ケルベロス大運動会～ケルベロスｖｓ最強のサメ

■リプレイ

●誰も信じてくれない
「確かに見たんです！　とんでもなく大きな鮫が！」
　ツインテールの少女の絶叫から映画が始まった。
　ただ１人、客船の甲板で白羽・佐楡葉は声を張り上げていた。
　……そして、ほどなく白い腹を見せてサメが海上に浮いているところが映し出される。
「さあ、これで危険なサメはすべて退治したよ。安心して旅を続けよう」
　往年のスターが演じるエージェントが、少年に向けて静かに語る。
「違うよ！　こんな小さいサメじゃなかった！　もっともっと大きくて……本当に怖かったんだよ！」
　まるで少年のように見えるシルディ・ガードの訴えは、恐怖のせいで見た幻覚だということで片付けられてしまった。
　他にも、少なくない乗客が巨大サメを目撃していたけれど、誰も信じない。

●サメの足は何本？
　ホラー映画『シャークエクス』は急ピッチで撮影が進められていた。
　過密なスケジュールに従い、ケルベロスたちは客船内部を我が物顔に駆け回るシャークエクスによってどんどん凍らされていく。
　豪華なカジノで『龍髭学園 番犬部』のメンバーたちは撮影を待っていた。
「ついにぼくも、はりうっどで女優デビューです！　素敵な映画になるように頑張りますね！」
「映画かぁ……ＰＶ撮影とかは経験したけど、此処までになると流石にドキドキするね」
　はしゃぐ仁江・かりんと並んで、一之瀬・白も周囲を見回す。
　リアリティを重視し本当に遊べるようになっているカジノでは、アンセルム・ピドーやベルベット・フローがゲームに興じているようだ。
「カジノって楽しいね……これは沼になりそう」
「せっかくだからバカンスってようか。サメ映画によくいる、中盤で油断して死ぬ頭軽い系女を演じてあげようじゃない……え、いつもと変わらない？」
　軽口をたたきながらも、監督の合図があればケルベロスたちもカジノへ乱入してきたシャークエクスと戦うためにそれぞれ駆けだしていく。
「なんか様子がおかしいと言ってもただのサメだよ？　ドラゴンをも倒したケルベロスに適うわけないじゃないか、みんな大げさｄ――」
「うぅ、めちゃくちゃ怖いですが、ぼくはせいぎのみかたですから大丈夫です！　ここはぼくに任せて、みんなは助けを呼んできてくださ……」
「ちょっ待ってマジで凍らせるの液体窒素って結構痛……ノーーン！」
「って、ちょっと待って！？　くそっ、よくも皆を……僕のブレスで溶かしｔ」
　そして、４人はノリノリで氷漬けになった。
　他のケルベロスたちの撮影もどんどん進んでいく。
　大胆な黒ビキニで、イケメン俳優に声をかけようとするポーズのまま固まっているのは獅子谷・銀子。
　黒猫に変身した姿のまま丸のみにされた円城・キアリ。
　希望通り船長役として、乗客の盾になって凍らされた神崎・晟など……。
　……最初のうち、シャークエクスは巨大なただのサメだった。
「まさかケルベロスとして映画に出演するなんて思ってなかったよ」
　出番待ちをしながらクリム・スフィアードが誘ってくれた友人へ話しかける。
「俺も想像はしてなかったな。というかサメ映画って何？」
　無表情に淡々と、櫟・千梨がいう。
「サメ映画はワンダフルなエンターテイメントであると聞いたのだ。最近のトレンドは足がいっぱいあるサメらしいぞ。もしかしたらシャークエクスもそうかもしれない」
　２人を誘ったルイーゼ・トマスは興味深そうに周囲をながめていた。
「……サメにトレンドとかあるの？　足がいっぱいってそれはサメなの？」
「千梨、サメに理屈を求めてはいけない。考えないで感じるんだ。足の次はきっと腕が生えるトレンドだと私は思ってる」
　首を傾げた千梨に、クリムが告げる。
　……ふと視線を感じた。監督が待ち時間が伸びたことを伝えてくる……。
　ほどなく撮影は再開された。そしてアロハを着て精いっぱい犠牲者らしい『パリピ』を演出していた千梨の前にサメは現れた。
「わーびっくりした」
　禅の心を生かして無表情に淡々と千梨が演じる。
　現れたサメには急ごしらえのイカっぽい１０本の足が増えていた。
「……所長どの、もっとびっくりしなければ。というかあの足ってもしかして……」
「くっ……ルイーゼ、君だけでも――！」
　思わず首を傾げたルイーゼをかばい、クリムが千梨に続いて凍らされる。
　そして疑問を顔に浮かべたまま、少女も氷漬けになった。

●惨劇は続く
　船上の大きなプールはこ優雅な空間を演出していたが、水着姿で楽しんでいたケルベロスたちは、底を突き破って出現した巨大サメになすすべもなく襲われていた。
「ルー、助けて！」
　泳ぎが苦手なリリエッタ・スノウが沈んでいく。
「リリちゃん！」
　親友を助けに行こうとしたルーシィド・マインドギアが、シャークエクスが伸ばした足に絡めとられ、そろって氷漬けにされる。
　プールサイドで優雅に寝そべっていたステラ・フォーサイスが惨劇を目の当たりにして跳ね起きるが、飛び起きたときにはもう手遅れだった。
　……船の中で佐楡葉の笑い声が響く。
「ここはボクが食い止めるから、さっゆとてっゆは先に逃げるなぁん！」
　チェザ・ラムローグがきりっとした顔で佐楡葉とティユ・キューブを逃がそうとする。
「だいじょうぶ！　ボクにはこのもふぽよ羊毛があるから、サメさんのキバも受け付けずにぽいんと弾くんだよー！」
　言葉の通り、羊毛は牙を弾いた――けれど、冷凍光線がたやすく羊少女を凍らせる。
「よくも、チェザを！」
　思わず反撃しようとしたティユもまた氷漬けになる。まるで精緻に作り上げられた彫像のように、銀髪が氷の中で浮いていた。
「ほら！　私を嘘つき扱いした罰ですよ！」
　１人歓喜の声を上げて笑い続けていた佐楡葉も、すぐに２人の後を追った。

●ロマンス？
「……成る程、サメ映画……。……そして火倶利君が犠牲となり私を助けようとする、と…そういう展開なのだね？」
　藤原・雅は悪友にそう確認していた。
「そうです！　映画撮影です！」
　火倶利・ひなみくがうなづくと、大きな胸が揺れた。
　よくわからないままに参加してきた雅がなにをすべきか理解したところで、２人にも出番がやってきた。
「大丈夫、すぐに追いつくから。……生きて、雅くん」
「……いいかい、私は君の命まで背負う気はないよ。……精々君の体を背負うくらいが精一杯だね」
　傷つき、その場に残ろうとする彼女を背負って、彼は進む。
「……うん？　氷漬け？　聞いてないんだけど火倶利君？」
　そして、編集時に削除されるであろう一言を残し、２人は氷漬けになった。
　襲われたコンビは彼らだけではない。
　キサナ・ドゥと逢魔・琢磨は息の合った動きでシャークエクスに対抗するが――不死身のサメはついに２人を捉える――。
「これはッ！？　キサナさん、あなただけでも――」
　キサナをかばう琢磨だが、もはや逃げるには間に合わない。
　だからキサナは、小柄な体で彼をしっかりと抱きしめる。
「くひひ、ずっと一緒だな、これで」
　抱き合ったまま２人が凍りつく。

●反撃の狼煙
「下がっていろヨハン……、ここは俺が引き受ける」
　神々しく輝く丸い鳥ぐるみをまとって、リューデ・ロストワードはクールに決めた。少なくとも本人の心の中では。
「この鳥ぐるみの絶対防御を以ってすれば鮫の歯など恐るるに足らん。いざ尋常に勝負……！」
　リューデに戦いを任せ、ヨハン・バルトルドは乗客たちを逃がしていく。
「とにかく僕は早く乗客を避難させないと……」
「ふっ。柔らかくて噛み砕けまい。鳥ぐるみの防御は絶対なのｄ」
　けれど、リューデがあっさり凍らされて、ヨハンは慟哭の叫びをあげた。
「ロストワードさん、ロストワードさーん！　くそーぅ！！」
　重低音の叫びが、船上に響き渡る。
　残った数少ないケルベロスが、旗を振りかざした霧崎・天音を先頭に突撃していく。
「私に続けぇー！」
　騎士たる彼女の突撃は、神出鬼没のサメによってあっさりと阻まれてしまう。
　船上のケルベロスたちほぼ全員が凍りついたところで、ようやく救難信号を受けた沿岸警備隊が駆け付けた。
「豪華客船はこの辺りのはずだが……ック！　辺りが霧に覆われてわからない！　どこなんだ？」
　霧に包まれた船を目指してミリム・ウィアテスト率いる警備隊が到着する――。

●試写会にて
　ミリムがハリウッドスターのカルロスと合流する場面は、試写会では拍手をもって迎えられた。
「なんてことだ！　船が沈み始めてる！？　おい、こっちだ！　こちらの船に乗り移るんだ！」
「どうやら俺の仕事はここまでだな。後は……任せる」
「なんだと？　あんた、どこに行くつもり――なに、生き残りがまだいるだと？！」
　海中からハリウッドが誇る美女……シャーリーを救い出すミリムの活躍にも会場が盛り上がった。
　だが、キアリのオルトロス・アロンとステラのライドキャリバー・シルバーブリットがカルロスと協力してケルベロスを復活させる場面で起きた歓声はさらに大きい。
　一時的にシャークエクスのスーパーパワーが無力化したのだ。
　血まみれで沈んでいくカルロスに見送られて、シルバーブリットがアロンを乗せて船内を駆け抜ける。
　試写会参加者は、真剣に映画を見守っていた。

●復活のケルベロス
「あ゛あ゛、よく寝たぜフカヒレ野郎。散々ふざけたことしてくれやがって。もう容赦はしねぇ、鮫のタタキにして骨まで余さず食ってやらぁ！！」
　復活して早々に、狼炎・ジグはシャークエクスへと向かっていった。
　獰猛な獣のような一撃が、サメへと食らいつく。
「誰の許可を得てこの船で好き勝手してやがる！」
　船長である晟も怒りのアイスエイジインパクトを叩き込んでいる。
「さあ、怒涛の大反撃ですよ！」
「よくもやったな……フカヒレにしてやるから、覚悟しろよ！　かりん殿、『例の合体技』だね……任せて！」
　白とかりんの合体技が画面いっぱいに走り回った。
　サメがひるんだ間に、ケルベロスたちが復活していく。
「シルバーブリット……よくやったね」
　凍結から復活したステラを乗せ、ルーシィドやリリエッタと手をつないで引っ張りながら、シルバーブリットが船内を駆け抜ける。
　アロンも並走し、ケルベロスたちが次々に復活していく。
「この程度の痛みは序の口、なんて思うあたり……大概だよねぇ」
　ルーチェ・ベルカントが弟のネーロ・ベルカントへと肩をすくめて見せる。
「あいつは不死身だ。ケルベロスの力すら通じない。――だから、この船ごと封じ込めるしかないね」
「かけて貰った命の分、全力で返してやらないといけないし。ふふ……鬱憤晴らしには喜んで付き合うよ」
　金髪の兄弟は、その美貌に不敵な笑みを浮かべて笑いあう。
　船を沈める役と、シャークエクスを止める役に分かれて、ケルベロスたちが動き出す。

●試写会の歓声
「よくわかんないからバラバラにするのにゃ！」
　濡れたメイド服を着て、健康的な肢体から水を滴らせながら、ミルディア・デスティンが轟竜砲でサメを足止めする場面が画面に大きく映った。
「やっぱり……Ｂ級鮫映画ね……」
　意外と色気たっぷりに映っている自分の姿を見て、ミルディアは呟く。
　恋人同士の水無月・鬼人とヴィヴィアン・ローゼットが復活した直後に見つめあい、言葉を交わしていた。
「鬼人、大丈夫……？　あたしは平気…氷漬けでも鬼人と一緒だったから、怖くなかったよ。さあ、早くサメを沈めて脱出しよう」
「問題ないって奴だな。ヴィヴィアンが凍っちまうのを見た時は正直、怖かったが……無事だって信じてたからな！」
　情熱的に言葉を交わす自分たちの姿を、鬼人はポカンとした顔で見ていた。
「うっわー、アレ、俺か？」
「とっても素敵な演技よ、鬼人。あたしは女優のお仕事もしてるから、ハリウッドでの映画撮影はすっごく貴重な経験だったわ」
　ヴィヴィアンは、それでも少し不安げに、他の客たちの反応を見守っていた。
　スクリーンではヴィヴィアンが魔力による幻影で花舞う月夜を作り出し、鬼人は彼女と共に神秘的な舞にも似た斬撃をシャークエクスに加えた。

●沈みゆく船
「くひひ、すげえな愛の力！　体が熱くなってくるな、複数の意味で！」
「キスで伝わってきました貴女の熱さ！　この熱さを銃と歌のデュエットにして、氷結鮫野郎にぶちまけましょうッ！！」
　情熱的なキスをかわしながら、キサナの歌声と琢磨の銃声がシャークエクスを打つ。
「天と地……炎と氷……二つの力に敵はない……砕け！」
　天音がそばに現れた青年の幻影と共に放つ氷炎の一撃が船内を走り抜ける。
　佐楡葉の魔力弾が、チェザの羊ろーりんぐアタックが、ティユのミサイルのように放つ星の光が、連携してシャークエクスを穿つ。
　弾丸のように飛び出したリューデの鳥ぐるみと、ヨハンの拳も敵を打つ。
　シャークエクスと戦っている間に、船の上下ではオペラの歌詞に似た歌声が響いた。
「Allora……Sei pronto，NERO？」
「Certo！ Cominciamo，LUCE」
　ベルカント兄弟の歌声で天から光が落ち、深潭から出でる闇の大蛇が水底へと誘う。
　水底に沈む船……その壁から炎が噴き出した。
　ベルベットの放つ炎で開いた穴を、アンセルムのラフレシアが食い破って広げていく。
　海の底からケルベロスたちが次々に浮上していく。
　船内で暴れまわるシャークエクスをつなぎとめているのは銀子のケルベロスチェイン。
「んぐぐぅっ、は、早く、逃げ、て」
　シャークエクスが鎖ごと彼女の体を丸のみにする。
「これで終わりじゃないからーっ」
　彼女はサメに喰われた２人目の犠牲者となった。
　……銀子に代わってサメを食い止め、最後まで船に残ったのは晟だった。
「最後まで抑えておく役が必要だからな……これも船長の役目だ」
　サメと戦いながら、青いドラゴニアン船と共に沈んでいった。

●To be continued……
　沈んだ客船から脱出した客たちが、警備艇に乗っていく。
　海中から浮上したケルベロスたちがそこに合流し、生き延びた人たちが喜び合う。
「しかしあの鮫は一体……？」
　佐楡葉はサメが沈んだあたりをながめて呟いた。
「そして第二第三のサメが現れるんだよね。羊しってる」
「よく考えたら……客船攻撃して鮫ごと深海に沈めるって……倒せてる……？」
　チェザとティユも言葉を交わす。
　そして、スタッフロールが流れ出した。

　最後に警備艇で、ミリムがソナーの反応を報告される場面が映った。
　見つかったのは黒猫。シャークエクスに喰われたキアリが無事に脱出した姿だった。
　さすがに死んだかと思われていた彼女の無事が確認されたことを人々が喜ぶ――。
　その警備艇の下に、巨大な影が浮かんでいることに、誰も気づいていなかった。
「お次はなんだ……？」
　再びソナーに反応があったことに気づき、ミリムが呟いた――。
　画面は暗転し、さらなる拍手が起こった。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年8月11日 難度：易しい 参加：32人 結果：成功！
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