エンドレス・サマー・ウォーズ

作者:秋月きり

 臨海学校。
 海を身近に体験する事を目的とした『学校』と言う集団生活の一環である。
 海水浴、水難救助、海洋業務の職業訪問等……。
 学生の為の行事はしかし、彼らだけの物ではない。学生を狙うデウスエクスにとってもそれは然りであった。

「ふん。ばっかみたい」
 視線の先に、海ではしゃぐクラスメイト達を収めながら、有珠川・花実は独白する。その悪態は、しかし周りの喧噪もあって誰の耳にも届く事はない。
 臨海学校の海岸実習――要するに、海水浴を楽しむ自由時間を、しかし、花実は孤高に過ごしていた。
 早々に防砂林の日陰に避難したのは正解だったと思う。自分の価値が判らないクラスメイト達に水着姿を見せるなんて怖気すら立ってしまう。
 花実は美しい少女だった。眉目秀麗の整った顔立ちにモデル顔負けのスタイル。白いビキニに身を包んだ姿は若さもあって、清涼感すら漂う色香があった。
 だからと思う。この美貌はこんな処で消費されるべきではないのだ。ああ、学校行事なんて休講してしまいたい。
「お子様なんて相手している暇はないのよ」
 美貌に対する歪んだ上昇志向は、それを餌にする存在を引き寄せてしまう。
「あなたの向上心は、とても良いと思いますよぉ。自分勝手で、とても良い夢ですぅ」
 小馬鹿にした様な声は、防砂林の間から聞こえる。ひょっこりと顔を出した少女は、色白で、何処か儚げな印象で、そして、モザイクに染まる達磨を携えていた。
「だ、誰? 貴方?!」
 こんな子、学校にいただろうか? 何より、臨海学校の最中、暑苦しい制服姿なのは何故だろう?
「あなたの向上心で、ダメな人達なんて、やっつけてやってくださいねぇ」
 言葉と共に鍵が挿され、ガチャリと回される。
 花実が崩れ落ちるのと、顔と肢体をモザイクで覆ったドリームイーターが出現するのは、同時であった。

「日本各地の高校にドリームイーターが出現している話は聞いているかな?」
 リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の言葉に、グリゼルダ・スノウフレーク(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・en0166)はこくりと頷く。学園ドリームイーター事件と呼ばれるそれは、未だ終息の兆しを見せない。
「ドリームイーター達は、高校生が持つ強い夢を奪って、強力なドリームイーターを生み出そうとしているの」
 今回、襲われた生徒は『有珠川・花実(ありすがわ・かさね)』と言う女性で、特徴を一言で表すなら美少女だと言う。
「美少女ですか……」
「ええ。ただ、性格はあまり良くなかったようね」
 自分の美貌を誇り研鑽する。それ自体は責められる事では無い。周りを見下していなければ、と言う但し書きが付くが。
「生み出されたドリームイーターは、水着姿の美女、と言った風体をしているわ。美貌とかスタイルとかはモザイクで覆われているから、なんとも言い難いけど」
 高校生の夢から生み出されたドリームイーターは強力な力を持つ。ただし、夢の原泉である『意識の高い系向上心』を弱める様な説得が出来れば、弱体化も可能だ。
「彼女の場合は『美しいは全てに優先する。無駄な消費はしてはならない』かしら。だから、美しさだけの主張を否定したり、或いは違う美意識を見せつけるって方法も考えられるわね」
「なるほど」
 リーシャの言葉にグリゼルダは小首を傾げる。
「消費……?」
「そっちは捉え方次第だけど」
 本当に価値が判る人に見せるべきだ、と言う主張であるように思えるとのリーシャの言葉に「判る様な判らない様な」とはグリゼルダの談。
「ともあれ、上手く弱体化させる事が出来れば、戦闘は有利に進められるわ」
 真っ向から戦うよりも、説得を行う事を推奨する、との助言であった。
「生み出されたドリームイーターは、海水浴を楽しむ学生達を襲撃するわ。グリゼルダ達はそこに駆けつける事になる。ドリームイーターは高校生よりもみんなを優先して狙ってくるので、そこは上手く活用してね」
 名乗る等のドリームイーターの注目を集める行動は吉となるだろう。派手な登場でも目を引く行動になる為、その方向で考えるのが良いかも知れない。
「ドリームイーターは美を前面に出した攻撃をするみたいね」
 圧倒的な美で周囲を威圧したり、後光で平伏させる様だ。全身モザイクなのに解せない気もするが、やはりそこはデウスエクス。理不尽でも通じる以上仕方ない。
「全身モザイクの鍵を持った美少女、でしたよね」
 ドリームイーターの容姿について、グリゼルダが再度呟く。なかなかシュールな絵面だとは思った。
「向上心を持つ事は大事。でも、それは周りを貶める物であってはいけない。ドリームイーターを倒せば、花実ちゃんの偏った向上心も弱まると思うから、上手く説得して欲しい」
 そしてリーシャは信頼と共にケルベロス達を送り出す。
「それじゃ、いってらっしゃい」
「はい! 行ってきます」
 グリゼルダの元気な返事が、ヘリポートに響いていた。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
リーア・レオノーラ(紫銀の戦棍法師・e61699)
槐・朱美(焔蝶・e66291)

■リプレイ

●水着姿の淑女達
 青い海、白い砂浜。太陽は燦々と照りつけ、夏休みも中盤を過ぎたと言うのに未だ暑さが猛威を振るうそんな頃合い。それでも生徒達は、短い時を惜しむ様に、皆で楽しみ、海水浴と言う享楽を満喫している。
 そんな光景が視界の真下に広がっていた。ヘリオンの投下ハッチから覗く光景に、グリゼルダ・スノウフレーク(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・en0166)は思わず笑み零してしまう。
 地球は狙われており、平和とは言い難い。しかし、その光景は、彼女達が守りたい平和な日常そのものであった。
「だから、守らないといけないのであります」
 決意新たに、とクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)が力強く宣言する。
 その身体が大きめのフードとマントに包まれているのは、防寒と防熱目的だ。その下は既に海で戦う事を念頭に置いた水中装備――即ち、水着装備に違いなかった。
 そんな装いは彼女だけではない。共に戦う6人のケルベロス達もそれぞれ、巨大なバスタオルと形容すべき布に包まれている。
(「私はそのつもりはなかったのですが……」)
 一人だけ水着姿にならないのは変だ、と押し切られ、皆と同じく水着にバスタオルと言う際どい姿を晒していた。
「さてー、行きましょうか」
 ゆるりとした声はフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)から。
 ゆったりとした布地越しと言うのに、そのメリハリとしたボディは健在だ。纏う雰囲気はとても凶暴であった。
「それでは、行くのじゃ!」
 端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)の掛け声と共に、7つの布が空を舞う。
 そして、7人と一体の影が、空に躍り出たのだった。

 響き渡る爆音は、海水浴を楽しむ高校生達の注意を集めるのに充分であった。
「ナンダ? ナンダ?!」
 それは彼らを標的とし、歩み出したドリームイーターも同じであった。
 モザイクで覆われた顔は表情こそ読めなかったが、歩みが止まった事から、困惑が彩られているのは容易に想像出来た。
「すげー。あれ、ヘリオンだぜ。って事は?!」
「俺、生で見るの初めてだよ! え? ここ、危ないのか?!」
「みんな! 海から上がって!!」
 木霊する声は、飛来してきた彼らの存在を意味していた。
 即ち――。
「「ケルベロス!!」」
「そう、私たちはケルベロス。貴女――デウスエクスを止める者です」
 サマードレス風の水着を身に纏ったリーア・レオノーラ(紫銀の戦棍法師・e61699)は、手にした得物――巨大な、否、巨大過ぎるハルバードを突きつけ、誰何の声に応える。
 おーっと上がった歓声は高校生達から零れた歓喜であった。
 柔らかく広がる白い裾野は、まるで夏の海を彩る白光と清涼な雲の如く。飾られた青いレースはそれこそ晴天、或いは青海の如く。
 何よりも柔らかく包まれた白い膨らみと、それが強調する腰のくびれは、余すところなく女性らしい体型を強調している。服と変わらない露出にも関わらず、爽快とした夏の全てがそこにあった。
 集まる視線はすらりと伸びた足と、青のラインによって強調される胸元へと集中している。
 ごくりと生唾を飲む音ですら、彼女を彩り、紡がれた物であった。慣れた筈の色を帯びた幾多の視線を受け、羞恥に頬が染まるのを、なんとも防ぐ事が出来ない。
 集う視線から意識を逸らすべく、ドリームイーターを睨眼で見つめるも、無意識に伸ばした手は胸元を押さえてしまう。視線を遮る筈の仕草は、しかし、青い情熱を呼び覚ます仕草でもあった。
「みんな! まずは避難を! 流れ弾の危険があるよ」
 同じくドリームイーターから高校生らを庇い、一対の斬霊刀を構えたヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)が大声で注意を促す。
 その彼女を包む色彩は青。海よりも鮮やかに、空よりも尚濃い彩りはフリフリのブラとして女性らしくたゆむ乳房を覆い、柔らかなパレオとして緩やかなカーブを描く腰を包み込んでいた。
 尚、誰も知らない。その奥に隠された神秘が、最小限の布地であるマイクロビキニである事を。
(「見えちゃったらどうしよう」)
 思考に浮かぶ背徳感すら胸に心地よい。ヘリオンから降下してきたのだから、もしかしたら誰かに見られているかもと思うと、頬が熱くなってくるが、今はそれも表に出さず、心の奥にしまい込む。
 そう。見られたとしても、それは一瞬。だから、大丈夫。この青い空と青い海に意識は溶けてしまうだろう。
 問題は戦闘が始まった時だ。果たして、それまでに避難は完了しているだろうか。多少はしたなくも感じる水着が見られる事は無いだろうか。
「はい~~~っ!!」
 別の意味でも緊迫し始めた空気に、更なる緊張が走る。
 槍の如く投擲された如意棒が砂浜に突き刺さったのだ。
 固唾を呑んで見守る聴衆らの前で、その如意棒の一端に、くるくると回転しながら飛び乗る美少女の姿があった。
「そこまで。これより一切の狼藉を封じます」
 例えるならばそれはチャイナドレスの水着バージョンと言うべきか。鮮やかな赤い布地に身を包んだ少女は抜群のバランス感覚でそこに立ち塞がる。対峙するドリームイーターは何を思うのか。ただ、言葉をなくし、自身の前に立つ彼女――槐・朱美(焔蝶・e66291)の揺れる赤髪と白い肌のコンストラクトを視線で追っていた。
 水着も中華風ならば、そこに添える装飾品もまた中華風だ。リストバンドとアンクレットは雑技団風に、髪と縛り紐を彩る花は赤色に映える白。赤い花弁に白い花糸を持ち、艶やかに溌剌と咲き誇る華。それこそが朱美であった。
「おー」
 再度歓声が砂浜に響く。軽快な身のこなしにパチパチと湧き上がる拍手は、勿論、ケルベロスとドリームイーターの動向を見守る高校生達からだ。歓声に手を振り、或いは二の腕で胸を押し潰しながらのポーズで応える朱美に、男子生徒と思わしき口笛が木霊した。
「フ、フザ、フザケルナ!!」
 行く道を3人のケルベロスに塞がれたドリームイーターは、地団駄を踏み面罵する。
「いいや、儂らは大真面目じゃよ」
 言葉と共に登場した括は、ドリームイーターに挑発じみた笑みを浮かべる。

●夏の浜辺は危険が一杯
 高校生の持つ強い夢から生まれたドリームイーターの狙いは言わずもがな、同級生達のドリームエナジーとグラビティ・チェインである。
 故に、ケルベロス達が彼らを守る為の戦闘を仕掛けても、ドリームイーターはケルベロス達を無視し、最初の狙いを優先する可能性があった。
(「故に、儂らは策を講じたのじゃ」)
 派手な登場は、ドリームイーターの注意を引く為だ。水着を始めとした挑発的な服装や仕草は高校生達の視線を集める為ではなく、敵の意識を全て、ケルベロス達へ向かわせる為の扇動だ。
 当然、これを告げるつもりはない。ドリームイーターがその狙いを悟れば、何をするかなど火を見るより明らかだった。
「Freeze! なのじゃ」
 巡る思考を飲み込み、括は水鉄砲を突きつける。いわゆるシェリフスタイル――西部劇の保安官を模した水着を纏う彼女のそれはとてもサマになっていた。革製のブラとスカート型パレオから覗く肢体は、眩く、そしてキュートであった。
「ふっふっふ。どうするのじゃ? ドリームイーターよ」
 挑発の都度、ドリームイーターの憎々しげな視線が括に、否、ケルベロス達を一巡する。当然ながら視線そのものは見えないが、圧だけは強く感じた。
 そう。水着とは見られる衣装でもある。つまり、水着を着ると言う事はその手の視線に敏感になると言う事なのだ。多分。
「フシャァ!」
 飛び掛かるべく、身構えるドリームイーター。だが、叫びは次の行動へと繋がらない。
「待つであります!」
 動きを封じた一喝は、空を往来する光の翼の主から発せられた。
「鳥だ!」
「飛行機だ!」
「いや、ヴァルキュリアだ!!」
 ノリの良い高校生達の叫びが唱和する。
 世代間ギャップを物ともしない歓声は、ばさりと光の翼を広げ、降り立ったクリームヒルトに向けられていた。
 その装いを例えるならば海軍の水兵となるか。白いパーカーの襟、そして袖は青い重ね着風の装飾が施されている。浮き輪やブイを模したアクセサリーは、彼女自身が客船や商船、艦船をであるかの様であった。
 そして肢体を包むビキニもまた、水兵風であった。ブラの襟はセーラー服のセンターカラーを想起させるのに充分で、パーカーと合わせ、水兵風を強調していた。
 まさしく可憐! まさしくチャーミー! カワイイがそこにあったのだ。
「――っ!!」
 クリームヒルトとフリズスキャールヴが砂浜に降り立った刹那、誰かが息を飲んだ。
 それは、到来の前兆。周囲を見渡す一同の前で、それは起こった。
「海が――割れる――ッ!」
 相変わらず、ノリの良い高校生達であった。
 だが、その驚愕だけは本物であった。
 海が割れる――否、海面が盛り上がり、黒い何かが出現する。
 固唾を呑んで見守る高校生達やドリームイーターを差し置き、ケルベロス達は微笑にて、その到来を迎え入れていた。
 海面から飛び上がった彼女はそのまま、ドルフィンジャンプの如く宙に飛び、くるりと反転。砂浜へ足から降り立つ。
 湧き上がる砂煙とそれが収まった時、彼らの目前に現れたのは、黒の脅威であった。
 水着と言うのに露出は顔と手先のみ。首から手首、胸部、腹部、腰に腿に足首までと、黒いラバー状に身体を覆うそれは、いわゆるウェットスーツであった。本人曰く、
「通称海女さんスタイル、ですわ」
 自分の装備を称し、彼女はふふっと豊満な胸を張る。
 装飾品も削がれ、機能美以外の一切がそこにはない。見る人が見れば「折角の水着なのに……」と評してもおかしくない着こなしであった。
 だが。
「えっろー」
「エモい……」
 受け止め方は千差万別。露出していない肢体を余す所なく強調するその外観にある者は感涙し、そしてある者は極限まで研ぎ澄まされた日本刀の如き機能美に感嘆を漏らす。
 それがフラッタリー・フラッタラーの身に纏う物。即ち、水着であった。
「はぅぅ」
 ドン! ドンッ!! と咲き続けるケルベロスの花達に紛れ、グリゼルダがこそりと降り立つ。
 黄色地のホルターネック型ブラと同色のパンツと言うビキニ姿の彼女は、色黒の肌と同色の翼という組み合わせで、その色合いを強調している。外見はなかなか可愛らしい。他の6人に比べてインパクトでは劣る物の、自身が可愛らしいと思える事はとても良い物だと思う。思うのだが……。
(「お腹、すーすーします」)
 普段の鎧姿に比べて、腹部が露出している事で、防御が心許なく感じてしまう。特殊な布地と魔術や結界によって防御力は甲冑と変わらないとは知識で知っている物の、常に金属鎧を身に纏っていた彼女にとって、今の装備はとても心許ない。
「が、頑張らないと、ですね」
 そんな感想を抱くのは自分だけだと言う事実に、少しだけ驚いてしまう。流石、皆様は胆力そのものが違うなぁ、と別の感心すら抱いていた。

●我は水着の夢喰い也
「フザケルナフザケルナフザケルナ!」
 虚脱状態から抜け出でる事は成功したのか、憤りの声がドリームイーターから零れる。
 対するケルベロス陣営は7人と1体。何れも身構え、或いは得物を構え、迎撃態勢を取っていた。
「フザケルナ! オ前達ガソウヤッテ、美ヲ安売リスルカラ!!」
 大喝一声。叫びと共に放たれた衝撃波は、並の地球人ならば吹き飛ばすのに充分な力を秘めていた。
 それが、並の地球人であれば、だった。
「安売りとはキミの思い込みでしかないのではないかな?」
 飛び出す刃は後の先を穿つ後の先の先。ヒメの振るう抑止の刃はドリームイーターの表面を切り裂き、モザイクの破片を宙へと舞わせた。
 刹那、バッと翻ったパレオの先で、高校生達の息を飲む仕草を聞いた気がしたが気のせいだ。そう断じる事にした。
「そうであります! 確かに貴女の見目は美しい。それはおそらく、是なのであります!」
 無数の盾を展開するクリームヒルトの言葉は、ドリームイーターの外見を準えて。モザイクに覆われた彼女の美醜をクリームヒルトは判断する事は出来ない。美しさを覚えるものの、それが夢の力の一端に過ぎない事を知っている。だから、否定も肯定も出来ない。それだけは事実だった。
「外見だけを繕っても、心が綺麗でなければ本当に綺麗とは言えないであります! いくら見た目が美しくても、心が醜いと解れば誰も貴女を見ないでありますよ!」
(「ええ」)
 治癒の準備を行うグリゼルダは、同僚の叫びに心の底から同意する。
 ここに居る誰もが誰かの為に戦っている。襲われそうになった高校生達の為。ドリームイーターに食い物にされた被害者の為。何より、地球と言う自分達が守るべき星の為に。
 だから。
(「美しい!」)
 誰かの為に何かを為す事は浪費ではない。紙の兵を散布する彼女は強く、そして美しい。
 その姿に見惚れそうになる自身に、首を振って意識を集中する。賛美は、全てが終わった後だ。
「恨ミ辛三妬mI無苦。唯々渇キ、飢ヱ、欲ス。アァ……ョ! ……ヨ! 焚ベヨ!! クbEヨ!! 焔ニ擲テェ――!!!!」
 狂乱に身を委ねたフラッタリーの殴打は地獄の爪牙と化し、ドリームイーターを削り取る。一部分を揺らしながらの吶喊に、見守る少年達は何を見たのか。正気度を削る物だけで無かったと信じて上げたい。
「美しさとは何か! それは自身が決める事。ならばお主の『勿体ない』と言う考えもあながち過ちではない」
 だがしかし、と括は断言した。そのような生き様こそが勿体ない、と。
「浜の水着は祭り装束と同義! 故に、その本懐はお祭りに参加し楽しむという心意気じゃ! せっかくの祭り、楽しみ笑わぬではもったいない。心から楽しむ姿とはまこと美しいものじゃからの」
 即ちと紡がれた言葉は、ドリームイーターへの叱咤であった。
「今のおぬしは未だ水着の美しさを引き出せてはおらぬのじゃ!」
 魔法陣を展開しながらの叫びは、ドリームイーターを打ちのめすのに充分だった。
「私ガ……美シクナイ、ダト?!」
「ええ、と言いましょう。ドリームイーター!」
 時空すら凍えさせる凍結弾を放ちながら、そう断言したのはリーアだ。
「美しさを求める向上心は共感します。ですが貴女は……孤独です!」
 銃弾を放ち、飛び交う衝撃波を紙一重で躱す。サマードレス風水着はドリームイーターの攻撃に千切れ、その都度、括やグリゼルダのヒールが傷口毎、千切れた水着を癒やしていく。
 それでも白き膨らみが零れ落ちないのは、むしろ流石であった。泣く子も黙る豊満ボディは此処でも健在。先程から固唾を呑んで見守る高校生、主に男子高校生から向けられた視線がそれを物語っていた。
「さぁさ、人機一体の妙技、ここにご覧あれ!」
 そして、横より出でた朱美の蹴りが、掌底がドリームイーターを襲撃する。
 顎、首、胸、腹、鼠径部。番犬の牙と化した打撃が夢食いの急所に食らいついていく。
「私ガ、コノ私ガ!」
 敗北の理由は無いと叫ぶドリームイーターへ、殴打が、砲撃が、斬撃が、防壁が、気功が、光が突き刺さっていく。いくら現在を否定し、周りを否定しても、現実を覆す事は出来る物ではない。
「貴女はッ。――貴女を作った想いは、己の為だけの物だった! その想いは周囲を肯定しなかった! それが、貴女の敗因だッ!」
 叫びはドリームイーターの全てを否定する。それが決定的な攻撃となっていた。
「師より受け継ぎし技、いまこそ解放します」
 リーアの咆哮は電光と化し、ドリームイーターを貫く。広がる電撃はモザイクの皮膚を、水着を、そしてドリームイーターそのものを灼いていく。
 バチバチと弾ける電撃の果て、そこに何も残って居なかった。

●これもまた夏の戦争
 青い海。白い砂浜。空に広がる青は時折、白い雲を形作り、それでも、何処までも広く、遠い。
 茹だる様な熱気を掻き混ぜ、爽快さすら残す潮風は何処までも芳しく、此処が異空間であるかの様な錯覚すら思わせた。
「夏でありますねー」
「夏だねー」
「ですねー」
「……はい。夏です」
 それぞれクリームヒルト、ヒメ、リーア、そしてグリゼルダの台詞であった。
 クリームヒルトとグリゼルダにしては4度目の夏。冷夏とも騒がれていた今年の夏は、昨年、一昨年、そして三年前と変わらず、暑い。
「夏と言えばね~」
 ヒメは遠い目をして沖を泳ぐフラッタリーや括、朱美に視線を向けていた。
 海に出没したドリームイーターを水着で倒したのは確か三年前の2016年の事。カワイイと評された自分は今や、どの域まで達しただろう。少し質量を増した身体を見下ろし、ふふりと笑みを零す。
「私は去年、オークを倒しに……」
 回想するリーアの視線も遠く。あれから色々な事があった。ドラゴンのゲートが破壊された今、オークの出没はほぼ考えられない。あのドタバタ騒ぎは二度と無いのだろうと思うと、少しだけ感慨深かった。
「手を伸ばせば届く。少し視野を広げれば見える。だから、視野狭窄に陥らないで」
 そうすれば辛かった出来事も、楽しい思い出に姿を変える。
 だから願う。誰しもが楽しめる、そんな世の中になっていけばいいのに、と。
 この地球に住まう皆に幸あれ、と。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月25日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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