ケルベロス大運動会~ようこそセレブリティパーティ!

作者:絲上ゆいこ

●カモンベイビー
 度重なる『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』の発動によって、疲弊した世界経済。
 しかし、ドラゴンとの決戦、暗躍するデウスエクス達。
 日に日に激しさを増す戦いの中でも、ケルベロス達の活躍は目覚ましいものであった。
 そこで痩せ細った経済を打破し、更にケルベロス達の活躍を後押しするべく。
 今年は最大の支援国であるアメリカ合衆国が、『ケルベロス大運動会』開催国へと名乗りを上げたのである――!

 ――ケルベロス大運動会とは。
 世界中たちのプロモーターたちが、危険過ぎる故に開催を断念してきた「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」の数々を持ち寄り。巨大で危険なスポーツ要塞を造り上げてケルベロスたちに競わせる、世界中が注目するイベント!

 そう。
 第4回ケルベロス大運動会の開催地は『アメリカ合衆国』!
 世界の中心であるアメリカ合衆国を舞台に、競え! ケルベロス達よ!

●素晴らしいラスベガスへようこそ
 いつもより随分とおめかしをした遠見・冥加(ウェアライダーの螺旋忍者・en0202)が、君――ケルベロスにほほえみかけ。
「今日はみーんな、この歓迎パーティに招待されているのよ!」
 凄いわよねえ、と冥加は会場を見渡そうと目を凝らした。

 ここはアメリカきっての不夜城、――ラスベガス。
 グルメ、ショッピングを始め。
 ショー、カジノと、エンターテイメントの全てが集う、眠る事の無い街。
 世界各地をテーマとした、大きく豪奢なホテル群が並ぶ観光地としても人気の街だ。
 今日はこの街で、ケルベロス大運動会の開催を記念しての歓迎パーティが開催されている。この催しにはアメリカの富裕層もこぞって参加しており、非常にセレブで豪奢なパーティーとなっているそうだ。

 その言葉通り。
 豪奢に飾り付けられた会場には煌めくシャンデリア、上品な設え、ウェイターの制服一つとっても一流のモノ。
 ビュッフェ形式で並べられた食事も、贅を尽くした世界中のメニューが集められているようだ。
 そしてショーエリア――。
 ……アメリカセレブ達、そしてケルベロス達の集まるこのパーティの一番の目玉。
 それはケルベロスの行う、『世界最高峰のショー』である!
 ケルベロス達にしか魅せる事の出来ない、素晴らしいショーを心待ちにするパーティ会場は、静かな熱気に満ち満ちて。
 またショーの後には事前に撮影されたケルベロス主演映画の試写会が行われる予定であり、そちらを楽しみにしているセレブ達も多い様子であった。

「…と、言っても。ショーに参加していない私達はパーティを楽しめば良いだけだわっ! ……うふふ、緊張しなくても大丈夫よ?」
 そういう自分が緊張しているのであろう。
 落ち着き無く冥加の耳は、ひょこひょこ揺れている。
 ――或いは友達と、或いは恋人と、或いは一人で。
 ショー参加者も、発表を終えた後は一人のパーティ参加者。
 勿論、おめかしも忘れずに。
 パーティの食事を、ショーを、映画を、会話を楽しむ事も大切なケルベロスのお仕事だ。
 セレブ達が沢山参加していると言っても、これはケルベロス達を歓迎するパーティなのだから!
「今日はこのまるで夢のみたいに素敵な歓迎パーティを、たっくさんたっくさん楽しんじゃいましょうねっ」
 と、冥加は果物をたっぷりと使ったモクテルのグラスを掲げて。
 かんぱい、と笑った。


■リプレイ

●絢爛と飾り立てられた会場
 タキシードにマーシュの花が揺れる。
 日本以外の支援者に日頃の感謝を伝えられる機会は貴重だ。
「お招きありがとう」
 メイザースの名声は客達も識る所、口々挨拶を交わし。
「我々が活動も貴方達が信じて支えて下さるからこそ」
 客達の輪中で彼はカクテルグラスを片手。
「今後とも応援よろしくお願いしますね」
 人脈作り迄出来るなんて本当に良い機会だと、名刺を差出して微笑む。
「スケールの大きそうな人達が一杯だね、沙耶さん」
「なんだか気圧されますね……」
 白の燕尾を揺らした瑠璃が回りを見渡すと、贅を尽くした御馳走の並ぶビュッフェテーブル前で、著名人達が言葉を交わし合う姿。
「ごめんなさい、こういう場所に慣れていなくて……」
 葡萄酒色のドレスに身を包んだ沙耶は、彼の背に隠れて所在無さげ。
「分かってるよ、人の多い所は慣れていないよね」
 瑠璃は瞳を細めて、沙耶の掌を取って腕へと寄せ。
「大丈夫、僕に任せておいて」
「……今日の瑠璃、凄く男らしいですね」
「そうかな?」
 柔く笑む彼が頼もしい、沙耶は会場内を彼に寄り添い歩き。
「始めまして、――ええ、幼い頃から結婚を誓い合った仲でして……」
 そこをセレブに呼び止められた二人よりも、少し離れた場所。
 場に自然と溶け込むマクスウェルは紅赤の杖を手に、彼らを見守り。名刺交換を終えた客へとハットを上げて会釈を一つ。
「あの……」
 そこに掛けられた声に、振り向く彼。
「お、様になってんじゃん。こんな豪勢なパーティに参加できるたぁ、ケルベロスの役得だな」
 口を開けば先程迄の雰囲気は何処へやら、マクスウェルは笑う。
「はい、確かに素敵です」
 桜色のドレスを揺らしておずと月は首傾ぎ、倣って夏雪も首を傾げる。
「……でも、僕せれぶって解って無いのですけど、豪華でおいしいって意味でしょうか?」
 月の問いに、瞬き一つ。
「ふふ、月さん。セレブとは裕福や有名人という意味ですよ」
 次期族長としての優美な立ち振舞い。蒼いドレスに沙耶と揃いの真珠の飾り。会話交わす客達と別れて、戻ってきた那岐は微笑み答え。
「なるほどー、裕福……」
 確かに豪華と月は回りを見渡し、マックスウェルはふと思い出した様子。
「そう言えば那岐さん、モクテルならこっちで作ってくれるってさ」
「まあ嬉しい、乾杯でも致しましょうか?」
「僕も飲んでみたいですー」
 歩き出す皆の背に、二人寄り添い歩いていた瑠璃と沙耶も乾杯ならばと合流を。
 グラスが揃えば――。
「そいじゃ、大運動会の成功と、常連の皆の健勝を祈って……乾杯!」
 マクスウェルの音頭が高らかに響いた。

●映画試写
 揃いのタイに燕尾服。普段毎週一緒に映画を見る時とも、戦闘時とも違う正装。
「やはり、体格が良イので広喜は似合ウな」
「眸も映画の主人公みてえだ」
 シャンパングラス交わし、眸と広喜は互いの姿に見惚れる様。
 そこへすれ違ったのは、楽しげに言葉交わす映画監督達だ。
「――監督!」
 翠瞳奥で揺れる感動。眸は挨拶を交わし。
「あの恐竜映画の第一作が特に素晴らしかっタ、CGがまだ未熟だっタ時代からこそ……」
 熱っぽく監督へ感想を伝えはじめた眸の様子に、広喜にも自然と笑顔が浮かぶ。
 眸も、壊すしか能が無い俺すらも。皆を楽しませる映画って本当にすげえ、なんて。
「皆を楽しませる映画を、本当にありがとな!」
「本当にその通りダ、それにあの作品の続編も……」
 気持ち籠もる余り、英語も混じり出した眸の熱弁はもう少し続くようだ。
 鮫が現れる前兆、おどろおどろしい海。
「シャークエクス……これ近々ヘリオライダーに予知られたりしません?」
 コーラを片手に、鼓太郎は険しい顔で首を傾げた。その厳しい顔の正体はただ溢れる恐怖心を押さえつけているだけなのだが。
「こういうホラーの雰囲気ってちょっと苦手なのですよね……」
「本物となると少しは怖いかもね」
 アイラノレはカジミェシュへと身体を寄せておっかなびっくり。
 その瞬間、スクリーンの中で十本足の化物鮫が暴れ出し。
「ひええ」
「斬って捌かなきゃ、斬って捌かなきゃ……」
「そう怖がる事はないさ」
 苦笑しながら声を掛けたカジミェシュは、このような映画では余り怖さを感じない方だ。
 黒猫を飲み込んだ鮫より溢れ出す血、その瞬間アイラノレはじっと画面を見つめて。
「……なんで平然としているのですか?」
 気がつけば真顔の二人へ、鼓太郎がそっと尋ねた。
「いえ、負傷を見ると処置について考え始めてしまって、怖がるどころではなくなってしまって……」
「それもそうか」
 アイラノレの返答にカジミェシュは苦笑い。
「そういうものですか……?」
 一人怯える鼓太郎は太い眉を寄せ。
「お、鼓太郎は今夜寝られるかな?」
「フカヒレにしてしまえば……」
 カジミェシュの質問に、鼓太郎は光を失った瞳のまま呟いた。
『誰の許可を得てこの船で好き勝手してやがる!』
 食物を載せた皿を供に、映される自らの姿を見る。
 我ながらノリノリの演技だ……。しかし、船長ならばもう少しトーンを抑えて……。
 眉間に皺を寄せた晟は小さく首を左右に振り、肉を口へと放り込む。
 何か食べでもしていないと一人反省会をしてしまう。いや食べていてもしてしまうが。
 ……何もしないよりマシであろう。
 優雅に過ごす為には、まずは楽しむ事。
 自然と優雅に振る舞うマルティナにパーティの作法を教わったリーズレットは、グラス片手にそうだ、とぴかぴか笑い。
「今から始まる恋愛アクション映画には私も参加しているのだ!」
「へえ、それは楽しみだな」
 そして始まった映画が進む度、マルティナは戸惑うばかり。
「恋、愛……?」
 スクリーンの中でスーパーヒーロ着地をキメるリーズレット。
 横を見れば、本人は力強いドヤ顔。
 奏と背中合わせで行われるガンアクション。
 横を見れば、本人は期待に満ちた瞳。
 恋、愛……?
 余りにアクションが目立つ彼女の動きに眉間を揉み開きながらマルティナは考え。
 ――だがこれはこれで楽しそうだ、と結論付けた。
 そんな彼女の心を知る由も無いリーズレットは、ニッコニコでスクリーンを見つめるのであった。
 当時は夢中であったが、改めて観るとなれば照れくさいもの。
「なはは、こうして自分の演技を見ると今更ながらすげえ恥ずかしくなるな」
「はい、ムギさんがあまりにカッコ良すぎて……倒れそうです。本当に、心臓に悪いです」
 頬を紅染めて笑うムギに、紺はいつもの表情。目に焼き付ける勢いでスクリーンを見つめ。
「そう言えば、やりたい事があるとおっしゃっていましたね?」
 ふと思い出した言葉。
「……ああ」
『大好きなあなたとなら、私はどこまでも駆け抜けていきます』
 二人の声がスピーカーを震わせる。
『ああ、それでこそ俺の愛した女性だ』
 ムギが不意打ちで紺の唇を奪い。
「これでまた一つ、やりたかった事が叶っちまったな」
 肩を竦めて笑った。
「……そういうのは、ズルイです」
 紺は瞬きを2度。
「ますます好きになってしまうではありませんか……」
 揺れるシャンパン、スクリーンを駆ける二人。
「さすがにハリウッドというか……」
「……しかし、改めて見るのは気恥ずかしさがあるけれどな」
 相手が活躍する姿を観れる事は嬉しいけれど。ノルとグレッグは視線を交わして、同時にくすくす照れ笑い。
「自分のシーンはちょっともだもだしちゃうけど、グレッグが本当の俳優さんみたいにかっこよくてすごいね」
「そうか?」
 その言葉は、グレッグにとって何より嬉しい。
『ふたりなら、絶対に負けない』
 重なる二人の言葉。ノルは映画と同じ様にグレッグを真っ直ぐに見つめ。
「ねえ。グレッグと一緒だからたくさんのことに挑戦できてるなって、思うんだ」
「俺の方こそ……、ノルと一緒だったから心から楽しむ事ができているんだ」
 二人は、またくすくすと笑い合う。
 また二人の思い出が増えた。それはきっと、これからも。

●ケルベロス演舞!
 ステージ上の戦舞を背に。アイスパフェを恭しく差し出したティアンは、長耳をぴるり。
「どうぞ、チャンピオン。それともクイーン?」
 夜と揃いの宵色のドレスを纏ったアイヴォリーが華やかに笑み、受け取る賞品。
「ええ、今宵のわたくしはクイーンですよ?」
 アイスへの情熱で予行演習に勝利した彼女は、優美なクイーン。
 筋肉痛は治ってないし腕はぷるぷるだけれど。
「どうぞ、天使殿」
 ティアンに倣って。
 天使の見立てた礼服に身を包む夜が差し出すのは、青い海に白い雲。鮮やかな夏空の氷菓。
「――俺ごとプレゼントするよ」
 悪戯な笑みにアイヴォリーは夜へと寄り添い。
「ふふ、こんなに豪華賞品を貰えるだなんて」
 献上された勝利の味は格別だ、とびきりの美丈夫の横でパフェと夏空に舌鼓。
「ひぇー肩凝る」
 緩めに纏ったスーツ。サイガは座った瞬間更にゆるゆる。
「折角正装でも言動が残念ですね」
「そうそ、残念なの。おら、我らが天使サマ召し上がれ」
 氷果物のアイスケーキをサイガは差し出し、同じモノを一口。
「しかしセレブというのも結構大変なんだな、足が痛い」
 ティアンは眉を寄せモクテル片手。
「いっそサイガを杖にすれば良いんじゃない?」
「ちょっと無理があるんじゃないか?」
 夜の軽口に、ティアンは首を傾ぎ。
「あんだけ跳ねられる足で杖もクソもあるかよ、食って超回復しろ」
 更に軽口重ね、サイガの手には良い匂いの巨大肉。
「何の肉?」
「……クイーンはもう閉店です、食べて呑みますわたくし」
 答えを待つ事無く、挙手宣言したクイーンは変わらぬ吸引力。
「んー、これは良いお肉!」
 よし食える肉か。頷くサイガ。
「所でサイガ、そのモクテル」
「酒」
 モクテルですね。
 笑いと共に、幾度目かの乾杯を。
 夢みたいに御馳走の並ぶテーブル。どれも魅力的で迷うけど、その前に。
「待って、シズネ」
「ん?」
 甘い香り、目と鼻の先で揺れる淡い白金。
「少し緩んでるよ」
 シズネの首元で歪むタイを、直すラウル。
 シャッタを切るように、シズネは瞬きを重ねてしまう。彼の指先が、離れる事が名残惜しい。
「はい、直ったよ」
 眦をあげたラウルは、シズネの体貌を見やって。
 後ろに流した菫色、漆黒の夜会服も様になっている。
「……やっぱりシズネは、格好良いね」
「おお、ばっちり着こなしてるだろ?」
 褒められると嬉しくなってしまう、シズネはそれを誤魔化す様にいつもと同じ顔で笑い。
「そうだね」
 二人の袖先で揺れる、互いの瞳色を宿すカフスは傍にいる証。
 シズネがいつもと違う雰囲気なのに、いつもの様に笑うものだから。
 思わず見惚れた事は、内緒だよ。
 印象の似た婀娜やかな黒の装いで、並んだ二人。
「味は当然として、やっぱり見た目にも拘るのね」
 ヒメは普段全く縁の無い世界と、未知との遭遇中。ゼリーで寄せられた、目にも鮮やかな料理へと手を伸ばし。
「ここまで豪華なパーティは初めてですけれど、パーティ料理はそれ自体が華ですからね」
 任務に関しては禁欲的な樒だが、プライベートの食まで禁欲的な訳では無い。
 グラスを揺らしてワインの香りを楽しみ、桃色の瞳を細めて。
「はぁ、美味しい」
 本日は量より質、高くて珍しいお酒を堪能する事に決めている。ヒメは少しお酒の飲める彼女が羨ましくもあるけれど。
「樒のオススメのモクテルも美味しいよ」
「色も綺麗で素敵でしょう? ……あら、御機嫌よう」
 そこに通りかかったセレブ俳優へと樒は声を掛ける。
 ――酒の肴は有名人との会話が一番でしょう?
「ルルド、ルルド! ……わし変なとこはないか? だいじょぶか?」
 自称879歳でも、パーティドレスなんて初めて纏ったものだから。
 早苗は普段と余り変わらぬ装いのルルドに、小声で尋ねてみる。
「あん? 変なところなんてひとつもねーよ。すげぇかわいいし、綺麗だし、似合ってる」
「そ、そうかの?」
 素直に揺れる狐尾ぱたぱた。
 服に安心すれば、次に早苗が気になるのはルルドの摘んでいるローストビーフ。
「それ、おいしそうじゃな……?」
「ん、何だ、美味いぞ? ほら、あーん」
「え、あーん?」
 反射的に口を開きそうになって首を振る早苗。
「だ、だめじゃよ、こんな所で!」
「いつもやってる事だろ? 今更恥ずかしがるなよ。それにココにいる奴らも話に夢中で気になんてしないからよ」
「……ううー、もう、あーんなのじゃっ」
 狐尾は素直に揺れる。
 ホテルの屋上、パーティを少し抜けだして。
「あの、カグヤさん」
「何かしら?」
 少しでも彼女のタイプに近づきたくて。
「……カグヤさんの好みの男性のタイプって、どんな人ですか?」
 掌を握りしめて質問を口にした鬼灯は、カグヤと視線を交わし。
 彼女は瞬きを一回、二回。
「……信頼できる人ですかしらね?」
 あまり考えた事の無い質問であったが、カグヤは肩を竦め。
「ホホホ、鬼灯さんは信頼できますわよ!」
「そう、ですか……!」
 胸撫で下ろす鬼灯は改めて眦を上げ、どうしても口で伝えたかった言葉。
「一度お手紙はしましたが、僕の気持ちはあの時のままです。カグヤさんのことが好きですから」
「ふふ、改めて言われると嬉しいものですね。わたくしも鬼灯さんの事は好きですわよ?」
 笑うカグヤ。
 ――それで、今後どういう関係になりたいのかしら?

●ケルベロスライブ!
 絢爛たる室内。美しい歌声の響くステージ。
 その中でもアルスフェインを一番惹き付けるのは、瞳を輝かせるメイアの姿。
「今日の君は美しさに溢れているな、よく似合っているよ」
「……ほんと? おめかしして、よかったの」
 アルスちゃんも素敵ね、と。彼の言葉一つで弾むメイアの心。
「残念ながら竹葉はまだお預けだが」
「それなぁに?」
 後一年。彼の戯れの言葉に、きっと大人な食べ物ねとメイアはいつもと同じ様に手を引かれ。
 いつもと同じでも今日はエスコートの様で、胸はどきどき。料理を前に、心はうきうき。
「アルスちゃん、あーん」
「おや、ありがとう」
 差し出された甘味に、お酒を呑む手を止めて彼は一口。お返しに差し出されたゼリーをメイアも一口。
「窮屈では無いかい?」
「全然!」
 だってあなたと過ごす時間は、自然と笑顔になってしまうもの。
 シィラをエスコートする眠堂はスイーツビュッフェに瞳を瞬かせて。
 皿に盛られたスイーツはどれもが繊細かつ甘やか。アメリカンな甘味のスイーツもあるが、それもご愛嬌。
 たっぷりと盛った皿を前に、二人共惚れ惚れと。
「あ、このチョコケーキはミンミンさんに」
 シィラのお裾分けを掬って一口、眠堂は成程と笑う。
「もうシィは、俺の好みをお見通しだな」
「ふふ、覚えちゃいました」
「お、シィ。これも美味いぞ!」
 あっちにあったやつ、と指差した眠堂に。
「――まあ、それではその卓まで誘ってくださいな、紳士様?」
 笑うシィラはカーテシー。
「……それでは参りましょうか、御ひいさま」
 これもまた立派なエスコート。
 眠堂が手を差し出す、普段とは違う装いの彼女は夜を率いるような美しさ。
 友人と言えど、本日はお姫様の仰せの侭に導こう。
 礼服姿の冬真は瞳を見開いて、語るべき言葉を失ってしまった。
 赤のドレスに身を包んだ有理は、余りに綺麗だったものだから。
 しかし、それも一瞬。
「……いつも以上に綺麗で驚いたよ」
 はっとした冬真は、手を差し出して笑った。
「さあ行きましょうか、僕のお姫様」
「ええ、喜んで。私の王子様」
 有理も柔らかく微笑んで、彼の手に手を重ねる。
 高鳴る胸は同じ。映画よりもショーよりも、気になるのは最愛の人だもの。
「ねえ、もしかしたら酔ってしまうかも」
「僕はもう、酔っているかもしれないな」
 酔うのは酒精にでは無い。誰より愛しい人に。
 何たって先程から君を独り占めしたくて仕方がないのだから。
 戯けて笑う冬真は、細腰に腕を回して有理を抱き寄せて。
 婀娜やかな唇に、口づけを落とす。
 ――どうぞ召し上がれ、私は貴方だけのものなのだから。
 ショーも終盤。空に花火が咲けば、ミリムは黒子服を脱ぎシャンパングラスを片手。
 朱色のパーティドレスにお色直し、特等席から空を見あげる。
 あの火薬は痛かったなあ。
『斧王ボロディン様を退けるだと!?』
『お次はなんだ……?』
 次いで思い出すのは映画の台詞。
 ふふふ、とミリムは笑う。
 ああ、はしゃいでしまったな。
「……この調子で大運動会も楽しみたいですね」
 朝焼け色のドレスに着替えたマヒナを見つけたピジョンは笑み栄え。
 何たって贈ったティアラを彼女がつけていてくれたものだから。
「どうだった? ワタシのフラ」
「投げキッス、受け取ったよ。とても華やかで優雅な演技だったね」
「あれ、ラブソングなんだよね、……フラは歌詞の意味を体現して伝えるものだから」
 マヒナは一度、息を呑んで。
「……前の戦いが終えたら、言おうと思ってたんだ。――いつかのプロポーズ、ってまだ有効、かな……?」
 マヒナは今日22歳になる。だから、だから。きちんと応えようと、思ったのだ。
「プロポーズを、お受けします」
 瞳を柔らかく細めたピジョンは、頷き。
「……ああ、待っていたよ」
 そしてマヒナの手をとって、そっと抱き寄せた。
「幸せな未来を、一緒にあるいていこう」
 窓の外で花火が弾ける。
 それは二人の始まりを祝福する砲の様に。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月11日
難度:易しい
参加:39人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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