ケルベロス大運動会～ケルベロス対全米ドリームマッチ

■リプレイ

●激突、全米オールスター
「このガーデンも貫禄ついたわね」
　草薙・ひかり（往年の絶対女帝は輝きを失わず・e34295）はオーロラビジョンに流れるパルクールのオープニングレースへ、懐かしそうに目を細めた。
　カメラが映し出す先はマンハッタンの街。初代マジソンスクエアガーデンの所在にして名の由来、マジソンスクエア公園だ。
　そこから駆けるは薬袋・あすか（彩の魔法使い・e56663）と、全米からの挑戦者たち。
　パルクールのコース設定は過酷だ。壁を上り、屋根を飛び越え、目的地へひたすら最短で進む。
「リーチも、筋肉も、見た目通りの凄まじさだ……でも、負けないよ」
　二階屋を壁蹴りで下る選手たちを横眼に、あすかの勝気そうな釣り目が不敵に笑う。
『エアライド』を存分に生かし、飛び降り一気。華麗な着地。
『ようこそ、ケルベロス！　全米の精鋭たち！』
「さぁ、ラストスパートだ！」
　エンパイアステートビルを尻目に、フェンスを一息に飛び越え、アリーナに飛び込む彼女を熱い実況と声援が迎えた。
　あすかを先頭に次々ゴールする選手たち。打ちあがる花火が、スモークを引くジェット機のフライオーバーが、エキシビジョンの開幕を華々しく彩っていった。

『挑戦を受けてくれて感謝だ、ケルベロス！　だが後悔しても遅いぜ！』
「相当やり手の興行主ですね。敢えて『本物の超人』と『人間の限界を極めた者』で、どちらが凄いか競わせるなんて」
　この勝負、仕掛けられた時点で一種の負けだ。稲垣・晴香（伝説の後継者・e00734）は感嘆のため息をつく。
　実にアメリカらしい、本気でバカを楽しんでいる。
「だからこそ『私の本当の凄さ』を魅せつけてやる」
「それもなかなか一筋縄ではいかなそう、いい勝負になりそうじゃない？」
　意気込むＮｏ２に、【プロレスリングM.P.W.C】のトップたる絶対女帝、ひかりは紹介されていく全米代表を横目に笑いかけた。

「コイツは……奇縁だな。うむ、フィールドが見えんじゃないか」
　アメリカンフットボールを選んだ神崎・晟（熱烈峻厳・e02896）が開会に対峙したのは見覚えある顔ぶれ……一糸乱れぬ米海軍の選抜チーム『ネイビー・ドラグーンズ』だ。
　晟の２ｍ近い肉体は竜派ドラゴニアンでも有数のはずだが、その彼が埋もれるほどに対戦相手はデカい。
「ナニコノオッキイヒトタチ」
「海の向こうでエインヘリアルが定命化しいたとはナー」
　バスケットボールチーム【USA】の面々に立ちはだかるのは、更に輪をかけた規格外の面々。
　新条・あかり（点灯夫・e04291）と玉榮・陣内（双頭の豹・e05753）の目が泳いでいる。平均身長の高さを活かしていいセンいけるのでは？　と考えた自分にバカ野郎と全力で叫びたい。
「俺たちの試合は二日目だ。油断も慢心もせんぞ、ドラゴンバスター？」
「買い被り過ぎだ、Ｂｒｏ！」
　全米の人々は想像以上にケルベロスたちの勝利をかってくれたようだ。数々の竜との激戦で紹介されるオーロラビジョンの自分に、思わず晟は悲鳴を上げた。

●超人ＶＳ極限！
　桁違いのＵＳＡスケールは、アリーナ外壁に出現した人工の崖でも、早々に威力を見せつけていた。
「くっそ、やっぱはぇぇな……」
　カラフルなホールドが並ぶスポーツボルダリングの壁面に峰・譲葉（崖上羚羊・e44916）は息を吐く。睨み見上げる上方には突き進む虎種のウェアライダー、著名な登山家でもあるＵＳＡチャンプの姿があった。
「我らが『ティガー』の跳躍は早くも頂点を補足した！　さぁどうするミネ！？」
「ハ、舐めてくれるなよなぁ！」
　相手にとって不足なし。煽る実況に譲葉の手足に力が入った。
　カモシカ種ウェアライダーの少女の身長は１５０ｃｍ弱。親子ほどの体格差だが、負けるきは毛頭ない！
「負けず嫌いの意地、見せてやろうじゃねえか！」
　バネのように縮こまった四肢がホールドを蹴った。ざわめきが一際大きくなる。
　それはケルベロスにしか絶対できない、不死性が可能とする大胆さ。
「届かないくらいなぁっ！」
「おいおい……こらＢｏｕｌｄｅｒｉｎｇというよりＢｏｕｎｄｉｎｇだな」
　更にもう一段。真赤なホールドを蹴り、まさに断崖を駆けのぼるカモシカの如き跳躍。最後の一手を捕え損ねたチャンピオンの呆気を歓声がかき消していく。

　ケルベロスたちの特性は特に戦い、格闘技において存分に威力を発揮した。
「八極拳系幸家：鳳琴、参ります！」
「君の話は聞いている、竜の拳士。よき戦いを」
　抱拳礼で応えた総合格闘技の覇者『ターミネイター』シラコフは、ゴングと同時に鋭い飛び込み蹴りで応じてきた。
　大胆な見せ技を紙一重にかわし、鳳琴は返礼に『幸家・命龍』の掌打を選んだ。グラビティを帯びぬ手加減された技だが、それでも命中六割弱というシラコフは偽りなく強者だ。
「さすがですね」
「似た者同士、相性がいいのだろうさ」
　良く調べられている。鳳琴はミドルブローを敢えて受け、距離を取った。不死の特性を有しても重い拳と、伝わる内の激情が鳳琴の心を熱くする。
「私の技は戦乱への怒りからあった。皆を守りたいと願い、求めた強さだ」
「噂は耳にしています。ですが……いえ、ならばこそ、負けません！」
　タンクトップスタイルの両腋に拳を畳み、鳳琴は気合を入れる。
　舞うような手足のラッシュを、捌き、受け止め、強く踏み込む。
「世界を守る力、見せてもらった……！」
　ケルベロスの『眼力』が示す必中のタイミングにただ一撃。小柄な鳳琴の前に倒れ伏すシラコフに、人々の歓声とざわめきが混ざり合った。

　人類の頂点と言えど超人には及ばないのか？　張り詰めた空気を変えたのは晴香とひかり、そして相対するレスラーとボクサーのダブルマッチだ。
「まさか僕が『絶対女帝』と相対できるなんてね」
「こちらこそ！」
　凄まじい打撃と速度の応酬。
　ヘビー級新鋭チャンプ、エフィ・スタウトマンは体重１２０ｋｇの超巨体。それがかつてのプロレス界の統一王者に比肩する俊敏さで動くのだ。
「こうも世界が変わるなんてね」
　間一髪スウェーした打撃が風圧だけで、ひかりの瑞々しい双球が星条旗ビキニごと揺れて零れる。精悍さこそ正義だった全米ボクシング界に、このような型破りが名を上げていたとは！
「ヒーローの座は、譲らんよ！」
「うわやばっ」
　併設されたリングでは、こちらも晴香がグラークの洗礼を受けている。
『スパイン・スプリッター！　情け無用、次代女王候補のプライドが、背骨と共にへし折れるーッ！』
　煽りと共に決められる、クルーザー級王者の代表技。
　抱え上げからのバックブリーカーが晴香のメリハリある肢体をリングに落とす。眩しい赤のコスチュームはまるで飛び散った血しぶきだ。
　興奮と悲鳴、それでも立ち上がる晴香に歓声。
「ったく、こっちがヒールかっての！」
　再びのどよめき。目をやれば、スタウトマンとひかりの激戦はクライマックス、二度目のダウンから立ち上がる全米王者に、ひかりがファイティングポーズで挑発して見せる。
「……だったらもう一度、試してみる？」
「ハッ！」
　ここらで勝負だ。竜巻のように掴みくるグラークのリーチをかわし、晴香はコーナーへ。
『ここでグラークアタック！　勝負に出るか人類代表！？』
「そうこなくちゃあねっ！」
　マッチメイクに最高の答えだ。快哉を上げ、二人のケルベロスは同時に仕掛ける。完璧なタイミングでのダブルクロスカウンターによる幕引きは真っ二つの結果。
「あぁっ……！」
「でぃりゃぁぁぁぁー！」
　柔らかな胴にめり込む拳、刺激的な声と姿で倒れ伏すひかりと同時、ドロップキックがグラークのラリアットを叩き落す。
　意趣返しの必殺のラリアットが決まったのは、ボクシングのＫＯカウントが十を数えた瞬間。
　白熱の一千、全米がケルベロスを追い詰め、食らいついた番狂わせは、観客の心に熱く火を入れてくれた。

●ケルベロス・ダンク！
「予想以上にきついな、これは……！」
　二日目――マジソンソクエアの特設コートに立つ晟は、早々に息を荒げていた。
「こっちも十一人で交代なしだ、お互い様よ！」
　カカカと、異国の同胞も汗だくで笑う。
　アメリカンフットボールは野球のように攻守の時間がはっきり分かれる、各選手の専門性が高い球技だ。
　本来なら攻守にキックオフのスペシャルチームまで四十人を超えるメンバーが都度入れ代わるスポーツを、晟はボクスドラゴン『ラグナル』と二人で戦っている。
　攻撃権を決めるフリーキックを蹴り上げた後、ボールを奪ってくれる味方すらいないのだ。その疲労は想像を絶した。
『Ｒｅａｄｙ　ｆｏｒ　ｐｌａｙ！』
　だが審判の手と笛の合図に、晟は敢えて全力で攻める。
「勝ち越しているとはいえ、プレイ放棄は面白くないだろうしな……！」
「相変わらず生真面目なことだ！」
　翼飛行も封じ、タックルを真正面から受け跳ね返す、あるいはラグナルと連携ですばやくかわす。巧みなトライの妙技がフットボール場の観客を沸かせて言った。

「すげぇやアメリカ、俺よりでっけえ個体がいっぱいだっ！　すっげぇ新鮮、すっげぇ嬉しいっ」
「勝負ダ、ケルベロス・ドリームチーム」
　尾方・広喜（量産型イロハ式ヲ型・e36130）のはしゃぎっぷりに、片言で応じるレプリカントの選手。
「……俺たち大丈夫なんだろうな？」
「ルールと立ち回りの基本は事前にデータを読み込んできタ。良い教本を感謝すル」
　バスケ漫画は読み込んできたと、素人だがナザク・ジェイド（とおり雨・e46641）が君乃・眸（ブリキノ心臓・e22801）は問題ないとサムズアップ。
　全米バスケットリーグ選抜とケルベロス【USA】チームの対戦は全米注目カードの一つだ。
　なにせ監督を名乗るアジサイまでおき、フルメンバー、フルタイムの五対五、期待が高まるのも頷ける。
「俺は、あいつらの自主性に任せてますから」
　誰にともなく言うアジサイ……謙虚というか、事実である。もちろん最低限のルールは学んでいるが、目下の彼の仕事はチームメイトのサポートだ。
『キリノにフォーメーションを哨戒させていル。正面突破は難しイが、我々なら穴を突けるはズ』
『了解、根気強くやるしかねぇな！』
　代わる司令塔は君乃・眸（ブリキノ心臓・e22801）の役割だ。半身に確認させつつ、パス回しと分析、広喜とアイズフォンで共有する。
「見事なフェイントだ……この技、実戦にも生かしてみたいものだ」
　だがボールが遠い。作戦を確認する間にもナザクが守りを突破された。
　体格差を武器に護りの外から苦も無くシュートを叩き込む。長所を生かす巧みな戦い方だ。
「だが小さいなら小さいなりの立ち回り方がある。諦めたら終了だ」
「リバウンド！」
「力比べなら負けねぇぞ！」
　対するにはこちらも出し切るのみ。何度かのショットを広喜がカット。
　返されるボールをとるや集中、ナザクの『眼力』の示す命中率は七割八分。ショット。
『オォーッ！？』
　射貫くようなスリーポイントが観客を沸かせて同点、残り一分。
「……ヨシ」
　逃げ切って見せると猛攻を見せる全米チームに、頃合いだと眸は一つ指示を出す。
　アジサイもまた、何となく鷹揚に頷いた。
「経験値と技術力では逆立ちしても及ばん、が……！」
　ホイッスルぎりぎり、掠めあう身体。ぐんと伸びる陣内の跳躍が全米チームの長腕を制しパスカット。ほぼ真上に投げるや、走るあかりに手を回す。
「ダンクを決めろ！」
「猫さん、お借りします！」
　仲間をジャンプ台に、更に空中から『ダブルジャンプ』、三段跳びでボールをとるやのダンクショット。
　人間越えのアリウープという超大技での逆転勝利、会場は歓声の渦に包まれた。

「か、勝ったか……」
「Ｇｏｏｄ　ｊｏｂ」
　ドラグーンズの面々に支えられ、晟は何とか立ち上がる。圧倒的人数差を紙一重で跳ねのけた勇者が神輿と担がれ、祝福される。
「どうだ、いっそうちにこないか！」
「リトルドラゴンもやるじゃないか！　マスコットにさせてくれよ！」
「ちょ、ちょっと、ちょ待てぇー！？」

●エキシビジョン・スパート
「ひぃっひぃっ……競争相手が見えないです」
　ビート板片手にロングアイランド島へ上陸したミリム・ウィアテスト（リベレーショントルーパー・e07815）の背後には、今折り返したリバティ島、自由の女神像の姿が見える。
『水泳、競輪、陸上選手、チーム纏めてかかってこいです！』
　最終日を飾る鉄人レース、そのハナとしてトライアスロンへ飛び出した彼女だったが、遠泳は予想以上に厳しかった。
「泳ぎは苦手でしたけど、ここから巻き返してやりますよ！」
　ウェアライダーの脚線美が水を切って自転車を飛ばす。ぐいぐいと追い上げるミリム。島の半周地点にあたる東端リバーヘッドが目前。
　その先頭集団を捕えた横姿へ、風が薙いだ。
「おぉっ、あれは！？」
　鋭い彼女の目はフォーミュラカーの座上、阿賀野・櫻（アングルードブロッサム・e56568）の姿をはっきりと捕えていた。
「こりゃ負けてられないですね！　……あ」
　くうとなる腹と、横ぎるスイーツの姿。ここでもブレーキのミリムは果たして追い付けるのか。

『トライアスロンの姿が見えました！　戦いはロングアイランドをパスし、後半戦へ！』
「バランス崩さないで、すごいな……パワステとかないんだろ？」
「あぁ、それを自分の身体みたいに扱うってのも、なかなか技術が……おいおい、コーラ溢れてんぞ」
　思わず知らずコーラを握りしめた交久瀬・麗威（影に紛れて闇を食らう・e61592）にタオルを渡しながら、エリアス・アンカー（鬼録を連ねる・e50581）の目もレース展開にくぎ付けになっていた。
「エリアス、俺もあれやりたい」
　自分のホットドッグ（玉ねぎ抜き）をかじるウイングキャット『ロキ』が、ほいと彼の分を返してよこすなか、麗威がぽつり。
「だよな……っと。俺らは観戦だけじゃ足らねぇよな？」
　二人のオウガの闘争本能がにやりと笑った。

『鉄人たちの入場に続き、モーターレースも最終コーナーを回った！』
　フォーミュラカーレースの最高峰が、ロードレースそして長距離走を駆け抜けた鉄人たちが、マジソンズガーデンスクエアへと戻ってくる。
　図ったようなタイミング、同時ゴールはケルベロスたちの技術と、それに応えたてんの采配あってのものか。
「き、きついです……体力の限界、デッドヒートです！」
「フッ、勝負よ、ラストスパート！」
　ステアリングのプッシュトゥパスボタンを押し込む櫻を襲う強烈な加速と心地よい注目、暴れる車輪を抑えいなし、ミリムと共に最期の追い上げ。
「今、ゴール！　判定は全米か、それとも……ケルベロス！　ケルベロスだぁー！」
　熱い戦いに幕を下ろすチェッカーフラッグ。それは同時、熱い大運動会を幕開けさせる、華々しい開会の合図でもあった。

作者：のずみりん	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年8月11日 難度：易しい 参加：16人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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