ケルベロス大運動会~赤い絨毯とフラッシュの洗礼

作者:質種剰

●いざ、合衆国へ
「度重なる『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』の発動により、今も世界経済は大きく疲弊しているであります」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が、集まったケルベロスたちへ向かって説明を始める。
「そんな経済状況を打破する為、おもしろイベントで収益を挙げようというのが、毎年この時期におこなわれている『ケルベロス大運動会』なのであります」
 ドラゴンとの決戦に勝利するなど近年ますますめざましいケルベロスの活躍を後押しするべく、最大の支援を行っている国が、広大な国土を有するアメリカ合衆国だ。
「というわけで、第4回ケルベロス大運動会の開催地には『アメリカ合衆国』が選ばれたであります! どうぞ皆さん、アメリカ合衆国を舞台に様々な種目へ挑戦なさってくださいませね♪」
 かけらはそう告げて、ケルベロスたちを一路アメリカへ送り出した。

●待ち受ける報道陣
 アメリカ合衆国はニューヨーク州、ジョン・F・ケネディ国際空港。
 アメリカでも有数の巨大都市であるニューヨークの空の玄関口は、ケルベロスを見に来た人々でごった返していた。
 それでも報道陣しか入れないチャーター機専用のロビーはまだ静かだったが、人の多さによる熱気は外とさして変わらない。
「いよいよですね……!」
 若い女性記者が長く敷かれたレッドカーペットを見つめながら呟く。
「なんだお前、スターの取材は初めてか? 力抜けよ」
 隣でカメラを始めとした撮影機材をチェックしていたカメラマンの青年が、 ヒラリとした声を出す。
「スターや国賓の方々を取材したことならありますが、ケルベロスは初めてで……」
「気楽に行けよ。訊きたい事はごまんとあんだから、頭が真っ白にゃなりようもないだろ」
「そりゃあもう!」
 青年に言われて、胸ポケットから手帳を取り出す女性記者。
「あり過ぎて困るぐらいです。何の競技に注目しているか、負けたくないライバルはいるか、アメリカの料理では何が楽しみか、行きたい観光地はどこか、恋人の有無……それからそれから」
「大運動会に向けての意気込みを一言!」
「そう、勿論それもですね……!」
 必死に手帳へメモする記者を見て青年が笑う。
「さてさて、俺も良い画を山ほど撮ってやるぜ」
 空港へ着いたケルベロスたちが、いよいよレッドカーペットを目指してタラップを降りる。
 待ち構えていた報道陣から質問攻めの集中放火に遭うまで、後何秒?


■リプレイ


 ジョン・F・ケネディ国際空港。
「ふふふ、歴戦のケルベロスでありながらこんなにも、きゅーと! な、私!」
 何やら自画自賛真っ最中の灯は、余所行きのワンピースに身を包み、毛先をちょっと巻いたりして目一杯お洒落していた。
「この魅力に全米が虜になること間違いなしですね!」
 そしてアナスタシアを身体の前でしっかり抱っこしながら、ウキウキとタラップを降りて眩しいフラッシュの洗礼を浴びる。
「月刊I♡Fです。可愛らしい猫ちゃんですね。貴女のご家族ですか?」
「この子ですか? 私のサーヴァント、アナスタシアです!」
 アナスタシアを両手で微かに持ち上げつつ、自分は自分で超ドヤ顔で答えた灯。
「種類は?」
「多分ラグドールっぽいかもです」
「ファンの方から差し入れが殺到すると思いますので、アナスタシアちゃんの好物を教えてください」
「え、差し入れ? シアに?」
 どことなく自分の想像と違っていた質問の数々に、灯はきょとんとしたが、
「私と一緒で甘い物が好きなので、アメリカのカラフルなお菓子に興味津々みたいです」
 さりげなく自身の好物もアピールしてその場を乗り切る。
「競技にはアナスタシアちゃんもご一緒に?」
「そうですね、競技も一緒に出ますね……大砲で飛ぶのも好きみたいで……」
「まぁ、お転婆なお嬢さんなんですね!」
 だが、記者たちが満面の笑みで見つめているのは自分の胸元——もとい、胸元に頭がきているアナスタシアだと悟り、灯は潔く現状に気づく。
「って、シアについての質問ばかりじゃありません!?」
(「なんでですか私は興味なし!?」)
 そこまで叫ぶのはなけなしのプライドが邪魔したものの、困惑する灯とその胸でドヤ顔になって踏ん反り返るアナスタシアという対比は大層可愛らしく、いつまでも『アナスタシアへの取材』は終わらない。
「ううう、シアは後でシャンプーの刑です!」
 一方。
「いよいよ取材やインタビューでしょうか?」
 ミリムは、滅多にない経験に胸をときめかせていたが。
 パシャパシャパシャ!
「それなら私にお任せあ……ひうぃっ!? ま、眩しいです!」
 いざ報道陣へ囲まれると凄まじいフラッシュの嵐に慄いて、思わずガイバーンを盾にして隠れようとした。
「ドワーフのわしを前に出しても壁にはなるまい?」
 ツッコみつつも報道陣から文字通りもみくちゃにされるガイバーン。
「ぜひ大運動会への意気込みをお願いします!」
 ミリムはサングラスを着けて人心地つくと、マイクを向けてきた女性記者へ何て答えようかと視線を巡らす。
 ふと、チラッと斜め前方の灯を見てから、
「死なない程度に頑張ってライバルに勝ちます!」
 彼女にも負けぬドヤ顔で堂々たる勝利宣言をした。
「SF通信です。今日のご予定は?」
「前夜祭で映画の撮影に加えて、食と運動、芸術の催しに参加する予定です。是非見に来てくださいね!」
 そして、ケルベロスへ向けて大運動会の宣伝をしたのが良い予行練習になってか、序盤は緊張もなく楽しんで答えていたミリム。
「WM日報です。映画の撮影をなさるとの事ですが」
 しかし、余りに終わりの見えない質問の連続に、
「あ、あの……ところでこの取材どこまで続くので……す?」
 ついついそう零してしまうぐらい、表情こそ笑顔を作っていても胸中では疲れていた。
(「この後、彼とアメリカでデートしたいですし、早く切り上げなければ」)
 最近ブライダルフェアで本物の婚約指輪をくれた恋人の事も気にかかる。
「ええい、ここは逃げるが勝ちです!」
 とうとうミリムは、取り囲む報道陣を必死に振り切って逃げ出した。
「……痛っ」
 が、絨毯の毛足へ躓いてか転んでしまう。
 パシャパシャパシャパシャ——!
「ひい! 追いかけるパパラッチ!?」
 すかさずフラッシュを焚くカメラマンらによって、ミリムは見事にすっ転んだ恥ずかしい瞬間を撮られてしまった。


「ケルベロスってだけでこんな国賓みたいな扱い受けるとはな……ガキっぽく思われないようにキッチリやらねえと!」
 理弥は取材へ挑むにあたって気合充分。
 スーツを着込んだ上でスタイリッシュモードをキメてサングラスもかけ、カッコつけてタラップを降りていた——のだが。
「あたっ!?」
 やはり緊張していたのかレッドカーペットの上で盛大にコケてしまった。
「大丈夫?」
「セ、センキュー……」
 目の前にいた記者に手を伸ばされて、掴みながら起き上がる理弥。
(「テレビ放映もされてんのに……ハズすぎる!」)
 顔から火が出るとはこの事かと、内心恥ずかしさでのたうち回った。
「お幾つですか?」
「え、18だけど……」
 それでも、多少たどたどしさはあるものの学業で培った英語を駆使して、通訳なしに話す様は立派である。
「18歳!?」
 なのに、報道陣の驚きが彼の英語力と度胸でなくただただ幼い外見というのが悲しい。
「いやドワーフなんで……」
「そうでしたか、失礼しました。では恋人はいらっしゃいますか?」
「ノーコメント」
 思わずクールに返事してしまった理弥だが、
(「……いないとかカッコ悪いこと言えねえじゃん……」)
 はっきり嘘をついた訳ではないにしろ、妙な見栄を張った自分に虚しくなったりした。
 他方。
「着いたら競技をがんばるだけ……って思ってたのだけど……こんなに記者が集まってるなんて」
 予想外の展開に戸惑いを隠せないのはかぐら。
(「日本だとケルベロスだからって取材を受けるなんて無いし……そうと知っていたら普段依頼でしてる恰好で来るんだったわね」)
 普段着と水着しか持ってこなかったのを後悔するかぐらだが、水色のリボンが揺れるパナマ帽の下で風に靡く黒髪と、繊細なピンタックが女性らしい白いワンピースの組み合わせは、足元の赤い絨毯によく映えている。
「ええと、インタビュー?」
 報道陣はかぐらを見つけるなり一斉に取り囲んで質問攻めを始めた。
「大運動会への抱負をお願いします」
「世界中の人が楽しんでもらえるように頑張ります」
 緊張を感じさせないはきはきした調子で応じるかぐら。
「綺麗な髪ですね。普段お手入れとかはどうされているのですか?」
「ありがとうございます。お手入れは皆さんといっしょです。長い分時間はかかっちゃいますけど」
 やはりかぐらの黒髪や服装、そして器量の良さは記者たちの注目の的だった。
「彼氏はいらっしゃいますか?」
 だから、さも当然であるかのようにこんな質問も飛び出て、かぐらを驚かせる。
 スターの恋愛については、国境を越えても世間の関心事に変わりないらしい。
「え、ええと、募集中です」
 どう答えるか考えていなかったかぐらは、慣れない作り笑いで答えた。
 その困惑した様子がまた可愛いと大衆誌に書かれてしまう事を、彼女はまだ知らない。


 蒼眞は特に臆する事もなく、普段の調子でタラップを降りる。
 いつも通りなのは調子だけでなく、額に巻いた真紅のバンダナや、改造どころか着崩したりすらせずにきっちり着込んだケルベロスコートもそうだ。
(「……正装時には取り合えず制服の類を着ておけば間違いないだろう」)
 そんな蒼眞の適当さから出た考えに気づかぬ取材陣は、
「ケルベロスコートでご登場とは、ケルベロスとしての矜持の表れでしょうか」
 と、やたら褒めてくれたものだ。
 だが、それはあくまで最初だけ。
「何度も同意もなく女性の胸に飛び込む等セクハラ行為に及ばれていますがどういうおつもりでの行動ですか?」
「戦闘中に敵であるデウスエクスにも同様の行為をしていますが何かご意見を!」
 すぐに一部の記者たちが蒼眞の日頃の行動をあげつらって袋叩きを開始した。
「何か問題でも?」
 しかも、何を思ったかきっぱり答えたが為に、更なる窮地へ追い込まれる蒼眞。
「女性を何だと思ってるんですか?」
「デウスエクスと女性を同じように考えているのでは?」
 怒った記者たちから追いかけられる羽目になってしまった。
 蒼眞とて、本気で怯えられたり抵抗出来ないような相手にセクハラ行為をするつもりは無いが、そんな理屈が世間に通る筈もない。
 実際はセクハラに及んだ相手も余程親しい人間たちであったりそのテのお店の女性店員だけと限られているにしても、その事実を正しく把握している一般人は少ないだろう。
「お待ちください」
「今までセクハラの被害に遭われた女性へ何か一言……!」
(「勘弁してくれ……」)
 まだ競技は始まっていないにも拘らず、脚力と持久力を無駄に披露する蒼眞だった。
 同じ頃。
(「何時か、の予行演習じゃない。今を求められているのなら」)
 人一倍気負った様子でタラップを降りていくのはミライ。
(「そこの落ちる男な先輩は兎も角、私は平凡を絵にかいたようなケルベロスですが……それでも、喜んでくれる人がいるのなら!」)
 例え前方で見慣れた鉢巻き頭が記者たちから逃げ回っていても、報道陣へ囲まれるミライの顔は晴れやかだ。
「……や、出てきたの私だと質問に困りません? 大丈夫ですか、なんて♪」
(「私なんもありませんし……!」)
 マイクを向けられ楽しそうに照れ笑いする辺り、流石はアイドル、舞台度胸が据わっているようだ。
「いいえ、とんでもないです。では手始めに、お好きな食べ物は何でしょうか?」
「好きな食べ物はラーメンです!」
 とはいえ敵もさる者、先制パンチをかまされながらも丁々発止のやり取りが続く。
「聞くところによると、貴女は3ヶ月前のアイスエルフ救出作戦に参加されていたとか。彼女らを定命化させることができた今、心境はいかがですか?」
「アイスエルフちゃんの救出? いえ私ケルベロスとしては何もしてないのです。地球っ子として当然のことをしただけで。皆さんの頑張りのおかげです!」
 それでもミライは想定される質問に対してしっかりどう答えるか考えていた。
(「後はも、さっぱりわからないのです。後は適☆当に!」)
 例え予想外の質問をされても、堂々答えてその場を乗り切るつもりなのが頼もしい。
「そちらのサーヴァントちゃん、可愛いですね! お名前は? 好きな食べ物は何ですか?」
「ポンちゃんですか? 種族はボクスドラゴンで、好きな食べ物はラーメン……じゃなくて、ええと」
「恋人はいらっしゃいますか?」
 そして、困った質問をされた時の対策もばっちり。
「……ん?」
 ミライは、記者に追いかけられている蒼眞を助ける『態』で彼の脇を抱え上げ、
(「これはこれで、写真映えしますよね♪」)
 本当は自分が返答をバックれる為に、ふわりと空高く舞い上がった。


 ルイスは特に気負っていない様子で専用機から降りるや、颯爽とレッドカーペットの上を歩く。
「週刊BBです。あの、少々インタビューさせていただいてもよろしいですか?」
「……インタビュー? いや、俺は小物だ。インタビューを受けるほどの器じゃない」
 近づいてきた記者のお姉さんをクールにあしらうのは、何もルイスがニヒルを拗らせた厨二病だからではない。
「凄いのはこの後……とんでもないモンスターが控えている」
 そう。専用機の方を恐る恐る伺って声を潜めるルイスの脳内には、ある計略が渦巻いていたのだ。
「凄いモンスターですか? どのような人物でしょう!」
「日本アルプスの暴れ馬、長野ビーナスラインの殺戮鹿と畏れられたオラトリオ……」
 食いついてくる記者へ、調子に乗ってルイスは嘯く。雑誌の見出しにそのまま載りそうな二つ名まで考えていた。
「ひとたび背中の釘バットを抜けば、犠牲者の血で赤いカーペットが出来上がるという、クレイジーな奴だ」
 その釘バットも自分が贈った物だとは決して言わず、言葉巧みに集まった報道陣を震え上がらせるルイス。
「……ま、お前も『レッドカーペットの一部』にならないよう注意しろよ? ……グッドラック」
 最後は、蒼い顔でマイクを落としそうになっているお姉さんの肩をポンと叩いて立ち去った。
 さて。
「レッドカーペットでフラッシュの洗礼……ククク……とうとう世界がこの美貌を発掘してしまいましたか……」
 弟の企みなど露知らぬマリオンは、報道陣に囲まれるのが楽しみなのか御満悦な様子で黒い微笑を浮かべながら、赤絨毯への一歩を踏み出す。
「まぁ慈愛と気品に満ち満ちた笑顔で、明日の新聞一面は……」
 だが、幸か不幸か、マリオンは自分が取材を受ける前に潔く後ろの騒がしさに気がついた。
 何故なら、
「雄っぱい牛乳は筋骨隆々ボディが自慢のマッスルが、愛情をたっぷり掛けて育てた牛から搾乳した、希少性の高いミルクだよ!」
 ルルがデカデカと宣伝文句を並べたフリップを掲げて、生中継のテレビクルーを相手に営業していたからだ。
「ご覧ください! こちらのお嬢さんはララティア乳業なる会社の経営者でいらして、今も自ら新商品の宣伝に精を出していらっしゃいます!」
「良質なたんぱく質を含むから、健康志向のセレブにもお薦め!」
「それは素晴らしいですね! アメリカの朝食のテーブルに雄っぱい牛乳が並ぶ日も近いでしょう!」
 インタビュアーもノリノリなお陰か、ルルの雄っぱい牛乳フリップにはかなりの注目が集まっている。
「おま……ちょっ……目を離した隙に何やってんだ!」
 途端に、暗黒街の帝王モードからちびっこを叱るおかんモードに切り替えて、説教を始めるマリオン。
「全世界に向けて自社商品の発信とか、やっちゃダメでしょ!! 注文殺到して、製造ラインがパンクするわ!」
 ルルが製造ラインをパンクさせたのは今回が初めてではないだけに、お説教にも必死さが滲み出ている。大懸崖帽子の罪は深い。
「えー……だって、全世界が注目する大運動会! この機会に、ララ乳自慢の新商品・雄っぱい牛乳の宣伝をしながらレッドカーペットをフリップ掲げて歩けば、話題沸騰間違いなし!」
「しかも君、アホなくせに、妙に購買欲煽る売り方を心得ているというか……とにかく商売だけは上手いんだよ……!」
 そして、ただ言い訳するだけでも妙に言い回しの上手いルルを前にして、マリオンは頭を抱える。
「……と思ったんだけど……なんでお説教されとるんや……」
 ルルはルルで『解せぬ』と顔に書いてあるかの如く不満そうな表情だ。
「幸い、クソみたいな英語で意味が全く通じな……」
 そんなちびっこの頭を小突く傍ら、マリオンはフリップの内容を検めて、
「てか何だ……!? マジで何だこれ!!」
 一応想像していたとはいえ、気が遠くなるのを感じた。
『マッスルボイン・スペシャルミルク!』
『ウマイウマイ!』
『グレート!』
『ノーモア・スクール!』
『おテレフォンプリーズ!』
 マリオン曰くのクソみたいな英語の羅列にしては、中途半端に意味が通じる辺り、妙な作為を感じる。
 勉強嫌いなちびっこにここまでの芸当はできまい、なら一体誰が——マリオンが視線を巡らせると、すぐ側に奴はいた。
「という訳で、ルルたんのフリップはチロさんが自力で翻訳してやったわー」
 チロが、超ドヤ顔で犯行を自白していたのだ。
「メリケン語も出来る犬っぷりを発揮して、来年はハリウッドでチロさんの主演映画製作決定かな?」
 うきうきと上機嫌にレッドカーペットを歩くチロは、ルルに勝るとも劣らぬ弁舌を発揮。
「題名は『CHIRO・蛇足の犬』……全米が号泣すること間違い無し!」
 あれだけのへっぽこ英語力を晒していても、一応自分の名前のスペルは間違えずに言えるようだ。そして自分のキャラ性をこれでもかという程理解している。己を知るチロの販売戦略力は相当高いといえよう。
「……まぁ全米さんって、なんだかよく分からない理由で、常に号泣しているイメージだけどな……」
 ついでにお説ご尤もである。
「そうか……赤点常習犯の、そっちの犬が翻訳したか……」
 なればこそ、がっくりと脱力して肩を落とすマリオンの頭痛は計り知れない。
「め……めいど・いん……ウサ? ウサギで作ったポテチです?」
 アメリカ産ポテチをもぐもぐ食いながら呑気に呟くチロを見てしまえば、彼女が暗澹たる思いに囚われるのも道理だろう。
 こうして空港取材で箔をつけたララティア乳業は、ちびっこや犬の学力と反比例するかのように売り上げを伸ばしていくのだった。
 そして。
「あの……貴女がマリオン・フォーレさんですか? UGC新聞です」
 ちびっこたちへ説教するマリオンを遠巻きに見ていた報道陣が、やはり業界人のサガかわっと押し寄せてきた。
「まぁっ、何て素敵なお召し物にアクセサリーでしょう!」
「あら、そうですかぁ? このハンドカフスは弟がくれたものでー」
 ようやく理想通りの取材が受けられるとノリノリで答えていたマリオンだが。
「夕方には配る号外のゲラ刷りです。この内容で宜しいでしょうか?」
 やたら腰の低い記者が恐る恐る差し出してきた記事を見て、潔く全てを悟る。
『日本アルプスの暴れ馬、長野ビーナスラインの殺戮鹿、アメリカ初上陸』
『ファミリーから贈られたメリケンサックを手に取材中も部下へ大喝一声、モンスターの迫力を見せつける』
『フロント企業の雄っぱい牛乳注文殺到大ブームの予感』
「……さーて現地のアニメショップで英語版コミックスでも買ってこよっかな~」
「待てやクソキノコー!! 誰が『馬鹿』じゃゴラァァアァ!!!」
 そして、高速スキップする笑顔な弟を釘バット片手に全速力で追いかけるのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月11日
難度:易しい
参加:10人
結果:成功!
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