ケルベロス大運動会~アメリカン・フードファイト!

作者:坂本ピエロギ

 ケルベロス大運動会。
 それは度重なる『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』の発動で疲弊した世界経済を再び活性化させるために行われる、世界規模の一大イベントだ。
 ケルベロスに通常ダメージは効かない。ならば、それを利用して儲けよう。
 そう考えた世界中のプロモーター達が、あまりに危険すぎて一般人には使用をあきらめた危険スポーツ「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」を築き上げ、世界規模の一大祭典に仕立てたのだ。
 第四回目の開催地に選ばれたのはアメリカ合衆国。
 ドラゴンとの決戦に勝利するなどの目覚ましい活躍を後押ししようと、最大の支援国であるアメリカが大運動会の会場に名乗りを上げた。
 世界の中心である自由の国で、様々な種目がケルベロスを待っている――。

「突然ですが、アメリカ料理と聞いてフリージアさんは何を想像しますか?」
「えっ? そうですね……」
 微笑むムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)に問われて、フリージア・フィンブルヴェトル(アイスエルフの巫術士・en0306)はふと考え込む。
「ハンバーガーにピザ、ステーキ……でしょうか。アメリカに行ったら、ぜひ食べてみたいと思っています」
 美味しそうな料理を沢山思い描くフリージアに、ムッカは耳寄りな話があると言った。
 アメリカの市民達がケルベロスを歓迎する催しとして、アメリカ料理を供するもてなしの場を用意してくれたと言うのだ。
「会場は非常に広い場所です。場内ではアメリカ料理を自由に食べて回れるブースが並び、フードファイトも同時開催されます。おもてなしのお礼として日本料理やお菓子をアメリカの皆さんに御馳走する事も出来ますよ」
 会場にはアメリカ中から様々な食材や料理が集まっているという。
 食材は肉から魚類、野菜に果物、クリーマリーの乳製品。
 料理はハンバーガーやピザやタコスから、ブリスケットやロブスター、今が旬のチェリーを使う郷土料理まで、こんなものが食べたいと伝えれば、大抵の料理は食べられる筈ですとムッカは言った。
「それは是非寄って行かなければ……! ところで残る二つの催し物は、どのような?」
「フードファイトは日本でいう大食い大会ですね」
 こちらのイベントは、定められた制限時間内に食べた量を競うものだ。
 会場ではハンバーガーとピザ、チェリーパイの3部門が開かれており、ケルベロスの飛び入り参加も受け付けている。ケルベロス大運動会の一環として「ケルベロス用激辛ソース」が混じった一品がたまに混じっているとかいないとか。
 トッピングについては、事前に申告すれば大抵の要求には応じてくれる。量が多いほど、トッピングが派手であるほど、会場の盛り上がりも大きくなる。
「次に日本の料理を振舞うイベントですね。こちらはアメリカ市民の方々へのお礼として、ケルベロスの皆さんが料理やお菓子を振舞うものです。作っておいた物を持ち込んでも構いませんし、市民の方々の前で作り立てをご馳走する事も出来ます」
 調理に必要な食材や器具は、すべて現地にそろっている。
 歓迎のお礼としてお勧めを一品作るなどすれば、きっと喜ばれる事だろう。
「ふふっ。ムッカさんの話を聞いていたら、何だか待ちきれなくなって来ました」
「会場には私も行く予定なんです。一緒に回ってみますか? ホゥ・グラップバーン(オウガのパラディオン・en0289)さんも当日に合流されるそうですよ」
 目を輝かせて頷くフリージアに微笑むと、ムッカは改めてケルベロスへと向き直り、依頼の説明を締めくくる。
「アメリカ料理をご馳走になって、フードファイトに参加して、お礼の料理を振舞って……よろしければ皆さんも、素敵な時間を過ごしていって下さいね」


■リプレイ

●一
 第四回ケルベロス大運動会、その開催国家であるUSAとの交流の舞台として設けられたフードファイト会場。
 そこで待つのは、アメリカ市民がケルベロス歓迎のため用意した料理の数々だ。
 味良し、素材良し、そして勿論ボリューム良し。
 番犬達の宴がいま、アメリカの地で幕を開ける――。

「やっぱりアメリカに来たらこれだよね! ……か、完食出来るかな……?」
 ジャンクフードのコーナーでヴィ・セルリアンブルーが頬張るのは、揚げバター。
 カリッとした歯応えの後に、コテコテに旨い油の味が押し寄せてくる。
「く~っ、美味い! 雪斗もどう?」
「じゃ、じゃあ……んんー、おいしい! かろりーはおいしい!!」
 語彙を失いかけた香坂・雪斗は、熱々のピザを負けじと頬張った。胡椒の効いたペパロニから滲む旨味に頬が緩む。
「ヴィくん、アップルパイとか食べない?」
「食べよう!!」
 体重の心配は無用だ。
 何しろ今日は大運動会、カロリーはいくらでも消費できるのだから。

「お肉とパンのバランスが崩壊しておりまする……」
 福富・ユタカはハンバーガーのサイズに度肝を抜かれていた。
 ずしりと重いビーフパテ。厚切りのトマトとピクルス。
 厚い。肉も野菜も、ただただ厚い。下手に噛みつけば顎が外れそうだ。
「はい、これ」
 そこへレオン・ヴァーミリオンが差し出すのはナイフとフォーク。
 彼は自分のハンバーガーを切り分け、ユタカの口へ優しく運ぶ。
「はい、あーん。この前やってもらったしね?」
 お返しにユタカも、ナイフとフォークを受け取ってお返しだ。
「ではっ、あーん! 次はレオン殿、あーん」
 二人の素敵な一日は始まったばかり。

「じゃーん! 見るのだ吾連、このピザを!」
 鉄・千が葵の御紋の如く掲げたのはチーズ増し増しシカゴピザ。
 円筒形のピザ生地にトマトと肉を詰め込み、チーズをどっぷり注いだ品だ。
「うわ! チーズがすごい……!」
 思わず息をのむ影守・吾連。だが千には更なる切り札がある。天ぷら生地でカリッと揚げたピザ、その名も――。
「禁断のふーど『ピザ天ぷら』なのだ!」
「美味そう……なら、俺のも!」
 負けじと吾連が出した切り札は、アメリカのSUSHI。
 アボカドとキュウリ、サーモンを使ったカラフルな内巻き寿司だ。
「じゃん! ドラゴン・ロール!」
「おお……お野菜! 千にもちょっと分けてくださいなのだ!」
「もちろん! 一緒に食べよう!」
 ハイタッチを交わし、テーブルへ急ぐ吾連と千。
 コーラをお供に料理を分け合えば、美味しさも更に増し増しだ。

「おい、見ろよコレ! ド派手に伸びるぞ!」
 ロア・シュティーツレーヴが、パンサンドをパカッと割る。
 中から現れたのはチーズ。
 ケミカルな七色の、伸びるチーズだ。
 それに【ウロ仲間】のメンバーが、おおっと驚きの声を漏らす。
「皆さん、この七段重ねのパンケーキも虹色です」
「えっ、何これ……すごい」
 派手派手しい色の洪水に清水・和真と虎丸・勇が、
「流石アメリカ、インパクト勝負か」
 そして捩木・朱砂が驚きで言葉を失う。対するロアは子供のように目を輝かせて、
「凄いな! よし食べよう、ていうか写真!」
「お、ええな。皆で撮ろうや」
 気さくな声で女性店員を呼び止める天利・絢人(誘いの手・e15576)の背を、勇は小さく小突いて呟く。
「ブロンド美人ばっかり見てちゃ駄目だよ、天利さん」
「おっと。そらモチロン、目の前の美女も見えてますとも」
「ほら二人とも、撮るぞ!」
 ロアが虹色菓子を手に、仲間とピースサインを掲げた。
「いいか皆!? はい、チーズ!」
 パシャリ。
 こうして5人はテーブルにかけ、そのまま食事タイムに移る。
 ハンバーガーにロブスターにターキー……大運動会を控え、その量も圧倒的だ。
「遠慮するな。一人では食い切れないからな」
 朱砂は仲間に料理を取り分けながらも、その目は時折仕事モードに変わる。
「ふむ、フライドオクラか。ビールに合うし店のメニューにでも……」
「ハンバーガーにチェリーパイ……うん、帰ったら運動しよ」
 勇の小声を聞いた和真は、にっこりと微笑みを返す。
「皆さん、このあと砂浜でビーチバレーなんてどうです?」
 大運動会までは、まだ少し時間がある。皆で楽しく、一汗かくくらいには――。
 和真の提案に、仲間達は大賛成と頷くのだった。

●二
 一方その頃、肉料理をメインに扱う一角では。
「さあ皆さん、肉を。肉を食べましょう」
「うむ。肉々しきタワーバーガーを、ポンド単位のステーキを、皆で食い尽くそう」
 御子神・宵一の一声に、神崎・晟が重々しく頷いた。
 男5人の【肉食男子会】、彼らが食らうは『肉』、それのみ。
『いただきます!』
 タクティ・ハーロットと上野・零は手を合わせ、巨大ハンバーガーに手を伸ばす。
 ビーフ、ピクルス、ビーフ、チーズ、ビーフ、トマト、ビーフ。
 だるま落としにでも使えそうな肉のタワーへ、ハインツ・エクハルトと一緒に勇猛果敢に食らいついていく。
「肉汁とパンの柔らかさ、チーズの旨味。まさに味のマンハッタンなんだぜ!」
「……噛みしめるたびに肉汁が、うまみが……やはり日本のバーガーとは違う……!」
「大きいのだぜ……ピクルスの串刺しとか初めてみるのだぜ」
 3人が舌鼓を打つ横では、宵一と晟がTボーンステーキにかぶり付いていた。
 ガーリックバターを載せて分厚い肉を頬張った宵一は、味蕾を蹂躙する旨味と肉汁に、ご機嫌で尻尾をふわふわ振る。一方で晟がフードファイター顔負けの大食いで肉料理を胃袋に収めていく姿を見て、ハインツはキラリと目を輝かせた。
「ハンバーガーの付け合わせにステーキというのも良さそうだな?」
 ガタッ。
 それを聞いたタクティがステーキを、宵一がチーズバーガーを、我先にと頼む。
 ステーキ、ハンバーガー、またステーキ。
 肉を愛する男どもの宴は続く。

「アンタ達、たんとお食べよ」
 ルミエル・シャノワールが言うや、【金貨】の面々は一斉にテーブルへ手を伸ばす。
「いただきます! ピザ、貰いっと!」
「んー美味ぇ! やっぱアメリカつったらジャンクフードだろ!」
 真っ先に動いたのは星野・夜鷹とギフト・アムルグだ。山盛りのピザが、揚げバターが、育ち盛りの少年達の胃袋へ瞬く間に消えていく。
「夜鷹、もう少しどうかな」
 そんな傍から、シルヴェストル・メルシエが自分のピザを勧める。
「サンキュー。ていうかシルヴィ、腹減らないの?」
「なに、心配せずとも食べているさ。コブサラダとかね」
「ふーん。じゃ遠慮なく!」
「おい夜鷹、ギフト、野菜もしっかり摂れ」
「この国じゃピザは野菜だって聞いたぜ? つーか、そう言うレスターはどうなんだよ」
 釘を刺すレスター・ヴェルナッザに、ギフトは彼の皿を指さして口を尖らせた。
 枕のように巨大なステーキ。塩をしたソフトシェルクラブのフライを山と盛った器。
 野菜っ気ゼロのメニューを指摘されても、しかしレスターは平然と返す。
「おれはいいんだ、大人だからな。悔しかったら沢山食って大きくなれ」
 そんな3人のやり取りを、ティアン・バはロブスターとプルドポークサンド片手に、長耳をぴるぴる羽ばたかせて呟いた。
「ギフト、もしかして夜鷹と身長同じ位?」
「なっ……カニ取ってくれレスター! ロブスターも!」
「おう、もっと食え。殻までいく意気なら伸びるだろ」
 ギフトが伸びる方に賭けた彼としては、助力を惜しむ理由はない。程なくしてテーブルの皿は残らず空になり、二人はデザートも真っ先に平らげる。
「キャプテン=ルミエル、お代わり!」
「俺も! 絶対に身長でギフトを抜いてやる!」
「せっかくの本場だ。もう一皿、ステーキを貰おうか」
「アマイモノハベツバラだ。ティアンもおかわり」
「……豪快だねぇ、アンタ達は」
 仲間達の食欲に、ルミエルは思わず苦笑するのだった。

「おっにくー! 肉々しいおにくーっ!」
「やはりアメリカとくれば、ステーキでしょう!」
 【番犬部】のテーブルを埋める肉の海に、朱藤・環と中条・竜矢は歓喜の声をあげた。
 ヒレにサーロイン、牛一頭分に匹敵しそうなビフテキの山だ。
 そこへ一之瀬・白が咳払いひとつ。
「皆! 野菜も食べなきゃだめでしょ!?」
「え、ちゃんと食べてるよ?」
 アンセルム・ビドーが不思議そうな顔をする。
 ヒレステーキの肉汁をたっぷり吸った、マッシュポテトを頬張りながら。
「ねえ皆、ポテトは野菜だよね?」
「ええ。小麦は野菜、ベーコンは調味料。アメリカでは常識です」
 涼しい顔で巨大ハンバーガーをハグッと噛みしめるのは、エルム・ウィスタリアだ。
「フタリトモ……イッタイ、ナニヲ、イッテルンデスカ?」
 白がわなわなと肩を震わせて、
「ほら、このサラダも食べて……ほら、キリキリ食べる!」
 ここぞとばかりに奉行と化している横で、環と竜矢は早くも肉を片付け、会場内のテレビに目を向ける。
「けふっ、ご馳走さまでしたー」
「はあー言葉が出ないぐらいおいしいです!」
 気づけばフードファイト開始まで、あと数分。
 はたして大食い王の栄冠は誰に輝くのか――。

 神宮司・早苗と獅識・千夜のテーブルに、でっかい肉料理がドンと二品鎮座した。
「おお、美味しそうなのじゃ!」
 早苗はローストビーフのサンドイッチ。赤身と脂のバランスが良い部位のスライスをこれでもかと挟み、サルサソースを塗したものだ。付け合わせは油あげである。
「ふム。なかなか手強そうダ」
 千夜はハンバーガー。分厚いビーフパティの段重ね、そしてトマトにアボカドにレタスにチーズに……トッピングオールスターの豪華な一品だ。
「これは良いものダ。早苗も一口どうだろうカ?」
「良ければわしのサンドイッチもな、千夜! わしらは此処で、帳達を観戦じゃ!」
 場内の巨大ディスプレイが、メインイベントの開始を告げたのはその時だった。
『さあフードファイトの始まりです! 飛び入りのケルベロスに盛大な拍手を!』

●三
「ラジカル☆ぴえりん♪ いっただきま辛ええええええええええええええええええ!!」
 フードファイト開始から約5秒、チェリーパイ部門の戦いは初っ端から激辛を引き当てた盛山・ぴえりの悲鳴で幕を開けた。
「クールダウン! 水! 何か飲み物――」
 火を噴いて転げ回りながらドリンクを一気に煽り、盛大に吹き出すぴえり。
 それもそのはず、ぴえりが飲んだのは――。
「アメリカ名物『うがい薬味ジュース』だーー!!」
 早くも1名脱落する中、【ノラビト】のラウル・フェルディナンドは余裕の笑みを浮かべる。トッピングはバニラとキャラメルアイス。大食いは得意でないが、甘い物は別腹だ。
「ふふっ、表情が緩むね」
 真っ赤なチェリーの香りと、パイ生地の歯応えを楽しみながら、早くも2皿をたいらげるラウル。ちらと仲間達に目を送れば、燈・シズネと瀬戸口・灰が奮闘の真っ最中だ。
「ちぇりーたっぷりでうまい! 甘さマシマシだな!」
「あ、甘いけど舌が痺れ……トッピング、ミントたっぷりで!」
 そんな灰に差し出されたのはミントの葉がドサッとぶち込まれた緑色のパイ。彼はそれを、ヤギになった気分でもしゃもしゃ貪る。
「ははは、皆お手柔らかに頼むよ」
 千歳緑・豊はエプロンをかけて両手にはフォーク。パイを一口サイズに刻み、難なく口へと運んでいく。
 と、その時――。
「こ、このパイ凄く辛い……!? コレは無理!!」
「お腹には余裕があるけど、ステーキが食べたい……名残惜しいが、オレは降りる!」
 ラウルとシズネが立て続けにギブアップを宣言。灰と豊が一騎打ちの火花を散らす隣で、ラウルが激辛パイをそっと差し出した。
「シズネ、辛いの好きだよね? あげる!」
「嬉しいな。ちょうど口直しが欲しか――ごふっ」
 辛さに悶絶するシズネ。いっぽう灰と豊はお互い一歩も譲らず、スパートをかける。
「ま、負けるか……!」
(「ふむ。うかうかしていると危ないようだ」)
『さあ皆様! 二人の選手に声援を!』
 タイムアップが迫るにつれ、会場の熱気も最高潮へ向かっていく。
 カイ!! カイ!!
 トヨ!! トヨ!!
 声援が響く中、勝負を制したのは――。
『勝者! 千歳緑・豊!!』
「おめでとう、おっさん。……次こそは勝つぜ!」
「こちらこそ、いい勝負をありがとう。――さあ皆、口直しに何か食べに行くかい?」
「「え!?」」
 灰と握手を交わした豊は名探偵のパイプをくわえ、ニコリと仲間達に微笑むのだった。

 一方その頃、ハンバーガー部門。
 【特科刑部局】の物部・帳は滝の如き冷汗を流していた。
「アリス殿。何故かお腹一杯になってきたなーとか、そういうのってありません?」
「いえ、別に?」
 同じ団員の対戦相手、アリス・ケイン(機械仕掛けのお手伝いさん・e00375)に計略が通じないのだ。飲み物に仕込んでおいたはずの満腹薬が――!
(「まずい。負けた方が旅費を全額持つこの勝負、このままでは私が払う羽目に!」)
 震える手で掴むハンバーガーは、鉛のように重い。
 こんな事なら競争の緩いピザ部門にすべきだったか……いや、結果論だ。
 やるしかない。勝つしかない。旅費のために!
「ええい、私とて日本男児! やってやろうではありませんか!」
 一方、【ベオウルフ】のミリム・ウィアテストは、同じ団の仲間を見回して不敵な笑みを浮かべていた。
「ふっふっふ、負ける気がしない!!」
 チーズ増し増しのハンバーガーを何の苦も無く胃袋へ納めていくミリム。カロリーの数千や数万、彼女の胃袋の前には無力だ。
「ふっ。この『華麗なる混沌の空腹』ナザクに挑むとは……後悔するがいい」
 不敵に笑うのは、自他共に認める大食いのナザク・ジェイド。テンションMAXをキープしたまま、あれよあれよとハンバーガーを平らげる。
「武人の意気と姿勢、お見せしましょう」
(「……もぐもぐ」)
 源・那岐も優雅で上品かつ速いペースで食べていく。それを少し遅れたペースで追うのはリリエッタ・スノウだ。
「美味しいね、ミリム」
「ええ本当に……って、堪能している場合ではない!」
 親友のリリエッタと舌鼓を打ちつつ、ミリムは我に返った。
 そろそろタイムリミットを意識せねばならない。気づけばナザクは時間どころか、仲間の成績までチェックしながら、ギャラリーに応えてダンスまで踊り始めている。完全に余裕のペースだ。
「ぐ、ぐぬぬ、これはスパートを――」
 新しいハンバーガーを大口で頬張った瞬間、ミリムの手が石化したように止まった。
「か、辛かりゃい……激辛ソースがぁぁああ!」
 ミリムは弱気になって手を止め、手をつけていない残りをそっと差し出した。
「あの、皆さんコレ食べれます……?」
「あらミリムさん、これは? ……!」
 那岐が無言で眉をしかめる。
「なんだもうギブアップか? 仕方ないな、このくらいなら――ッ」
 顔中から冷や汗と脂汗を流すナザク。
「くれるの? むぅ、なんだか辛くてヒリヒリするね」
 ほんのり顔が赤くなるも、マイペースを崩さないリリエッタ。
 対するナザクはさっきの余裕はどこへやら、急ぎハンバーガーに齧り付く。しかし、激辛のダメージが思いの外大きかったか、完全にペースはスローダウンだ。
 そこへ最後の1個で激辛を引き当てた霧崎・天音も、必死に追いかける。
「地異さん、頑張る……」
 いつしか会場では、参加者の名前のコールが沸き起こり、背を押し始めた。
 アマネ!! アマネ!!
 ナザク!! ナザク!!
 リリエッタ!! リリエッタ!!
 そこへ仲間達も混じって、手拍子で応援を始める。
 ミリム、アリス、そして真っ先にギブアップした帳。その中には一足早くピザ部門で優勝した天変・地異の姿もある。
「ファイトだ、天音!」
「ナザクさんも頑張って下さい!」
「リリちゃん、レッツゴーです!」
 逃げるナザク。踏ん張る天音と那岐。追うリリエッタ。
「うぐぐ、あっ、抜か、抜かされ……」
「負けない……絶対に……」
「武人の家の者たるもの、これぐらいは乗り越えなければ」
(「もくもく」)
 そして――。
『優勝、リリエッタ・スノウ!!』
 小さなシャドウエルフの少女に降り注ぐ、惜しみない拍手。
 共に戦ったケルベロスと観客にリリエッタは一礼すると、
「みんなありがとう。ハンバーガーすごく美味しかったよ」
 そう言って、心からの感謝を返すのだった。

●四
 フードファイトが大盛況で終わった頃、会場では劉・沙門がお礼の料理を作ろうと腕を振るっていた。
「オラァ! これは良い修行になるな!」
 台に乗せたうどん生地を、拳の連打でほぐす沙門。
 捏ねて、伸ばして、切る。
 鰹だしと醤油をブレンドした麺つゆに、ネギと生姜を添えれば完成だ。
「これぞ魂と拳を叩き込んだざるうどん! 遠慮なく食べていってくれ!」
 流れるような動きで出来上がった最高のうどんに、ギャラリーの拍手が鳴り響く。
 一方、向かいでは相馬・泰地が自慢のカレーを振る舞っていた。
「さあいらっしゃい! 【オウマ荘】が誇る珠玉のカレーだ!」
 南瓜とナスを具にした熟成野菜カレーに、激うまビーフカレーとシーフードカレー。
 特盛りの具と隣人力、そして力強い笑顔に、客の歓声はいつまでも止む事はなかった。

 こうしてアメリカン・フードファイトは大成功のうちに終わった。
 ケルベロス達の長い大運動会が、いよいよ幕を開ける――。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月11日
難度:易しい
参加:52人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 5
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