竜十字島にて忍犬は咆える

作者:ハル


「バウッ!!」
 耳をピンと立てた犬型螺旋忍軍『刀犬』が、威圧を込めて唸る。その唸り声に恐れをなしたのか、配下のオークプラントの作業スピードが若干上がった。オークプラントは植物の触手で瓦礫を掻き分け、海の中に潜ってまで目を凝らす。
「…………」
 その名の通り、両刃の刀を咥えた勇ましい犬の姿をした刀犬は配下の様子を一瞥した後、辺りを睥睨する。彼らが現在留まっているのは、ドラゴンのゲートが破壊された竜十字島周辺。海風に煽られ、流麗な黒い鬣と毛並みが逆立った。
「フッフッ……!」
 そして刀犬もまた例外ではなく、優れた嗅覚を活かすように周辺の匂いを所かまわず嗅ぎ回っていく。
 しばらくして、瓦礫と海中を探索していたオークプラントが戻って来た。その触手には、それぞれ石くれのような物が握られているが……。
 刀犬は無言で首を横に振った。
 やがて刀犬とオークプラントはその地点から移動を始め、次の場所でもまったく同一の行動を開始する。
「……ガウ!!」
 ふいに刀犬は、気合を入れるように一咆えする。その瞳に浮かぶのは、主人に対する深い忠誠の色だ。刀犬は任務を見事に果たし、主人に褒めてもらえる事を想像したのかモフモフの尻尾を振ると――それまで以上の勢いで、辺りの匂いを嗅ぎ回り始めるのであった。


「二カ月程前のドラゴン・ウォーについては、まだ皆さんの記憶に新しいと思います。ですが今、その戦場となった竜十字島で螺旋忍軍の暗躍が確認されています」
 ケルベロス達を前に、山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が資料をモニターに表示させる。
「御覧の通り、かなりの数の螺旋忍軍が投入されております。彼らは『何か』を探しているものと推察されますが、その『何か』については不明です。ですが、かなり重要なものである可能性は高いと思われます」
 また、螺旋忍軍はオーク型の攻性植物『オークプラント』を10体程配下として連れている事から、大阪城の攻性植物やドラゴンの残党との関連も疑われる。
「皆さん、お願いします。探索を行っている螺旋忍軍を撃破してください」

 今回ケルベロス達のターゲットとなる螺旋忍軍は、『刀犬』いう名を与えられており、狼のような姿をしているようだ。姿形としてはオルトロスに近しいが、似て非なる存在であると心して欲しい。
「配下のオークプラントに関しては、戦闘向きではないようです。愚鈍で最低限の戦闘力しか有していません。ですが――」
 桔梗が一度、言葉を溜める。
「戦闘時の彼らの役割は、純粋な戦闘力としてよりも、むしろ肉壁としての比重の方が大きいかもしれません。と言いますのも、刀犬はいざとなれば皆さんとの戦闘よりも、オークプラントに足止めさせての逃走を優先すると思われるからです」
 無論オークプラントとは比べ物にはならないが、刀犬も螺旋忍軍であり、現時点のケルベロスが大きく苦戦する相手ではない。ゆえに、螺旋忍軍側としても無謀な戦闘を継続する愚は犯さないだろう。
「刀犬達は現在、林を背にしての探索を行っています。もし仮に、刀犬に林の中へと逃げ込まれてしまうと、さすがに見つけ出すのは極めて困難と言わざる得ないでしょう」
 何らかの策が必要かもしれない。
「皆さん、その点には注意して事に当たってください!」
 最後に――。
「一体、螺旋忍軍は大規模な戦力を投入して、何を探しているのでしょうか? できればその『何か』を知りたい所ですね。もし『何か』を知る事ができれば、私達が先んじてそれを手にする事も……」


参加者
ミツキ・キサラギ(剣客殺し・e02213)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)

■リプレイ


 竜十字島に上陸したケルベロス達は、犬型螺旋忍軍『刀犬』の背後――林側から回り込むように敵との距離を詰めていた。
 主となって逃走経路を断つ役割を担うのが、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)とマルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)の二人。他のケルベロス達は、開戦次第即座に二人の援護に入れるような布陣を敷いている。
「いかにも鼻が利きそうな螺旋忍軍だね。気づかれないように気を付けなくちゃ」
 二人に次いで、最も刀犬の傍に陣取るのは影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)。隠密気流を扱える装備を整えた三名だ。とはいえ、リナの推察通り刀犬は非常に鼻が利く。そのため、風向きを考慮に入れた行動が不可欠であった。
「目的の物は匂いとかで感じられるものなのかな。うぅん、何か掘り出す必要があるものとか?」
「この辺りで感じられそうな匂いといえば、硫黄……などでしょうかね。後はオークプラントが回収して来る石くれのようなものを見るに、手で持てたり、それに準するサイズであるのかもしれません。それと、石のように堅いモノ、ある程度重量があって水に沈む石板やオーブという線も」
 小首を傾げ唸りながら思案するリナに、ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)が意見を出す。刀犬を問い詰められれば手っ取り早いのだが、何分刀犬は人語を話す様子はない。
「犬といえど、油断だけはすんなよ。あの足取りはまさしく――」
 剣客そのものであると、剣士であるミツキ・キサラギ(剣客殺し・e02213)が口端を釣り上げる。
「あっ、なんだかミツキくん、楽しそー」
「確かに久方ぶりの剣客相手で心が躍る。ただまぁ、そんな事言ってる場合じゃないってのは理解してるぜ。それはそれ、これはこれってな」
 羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)が「男の子ってばそういうの本当に好きなんだから」そう言わんばかりの態度と表情で揶揄するように笑うと、ミツキはコホンと一息ついた。
「『何か』については非常に気になる所ではあるけれど、私としてはそれ以上にあのオークブラントってのが気持ち悪いわね。普通のオークよりはマシ……だといいのだけれど」
「碧お姉ちゃん、ああいうの苦手だもんね!」
「……得意な人もあんまりいないと思うけど」
 植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)は、嘆息しながらミツキと結衣菜を交互に見た。今回の作戦の同行者を思えば、いつにも増して失態は許されない、そう感じながら。
「…………」
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)は望遠鏡を覗き込んでいた。刀犬達の動向に変化は――相変らず『何か』を探し回っている――なし。わざわざ燻して消臭した迷彩マントやブーツを着こんできた甲斐があったというものだ。
(「気になる点といえば、工作に長けた忍軍にしては場当たり的というか、行き当たりばったりな捜索方法なのが気になるわね。リナやベルローズの意見の他に、そもそも彼ら自身も碌に情報を持っていない可能性も……」)
 アウレリアは彼女なりに当たりを付け、いざという時のブラフも用意している。デウスエクスが求めるもの、そう考えればある程度の予測はつく。だが、現状では何も確定してはいない。
 と、アウレリアの望遠鏡に、真理とマルレーネの姿が映った。アウレリアは真理とマルレーネが醸す親密な空気に目を細め、
「妬けるわね。ねぇ、あなたもそうは思わないかしら?」
 白銀の銃を構える伴侶――ビハインドのアルベルトへ、そう問いかけるのであった。

「どこからどう見ても……ワンコ」
「……です」
 風下を常に意識しながら、マルレーネと真理が刀犬達の至近に迫る。二人は緊張感を維持しつつも時折目配せし、不測の事態が起こった際への警戒を怠る事はない。真理は露骨に、マルレーネはサラリと。それでも互いが互いへ向ける熱量は同じ方向性同じ温度だ。
(「マリー!」)
 ふいに真理は、マルレーネの華奢ながら豊満な肢体を掻き抱きたい衝動に駆られる。それだけ、真理が恋人へと向ける想いは渦巻き溢れかえっている。
 だから、
「……後で」
 マルレーネが振り返る事もなく、真理の心情を読み取ったかのような言葉を発した瞬間、真理は天にも昇るような心地を覚え――「行くですよ、皆さん!」仲間と共に任務を果たすべく、力強く作戦行動開始の合図を出した。


 背後の林からの強襲、先制攻撃。
「ガウ!! ガウガウガウ!!」
 しかしそれは、僅かながら真理の狙撃点計算が遅れ、完全な成功には至らなかった。オークに指示を出すように刀犬が咆哮し、青白い炎の螺旋を繰り出す。真理はマルレーネの壁となるようにシールドユニットを全面に押し出して被害を最小限に止めながら、
「―――全部、捉えたですよ」
 高速演算で導き出した弱点をデータで投影しながら砲撃を開始した。
「グルルルルルルルルルッ!!」
「っ、早い、です!」
 だが、一連の砲撃は尋常ならざる刀犬の対裁きにて強制的に狂いを生み出され、全て回避される。プライド・ワンが中衛にスピンで突撃するも、刀犬には届かない。
「なら、これは避けられるかしら?」
 しかし、ケルベロス側の攻勢は始まったはかり。刀犬は別として、この場にオークより愚鈍な者は一人として存在しない。アウレリアがライフル型ドラゴニックハンマーから竜砲弾を放ち、衝撃で刀犬の体勢を若干崩す。
「初っ端から躱されちゃったか、さすがはキャスターね! でも前衛の三人共大丈夫! 私と碧お姉ちゃんが援護するわっ!」
「ええ、いつまでも今の調子でいられるとは思わない事ね。行くわよ、結衣菜ちゃん!」
「うんっ!」
 碧の歌声が竜十字島に響き渡り、歌声を彩るように結衣菜の魔性の魔力を宿すオウガメタル――ルナイクリプスが前衛に粒子を放出する。スノーも仲間外れにするなと言わんばかりに白磁の翼を羽ばたかせ、碧は「ごめんなさいね」小さく呟き苦笑した。
(「あのワンコ……」)
 恋仲として気になる点はある。だがそれを問うより先に、マルレーネは赤い瞳に魔力を籠め、中衛に催眠をかける。
「ブ、ブヒッ……ブヒィ!」
 刀犬には回避されるも、数体のオークの目が一瞬虚ろとなった。範囲攻撃とはいえ、オークプラント程度であればケルベロス側の攻撃――特にアウレリアやベルローズ――は必中に等しい。
「基本的にディフェンダーへの集中狙い、でいいんだよね? だったら――」
 リナが魔法の木の葉を纏い、次手以降の布石を打つ。
「今までは運が良かったみたいですが、それも終わりです」
 刀犬、中衛への牽制やエンチャントに終始した序盤戦。刀犬の壁役として存在するオークは出番がなかった事に安堵しているかもしれない。しかしベルローズは冷たく告げると、絶望の黒光を照射して僅かな希望を打ち砕いた。
「そういう訳だ。まずはお前達を全滅させないと、あの犬と落ち着いて剣を交えるって訳にもいかねぇからな!」
 ミツキは大太刀を正眼に構えると、刀犬含め11体の敵軍を蹴散らすべく一気の超加速突撃を敢行する。さすがに大きく命中率は下がるが、それでもオークの愚鈍さを証明するように、前衛と中衛合わせて4体程の敵が宙を舞った。
「ワンコ、真理とどういう因縁があるかは知らないけれど逃がしはしない」
 本能的に力量差を感じ取ったのか、敵陣が静まり返る。マルレーネはそんな刀犬達に与える慈悲はないと伝えるように、真理に代わってそう告げた。


「……ガフゥゥゥッ……」
 ふいに刀犬が、チラリと林の奥に視線をやる。そこにさえ逃げ込めれば、刀犬の忍軍としての実力を考えれば、姿を隠す事だけならば不可能ではないだろう。
「どこを見ているのかな? これ以上、この地は踏み荒らさせないよ」
 だが刀犬の視線に不穏な気配を感じたのだろう。視線を遮るようにリナが素早く立ち塞がり、ゲシュタルトグレイブで刀犬の壁となるオークを薙ぎ払う。
 そう、林に逃げ込むためには、ケルベロスを突破しなくてはならない。
 薙ぎ払われたオークへ狙いを澄まし、ベルローズが召喚した「氷河期の精霊」に加え、ミツキの意思が込められた氷結輪から吹雪と冷気の嵐が噴出すると、オークが凍結し粉々に砕け散った。
「何をやろうしとしているかさっぱりわからないけど、必ず阻止するから覚悟して――って、あぶなぁっ!?」
 結衣菜がバックステップで、中衛のオークから伸ばされる触手を回避する。通常のオークのような下劣さは感じられないが、それでも触手と名の付くものに触れられたくはない。
「……不快ですね。あなた達オークのためにメイド服を着用している訳ではありませんよ」
「アルベルト、対処を頼むわよ」
 主に狙われているのは結衣菜の他に、ベルローズとアウレリア。機動力を武器とする刀犬に、脅威を与えやすい対象が中心だ。毒花粉を浴び、ベルローズが苦々しく口元を抑える。アウレリアは殺到する触手を掻い潜り、アルベルトに金縛りで刀犬への牽制を指示。肉壁として金縛りを請け負った前衛のオークが、代わりに硬直して息絶える。
「ガウ、ガウウウウッ!!」
「――まんごうちゃん!」
 崩れ落ちるオークの影から、刀犬が研ぎ澄まされた鋭い爪でマルレーネの防御を崩そうと襲い掛かる。結衣菜は刀犬に注意を向けさせていたまんごうちゃんに呼び掛けると、すかさずまんごうちゃんがマルレーネを爪の脅威からガード。
 結衣菜のライジングダーク、プライド・ワンのガトリング掃射、碧の冷気を帯びた手刀が乱れ飛び、前衛のオークを瞬く間に壊滅寸前へと追い込んだ。
「バ、バウ! バウ、バウウウ!!」
 刀犬の威圧するような咆哮にも、焦りが混じる。壁役を殲滅されれば、逃走のチャンスは著しく減少してしまうからだ。
「お黙りなさいな」
 アウレリアが躾のなっていない犬にそうするような口調と共に、刀犬にしなやかな動きで飛び蹴りを叩き込む。
 その間にマルレーネは半透明の「御業」で最後の壁役を鷲掴みにし、跡形もなく握り潰した。


(「この氷結輪ってのもなかなか扱いやすくていいな、初めて使ったけど気に入ったぜ」)
 近頃陣営に加わったアイスエルフが齎した新武器に、ミツキは手応えを感じていた。
「……ガ、ゥッ!?」
「剣客がこの俺から逃げられると思うなよ?」
 ミツキが射出した氷結輪が、刀犬を斬り裂く。
「気持ち悪いオークプラントもあと少しよ、皆!」
 残るオークは中衛のみ、2体。多少はマシとはいえ、オークプラントにはオークプラントなりの、昆虫じみた気味悪さがある。
「ガウッ!!」
 と――ミツキを一時的に振り切った刀犬が金の瞳を光らせ、前衛の動きを縫い留めようとする。
「させないわ!」
 命中率は低いとはいえ、前衛にはオークによる毒の影響が多少はある。それらも纏めて、碧はカラフルな爆風を発生させて一掃しようと奮闘する。
「この手品を見て、シビれるといいわ!」
 逆に結衣菜が虚空に投げた大量のトランプが、天空から月の魔力を帯びて雨の如く降り注ぎ、減衰の発生しなくなった中衛の行動を一気に縛った。
 まんごうちゃんが原子の炎を召喚する。
 炎を纏ったプライド・ワンがオークへと特攻し、分断した所を真理が刀犬に向けてアームドフォートから一斉発射を放った。
 アウレリアはアルベルトを真理の援護に向かわせ、自身は竜砲弾で最後に残ったオークに致命傷一歩手前の傷を負わせる。
「終わりだよっ! 風舞う刃があなたを切り裂く」
 そしてついに、リナが魔力と幻術の融合技――無数の風刃にて、オークを物言わぬ肉塊に変える。
「退路はありませんよ。お覚悟を」
 林の前には、ベルローズ達が常に刀犬の突破を警戒しながら立ち塞がっている。この状況を覆そうと思えば、相当な実力差が必要なはず。
「怨嗟に縛られし嘆きの御霊達よ。ここに集いて、我が敵を貪るがいい!」
 一拍の間も休息も許さず、ベルローズが死者たちの怨念の籠った「惨劇の記憶」から魔力を抽出。腕に怨念を具現化させて纏い、刀犬を襲わせる。
「――真理」
 その時、マルレーネがポツリとその名を呟いた。
 意図は明白だ。真理は先ほどから、何か思う所がある様子で、砲口から白煙を噴く神州技研製アームドフォートを撫でていたのだから。
「マリー、私は大丈夫です」
「そう」
 返って来たのは、普段通りの真理の声。二人は一方が寄りかかるのではなく、互いが互いの背を守る関係。それゆえ強がる必要はなく、その言葉をマルレーネはそのまま受け止める。
「ただ……もしかしたらあの刀犬は、私の故郷の襲撃に関わっていたかもしれないのです。……確証はないですが」
「問題ない。一緒にワンコを仕留める。そのために私はここにいる」
 マルレーネの声色はクールながら、その奥底には確かな愛情が秘められている。感謝を告げる真理に応えるように、マルレーネは「霧に焼かれて踊れ」サキュバスの力を存分に振るい、刀犬を桃色の霧で包んだ。

「さぁ、お前の剣術を見せてみな!」
「グググルルルーー!!」
 幾度も狐月一刀流と電光石火の両刃の太刀、螺旋忍軍らしい緩急と不意を突く必殺の術技が交錯し、火花を散らす。
「七式、紫電掌ぉぉぉぉ!」
 機を見てミツキが巫術によって発生させた疑似的な電磁発勁を注ぎ込むと、刀犬の黒々とした毛並みが逆立った。電流と刀の応酬で、互いに傷を負う。
 だが、その均衡は破れるが必然。何故なら――。
「ミツキくん!」
 ミツキに碧がオーラを溜めた。しかし刀犬をヒールする配下は最早存在しない。そしてスノーが尻尾の輪を飛ばし、刀犬の次の攻撃に備えて割って入る。
「キャ、キャン!?」
 さらに結衣菜が仕掛けておいた見えない地雷が起爆し、刀犬は機動力を支える強靭な脚部に深い傷を負う。
「この島に蔓延っていた連中には私達が滅びを刻んだわ。墓穴から災厄を掘り起こす様な真似は許さない。貴方達もドラゴン同様、永劫の死へ沈みなさい」
 すかさず、アウレリアの飛び蹴りが叩き込まれる。
「さようならですね……わんこ」
 禁呪全書を開いたベルローズが、古代語を高速詠唱する。放たれた魔法の光線は、刀犬の身体の一部を石化に至らしめた。
 マルレーネの「御業」が、刀犬の動きを完全に静止させる。
「――ようやく捕まえた。あなたと違って忍者としての才能はなかったけど、剣士としてならわたしも負けるつもりはないよ!」
 リナは隙を見逃さず、機動力が極限まで鈍った刀犬に稲妻を帯びた槍を深々と突き立てていた。
 再び、アームドフォートの砲口が刀犬を捕捉する。覗き込んだスコープを通じて、刀犬の表情がハッキリと見える。その金の瞳は、最後まで真理の敵としてそこにあった。
「拾われた相手が悪かったですね」
 主砲による一斉発射。爆炎と粉塵が晴れたそこには、竜十字島の雄大な景色だけが広がっていた。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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