●ケルベロス大運動会 in USA
豪勢なホールで、呼び出されたケルベロス達がスクリーンを前に座っている。
映し出される、『2019年』の文字。ドラゴンとの決戦に勝利した、人類史に残る年。世界はケルベロスの活躍に沸き立ち、闘いは歴史として語り継がれるだろう。
といった内容のムービーが、エピックミュージックに乗って流れて行く。
「……本当に、素晴らしいと言わざるを得ません。オラトリオの調停期を生きた人々は皆、あの勝利の報に膝を折って泣いたといいます」
進み出た望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)が、マイクを取る。
「そんな中、今年も全世界に興奮と熱狂と感動を届ける祭典の季節がやってきました」
度重なる『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』。投入される予算は莫大だが、勝利しても経済的利益は出ない。経済が後退し続ければ、やがて戦費も尽きてしまう。
「そこで疲弊した世界経済へのカンフル剤となる一大イベントを開催し、その収益を世界に還元する……それが『ケルベロス大運動会』です」
言わばこれはスポンサーを維持するための営業活動。特に今回は、失敗は許されない……と、小夜の瞳はプレッシャーを掛ける。
「第4回ケルベロス大運動会の開催地は、世界最大のケルベロス支援国家『アメリカ合衆国』が選ばれました」
我が国の威信と威厳は、未だ健在。世界を守る(ケルベロスに最大の後押しをする)のは、U・S・Aだ! 何者にも文句など言わせない!
そんな咆哮の如き大演説を、誰かがぶちかましたとかしなかったとか。
「さあ、世界の中心アメリカ合衆国を舞台に、ケルベロス大運動会を成功させましょう!」
●ケルベロス、ハリウッド進出
「さて。後は、こちらの方々にお話していただきます」
そして、眼鏡と髭のテンション高めなお爺さんを先頭に、華やかな人々が登壇する。お爺さんが両手を広げて話し始めると、隣に立ったアメリア・ウォーターハウス(魔弓術士・en0196)がマイクで通訳する。
「ケルベロスの皆さん。ようこそ『ハリウッド』へ」
そう。ここは合衆国カリフォルニア州、ロサンゼルス市……ハリウッド地区。
「大運動会を大いに盛り上げるため、私が監督する映画の撮影にご協力いただけるとのこと、感謝します」
後ろのスクリーンでは、豪快な爆発やスリルいっぱいのアクション、美麗なCGに情熱的なキスシーンと爽快なハッピーエンドが流れている。
インディアナさんが遺跡を冒険したり、ジェームスさんはスパイだったり、インポッシブルにミッションやったり、ダイにハードだったりする感じの。
「皆さんのグラビティや身体能力を用いて『情熱的な愛の絡んだアクション映画』を撮れば、素晴らしい大ヒット作品に出来ると確信しています……だ、そうだ」
続いて、脚本家らしい黒人女性が前に立って。
「シナリオは『現代アメリカを舞台』に『邪悪なデウスエクスと闘うケルベロス』を描く『群像劇』です。人々を守るための闘いの中で惹かれ合う愛と情熱とアクションに溢れた映画となるでしょう……とのことだ」
だが通常の映画撮影とはスケジュールなどが異なるため、細かなところはシーン撮影後の編集でストーリーを組み上げるという。
「だから私たち自身はどんな登場の仕方になるかわからないが……まあ、撮りたいシーンや得意な場面を監督に申請すれば、色々やらせてもらえると思う」
例えば、と、朧月・睡蓮(ドラゴニアンの降魔拳士・en0008)が進み出る。
「パートナー同士で情熱的に愛を囁き合いながら闘うとかも良いでしょうし。愛の形の一つとして親子や夫婦、同性カップルの役だって歓迎ですわ。人種(種族)も多い方が良いでしょうね」
衣装やメイクを使って敵役の人型ダモクレスや螺旋忍軍を演じてもいい。エインヘリアルも撮影技法で演出できる。仲間同士で悪玉善玉に分かれて闘うのも有りだ。
「爆炎に呑まれながらでも演技が出来るケルベロスなら、巻き込まれる一般人や作中で死んでしまう登場人物も自己演出できますわね」
例外的だが、出演もしつつ場面場面のテーマ音楽を提供するなども話題になるだろう。
「つまり『映画の見せ場は各ケルベロスの才能次第』。撮影シーンの隙間部分はこちらの皆さんが埋めてくださいますわ」
並んでいるのはハリウッドスターたちだ。
スターなのに休日に公園で鳩に餌撒いてる男性とか、最近全身を青塗りの魔人を演じた人とか、日本原作漫画の少佐になった女性とか、子役で大ヒットした後に惑星女王になった人とか……。あと、ワタナベさんって名前のおじさんとかが沢山ならんで、みんなにこやかに手を振っている。
そして背後からは、万雷の拍手のようにシャッター音が響きまくる。
呼ばれたから来ただけの者、話のデカさに青ざめる者、自信に満ちて立ちあがる者、メディアに向けて手を振る者……皆それぞれ。
いずれにせよ前門のハリウッドと後門のメディアに挟まれ、すでに逃げ道はない。
今回の戦場は、ハリウッド。
任務は『恋愛アクション映画』の興行的成功だ。
「それでは……出演準備をお願いします」
小夜の言葉を合図に、ケルベロス達の挑戦が始まった。
●撮影
広大なスタジオに、無数のスタッフや映画スターが行き交う。
「小夜ちゃん……これ、マジ? アタシ、ニンジャくらいしか出来ないんだけど……」
目を点にして、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)は望月・小夜を振り返った。
「それで十分。では、私は飛行ルートの打ち合わせに」
「いやあの……ねえ、アメリアさん。台本ってこれ。確かにニンジャはあまり……」
アメリア・ウォーターハウスは、引き攣った顔でその肩を掴んだ。
「何も言わないでくれ……私も頑張る。あちらの方と夫婦役らしくて……」
彼女も微笑む黒人スターに連れ去られ、残されたリリーは茫然と嘆息し。
「ああもう! やるわよ! 成功させなきゃお金が出ない! マネーイズパゥワーよ! 何だって任せなさいよ!」
……そう吠えた。
そして番犬の挑戦が、始まった。
藤原・雅(無色の藤浪・e01652)は火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)から、ウィッグと女物のコートを渡される。
「火倶利君が少年役で、私が年上の女性役で、最終的に良い感じになる、と? 成る程……いやどういう事?」
「いいからほら、ミステリアスな女性を演出して! 私は男の子になって、一緒に男女逆転の修羅場を撮影するよ~!」
ひなみくはすでに髪をキャップに押し込み、胸も潰してやる気満々。
恐る恐る雅が身につければ、元より端正な容姿が妖艶に仕上がって。
「多様性への配慮か! いいね!」
笑顔のスタッフが、肩を叩く。
「いや……多分そういう意味じゃ」
「あ、タカラバコちゃんは其の辺に転がしとこ! 死体役ね!」
俯く雅の不安をよそに、撮影は始まる。
「タマちゃんとの日常を撮りたいんだけど」
新条・あかり(点灯夫・e04291)と玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が、スタッフに語る。
(「俺はハリウッドらしく熱々なシーンでも、構わないんだがな。この子らしい……」)
「平穏でかけがえがない……二人だけの、いつもの朝を。ちょっと気障かもしれないけれど……撮ってもらいたいんだ」
「家族愛、だろ?」
陣内の言葉に、スタッフは微笑んで。
(「10年後……大人になったこの子が見返したとき、1秒でも幸せな気持ちになってくれるなら。俺は……」)
そしてセットの中で、二人の日常が切り取られる。
果たして作品にどんな彩りを添えるのか。
一方。
「アクションで敵が必要? ならば!」
と、意気込んだミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は、厚底靴の入った全身鎧でエインヘリアルを演じていた。
「ふーっはっはっは! このボクを倒すだって?」
斧を振り回し、兜を取って水分補給を受けながら。
「ふう! 着ぐるみって大変だ……」
一方、ライダースーツの田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)は、細剣を掲げて。
「その純愛を永遠にしたいと思いませんか? 美しき恋人達よ」
彼女が演じているのは、攻性植物。薔薇を散らして、妖しい魔術を演出する。
「カット!」
「はい、次もよろしうお願いいたします」
微笑むマリアの隣で、栗山・理弥(見た目は子供気分は大人・e35298)が身構える。
「今、行くぜ!」
と、廊下のセットを駆け抜けて。
「なあ俺、見た目は子供だけど18歳って注釈入れてくれな! あ、あとあの人のサイン貰ってくれ!」
「はい、もちろん。あと次のシーンですが、一般の女優さんでは危険ですね」
「あー……飛び降りるシーンだもんな。どうすっかな」
「わたくしがお相手しますわ」
それは、朧月・睡蓮(ドラゴニアンの降魔拳士・en0008)。
「お、それならよろしく頼むよ!」
「お手柔らかにね」
こうしてスタジオ撮影は順調に消化され、野外撮影へと移っていく。
ロサンゼルスのグリフィス天文台に、ロケ車が列を成す。
ドーム状の屋根の上で、巽・清士朗(町長・e22683)に、エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)と蓮水・志苑(六出花・e14436)が打ち掛かる。
竜面をつけた清士朗が剣を受け流し、魔法を避け……剣を掴んで志苑を屋根の端へと弾き飛ばす。すぐさま駆けて、エルスと打ち合って。
「カット!」
という掛け声で、三人は汗を拭う。
「エルスも志苑もいい動きだ。うん」
「模擬戦とも違うから、不思議な気分です」
「台詞も撮らなきゃいけませんしね」
技の合間で笑い合う不思議な体験の中、三人は撮影を進めていく。
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)が片膝をつき、ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)が立っている。弾丸のバリアの中、紺は俯いて。
「置いて逃げろなんて言いません。どうか……私と一緒に終わりを迎えてください」
「ああ。いいぜ。最後まで一緒だ………」
ムギは振り返り、にやりと笑って。
「だが、それは今じゃない。俺はまだ一緒にやりたい事が沢山ある。まだ終われねえ……そうだろう相棒!」
その声に打たれ、紺は微笑みを返して。
「……ええ!」
そこでカットが入り、二人は反撃のシーンの撮影に入る。
観光する款冬・冰(冬の兵士・e42446)と兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)の前で大通りが爆発し、螺旋忍軍が襲来する。
「じゅーぞーと、こおりが一緒の、ところに、来るなんて、ね」
「不運……いや、一般人にとっては幸運だったと判断」
逃げる群衆の中、二人は浴衣を脱ぎ捨て、鶴の戦衣と白いコートを纏って。
「ん。いつでも、大丈夫……」
「……了解、では戦闘開始」
そして、無数のドローンと黒い兎の怨霊群が放たれると、カットが入る。
「……わざと外すのも、大変」
「人に、当てたら、もっと大変、だよ?」
ノル・キサラギ(銀花・e01639)とグレッグ・ロックハート(浅き夢見じ・e23784)は、スーツ姿の俳優たちを後ろに。
「あなた達はここに。奴は、俺たちが」
「本来なら、師団単位で作戦を立てるべき相手だけどな」
だが二人は、視線を交わして頷き合う。
「支えるよ。必ず、勝とう」
美麗な青年は、前を見据えて刀を抜き。
「ああ。背中は任せた」
精悍な美丈夫は、棍を振るって身構える……。
そこでカット。
「ふう。演技は経験がないんだけどな……」
「あの人たちは何の役だろうな。完成が楽しみだ」
二人は笑い合って、工程を消化していく。
大自然を背景に、国旗模様のスカーフがはためく。
「奏くん、あむェエるィイかァと言えば、やはりカウボーイ! 綺麗な娘さんを助けるため、事件が起こるやすかさず飛び出す方向で!」
リーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234)はそう語る。
「……お、おぉ。見事な巻き舌に思考が持って行かれたけど、なるほどな」
鍔鳴・奏(碧空の世界・e25076)も、テンガロンハットでガンスピンを披露して。
「良し、カッコよく共闘するか。高所滑空、スーパーヒーロー着地、その後のラブロマンス! まとめてお任せだ!」
「え、スーパーヒーロー着地って何! 凄いカッコいいのだが! それ採用!」
二人のポーズは、ビシッと決まる。
……ちなみに、撮影はこれからである。
竜人と桜天使の夫婦が、ネオンの大都会で背中合わせに身構える。
「お前ら如き私とさくらの敵ではない」
「ふふ。どっちが多く倒せるか競争しても良いわね」
「ふ、手加減はせぬぞ……」
「ええ。負けた方は今日、なんでも言うこと聞くのよ?」
番犬夫婦は、背中合わせに舞い踊る……。
というシーンを終え、ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)は車両内で汗をぬぐった。
「本物の映画撮影なんて……ドキドキするけれど、頑張らなきゃね」
七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)はスタッフに挟まれ、衣装直し中だ。
「ああ……演技は不慣れだが、パートナーとして精一杯やらせてもらう」
そして夫婦は後半シーンに臨むのだった。
廃ビルをさすらうヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)が、銃を上げる。その先には、クリノリンドレスを纏って重火器を携えたクラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)。
「……これも罠か?」
「罠に嵌まったのは、私も同じ。私は、捨て駒。寒さなどとうの昔に忘れたのに……」
震えるクラリスは、立つ瀬なきまま銃口を向け、ヨハンは首を振って銃をしまう。
「闘わないの……?」
「僕は誰かと闘いたいのではない……救いたいのだ。微笑みを忘れた顔など見たくないさ」
そして降り注ぐ瓦礫から、クラリスを庇って……。
カット。
こうして皆、撮影を終えて。
運動会当日。
静まり返った試写会場で、番犬たちは開幕を観る。
●上映
数十年前……。
劫火の都市を、家族が走る。
妻(←アメリア)が抱いた子供を夫に渡した時、巨竜が街に着地して。
『……我、この地に眠り、復活を果たさん』
そして巨竜は爆発し、一家は業火に呑みこまれる。
生き延びたのは……。
そして2019年。日本。
朝のカフェオレを注ぎながら日々の任務のことを語らう、あかりと陣内。
(「二人がどう見えるかは……観客次第、だな」)
確かな信頼を感じさせる安らかな日常の中、テレビに速報が入る。
『アメリカにデウスエクスの襲撃です!』
同時に携帯に招集連絡が入り、二人は立ち上がる。
「「行こう……!」」
(「ふふ、事件が起きて出動するところも、いつも通りだね」)
現実であかりが気恥ずかしく微笑む中、竜の声が響く。
『しもべどもよ、今こそ我の復活の時』
そして舞台は、アメリカへ。
シカゴの街を歩く冰と十三の前に、突如現れる螺旋忍軍。
撮影通りに技を放ち、兎が跳ねるように分身を蹴散らし、敵の本体に肉薄して。
「援護する……トドメを」
「ん。了解だ、よ……いく、ね」
冰のドローンが敵を足止めし、十三の太刀が敵を一閃する。
二人はシカゴを救い、手を取りあって互いの無事を祝うのだった。
「今回も、カッコよかった」
「ん……こおりが、いたから……」
現実では、十三が感嘆の息を漏らし。
(「ん。大迫力、だった、ね……こおり、どうか、した?」)
(「「本場の映画は格別……だけどやたら……翻訳がラブラブ……」)
氷は赤面して押し黙るのだった。
ヒューストンへと、敵が迫る。
だが無辜の人々に刃を向ける敵を、一発の弾丸が射貫いた。
「「ケルベロス、ただいま参上!」」
高所より着地する、奏とリーズレット。リボルバーを縦横無尽に振り回し、並んだ銃口で敵を撃ち抜く。
護られた人々の喝采の中、女性に手を振る奏にリーズレットがそっぽを向くと……。
「ムスッとするなよ、綺麗な娘さんより背中の美人の方が気になってたさ」
「……! そうやって唐突にサラッと言ってくるのズルイんだ」
と、撮影時の本音まで組み込まれていて、二人は顔を真っ赤にするのだった。
番犬たちの即応で、持ちこたえるアメリカ。
だが。
『我の目覚めを邪魔するか……行け、お前たち』
雨のそぼ降る天文台で、切り結ぶ三人。
エルスが放つ、針の雨。一瞬の隙に、跳ねた志苑の一閃。清士朗の竜面が、落ちる。
「強く……なったな」
「そんな……! なぜ、あなたが! 逝かないでください、兄様!」
崩れ落ちる清士朗。駆け寄る自分に、現実の志苑は苦笑して。
(「これは気恥ずかしい……」)
「無様な……話よ。我が一族の宿敵にドラグナーとされ……俺はもはや……」
だがお前たちに討たれて本望だと、彼は血を吐く。
「あの竜は……この国に……」
そして、エルスの腕の中で事切れる。
「なんで、こんな……まだ、言いたいことを言ってなかったのに……」
頬から落ちるのは、涙か、雨か。
(「うっわ、めちゃくちゃ恥ずかしいですぅ……」)
現実では顔を押さえるエルスと、まんざらでもない清士朗。
「兄様を堕としたのは。まさか」
「あの竜が、蘇ろうと……」
強大な敵を予感させ、場面は暗転する。
デトロイトでは、自動人形『ワナと武器の女王』(←クラリス)がヨハンと激突する。
仲間に捨て駒とされた人形は、己をかき抱く男と見つめ合って。
「わからない。どうして敵である筈の私を庇ったの」
「それは、愛と情熱の為……苦しむ人に敵も味方もない。もう終わりにしよう……!」
そして男は彼女を抱え、崩壊するビルから飛び出した。
崩れるビルを背後に、広げた翼の中で二人は手を握り合う。
「愛と情熱……なんて心惹かれる言葉なの。私、もっと知りたい……」
自動人形は輝いて定命化し、デトロイトとカナダの夜景が、微笑む二人を祝福する。
そして、フィラデルフィア。
「なんでだよ、おねーさん……! なんで俺たちを裏切った!」
野球帽の少年(←ひなみく)が、心操られた女性(←雅)の刃とぶつかり合う。
「……君には分からない。君のような子供には!」
観客たちは二人のぶつかり合いに、固唾を呑んで。
「大切に思うからこそ……こうするしかっ!」
だが決着の、その時。
「クッソ……! 危ねえ!」
少年は、襲い掛かる真の敵から女性を庇う。
薄笑いと共に現れる、心操る攻性植物『蔓薔薇の女』(←マリア)。
「このまま……此処にいてくれよ。貴様が、真の敵かっ!」
愛弄ぶ薔薇に善戦するも、少年は縛り上げられる。絶対絶命の瞬間に。
「……いつの間にか、もう子供じゃなくなってたんだね」
少年の真っ直ぐな想いに目を覚ました女性の刃が、蔓薔薇を突き刺していた。
「まさか……愛を唄う私が……愛の前に敗れるとは」
蔓薔薇は崩壊し、少年と女性は抱き合って愛を確かめ合う。
(「……いや本当何これ?」)
げっそりした雅の横で、ひなみくは肩を震わせて。
(「やばい、吹き出しそう! 笑うな、頑張れわたし……!」)
『彼奴らさえ退けるとは。ならば……』
敵は封印の場所を知る者へニンジャ軍団(←全部リリー)を差し向ける。
(「実は衣装変えて分身して他にもちょこちょこ出てるのよね……」)
リリーの苦笑をよそに、三人の番犬がシアトルをひた走る。
「ここは任せて!」
「先に行くんだ!」
紺とムギが仲間を先行させてニンジャを迎え撃つが、多勢に無勢。追い詰められた二人は、撮影通り弾雨の中で手を握り合い……。
「……前言撤回します。ムギさん、私と一緒にどこまでも生き抜いてください」
「ああ、それでこそ俺の愛した女性だ。一緒に駆け抜けよう!」
「ええ。大好きなあなたと……何処までも!」
二人は瓦礫を飛び跳ね、跳弾で敵を蹴散らし、地獄の炎でニンジャを打ち抜く。
一方。
ビルに突入した理弥は情報提供者を救うべく、次々落ちる防火扉に滑り込み、崩壊する建物を駆け抜ける。
「助けて……!」
助けを求めるのは、冒頭の家族の孫娘(←睡蓮)。
「もう大丈夫だ……俺を信じろ!」
理弥は彼女を抱きかかえ、傾く壁を走り、窓をぶち破った。
そしてビルは轟音と共に崩れ落ちる……。
土煙の中から現れるのは、ムギと紺。理弥と睡蓮。
現実では、笑い合うムギと紺の隣で、理弥が頭を抱えていた。
(「18歳って注釈、入ってねぇえ!」)
という理由で。
黒幕の正体と居場所は掴んだが、緩まぬ敵の勢いに番犬達は各地で追い詰められる。
ラスベガスで片膝をつくのは、ヴァルカンとさくら。
「あなた……逃げて!」
幾度も敵を退ける中で、さくらの力が遂に暴走する。
その隙を突かんとした敵を、傷だらけのヴァルカンが仕留めて。
「……俺の女だ。手を出す輩は容赦せぬ!」
だが、暴走は止まらない。曇った瞳に破壊を宿し、夫にさえ牙を剥く。
「止まってくれ……愛している……!」
ヴァルカンは、身を呈して妻を抱き留めた。その呼び掛けに、さくらは心を覚まして。
「あなた……私も、愛してるわ」
そして二人は熱い口づけを交わし、現実では悶絶するのだった。
『我を追い詰めるか。だが……』
黒幕が、ワシントン記念塔を突き破り浮上する。
大統領や官僚をホワイトハウスに下がらせ、巨竜宿る水晶体と向かい合う、ノルとグレッグ。
『復活まであと僅か……時を稼げ』
「ハッ!」
(「ラスボス動かないから私が実質のラストバトル枠だった……」)
それは絶望の竜、最後のしもべ。斧王ボロディン(←ミリム)。
「愛……絆……笑わせてくれる。そんなモノ、虚無に至る絶望を前に何の意味がある?」
竜嵐の中、激突する三者。
視線を交わし、曲線と直線を組み合わせ、ノルとグレッグは強大な敵とせめぎ合う。
「「俺たちは」」
そして並んだ地獄の焔が、遂に斧を潜り抜けた。
「「二人なら、絶対負けない……!」」
「ま、さか……この、ボロディンを退けるなどぉお!」
劫火に呑まれ、消滅する敵。
『無駄よ……もはや時は満ちた!』
だが、二人だけでは、すでに竜の復活は阻止しきれない。
その時、頭上をヘリオンが飛び抜ける。
『何……!』
各地の闘いを制し、遂に番犬たちが集結したのだ。
出演した全ての番犬が、一斉に着地する。
渾身の全撃が迸り、響くは竜の断末魔。
画面から音が消え、そして……。
アメリカを覆う暗雲が、遂に晴れる。
抱き合う番犬たちを背景に。
『THE END』
●終幕
……。
静寂の会場。
恐る恐る振り返る、と。
「……ブラボ―!」
喝采が、満ち溢れた。
拍手は鳴りやまず、観客は次々に立ち上がる。
映画は、成功だ。
手を振る番犬たちは観客の熱狂の中、次なる試練へと向かう。
さあ。大運動会……本番だ。
作者:白石小梅 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年8月11日
難度:易しい
参加:23人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 2/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 4
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