城ヶ島制圧戦~竜は無慈悲な要塞の女王

作者:秋月きり

「城ヶ島強行調査により、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』の存在が確認されました」
 いつもの元気な様子とは違い、神妙な面持ちで笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)がそれを切り出す。
 その彼女らしからぬ言葉の選び方、そしてその内容にケルベロス達に緊張が走る。固定化された魔空回廊が発見された、と言う事はつまり。
 誰かが呟いた疑問に、ねむはこくりと頷いた。
「はい。その先で『ゲート』の発見、――ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定する事が出来るはずなの」
 魔空回廊に侵入し、内部を突破すれば『ゲート』を発見できる。
 それは即ち、ケルベロス・ウォーを用いて『ゲート』の破壊を試みられると言う事。
「『ゲート』を破壊すれば、ドラゴンたちは新たな地球侵略を行う事が出来なくなります。つまり、城ヶ島を制圧し、固定化された魔空回廊を確保する事が出来れば」
 言葉を一旦句切ったねむは、一呼吸置いてその言葉を紡ぐ。
「ドラゴン達の急所を押さえる事が出来ます」
 今まで、デウスエクスの出現に対しては後手に対応していたケルベロス達が、初めてその喉元を押さえる事が出来る。
 そう断言した。
「ドラゴン達は固定された魔空回廊の破壊は最終手段と考えているようです。ですから、今、城ヶ島を制圧すれば、魔空回廊の奪取は不可能じゃありません」
 そうすることで、ドラゴン達によるこれ以上の侵略を阻止することが出来る。だから。
「その為にも、みんなの力を貸して欲しいのです」
 ねむの声は静かだった。
「それで、みんなにお願いしたい事だけど」
 緊張のあまりか、言葉を一度区切り、唾を飲み込む。嚥下に合わせ、黒色のパンダ耳がゆらゆらと揺れた。
 そして、切り出された言葉は。
「魔空回廊を守護するドラゴンと戦っていただきたい、です」
 守護しているドラゴンは三体。そのドラゴンに対してケルベロス達の三チームが強襲を掛ける。その一チームとして、守護ドラゴンを倒して欲しい。
 進められている作戦はこうだ。
 城ヶ島の南は戦艦竜という強力なドラゴンに守られており、海路からの突入は難しい。よって、城ヶ島と三島半島を繋ぐ城ヶ島大橋から水陸両用車による一斉攻撃を行う事となった。
 だが、それは全て、この作戦の為の陽動作戦に過ぎない。
 ケルベロス達の本命は当然。
「みんな、です」
 ヘリオンから直接降下して魔空回廊を奪取する。それがこの作戦の肝だった。
 もちろん、タイムリミットが存在しない訳ではない。
「さっきも言ったけど、ドラゴン達は魔空回廊を破壊したくないと考えているようなのです。でも、いざとなれば破壊する事に躊躇いはしないはず」
 魔空回廊は便利な移動装置ではあるが、『ゲート』を危うくするつもりはない。ケルベロス達が奪取に掛かれば、破壊する事を辞さないだろう。
「だから、その破壊されるまでの間にドラゴンを倒す必要があるのです」
 また、三チームによる三面作戦だ。一チームでも敗れればそのドラゴンが魔空回廊を破壊してしまうため、劣勢に立たされるチームがあるならばその援護も考えなければならない。
「やることは沢山だけど、でも、みんななら、きっと」
 魔空回廊を奪取できると信じてる。ねむは力強く頷いた。
「このチームの標的は『紅焔』と言うドラゴン、です」
 その名の通り、赤銅色の鱗を持った真っ赤なドラゴンの為、一目で分かるだろうと、ねむは言う。守護を任せられるだけあって、個体としての能力は通常のドラゴンの比ではない程、強力。体長に至っては10メートルくらいと他のドラゴンよりも頭一つ飛び抜けている様だ。
「炎のブレスを吐いてきたり、爪や尻尾で攻撃してくるみたいです」
 単純だが、それ故に強力。また、鱗も硬く、生半可な攻撃では傷つける事すら困難だろう。
「戦闘能力だけで比較するなら、圧倒的にみんなよりドラゴンの方が上。八割方敗北が必至だと思います」
 だから、ねむはその残酷な真実を告げる。ただの力押しだけでは勝算はない、と断言して。
「……ただ、それはみんなが単独で戦った場合。周りのチームとの連携が、勝利の鍵となるのです」
 一人の力は弱くとも、何人もの力を束ねればどうなるか。
 それこそがドラゴンを妥当する力となるのだ。
「この作戦の成功はみんなに掛かっています。だから、責任重大だけど」
 それでも、この作戦を成功させて欲しい。
 ねむにはこれしか言えないけど、と真摯な瞳を向け、ケルベロス達を送り出す。
「頑張って下さい」、と。


参加者
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)
クレア・エインズワース(陽色の獣・e03680)
アリエット・カノン(鎧装猟兵・e04501)
ピコ・ピコ(レプリカントの螺旋忍者・e05564)
アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)
リルカ・リルカ(ストレイドッグ・e14497)

■リプレイ

●真紅の竜、吠える刻
 城ヶ島の各地では黒煙が上がっている。それは、ケルベロスとドラゴン達による激戦が繰り広げられている証拠。
「ここまで来た」
 ヘリオンの窓から見下ろしながら、リルカ・リルカ(ストレイドッグ・e14497)が呟く。
 ここで負ければ鎌倉奪還から続く勢いが途切れてしまう。だからこそ、失敗は許されない、と自身に檄を飛ばす。
「大変なお役目になっちゃったよ」
 表情が硬いのはリルカだけではない。アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)もまた、緊張した面持ちで同じ景色を見下ろしていた。
 二人に同意するように、アリエット・カノン(鎧装猟兵・e04501)が頷く。
(「前哨戦を務めてくださった皆様の為にも失敗は許されませんね……」)
 白龍神社に向かうこの瞬間も、仲間達の戦いは続いている。そのお陰で今回の強襲作戦に繋げる事が出来た。ならば、それらに報いる必要がある。
 その緊張感が三人の表情を強ばらせていた。
「大丈夫? ガチガチになっていると、成功するのも成功しないさね」
 三人の緊張を解すように、クレア・エインズワース(陽色の獣・e03680)がにぱりと笑顔を向けた。
「作戦の通りに動けば、大丈夫です」
 言葉少なに、だが力強く頷くピコ・ピコ(レプリカントの螺旋忍者・e05564)の言葉が今は頼もしかった。時折片目を閉じ、アイズフォンで他班と連絡を取り合いながら、平行して仲間への激励も忘れていない。
「ドラゴンって空の神様みたいなものだよね。ここで倒せば神様ポイント爆稼ぎだよ!」
 戯けた口調で二人にフェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)が続く。妙なハイテンションに、緊張していた三人はぷっと吹き出した。やがてそれは笑い声へと変わる。フェクト自身の考えはどうであれ、緊張を取り除くのには成功したようだ。
 ――と。
 ヘリオンの中に声が響いた。他班の準備が完了したと無線が告げる。
「皆が切り拓いてくれた道、無駄にするわけにはいかないね。絶対にこの作戦を成功させて帰るんだ……!」
 締め括りの言葉は紫金の声。ケルベロス達はその決意に同意するように頷く。
「そうですよぅ。必ず成功させて、無事に帰りましょ~」
 メディックとして班を支える決意を胸に、槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)が紫金へ言葉を返す。無線越しに見えない表情はしかし、微笑んでいる、そんな気がした。
 そして、ヘリオンの降下扉が開かれた。
「魔空回廊確保を為すわ」
 マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)の宣言と共にヘリオンから身を投げるケルベロス達。目指すは魔空回廊。そしてそれを守護するドラゴンが一体、紅焔。
 今、まさに魔空回廊奪回の死闘が始まろうとしていた。

●紅焔
 着地し、合流した仲間と共に境内を一気に駆け抜ける。目的はすぐに見つかった。ヘリオライダーの言葉通り、真紅の鱗を持った十メートルにも及ぶ巨大なドラゴン。
「地獄の番犬を名乗る犬っころ共が妾達の元に、何しに来た?」
 問いかけは真紅のドラゴンからだった。
(「喋った?!」)
 クレアが驚愕に目を見開く。確かに紅焔と言う個体が喋らないと言う情報は無かった。
「考えてみれば、当然か」
 マキナが納得した、と頷く。
 要所の守護を任される程のドラゴンだ。人語を解する知性を有していても不思議ではない。
「妾を蜥蜴風情と見くびっておったか?」
 揶揄するように紅焔の声は笑っていた。
 それは即ち、獣とは違い、思考して行動すると言う事。
(「厄介な相手ですねぇ」)
 紫織が内心、冷や汗を掻く。だが、厄介な相手だとは承知している。打ち砕く事に変わりはない。
「魔空回廊を破壊しに来ました」
 アリエットの言葉に一瞬、沈黙が走る。無論、これはハッタリだ。ケルベロス達の目的は魔空回廊の確保であり、破壊は望むところではない。紅焔に真の目的を悟らせない虚偽に、だが、彼女は。
 紅焔は哄笑する。面白いとその顔に喜色すら浮かべていた。
「よう吠えた、地獄の番犬よ。その為に妾達を屠ると言うのだな?」
 ならばやってみよ、とその両翼を広げ、巨体を浮かせる。
「妾の名は紅焔。星を喰らい真なる炎を得たドラゴン! 群れねば何も出来ぬ犬風情が! 十全の力を以て、妾の炎で焼き尽くしてくれるわ!」
 自身の眼前に集った十二人のケルベロス達に武将さながらの名乗りを上げる。それは若干の苛立ちを伴った雄叫びでもあった。

「先手必勝です!」
 バスターライフルを構えたアリエットはしかし、次の瞬間、動きを止めざる得なかった。
 紅焔の口に炎の欠片を見たからだ。
 十全の力を尽くすと紅焔は宣言した。それは即ち。
「息吹!」
 小型治療無人機を操りながら、ピコが静かな声を上げた。ドラゴンをドラゴンたらしめるもの、ブレス。それが紅焔の口から迸る。
「危ない!」
 紫織を抱え、クレアが跳ぶ。一瞬遅れ、その場をブレスが薙いだ。
「熱っ」
 直撃こそは避けた。だが、掠めただけで足が直接、炙られたような痛みを覚える。山火事直後のような焦げた臭いが辺りに充満していた。
「ボックスナイト?!」
 自身のサーヴァントに庇われたアストラが悲痛な声を上げる。直撃した紅焔の炎はミミックの身体を半壊まで削り取っていた。
 だが、それでもサーヴァントは立ち上がる。主人に無様な姿を見せられないと、具現化した剣を飛ばしつつ。
「回復をします」
 ディフェンダー達の反応が早かった為か、後衛にダメージは無い。ならば、とクレアの腕の中で紫織が薬液の雨を降らせる。
 直撃は避けたとは言え、火傷の疼きに顔をしかめる仲間達は、薬液の雨に打たれ表情を和らげる。
 紫織を地面に降ろしたクレアもまた、少しでも仲間達の傷を癒そうと、守護結界を展開した。
「弾幕薄いよ、なにやってんの!」
 超スピードでスマートフォンを操りながら、コメントを打ち込むのはアストラである。『乙』『マジ天使』『カワイイ』と寄せられた羅列がなんやかんやで仲間達に力を与えていく。
「お返しだよ! 神様見習い舐めるな!!」
 フェクトがライトニングロッドから稲妻を放つ。まとわりつく電撃に、紅焔がぐっと小さな呻き声を発した。
 それにアリエットのバスターライフルが続く。
「今だよ!!」
 戦闘態勢を整えながら、リルカの声が戦場に木霊した。
 それに呼応してアリスとソロのガトリングガンが、紫金の氷を纏った斬撃が、央の蔓触手の一撃が紅焔を襲撃する。
「Code N.E.M.E.S.I.S……,start up.lock on……」
 瞳を閉じたマキナが正眼に構えた己のライトニングロッドに手を添え、詠唱する。紡がれた言葉と共に蓄積されるそれは、憤怒の衝動。
「Ready,Fire!!」
 その両眼が開かれたと同時に、力が疾走した。
 狙い違わず直撃したそれに、紅焔が怒りの咆哮を放つ。ケルベロス達への苛立ちはマキナの一撃により、ついに怒りへと達したのだ。
「護るわ。ここにいる人達を。そして、地球を」
 咆哮に負けじと、マキナは宣言する。相手が何者であろうと、負けはしない、と。

●女王、墜ちる
 十二人のケルベロスによる猛攻は、次第に紅焔を追い詰めて行く。
 並のドラゴンならば即座に倒される火力を一身に受けながらも、鋭い爪や丸太の様な尻尾で応戦するのは、守護者としての矜持か。
 だが、それでもいつしか限界は来る。不死の超存在であるデウスエクスはしかし、ケルベロスの操る重力の鎖によって、有限の存在へとその身を落とすのだ。
 そしてついにその時がやってきた。

 アリエットの放つ光線とアストラの放った凍結弾が同時に紅焔の翼を貫く。幾多にも重ねられた射撃は、あっけないほど簡単に、その皮膜を破壊する。
 雨垂れ石を穿つ。無論、今までだって攻撃の手を休めていた訳ではない。だが、ようやくここに来て、それらが実を結んだのだ。
「墜ちろ!!」
 紅焔より高く。
 飛翔の如く跳躍したクレアが、その背に拳を叩き付ける。降魔の力が込められた一撃を受け、翼を失った真紅の竜は地面へと叩き付けられた。
 今、この瞬間、彼女は大地へと引きずり落とされたのだ。
 四肢に力を込め、体を起こす。両翼を失ってもなお、その目から闘志は消えていない。
 だが。
「――押してる! 勝てるよ!!」
 ソロがアイズフォンを通じ、別のドラゴンと対峙する仲間に通信を送る。
 その言葉通り、状況はケルベロス達の圧倒的な優勢。幾ら究極の戦闘種族たるドラゴンと言えど、それを覆すのは容易ではない。
 そして、それをケルベロス達が許す道理はなかった。
「舐めるな! 犬共が!!」
 追い打ちと放たれたリルカの主砲を、巨体に似合わない俊敏さで回避しながら吠える。
 死の気配すら伴った咆哮に、しかし、ケルベロス達は。
「貴方こそ舐めるな! ドラゴン風情が!!」
 負けじと飛び出したフェクトが吠える。こちらは神だ。悪魔の象徴たるドラゴンなどお呼びでない、と言わんばかりに放たれた飛び蹴りは、紅焔の横っ面を吹き飛ばす。
 紅焔もブレスで応戦するが、既にそれは――。
「見切っています」
 猛火からフェクトを庇いながら、ピコが返答する。
 ブレスに撫でられた身体に火傷が走るものの、直撃を避ける事でダメージは最小限に止めている。
「ダミー投影開始。パターンは命中支援でランダムに。今のうちに、態勢を整えて下さい」
 そして戦場に無数のケルベロス達を投影する。ナノマシンによって投影されたそれらを爪や尾で振り払うが、触れただけで消失するダミー映像に紅焔は苛立ちを隠しきれない。
「勝ち汚い輩共め!」
「それは最高の褒め言葉だよ!」
 誓いの溶岩で反撃しながら、アストラが誇らしげに答える。
 如何なる手段を用いても、この場の勝利を得ると選択した。それに向けられた言葉が非難ならば、それこそまさしく彼女らに対する賞賛である。
「ケルベロスの力は加算ではなく、乗算であると知りなさい!」
 ブレスによって傷付いた仲間を癒しながら、マキナもアストラに同意する。
 数の暴力と非難するならそれも構わない。その道を選んだ。全ては勝利のために。愛する地球を護るために。
「ケルベロス!!!」
 紅焔から零れたのは怒りと憎しみ混じりの彼らの名前。
 幾度となく炎をぶつけた。幾度となく爪を振るった。しかしこの犬たちは、地獄の番犬たちは倒れない。反撃は隕鉄と化した鱗を貫き、この身体を傷つけてくる。
 彼らの戦い方を、勝ちに向かう姿勢を認めるつもりはない。だが、十全の力を以てしても彼らを止める事が出来ないのも事実。
 故に。
「認めてやろう、ケルベロス! 汝らの強さは!!」
 再度ブレスを浴びせる。群れとなったケルベロス達が幾ら強くとも、紅焔もまた、ここを引けない理由がある。
 星を喰らった竜としての自負が、戦闘種族としての生き様が、そして守護者たる自身の役割がそれを後押しする。
 幾度となく浴びせられたブレスは再度、ディフェンダー達の身体を焼く。見切ったはずのそれも、躱すに至らない。
 それでも。
 ケルベロス達は立ち上がる。
「全力で、行かせてもらうさ!!!」
 クレアが獣の遠吠えを上げる。全ての野獣を平伏させる犬の雄叫びは、彼自身の野生を限界まで引き上げ、その身体を癒していく。
 負けられない。負ける訳にいかない。その意地は拳を通して紅焔に叩き付けられる。
「あなたの終わりを! 私が祝福してあげるっ!」
 そしてフェクトによる終焉が宣言された。
 ひたすらに神と言う高みを目指す少女の想いが衝撃となって紅焔を打ち抜く。
「がっ?!」
 紅焔の目を焼いたのは少女の祈りか、それとも神々しき光か。
 庇うように瞳を閉じて悲鳴を上げるドラゴンに、アリエットが肉薄する。
「Feu de la salve!」
 一斉砲撃との言葉と共に、無数の螺旋と化した髪が紅焔を貫く。金色のドリルに貫かれた竜体が吹き上げた血飛沫は、アリエットの身体を真紅に染め上げた。
 そして暴力は雷撃の力を以て駆け巡る。
「コンデンサ出力上昇……高電圧弾、スタンバイ。照準補正完了次第、発射します」
 紫織の胸から生えた砲身が紅焔を補足する。
 身体から溢れる紫電は、コアから生み出された電力が身体を駆け巡り、コンデンサによって増幅されている証。
「ライトニングブレイカー!!」
 砲声と共に、膨大な量の紫電を放つ。
 体中をアリエットに貫かれ、地面に縫いつけられた紅焔にそれから逃れられる術はない。
 血に濡れ、導体と化したアリエットの髪がその紫電を紅焔の身体に叩き込む。雷も斯くやと言う電気が紅焔の体内で暴れ回り、ズタズタに破壊していく。
 幾ら星に等しき硬度を持つ鱗に覆われた身体と言えど、それは表皮のこと。内部に直接駆け巡る破壊を防ぐ事は出来ない。
 そして。
「さて。そろそろ使い時かな?」
 黒い煙を全身から吐き出す紅焔の前にリルカが立つ。
 自身の銃に装填するのは、一発の弾丸。あるとあらゆる災厄、怨念、大凶を掻き集めた呪われた銃弾だった。
 慎重に狙いを定め、紅焔に語りかける。
「貴方は無慈悲な女王かもしれない。でも」
 あたし達もそれ以上に無慈悲になれる。地球と言う居場所を取り戻すために、今まで蹂躙された痛みを、怨みをこの弾丸に込めて――放った。
 大量の怨霊を伴った弾丸は寸分違わず、紅焔の心臓を貫く。貫かれた傷口から吹き出すのは血ではなかった。吹き出た幾多の怨嗟が再度、紅焔の身体に潜り込み、ありとあらゆる災厄でその身体を蹂躙する。
 この世の物とは思えない絶叫が響いた。それは紅焔の断末魔の叫び声。
 見開かれた金色の瞳が力を、色を失い、そして白い境内にどうっと倒れる。
「――っ!!」
 最初に上がった歓声は、彼らを援護していた仲間達からだった。
「勝ちました」
 淡々としたピコの言葉は、その勝利が信じられないと驚愕の表情で紡がれていた。
 八割は得る事が出来ないと言われた勝利。だが、それをケルベロス達は皆の力で、もぎ取る事が出来た。
「っしゃぁ!!」
 クレアが勝利の雄叫びを上げる。一同は同じ気分で片手を掲げ、その勝利を祝福するのだった。 

●女王散華
 紅焔は死した。魔空回廊を守護するドラゴンの一角は崩れた。
 だが、それが終わりではない。まだ二体のドラゴンがいる。
 先導するソロと央に続き、フェクト、アリエット、ピコ、リルカの四人がそれぞれの得物を握り、駆け出す。
 また、アリスと紫金に導かれ、マキナ、紫織、クレア、アストラの四名もまた、ドラゴンと対峙する仲間の元へ向かう。
 困難な道のりだが、彼らの顔に悲壮感は無い。
 ――紅焔は、魔空回廊の守護者たるドラゴンは強かった。
 だが、結束したケルベロスはその力を上回り、打ち砕く事が出来たのだ。
 だから、今度もきっと。
 その思いを胸に、戦場を走り抜けるのだった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 31/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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