アモーレの誕生日~ダンス&エチュード

作者:ハッピーエンド

●事件発生
 それは、ある昼下がりの食堂。学生服の集団がアモーレを囲んでいた。
 なにやら深刻そうな顔で学生は語り、それに対してアモーレは両手を振り上げて何かを宣言する。歓声が上がった。
 嬉しそうに去っていく学生たち。ハニーはアモーレの肩をちょちょんつつく。
「?」
 ハニーは首を傾げ、
「ダンスと劇をやることになりました」
 アモーレは学生たちから受け取ったメモを、マジシャンのようにパラパラと鮮やかにめくっていく。
「?」
 もう一度傾げる。
「二つの勢力が救いを求めてきました。ダンス/劇を見せてほしいと」
「どっちか一つにしないの?」
「一つを選べば一つは立たず。疎外感は攻撃に昇華され、攻撃は反撃を生みます。諍いは熱を帯び、戦いはうねりとなって周囲を呑み込みます。そして遂には世界大戦に――」
「それは大変! ……って、とびすぎだよう!」
 ハニーのツッコミに、アモーレはクスッと笑い、
「笑顔を見たいじゃないか。悲しむ顔は見たくない」
 それは、陽だまりの様に温かい微笑でした。

●ミーティング
 扇風機がキュルキュル回る会議室。
「ダンスは、音楽と身体さえあれば即興で良いですね。劇も、モチーフさえあればこれも即興で良いでしょう」
「音楽はジャズ? ラテン? フラメンコ?」
「そうですね……希望があればソレをかけましょう」
「劇は?」
「このメモに、彼らの渇望が刻まれているようです」
「どれどれ?」
 真田幸村。伊達政宗。石田三成。土方歳三。
「伝記ものだね。歴女降臨」
 斎藤道三。松永久秀。宇喜多直家。最上義光。
「闇落ちした!!」
 ハムレット。マクベス。リア充。オセロ。
「4大悲劇に一つ眩しいのが混ざってるよ! しかもその間違いに引っ張られて、一つボードゲームに聞こえるよ!」
 桶狭間の戦い。関ケ原の戦い。源平合戦。猿蟹合戦。
「最後ぉ!」
「オーソドックスな劇ではありませんか?」
「いや、そうなんだけど、並びがね」
 悪魔と天使の戦い。魔王と勇者の戦い。社長と社員の戦い。和菓子と洋菓子の戦い。
「『和菓子と洋菓子の戦い』! これで決めちゃおうか?」
 ハニーの顔は、心の底から真面目でした。
 アモーレはというと、それぞれのメモに刻まれた、なんども書き直したであろう筆跡、消し跡に目を細め、
「全部やりましょう!」
「全部は流石に無理だよ!?」
「やってやれないことはありません!!」
「ストップストップ! 『どれに決まっても恨みっこ無し』って、メモに書いてあるよ!」
「ふむ……」
 アモーレは暫し天を眺め、
「仕方ありません。では、天に愛されし劇を決めるとしますか」
 言うや否や、シュタタタタとボードにメモを貼り付けていく。
「こ、これは回転ダーツ! いつの間に!」
「こんなこともあろうかと」
「そっか! さすがだね!」
 突っ込みは不在。
「ではアシスタントのチョコ君。お願いしますよ!」
 運命は、フヨフヨ空中に浮かんでいた赤のボクスドラゴンに委ねられた。
「和っ菓ー子! 和っ菓ー子!」
 どこかで聞いたようなコールが響く。
 シュターンッ!!
 運命の炎が貫いた。
「いつ見ても優美なる投擲です」
「どれどれ? どれになった?」
「! これは!」
 メラメラ。
「情熱で燃えていますね」
「チョコー!?」
 あわててチョコさん炎を消します。
「燃えていないメモを確認しましょうか」
「そだね」
 一つ一つ、候補が削れていき、最後に残ったのは――、
「『魔王と勇者の戦い』だね。良かった。松永久秀になったらどうしようかと思ったよ」
 かくして、演目は決まりました。

「エクセレント! それでは皆様に招待状です。右手に情熱を! 左手に友情を! 心に音楽を! 舞台に喝采を! いざ! 混然一体のエチュードを!!」


■リプレイ

●勇者立つ
 王国歴24601年。世界は魔王の恐怖に包まれていました。王が呪いをかけられる事件も起こり、王国は魔王討伐を決意。最近ブームの異世界召喚に手を染めることとなります。
「やってくれ」
「かしこまりました王様」
 悠然と王座に座す青の竜王、晟。ものものしい金色の鎧と美髯が目を引く精悍なる王。
 その眼前で召喚の儀式に勤しむは王宮魔導師、ハニー。
 六芒星から豪風が吹き荒れ、ハニーの蒼いローブがはためく。
 ――光が落ちた。
 中心部に男。紫のサキュバス。
「え? 俺??」
 あなたです。
「俺は指輪ネタを」
 今終わりました。
 勇者は頭を抱えます。
「勇者ナザク。あなたはトラックに轢かれ、この世界に転生してきたのです」
「トラックに轢かれたくらいで転生する貧弱な俺の存在」
 打ち所が悪かったのでしょう。
「そんな貧弱な勇者さんには、転生特典として3つの呪いが授けられています!」
「せめて祝福して欲しい」
「1つ。弱くなります」
「いきなり致命的なやつ」
「1つ。ツッコミ気質になります」
「それ元からのやつ」
「1つ。今は秘密です」
「それ後付けする気満々のやつ」
「安心してください。あなたの世界の住人は、こちらの世界では最強クラス! 多少弱くなったところで平気なのです」
「なるほど。よくあるパターンか。安心した」
「それでは、緊張もほぐれたところで、王がお待ちです。面接、しっかり頑張って来てくださいね!」
「強制的に呼ばれたのに面接させられる俺の存在」
 王は勇者の顔をジッと見つめます。
「戦闘経験は?」
「ある」
「合格!!」
「嘘だろ!?」
 決断力の化身。
「勇者よ。今より魔王討伐の任を与える」
「言いたいことは山ほどあるが、まぁ、条件次第だな」
「ふふふ。ならば魔王を倒したら世界の半分をお前にやろう!」
「世界の半分を?」
 竜王様の強気な交渉。勇者は暫し王宮のシャンデリアを見つめ、
「世界は要らん。スウィーツを要求する」
「スウィーツ……だと?」
「そうだ。それも上物だ。この国で1番のスウィーツだ」
「1番の?」
「1番だ」
「……良いだろう! 君が魔王を倒したあかつきにはスウィーツを与えよう!!」
 安。
「俄然やる気がわいてきた」
「では行くぞ勇者よ! 私も行く!」
 かくして激しい交渉は成立し、勇者と王は熱い友情で結ばれたのでした。

●王の器
 平原を勇者と王が歩きます。
「まずは仲間を集めるか。酒場にでも行くか?」
「適当に歩いていれば、仲間になる者も魔王の手の者も、適当に寄ってくる魔法をハニーにかけてもらっているから問題ない」
「あの魔導士が黒幕の疑い――」
 ――ドォンッ!!
「来たぞ」
 最初の襲撃でした。透明な棒をヒュンヒュン華麗に振り回す精悍な棒術使いとエンカウント(ゲスト)。
「うおおぉぉッ!! あっちーーッッ!!」
 想像以上にキレの良い一撃が勇者を襲います。
「王よ。俺の後ろに――」
「何者だ!!」
 勇者の制止を振り切って、ずずいと前に出るキング。
「俺か? 俺は魔王軍四天王――」
「大物じゃないか!!」
 瞬間、王の瞳が真っ赤に光り――、
「キングパーンチ!! キングパンチ! キングパンチ! カイザーキーック!!」
 ドグシャァッ!!
「滅!」
 13006の経験値を手に入れました。
「王よ」
「なんだ」
「俺より強い気がするが」
「そうか。がはは!」
「騙された。訴訟」
「法務大臣はハニーだ」
「つんだ」
 深まる勇者と王の絆。

●姫騎士たまちゃん
 山を越え谷を越え、勇者と王は旅を続けます。
 そろそろお腹も減ってきました。
「つまり、求めているんだな? 俺を」
 コックでした。野良のコック(ゲスト)がムーンウォークで歩いていました。王と勇者は大喜び。ふるまう料理に舌鼓を打ちます。それは至高の味でした。
「幸せ過ぎて、もう何もしたくない」
「それな」
 勇者と王はポンコツになりました。コックは魔王の刺客だったのです。
 ピンチの勇者一行。となれば次の展開は必然、
「王様! 助けにきましたよ!! 姫騎士たまちゃん、ここに見参ですっ!」
 ショートの赤茶髪をポップに揺らし、にゃにゃんと姫騎士・環が登場。フリフリスカートひるがえし、ウィンクばちこーん! 決めポーズ!
「ふっ。今さら遅い。王は至高の料理の手に落ちた。そう。この、魔王軍四天王――」
「やっぱり恥ずかしいっ! くっころ(す)ーーー!」
 ドゥクシッ!!
 無情。名乗りすら終わっていないところへ、恥じらい猫の大回転大槌アタックがクリティカル。哀れ敵は18855の経験値となった。
「ふむ。羞恥心で身体に爆発的パゥワーを宿し、解き放つ戦術か。中々に興味深いな」
 解説のキング。
「恥辱マスターたまちゃん」
 勇者は命知らず。
「くっころ(す)ーーー!」
 沸き立つ羞恥を力と変えて、環は放つ。力の鉄槌。
 王と勇者は空を飛んだ。
 後には顔を真っ赤にして『ふにゃぁぁぁぁ』と転がりまくる猫がいた。

●三毛猫の踊り
 夜も更けて、勇者たちは宿を探す。不意に、勇者のマントを引く村人が一人。
「あなた方は、勇者様一行! 助けて下さい……魔王が現れてからというもの、夜になるとうちの大根が畑を抜け出しては踊り狂うのです。夜な夜な畑から盆踊りのお囃子が……」
 震える村人。これは勇者として放っておくわけにはいきません。
 村人から貰った大根をポリポリ齧り、畑に向かいます。
 なるほど、大根たち(演劇部)がドジョウ掬いを踊っていました。
「奇妙な事件ですね? どうします? みんな食べちゃいますか?」
「うむ。その発想は無かった」
「さっさと黒幕を見つけて終わらせたいな」
 とりあえず踊る大根たちを大人しくさせる勇者たち。そこに――、
「ヤメテクダサイ!」
 現れたのは黒髪の青年。赤茶けた瞳は虚ろ。手にはマンドラゴラと刀を持って、幽鬼のようにユラユラと。
「君はさっきの村人ではないか」
「ハイ。恭志郎ト申シマス」
「仕方ない。俺が元に戻してやろう」
 勇者は剣を構えるが――、
 光が閃光のように瞬いた。村人の逆襲。咄嗟に構えた刀身が弾き飛ぶ。直撃していたらどれ程のダメージを受けたか見当もつかない。
「なんだこの村人。めちゃくちゃ強いぞ!」
 村人Lv94。技は18種類以上。ユラユラ体を動かして、抜刀の構えでにじり寄る。
「いや! ちょ! 洒落にならんぞ!」
「どこかに操っている奴がいるはずだ! そいつさえ倒せれば」
「でもでも、大根まみれで身動きが取れませんよー」
 絶望の勇者パーティー。となれば当然、
「私たちが力を貸しましょウ」
 待望の仲間が到着です。
 静謐な空気を身に纏い、黒衣の吟遊詩人エトヴァが登場。
「猫の手にゃにゃーん!」
 170cmオーバーの巨大三毛猫、ジェミも降臨。さぁ、どんな戦術を。
「いきますよジェミ。『戦いに巻き込まれつつ逞しく生き抜く三毛猫の踊り』デス」
「にゃーんですー!」
 リュートの音が畑に響き渡った。これはタンゴ。なんだかとっても踊りたくなる。
 三毛猫は、丸まってごろーりごろーり。
 大根もつられてごろーりごろーり。
 王も勇者も姫騎士も村人も幸せそうにごろーりごろーり。
「なんたる光景!! イメージが!! 創作のイメージが! 俺の中でミーミルの泉が滾滾と湧きだしている!! あぁしかし今は魔王軍の仕事を託されたのだ!! ジキルたる俺が任務を果たせと激励し、ハイドたる俺が本能に身を任せろと囁いている!!」
 まんまと濃ゆい男が濃ゆい自供(ゲスト)を始めました。
「犯人が見つかったようですネ。勇者殿。今でス」
 詩人は柔らかな微笑を湛えるが、
 勇者はスピィ。気持ちよさそうに眠っていた。
「……ジェミ」
「猫パーンチ!」
 ポムッ!
 15607の経験値を手に入れ、躍る大根事件は幕を閉じました。

●魔王と賢者
 同日某時刻。月華に照らされる神秘の森。
 2つの影と2つの影が対峙していた。
「ようやく見つけたぜ、魔王。……クィル。封印の魔法は何ページだっけ?」
「23ページだよ。緊張してる? ほら、チョコレート。リラックスしていこう」
 パクッ。
「――お前が一緒で助かったって、心から思うぜ」
「ふふ。僕も同感だけど、それは魔王を倒してから聞かせてもらおうかな」
 賢者ヒノト。従者クィル。同じ街で生まれ育った幼馴染は、篤い友情で結ばれていた。素養のヒノトと知能のクィル。尊敬と信頼は互いの中で渦巻いている。
 ――不意に、対峙していた2つの影が、月華に姿を現した。
「出てくるのを待つのも疲れちゃった。おじちゃん。狩りを始めましょう」
「あぁ」
 燃えるような赤い瞳と頭髪の、巨躯の男が静かに立った(トリスタン)。精悍な肉体は力強く。同時にどこか静かさも感じさせる。粗野な猟師服では抑えきれない知的な迫力に、賢者と従者は思わず息を呑む。
 ――強敵だ。
 緊張感漂う空気の中、猟師の胸に抱かれた赤頭巾がドヤリと嗤う(エルス)。シルクのような銀髪。人形のように華奢な身体。どこからどう見ても天使。だが恐るべき力を秘めた魔の王。
「勇者? おおかみでしょう、おじちゃん、蜂の巣にしてちょうだい」
「了解」
 月華に光の花が咲き乱れた。
 堪らず賢者と従者が茂みから跳び出す。
「ヒノトくん。ケース38でいこう!」
「OK!」
 賢者の詠唱。紺のローブが翻り、ブラウンの髪が魔力の光に照らされて燃えるような橙に煌めく。
 猟師はそれを見逃さない。
「弾が当たるなら……倒せる」
 散弾が賢者を捉える――その時、
「ヒノトくんは僕が護る!」
 立ちはだかる従者。漆黒の執事服が弾丸を弾く。同時に詠唱。冷気を地に這わせ、己の身体を盾として縛り付ける。華奢な身体が閃光に揺れる。
「いたたた! 早く――」
「待たせたな!!」
 賢者の掌から、紅蓮の火球が燃え盛った。それは、赤く白く森を照らす。
 焔が吼える。朱が奔る。疾風。石火。避けること能わず。
 ――ゼロモーションで迎え撃つ!!!!!
 猟師の銃が火を噴いた。
 轟音。激震。空間が爆ぜる。視界が瞬く。
 ――大切なのは間合い。
 火の粉の中で猟師が跳び退く。
「射程外。そう思ったか?」
 空中に舞い散る火の粉。その内の一つがキュイと鳴き、紅蓮となって猟師を襲う。
 猟師は瞬時に判断した。
 魔王の身体が宙を舞う。
 ゴゥッ!!
「おじちゃん!!」
 その巨体が赤に包まれる。
 魔王の瞳から色が消えた。
 キイィィィィッッ――。
 魔本がバサバサと捲れ、共鳴を上げる。身体中から金色が立ち昇り、大地が鳴動する。
 紫電が弾けた。
「クィル!!」
 主を、友を護るよう、従者はその身を盾とした。
「悪いおおかみはコロコロしなくちゃ……」
 なおも魔王は手を伸ばす。
 賢者は引かず、牙を剥き、しかし全力で治癒の光を友に与える。
 絶体絶命。その時――、
「敵影発見ですー!」
 巨大な三毛猫が現れた。
 しゅびっしゅびっと左右に避けるような敏捷な動きで木々に隠れ、ちょいちょいと誰かを猫招き。
 後から続々と力有る者たちが姿を現す。
「今は一度、態勢を整えましょう」
 燻ぶる煙の中から声がした。
 魔王の瞳に感情が戻る。
「おじちゃん! ステーキになっちゃったかと思ったわ」
「私は焼くほう専門ですから」
 一度引きますよ。言うが早いか猟師は魔王を抱えて退避する。ガブ。『おいちくない』『やめて下さい』。魔王は城へと退避した。
 賢者の治癒魔法によって従者は完全復活を遂げ、いざこれより最終決戦へと勇者は進む。

●裏切りのメリーナ
 古城。魔王の居城。その中でも一際広大な謁見の間。
 不気味な蒼い炎が揺らめき、竜骨で作られた王座は禍々しい闇を湛えている。
 その王座に腰掛ける者がいる。
 薄笑いを浮かべ、ふんぞり返り、脚を組む。
 すぅっ。と息を吸い、
「きゃーーーーーーー!!♪」
 足をばたつかせて大はしゃぎを始めた。
 魔王の側近。四天王最後の生き残り、メリーナ。常に下克上を狙う、王座大好きっ子。
「わーい♪」
 ふかふかの王座をポンポン跳ねてご満悦。藍色のクリッとした瞳がキラキラ輝き、猫耳がピョコピョコ揺れる。
 しかし、幸せな時間は長く続かない。
「楽しそうね」
 魔王。帰る。
 続けて、
「ついにたどり着いたぞ! 魔王の城に!」
 勇者御一行も到着。
 さぁ山場だ。魔王は勇者達に向き直ると、偉そうに胸を張り、
「お――」
「おーほっほっほ、ようこそ私の城へ! 絶望の海に沈むが良いですわ、思い上がった聖者達よ~!」
 側近のセリフジャック。魔王様は、滅茶苦茶嫌そうな顔をしました。
 猟師さんが側近の首根っこを捕まえます。反省のメリーナ。
 さて、気を取り直して魔王様のターンです。一世一代の大舞台。ありったけのドヤ顔を作り、大声を出すために思いっきり息を吸い込み、
「お~ほほ――ごほっ!」
 盛大にむせました。
「うっ、この笑い方、むちゅかしい……」
「次、頑張りましょう」
 猟師さんは大人。背中さすさす。ドリンクをハイ。
「わーい」
 魔王は嬉しそうにクピクピクピ。
 プハッ。満面の笑みを零すと、作り直すドヤ顔! 今の失態を帳消しにするべく、ふんぞり返り、両手を腰に当て、
「お~ほほ――ゴホッ!! ケホッ、ケホッ」
 またむせました。
 魔王はそのまま猟師の胸にモゾモゾ隠れ。スヤァ。セルフ封印。
「本当にさっきの魔王か?」
 激戦を繰り広げた賢者と従者は疑惑の眼。
「ああ。エルスさんは純粋なので、先ほどはムードに引っ張られただけだと思います」
 猟師さんは正直者。
 魔王の座なのに締まりが皆無。
「仕方ありませんね。魔王様がやる気ないなら、私が相手しちゃいますよ♪」
 ありがとう側近。
 メリーナは1、2、3と指を立てると、雷で五指を光らせ――、
「必殺!! ビカビカドーーン!!!」
 雷の嵐が荒れ狂う。
 王は身を挺して仲間を護り、村人は神速の抜刀で王をフォロー。
 三毛猫は猫パンチをリズミカルに連打して、降り注ぐ瓦礫を粉砕。詩人は演奏で三毛猫に力を与える。
 賢者と従者は抜群のコンビネーションで結界を張り、勇者は焦げ、姫騎士が涙を浮かべて敵へと向かって走り出す。
「俺たちも加勢するか?」
「それよリ、引き抜いてみテは如何でしょウ? 忠誠心は薄そうデス」
「ってことは交渉だな。クィル!」
 従者が一歩前に出る。
「メリーナさん! 交渉しましょう!」
「交渉? 勇者風情が、ちゃんちゃらおかしいですわ!」
「寝返ったら、ケーキ1年分差し上げます!!」
「け、ケーキ!?」
 揺れた。マグニチュード6くらい。
「あ、甘い! 甘々ですわよ!! 魔王城の王座の魅力に比べたら――」
「ならばお前が魔王を倒したら、 世 界 の 半 分 を や ろ う ! !」
 竜王様の魔の誘い。
「……え???」
「世界の半分をお前にやると言っているのだ」
「貴方は?」
「この国のキング!!」
「……」
 静寂が満ちる。
「ご存知でした? 私、昔、進路希望調査票に勇者って書いてましたから!!」
 今、魔王城陥落の瞬間。

●終劇
「そこまでです!」
 ようやくエピローグ。と思いきや、実はまだ一人、最後に控えている登場人物が居ました。
「争いはなにも生みません」
 城内をスポットライトが照らします。
 その人物は、優しい顔つきで。艶やかな黒髪で。引き締まったせくしーぼでぃで。
 ゴリラでした。
 紛う事なきゴリラ(小唄)でした。
 みんなの視線は釘付けです。
「誰もが一度は考えたことがあると思います。みんな、ゴリラになれば平和になるのに……と」
 ええ。
「だけれどそれは無理なこと。諦めてしまうのも当然のこと」
 ええ。
「しかし、そんな皆さんに朗報です。私の魔法で、皆さんをゴリラにすることができます!」
 ええ!?
「ゴリランゴリランゴーリゴリ☆ みんな優しいゴリラに――」
「させるかよ!!」
 勇者パーティーのキレイどころが一斉に阻止に走りました。ゴリラオチだけは絶対にダメだ。ゴリラオチだけは絶対にダメだ!!
「ゴリラを止めるなんて、鉄拳制裁が必要ですね」
 ドドドドドド!!
 小唄の鮮やかなドラミング。
「みんなゴリゴリにしてあげましょう! いでよ! ゴリラ『三銃士』!!」
 光と共に、そいつらは舞台へと駆けあがります。
「さっき倒した四天王の3人か! あんた達も大変だな!」
 どっこい違う。
「「「私たち、ゴリラ『34』です(ダンス部)!!」」」
「アイドル!!?」
 キレッキレのダンスでゴリラたちが舞台を縦横無尽に踊り狂う。
「さぁ! いざ決戦の時!! 右手に剣を! 左手に信念を! 心に友情を! 舞台に音楽を!!!」
「ここでアモーレ!?」
 パチィンッ!!
 ミュージック! スタート!!
 アモーレのカンツォーネが響き渡る。エトヴァのリュートが激闘を紡ぎ、ジェミが三毛猫のダンスを踊る。
 ゴリラ34も一糸乱れぬ鮮やかな踊り。センターで小唄も女子力フルチャージ! お供の翼猫点心も食欲フルチャージ!
 王はガハハと暴れまわり、魔王は猟師の胸でスヤスヤスピィ。
 従者が冷気で敵を止めれば、賢者は『任せろ!』。焔でソレを薙ぎ払う。
 姫騎士が大回転で敵を散らせば、側近は広範囲に雷鳴を轟かせて競い合う。
 猟師は楽しそうに重火器をフルバーストさせ、村人は流れるように一番多くの敵を屠る。
 そして勇者は魔王の座をドヤ顔で制圧した。
 あらゆるところで戦火が上がり、誰も彼もが光り輝くミュージカル。
 最後に勝ったのは勇者か、魔王か、ゴリラか、
 その答えは――。

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月26日
難度:易しい
参加:12人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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