大阪市街戦~紅い簪の少女

作者:坂本ピエロギ

 その夜、大阪の街がひとつ死んだ。
 ビルに点いた明かり、交差点の信号機。普段と変わらぬような風景。
 壊れたビルはない。炎上する車もない。泣き叫び逃げ惑い、助けを乞う人もいない。
 ただそこに、生きた人々の息遣いだけが、ない。
「さーてと。グラビティ・チェインはこんなもので十分かな?」
 死の静寂に覆われた街の影で、小さな子供が呟いた。白装束に黒い髪、そして血のように紅い簪をさした少女である。
「愉快な見世物をありがとう。笑えたよ」
 少女は足元に転がる若い男女の骸を見下ろして、せせら笑った。女を守ろうとしたこの男は、不幸にも螺旋忍軍である少女の嗜虐心を刺激してしまったのだ。
 用は済んだとばかり、少女はグラビティ・チェインをかき集めて大阪城へ踵を返す。
「あーあ、つまんない。もっと骨のある奴と戦いたいよ」
 この少女は、人の『顔』を愛した。
 希望が砕ける者の顔を、心が折れる者の顔を、そして、守るべき存在を持つ者の死にゆく顔こそを、この螺旋忍軍『紅簪(べにかんざし)』は何よりも愛した。
 熾烈な戦いが続くこの大阪市なら、へし折り甲斐のある強敵とも巡り合えるはず――そう思っていたのだが。
「ケルベロスの『顔』……見たかったな」
 片思いを患う少女のような表情でそう言い残し、紅簪は闇の中へと溶けて消えた。

「お疲れ様です。螺旋忍軍が人々を襲撃する事件が、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)さんの調査で判明しました」
 ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)は夜のヘリポートでケルベロスを呼び集めると、依頼の説明を始めた。
 現場となるのは、攻性植物のゲートがある大阪城周辺にある市街地だ。予知のあった時刻まで、あまり時間は残されていない。
「大阪城には現在、多数の種族が拠点を構え、周辺地域の制圧を図っているようです。今回の事件も、彼らの制圧作戦のひとつと見て間違いないでしょう」
 市街地で事件を起こせば、人々は街からいなくなり、いずれはデウスエクスによって制圧されてしまう。それを防ぐためにも、敵の凶行は絶対に阻止しなくてはならない。
「敵は『紅簪(べにかんざし)』という螺旋忍軍の少女です。小柄な体に反して攻撃力は高く、性格は残虐そのもの。刀による斬撃や、毒を塗った簪による刺突、同士討ちを誘う催眠術を用いるようです」
 紅簪の出現する現場周辺はすでに避難誘導が始まっており、ケルベロス達が到着する頃には無人になっているだろう。ただし市内全域の市民を避難させる事は困難であるため、紅簪を取り逃がさぬよう確実な撃破が望まれる。
「いずれ、攻性植物や周辺勢力との決戦は避けられないでしょう。来たる日のためにも、今は敵の勢力拡大を抑えることが重要です」
 ムッカはそう付け加えると、ヘリオンの搭乗口を開放した。
「デウスエクスの野望を砕き、大阪の人々を守るため。迅速な解決をお願いします」


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
ピジョン・ブラッド(陽炎・e02542)
愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
 

■リプレイ

●一
 八月某日、夜。
 サイレンの鳴り響く大阪市街を駆けながら、新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)は仲間を振り返って注意を促した。
「急ごう。敵の出現まで時間がない」
 太い道路を突っ切り、避難する人込みを潜り抜け、番犬の群れが駆けていく。
 夏だというのに、街の空気は妙に冷たい。天気のせいか、あるいは戦いの予感のせいか。いずれにしても、それは番犬の身と心をいっそう引き締めさせた。
「デウスエクスめ、許せねえ! どいつもこいつも大阪を滅茶苦茶にしやがって!」
 鍛え抜いた脚でアスファルトを蹴るのは相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)。
 彼は今までに幾度も、大阪を襲うデウスエクスと戦ってきたケルベロスだ。人々の平和を脅かす侵略者に対して、彼が容赦をする事は一切ない。
 故にこれから戦う敵を容赦する気もない。たとえそれが少女の姿をしていても。
「守るべき存在を持つ者が、死にゆく顔を眺めるのを喜びとする、か……」
 また随分と愉快な趣味をお持ちの忍軍もいたもんだ、と日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)は独りごちた。
 螺旋忍軍『紅簪』――。
 血のように紅い簪を刺した少女の出自に、蒼眞は小さな興味を覚えていた。
(「元は定命の身から螺旋忍軍になった口なのか、それとも……いや」)
 蒼眞は疑問を振り捨てた。それを紅簪に聞いたところで、答えは得られないだろう。
「まあいい。快楽の為に人を殺す奴には、刀を振るうだけだ」
「殺気が濃くなってきた。そろそろだね」
 斬霊刀の鯉口を切る蒼眞。その横では、テレビウムの『マギー』を連れながら道路を走るピジョン・ブラッド(陽炎・e02542)が、周囲に神経を張り巡らせていた。
 今日の彼は、顔をすっぽりと覆うフードを目深に被り、その表情は殆ど伺い知れない。
 ちょっとした仕込みでね、とはピジョン本人の言だ。
「回復はお任せを。ポンちゃん、盾は頼んだよ!」
 純白のボクスドラゴンをお供に、愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)はアリアデバイスを手に取る。『Angel voice』――ミライの声を遠くへ乗せる、天使を模したデバイスを。
(「守るべきものを守って消えゆくなら、最後はきっと笑顔です!」)
 希望など、好きなだけへし折ればいい。
 ミライはそう考える。
 辛い戦いなど、今まで幾つもあった。その度に立ち上がり、勝ってきた。
 何度折られたって負けはしない。そう――。
(「そう。これから始まる戦いだって!」)
「紅簪さん……なぜ『顔』を見ることを愛するようになったのかな……」
 ドワーフ特有の小さな体で疾走しながら、シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)も紅簪の事を考えていた。
 敵である以上、手心を加える事は出来ない。しかし、叶うことなら悔いのない決着を迎えさせてあげたい――それもまたシルディの偽らざる本心だった。
「マヒナさん。紅簪さんとは面識があるの?」
「うん。ワタシの記憶が確かなら、ね……」
 シルディの問いに、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は小さく頷いた。
 翼を広げて飛ぶオラトリオの目に、怨恨や因縁を思わせる色はない。代わりに浮かべるのは、ほんの微かな恐れと悲しみだ。
 きっと、何か事情があるのだろう。シルディはそれ以上、詮索するのをやめた。
「みんな、気を付けて。……見えた」
 マヒナの紫色の瞳が、前方に小さな人影を捉えた。
 白い装束に身を包んだ少女。華奢な体に釣り合わない、禍々しい刀。
 そして――髪に挿した、血のように紅い簪。
 螺旋忍軍『紅簪』に相違なかった。
(「……やっぱり、あの子だ」)
 武器を手に、次々に陣形を組むケルベロス。
 対する紅簪は、悠然とマヒナ達を見据えたまま、ゆっくりと口を動かす。
 ――みんな揃って殺されに来たのかい、ケルベロス?
 艶やかな声が、聞こえた気がした。

●二
『ヒーローども、いい顔見せて死んでいきな!』
 ケルベロスを迎えたのは紅簪の言葉ではなく、一閃の斬撃だった。
 ジャマーの恭平めがけて放たれたそれを、シルディは咄嗟に庇う。
「……っ!」
「問答無用か。話が早くて助かるぜ!」
 苦痛を噛み殺すシルディと入れ替わるように、泰地が掲げる左手のバトルガントレットが紅簪を引き寄せた。
 次いで唸る、闇の右手。光と闇の連続突きを紅簪は刀で受ける。泰地の剛腕と切り結びながら、ふと少女は頭上に何者かの気配を感じた。
『……?』
「うおおおおおおお!!」
 いつの間にか紅簪の頭上から、蒼眞が落下してきた。
 紅簪の胸めがけて。
「俺の道はおっぱいダイブ、そして落下と共にある!」
『ちっ!』
 胸へのダイブこそ避けるも、蒼眞の攻撃グラビティの力で回避を封じられる紅簪。
 一見すればギャグのような攻撃だが、クラッシャーから放たれた蒼眞の一撃は泰地のそれと相まって、彼女の体に着実なダメージを刻み込む。
「黒き氷壁よ、我らが前の不破の盾となれ!」
「オウガメタル、みんなに、お願い!」
 恭平が極低温の石壁でシルディらの前衛を護る。オオアリクイさん形態のオウガメタルをぎゅっと抱っこして、散布するオウガ粒子で傷を塞ぐシルディ。
 そこへ紅簪が催眠の瞳術で追撃を浴びせにかかる。狙いはピジョンだ。
『こいつで死ね!』
「ポンちゃん、味方を庇うんだよ!」
 ミライのボクスドラゴンが、盾となって術を浴びた。
「防御、展開――! マギー、回復を!」
 次いでピジョンの『妖茨の欠片"Order of thorns"』が発動。
 ピジョンの左腕に施したタトゥーから茨が具現化して、前衛の守りを固め始めた。続いて後衛のマギーが、ポンちゃんの催眠を応援動画で解いていく。
『なるほど。逃げる気はないってわけだね』
「当然ですとも。そちらこそ、退散するなら今のうちですよ?」
『笑わせるね!』
「アロアロ、回復をお願い……」
 ミライが『KIAIインストール』の歌声でシルディを回復していく横で、マヒナは彼女のシャーマンズゴーストに負傷者の支援を任せ、アンクを握った。
「皆を、ワタシの大切な人達を傷つけないで……!」
 迷いを押しやり、紅簪の肩めがけアンクを叩きつけるマヒナ。治癒力を阻害する肉食獣の一撃が、真白い装束を血で染める。
『いいね……ますます見たくなったよ、あんた達の死んでいく顔を!』
 対する紅簪はマヒナと仲間達をまっすぐに睨み据えながら、癒しの月光を浴びながら不敵に言ってのける。戦いはこれからとばかり、獰猛な笑顔で。
『懐かしい顔も――』
「……!?」
『――見えるみたいだし、ね!』
 気づいた時には、紅簪はマヒナの背後にいた。
 紅い簪が、背中へ突き刺さる。体を蝕む毒に唇を噛んで耐えるマヒナ。そのまま地面へと降りた彼女の背を蹴って着地した紅簪へ、泰地が、蒼眞が、ほぼ同時に攻勢に出る。
「旋風斬鉄脚!」
「覚悟してもらおう、螺旋忍軍」
 泰地の回し蹴りが、光の弧を描いて迫った。
 蒼眞は半透明の御業で紅簪の細い体を鷲掴み、ギリギリと万力の如き力で締め上げる。
 シルディが散布し続けるオウガ粒子の力によって、彼らの命中はクラッシャーとは思えぬ程にまで強化されていた。
「今まで大勢殺してきたんだ。一度くらい自分が死ぬ経験もしておくんだな」
 紅簪が拘束を振り解く。その眼前に迫るのはマヒナが放つプラズムキャノンと、絆を発動したピジョンのスターゲイザーだ。
 キャノンの直撃を避け、流星蹴りをガードし、一閃の機会を執拗に狙う紅簪。
 恭平とミライは前中後と分かれた仲間達を、急ぎBS耐性で保護していく。
「癒しと、悪しき力へ抗う壁を!」
「ポンちゃん、回復を手伝って!」
 恭平の古代精霊魔法でそそり立つ黒い石壁。
 『KIAIインストール』でマヒナの原動力を奮わせるミライ。その前方では、ポンちゃんが属性インストールで援護を行う。
「皆さん、支援は行き渡りましたか?」
「ああ、十分だぜ。ありがとよ!」
 ミライの問いかけに、サムズアップを返す泰地。恭平とマヒナも、続くように頷く。
 さあ――ここからは反撃の時間だ。

●三
 静寂に包まれた大阪の市街地で、番犬と忍軍の戦いは続いた。
 斬撃、砲撃、鉄拳、魔法、忍術、あらゆる攻撃が飛び交うなか、ピジョンが猛毒の簪からミライを庇い、胸を抑える。
「ぐう……っ!」
 そのまま、バタリと倒れこむピジョン。
 だが彼は重傷を負ったわけでも、まして命を落としたわけでもない。
 心が折れて死ぬ者の顔を見たい――そんな紅簪の心理を逆手にとって、ピジョンは彼女に一杯食わせようと考えたのだ。
(「さあ紅簪、僕の死に顔を確かめに来るといい……!」)
 しかし。
『何の真似だい?』
 帰ってきたのは、紅簪の冷たい声だった。
 カマをかけている様子はない、確信に満ちた声。それを聞いたピジョンは観念し、フードをたくし上げた。
「やれやれ、バレたか。不意打ちのチャンスを作れればと思ったんだけどね……」
 ガネーシャパズルから稲妻を放ちながら、ピジョンは紅簪に問うた。
「参考までに教えてくれないかな? どうして僕の芝居を見破れたか」
『あんたが倒れても、お仲間達は全然驚いてなかったからね。大事なお仲間が殺されても、平気でいられそうなメンツは、見たところ多くなさそうだけどね?』
「なるほど、よく見ているね……」
 ピジョンは苦笑を浮かべ、諸手を挙げる。彼女を騙すには、もう少し連携をすり合わせるべきだったか……いや、終わった事だ。マギーの応援動画に背中を押されるように、戦闘へ戻るピジョン。その後ろで恭平が、竜の幻影がもたらす炎を紅簪に放つ。
「焼き尽くせ!」
『ち……っ!』
 月光を浴びて炎をかき消す紅簪に向かって、恭平は問いを投げた。
「守るべき者の死にゆくさまを見たい……か。其方に守るべきものはないのかね?」
『さてね……』
 返ってきたのは、挑発ともつかぬ笑い。
 それがひどく投げやりな笑顔に見えて、マヒナの胸は痛んだ。彼女が刻み付けるアンクの傷跡によって、紅簪の傷はもはや満足に癒えることもなく、白装束は血に濡れている。
 対するケルベロスの回復態勢は万全。ミライは『KIAIインストール』の歌声をビルの谷間に高らかに響かせ、高らかに告げる。
「希望? いつも砕けてます。心? しょっちゅう折れてますとも……! ま、立ち直りも早いのですけども、ね!」
 守れなかった命は幾つもある。苦汁をなめた強敵だっている。
 それでも自分と仲間達の今があるのは、折れても諦めず立ち上がったからだ。
「だから私は、私達の魂は、ちょっとやそっとじゃ砕けませんよ?」
「そういうこった。俺達は大阪城のデウスエクスも、必ず排除する。そしてまた、大阪の街に平和を取り戻す!」
 泰地の拳が、紅簪の鳩尾にめり込んだ。
 頑健、敏捷、理力、すべてのグラビティを近距離攻撃で揃えた攻撃を諸に受けても、紅簪はまるで怯む様子がない。それどころか真っ赤な瞳を更に紅く、瞳術の催眠を放つ。
 だがその攻撃もシルディに庇われ、BS耐性のキュアと戦言葉の効果によって、催眠の力は傷もろとも塞がれた。
 絶空斬を放つ蒼眞。ジグザグに走る刀が、傷口をさらに切り開く。
 紅簪は悲鳴を噛み殺し、血まみれの手で刀の柄を握った。華奢な体のどこから湧いてくるのか、深手を負っているにもかかわらず、少女のまるで闘志は萎えていない。
『あたしは……まだ……!』
 まだ死ねない。紅簪の口がそう呟いたのを、マヒナは確かに見た。
 こみ上げる悲しみを押し殺し、マヒナは妖精弓に矢をつがえる。
(「ごめん。アナタの事、止めさせてもらうね」)
 ホーミングアローが、夜空へと放たれる。妖精の加護を宿した一射は、星天から降り注ぐペルセウス座の流星にも似て、光る尾を引きながら紅簪の胸を射抜いた。
 ネクロオーブを高く掲げた恭平は、血を吐く紅簪を見下ろし、映る未来を幻視する。
(「守るべきものがない者は強くても、支えがなく脆い。それが絶対の違いだったな」)
 オーブが示したヴィジョンに、恭平は目を細めた。
 決着が近いようだ。
「我が占に敗北の兆しなし!」
 恭平のネクロオーブの力が、負傷したマヒナを強化する。
 それを合図に、ピジョンの操るガネーシャパズルから溢れる光蝶が、ミライの歌いあげる失われた愛しい想いが、シルディのアリクイさん型オウガメタルの散布するオウガ粒子が、一斉にマヒナを包み込んでいく。
「マヒナさん、任せます!」
 ミライの声に、マヒナは小さく頷いた。
 オラトリオの翼を広げ、紅簪の元へと飛んでいく。
『守るものがあるから……弱くなるんだ……!』
「それは、弱さじゃないんだよ」
 向けられる刃に微笑みを返し、マヒナは傷ついた少女をそっと抱擁した。
 『アロハ・ハグ』。
 思いやりであり、調和であり、優しさであり、謙虚であり、忍耐である『アロハ』の精神をもって。小さな手を血に染め続けた螺旋忍軍へ、オラトリオの許しを。
「アロハの心をアナタに」
『あたし……も……』
 傷だらけの細い手足が、真っ白な光となって夜の闇に溶けて消えていく。
 最期に安らかな微笑を浮かべ、紅簪は静かにその命を散らした。
「さよなら。キレイごとかもしれないけど……」
 アロアロにそっと肩をさすられながら、マヒナは悲しみを帯びた声で、ぽつりと呟く。
「ワタシはアナタのことも守りたかったよ」
 夜空の月を仰ぐマヒナ。
 大阪の街には、ふたたび静穏が戻りつつあった。

●四
「よし、と。こんなものかな」
 半透明の御業で建造物を修復し終えた蒼眞は、ふうっと息を吐いた。
 その横でアリクイさんを抱っこしたシルディは、ふと先の戦いを思い返す。
(「彼女にも、ヒーローを待つ気持ちがあったのかな?」)
 今は亡き紅簪の事を思い、シルディは冥福を捧げた。
 ――ゴメンね。あの世か……次の出会いでは仲良くできますように。
 ――おやすみなさい。
 既に各所への連絡は済ませてあった。じきに避難警報は解除され、街には人々の暮らしが戻ってくる。そこで再び営まれていくのは、仮初の平和の日々だ。
「1日も早く、この地を取り戻したいね……」
 各々が帰還の支度を整え始めるなか、マヒナは紅簪が散った場所で静かに佇んでいた。
 その手に握られているのは紅色の簪。かつてこの地に螺旋忍軍の少女がいた事を示す、たったひとつの証だった。
 螺旋忍軍は闇に生まれ、闇に死ぬ者達だ。紅簪という螺旋忍軍の存在も、スパイラスの闇へと消えて忘れ去られるだろう。
 でもワタシは、とマヒナは思う。
「アナタのことはきっと忘れない」
 大阪で戦ったこの夜のこと。紅簪という少女のこと。
 それらを決して忘れはすまいと。
(「1年後かもしれないし、10年後かもしれない。けど、いつかは必ず……」)
 大阪の街が、地球が平和になったその日を見届けられるように。
 マヒナは夜空に祈りを込めて、仲間達と帰還していくのだった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月20日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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