夜に忍ばぬ者

作者:雨乃香

 夜も更けた丑三つ時、草木も眠る時間帯に出歩く人影はなく、街は僅かな明かりが照らすばかりで、闇夜に浮かぶ信号機は明滅を繰り返す。
 そんな人気のない市街地の交差点に浮かび上がる三つの光点。
 青白く光る体長二メートル程のその怪魚は、ゆらゆらとあたりを漂い、その軌跡を空に描いていく。
 目的もなくあたりを泳ぎ回っているように見えたそれは、しかし、確かな意思を持って、その青白い光で大きな魔法陣を描いていく。
 やがてその魔方陣が完成すると、周囲を照らす青白い光が立ち上がり、その中央に一匹のデウスエクスが現れる。
 それは人型をしていたものの、とても知性を感じられるような見た目をしてはいなかった。
 顔を覆う螺旋を模した仮面は口元の部分が裂け、開きっぱなしの口はまるで犬のように舌が飛び出し、涎をしたたらせている。長い髪と二本の額の角はどちらもボロボロで、角の片方は半ばで折れてしまっている。
 前屈みの前傾姿勢で獣の様なうなり声をあげるそれは、元は螺旋忍軍であった死体のなれの果て。
 やがて魔方陣の光が収まると、怪魚達はその螺旋忍者であったものの周囲を漂いながら夜の闇の中へと消えていく。
 後に残るのは何事もなかったかのように明滅を繰り返す信号機があるだけだった。

「鳥取県倉吉市で死神の活動が確認されたみたいですね」
 ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は指先で自分の唇を弄びながら、ふむ、と小さく独りごちる。
「死神、といってもかなり下位のモノ、怪魚型の知性を持たないタイプです、さしたる脅威ではないでしょう。問題になるのはコレではなく、コレがサルベージした第二次侵略期以前に死亡したデウスエクス、今回は螺旋忍軍のようですね。変異強化を施した上でサルベージして戦力として使うつもりのようですが、こちらが察知した以上、だまって持ち帰らせる必要もないでしょう?」
 悪戯っぽくニアは笑ってみせると、今回の作戦について詳しい解説を始める。
「敵の出現地域は駅前の繁華街、住宅は少ないですし避難勧告も出ているので周りの被害は考えなくてもいいでしょう。まぁ、ヒールの手間は増えるかもしれませんがね?」
 時折おどけたように言いながらも、ニアはしっかりと要点をまとめて伝える。
 サルベージされた螺旋忍軍は変異強化の影響で攻撃的にはなっているが、知性が失われており、高度な戦術をとってくることはないだろうということ、武器には螺旋手裏剣を用いてくることを語ると、もう説明すべきことはないかと確認し一つ頷く。
「怪魚型の死神、サルベージされた螺旋忍軍、数は多いですが油断さえしなければ皆さんならとるに足らない相手でしょう、よい報告を期待していますよ? ふふッ」


参加者
眞月・戒李(想失ユークレース・e00383)
千桜・桃花(真紅の桜のオラトリオ・e00397)
春日・いぶき(遊具箱・e00678)
笠凪・澪(乱刀・e01280)
貴石・連(砂礫降る・e01343)
ジーナ・ヘイズ(は数多の霊力を御する・e05568)
矢野・浮舟(キミのための王子様・e11005)
黄檗・瓔珞(草臥れ浪人・e13568)

■リプレイ


 深夜の駅前ターミナルから伸びる大通りに人影はなく、街は暗い闇の中に沈んでいる。明かりとなるのは明滅する信号機と空から注ぐ月の光だけ。人々が避難し、文字通り抜け殻となった街は静寂に包まれている。
 そんな通りから一つ、二つ路地を挟んだ交差点。
 人口の光とは違う青白い光がと浮かんでは消え、明滅するそこには巨大な怪魚が三匹、宙を揺蕩っている。
 その怪魚達の群れの中央、まるで連れ歩かれる囚人のように、腰を曲げ、のっそりと歩く二足歩行の人影。半ばから折れた角、口元の裂けた螺旋を模した仮面、知性の感じられないそれは、周囲の怪魚によってサルベージされ、変異させられた螺旋忍軍だったモノ。
 闇の中を彷徨いゆっくりとその場を去ろうとする四つの影。
 その影の行く手を阻むようにふらりと現れたのは、黄檗・瓔珞(草臥れ浪人・e13568)。武器を抜くこともなく、まるで品定めでもするように、怪魚達に囲まれた螺旋忍軍をじぃっと見つめた後、ようやく刀に手をかける。
「さて、今宵もはじめようかねぇ」
 彼の呟きに答えるように、笠凪・澪(乱刀・e01280)が突如として闇の中より躍り出て怪魚達に向け、低く構えた刀を振るう。
 素早い太刀筋で正確に怪魚のヒレを狙いその機動力を奪いつつ、挑発するように口を開く。
「お前等の相手は俺だ……」
 知性の低い怪魚達は奇襲を仕掛けてきた相手に敵意をむき出しににしながら澪を囲うように距離を詰めていく。
「人払いの必要なし。フィールド、オール・グリーン。それじゃ派手にぶちかましましょう!」
 そうはさせまいと、貴石・連(砂礫降る・e01343)が月光を受けてきらめく水晶の粉を振りまき、怪魚達の動きを鈍らせる。それを受けて矢野・浮舟(キミのための王子様・e11005)は、流れるような動きで周囲の怪魚達を一刀の元に薙ぎ払う。
 次々と繰り出される攻撃に怪魚達が慌てふためき、そのうちの一匹が声ともつかぬ雄たけびをあげると、檻から解き放たれた獣の様に螺旋忍軍が突如としてケルベロス達にむかって突撃する。
「キミの相手は僕だよ」
 怪魚達と交戦する仲間達には近づかせまいと、瓔珞が行く手を阻むようにその前に立つ。
 眼前に現れた邪魔な敵を弾き飛ばそうと螺旋忍軍はその掌に螺旋の力を集め、目の前の敵へと叩きつける。それに合わせるように瓔珞も刀を抜き放ち、両者の攻撃が真正面からぶつかり合う。
 変異強化された螺旋忍軍の体はその見た目とは裏腹に頑丈で、瓔珞の刀をしっかりと受け止め、握りしめることで瓔珞の動きを封じそのまま距離を詰めようとする。
 だがその行動は、横合いから飛来したアームドフォートの掃射をまともに受けたことにより中断される。
「全く……敵とはいえ死者を冒涜するとは……許せませんね……っ!」
 千桜・桃花(真紅の桜のオラトリオ・e00397)はそう言いながら、高く括られた二房の髪を闇夜になびかせる。
 螺旋忍軍は、爆風からゆっくりと顔を出すとその涎を垂らす口元から獣の様な唸り声をあげ桃花を睨みつける。
「悪いけどしばらくボク達に付き合ってもらうよ」
 眞月・戒李(想失ユークレース・e00383)はその視線を遮るように二人の間に立つと、挨拶代わりとでもいう様にその掌からドラゴンの幻影を放つ。
 その攻撃をまともに受けながらも螺旋忍軍は真っ直ぐに突き進み、戒李に向けて拳を振り上げるが、愚直なその攻撃を戒李は簡単に避けて見せる。
 そのまま戒李は瓔珞と桃花、三人で螺旋忍軍を牽制するように取り囲み、その動きを制限する。
「予定通り分断はできたようだな」
「後はこちらを叩く、と」
 ジーナ・ヘイズ(は数多の霊力を御する・e05568)が螺旋忍軍を分断した三人の方を見ながら呟き、春日・いぶき(遊具箱・e00678)が言葉を返しながら怪魚のうちの一体へ向けて、ウィルスカプセルを投射、治癒力を落とされたその個体へ向かい、ジーナが弧を描く軌跡で刀を振るい、ダメージを蓄積させる。
「余計な手間を増やされる前に、可及的速やかに、な」
 言葉と共にジーナは刀を構えなおし怪魚を睨みつける。
 低級の死神とはいえ、油断をできる相手では無いことはこの場の誰もが承知していた。
「少しでも早く彼らの負担を減らしてあげなくちゃね」
 それでも仲間の為に少しでもはやく、と、浮舟が思いを口にし、地を蹴る。
 闇夜を切り裂く様にその白い髪がたなびいた。


 闇夜の中、怪魚の泳ぐ軌跡に青い光が浮かび上がり、それを追うようにケルベロス達の振るう武器が月明かりを受け鈍い銀光を閃かせる。
 螺旋忍軍と分断された怪魚は身を寄せ合うように飛び回りながら、ケルベロス達と戦闘を繰り広げる。
 ジーナの放った斬撃を回避しつつ、別の怪魚がその隙を狙い攻撃し、連がカバーに入る。するとすぐさま怪魚は退く様に逃げ、残った一匹がそれを援護するように黒球を放ちケルベロス達の動きを制限し、傷ついた個体は仲間達に守られながら回復を試みる。
「これはなかなか厄介ね」
 怪魚三匹の連携をそう評する、連に対し浮舟は笑いながら言葉をかえす。
「なに、簡単なことだよ」
 事もなげにそう言うと浮舟は三匹で固まったままの怪魚へ向かい走っていく。
 そうすると一匹が前の浮舟に対してその口を開き襲いかかる。だが浮舟は動じない。
 腕を突き出しあえてその攻撃を受け止め、敵の行動を誘導する。
 噛みつかれながらも笑みを浮かべるその表情を崩すことなく、浮舟は逆手に構えたナイフで怪魚の体を刺し貫く。
 怪魚は浅からぬ痛手を受けたことで怯み、浮舟の腕から噛みついていた牙を抜く。解放された浮舟の腕には、既にその傷跡はなく、一方的に怪魚だけがダメージを負う形となる。
 一瞬の攻防に他の二匹が手を出す暇もなかった。
 傷を受けた一匹が逃げようと後退し、残りの二匹が援護に入ろうとするが、もう遅い。
 澪が深手を受けた一匹の先に既に回り込み、刀を振り上げている。
「相手の動きに合わせて攻撃しないとな」
 浮舟が与えた傷を正確になぞるように繰り出されたその一刀で、怪魚は両断され、青い光を失い音を立てて地に落ちた。


 怪魚が一体地に伏したのを確認しながら、戒李はすぐさま目の前の敵へと視線を戻す。
「合流前にケリを付けられればいいんだろうけど」
 呟き、足は止めず、螺旋忍軍の放つ掌底をかわすと、危険を冒さぬとばかり敵は距離を取る。
 開戦してしばらく、三人で螺旋忍軍を抑えてはいるものの、有効打を与えることはできていない。逆に獣の様な敵の動きに翻弄され、少しずつ負傷が蓄積している。
 素早い敵の動きを制限しようと桃花の伸ばした鎖を弾き、螺旋忍軍は再び前へ。
 わかりやすいその狙いを察した瓔珞が迎え撃つように斬撃を見舞う。その一撃は螺旋忍軍の脇腹を浅く薙ぐが、敵は動きを止めることなく、跳躍し桃花へと飛び掛かる。
 咄嗟にその攻撃を手にした銃器で弾き返すと、まるでそれを待っていたかのように螺旋忍軍だったモノは高く宙へを舞い上がり、大量に分裂させた螺旋手裏剣を瓔珞と戒李へ向けて放ちつつ。とんだ勢いのままに怪魚達の方へと向かおうとする。
 だが戒李がそれを許さない。
「藻掻け」
 降り注ぐ手裏剣を受けることを厭わず、その左足に刻まれた青い炎が鎖となり螺旋忍軍の体を絡めとりその体を無理やりに引き戻す。
「言っただろう、付き合ってもらうと」
 もがきその束縛を逃れようとする敵にさらにその締め付けは増し、逃れることを許さない。互いに傷を負いながら睨みあう形となる。
「何も抑えるだけが仕事、というわけじゃぁ、ないよね?」
 動きを止めた敵に、好機と見た瓔珞が気付かぬ間に肉薄している。抜き手すら見えぬ神速の一刀。
「少し浅かったかな?」
 それを敵は獣特有の危機察知能力を持って、ほんの少しだけ体をよじり、胴を両断されることを何とか避けたが、深手を受けたのは間違いない。
 その攻撃に螺旋忍軍は怒りを覚えたかのように咆哮をあげると、無理矢理に地を蹴りケルベロス達へと迫る。 


 突如響く咆哮に一瞬気を取られながらも、澪は目の前の怪魚の噛みつきを回避し、すぐに目の前の敵に意識を集中させる。螺旋忍軍と戦っている仲間達の戦況がどうなっているのか意識を向ける余裕はない。今はとにかく目の前の敵を素早く倒さねばならない。
 二匹へとその数を減らしたことで状況はケルベロス達に有利に展開していた。先程までのような連携を取ることもできず後は各個撃破されるのも時間の問題といったところだが、低い知性を絞り考えたのか、怪魚は自己再生や遠距離からの攻撃を主にし、少しでも螺旋忍軍と合流できる確率をあげようとしているようだった。
 必死の抵抗とばかりに怪魚から放たれる黒い球体。
 それは真っ直ぐにケルベロス達の前衛の前へ進むと何の前触れもなく爆発し周囲にその球体を形成するのに使われた怨念を撒き散らし、触れたものを侵食していく。
 咄嗟に避けそこなったケルベロス達の腕や、足、その衣服の一部を溶かし、その肌にすら染み込もうとする。
「回復は任してください、皆さんは目の前の敵だけを見据えて」
 いぶきの言葉と共に薬液がケルベロス達に降りかかり、すぐさま侵食された肌を癒し治癒してしまう。
 彼の言葉に従うように、連が強引に怪魚へと向けて飛び込んでいく。
 怪魚が口を開きその腕を飲み込もうとする動きにカウンターを合わせるように、連の左の拳が怪魚の顎を下から鋭く捉える。そのままその光り輝く拳を開き、爪を立てるように怪魚の体を掴み、力任せに引き寄せる。
 怪魚の体が宙を泳ぎ、無防備な体を晒した所へ連は容赦なく夜の闇に紛れる右の拳を叩きつける。確かな手応えとともに、力を失いぐったりとした怪魚の体がまるで溶けるように粉となって消えていく。
 残る怪魚は後一匹。もはや敵の不意打ちや連携といった無駄な要素を考える必要もない、目の前の敵に出せる力をもって挑むだけの事。
 ジーナが地を滑るように最後の怪魚との距離を詰める。彼女の体に続く低く構えた刀が音を立て、地を削る。
「大地に遍く地の霊力よ! 我が力と成り、我が刃と共に奔れ!!」
 跳躍と共に切り上げた刃が怪魚の体を深く切り裂き、ジーナはそのまま怪魚の逆側へと抜け、彼女の剣先の軌跡をたどるように、削られた地面が隆起しアスファルトの槍を形成、怪魚の腹に開いた刀傷と同じ位置を正確に貫き、その体を空に縫いとめる。
「――地斬尖塔」
 力を失った怪魚の体がずるりと滑り、それはもう二度と動くことはなかった。


 咆哮から一転、螺旋忍軍は激しい攻撃を繰り返し、戦いは消耗戦の様相を呈していた。
 攻撃を受けては返すそんな流れの中、桃花の放ったエネルギーの光弾を螺旋忍軍は避けてそのまま反撃へと転じる。
 二足ではありえない四肢の瞬発力を生かした動き、そのまま投擲された手裏剣が螺旋の軌跡を描き、桃花へと迫る。
 攻撃直後で足を止めていた桃花は咄嗟に回避行動を取れず、銃器を構えなんとか攻撃を受けようとする。
「ここで倒れてもらっちゃ、困るからねぇ」
 その攻撃が桃花に届くより早く、間に割って入った瓔珞がその攻撃を受け止めていた。
 だが、彼とて螺旋忍軍との戦いでそれなりに傷を負っている。持ち前の技術で敵の攻撃を受け流してはいるが体にかかっている負担は大きい。
「オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ……除病安楽、薬師瑠璃光如来の救いあれ……」
 仲間達の状態も鑑みて瓔珞は印を組み、放出した霊力で蓮華の花を思わせる陣を敷く。軽い傷が癒され鈍っていた動きが戻るものの、万全の状態というわけではない。
 肩で息をするケルベロス達の様子を見て、螺旋忍軍は勝機と悟ったのか、露わになっている口元を歪め、力を込め、狙いを定め、螺旋手裏剣を放とうとする。
「そうはさせないよ!」
 瞬間、叫びと共に連の放った重力を宿した飛び蹴りが正確にその武器を持つ手を蹴りぬき、その攻撃を未然に防ぐ。
「御無事でなにより、少し待たせたでしょうか?」
 いぶきの言葉と共に治癒の雨が螺旋忍軍と戦っていたケルベロス達を癒していく。
 治療が終わるまでの間手を出させまいと、螺旋忍軍に向かい澪が一気に距離を詰め剣戟を繰り広げている。
 誰一人かけることなく、怪魚達を全滅させた仲間達と合流をはたしたことで、もはやケルベロス達の勝利は明らかだった。いかに変異強化を施された螺旋忍軍とはいえ、蓄積したダメージも相まって、ケルベロス八人を相手に戦うことは無謀といえるだろう。
 だが、今の彼にはそれを悟ったところで逃げるという知能は備わってはいない。ただ目の前の敵を倒すべく、無謀な突進を繰り返す。それをケルベロス達は全力をもって迎え撃つ。
「キミに同情はしないけれど、ちょっとだけ憐れんであげる」
 浮舟が傷だらけのその四肢を切り裂き、あたりに血の花を咲かせる。動きの要であるその四肢に深い傷を受け、もはや彼には逃げ場すらない。
「……還りなさい……っ!」
 想いを込めて、狙いだを定め、桃花はただ一点を狙い、トリガーを引く。
 熱を帯びた兵装が夜闇に紅く光り、弾丸を吐き出す度に、桜にも似た眩い輝きを散らせる。
 満足な状態であれば、避けることも可能だったかもしれないその攻撃を、螺旋忍軍だったモノは正面から全てをその身に受け、紅い光に飲まれ消えていった。


「お疲れ、みんな無事か?」
 刀を鞘に収めつつ、澪が周囲を見回しながらそう聞くと、皆頷いたり、手を軽く上げて見せたりと、大丈夫だとそう返す。
「少々、あたりの修復は必要なようだがな」
 同様にゆっくりを剣を収め、一つ息を吐いたジーナの言うとおり、あたりは戦闘の傷跡を未だ残したままだ、このまま朝を迎えるわけにもいかないだろう。
「まぁ、一般人の方々が逃げていて被害がなかったのは幸いでしたね」
 いぶきは口ではそう言いながらもどこか表情は不満げだ。彼が軽くお腹をさするその意味を、仲間達は気付かない。
「朝日がのぼる前に地獄にお帰り願えて幸いだったね。デウスエクスとはいえ、無理やり叩き起こされた彼には不幸でしかなかっただろうけど」
 戒李はそう言いながら、傷の治療を終えると、周囲の破壊の爪痕の修復を始める。仲間達もそれにならうように、周囲の景色の修復を手伝い始める。
「屍者が戦いに駆り出されるような騒がしい夜はごめんね」
「そうだね、夜の街には静寂こそが似合う」
 連の言葉に浮舟が同意し、夜の街はまるで何事もなかったかのように、ケルベロス達の手によって修復されていく。微かに宿った幻想が起こったことの小さな名残。
 街の修復が終わり、仲間達が引き上げていく中、瓔珞は一人その小さな名残をみつめ、少しだけ目を閉じ、黙祷を捧げると、先を担う仲間達の後をゆっくりと歩いていく。 

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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