覇権を握るべく目覚めた竜胆の将

作者:なちゅい


 竜十字島。
 東京からはるか東の海上に浮かぶこの島で先日、ケルベロス達はドラゴンの残存勢力との戦い『ドラゴン・ウォー』を繰り広げた。
 さほど時は経っていないが、戦場となったこの竜十字島で今、何者かの表立った活動が確認された。
 それは、攻性植物の能力を持つよう改造されたオーク『オークプラント』達を率いた螺旋忍軍達である。
「……ここも違うようだね」
 島の森で捜索に当たっていたのは、地面に着くほど長い銀の様な白い髪の毛を持ち、頭に大きな犬の耳を生やした青年らしき長身の男性だった。
 『藤謳う竜胆の将』という名のこの螺旋忍軍は和服を纏う上から女性の着物を引っかけ、島のあちらこちらを率いるオークプラント達に穴を掘らせていた。
 どこを捜索しても大きな成果はないようだったが、彼は諦めずに新たな場所へとポイントを定める。
「今度はここを行ってみようか」
 オークプラント達は一斉に頷き、螺旋忍軍の男性の指示に従って手にするスコップで穴を掘り始める。
 その様子を紫色の瞳で見つめながら、竜胆の将はじっと唸り込むように考えていたのだった。


 螺旋忍軍に何か動きが確認されている。
 ドラゴン・ウォーの戦場となった竜十字島で、彼らは何かを捜索しているらしい。
 かなり重要な何かを探しているのではないかと、推測されているのだが……。
「何を探しているのかは、僕にもわからないのだけれど……。かなりの数の螺旋忍軍が捜索に当たっているようだよ」
 ヘリポートにて、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が今回の事件について説明を行う。
 それを聞いていたケルベロスの中には、ユリア・フランチェスカ(慈愛の癒し手・en0009)の姿もあったようだ。
 この螺旋忍軍達は、オーク型の攻性植物『オークプラント』を配下として連れていることもあって、大阪城の攻性植物、ドラゴンの残党との関連も疑われている。
「皆には、探索を行っている螺旋忍軍の撃破を頼みたいんだ」

 今回、討伐を願いたいのは、島にある森で何か捜索に当たっている螺旋忍軍「藤謳う竜胆の将」だ。
「弓を得意としているようだね。あと、ウェアライダーと螺旋忍軍のグラビティを使うことが確認されているよ」
 また、竜胆の将は10体のオークプラントを率いている。
 これらはオーク型の攻性植物で、両方の種族の特徴を併せ持っているようだ。
 配下のオークプラント達は主の命に忠実に従い、オークのような欲塗れの行動は起こさない。ただ、愚鈍であり、あまり強くはないようである。
「螺旋忍軍も他のデウスエクスに比べるとあまり戦闘力は高くないけれど、隙あらばオークプラントに戦いを任せて逃げようとするから気を付けてほしい」
 仮に螺旋忍軍に逃げられても。敵の目的を阻止することはできる。
 だが、可能であれば、この場で倒してしまいたい相手だ。
 ところで、この螺旋忍軍、竜胆の将は露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)と何か因縁があるらしい。
 彼女が依頼に参加するようであれば、何かしらの作戦に組み込んでもよいだろう。

「説明は以上だね」
 リーゼリットは話を一区切りしてから、主観を語る。
「やはり気になるのは、螺旋忍軍達が探しているモノだね」
 人員と手間を割いてまで探そうとしている何か。
 それが予測できれば、先にケルベロスが見つけて獲得できるかもしれないので、是非捜索してみたい。
「では、よろしく頼むよ。ヘリオンでは、2,3時間の旅かな。ゆっくりしてほしい」
 自らのヘリオンに乗るようケルベロス達に促し、リーゼリットは操縦席へとついていくのだった。


参加者
露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
綾瀬・塔子(ただでは転ばない・e84140)
嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)
 

■リプレイ


 竜十字島へと降り立つケルベロスのチーム。
 現状、螺旋忍軍の活動は続いているようだが……。
「竜十字島、ドラゴンの本拠だったわけっすけど、何を探してるんしょうね?」
 地獄化した心臓をその身に宿す青年、篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)がそんな疑問を口にする。
「ドラゴンが把握しているものなら、ドラゴンに場所を聴けば良いわけっすし、謎っすね」
 つまり、ドラゴンも何か把握していない、あるいはどこにあるのかわからないといったところだろうか。
 前髪ぱっつんの青髪ケモミミ少女、綾瀬・塔子(ただでは転ばない・e84140)も探し物の検討が全くつかない様子で、首を横に振っている。
「何を探しているんでしょうね?」
 柔和な笑顔を浮かべる眼鏡着用の鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)も、その捜索物が何なのか思い当たらない様子。
「けれど、私達にとってはきっと良くないものでしょうし……。阻止すると致しましょう」
「そうね、がんばりましょう」
 奏過に同意するユリア・フランチェスカ(慈愛の癒し手・en0009)は全力で、依頼に当たるメンバー達をサポートする構えだ。
 さて、その捜索を続ける螺旋忍軍の活動を阻止したいところ。
 対象は島の森の中にいるらしく、メンバー達もそちらへと足を踏み入れる。
「藤謳う竜胆の将か……。一体何を思って、その探し物をしているんだろうね?」
 今回の討伐対象と多少の因縁があるらしい、赤茶の髪をポニーテールにした露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)は首を傾げて。
「……それにしても、どうしよう?」
 相手はデウスエクスではあれど、夢の中で邂逅した縁がある。それ故なのか、沙羅は敵意を向ける理由がない。
 今回の敵と因縁を持つ沙羅を、やや不愛想な印象を抱かせる四辻・樒(黒の背反・e03880)は見つめて。
「どのような形であれ、自分の因縁には自分で決着をつけるしかないだろう」
「沙羅ちゃんに因縁のある敵、露払いくらいは樒と二人で役に立ってみせるのだ」
「そうだな。灯と二人でその手助けをしようじゃないか」
 樒の妻であり相棒でもある微笑みを湛えた赤髪の女性、月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)は彼女に寄り添いながら歩く。
「さて、もう一仕事だ。見つかるのが先か、見つけられるのが先か……」
 両目と涙をワイルド化させたオウガの少女、嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)は瞳を閉じたまま、そう呟く。
「私は探し物をするのは苦手だから、精一杯妨害するのみだ」
 槐は前方に、多数の存在を感知する。
 そこにいたのは、この島にある何かを探すオークプラントの集団。
 そして、それらの指揮を執る螺旋忍軍「藤謳う竜胆の将」なのだった。


 銀に煌めく白髪、和服を纏う犬のウェアライダーを思わせる容姿の螺旋忍軍「藤謳う竜胆の将」。
「次はこちらを……、ええ、あなたはこちらをお願いします」
 彼は顎に手を当てつつ、あれこれと考えながらも従えるオークプラント……攻性植物の力を持った改造オーク達へとあちらこちらを掘るよう指示を出していた。
 明かりを灯したランプを腰に下げた佐久弥もそれに気づいたらしく、鉄塊剣に手をかける。
 奏過もまたいつでもグラビティを使えるよう身構え、仲間達が仕掛けるタイミングをはかる。
「そこで、何してるの?」
「ジユウ……あなたですか」
 問いかける沙羅に気づいた竜胆の将。
 まずは、メンバー総出で相手へと揺さぶりをかけるよう試みる。
「ケルベロスが我々に対する理由など、そう多くはないはずですが」
「少し、世間話したいなと思って」
「生憎、そこまで私も暇ではないのですよ」
 すでに、竜胆の将は退路を模索している感がある。
 捜索よりも自らの身の安全の方が優先されるということだろう。
 一方のケルベロスとしては、少しでも多くの情報を敵から得たいところ。
「そっか、でも、僕らもある程度、キミたちの探し物の見当はついてるよ」
「さすがは、ケルベロスといったところでしょうか」
 沙羅の言葉に、竜胆の将は眉を顰める。
「そちらの同胞が、たぁっくさん情報を落としてくれたからね」
「お前達がそれだけ大がかりに探しているんだ。こちらが気づかないと思うのか?」
 そこで、樒が合いの手を入れ、敵を煽る。
「残念だが、探し物は見つからないと思うぞ」
「貴方の探し物。もうすでに私たちが確保しているものだったとしたら、如何するのだ?」
 灯音も樒に合わせて鎌をかけ、様子を見る。とりわけ、彼女は相手の視線などにも注意を払っていたようだ。
 その様子を見守る塔子、ユリア。竜胆の将は煽られても平然とした表情で、ふむと一唸りして。
「それが本当なら、我々の討伐が目的でしょうが……、ハッタリの可能性も拭えませんね」
 竜胆の将は状況を見定めようとしながらも、ケルベロスの抑えにと作業へと当たらせていたオークプラント達をこちらへと差し向けてくる。
「倒しても、倒さなくとも目的に支障はないはずだが」
 槐は事前に聞いた仲間達の考えを改めて思い返す。
 竜胆の将の処遇は沙羅に一任というのがメンバーの共通認識であり、沙羅自身は相手が逃げる素振りを見せるなら追うつもりはないとのこと。
 とはいえ、本心としてはこの場で倒したいという意向の者が多いという状況だ。
 いずれにせよ、その為には邪魔なオークプラント達を排除する必要がある。
「ともあれ、まずは敵の排除からっす。行くっすよー」
 佐久弥は仲間と共に、竜胆の将が率いるオークプラント隊の討伐を開始するのだった。


 竜十字島の森の中で始まる戦い。
 螺旋忍軍「藤謳う竜胆の将」は狙撃手として後方に立ち、前方へとオークプラント10体をけしかけてくる。
 オークといえば、本能丸出しで女性に襲い掛かるイメージが強い。
「ブヒ、ブヒ……」
 だが、この改造されたオークとも攻性植物とも言い難い存在は指揮する者の意向に忠実で、通常のオークのように女性ばかりを狙うといった行動が見られない。
 さりとて、ケルベロスにとっては討伐する対象には変わらず。
「さて、周りの邪魔な連中を排除するとしようか」
 樒は布陣の中央、ジャマーとなっている敵を狙い、刃に闇を映しこんだ様な漆黒のナイフ『闇夜』を手に近づいていく。
 陽の光に煌めくその刃に雷の霊力を纏わせ、樒は素早く狙ったオークプラントを突き、その体を痺れさせていった。
 ペアとなる灯音も対象を合わせ、攻撃に出ようと考えてはいる。
 ただ、先に銀槍を手にして、灯音は前線で戦う仲間の為にと雷の壁を構築していた。
 その壁のすぐ後ろには、チーム後方に攻撃を通すまいと立つ奏過の姿がある。
「奏兄、敵の数多いけど、怪我とかダメなのだ」
 灯音はぐぬぬと、義兄である奏過がチームの盾となっていることを心配する。
「大丈夫ですよ、月篠さん」
 奏過は笑顔で、灯音へと返す。
 同じく槐が盾になってくれているし、回復役としてサポートを行うユリアもライトニングロッドを手にして雷の壁を張り、仲間達の守りを固めていた。
 何より、オークプラントが打ち付けてくる蔓触手に、奏過はそこまでの威力を感じていないようで。
「1体1体は大したことないですね」
 しかし、いくら多少格下であっても、数がいる上に体力もあって鬱陶しい敵には変わりない。
 奏過も仲間と攻撃対象を合わせ、光の翼を暴走させて全身を光の粒子に変え、オークプラントへと突撃していく。
「ブ、ブヒ……」
 オークプラント達も黙ってはおらず、頭上の大きな花から光線を発射してくる。
 威力は高いというほどでもないが、食らわないに越したことはない。
 前線で力任せに攻め来る敵をすり抜け、佐久弥が鉄塊剣『餓者髑髏』を握りしめる。
 その武器は、廃棄された家電や屑鉄を鋳溶かして鍛えた鉄塊剣。
 残骸から生まれたという概念を宿すその鉄の塊を、佐久弥はジャマーとなるオークプラント目がけて真横に振り払う。
 巻き起こる強烈な旋風。それらは鈍重な体のオークプラントどもを吹き飛ばし、武器となる蔓触手や頭上の花を傷つけていった。
 メンバー達がオークプラントを優先して排除しようと動く中、沙羅だけは一直線に後方にいた竜胆の将を狙っていて。
『とっておきの花を捧ぐ』
 沙羅の脳裏に過ぎる夢の光景。
 おそらく、同じ夢を見た竜胆の将はあの約束を覚えてくれているのかどうか。
 気になる沙羅だが、戦いの中で確かめるのは難しい。
 彼女は相手の気を引くように、手にするナイフの刃を煌めかせる。
 弓を手に、沙羅を狙っていた竜胆の将が呼び起こされるトラウマ。
 それは、自らの前から次々といなくなっていく配下達の姿。
「待て、待ってくれ……」
 うわ言のように繰り返す敵は古傷を抉られ、しばし苦しんでいたようだった。
 そんな敵をチームの後ろから見る塔子はまず、これまで喰らった魂を己に憑依させて魔人へと変貌する。
 そして、ゾディアックソードを手にした塔子は前線メンバーの足元へと守護星座を描いていき、仲間達の守りを強めていく。
 支援を受け、前線でオークプラントの攻撃を受け止め続ける槐もやはり、個々の敵にはまるで脅威は感じてはいない。
 それでも、竜胆の将が飛ばす矢が飛んでくれば痛打を受けることもある為、槐は万全の状態にすべくグラビティを使って。
「穢れなく純真であれ、混じりなく清浄であれ」
 ――光見えぬ世界には汚れも雑じりもなく、その闇を裏返すと無限の光に包まれる。
 事象を逆転させ、槐はその身を苛む異常を振り払い、さらなるオークプラントの攻撃を受け止めていた。

 順調に、敵小隊を攻め立てるケルベロス。
「さすがに、抑えられませんか……」
 すでにジャマーとなるオークプラントが倒れ始めたこともあり、竜胆の将も引き際を見極めようとしていたようだった。


 ケルベロス達がオークプラントを叩く間に、駆け付けた泰地もサポートに入って火力の補助へと当たる。
「あれだけの人数を動員しているんだ。きっと奴らにとって重要な作戦なんだろう、なおさらのこと阻止しねえとな」
 両腕に青基調のマッスルバトルガントレットを装着した彼は裂帛の気合を重力震動波へと変換し、手前のオークプラントどもへと浴びせかけていく。
 圧倒的な力を見せつけることで、オークプラントも幾分かは怯む。メインで戦うメンバー達もかなり戦いやすくなったはずだ。
 他方、竜胆の将と交戦を続ける沙羅。
「露切さんのなさりたいように……」
「結果が変わらないなら可能な限り、止めは露切さんに任せるっすよ」
 奏過や佐久弥も、今回の敵に対してはある程度、寛容になってくれてはいる。
 そうしたメンバーがオークプラントを抑えてくれているからこそ、沙羅も直接竜胆の将と戦うことができているわけだが……。
 沙羅もリボルバー銃『赤錆ノ幻銃』から跳弾やグラビティを込めた銃弾で攻撃を繰り返し、戦いの最中に敵の目的を引き出そうとして。
「僕らとこんなところで交戦してていいのかい?」
「どういうことですか?」
 僅かに眉をピクつかせ、竜胆の将は弓を射る手を止めて沙羅へと問う。
「見当がついているっていうのは、実はウソで、本当はもう他のケルベロスが見つけているかもしれないね」
「……少なくとも、あなた達は外れというわけですか」
 それならと敵は後ずさりし、ちらちらと退路を確認し始めていたようだ。

 オークプラントと交戦するメンバーは、至って順調にその討伐を進めていく。
 敵はやはり蔓触手が面倒であり、オークのごとく触手を絡めて縛り付けてきたり、その先端から溶解液を飛ばしてきたりしてくる。
「貴方の強み……縛らせてもらいますよっ」
 だからこそ、奏過は蔓触手を封じようと雷にも似たグラビティを纏った鎖を作り出し、それらを縛り付けていく。
 最後のジャマーがその衝撃によってグラビティ・チェインが尽きたのか、全身を枯らすようにして倒れてしまう。
 次の優先討伐対象は、手前の火力役。
 そいつらが叩きつけてくる蔓触手や、頭から放つ光線は数が重なるとダメージが蓄積してくる。
 状況を見て、塔子は仲間のカバーにと盾になっているメンバーへと、エネルギー光球を投げつけて傷を癒やしていく。
 前線の敵を相手にしていた槐はその回復を受けながらも、止めが近いと判断した1体目がけ、燃え上がるエアシューズで蹴りつけて全身を燃やし、倒していった。
 ユリアが回復専念しながらも、電気ショックを飛ばして火力となるメンバーに力を与える。
「数が多いからな。手早く倒して行きたいものだ」
 援護をもらった樒は『闇夜』の刀身に空の霊力を纏わせ、オークプラントの体を大きく切り裂いて絶命に至らしめる。
 そのすぐ後ろでは灯音が樒の助力を得て、蝶を思わせる程軽やかに舞いながら連撃を繰り出してオークプラントを倒していく。
「樒。こんな島に残ってるものって、ゲート関係か、ドラゴンの死体くらいしかないような気がするのだ」
 戦いながらも、考察をする余裕すらある灯音。
「確かに、この島にありそうなのは竜関係の代物な気はする」
 同意する樒もまた敵の攻撃を防ぎ、灯音へと所感を返す。
 そこに飛んでくる矢に気づいて、樒は自らの弓で射落としてみせた。
「ふむ……」
 竜胆の将は攻撃しながら、何かをはかっている。
 ただ、樒としては、灯音が狙われたことの方に大きく注意を向けていて。
「弓よりはやはりナイフの方がしっくりくるが、灯を傷つけさせる訳にはいかない」
 そんなペアを横目で見ながらも、佐久弥は鉄塊剣より再度強烈な旋風を巻き起こし、オークプラント達へと浴びせて大きく怯ませていた。
「……頃合いですか」
 竜胆の将は徐々に、ケルベロス達から距離を取り始めている。
 それを察した沙羅は武器を下ろして。
「同胞でないとはいえ、一時でも従えていたモノを置いて逃げなければならない気分はどんなものだい? 藤謳う竜胆の将よ」
 だが、相手は涼しい顔でこう返す。
「私はただ、この場の目的達成を諦めたまで。いずれまた相まみえることもありましょう、ジユウ……」
 竜胆の将は近場の木を足場にして跳躍する。
 そして、そのまま木々の枝を伝ってこの場から離脱していく。
 そこに舞い落ちる藤色の着物の切れ端に気づいた沙羅は、拾い上げてから懐へとしまっていたのだった。

 この場のケルベロス達も無理に逃げる敵を追わない。
 オークプラントが残る間は、数人で無駄に追っても返り討ちに遭う危険もなくはないと判断したからだ。
 ともあれ、残るスナイパーとなるオークプラントを確実に叩くべく、一行は最後まで戦う。
 槐が敵陣目がけ、「鋼鞭形態」に変形させたガジェットで打ち付けていくと、奏過が双節自在棍『曙』を伸ばしてオークの首元を貫き、卒倒させていく。
 敵が減ったことで塔子も回復に余裕ができたのか、フェアリーブーツから星形のオーラで敵を蹴りつけ、そいつを狙う佐久弥が距離を詰めて高く跳躍する。
 落下速度に加えてグラビティ操作で宙を蹴り加速し、突撃していった。
 佐久弥は二本一対の鉄塊剣を変形合体させ、一振りとした大剣から炎血を噴霧し纏わせて。
「天より降り来る天ツ狗――万物喰らい万象呑まん」
 加速した刃を佐久弥は力の限り叩きつけ、オークプラントの体を完全に叩き潰す。
 残る1体は沙羅が銃を構え、グラビティを込めた一撃を敵の脳天へと見舞う。
 風穴を穿たれた最後のオークプラントは目から光を失い、仰け反るようにして後ろへと倒れていったのだった。


 藤謳う竜胆の将を逃がしてしまったのには賛否もあったが、彼の捜索を邪魔し、止めることはできた。
 依頼を完了したことで、塔子は武器を収めて一息ついていたようだ。
「しかし、連中は何を探していたのか。後でその辺を掘ってみるか? 宝探しの要領でな」
「うん、ちょっと試してみるのだ」
 樒、灯音はできる範囲で、近辺の捜索に当たる様子。
 螺旋忍軍の討伐も進んでいるようなので、この森だけではなく、あちこちを調べたいところ。
「探し物らしきものが大きいようなら、言ってくれ」
 オウガの槐がそう仲間達へと告げる。怪力を持つオウガ族なら、大抵の物は持ち運べてしまいそうだ。

 そうして、ケルベロス達はしばし島の探索に当たる。
 螺旋忍軍達の捜索物……果たして、それは一体どんな物なのだろうか。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月22日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
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