なんでや?! 阪神関係ないやろ!

作者:ほむらもやし

●竜十字島
「浜風が気持ちええやん」
 両翼95メートル中堅118メートルぐらいの扇形の窪地を、植物と融合したような緑色のオークたちが、虎っぽい見た目の女の子の呼びかけに従って発掘作業をしている。
 どうやらこの虎っぽい女の子も螺旋忍軍の一員らしい。
 なんとなく関西弁っぽいイントネーションで喋っているが、阪神とは関係ないと自称している。
 間もなく、自身で掘った穴の底で立ち上がり、何もなかったことを首を横に振って告げる。
「なんや、またハズレか、まあええわ。次、気張ってくれればええから」
 なんとなく、何かを見つけるまで家に帰れないような、嫌なムードが漂う。
「——誰や?! 今、33-4って聞こえたけど、ウチの空耳やんな?」
 そんなタイミングで風に乗って、白い霧のようなものが流れて来る。
 女の子の小さな胸の内が、嫌な予感でざわざわと騒いだ。

●ヘリポートにて
 ドラゴン・ウォーの戦場となった竜十字島で、螺旋忍軍が不審な動きを見せていると、ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は告げた。
「相当数の螺旋忍軍が、オークプラントという『オーク型の攻性植物』を引き連れて、島に上陸して、何かを調査をしている所までは分かったけれど、何を探しているかとか、それ以上のことは分からない」
 オークプラントの存在はドラゴンの残党や大阪城の攻性植物勢力の関与を連想させる。
 ならばケルベロスとしてやらなければいけないことは決まっている。
「今回、対応をお願いするのは『大河』と名乗る螺旋忍軍と、彼女の配下となっているオークプラントだ。現在『大河』は率いるチームは竜十字島の海辺にある扇形の窪地で何かを探している」
 螺旋忍軍『大河』の戦闘力は高いとは言えない。
 例えるならば、肝心なところでドジばかり踏み、チャンスにはめっぽう弱く、期待感だけは抱かせてくれるが、いつも裏切ってくれるような可愛いいあの子のような感じだろうか。
 但し、此方に隙があれば、オークプラントを捨て駒にして自分だけでも逃げようとする強かさはある。

「オークプラントを撃破して調査の妨害は出来れば、目的は達したとも言える。だけど——」
 螺旋忍軍が、今さら、何を目的に、何を探していたのかは、気になる。
 今一度自身が積み重ねたものを俯瞰してみると、時間を掛けて変わったもの、変わっていないもの、その時の気分だけだったこと、様々なものが見えてくる。
 過去から現在を知れば、未来に向けて受け継いで行きたいものが見えてくるだろう。


参加者
カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)
知井宮・信乃(特別保線係・e23899)
ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
綾瀬・塔子(ただでは転ばない・e84140)
 

■リプレイ

●接敵
 勾配の穏やかな斜面の下の方で緑色のオークたちが作業をしている。
 斜面のあちこちには墓標のように立つ岩があり、此方が接近を続けていることは気づかれにくい。
 カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)は岩陰から岩陰に身を隠しながら発掘をしているオークたちとの距離を詰めて行く。近づくにつれて、調査の様子の詳細が見えてくる。
「たるんでるみたいだね。そもそもこんな所に猛虎魂があると思っているのかな?」
 虎っぽい女の子は、何かを手に、空を見上げていた。
 ――曇った空には、見えるはずのない勝ち星を。
 敵の陣容を確認し、ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)は視線を鋭くして、意識を戦場に切り替える。爆破スイッチとBlitz Falka——ガジェット、使い慣れた得物の手触りを確かめるようにして、敵に狙いを定める。
 しかし緑のオークといい、関西にある虎をイメージしたプロ野球チームの応援団のような女の子と言い、本当に螺旋忍軍なのかどうか、権利関係は大丈夫なのかと、問い正してみたい気もしてくる。そして見た目はオークの姿はしているが、その正体は攻性植物だというオークプラントも。
 いつでも掛けられる状況はできた。誰が最初に仕掛けるか。
(「探し物をしている螺旋忍軍か……」)
 かつてここがドラゴンの拠点であったと考えれば、ドラゴンに関わりのある何かを探していると、ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)は推測する。それが自分の忍術に役立つものであれば奪い取ってでも手に入れてみたいとも思いが、『大河』——女の子の虎っぽい出で立ちを見ていると、別の感想が心の中に湧いてくる。
(「随分と濃いな、お前……」)
 雑念を振り払う様に指先を揃えて俯くライ。顔を上げると一番近いオークとの間合いを測る。
 幼さを感じさせる高い声で、大河は叫びながら夢中で指示を出している。
 オークの数は10体と多めだが、戦闘力が低いことは見た目にも明らかだ。
 知井宮・信乃(特別保線係・e23899)は大河の服に大きくあしらわれた数字に気がついた。
 アイドントライクノーミ。
 何ごとも上手く行かないときに囁かれる呪文のようなフレーズが頭を過ぎるのは錯覚に違いない。
 いやいやいやと、首を左右に振って、信乃は目に見える現実に目を向ける。
(「確かに『14』と書かれています……」)
 一体どういうことなのか。ツッコんで良いのか? 罠なのか? 答えの出ない問い。胸の内に浮かぶ疑問に迷いが渦巻く。だが此所は戦場だ。苛立ちを鎮めようと、呼吸を整えて、刹那、両瞼を閉じる。
 兎も角、オークプラントを倒さないことには、何も始まらない。
「可愛いコスチュームっ! その胸の14番の意味、教えてくださいな!」
 綾瀬・塔子(ただでは転ばない・e84140)は自らを魔人の如くに変貌させながら言い放った。
「なんでやねん?! ウチは阪神、関係ないで!!」
 跳び上がるほど驚く大河。
 代打の神様か、最強のGキラー、あるいはノミの心臓を連想するかはそれぞれだろう。
 そして、この大河は元気で明るく前向きな表情は崩さない。
「アイドルになれますよー、もったいないですっ!」
 何となく、ウェアライダーである自分と似た気配を大河から感じるのは不思議な気分がした。
 直後、大河の驚いた声に反応するように、オークプラントたちは、地面に掘られた穴から一斉に顔を出す。

●戦い
 オークプラントが、モグラ叩きのモグラのように顔を出したのを見て、5名のケルベロスは動き出す。
 正直、この敵が何を探しているかは、誰にも分からないままだった。
 一気に大河の首を狙うことも出来そうにも見えたが、決定的な不利を悟られれば逃走されるという情報もあってか、それを躊躇させる。
 かといって戦闘力で劣る風に策を弄するのも良策では無いと分かっている。デウスエクスの思考傾向を考慮すれば、弱者とみなされて有意義な会話は望めないからだ。
 虚を突かれたオークプラントだったが、緩慢そうな見た目にも関わらず、穴から飛び出て大河と共に戦うポーズを取るまでは早い。
 両者が姿を晒し、戦いの熱気が戦場を覆う。
 最初に攻撃を叩き込んだのは、信乃。
 敵の数は多い。闇雲に戦って敵中に孤立するのは避けたいところ。
(「捜し物は見つからなかったようですね」)
 大河が何かを隠そうとも、すぐに逃げるそぶりも見せないので、最小限の目標、これ以上の捜索を断念させる為に信乃はオークプラントへの攻撃に力点を置く。
 次の瞬間、雷光の如き神速の突きに貫かれた、緑の身体が苛烈なダメージに耐えきれずに塵となって消し飛んだ。オークプラントの圧倒的な弱さを知って、信乃は急に大河が可哀想なものに見えて来た。
「なんて脆い——」
 蹴りの一撃だけで、瀕死状態になるオークプラントの耐久力にカッツェも信乃と同じ印象を抱く。
「残念だけど、そんなへなちょこチームじゃカッツェには勝てないよ」
「どういうつもりや?!」
 大河が返している間に、黄金のオーラを纏ったニホンオオカミの姿と化したライが雨を呼ぶ遠吠えを轟かせれば、観音菩薩の癒しの力を孕んだ雨が降り注ぎ、その加護により戦力はより盤石となる。
「見逃してあげる。って、言ってるんだよ——もちろんタダではないけどね」
 たった5人とはいえ、最初の小競り合いだけで強さは分かった。
 敗北は必至という気配に大河はもう内心では逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
 なんかこう、対戦相手に言われると、はいそうですか。と素直には頷けない気分らしく、勝ち目がないのは分かっていたが、笑顔を崩さないまま残るプラントオークたちに激励を飛ばす。
「応っ! 勝つんや。Vや、Vやねん!!」
 状況は有利では無いかも知れないが、ここからレジェンドを作ってみせると、オークたちは意気込む。
 しかし、ヴィクトルは盛り上がる大河とオークプラントたちのもつに違和感を見逃さなかった。
「どういうことなんだ? これだけの別嬪揃いを見ても興奮すらせんのかね、お前さんたちは」
 仲間の女性がひどい目に遭うことを期待するわけでは無いが、知識として年中発情期のようなオークの醜態を知っていれば、女の子の言葉に、言われるがままに付き従い、敵に女子の姿を認めても、発情するそぶりすら見せないのはオークとは呼ばれていても全くの別物であると考えざるを得ない。
「……やはり、オークであってオークではないならしようがないか」
 囚人服姿のネズミの獣人の亡霊が2体、そして放たれた水晶球の如きエネルギー弾が炸裂する。
 爆ぜ散るエネルギーが鋭い破片となって、追撃の効果を重ねるが、敵の前衛は耐え凌ぎ、まだまだいけるで。という感じでスコップのようなものを掲げて気勢を上げる。
 間もなく攻撃に転じるオークプラントたち。
 まず、霧の如き花粉をまき散らして視界を阻むと、緑の蔦を鞭の如くに振るいながら仕掛けて来る。
「浜風は気持ち良いけど、風速10メートルは無いと寂しくない?」
 太平洋の風と瀬戸内海の風は違うということだろうか、大河にはマニアックなことはよく理解できなかったのでなにも返さなかったが、風にも関わらず煙幕の如く漂う花粉のなかで、オークプラントたちの攻撃を受け止め、或いは回避するカッツェと信乃の姿を目の当たりにして、煽られているということと、非常に不利な状況は理解した。
「ちょっと見通しが悪いようでありますな」
 塔子が澄んだよく通る声を響かせて、ゾディアックソードの先で地面に守護星座の輪郭を描く。
 守護星座の描線が煌めく。噴き上がる清らかな光が、漂う花粉のもやを消し飛ばすとともに、状態異常への耐性をもたらした。
 仲間への支援は後でも出来るだろう。今を好機とみたライは敵前衛の撃滅への布石を打つ。
 敵の戦力配分は前衛に偏っており、後衛は大河のみ。主力である前衛さえ叩いてしまえば、中衛は瞬殺出来るほどしかいない。
(「弱って来ているようだから、纏めて狙ったほうが良いな」)
 愛用のゲシュタルトグレイブを構え直し、ライは空に向かってそれを射出する。
 次の瞬間、曇り空の隙間から見える星をバックに分裂した槍が豪雨の如くに戦場に降り注ぐ。
「Take zis ze Ultimate Veapon!」
 次いで、この局面では究極の一手だろう——。ヴィクトルが間髪を入れずに投じた手榴弾がスローモーションの様に山なりのカーブを描いて飛翔する。
「あかん! 伏せろ——」
 中衛の方のオークプラントの一体が、それに気がついて、警告を飛ばすが遅かった。
 高い金属音を響かせて、落下した手榴弾は爆ぜ、同時に強烈な冷気をまき散らす。
 既にダメージを重ねられていたオークプラントの前衛一群には、この一撃が致命傷となり、大河を守っていた防衛線は、ここで瓦解した。

●心残して
「こりゃあいよいよあかん。ほんまに33ー4や。オークプラントじゃあ、やっぱり戦いにならんな」
 もはやこれまでと中衛の2体を残して、大河は踵を返すが、行く手阻むように信乃が立ちはだかる。
「どこに行くのですか? それでも、私は、タイガサン、あなたをアイシテマスよ」
「くっ!」
 14の番号を目にすると言わずにはおられずに言ってしまった信乃であったが、生きるか死ぬかの状況にある大河にとっては——見た目の表情は崩さないものの、悪夢のような事態であった。
「33−4、分かるんだ。つまり、あのときみたいに邪魔しに来たよ」
「くっ……何が望みや? えげつないことせんとって!!」
 ついさっき、カッツェが見逃してくれると言っていたことを思い出し、大河は強気に返してくる。
「じゃあ、螺旋忍軍のアレ——って何か教えてくれない?」
「なんやそれでいいのか? こういう丸い金属の板やで」
 そう言うと、小銭入れのようなものから取り出した中心に直径4ミリほどの穴の開いた、白銅の丸板をつまみ出してカッツェに向かって、爪先で弾き飛ばした。
 銀色に輝く白銅の板の表面には精緻な菊の刻印が施されている。その意匠はカッツェにとって初めてみるものでは無かった。
「これって、50円硬貨だよね。こんなことを真に受けると思っているのかな?」
「どう考えても、関係のないもので誤魔化そうとしているな」
 眉毛を微妙に震わせるカッツェ、そこに残っていたオークプラントをかたづけて来た、ライがピンと立った耳を震わせながら続けた。
 自分の忍術に役立つものがあればと思っていた、ライであったが、舌先三寸だけで逃げる気満々の大河の態度を見ていると懲らしめてやりたい気分になってくる。
「帰りは電車とは違いますので、大河さんを乗せる席はありませんし、どうしますか? 私は殺してしまっても構いませんが——」
 サラッと言い放つ信乃の足元には最期の瞬間のまま目を見開いたオークプラントの切り離された頭部が転がっていて、バラバラになったオークプラントの残骸もそこかしこに散らばっている。
「どうしよっかな? じつは初対面なんだけどね、なんとなく近しいというか、殺してはいけないような気がするんだよね」
「それなら、そういうことでええな。さいならさいなら——」
 カッツェが顎の下に拳を当てて、思案げに視線を下に落とした瞬間、大河は地面を踏み込んで宙高く跳び上がる。そして並び立つ岩から岩へ、スピードを上げながら跳び行き、数秒を待たずして視界から消えた。
「あ、逃げましたね。もう少し語りあってみたい気もしましたが、彼女もデウスエクスですし、仕方ありません」
 戦いの疲労感を強く感じて、信乃は膝ほどの高さの岩の上に腰を下ろす。空を見上げれば雲に開いた隙間から星の煌めきが見えた。
「まあ、あれだけ掘り起こして、何も見つからなかったのだから、俺の出る幕も無さそうだがな」
 一方でライとヴィクトルは何か見落としがあるのではないかと、疲れた身体に鞭を打つ様にして戦場の周囲を調べてみるつもりだ。
「あ〜しんどかった。それにやけに時間が掛かったような気がします」
「カッツェも思ったよ。まったくだよね。でも、大河がこれから何をするのか、しないかもしれないけど、とにかく、何かが起こるか、どうなるか見てみよう」
 海の匂いがする風が吹き寄せて来て、疲労による微熱を帯びた肌を爽やかに撫でた。
 そろそろ帰ろうと、カッツェが立ち上がって背伸びをする。
 大河から受け取った50円硬貨が、ポケットのなかでカサリと動く気配を感じた。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月1日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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