大菩薩再臨~命は大事に

作者:鬼騎

 月の出ていない夜の公園。一人と、身体に羽毛が生えた何者かが居た。
 何者かが怪しい力を放てば、人の形をしていたものは膨れ上がり異形の姿へと変形する。
「あああ、力が漲るコケ! これでろくでもない肉食の奴らを皆殺しにっ……!」
「アァ、せいぜい役に立つがイイ」
 身体に羽毛が生えた2体の何者かが闇夜に蠢く。
 鋭い眼光を放つそれらはこれから行く先へと視線を向ける。
「他の仲間も見つけ合流せねバ」
 羽毛が生えた2体の異形。ビルシャナは次の仲間の元へと移動するため、行動を開始した。

「みんな、集まってくれてありがとね!」
 ヘリオライダーである籏本・杏鶴(ドワーフのヘリオライダー・en0198)はヘリポートに集まったケルベロスたちへと説明を始めていた。
「皆のおかげでドラゴン勢力が制圧してた地域の解放が進んでたんだけど、そこに出てきたのはビルシャナ、天聖光輪極楽焦土菩薩」
 天聖光輪極楽焦土菩薩は破壊した地域からグラビティ・チェインを奪い、ビルシャナ大菩薩を再臨させる為に、強力なビルシャナを集結させようとしているとのこと。
「ビルシャナ大菩薩の再臨を企んでるとか、放っておくわけにはいかないよね」
 再臨を阻止するためには奪ったグラビティ・チェインから生み出されたビルシャナと、そのビルシャナが強化した者たちを見つけ出し倒さなければならない。
「戦闘になる場所は都内にある小さな公園。敵は2体いるよ」
 まずは天聖光輪極楽焦土菩薩の力で生み出された竜牙兵系のようなビルシャナ。そしてもう一体はそのビルシャナに力を与えられビルシャナを化した人間だ。
「元人間のほうはね、いうなれば命を大切にしないヤツ皆殺し大明神。って感じのやつだよ」
 とにかく命を大事にしない者への憎悪を抱いている。無闇な殺生だけでなく、食べるための殺しもダメ。その感情のせいか、ビルシャナと化した後はデウスエクスを殺すケルベロスに対して特に激しい憎悪をむき出しにしてくるという。
「使ってくる力は両方ともビルシャナのものだけど、それぞれ違った力を使ってくるみたいだから全体的に注意してね」
 ビルシャナは遠距離主体で、列攻撃と単体攻撃を使い分けてくる。
「時間は真夜中。一般人に関しては巻き込んだりは無いはずだから気にしないで。とはいえ2体を同時に相手にしなきゃいけないから、皆十分に注意して挑んでね」
 杏鶴はそう言うとヘリオンの中へとケルベロスたちを誘導し始めるのであった。


参加者
皇・絶華(影月・e04491)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
伊礼・慧子(臺・e41144)
嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)
 

■リプレイ


 都会にあるとある小さな公園。月明かりと街灯に照らされてなお辺りは薄暗い。
 良い子はもう寝る時間といっても良い真夜中の時刻。
 ケルベロスたちは大菩薩を再臨させる為に動き始めたビルシャナたちを倒すため、この地に降り立っていた。
 公園の中心部分へと向かえばすぐにビルシャナたちとケルベロスたちは会敵した。
「来たか邪魔なケルベロスたち共メ」
「コケー!! ケルベロス! 命を大事にしないお前達は必ず皆殺しにしてやるコケ!!」
 二体のビルシャナ。竜牙兵系のようなビルシャナはケルベロスたちを睨みつけ、かたや鶏のような姿をした命を大切にしないヤツ皆殺し大明神(略して皆殺大明神)はおかしなテンションで騒ぎ立てる。
「これが命を大切にしないヤツ皆殺し……なんて矛盾に満ち満ちているんだ……」
 出会ってそうそう、竜牙兵系ビルシャナはまだしも皆殺大明神のふざけた見た目に矛盾な言動。瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)は皆殺大明神の言葉に呆れ返る。
「成程……命は確かに大事だ。しかしそれならば我々の命に関してはどうなのだろう」
 皇・絶華(影月・e04491)はそう尋ねる。デウスエクスもケルベロスも命という観点では同じではないのだろうか。
「まず肉を喰らうという段階で貴様らは大罪人なのだコッコー!」
「ふむ、肉か。しかし植物にも命はあるに違いないし、果実の可食部は果肉とも呼ぶがそこのところはどうなのだろうか」
 嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)の的確な指摘に続き、八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)は訴える。
「そ、それにそんなことを行ってたらお肉を食べる動物が絶滅してしまうのです! ネコさんとか! にゃんことか!!」
 あこの横ではウイングキャットのベルも頷き同意を示していた。もう一人、あこに同意しモヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)はミミックの収納ケースを従えそう言い放つ。
「そのとおりデス。無為に肉食を否定するだけでは世の中が崩壊するデショウ」
「無駄話はイイ。我々は戦うまでダッ!」
 ぐぬぬという雰囲気を体全体から醸し出す皆殺大明神を捲し立てるように竜牙兵系ビルシャナは静かに吠える。
「ええそうですね。大菩薩を再臨させるわけにはいきません。必ず貴方達を屠らせていただきます!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)はそう応えると同時に、白ノ凍翼剣を手に臨戦態勢へと移行する。
 その動きに呼応するようにケルベロスもビルシャナも得物を構え、戦の火蓋が切られるのを待ち構える。
「それにしても不思議な教義です……」
 伊礼・慧子(臺・e41144)は武器を構えつつ、皆殺大明神を見つめ小首をかしげるのであった。


「デウスエクス殺すケルベロスが許せない? デウスエクスも数百年間人間を虐殺してるじゃありませんか!」
 皆殺大明神の一方的な言い分にミリムは憤る。しかし実は内心タンドリーチキンにしたら美味しそうとか思ってなどいない。
 敵よりも先に動いたミリムはしなやかにレイピアを振るい、幻術で作り出された薔薇が舞い散る。
 その効果は攻撃が直撃した皆殺大明神を前後不覚の状態へと陥れた。
「コ、コケッ!? コケー!!」
「チィ。貴様、暴れるナ」
 催眠がうまく決まり、嵌めることができるかと思ったがそうはいかない。
 竜牙兵系ビルシャナはすぐさま清めの光を放ち、皆殺大明神の状態を回復させてしまう。
「ムキー! やっぱりケルベロスめ許さないコケー!」
 催眠に引っかかったのがよほど悔しかったのか、地団駄を踏みながらメラメラと燃える孔雀の尾を形成。
 その尾から放たれた炎は最初に標的として目に入ったのだろう、収納ケースへと襲いかかってくる。
 だが元々防御を固めていた収納ケースは体内のエクトプラズムで盾を作り出し炎を受け止めた。
「よし、収納ケースそのままやっちゃってくださいデス」
 モヱはMagical i-Landを振るい、すぐさまエレキブーストで回復と同時に能力向上を目的とした効果を付与。
 回復を施されている間に次は剣を作り出していた収納ケースは完了と同時に皆殺大明神へと斬りかかった。
 皆殺大明神の様子を見るに、かなりこちらの言葉や行動に感情が流されやすいタイプだと判断した絶華。
 収納ケースに続いて霊峰天津紫茨を手に肉薄しつつ言葉を投げかける。
「俺たちを殺したところで、死体を有益に活用するつもりもないのだろう。それは肉食よりもはるかに劣る命の無駄遣いでは?」
「コッ、コケー!?」
 その言葉により迫りくる攻撃を避けようとしていた皆殺大明神の動きが一瞬止まる。
 力を溜め超高速で放たれた斬撃は皆殺大明神の腹を斬り裂いた。
「命を絶っているということに関するならば、お前は人であった時歯磨きをするたび、身体を洗うたび、お前のみに宿る細菌などの生物を殺していることになるが、そこに関してどうなんだ?」
 絶華はさらに皆殺大明神を言葉と斬狼によるスターゲイザーで追撃。
 ケルベロスたちは二体のうちまず落とすべきは皆殺大明神と判断し、続々と攻撃を仕掛けていった。


「ええい煩いコケー!」
 ケルベロスたちからあれこれ指摘や問いかけをくらい思考を乱されている皆殺大明神は明らかにその行動や攻撃威力を下げ、ケルベロスたちの優勢が続いていた。
 槐は縛霊撃を放ちながらさらに皆殺大明神に問いかけていく。
 閉じた瞳で世界を視る槐だが、視覚以外の感覚を研ぎ澄ませているため何も問題なく行動が可能であった。
「お前が言う無闇な殺しの定義とは何なのだ」
 悪いから殺すという現在の行動は皆殺大明神が考える崇高な行いなのだろうか。
 問いかけることにより皆殺大明神の思考を奪っていく。
「いちいち耳を傾けるナ!」
 竜牙兵系ビルシャナは味方に喝を入れながらも前に詰め寄る右院たちに向け氷でできた輪を飛ばす八寒氷輪の攻撃を仕掛けてくる。
 だが、攻撃を味方が食らってすぐ、あこ動く。
 即座にじゃれつきヘヴィメタルを歌い攻撃を受けた味方を回復していく。
「耳を貸そうが貸すまいがどっちでもいいのです! 菩薩がゆるしてもあこが許さないのです!!」
 あこは皆殺大明神との出会い頭ではちょっと美味しそうな身体とか思わなくもなかったが、今やそのような気持ちは欠片も残っていない。
 可愛いねこさん筆頭とした素敵な動物を滅ぼそうとする輩は成敗するのみなのだ。
 あこに続きベルは清浄の翼を使い、敵の攻撃で崩された味方の耐性を再び上げていく。
 続いて動いた慧子は皆殺大明神へと急速に間合いを詰める。
 慧子は攻撃を仕掛けながら竜牙兵系ビルシャナに邪魔されぬよう皆殺大明神にだけ聞こえる音量で語りかけた。
「憎い者には地獄を味あわせながら生かし続ければ、命を大事にすることにも繋がりませんか? ひと思いに殺すことは慈悲になる場面があるとも思いますが」
「――っ!」
 皆殺大明神の動きが完全に止まり、その隙を見て慧子は急所を突く。
「げふっ! む……ねん……」
 皆殺大明神はその場に崩れ落ち、その瞳から生気が消える。
 残るはあと一体。ケルベロスたちは敵の姿を見据えた。


「予想以上にもたなかったカ」
 竜牙兵系ビルシャナは皆殺大明神が崩れ落ちたのを一瞥だけし、ケルベロスたちへと向き直る。
「残るはあなたのみです。デウスエクスと人類の生存競争である今、私たちは負けるわけにはいきません!」
 ミリムは竜牙兵系ビルシャナに言い放つ。
 菩薩の光でビルシャナになった者は人という人生を捨ててしまう事になるため、皆殺大明神になってしまった人へと力を与えたことも許せないのだ。
「どうとでも吠えるがイイ。勝つのは我々ダ」
 疲労の色が見え始めるケルベロスたちに対し、再び八寒氷輪をしかけてくる。
「そう何度も同じ攻撃を喰らうものか」
 ビルシャナからの攻撃を見事に避けたのは絶華だ。
 攻撃を避けた絶華は古代の魔獣の力をその身に宿す秘儀、四門『窮奇』を発動し、ビルシャナへと襲いかかる。
 それとほぼ同時に動いたのは慧子だ。
「あなたは静かでやりやすいですね」
 先程まで騒がしかった皆殺大明神とは対象的な竜牙兵系ビルシャナを相手に攻撃に集中できると慧子は思う。
 古代語の詠唱により放たれたペトリフィケイションは絶華の攻撃の合間を縫うように飛来しビルシャナへと着弾。
「あともう少しだから、皆がんばってくだサイ」
 モヱは雷の壁を構築。傷をうけた味方とすぐさまライトニングウォールで癒やしていく。
 だんだんと味方の傷も癒えにくくなっていくが、敵は残すところあと一体なのだ。
 ここが踏ん張り時だろう。
 ケルベロスたちは声を掛け励まし合いこの戦いを乗り越えていくのだった。


 一対一の戦況となってから数分。ケルベロスとビルシャナの攻防は続いていた。
 しかしケルベロスたちからの集中攻撃をもらいつづけたビルシャナはケルベロスたち以上に傷ついていた。
「あともうひと押しだろう。いくぞ」
 槐はモヱの収納ケースがビルシャナの足へと齧りついたのを見て、即座に攻撃をしかけに行く。
 足元に気を取られていたビルシャナの顔面へ槐が放つ縛霊撃が直撃。
「あこも行くです!」
 槐に続きあことベルはともにビルシャナへと接近。ベルは伸ばした爪による攻撃を、あこは猫パンチもとい戦術超鋼拳を放ちビルシャナを攻撃した。
 続けて畳み掛けられた攻撃にビルシャナの身体は揺れる。
「こ……の……」
 傷つき倒れ込みそうになってもその場に踏みとどまったビルシャナは、反撃するべく経文を唱え始めたがそれより早く右院が動いた。
「その行動は許さない。これで終いだ」
 先に畳み掛けたケルベロスたちと華麗にスイッチするように前に出た右院はビルシャナを水の霊力を浴びた刀で深く斬りつけ、傷口に氷の花を咲かせる。
 傷口に裂いた氷の花はビルシャナが倒れると同時に砕け散ったのであった。


 戦闘が終わり静まり返った真夜中の公園は街灯がチラチラと揺れている。
 傷ついたものたちも多いが、倒れるものなく戦闘を終えられたのは見事だっただろう。
「傷は治しまショウ。まだ傷が残る方はワタシのとこでどうぞ」
 モヱがそういうと、傷が残る味方はモヱの元へとゆっくり集まったり、自分で回復を行ったりしていく。
 皆のゆったりした動きは戦闘が終え、緊張状態がとけた証だろう。
「戦闘によって破壊してしまった周辺は直さねばなりませんね」
 慧子は率先してヒールを使い削れたり破壊された周囲の環境を直していく。
「これで終わりか。しかしあのビルシャナは元々過激な人だったのだろうか……」
「どうだろうな。しかし無事戦い切ることができて何よりだ」
 身なりを整えながらそう呟いた右院に槐はそう応えた。
「うん、なんとか勝てて良かったです!」
 あこはこれでネコさんたちを守ることができたと安心した表情を浮かべていた。
「これでデウスエクスに虐げられた人々に少しでも報いれることができたでしょうか」
 ミリムは被害にあった人々を思い、少しでもそのような人たちの力になれたならばと思う。
「命を奪うという行為はとてもつらい事だ。それが身近な者であれ、敵であれ」
 絶華はビルシャナの遺体に関しても可能な限り埋葬できればと働きかける。
 命を奪う者たちであれど、土に帰れば新たな命の土壌となるだろうと考えたのだ。
 ケルベロスたちは事後処理などを終えた後、それぞれが帰途へとつくのであった。

作者:鬼騎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月11日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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