切断の巨人騎士を討つ者たち

作者:塩田多弾砲

『死(デス)』『殺戮者(キラー)』の名を冠された『巨人(タイタン)』……巨大ダモクレスが出現した『市』。
 その市から離れた、『某地方都市』。互いに姉妹都市提携を結んでいたが、街中の雰囲気は正直……共通点が無い。
 その町中の、用水路脇の大通りに建つ、とある公民館。建物自体は新しい、そこから……。
 いきなり、『巨人』が出現した。
 その日は休日だったため、人が居なかったのは幸いしたが……通り及び近所に関しては、その限りではない。
 身長7m半の、西洋甲冑を着たような『巨人』。その体中には、丸盾のような『丸鋸』が。
 自身が出現した事で、寄ってきた野次馬たちに対し、『巨人』は……、
『丸鋸』を、飛ばした。
『丸鋸』は、厚みがあり、まるでヨーヨーのごとく……細くしなやかな『鋼線』で接続されていた。『巨人』の両腕の甲に付いた丸鋸が、回転しつつ周囲の人々へと放たれ……、
 悲鳴とともに、血の花が咲き乱れた。
 丸鋸の一撃を、横にかわした人々もいたが。『巨人』は腕で薙ぎ、『鋼線』そのもので、人々を、周囲の建造物を、簡単に切断していく。
 生きたまま手足を切断され、倒れ、瀕死の状態で転がされた人々の呻きを横目に、
『巨人』は悠々と、歩き出した。

「以前に出現した『デスタイタン』、そして狼炎・ジグ(恨み喰らう者・e83604)さんが対戦した、『キラータイタン』と、巨大ロボのダモクレスの出現が最近増加しています」
 そして、今回も……と、セリカは君たちへ、詳細を述べ始めた。
 前回同様に、今回の個体も『先の大戦末期にオラトリオに封じられた、巨大ロボ型のダモクレス』。
 この個体もまた、『復活直後の状態なので、グラビティ・チェインが枯渇。そのため、戦闘力が大幅に低下している』。
 人命を奪い、グラビティ・チェインを蓄えると、体内のダモクレス工場も起動し稼働、小型の量産機大量生産を開始する。
 これらも、前と同様。
 そして、『制限時間』が存在するのも、また同様。
 起動後、420秒後……七分後に魔空回廊が開いて撤退、撃破不可能の状態に。故に起動後七分以内の破壊が必要。さもなくば、未来に大虐殺が確実に起こる。
 更に『フルパワー攻撃』も同様。この巨人のそれは、『自分の半径5m周囲に、自身の身体中に装着された全ての丸鋸を飛ばし、その空間内に存在する物体全てを切断・細断』というもの。
 この巨人……コードネーム『バズソウ・ナイト(丸鋸騎士)』が出現した公民館は、かつては持ち主不明の、かなり古い建物の跡地に建てられていた。
「ですが、当時の関係者は、建物の地下を見落としていたようなのです。『バズソウ・ナイト』は、そこで眠っており、此度に復活したのでしょう」
 だが、この『バズソウ・ナイト』がどこから来たのかは今はどうでもいい。問題は、どうやって倒すか、それが重要。
「下手に接近戦を挑むのは、極めて危険である事は説明するまでもないでしょう。『丸鋸』が危険なのはもちろん、それをかわしても『鋼線』に薙ぎ払われたり、巻き付かれたりしたら、そのまま切断されてしまいます」
 さらに、この『丸鋸』。厄介なことに、追尾機能が付いている。目標……動く人間を捕えると、それに向かって放たれれば、鋼線が伸びる範囲……5mまで追尾するのだ。
 加えて、丸鋸は両腕に二つ、両肩に二つ、頭部に一つ、両腰に二つ、両足に二つの、計九つ。仮に全員が丸鋸を押さえたとしても、一つが余る。
 ならば、遠距離からの攻撃か。しかし、
「『バズソウ・ナイト』の装甲はかなり分厚い様子で、おそらくは並の火器や銃器ではダメージを与えられないかと」
 接近戦もだめ、銃撃・狙撃もだめ。打つ手なしか。
「ですが、いくつか『特徴』が見られました」
 一つ。一度丸鋸を放ち、戻したら。5秒間だけ停止する。
 二つ。丸鋸発射は反動が強く、発射の際には足裏から杭を地面に打ち込み固定している。
 三つ。敵の頭部は360度回転し、視認できた目標に丸鋸を発射し追尾させ切断している。しかし、煙幕などで目標の視認ができなかったら、追尾できずあてずっぽうに発射する様子。
「そして、現場の公民館、その道沿いには『用水路』があります。幅5m、深さは4mくらいで、流れている水の深さは2~30cm程度。この用水路に誘導し落としてしまえば、有利に事が進められると思われます」
 少なくとも、人々が襲われにくくはなるだろう。あとは、いかにして視認させにくくするか、そして足元を不安定にさせられるか。
 足元を凍らせたり、大量の油を流したりして、滑りやすくさせるのは良い手かもしれない。後者の場合なら、続けて火をつければダメージを与えられる。あるいは逆に、水を大量に流して沈め、丸鋸発射の勢いを若干弱めたりするのも一案だ。
「これらに加え、『バズソウ・ナイト』は動きがかなり鈍く、パワーも並程度です。丸鋸と鋼線が無ければ、接近戦・格闘戦で関節部に攻撃を加え、倒す事が出来るかと。
 かなり厄介、かつ強力な敵だ。今まで以上にチームワークと、鋭い機知と技術、判断力、勇気、そういったものが必要になるだろう。
「ですが、これを放置していたら……まず間違いなく悲劇と惨劇が起こります。皆さんには、それを防ぐ力があると信じています。どうか……」
 参加をお願いします。セリカの言葉への返答もそこそこに、君たちは決意を固めていた。


参加者
除・神月(猛拳・e16846)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)
ソフィーヤ・クレフツォフ(お忍び旅のお嬢様・e36239)
ケル・カブラ(グレガリボ・e68623)
狼炎・ジグ(恨み喰らう者・e83604)
綾瀬・塔子(ただでは転ばない・e84140)
嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)

■リプレイ

●騎士が来りてKILL
「よっし、こんなもんだロ」
 二十以上のドラム缶に、発煙筒が入った十数個の木箱。それらを用水路の近くに持ち込み並べた除・神月(猛拳・e16846)は、満足げにニヤリとした。
「こっちも、持ってきたわよ」と、獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)。
「私もだ。だが……これは、ここにとりあえず置いておいていいのだろうか?」
 嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)が用意したのは、高さ3m、直径1m半ほどの、廃棄寸前の工業用オイルタンク。内部には、三千リットル程度のオイルが入っている。先刻にトラックで運び、道端に置かれたが……その存在感は奇妙に際立っていた。
「いいんじゃあねえカ? くそったれダモクレスを倒すにゃ、なんだって使わねえとナ。それよりも、警察への連絡の方が先ダ」

 同じ頃、
「……この辺に、油撒いときゃ良いカネー」
 公民館と、用水路の間。そこへ……銀子や神月が用意した、ドラム缶の一部を転がし運んできた、ケル・カブラ(グレガリボ・e68623)と、
「ああ。発煙筒も、使いやすい場所に持ってくるか」
 狼炎・ジグ(恨み喰らう者・e83604)とが、やがて来る敵に備えていた。
 大まかな作戦は、発煙筒や、戦闘で起こす砂煙などで、周囲を視界不良に。
 視界をくらませた状態で、用意した大量のオイルを敵ダモクレスの足下に撒いて、滑りやすくさせる。
 そして、ケルベロスたちの何名かが攻撃し、道路に隣接した用水路に落ちるように仕向ける。
 落とした後、槐の用意した大型オイルタンクを川上に投げ入れ、オイルを流し、踏ん張れないように。
 点火し、燃やして炎でダメージを。
 そのまま総攻撃し、完全に破壊。
「……さて、うまくいくか」
 それは、実際に行ってみない事にはわからない。しかし、用水路に落としてしまえば、少なくとも逃走させにくくはなる。
 ジグは、苛つきを押さえるのに苦労した。困難なミッションならば、こうやってあれこれ考え不安に苛まれるより、実際に身体を動かし問題解決に勤しむ方が、彼の性に合っている。
 準備を進めつつ、
「とっとと来やがれ。この俺がぶっ壊してやる」
 見ぬ敵への闘志を燃やすジグだった。

 数刻後。
 準備は整った。警察に連絡し、人払い、および避難勧告は完了。
 用意したオイルは缶のまま並べられ、一部は道路に撒かれ、
 発煙筒も、すぐにも使用可能。
 太い街路樹の陰に隠れた綾瀬・塔子(ただでは転ばない・e84140)は、
「さあてさて、そろそろ出てきますかね」
 と、獣耳をぴこぴこ。
 別の街路樹の陰には、
「だよねー。そろそろでてきてくれないと、困っちゃうなー。マヨキチもそう思うよねー?」
 ライドキャリバーに語り掛ける、ソフィーヤ・クレフツォフ(お忍び旅のお嬢様・e36239)が。
 そして、街路樹の上には。
「……避難は、完了したが……やつは……?」
『光の翼』で飛び上がり、高い場所より見張っているエメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)が。
 奴は、まだか。肝心の敵の姿は、未だに確認されず。
 両隣の建物の敷地内にいる、ジグや神月らなども、苛ついているだろう……と、エメラルドは予想していた。
 こういう時が、一番心乱される。落ち着かなければと、自らに言い聞かせたその時。
『丸鋸』が、公民館を切り裂いた。

●滑らせ、燃やし、絶望を断つ
「来たか!」
 ジグは、改めて『敵』を……、『バズソウ・ナイト(丸鋸騎士)』の姿を見た。
 確かにその姿は、甲冑に身を包んだ騎士に、似ていなくもなかったが……カニやサソリのような甲殻類を、無理やり人型にしたような、そんな印象も漂わせていた。
「……騎士ってのは本来、『命を賭しても主君に仕え、守るべき者を守る』覚悟があるやつに送られた称号だ。……だからてめぇは、騎士とは言えねぇ」
 つまり、偽の騎士、騎士もどきって事だ。
「さて……紛い物の騎士の首、落として掲げるか!」
 彼のその声とともに、ケルベロス達は散開しながら、『バズソウ・ナイト』の前にその姿を現した。
「……タイマー、開始」
 エメラルドが、タイマーのスイッチを押す。それとともに、七分間の決闘がはじまった。

『バズソウ・ナイト』は、頭部をせわしなく動かし……『敵』を認識した。
 そのまま、足を踏み出す。身体全ての『丸鋸』を回転させ……、
 前方の、二人のケルベロスへと狙いを定めたかのように、顔を固定させた。
「……くるか!」
「へっ、来やがれってんダ!」
 ジグと神月が、挑むように睨み付ける。
 次の瞬間。
 両足から、何かを打ち込むような打撃音が。
 続く、次の瞬間。
 文字通り、風を切り。『バスソウ・ナイト』の両腕の丸鋸が、ケルベロスへと放たれた。
「「!!」」
 二人へと、丸鋸は回転しつつ迫り、二人の目前で止まり、戻った。
「マヨキチ!」
 すぐにソフィーヤが動く。ソフィーヤはライドキャリバー『マヨキチ』を駆り……『バズソウ・ナイト』の足下に、ドラム缶一つ分のオイルをぶちまけつつ走り回ったのだ。
 そして、その間にジグらは後方へと下がる。
 長い五秒が経過し……『バズソウ・ナイト』は再び歩き出す。
(「野郎……あの『丸鋸』……、確かに射程距離は5mだが……!」)
(「間違いないナ……間合いを誤ったら、あたしら確実にブッタ切られル!」)
 二人は感じ取った。背中に、冷や汗が流れるのを。
 が、騎士が再び『見据えよう』とした、その時。
『煙』が、周囲に立ち込め始めた。
「ここから先は、私たちのステージよ!」
 銀子が発煙筒を放ち、
「私の事も、狙ってみるがいい!」
 同じくエメラルドも、光の翼で飛びつつ発煙筒を投げつける。
「……さて、引っかかってくれるかしら?」
 煙に包まれつつある『バズソウ・ナイト』を見据えつつ、塔子が呟く。
 槐も、普段は閉じている目を薄く開き、その動向を見据え、
「まあ……ハイ、大丈夫……だと、思いたいデス」
 ケルは、自信無さげに呟きつつ、ガネーシャパズルから『カーリーレイジ』……女神カーリーの幻影を解き放つ。
 踏み出した騎士の足下には、更なるオイルが流され、不安定さを増しつつあった。

 発煙筒の煙が、『バズソウ・ナイト』とその周辺を包み込んだのは、当初の作戦通り。しかし、こちらからの視界も遮ってしまう事も考えておくべきだった。
「ちつ、足音が響くが、奴の現在地が分からねえ」
 その足音から、『バズソウ・ナイト』は、明らかに混乱し、迷走している事は予想されたが……それを視認できないのは、ちとまずい。
 ダモクレスの『影』はかろうじてわかるが、がむしゃらにそれに攻撃したら、丸鋸に逆襲されてしまう。
 逡巡する中、
「……私が、行きます」
 塔子が駆け出し……、
「……『フォーチュンスター』!」
 星形のオーラを、フェアリーブーツにて蹴り放った。
 衝撃音が響き、続いて……、
「マヨキチ! 『デッドヒートドライブ』ですっ!」
 ソフィーヤが、ライドキャリバーで突撃する。
 炎を伴った彼女の攻撃が、『バズソウ・ナイト』へ直撃。
『転倒音』、そして『水音』と『爆発音』とが、煙の中から響いてきた。
 煙が晴れた、その先には。
 用水路に落ちた、火炎にまみれた『バズソウ・ナイト』の姿が。
「今だ!」
 と、怪力王者を用い、槐がタンクを川上の方に投げ入れる。流れ出たオイルが騎士の足下をすくい、引火し……立ち上がる事を困難にしていた。更に、用水路に落ちた時にひねったのか、左足首が折れている。
 四つん這いの状態になったダモクレスは、炎にまみれつつ、混乱したように首を振っていた。
「今よ!」
 銀子の声とともに、
「おう!」
 ブレイズクラッシュ、ジグの地獄の炎が、更なる火炎の地獄を発生させ、『バスソウ・ナイト』を容赦なく火炙りの刑に処していく。
「……4分、経過!」
 そして、エメラルドの持つタイマーは、残り時間が3分だと知らせていた。

●希望が断たれ、再び絶望が
「へッ! この時を待ってたゼ!」
 煙幕もあらかた晴れ、神月は『バズソウ・ナイト』にとどめの一撃を食らわせんと跳躍した。
「私も、いきます!」
 ソフィーヤも、『魔人降臨』を自身にかけ、スターゲイザーを食らわさんと接近した。
 二人の後ろには、ジグ、銀子、ケルが。
 上空にはエメラルド、後方には塔子と槐。
 しかし、ケルとエメラルド、二人はどこか『不安』だった。
『バズソウ・ナイト』は、今のところ立てない。炎にまかれてダメージは食らっているが、このまま畳みかければ倒せそうだ。
 しかし……あの全身の丸鋸は健在。立って身体を固定しないと、丸鋸は発射できない。
 ……『立って』身体を固定? そもそも、『立つ』必要はあるのか?
 その疑問は、塔子や銀子、槐の胸中にも生じており、不安を掻き立てていた。
 神月は獣撃拳を、ソフィーヤはスターゲイザーを放たんとした、その時。
『バズソウ・ナイト』は、両手と、片足を伸ばし、用水路の両壁に身体を突っ張った。
「……!? やばい! 離れろ!」
 ジグがいち早く、危険に勘づき叫んだが、
 遅かった。ソフィーヤと神月を狙い、……否、二人を狙う事なく、丸鋸のフルパワー攻撃が放たれたのだ。その射程距離内に、わずかではあったが、二人は入ってしまっていた。
「「!!」」
 斬! ……と、ソフィーヤの肩口が、丸鋸で抉られるように切り裂かれ、
 斬! 斬! ……と、鋼線が神月の全身を切り刻む。
 神経や骨そのものに、熱い針を突きさされたかのような痛みが、ソフィーヤの全身に巡った。
 神月は手を握っていたのが、不幸中の幸いだった。もし手を開いていたら、指は完全に飛ばされていたはず。
 しかし、彼女の視界はいきなり『赤』一色に。何故なら、顔と両目にたわんだ鋼線が切り付けたからだ。両目を一閃され、眼球自体も切られた事に気付いた時には……、
 二人とも吹っ飛ばされ、ボロ人形のように地面に転がされていた。
「ぐっ……ああああっ!」
 そして、ソフィーヤと神月のすぐ後ろにいたジグにも、丸鋸と鋼線が襲い掛かる。
 彼はやや幸運だった。二人に比べ、叫び声を放てるだけの余裕があったからだ。しかし、手足の健を切られ、首筋と腿の頸動脈を切断され、噴水のように血液を流された彼は……二人同様に後方へと転がされ、戦闘不能の状態に。
 他の者たちも、無傷では済まない。
「……ひっ!」
「……がぁぁっ! ま、まだだっ!」
「……痛うっ!」
 距離をとっていたはずなのに、ケルと銀子、塔子もまた、知らぬ間に身体の各部を……切り裂かれていた。まるで、カマイタチの真空刃を受けたかのように。
 負傷してないのは、エメラルドと槐のみ。
「みんな! 大丈夫か!」
「すぐ助ける!」
 三人に駆け寄ろうとしたエメラルドと槐だが、
「私達の傷は浅いわ! それより治療するならジグたちを!」
 銀子が叫び、立ち上がった。
 そうだ、フルパワー攻撃は既に放ち……五秒の時間ができる。このチャンスを逃してはならない。
「いくネー!『ファミリアシュート』!」
 ケルのロッドからの攻撃と、
「これが私の全力だ……受けてみろ! 『ヴァルキュリアブラスト・クラッシャー』!」
 光の翼を暴走させ、全身を光の粒子と化したエメラルドの突撃が、『バズソウ・ナイト』へと襲い掛かった。
 それらの直撃は、騎士の鎧の一部を吹き飛ばし、熱で脆くなった右腕をへし折った。
 しかし、まだ敵は倒れない。残り時間はあと……1分。

●そして、再び断ち上がる
 再び動き出し、残った片腕で、用水路の縁に手をかけた『バズソウ・ナイト』は、
 這い上がるようにして、立ち上がった。片足首は完全にへし折れているので、しっかりと足を踏ん張る事はできないが……、それでも『直立』はできていた。
 が、
「……あたしらが踏み越えた龍の一撃ダ。喰らって消える覚悟は出来たかヨ!」
 回復した神月が、片腕を天に向け、
「……ああ、答えは聞いてねエ! さっきのお返しダ!」
 立ち込めた暗雲から、振り下ろした。
 途端に雷撃が、『バズソウ・ナイト』に直撃。騎士の体中から、小さな爆発が発生し、装甲の一部が剥がれ落ちる。
 これぞ、『降魔「天地殲滅龍」・天地壊滅の雷(テンチセンメツリュウ・テンチカイメツノイカヅチ)』。
 もはや、立っているだけでやっとの状態の騎士へ、
「ええ、お返しです! マヨキチ!」
 ソフィーヤからの『フロストレーザー』、マヨキチからのガトリング掃射が襲い掛かる。
 両者からの攻撃を食らうも、それでも用水路から這い出ようとしがみつく『バズソウ・ナイト』。
 だが、
「……随分と滅茶苦茶切り刻んでくれたじゃねぇか。散々ぶっ壊したツケは払わせて貰うぜ」
 そんな逃走は許さんとばかりに、処刑人と化したジグが、
「……んじゃ、お別れだ。もう永遠に出会うことなんてないだろうけどよ!」
『恨み』の化身たる、獰猛なる獣を解放し、
「『絶廻方向(リング・ワ・ンデルング)』!」
『バズソウ・ナイト』へと叩き付けた。
 とどめの一撃を受けたダモクレスは、倒れると同時に大爆発をおこし……果てた。
 魔空回廊が出現したのは、その一秒後。再び虚空に消えたのを見届けて……ケルベロス達は、今回も薄氷の勝利を得た事を実感していた。

●きりきり舞い、切りが無い
「……っタク、焦ったゼ。目をやられるなんてヨ」
「私も、思わず素に戻りそうでした」
 事後。
 神月とソフィーヤが、疲れがまじったような口調で感想を。彼女らの傷は、槐の『無垢』により回復し、視力も戻っている。
「ああ。……あのガラクタ、今度出てきたら絶対にヒールを手伝わせてやらぁ……」
 同じく回復したジグも、歯噛みする。
 他のケルベロスたちにも、治癒は施され、回復させた。後は……周囲の後片付けのみ。
 今回はオイルを大量に撒き、さらには炎で燃やしたのだ。いくらヒールを行えたとしても、やはり環境によろしくない結果になった事は否めない。
 が、それでも……ダモクレスを倒せたことは僥倖。
「ま、これだけは言えるぜ。……どんな奴が出てこようが、俺たちの敵じゃあねえ」
 どんな敵も、俺が、俺たちが必ず倒してみせる。その言葉を、己への誓いと、守るべき人々への誓いの言葉にせんと、噛みしめるジグだった。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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