない。
 むしろ、ビルシャナ達にとって、都合のいい方向に誘導しただけだった。
「いや、駄目です。……というか、結婚式に呼ばれる事自体、光栄だと思わなければ、人生詰んだも同然です。完全に嫉妬、見苦しい、考えがオコチャマ、おとなしく家に帰ってゲームでもしていてくれませんか?」
 そんな空気をぶち壊す勢いで、ソフィーヤがイイ笑顔を浮かべたまま、立て続けに駄目出しをしていった。
「分かっていないのは、お前の方だ! 正しいのは、俺達……俺達だけなんだよッ! それに、結婚式を派手にやるヤツに限って、数年後には別れてしまうものだ。これだけは断言できる。……間違いないッ!」
 それに腹を立てたビルシャナが、妙に強気な態度で、キッパリと断言をした。
「確かに夫婦はいつか別れるもの。しかし、別れた後にも残るものが有る。それは……可愛い娘だ!!!」
 次の瞬間、柳司が興奮した様子で、小学生低学年の女子が写った写真を、ビルシャナ達に見せてきた。
「……えっ?」
 だが、ビルシャナ達は、キョトン。
 ハトが豆鉄砲を喰らったレベルで、キョトンである。
「ひょっとして、あまりにも可愛すぎて、言葉も出ないか? そうだろ、そうだろ! こんなにかわいい娘がいるのなら、離婚しても悔いは無い!」
 その反応を都合よく受け取った柳司が、力強くウンウンと頷いた。
「いや、離婚している時点で、俺の言っている事が正しいってことだろ。だから、こんな写真を見せられたところで、何の説得力もない」
 ビルシャナが困った様子で、柳司にツッコミを入れた。
 だからと言って、柳司に文句があるわけではないのだが、離婚をした事実が先立ってしまい、それ以外の事が考えられなくなってしまったようである。
「……は? それじゃ、うちの娘が可愛くないとでも言うつもりか!? こんなに可愛いのに! この娘を見ていたら、離婚をした事実なんて、どうでもよくなるだろ?」
 しかし、柳司は理不尽なまでの逆ギレをすると、ビルシャナ達に対して脅迫まがいの説得をし始めた。
「そんな性格だから、別れたのか。……というか、このままだと前と同じ別れ方をするぞ? いいのか、それで? 娘が泣くぞ! 絶対、泣くぞ!」
 それでも、ビルシャナが臆する事なく、柳司の心を抉る一言を口にした。
「ええい、黙っておけ!」
 それは無意識であったが、柳司の心にクリティカル。
 心にグサリと突き刺さったロンギヌスの槍的なモノが抜けない錯覚に陥るほどのショックを受けていた。
「……ごめんなさい。もう限界なんです」
 次の瞬間、ソフィーヤが笑顔を浮かべたまま、ビルシャナをボコボコにするのであった。

●ビルシャナの怒り
「おい、こら! いきなり何をする!」
 それに驚いたビルシャナが、涙目になりつつ、ソフィーヤを睨みつけた。
 まわりにいた信者達も、何が起こったのかわからず、みんなでオロオロ。
 助けるべきか、見捨てるべきか、頭の中で天使と悪魔が戦い、一緒になって悩んでいるような感じの状態になっていた。
「私……気づいてしまったんです。暴力を止めるには、それを上回る暴力が必要だって……。それに、あのまま放っておいたら、もっと酷い事を言っていたでしょ? それが分かっていながら放っておくことなんて、私にはできません」
 ソフィーヤが真剣な表情を浮かべ、ビルシャナに対して答えを返す。
 その間も、拳は振り上げたまま……。
 納得するような答えが出なければ、そのままビルシャナの顔面にグリッと行きそうな感じであった。
「だったら、俺の考えだってわかるだろ? こんな場所があったら、駄目なんだ! 結婚式なんて、幸せの押し付け! 存在するだけで迷惑な場所なんだ!」
 ビルシャナも同じように真剣な表情を浮かべ、自らの教義が正しい事を強調した。
「幸せの押し付け、か……。しかし、地球に降り立って日が浅い私は結婚式というものにゲリラ的に出くわした経験がなくてな。生活圏を選べば、遭遇しなくて済むと思うわけだ。たとえば、病院と墓場の多い土地柄などどうだろうか? 諸行無常、諸法無我――。婚姻など些事、ただ人生の節目に取り巻くものが変わるのみ。自分も結婚しなければならないなどという強迫観念など、もしあるのなら、捨てられるはずだ」
 そんな中、槐がビルシャナの教義に理解を示した上で、自らの考えを語り始めた。
 その言葉を聞いた信者達は、何やら納得している様子であったが、ビルシャナだけは何故か不満げであった。
「そんな事をしたら、俺達が負けを認めたようなモノだ。奴らの考えを改めさせない限り、俺達に明日はねぇ!」
 半ばヤケになりつつ、ビルシャナが両目を血走らせた。
 ある程度は納得しているのかもしれないが、自分達が折れて引き下がるような真似だけはしたくないようである。
 信者達も驚いた様子で、ビルシャナを二度見したものの、今更引き下がるわけにもいかず、半ばヤケになりつつ、捨て身の特攻ッ!
 それを迎え撃つようにして、あこが仲間達と連携を取りつつ、手加減攻撃で信者達の意識を奪っていった。
「ウサミミを、なめないでくださーい♪」
 ソフィーヤもビルシャナに啖呵を切りつつ、ポコポコアタック。
 ライドキャリバーに至っては、容赦なくビルシャナを轢き逃げ……からの二轢きである。
「我が子の可愛さも知らず、結婚を否定するなど笑止! その一点が気に入らんので死ね」
 その間に、柳司が可愛い娘の写真を眺めて立ち直り、蒼龍雷掌(ソウリュライショウ)を発動させ、機身に内蔵された魔導回路を運用し、軽やかに触れるような掌底と共に、僅かに遅れて内部に強烈な物理エネルギーを伝導させて、ビルシャナにダメージを与えた。
 それに合わせて、あこが月光斬を仕掛け、ビルシャナの体を斬りつけた。
 ウイングキャット『ベル』も、猫ひっかきでビルシャナを攻撃ッ!
「お、俺は何も間違っていないッ! 俺は何も……。わ、悪いのは、結婚式をする奴等だ! お、俺は単なる被害者であって、決して加害者では……ぐはっ!?」
 続けざまに攻撃を喰らった事で、ビルシャナの肉体が悲鳴を上げ、崩れ落ちるようにして倒れ込み、そのまま動かなくなった。
「ビルシャナの過去に何があったのか分からないが……。あまり褒められた最後ではないな」
 槐がビルシャナの絶命を確認した後、複雑な気持ちになった。
 おそらく、ビルシャナになってまで、結婚式場を破壊しなければならないほど、嫌な経験を過去にしたのだろう。
 ビルシャナが死んでしまった今となっては、それが何なのか分からないが、トラウマになるほどの出来事があったことは間違いない。
 そう言った意味でビルシャナも被害者だったのかも知れないが、間違った形で自分の正しさを証明しようとした時点で、すべてが終わりに向かって転がり始めてしまったように思えて仕方がなかった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月21日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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