花火を見る恋人たちを切り裂く者

作者:塩田多弾砲

 暑い夏の一日。
 その日の夜空には、星明りよりもきらめく『光』が繚乱していた。
 花火が、様々な美しい焔と光とで、人の目を引く美を開花させている。
 それらを臨む、街中の大きな『橋』。
 そこでは、
「ねー、見て見て。きれーい」
「あ、ああ。きれいッス……先輩も」
 小柄な先輩女子と、大柄な後輩男子。
「ねえ、ボクと花火、どっちが好き?」
「……両方、好きだよ」
 ボクっ娘と、その彼氏。
「……いいの? あたしと……一緒で?」
「キミとじゃなきゃ、見たくないよ」
 ちょっと不良っぽい女子と、優等生っぽい男子。
「あの花火、また来年……一緒に見たいなあ」
「わ、私も、見たい……です……」
 ショートカットの女子と、内気そうな女子の二人。
 様々な取り合わせのカップルが、花火を見上げていた。
 が、
「……ねえ、ユキさん。何か流れてくるよ」
 女子二人のカップルのうち、片方が指摘し、
「さあ。でも、なんだか近づいてくるような……秋穂さん! 危ない!」
 川の上流から、いきなり高速で流れてきた『それ』は、
 橋の目前で跳躍し、橋の上に降り立った。
『ギル……ギル!』
 そいつは、身長3m程度の、巨躯の戦士。
 軽装の、侍ならぬ西洋でイメージされる『サムライ』のような鎧に身を固め、手にしているのは長大な刃の刀。
 その刀剣を無造作に振るい、
「え? ……秋穂、さん?」
 ユキと呼ばれた女性の前で、秋穂という少女の胴体が切断された。
『……ギル!』
 返す刀で、ユキの方も斬り捨てられる。
「……い、いやあああっ!」
 周囲が騒ぎ始めるが、巨躯の戦士……エインヘリアルは殺戮の花を咲かせ始めた。

「以前、湖の湖畔にて。カラリパヤット部の部員たちに襲い掛かったエインヘリアルの事件がありましたが。今度は……花火大会で有名な場所に、エインヘリアルが出現しました」
 セリカが言う事件は、既にベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)らにより解決されている。
「現場になった橋は、カップルに有名な恋愛スポットで……花火大会の時に、二人で花火を見たら、より間が深まるという場所なのです。で、花火大会が行われたその日に、カップルが集まってましたが……」
 エインヘリアルが現れ、カップルたちを惨殺した、というわけだ。
「このエインヘリアルもまた、以前に湖畔に出現した『ギギ』同様、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者らしいです。『剣士』『武士』といった感じで、刀剣を携え、それで無差別に切り付けています。こちらも放置したら、多くの人間が切り殺され、地球上のエインヘリアルの定命化を遅らせる事は必至でしょう」
 なので、急いで現場に向かい、このエインヘリアルを撃破せねばならない。
 橋は、鉄骨とアスファルト、コンクリート製の大きく長いもので、両側4車線の広さがある。普段は車が行きかうが、花火大会の当日は歩行者天国に。そのため路上にシートを敷き、座って花火見学をする者もまた多い。
 そのため、避難誘導さえできれば、この橋上でエインヘリアルを迎撃する事は十分可能である。
「このエインヘリアル、口にするのが『ギル』だから、仮名もそう名付けましたが。これは長い刀身のゾディアックソードを武器として用います」
 その剣捌きは巧みで、大柄故のパワーのみならず、精密さ、正確さもかなりのもの、だという。
 さらに、その足さばきも特徴的。フットワークも軽く、移動速度が異様に早い。5mくらいなら、一気に距離を詰めて切り付けられる、という。
 かなり強力で手ごわいエインヘリアルではあるが、この『ギル』は、武道家や戦闘の求道者のように、強者に戦いを挑んでいた『ギギ』と異なる。
『ギル』は、単に『切り殺せる目標』が近くにあれば、それに問答無用に切り付けて殺しているのだ。その対象が、強者か弱者かは関係ない。
「……要は、この『ギル』。切り殺せればなんでもいい、みたいなのですね。戦って己を向上させる……という事ではなく、単に『切り殺す行為そのものを楽しんでいる』。そのような意図が感じられるのです」
 実際、予見では。小学生のカップルや、家族に連れられた幼稚園児すら、その刃の餌食にしていたとの事。
 中には、わざと急所を外して即死させず、苦しませてから止めをさすような事もしているらしい。
「……これを聞いたら、このエインヘリアル『ギル』を倒さねばならない理由としては十分ではないでしょうか。悪鬼外道と呼ぶにふさわしいこの相手、どうか皆さんで倒してください。おねがいします」
 言うまでもない。このような相手、戦って倒さずしてなにがケルベロスか。
 君たちはすぐに立ち上がり、参加を表明した。


参加者
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
神宮・翼(聖翼光震・e15906)
カタリーナ・シュナイダー(血塗られし魔弾・e20661)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)
皇・露(記憶喪失・e62807)
肥後守・鬼灯(うたかたの夢・e66615)

■リプレイ

●『紅牡丹』のごとき血を流させない
 橋の上。
「見て、ユキさん! きれい……」
「ええ、とっても……」
 秋穂とユキ。予見で襲われる、女性同士のカップル。
 二人が見上げているのは、夜空を彩る花火。
「……で、日本の基本的な花火ってのが、『菊先』。その先端が紅かったり青だったりすると『菊先紅』『菊先青』って呼ぶんだって」
 手元の携帯で検索した白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)が、その検索結果をちらっと見つつ、隣の女性にうんちくを。
「まあ、そうなんですか」
 彼女、ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)は、感心したように相槌を。
 そこからそう離れていない場所で、花火を見ているひとりの美女。
 彼女、カタリーナ・シュナイダー(血塗られし魔弾・e20661)に、二人の男が近づくが、
「おねーさん、一人?」
「いっしょに遊ばねー?」
 しかし、
「……Verlieren(失せろ」
 殺気とともにそう言うと、二人は顔を青くして退散。
 が、近くには五歳くらいの少女がいた。少女は泣き出してしまい、そのまま退散。
「…………」
 そんな時、タイミングよく着信音が。
「もしもし?」
『こちらロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)。こちらは異常なし。そちらは?』
「こちらも、異常ない。敵らしき存在も、今のところは見あたらない」
『了解。引き続き待機を続行する。何かあったら連絡頼んます』
「わかった、そちらも気をつけてな。交信終了(オーバー」
 連絡し終えたロディは、
「ろーでーぃーくーん」
 神宮・翼(聖翼光震・e15906)、サキュバスの美少女に、甘えた声とともに腕とを絡められた。
「……って、うわっ!」
「えへへっ、知ってる? ここって花火大会の時に『二人で花火見たら、より絆が深まる』って、有名な恋愛スポットなんだって」
「……そ、それがどうかしたか?」
「だからー、今日は花火大会の日、よね? この意味わかるわよね?」
 などと問いかける翼だが、
「ロディさん、翼さん、今は待機中ですわ」
 皇・露(記憶喪失・e62807)が、たしなめる。
「……はい、わかってます。真面目にやりまーす」
 その三人から、少し離れた場所。
「……既に警備員と現場責任者に、避難誘導の協力要請をとりつけ、避難経路の確認も終了、橋の左右に立つ避難誘導担当者の顔も覚えた、と」
 ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)が、欄干によりかかりつつ、確認するかのようにぶつぶつとつぶやいていた。
「……あとは、敵を待つだけ、ですね」
 ベルローズの隣にいるのは、肥後守・鬼灯(うたかたの夢・e66615)。
 二人は既に、この花火大会の運営へと事情を説明し、警備および事故発生時の誘導人員へと、有事の際における避難誘導をお願いしていた。
 後は、敵襲撃を待つのみ。しかし……肝心のそれが、いまだに来ない。
「……飲み物でも、買ってきますね」
 鬼灯がそう言ったのと同時に。

「……喉乾いたなー。飲み物、買ってこようかな的な? ラムネでOK?」
 永代もまた、同じく飲み物を所望していた。
 が、彼がガラス瓶を二つ手にして戻り、ガートルードに一つ差し出したその時。
 上流からやってきた『それ』が、まるで砲弾のように河川の水面より飛び出すと、剣を突きたてつつ……減速し、立ち上がった。
「なっ……」
 永代はそいつが来るのを注意深く待ち続けていたが、まさかここまで素早く、勢いがあるものとは思ってもみなかった。欄干を飛び越えてきたならば、翼を用いこちらも髙く舞って、叩き落とすつもりだったが……おそらく、通用しなかったろう。
『……ギル!』
 そいつは、エインヘリアルは、確かにインチキな鎧武者っぽい鎧に身を固めていたが……手にした長大な刃の剣は、鋭そうにきらめいている。
 それは、ユキと秋穂を見つけ、
「い、いやあああっ!」
「秋穂さん!」
 彼女ら二人を、餌食にせんとした。が、
「こっちだ、くそったれ!」
 永代がラムネの瓶を投げつけ、注目の対象を自身に移す。
『……ギル?』
「あんたら、今のうちに逃げろ!」
 そして、カタリーナも立ちはだかる。
「ふん、これが『ギル』とやらか。……気に入らん面だ」
 カタリーナのその言葉に、
「まったくです! ……さあ皆さん、避難してください。急いで、でも慌てないで」
 プリンセスモードのガートルードと、
「本当に、嫌な顔つきしてますわ!」
 露が同意し、『ギル』を囲んだ。

●『青蜂』の巣をつついたような騒ぎ
 永代とカタリーナ、ガートルードと露。
 四人が『ギル』の気を引く囮になり、残り四人……、
 ロディと翼、ベルローズと鬼灯。彼らは橋の上、一般人の避難誘導を行っていた。
「オレ達はケルベロスだ! ここは任せて、みんなは警備員の指示に従って避難してくれ!」
 隣人力を用いたロディが、割り込みヴォイスで皆の耳へ直接語り掛ける。
「そこのおばさん、おちついて! おばあさん、大丈夫だよ!」
 翼もまた、アルティメットモード……敵と戦う際の、最終決戦モードをとり、励ましの言葉を皆に届ける。
「……警備のおじさん、誘導お願い! そこの、親とはぐれた子を迷子センターに!」
 駆けつけた警備員たちへと、翼は指示を。
 そして、ベルローズは。
「そちらではない、こっちだ!」
 右往左往している人々に、誘導指示を出そうと四苦八苦していた。
 エインヘリアル『ギル』が現れたのは、橋のちょうど真ん中近く。
 正確には、やや右よりの位置。カタリーナたち四人が囮になってはいるものの、おそらく稼げる時間はわずか。
 急がねばなるまい。ベルローズもまた、割り込みヴォイスで逃げるように周囲へ言い聞かせていた。
「落ち着いて! そのまま慌てずに、近い方向の橋の岸へと向かって!」
 右岸と左岸、それぞれには警備員が待機している。
 彼らの特徴を伝え、そちらの方向へと逃げるように……そう皆に言い聞かせるも、そうは簡単に事は運ばない。
 怖がって悲鳴を上げ、しゃがみ込み動かない子供や女性の姿も少なくはなかったのだ。恐怖で腰が抜けたり、過呼吸を起こしたりで動けない者や、心臓が悪そうな年寄りが胸を押さえているのも見つかった。
「……くっ」
 鬼灯は、当初から抱いていた危惧を目の当たりにして、歯噛みせざるを得なかった。
『地の利』は、確実に敵の方にある。今は囮が押さえてくれているが、それも長続きはしないだろう。
 そして避難誘導は、進んではいるが、予想以上に『遅い』。必死に割り込みヴォイスで語りかけたり、アルティメットモードやプリンセスモードで励ましても、その場から動かなかったり、駆け出して転んだりブツかったりして怪我するものも。
 ちょっと……いや、少しばかり『まずい』かもしれない。
 焦燥が、鬼灯、そして皆の心の中に生まれ、その胸を焦がし始めた。

 焦燥は、囮班も同様。
『ギル』のゾディアックソード、その斬撃が、
「! くうっ……!」
 全身防御していたガートルードを薙ぎ払った。
(「苦戦しているように『見せかける』必要は、ありませんでしたね……」)
 囮四人は、『ギル』の注意を引く事は成功したが、そいつの攻撃は予想以上に『重い』ものばかりだった。
 既に何度か、敵の刃を受けてしまい……四人とも負傷していた。
「ぬわああっ!」
 再び振り下ろしてきた『ギル』の剣を、すれすれでかわす永代。しかし剣先は彼の身体を浅く切り裂き、そのまま橋のアスファルトと鉄骨とをぶち抜き、大穴を開けていた。
 そして『ギル』は、そのまま無理な姿勢で沈み込み、駆け出した。
「受けて立ちますわ!」
 露は自分に迫ってくるものと思っていたが、『違った』。
 彼女から離れた場所に、
「や、やだぁ! ミユ、怖いぃ!」
 へたり込んだ幼女がいたのだ。それは先刻、カタリーナが図らずとも泣かせてしまった少女。
「……っ!」
 考えるより先に、カタリーナは駆け出した。
『ギル』の、血に飢えた刃が、ミユに迫る。強者が切れぬなら、弱者を先に。切り殺す快感が得られるなら、相手がなんだろうと関係ない。そんな事を沈黙のうちに語りつつ、ミユへと刃が襲い掛かり……、
『悲鳴』が、あがった。

●『葉落』する希望を拾いあげる番犬(ケルベロス)
『……ギル!』
 悲鳴は、『ギル』から。そいつはカタリーナの放ったバスタービームの直撃を受けたのだ。
「……逃げなさい!」
 そのまま、ミユの前に守るように立ったカタリーナ。少女は、カタリーナの背中を見た後、
 素直に、指示に従い逃げていった。
 が、『ギル』もまた立ち上がる。
(「馬鹿め。お前らに勝ち目など無い。切り刻まれる恐怖に、ビビった面を見せやがれ……」)
 と、沈黙の中でそう言い放っているかのような、悠々とした立ち上がり方だった。
「……なあ。まさかお前、自分の方が未だ有利……とか思ってねえだろうな?」
 それに対し、永代は不敵に言い返す。
「……メタリックバーストの付与による回復、できました」
 続き、ベルローズと、
「君には、これを付与します!」
 オウガメタル『玲瓏なる玉鋼』から、『ギル』へライジングダークを放つ鬼灯が、姿を現した。
『……ギル!?』
 さらに『ギル』は、スターゲイザーの蹴りの一撃……否、『二撃』を背中に食らい、路上に転がされた。
「……えへへっ、ごめんあそばせ。避難誘導、ばっちり完了!」
「待たせたな。ここからはオレ達のターンだぜ!」
 翼とロディ、二人が同時に放ったスターゲイザーが見事に決まったのだ。
「……正直、四人だけでしたら、危なかったですわ」と、ファイティングポーズの露。
「ああ。だが……八人そろった今……」
 カタリーナが、改めてバスターライフルを構え、
「あなたはこれまで通り、有利に戦えるかしら?」
 ガートルードが問う。
 その問いに答える事無く、『ギル』は駆け出した。
 ケルベロスは全員で、エインヘリアルを迎え撃つ。
『ギル』は剣で前衛に切りかかる……と思わせ、剣を後方へと投げつけた。
「とことん……卑怯なやつだ!」
 カタリーナのフロストビームが、剣を貫き、その射線上にいた『ギル』の身体をも撃ち抜く。
 それでもなお、迫ろうとする『ギル』だったが、
「あたしのビートで、ハートもカラダもシビレさせてあげる!」
『Vivid☆Beat☆Vibration(ビビット・ビート・バイブレーション)』、翼の魔性の歌声が、『ギル』の身体を麻痺させた。
 先刻と逆に、焦った様子の『ギル』へ、
「さっきのお返しです!」
 ガートルードからの、マインドソードの一撃が貫く。
 続き、
「はあああああーーーっ!」
 お尻に高エネルギーを込めてのヒップアタック。露の破纏撃が、『ギル』に更なるダメージを。
 だがそれでも倒れず、つかみかかる『ギル』に、
「見切れるか、電光石火! 『ブリッツバヨネット』!」
 リボルバー銃『ファイヤーボルト』を手に突進したロディの一撃が、襲い掛かった。
 グラビティ・チェインが刃を形成し、リボルバーへ纏わせ、それが超高速の斬撃とともに繰り出される。『ギル』の装甲がそれを防ぐが、攻撃は確実にヒットし、苦痛をもたらした。
「おおっと、倒れるのは早えぜ。……逃れられると思うな、お前は此処で焼かれていけ」
 ロディの攻撃でも立ち尽くす『ギル』へ、永代は全身から『炎』を放つ。
 それは地獄の焔、放たれるは、エインヘリアルという名の悪魔。悪魔を地獄に戻さんと、穢れを浄めるかのような『白焔』が、満身創痍の『ギル』へと容赦なく叩き込まれ、包み込んだ。
 炎で包まれ、『ギル』から悲鳴めいた絶叫が響いてきた。
「……人呼んで、『白焔の舞』。舞い終わったら、そのまま地獄に帰るんだな」
 だが、まだ倒れない。松明と化しつつ、一歩を踏み出した『ギル』だが、
「……これだけは言っておく」
 進み出て来たカタリーナが、バスターライフルの狙いを定めた。
「『殺していい』のは、殺される『覚悟』のあるやつだけだ。貴様にその『覚悟』が無いのなら……」
 燃えつつ、見苦しく蠢く『ギル』へ。ライフルからフロストレーザーの止めが放たれた。
「……それが、貴様の弱点だ」
 この世に絶対の捕食者などいない。隙を見せた者は、須らく餌となる。
「……それは我々も、お前も、例外ではない。あの世でそれを噛みしめるがいい」
 彼女の言葉が終わるとともに、『ギル』は倒れ、動きを止めた。

●『錦冠』のように、平穏が続かん事を……
 事後。ヒールを施し、関係各位に報告し終えたケルベロスらは、
「頑張ったご褒美、いいでしょ?」
「あ、ああ」
 翼はロディとともに、花火見物を。
「えへへっ、やっぱり仕事抜きでこういうデートする方が、いいよね?」
 先刻以上に、ぎゅっと腕を絡められ、赤面するロディ。二人が雑踏の中に消えるのを見て、
「よっし、俺も! さー花火楽しむぞーっ!」
 と、人ごみの中に。
 しかし、自分が助けたカップル、カップル、カップル。
 それらを目の当たりにして、
「……一仕事終えて、気持ちが充実しているはずなのにっっっ……この胸中の虚しさはなんなのかっっっ」
 と、心の血涙を流す彼であった。
 同じ頃。
「……あれ? 露さんは帰るんですか?」
「ええ。カップルのお邪魔はしたくないと思いましてね、ガートルードさんは?」
「さっきのラムネのお礼にと、永代さんにタコ焼きを買って来たんですが……どちらに向かわれたんでしょう?」
 などと言いつつ、二人も喧噪の中に消えていった。
 そして、ベルローズは。
「……ひゃっ!」
 ヒールを終えた後。
 脆くなっていると知らずに、橋の欄干に腰掛けたが。壊れてしまい落ちそうに。
 が、
「危ない!」
 鬼灯が間一髪、手を取ってくれた。
「……あ、ありがとう、ございます」
 なぜか。いつもより鬼灯が……ちょっとだけ、ほんの少しだけ、頼りがいがあるように見えたベルローズ。
 鬼灯は、ややどぎまぎしながら……、
「い、いえ。あ、あのっ……花火、一緒に見ませんかっ?」
 そう、誘ってきた。
 そして、ベルローズは、
「ええ、良いですよ」
 自分が、そう返答するのを知った。
 そういえば、黒地の彼岸花の浴衣を持ってきていたはず。着替えてくるとしよう。

 そして、カタリーナは。
「……帰るか」
 踵を返そうとした、その時。
「?」
「……さっきは、ありがとう。ミユの、お礼」
 先刻の少女が、近くで摘んできたらしい花を差し出しているのに気付いた。
「……どういたしまして」
 受け取ると、ミユは恥ずかしそうに俯き、そのまま両親らしき大人たちのところへ戻っていった。
「……悪くない、な」
 自分は、自身を罰するために戦っているようなもの。だが……罪無き者を助け、礼をもらい、満足を覚えた。それくらいの贅沢は許されるだろう。
 もらった花を見つめつつ、カタリーナは……しばしその場に佇んでいた。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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