暁月夜の花

作者:雨音瑛

●秘密の植物園
 神楽坂・マナは知っていた。
 寮の近くにある植物園の窓、その一箇所の鍵が壊れていることを。ひっそり忍び込んでも、誰にも気付かれないことを。
 だから今日も忍び込んで、あてもなく密やかな散歩を楽しむ。時折ベンチに座っては、持ち込んだ教科書をぼんやりと読む。
 そうしてあたりが明るくなりはじめた頃、マナは真白な花の咲く鉢植えを見つけた。とはいえ、花はしぼみかけている。
「咲いたんだ。……桐谷さんが育ててた、月下美人」
 どおりでいつもはしない香りが植物園に充満してるわけだ、とマナはひとり納得する。
「『――ずっと、好きでした。小学生の頃、家族でここを訪れた時から』」
 不意に口をついて出た、相手の前では言えない言葉。まだ小学生の自分にもわかるように、簡単な言葉を使ってわかりやすく説明してくれたこと、その時の感動と恋に落ちた時の感覚は忘れるはずがない。
 けれど、植物園のスタッフである桐谷・直人に抱いていたマナの恋心は、つい先日彼の左手薬指に光る銀色のリングを見たときにあっさりと砕けた。はず、だった。
「……あーあ。一週間も経つのにね。自分がこんなに未練がましいなんて全然気付かなかったなあ。かと言って、今さら気持ちを伝えられるわけがないし。あれから直接会うのも勝手に気まずくなってるし」
 だからこうしてたまに真夜中の植物園に忍び込んでは、勉強がてら直人の育てた植物の痕跡を眺めている。
「――いっそ、私も植物だったらよかったのに。植物なら、誰かに恋して辛い思いをしなくても済むし。そうだな……君、みたいに月光美人になれたらよかったかも」
 マナは肉厚の花弁に触れ、微笑んだ。それと同時に、ふわりと漂う胞子が月下美人の葉に付着した。
 茎が伸び葉が伸び、花が咲き誇っては数倍に肥大化していく。その異常事態にマナが瞠目したのと、彼女の意識が途切れるのはほぼ同時だった。

●顕現するもの
 ヘリオライダーから聞いた内容を語り終えた火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)の顔は、真剣そのものだ。かたわらのミミック「タカラバコ」も、控えめに蓋をがちがち鳴らしている。
「――というわけで、なんらかの胞子を受け入れた月下美人が攻性植物に変化、その後すぐ近くにいた女の子を襲って宿主にしてしまったみたいなんだよ」
 今から向かえば充分に対処可能だ。手の空いているケルベロスがいたら、とひなみくは協力を請うた。
「植物園は硝子張りで、ちょっとした公園くらいの広さだっていう話なんだよ。時間は午前4時頃で周囲に一般人はいないから、人払いの必要はなさそうだね」
 戦闘となる攻性植物は1体のみで、配下などはいない。状態異常の厄介な攻撃を三種類使い分け、その付与数も多いというから侮れない。
 しかし一番の問題は取り込まれた少女、マナだ。
「取り込まれた女の子、マナちゃんは攻性植物と一体化してるんだ。だから、普通に攻性植物を倒すと一緒に――死んで、しまう」
 けれど救出する方法はあると、ひなみくは続ける。
「攻性植物にヒールグラビティを使用しながら戦えば、戦闘終了後にマナちゃんを救出できる可能性があるんだよ。……あくまで可能性、なんだけれど」
 ヒールグラビティでヒールをしても、ヒール不能なダメージが少しずつ蓄積する。そのため、マナを救出するのならば長期戦覚悟で戦闘に臨む必要があるだろう。
「マナちゃんを助けるのは一筋縄じゃいかないと思うけど……できるなら、救出したいよね。協力、よろしく頼むんだよ!」
 ひなみくの言葉に、タカラバコは「がちん!」と合いの手を入れるように蓋を鳴らした。


参加者
進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
ステラ・フラグメント(天の光・e44779)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)
嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)
 

■リプレイ

●咲く花
 ケルベロスたちが植物園に到着したのは、空が仄かに白み始めた頃であった。
「先日奮発して購入した植物図鑑の情報によると」
 嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)は目を伏せ、内部に充満している甘い香りを吸い込む。
「月下美人は滅多にお目にかかれない花なのだと聞く。咲けばすぐにわかるほどの香りだと図鑑には書いてあったが、なるほど、確かに」
 強い香りは、攻性植物と化した今でも健在なのだろう。オウガの少女は柔らかく甘い香りをゆっくりと吸い込んだ。
「皆さん、気をつけてください。敵はこちらの侵入に気付いているでしょう」
 さして広くはない植物園の中、ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)は赤い瞳を光らせて周囲を警戒する。しかし心の内では攻性植物に囚われている少女、神楽坂・マナを気遣っていた。
(「失恋した上に攻性植物に取り込まれるなんて、不憫すぎます……生きてさえいれば、失恋の痛手からはきっと、立ち直れるはずです」)
「……私たちが必ず助けます」
 ジュスティシアが思わず漏らした言葉に、ドラゴニアンの男は静かに頷いた。
 終わった恋だからといって、相手に伝えてはいけない、等という法律もルールもない。何より、理由にならない。
「悩むだけ悩んだら、まぁ、いつか笑い話になるだろう。無論、彼女の救出が成功すれば、の話だが」
 そう話す進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)は、実は攻性植物とは浅からぬ因縁がある。失った腕を補う地獄の炎がただそれを示しているが、あえて語ることも無い隆治だ。
 仲間と共に歩いていた七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)が、ライオンラビットの耳をぴこりと動かして立ち止まる。
「あれ、だね」
 ピンクと金の眼で見つめる先には、月下美人。――の、攻性植物の姿があった。攻性植物に咲く月下美人の花は、実際のそれよりひとまわりもふたまわりも大きい。
「間近で見ると、綺麗な花だね」
 火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)が呟く。しかし、その口調は決して穏やかなものではない。
「でも――恋をして、切なくて……そんな『ただの女の子』にこんな事して、ただで済むと思うなよ!」
 ひなみくの握った拳が震える。
 そう、攻性植物の中に囚われているのは高校生の女の子だ。植物園のスタッフである年上の男性に恋をして。けれど、その男性は気付かぬうちに結婚して。言えぬ思いで一人だけ気まずくなって。
 状況こそ違えど、交際していた相手と数ヶ月前に別れているひなみくには、思うところがあった――が、言葉にすることはない。
「未練は伝えられねばこそ、じゃろう? 物言わぬ花となってはなおさら、傍らに佇むことしかできなくなってしまう」
 熊耳熊尻尾のウェアライダー、端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)の言葉はマナへと向けられる。マナ自身は、攻性植物に取り込まれて意識を失っていることだろう。
 状況をあらためて認識したアカギツネのウェアライダーにして怪盗、ステラ・フラグメント(天の光・e44779)は不敵な笑みを浮かべる。
「――なるほどな。今宵盗み出すは恋する乙女、現れたるは怪盗ステラというわけだ! 腕がなるぜ! なあ、ノッテ!」
 辛い時こそ余裕を忘れないのも、怪盗の嗜み。
 マントを翻すステラに、ウイングキャット「ノッテ」は黒い翼を広げて応えた。

●想い
 攻性植物相手に、ケルベロスたちはまず自陣の強化を主軸に行った。対して、攻性植物は攻撃一辺倒だ。
 攻性植物に咲く月下美人の花、その花弁の先に炎が灯ったかと思うと、瞬く間に炎に包まれる。花から切り離された花弁は恐るべき速度で括の方へと飛来するが――、
「させない」
 ジュスティシアは炎の球にすら見える燃える花弁を掴み、握り潰す。手に伝わる熱は払っただけでは消えぬ炎を指先に灯すが、ジュスティシアは気にすることなく反転し、ドローンの群れで中衛の二人を警護させる。
「ファーレルさん、大丈夫!?」
 すかさず、ひなみくがマインドリング「Quies」から出現させた盾をジュスティシアに纏わせた。指先の炎が消え、同時に防備も高まる。
「ええ、おかげさまで。ありがとう」
 短く答えるジュスティシアの横から、ひなみくの大事な家族であるミミック「タカラバコ」が飛び出した。エクトプラズムで作り出す武器はメガホン。攻性植物を殴りつけつつも、取り込まれているマナをタカラバコなりに応援しているのだろう。
「……そうだね、タカラバコちゃん。わたしたちも頑張るから、マナちゃんにも頑張って欲しいよね」
「助けるさ。必ず、な」
 灰の瞳に敵を見据え、隆治は黒き液体を変形させながら攻性植物へと迫る。うねる茎を足場にして包み込めば、命中と回避を低下させることに成功する。
 戦いはまだ始まったばかり。マナが恋した時間に比べると、ほんの僅かな時間だ。
「恋、かぁ……今のボクたちはまだ知らない感情だけど」
 瑪璃瑠は静かに首を振り、正面に月下美人の花を見据える。
「月下美人……まさにその名の通りの――『否』」
「『月よりも美しい人を“わたし”は知っている』」
「ユメは泡沫」「ウツツも刹那」『――始まりはいつか終わりへと至る』「「「それでも!」」「「『消えない願いはこの胸に!!!』」」
 いま召喚されたオラトリオの男を月夜に見上げて心を奪われた獣は、初めて得た感情に呑まれ、沈んだ。だが、譲れぬ一念は未だ誰にも消し去れない。それを物語るのは、瑪璃瑠に重なるように一瞬だけ表出した巫女――男を兄と慕う今の瑪璃瑠とは全くの別人で、どこにもいない少女――の姿だ。
 三位一体の回復方陣は、ひなみくの回復力を底上げする。
「ありがと、メリルちゃん!」
「どういたしまして、ひなみくさん!」
「……ふむ。ひとまずは順調な滑り出し、といったところか」
 呟いた括は、拳に何やら力を蓄え始める。
「のぅ、マナよ。そっちへ行ってしまっては、ダメじゃよ?」
 攻性植物との距離を一気に詰めた括は、拳を叩き込んだ。与えるのは、痛みではなく癒しだ。癒しの力は、隆治の与えた傷を余すところなく塞いでゆく。
「ああ、そうだ。思いを伝えられないままなんて絶対にダメだ、マナ」
 攻性植物を挟んで括とは反対側に回り込んだステラは拳だけを獣化し、攻性植物へと一撃を加える。括のそれとは違い、攻性植物にダメージを与え、行動を制限するものだ。
「思ってるだけじゃ、伝わらないんだ」
 マナだけでなく自分にも言い聞かせるような言葉となっているのか、ステラ自身が片思いをしているからこそだろう。
 ノッテの羽ばたきが起こすを受けながら、槐は静かに仲間の紡ぐ言葉をただ静かに聞いていた。槐にはまだよくわからない感情を伴っているそれらの言葉であるが、心強いもの、温かいものを感じることができる。
「――と。私の手番だな。花は見えども実をつける、夢見し日々は甘露となりて裡に有り」
 紡がれた言葉に喚ばれる果実は、花咲く過程が存在しない。代わりとばかりにもたらす香りはとろけるほどに甘く、先ほどステラの与えたダメージ、その回復不能分だけを残すようにして癒してゆく。

●散る花
 ダメージと回復のバランスは、絶妙であった。
 ケルベロス陣営の体力も、回復能力が向上したひなみくと、臨機応変に味方へもヒールを飛ばす槐によって支えられている。
 与えた状態異常も、
「その身に刻み込んでやろう」
 このように隆治が左腕に灯る地獄の炎を歪ませ、刻むことによって増えてゆく。
 戦いが長引けば長引くほど、ケルベロスたちの被ダメージは減り、攻性植物に攻撃が命中する確率は上がる。長期戦に備えて立てられた作戦は見事、の一言だ。
 そして隆治がダメージを与えたのならばすかさず、
「よし、ボクたちの出番だね!」
 攻性植物と距離を取ったままの瑪璃瑠が、目に見えぬ手段を用いて自身と大自然、そして攻性植物を接続する。
 癒やせるだけの傷が瑪璃瑠によって全て癒えたところで、括はファミリアロッド「いたずら野鉄砲」をモモンガの姿へと戻した。
「よし、行くのじゃ!」
 括の魔力が籠められたモモンガが射出されて攻性植物が傾くのを横目に、ノッテの翼は懸命にケルベロスたちを癒すための風を送る。
 すると、到着時より漂っていた月下美人の香りが強まる。
「ここは任せろ」
 隆治の言葉とジュスティシアの首肯。そして、タカラバコの蓋が噛み合う音。香りが到達するよりも先にそれぞれの背を見たのは、瑪璃瑠、括、槐だった。
「偉いぞ、タカラバコちゃん!」
 ひなみくの声援に嬉しそうにするタカラバコは、隆治と同様に無数の傷や焦げ跡が表面に走っている。同じく盾役として立ち回っていたジュスティシアも同様だ。しかし誰一人として痛みを顔に出すことはしない。
 視認できぬほどの速度で銃剣から斬撃を繰り出すジュスティシアは、無数の茎を切り刻みながらもマナへの声がけを続けていた。
「今は辛くても、生きていればきっと素敵な恋ができます!」
 切り裂いた茎の隙間から、肌の色が見える。驚愕と安堵を同時に覚えながら、ジュスティシアは言葉を続ける。
「あなたは若い! これから月下美人のような魅力的な女性になって、新しい恋と出会える! だから生きて、お願い!」
「そうだ。ここまで来たんだ、諦めてたまるものか」
 微かな生命の鼓動を感じながら、槐は甘やかな香りで攻性植物の周囲を満たす。
 攻撃を踏み止まるタカラバコは、攻性植物に咲く月下美人がしんなりしてきたからだろうか。
 タカラバコよりは少ないが、自身も傷を負うひなみくが前衛を極光で照らす。自身の傷を癒す、という判断も可能だったが、今はあえて仲間を癒す。いざという時は槐が癒してくれる、と信じて。
「よし――任せたよ、ステラくん!」
「任せろ、ひなみく! 怪盗ステラの名に恥じぬ『仕事』をしてやるぜ!」
 足に魔力を纏わせ、ステラは跳び上がった。植物園の硝子天井から入る光は、既に夜明けの色をしている。
「さあ、流れ星がみえるかな?」
 魔力が輝き、重力に従って落ちるステラの足技は無数の流れ星のようにすら見える。
 きっと、マナの恋は諦めなければいけないものなのだろう。とはいえ、その思いを無かったことにはして欲しくないステラだ。
 そうして、星は落ちるだけ落ちる。やがて流星群を受けた攻性植物は弾け飛び、取り込まれていたマナが宙に放り出された。

●言葉
 放り出されたマナをステラが抱き留め、呼吸を確認する。
「気絶してるだけ、のようだな! 救出成功だぜ!」
「ふむ、それなら今のうちに現場をヒール――したいところだが、持ち合わせが無くてな。槐、頼めるか?」
「勿論だ、隆治。その代わり、彼女が目を覚ましたら教えて欲しい」
「お安いご用だ。それではヒールを頼んだ」
 槐は植物園の中を見回ってはヒールグラビティで修復しつつ、早朝の植物園をひっそりと堪能する。
「先ほどは月下美人の香りばかりだったが、今はさまざまな花の香りがするのだな。……この花は、家の植物図鑑にあるだろうか」
 葉を触り、形を覚える。まだ地球に慣れていない槐にとって、どうやら花の香りは強い興味の対象であるようだ。
 不意に名を呼ばれ、槐はわずかに笑んだ。どうやら、マナが眼を覚ましたらしい。

 自身の足で立てるようになったマナは立ち上がり、ケルベロスたちに深々と頭を下げた。
「えっと……助けて頂いて、ありがとうございます」
 少し悲しそうに俯くマナに、大丈夫、とジュスティシアが微笑みかける。
「たとえ成就しなくても、人を愛するのは素晴らしいことなの。それこそ、月下美人のように儚くも美しいんです」
「植物だったら確かに恋をできないが、誰かを好きになるというのは、活力になるだろう。それは悪いことではない。違うか?」
 重なる隆治の言葉。自身は失恋をしたことがないが、と呟く隆治はそれでも失恋がどのようなものかは充分に理解している。
「一週間で気持ちを切り替えられるなら、そのぐらいの恋だったのだろう? なら、今の気持ちは間違いではないはずだ」
「そうだよ。実は、さ――俺も片思いの相手に始めて渡した花が月下美人だったんだ。でも言葉では未だ伝えられてないんだ。こう見えて俺だって情けない男なんだぜ」
 戯けるステラを見て、マナはくすりと笑った。
 数秒の沈黙の後、槐は口を開く。
「――まだ私には、恋の事はよくわからない。だが、今すぐに立ち直れなくともいつか希望を見出せるのが人間だということはわかる」
 それにね、とハンカチを差し出すのは瑪璃瑠。
「月下美人は二度三度咲くことだってある。恋をした君から花開く、未来の君もいるかもなんだよ」
 マナの頬を涙が伝う。辛いからではない。マナが誰にも言えなかった想いをケルベロスたちが認め、理解してくれるからだろう。
 括はゆっくりと頷いた。
「マナは強くて、やさしい子じゃ」
 幼い頃の思いを一途に抱き続けられたのは、マナが強かったからこそ。そして想いを伝えることなく胸の裡にしまい込んだのは、相手を慮る優しさを持て居るからこそ。
 なればこそ、とどこまでも優しい口調で括は話す。
「おぬしは、おぬしの想いを、誇ってもよいのじゃ。そう、伝えておきたくての」
「どうして……そんなに優しくしてくれるんですか?」
「ふふん、行き場のない思いを受け止めるのは神様とかそういうのの本懐ゆえ。吐き出したくなったならその時は、我が社を訪ねるとよい」
 そう言って、括はケルベロスカードを差し出した。
「あっ、括ちゃま素早い! わたしもわたしも! はい、これわたしのケルベロスカード! 失恋の痛みなら、いつでも引き受けるんだよ!」
 と、ひなみくもケルベロスカードをマナの手に乗せる。
「失恋はね、喋って発散するに限るんだよ! だからさ、甘いもの食べてお話しよ! というか、みんなで甘いもの食べに行こうよ~! お腹減った~!」
「今からなら、24時間営業のファミリーレストランでしょうか」
 生真面目に答えるジュスティシアは、明け方の空を見つめていた。
「よし、ファミレスでパフェとかケーキとか食べよう!」
 れっつごー、と拳を振り上げてマナや仲間の背を押すひなみくを、瑪璃瑠はピンクと金の眼で見つめている。
「ね、ひなみくさん」
 振り返ったひなみくに、瑪璃瑠はふっと優しい笑みを見せた。
「あのね、……煙草の火くらいは点けれるんだよ」
 予想外の言葉にぽかんとしたひなみくは、次の瞬間には困ったように笑って、
「――ありがと、メリルちゃん。ささ、早く行こ!」
 瑪璃瑠を手招きした。
 いま彼女たちが行く道は、ただ白く明るい。
 たとえまた夜が来ても、この明けつつある日の道を思い出せたなら。今宵ケルベロスたちが助けた少女は、きっと強く生きてくれることだろう。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月14日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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