理奈の誕生日~海辺でフィーバー!

作者:雷紋寺音弥

「夏といえば、海だよね! 皆は、もう海に行った人、いるかな?」
 そう言って成谷・理奈(ウェアライダーの鹵獲術士・en0107)がケルベロス達に告げたのは、東海地方にある海辺で、海水浴や花火大会を楽しもうというお誘いだった。
「実は……本格的に皆と海へ行くのって、これが初めてだったりするんだよね。あ、でも、別に泳げないとか、そういうわけじゃないから!」
 あまりに定番過ぎて、ちょっと忘れていただけだ。なんというか、相変わらず妙なところで抜けている理奈だったが、それはそれ。
「海といえば、海の家だよね! むふふ……イカ焼きでしょ? 焼きトウモロコシでしょ? それから、かき氷に……あ、スイカ割りもしたいな!」
 もっとも、理奈は海で楽しむことよりも、目先の食べ物にしか興味がないようだ。まあ、確かにそれも楽しみ方のひとつなので、間違っているわけではない。
「そういうわけで、一緒に海へ行く人、いる? 夜は花火大会もあるみたいだし、時間に関係なく楽しめるよ!」
 理奈曰く、どうやら穴場のスポットらしいので、観光客で大混雑することはないようだ。昼間は存分に海で楽しみ、夜は空に咲く花を静かに眺める。戦いばかりの日常ではなく、たまには定番のレジャーを親しい人と一緒に過ごす日があっても良いだろう。


■リプレイ

●賢い島の夏遊び
 青い海。白い砂浜。夏の風物詩ともいえる美しいビーチ。そんな場所を訪れて、はしゃがない方が無理だろう。
「う! み! ダ!」
「うーみーにゃー!」
「うーみーーですぅ~っ!」
 ウルスラ・ワルフラーニ(プラス・e37377)、フワリ・チーズケーキ(ふわきゅばす・e33135)、そしてメリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)の三人は、海を見るなり駆け出した。
「おいおい、そんなに慌てなくても、海は逃げな……って、駄目ね、これは。全然聞いてないわ」
 いきなり飛び込むのは拙いと、思わず制止しようとした一式・要(狂咬突破・e01362)だったが、三人は彼の呼び止める声など、どこ吹く風だ。
 砂浜で転がるフワリと、それを見て砂浜にダイブするメリーナ。そして、そんな二人の隣でウルスラは元気に跳ね回っている。
 これは、自分がしっかりせねばと、要は保護者のポジションに収まることを決意した。とりあえず、危険もなさそうだし、近くの海の家で飲み食いしながら見守れば良いだろう。
(「まあ、あれじゃきっと、夜にはくたくたよねー」)
 苦笑しながら眺めていると、フワリが波打ち際で遊んでいる姿が目に留まった。
「なみ、ざぶーん」
 海は初めてなのだろうか。波が足元の砂を攫う感触にどうしても慣れず、浮き輪をしているというのに随分と慎重になっている。そんな彼女を見かねてか、莓荊・バンリ(立ち上がり立ち上がる・e06236)が救いの手を差し伸べた。
「そんなに怖がらずとも良いでありますよ、子猫ちゃん。さあ飛び込んでおいで……」
 だが、そう言って彼女が手を差し出した矢先、大波がやってきてバンリのことを攫って行ってしまった。
「うみ、しょっぱいにゃー!?」
 同じく、顔面から波を被ってしまい、フワリもびっくりだ。なにやら、遠くにパンダの浮き輪が流されているような気もしたが、それはそれ。頭の上に昆布が乗っているが、細かいことは気にしたら負けだ。
 恐る恐る、海の深い方へと足を延ばして行くと、意外と水中の方が涼しいことに気が付いた。浮き輪があるので、溺れる心配もなさそうだ。先程の警戒心はどこへやら。両手で水飛沫を立てながら、フワリは夏の海を存分に堪能していた。

●お前が砂像になるんだよ!
 フワリ達が海で遊んでいる最中、メリーナはなにやらシャベルを両手に握り締め、意味深な視線を仲間達へと送っていた。
「なるほどナ……。よし、かかってコイ!!」
 彼女の装備に何かを感じ取ったのか、ウルスラが大胆にも砂浜で大の字になった。それを見たメリーナは、意気揚々とスコップを振り上げ、ウルスラを砂に埋め始めた。
「それそれそれそれぇ~~っ、です♪」
 たちまち、出来上がる砂の花、花、花、そして、最後のオマケに、何故かタヌキも付けておいた。あまりに激しく動いて作ったので、メリーナは全身が砂まみれだったが。
「このザリザリの体を流すには……そぅれ、私を捕まえてご覧なさぁいでーすよ~っ♪」
 勢いよく海へ飛び込めば、そこにいたフワリやバンリが、盛大な水飛沫を浴びてずぶ濡れになった。
「うにゃっ!? また、水浸しだにゃー!」
 慌てて首を振るフワリの頭には、今度はワカメが乗っていた。こうも都合良く海藻が流れて来るとか、この辺に養殖場でもあるのだろうか?
「ふっふっふ……とりあえず、『埋まりたそうな顔と私が判断した』人は、砂に全力埋めまくりです!!」
 両手のスコップを振り上げ、メリーナが叫ぶ。しかし、フワリやバンリは逃げ出すどころか、むしろ期待に胸を膨らませているようで。
「わぁい、かけて、かけてにゃー」
 砂浜に戻るや否や、フワリは自ら埋めてくれとメリーナに頼んだ。そこまで言われては、埋めてやらないのも可哀想だ。
「己という素材をフル活用し、無二の芸術を体現してくださいませ!」
 同じく、バンリも自らの肉体をサンドアートの素材として提供する。そんな二人を首だけ出して砂に埋め、メリーナは更に高く砂を盛って行く。
「フワリどんな風になったのにゃあ?」
 何やら、随分と高く砂が盛られていることに気が付き、フワリが目線だけを上に向けた。
 そこに出来上がっていたのは、首のない人間の上半身。両腕の部分がしっかりとフワリ達の頭に伸びており、まるで首を斬り落とされた跡のようにも見える。
「デュラハン出現です!」
 伝説の怪物が完成したと、メリーナはドヤ顔を決めていた。完全にブラックジョークの類だが、それが許されるのも、ビーチの賑やかな雰囲気あってのことだろう。

●激突、ビーチバレー!
 夏の陽射しが降り注ぐ洋上にて、リーア・レオノーラ(紫銀の戦棍法師・e61699)は大きな浮輪に嵌ったまま、波間を揺られるままに漂っていた。
 そんな彼女の下に現れたのは、神楽・ヒナキ(くれなゐの風花・e02589)とヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)の二人。どうやら、かき氷を運んで来たらしく、波間に浮かぶトレイの上に乗せた状態で運んで来た。
「あら、ヒメさんにヒナキさん。かき氷ありがとうございます」
 かき氷を受け取り、口に運ぶリーア。陽射しも強い時刻になっており、たまにはこうして海上で何かを食べるというのも面白い。
「かき氷、美味しいで……うぅ、頭が……」
「慌てて食べると、キーンってするわよね。でも、それが醍醐味よ」
 思わず頭を押さえたヒナキに、ヒメは皿を落とさないよう注意しつつ言った。やがて、全て綺麗に食べ終えたところで、ビーチボールを持ったモニカ・カーソン(木漏れ日に佇む天使・e17843)が近づいて来た。
「皆さん、ビーチバレーでもどうですか?」
 2対2に分かれれば、簡単な試合もできるはず。身体も程良く冷えたことだし、そろそろ海から上がってもよさそうだ。
「そういうことなら、先にルールを確認しておかないとね」
 耐水加工をされたスマホで情報を得つつ、ヒメは一足先に陸地目指して泳いで行く。他の者達も後に続き、浜辺に戻ったところで勝負開始だ。
「さあ、いきますよ」
 まずはモニカが、華麗なサーブ。柔らかなビーチボールでは勢いこそ望めないが、滞空性の高さが逆に落下地点の予測を難しくしている。
「ふふ、ここは手加減抜きでいきますよ。そ~れ」
 もっとも、そこはリーアも手慣れたもの。だが、周囲で見ているギャラリー達は、ボールよりもアタックに合わせて揺れる何かの方へと視線を向けているようで。
「……って、あ、あのみなさん? どこに注目してますか? バレーボールはあっちです、あっちぃ~~っ!」
 慌てて片手で胸元を隠しつつ、もう片方の手でボールを指差すが、今更である。泣く子も黙る豊満ボディをしていながら、何を言っているのかという話だ。
「ビーチバレー、初めてしましたけど……結構、体力使うんですね」
 繰り返される激しい応酬に、いつしかヒナキは息が上がっていた。だが、同じく初心者でありながら、ヒメは額から汗を流しつつも楽しげに笑い。
「まあ、いいじゃないの。折角だし、思い出に残るような勝負がしたいわよね!」
 だんだんとコツが掴めて来たのか、落下して来るボールをモニカ目掛け、渾身の力で打ち出した。
「……あぁっ!?」
 瞬間、強い海風が吹いてボールを攫い、バランスを崩したモニカが砂浜に頭から突っ込んだ。どうやら、頑張り過ぎてしまったらしく、水着の中まで砂まみれだ。
「うぅ……少し、調子に乗り過ぎましたかね?」
 水着を叩いて中の砂を落とそうとするも、着ている水着が大胆なデザインなだけに、ともすれば中身が見えてしまいそうになり、周りから見ている者としては気が気でない。
 いつの間にか、ビーチバレーというよりは、セクシーバレーになって来た気もするが、それはそれ。この程度の失敗では、まだまだ勝負は終わらない。
「さあ、気を取り直して、次行きましょう!」
 足下に転がっていたボールを拾い上げ、モニカは再び高々と投げ上げた。

●危険なスイカ割り!?
 どこまでも広がる大海原。思わず、遠くまで泳ぎだしたくなるような景色を眺めつつ、影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)は成谷・理奈(ウェアライダーの鹵獲術士・en0107)と共に、真夏の海を楽しんでいた。
「今年で14歳かな、おめでとうだね」
「うん、ありがとう! やっぱり、夏は海で遊ばないと始まらないよね!」
 そう言って泳ぎ回る理奈だが、やはりプールとは勝手が違うのだろう。海水の方が浮力が高いとはいえ、足が底に付かないのは、少しばかり怖くも感じる。
「最初は違和感あるかもしれないけれど、慣れると楽しいよ」
 それでも、適度に浅瀬で楽しむ分には問題ないと、リナは適度に安全な場所まで理奈を誘って泳ぎ出した。
「あぁっ! 待ってよ~!!」
 追い縋るようにして泳ぎだせば、意外と泳げるものである。浮かぶコツさえ掴んでしまえば、後は楽だと理奈も分かったようであり。
「……ふぅ、随分と泳ぎ過ぎちゃったね」
「そうね……。でも、楽しかったでしょ?」
 浜辺に戻る頃には軽い疲労感を覚えていたが、それでも互いに笑顔は絶やさなかった。
 そんな二人の前に、スイカを持って現れたのは、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)と円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)。砂浜に置かれた、大きなスイカ。それを囲んでいる者達が、やることと言えば、ただひとつ。
「理奈、お誕生日、おめでとうだよ」
「あら、理奈は今日が誕生日なのね、おめでとう」
 二人が理奈への祝辞を述べる中、着々と進んで行くスイカ割りの準備。だが、棒と目隠しまで用意できているのに、これ以上の準備をする必要があるだろうか?
「夏だ! 海だ! 水着だ!!! スイカ割りぃぃだぁぁぁ!!!」
「いえーい!夏だー!うぅむぃどぅぁ! 水着だ! スイカ割りだー!」
 無駄に高いテンションのまま、スイカを持ち上げる鍔鳴・奏(碧空の世界・e25076)と、何故か弓を用意しているリーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234)。
 お前達、いったい何をするつもりだ。思わず、周りから不安の視線が注がれるが、二人はまったく気にしていない。
「スイカ割りをするぞ! リズ! 棒は用意したね!?」
「はーい! かな……スイカ割りをする準備は万全だ! 任せろ!!」
 だが、そう言ってリーズレットが掲げているのは、どこからどう見ても弓である。さすがに、これは奏も面喰らったようで、思わずリーズレットに突っ込んだ。
「OK分かった待とう落ち着け。何でいきなりオモチャの弓を持ち出した? まさかのウィリアム・テル? え、スイカを俺の頭に乗せて撃ち抜く? Really?」
「大丈夫……私、一時期奇術師さんの所でバイトしてたから! その時、ちゃんと見てたからー!」
 いや、さすがにそれは、もうスイカ割りとは呼べないのではないか。冷や汗をかきながら全力で拒否する奏。しかし、次の瞬間、リーズレットが呟いた言葉に、思わず耳を疑った。
「やっぱそうだよなー、怖いもんな……失敗したら、何でも言う事聞いてあげるんだけどなー」
 失敗したら、なんでもする。その言葉に偽りがないのであれば、これはもしかしなくても、色々な意味で大チャンスではないだろうか。それこそ、あんなことや、こんなことや……ちょっとイケないことだって、させてもらえるかもしれないのだ!
「今なんでもって……よっしゃ、来い! 失敗しやがれ!!」
「急にやる気……よし……その勇気に応えなければならんな! いくぞ! カナディ! 私の愛の矢を食らうとイイ!」
 計画通り、奏を乗せたところで、リーズレットは弓を構える。そのまま狙いを定めて引けば……放たれた矢は一直線にスイカへと向かい、見事に緑色の皮へ突き刺さった。
「わ~、凄いね~! ボク達も、あんなことできたら楽しそう……」
 両手を叩いて喜ぶ理奈。それを聞いたキアリは意味深な笑みを浮かべ、矢の突き刺さったスイカを奏から受け取り、浜辺に置いた。
「さあ、スイカ割りよ。理奈から先に挑戦してくれていいわ。わたしは理奈が失敗したら、『これ』で挑戦するわね」
 いつの間にか、スイカの隣にはオルトロスのアロンが首だけ出して埋められており、キアリは豪快にハンマーを振り回している。
「うぅ……こ、これ、もしかしなくても、責任重大ってやつ!?」
 思わず冷や汗を垂らし、棒を構える理奈。しかし、身体を回され、目隠しまでされた状態では、思った方向に歩くことさえ難しい。
「ふ、ふふふ……私は少し意地悪ですからね! そこを少し左だ! いや、真っ直ぐだ!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が横からメチャクチャな指示を出して来ることも相俟って、理奈の振るった棒は大きく空を切り、見当違いな場所を叩いてしまった。
「あぁっ! ど、どうしよう……」
 慌てる理奈だったが、そんな彼女の気持ちなどお構いなしに、キアリはハンマーを振り回してアロンに迫る! 直撃すれば、オルトロスとはいえ、絶対に痛い。しかし、あんなものでスイカを砕かれたら、それはそれで完全に粉砕されてしまうわけで。
「てりゃぁぁぁっ!」
 幸か不幸か、キアリのハンマーは狙いが逸れて、盛大に砂浜を叩くだけで終わった。とりあえず、これでゲームは振り出しに戻った。後は大惨事になる前に、誰かがスイカを割らなければ。
「それじゃ、リリがやるよ……」
 名乗り出たのは、リリエッタ。しかし、狙撃には自信がある彼女も、さすがに目隠しをした状態では狙いを定めることが難しく。
「む、むぅ、回っただけなのに、なんだかくらくらするよ」
 後は勅勘を頼りに、棒を振るう。狙撃手としての意地もあってか、棒は見事にスイカの正面を捉え、心地よい音と共にカチ割った。

●夜空に咲く花
 気が付けば、時刻は夜になっていた。
 空に上がる、大小様々な打ち上げ花火。それらを眺めながら、ケルベロス達は昼のスイカ割りで割ったスイカを楽しみつつ、それぞれの時間を過ごしていた。
「要さんとウルスラさーん! 己と海辺グルメをはしごしなぁい?」
 ワカメや昆布を肴に花火を眺めていた要やウルスラをバンリが誘っている。ちなみに、彼らの食べている海藻は、フワリの頭に付いていたものを、テレビウムの赤提灯に焼かせたものだが。
「すいかうまうまにゃ」
 まあ、当のフワリ自身、あまり気にせずスイカを堪能しているのだから、それでよい。
「綺麗な花火だね。本当に、空に花が咲いているみたい」
「いつも、変なビルシャナ退治で大変だからね。お誕生日くらいは、目一杯楽しもう」
 リナやリリエッタに誘われて、理奈もまた目を輝かせつつ、夜空に咲く花へと視線を向ける。夏の日の思い出を心に刻みつつ、それぞれの夜が更けて行った。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月8日
難度:易しい
参加:15人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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