白の絵巻に写す影

作者:椎名遥


 夏の日の昼下がり。
 大空で輝く太陽は、若干の敵意すら感じそうなほどに照り付けてくるけれど、それはそれと受け流して道行く人は汗をぬぐいながら歩いてゆく。
 地球人、ドラゴニアン、ウェアライダーにオラトリオ。人型の者もそれ以外の姿の者も、様々な姿や生い立ちを持った人々が行き交う姿を眺めつつ、ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)はのんびりと町を歩く。
「む?」
 そうしてふと、通りかかったイベントホールに出ている看板に目をひかれる。
 白地に黒の筆で書かれたその文字は、
「書道と水墨画、墨で彩る世界展(入場無料)、か……ふむ?」
 特に気にかかる何かがあったわけではないけれど、何の興味もわかなかったわけでもなく。
 何とはなしに浮かぶ興味に背を押され、何かの話のタネにでも、とウィゼはホールへ足を向け、
「――っ!」
「写術『竜爪一閃』」
 背筋に走った悪寒に突き動かされるように、ウィゼはその場を飛びのき――直後、少女の声が響くと同時に、ウィゼがいた空間を漆黒の爪が薙ぎ払う。
 飛びのくウィゼの視界に映るのは、墨で染まったかのような漆黒の体を持つ巨大なトカゲにも似た存在。
 デウスエクス『ドラゴン』――、
(「――いや、違う!」)
 その姿も纏う威圧感も、ドラゴンそのもの。
 だけど、これは本物ではないとケルベロスの勘が否定する。
「写術『大紅蓮地獄』、『浄罪光』」
(「――そういうことか!」)
 続けて襲い来る吹雪と降り注ぐ光の追撃を、ウィゼは周囲に視線を走らせながらもかわして走る。
 気付かないうちに人払いの術でも使われたのか、周囲に人の気配は無い。
 だが、確かに自分に向けられた視線がある。
 それは、
「そこじゃ!」
 幾度目かの攻撃を避けると同時に、物陰に潜んでいた人影へとウィゼのグラビティが撃ち込まれ――、
「写術『孔翼天昇』」
 その一撃を、孔雀の形をした炎が迎撃する。
「写術……ドラゴンの爪に、鹵獲術士のアイスエイジ、オラトリオのシャイニングレイ、ビルシャナの孔雀炎の模倣といったところか? 芸達者じゃな」
「ええ」
 油断なく身構えウィゼの視線を受け止めて、物陰に潜んでいた存在――無数の巻物を手にした螺旋忍者『写絵・写印』は、仮面の下で柔らかな笑みを浮かべる。
「ドラゴン、ビルシャナ、ケルベロス。彼らの操る数多の術を、私の書は記している」
 歌うように言葉を紡ぎながら写印が手にした巻物を広げれば、側に控えていた墨色のドラゴンは姿を崩して巻物へと吸い込まれるように消えてゆき。
 続けて、別の巻物を広げて写印が印を切れば、鹵獲術士が呼び出すのと同種の『氷河期の精霊』が写印を守るように姿を現す。
 巨大な生物、人型の存在、形の無い自然現象。
 写印の手の中で巻物が広げられる度に巻物に記された絵図が外へと滑り出し、記述された文字が形を成して写印の周囲を取り巻いて。
「それで……コレクションを自慢したいだけ、というわけでもないんじゃろう?」
「もちろん」
 緊張を高めるウィゼの言葉に、写印は笑みを深めて無数の巻物を宙へと舞わせる。
「この世全てのあまねく術を、余さずこの書に記すため――貴女の術の最後の残滓の一滴まで、残さず余さず私に見せて!」


「招集に応えていただき、ありがとうございます――そして皆さん、急いで現場へ向かってください。ウィゼさんに危険が迫っています」
 集まったケルベロス達へ、緊張した面持ちでセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は呼びかける。
「今から数分後、ウィゼさんが襲撃される未来が予知されました」
 このまま戦えばウィゼの敗北は避けられない。
 だが、襲撃こそまだ起ってはいないものの……取れるどの連絡手段を用いてもウィゼに連絡を取ることができない以上、この先に起こる襲撃を避けることもかなわない。
 ――故に、ここからは時間との戦い。
「今からヘリオンを飛ばして現場へと急行します。襲撃には間に合わないかもしれませんが……決着までには必ず間に合わせますので、そこから先はお願いします」
 襲撃の未来を変えることができないならば、それを乗り切れるだけの戦力を。
 より良い結果をつかみ取るために、できる限りの最善を。
 手早く移動の準備をこなしながら、セリカは口早に情報を伝えてゆく。
「襲撃を行うのは『写絵・写印』と名乗る女性の螺旋忍者です」
 ありとあらゆるデウスエクスの世界に潜み、その秘儀を盗み修得するという螺旋忍者。
 その本質に忠実ともいえる、世界各地に眠る魔術や秘術の収集の任を受けていたのが写印である。
「そうして術を収集していく中でウィゼさんを見つけて、彼女の術も習得しようとして襲い掛かってくるようですね」
 術を観察する際に邪魔が入らないよう、写印の手で人払いの術が施されているおかげで、巻き込まれる人の心配をしなくていいのはケルベロス達にとっても好都合。
 また、知らない術の習得に執着しているせいか、逃走する心配もない。
 ……それは、複数名のケルベロスを同時に相手取っても十分勝機を見いだせるだけの実力を持っていることの裏返しでもあるけれど……。
 いずれにしても、やるべきことは至ってシンプル。
 全力で戦い、仲間を助けてデウスエクスを倒すのみ。
「写印が操る術は、デウスエクスだけでなくケルベロスも含めた無数のグラビティが予知されています」
 写印は、これまでの任務の中で習得した無数の術を巻物に記して所有している。
 ドラゴン、ビルシャナ、鹵獲術士、オラトリオ。
 本来ならば共闘することも無いはずの存在達のグラビティ。
 それらを操る写印は、ある意味では一人で複数のデウスエクスを操るのにも通じる力を持っている。
 ――それでも、退くわけにはいかない。
 仲間のために。世界のために。
「時間がありません。皆さん――急ぎましょう!」


参加者
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)

■リプレイ

「写術『孔翼天昇』」
「くっ!」
 写印が繰り出す孔雀の炎。
 続けざまに撃ち込まれる連撃をウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)は横跳びにかわし、着地点を狙って振るわれる竜の爪を手にした得物で受け止めて。
 防ぎきれなかった衝撃をスチームバリアで回復しながらも、降りぬかれる勢いを利用して距離を取る。
「魔導金属片を含んだ蒸気による回復と防御の強化術。興味深いけれど――それだけじゃないでしょう?」
(「まったく……」)
 なおも続く写印の攻撃を凌ぎながら、ウィゼは胸中で小さく息をつく。
 自分の技を観察し、解析し、奪い取ろうとする相手に、あまり技を見せるのは得策ではない。
 だが、グラビティを使わずにしのげるほど、この相手は甘く無い。
 ウィゼの一挙手一投足から目を離すことなく写印が印を切れば、その側に生み出されるのは墨色のドラゴン。
「さあ――貴女の全てを、余さず見せて!」
 写印の手に操られるように、巨体を揺らしてドラゴンが地を駆け、爪を振るい。
 ――その爪がウィゼを捉えるよりも早く。
「それは――」
「――やらせねえよ!」
 空から飛び降りざまにイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が振り下ろす杖がドラゴンの腕を打ち落とし。
 続けて瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)が撃ち込む竜砲弾が偽りのドラゴンの体を貫き、その先に立つ写印をも捉えて退かせる。
「危ないところだったな」
「助けに来ましたよ、ウィゼさん」
「無事だったか」
 ドラゴニックハンマー構えたまま笑いかける灰と得物を構えて写印を牽制するイッパイアッテナ、そして硬い口調ながらもそっと手を当てて怪我を癒す嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)。
「うむ、助かったのじゃ」
 仲間達の姿にウィゼはふっと息をつき、知らず力を込めて握っていた拳を緩めて笑みを返し。
 そうして、得物を握りなおすと写印へと向き直る。
「さて、飛び入りが来たわけじゃが……どうする?」
「もちろん――シャドウエルフにドワーフ、オウガ、サーヴァント。まだ見ぬ術に背を向けられるわけがないでしょう?」
 サーヴァントを数えなくても四対一。
 それだけの人数差を前にしてなお、写印の表情から余裕の笑みは消えない。
 それは確かな実力に裏打ちされたものなのだろうけれど――その視線を受け止めて、ウィゼもまた不敵な笑みを返す。
 共に肩を並べて戦ったことがある者も、初めて会う者も、繋がりの深さは様々だけど皆が心強いケルベロスの仲間達。
 個人の力ではかなわなくても、皆の力を合わせれば決して届かない相手ではないはず。
 だから、
「ならば――」
「ええ――」
 視線を交わし、笑みを交わし。
 そうして、ウィゼと写印は同時に地を蹴る。
「――仕切り直しと行こうかのう!」


「行くぞ!」
「合わせろ、夜朱!」
 槐が展開するオウガ粒子が輝きを放ち、灰のウイングキャット『夜朱』の羽ばたきが風を呼び。
 光と風がもたらす二重の加護の中、イッパイアッテナのミミック『相箱のザラキ』が無数の武器を具現化させて解き放つ。
「感覚を覚醒させる光と邪気を払う風、武装の具現化。どちらも興味深い」
 豪雨の如く降り注ぐその武器を、写印は作り出した翼で打ち払い。
 払う動きのままにケルベロス達に向けて大きく広げた翼は光を宿し、そこから放たれる光が前衛に立つ者達を飲み込んでゆき――、
「全力で、護り切ります――全てを撥ね返す力を!」
 わずかに早く、一歩前に踏み込んだイッパイアッテナが光の奔流を受け止める。
 襲い掛かる光に精神を焼かれながらも、その心身は共に揺らぐことなく背にした仲間を庇い、紡ぐ護言葉は仲間の闘志を奮い立たせてその身に保護を与えてゆく。
 そうして、イッパイアッテナが攻撃を受け止めて生み出された間隙を縫って、二つの影が疾る。
「人の術を借りてるような奴には負けられないな、そんなに欲しけりゃ倒して奪ってみやがれ!」
「受けよ」
 周囲の壁を足場に、頭上から飛び込んだ灰の蹴撃が写印の肩を捉え。
 その衝撃にたたらを踏んだ写印を、わずかにタイミングをずらして飛び込むウィゼの一撃が打ち倒す。
 続けて畳みかけようとする追撃は孔雀の炎に阻まれて距離を取られるも――、
「ふむ、この攻防の中であたしの技が鹵獲された様子がなさそうじゃのう」
 ここまでの攻防と、その中での写印の動きにウィゼは小さく呟く。
 自分の使ったスチームバリアと地裂撃に、仲間たちの使った無数のグラビティ。
 今もまた、イッパイアッテナの斉天載拳撃と灰のドラゴンサンダーによる連携をドラゴンの爪で受け流し凌ぎながらも写印の目は彼らのグラビティを観察し続けているけれど……。
 そのどれもが、観察こそされても模倣され奪われる気配は無い。
「そういえば、数多の術を書が記していると言っておったか――なるほど」
 一度頷くと同時に高々と跳躍し、高速で体を回転させながらウィゼが打ち込む蹴りはドラゴンの爪に受け止められるものの――、
「お主は術を収集する際にその書に書き記す必要があるということじゃな?」
「――」
 付け髭を揺らして問いかけるウィゼに、無言で押し返す写印からの言葉は無い。
 だが、わずかに噛んだ口の端がその答えを物語っている。
「すなわち、書に書き記す暇を与えねば、あたし達の術が鹵獲される心配がないということなのじゃ!」
 無論、今ウィゼが語っただけが術の全てではないだろう。
 それでも、やるべきことは見えた。
「ならば、私たちがやるべきは」
「このまま手を緩めずに攻めること、です!」
 槐の言葉にイッパイアッテナも頷きを返し。
 そのまま、距離を取るウィゼに追撃として放たれる極寒の冷気をイッパイアッテナが受け止める。
「――くっ」
 襲い掛かるのは模倣されたアイスエイジ。
 見慣れた技でありながらも仲間の使うそれよりも数段強力な冷気に、イッパイアッテナの表情が歪み、後ろへと押し込まれ――、
「大丈夫だ――花は見えども実をつける、夢見し日々は甘露となりて裡に有り」
 押し込まれそうになるイッパイアッテナを、槐が呼び出す無花果の果実が癒して支え。
 踏みとどまったイッパイアッテナが撃ち割った冷気の道を、灰が駆ける。
「ああ、厄介な敵ではあるが絶対に勝ってやろう!」
 低い姿勢で繰り出す灰の旋刃脚を跳躍してかわし、飛び上がった瞬間を狙ったザラキのガブリングも身をひねってトンボを切る写印を捉えられずに空を切り。
 そのまま空中で印を切った写印が呼び出す孔雀の炎が灰へと襲い掛かるも、その炎は割り込んだイッパイアッテナが地裂撃で打ち払い、その背を足場に飛び上がったウィゼのスピニングドワーフが写印を叩き落して。
 追撃とばかりに夜朱が撃ち込むキャットリングは写印の呼び出す光の奔流に焼き払われるも、光に焼かれる仲間たちの傷を槐のワイルドインベイジョンが回復させる。
 幾度となく攻守を入れ替え、矛を交えるケルベロスとデウスエクス。
 戦いの激しさを物語るように絶えず響き続ける音と振動の中で、癒しの手を止めることなく、ふ、と槐は小さく息をつく。
(「……」)
 ドラゴン、ビルシャナ、オラトリオに鹵獲術士。
 巻物に記され術によって再現された影達と、ワイルド化によって疑似的に再現された槐の視覚。
 視界の中で現れては消える無数の影と模倣した術達に、近いようで遠いような不思議な感覚を感じつつも、槐は眩しいものを見るように目を細めてそっと視線を向ける。
 戦いはすでに、終盤へと移り変わっている。
 夜朱のキャットリングとザラキの撃ち込む無数の武器による連携攻撃を呼び出したドラゴンを盾にしてしのぎつつも、反撃のために呼び出す術は積み重なった呪縛に縛られて印を切れずに形を失って。
 続けてイッパイアッテナとウィゼがタイミングを合わせて撃ち込む地裂撃も鈍った足ではかわしきれず、受け止めて動きが止まった写印を灰のドラゴンサンダーが狙い撃つ。
 戦いの中で積み重なった呪縛は、少しずつ、確実に戦いの天秤をケルベロス達へと傾けてゆく。
 それでも――写印は止まらない、倒れない。
「まだ……まだよ。もっと、貴方たちの技を、術を、残さず余さず全部を私に見せて!」
 体を縛る呪縛を引きちぎり、両手で二度三度と繰り返し印を切ることで無理やりに成立させた極寒の冷気がケルベロス達を包み退かせ。
「セリカさんから聞いてはいましたが、最期まで戦い続けるつもりですか」
「逃走するつもりが無いのは好都合、ここで倒しきってやるろうぜ」
 その気迫に感嘆の息を漏らしながら、イッパイアッテナと灰は油断することなく得物を握る。
 決着は遠くない。
 おそらくは、これが最後の交錯。
「終わらせるぞ!」
「うむ!」
 槐の声に頷きを返し、得物を構えてウィゼは地を蹴る。
 天井を足場にして速度をつけて打ち込むスピニングドワーフは、ぎりぎりで飛びのいた写印をかすめて空を切り。
 飛びのき回避したところを狙ってザラキと夜朱が飛び掛かり、噛みつきと両の爪で動きを封じて。
 さらにイッパイアッテナが追撃をかけようとするも、具現化したドラゴンの腕が彼らをまとめて振り払う。
 そうして、跳ね飛ばしたイッパイアッテナ達を狙いに納めた写印の背に、一対の翼が現れ――、
「これで――!?」
「やらせねえよ」
 作り出された翼が光を放つより早く、飛び込んだ灰の旋刃脚が閃き模倣の翼を切り落とした。
「――知ってるんだよ。その術は」
 そう、その術は知っている。この戦いが始まるよりもずっと前から。
 幾度となく肩を並べて戦った仲間が使う術なのだから。
「見覚えのある技なんだ、どう避ければいいかも分かるに決まってるだろ」
 術を破られ、体勢を崩した写印に、イッパイアッテナの斉天載拳撃と槐のバスターフレイムが追い打ちをかけて跳ね飛ばし、
「止めを」
「決めろ、ウィゼ!」
「うむ――アヒル真拳奥義『幻武極』」
 二人の声に頷き、ウィゼが呼び出すのは――アヒルちゃんの形をしたミサイル。
 そのつぶらな瞳が光を放った直後、撃ち出されたアヒルがいつの間にか作り出したヌンチャクを振るい、続く電光石火の蹴りが写印を打ち倒す。
「――今の動きは!」
 地面に倒れたまま目を見開く写印に、ウィゼは付け髭を揺らして胸を張る。
 今アヒルが見せた動きは、イッパイアッテナと灰の斉天載拳撃と旋刃脚の高速再現。
 一撃一撃の威力は劣るし、再現しきれない部分もあるけれど……、
「術をマネるのはお主だけではない。このアヒルちゃんミサイルもお主同様にこの目で見た技をマネすることができるのじゃ」
「そんな術も、あるのね……」
 連撃を受け、叩きつけられ、致命の傷を負ってなお写印の瞳は初めて見る術への好奇心に彩られている。
 その姿に小さく苦笑すると、ウィゼはアヒルに最後の指示を出す。
「お主への手向けじゃ。受け取れ」
 今見せたのはイッパイアッテナと灰の動きの模倣。
 そして、この場に仲間はもう一人いる。
 アヒルの目が輝き、模倣した槐のバスターフレイムによって写印の周囲に火が灯り、
「ああ――とても素敵!」
 歓喜の声を残し。
 螺旋忍者『写絵・写印』は炎の中に消え去っていった。


「術を奪われることもなく、無事で何よりです」
「うむ。助かったのじゃ」
 ホールに残った戦いの傷跡は、イッパイアッテナ達がかけるヒールによって消え去って。
 後に残るのは、幻想を交えながらも元の姿を取り戻した空間と、日常に戻ったケルベロス達の姿のみ。
(「絵具や墨で描く印というものか……何処の星にでもあるもの、なのだろうか」)
 影さえ残すことなく消えていった写印のいた場所を見つめて、槐は小さく息をつく。
 別々の星で似たような形で発展したものなのか、それとも何かの形で伝わることがあったのか。
 その答えは、まだ槐にはわからないけれど……、
「どうした?」
「ああ、いや――」
 うつむく槐を心配する灰の声に、軽く首を振ると槐は壁際を指さす。
 そこにあるのは、ウィゼが興味をひかれ、写印に襲われるきっかけとなったイベントの看板。
「あの催しも罠だったのかと思ってな」
「まあ、多分無関係だろうが……せっかくだし、見ていくか」
「ああ、そうだな」
 肩をすくめる灰に槐も頷きを返すと、仲間達にも声をかけて。
 そうして戦いから日常へと、ケルベロス達は歩き出すのだった。

作者:椎名遥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月17日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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