ハニーの誕生日~光と芸術ときどき食欲ナイトクルーズ

作者:ハッピーエンド

●今年もやりますリハーサル 
 ゲートを潜ると、暗闇がボクを包み込んだ。手探り、手探り、壁に手を当て歩きだす。
「ひゃあ、冷たい♪」
 手先にヒンヤリつるつるの壁。思わず足元スッテンころりん。アハハと笑う声が、道の先で木霊する。
 気を取り直して、ボクは進む。
 コツーン。コツーン。
 足音が歌い出す。まるで洞窟を歩くよう。ヒンヤリ冷や冷やなにかの気配に近づいていく。
 ――開かれた場所。
「お嬢ちゃん。点灯して良いのかい?」
「こういうのは不意打ち上等です!」
「なるほど。ちげぇねぇ」
 ――ブワッ。
 地の底から、光が舞い上がる。世界は一気に色付いて、ボクは思わず眩しさに目を細めた。
 青に緑にピンクに紫。うねりをあげる光の洪水。世にこれをイルミネーションと言うのだとか。
 そんな中に金色の人影。堂々として力強く。ボクの2倍くらいありそうな氷の彫像。あるいは剣を振りかぶり、あるいは弓を引き絞り、あるいは竪琴を奏でている。
 アレス。アポロン。オルフェウス。
 光に揺れる太古の英雄。広々ホールのそこかしこに、像はズラッと、それでいてスペース充分に立ち並ぶ。
 ダビデ。ゴリアテ。ソロモン王。
 アキレス。シーザー。アレキサンダー。
 そして――、
 ――アモーレ。
 ……なんで? 不思議と違和感がないよ、コレ。え? 誰がいったいいつの間に――。
 その像は大きくて、金色で、涼やかで、夏のうだるような暑さからボクを救い出してくれるのです。
「フフ」
 誰がやったかサプライズ。よいしょ。ボクはその場に座ります。7色に輝くヒンヤリベンチに身を委ね。暫し、その人の顔をジックリゆったり下からひょこひょこ覗き込むのです。
「……氷の双子みたい」
 言葉はため息と一緒に出ました。まるで魔法使いがアモーレをそのまま二人に増やして、氷に閉じ込めたよう。そう考えると、周りに悠然と立つこの人達も、いつかの時代を生きてきた本物のような気がして――、思わず零れたため息は、赤に青にと照らされて、空へと昇って行くのでした。

「イルミネーションゾーンはバッチリだったね。メイン会場も楽しみだなぁ」
 るんたかるんたか。ボクは責任者のお兄さんに挨拶すると、氷の世界を後にしました。
 潮風が頬を撫で、零れる様な星屑がボクの心を照らします。
「今宵は雲一つない快晴。当日もしっかりお願いします!」
 空にペコリとお辞儀して、ウキウキ気分で扉を目指す。懐かしい。あの、夢の扉を。
 ――ああ。今年もあの光景を見れるんだ。嬉しいな。楽しいな。
 鼓動はスキップ。お腹はキュルル。
 さぁさ奇跡の幕が開く――。
「「「ショータイム!♪」」」
 扉を開けたらそこは、美味しそうな匂いがゴウゴウと吹き付ける楽園でした。思わずゴクリ。期待の音が零れます。
「ふ。求めているんだな? 俺を」
 料理長が素敵タップでムーンウォーク。次の瞬間、ボクの手には真っ白なフリーパスが。まだ何も置かれていないお皿。
「呼んでるぜ? どいつもこいつも良い声で。さぁ、応えてやんな!」
 ジュウジュウ♪ トロトロ♪ さくっさく♪
 お肉は照り照り。サラダは瑞々。パスタは色鮮やかに。パイは神々しく――。
 ――世界は希望で満ちているんだね♪ ありがとう♪
「いただきます! さぁ! 皆さんもご一緒に!」
「「「いよっしゃああああ!!! いただきます!!!」」」
 そこから先は去年のように。ボク達は美味しい一夜を過ごしたのでした。

 当日は、みんなもいっぱい楽しんでくれるといいな♪


■リプレイ

 甲板に上がると、夜風が頬を撫でた。
 今宵の客は15人。月華の下でワイワイガヤガヤ。
 ――キィ。
 扉が開いた。光が零れた。
「みんなお待たせー! ショータイムの始まりだよ!」
 透き通った明るい声。緑のエルフが躍り出す。必死に頑張るムーンウォーク。だけれど残念ギコチナイ。
「「「「「ハニー! おめでとう(意訳)!」」」」」
 パァン!
 クラッカーの音が夜空に響く。
「わーい!」
 幸せハニーは満面の笑み。
 そのままワイワイ盛り上がり、皆で一緒に大ホール。
 明るい光が照り渡り、得も言われぬ、い~香りが包み込んだ。
「エクセレント! 宴の始まりです!!」
 よく通る声が響き渡り、コックたちも躍り出す。
 さぁさぁ何を食べようか? 腹ペこ軍団がいま解き放たれた!

●ホール
「これは素敵な光景ですネ……」
 広々ホールに絢爛豪華な料理が並ぶ。給仕やコックも物腰柔らかリズミカル。エトヴァは思わず息を零す。
「こんなに食べて良いのかってぐらい、食べて帰りたいよね」
 スゥッと腹中を香りで満たし、アンセルムが猟場を眺める。バターと肉の弾ける匂い。あぁ、あのステーキはなんて魅力的な色をしているんだろう。
「まったく腹が減るな」
 モグモグ。ナザクは既にスタートダッシュ。今日は食べるぞ。ひたすら食べる。皿上で世界一周旅行だ。
「あの凛護先生によるアップルパイがあると聞いたら、当然お腹いーっぱいに食べねばなりません!」
 腹減り環は、クンクン可愛い小鼻を揺らし、ウキウキ探索モードに突入。
「あれは美味いぞ。あの名前は決して大袈裟ではない。ええと何だったかな」
「アルティメ……? そんな噂の、アップルパイですネ。俺もぜひ、食べてみたかったのデス」
「ええ、凛護さんは至高のパティシエ! あのアップルパイは最高でした……。アルティメット・デリーシャス・グレイト・ビックバン……そして今日はバースデイスペシャルバージョンに違いありません!」
 目の中をキラキラ星に変えて恭志郎が拳を握る。いつもは穏やかな青年だが、スイッチが入ると情熱の化身になることはこの界隈であまりにも有名。
「今日は運命のアップルパイに出会える気がするです!」
 ジェミの胸はワクワク跳ねる。純粋なジェミの頭の中でアップルパイは次々と階級を上げ、もはや想像も出来ぬ神界の食べ物レベルに昇華している。
「ハッ! こっちから良い匂いが!」
 ジェミの鍛え抜かれたセンサーがソレを捉え、
「発見! あの輝きは間違いないです!」
 環のニャンコセンサーもソレを捉えた。
「求めているのか? この、俺を!」
 光り輝く頭髪をした料理長が、両手に料理皿を載せムーンウォーク。
 ワッ! にわかに場が活気づく。
「元気そうでなによりです! 凛護さんのパイを食べるのが楽しみで楽しみで! あの、アルティメッ――」
 スッ。
 サングラスをかけた料理長が言葉を制した。
「残念だが、お前の言っている凛護はここにはいない」
 ――な! なんだってー!!
 ガガーン!! 恭志郎の頭から目に見えるぐらい巨大なガガーンが飛び出した。
「何故なら――」
 パチンッ!
「――人は成長する。そしてパイは進化する!!」
 場内に風が吹き荒れる!
「見よ!! これが究極のパイだ!! インフィニット・スウィート・ハーモニー・エクスプロージョン『封凛香残・凛音天昇』!!」
「「「お、おおおおおおおおおお!!!」」」
 インフィニットキラキラ金色アップルパイが君臨。
「聴け!! 天使の歌声を!!」
 ザクッ!! ……トロォ。
 黄金の香りが炸裂し、その場の全てを包み込んだ。
「さぁ、この声に応えてやるのは誰だ?」
 口の中に溢れるよだれの洪水はいかんともしがたく。

 騒ぎに釣られ、導かれし者達も集結。
「匂いに呼ばれた気がした」
 ニューチャレンジャー・ドヤフレッド。
「うおー! これを探してたんだよー!」
 お目目バッテン・万歳ラルバ。
「やはりおすすめの林檎パイをいただかないとなりませんね」
 自然に溶け込む・はんなりルリ。
「お元気そうで安心しました」
 陽だまりの笑み・柔らかレカ。
 他にもついつい誘われて、この場に来た人が居たかもしれない。
 腹ペコ達の目の前に、今スッと華麗にパイが並ぶ。
 この場に相応しい言葉は一つだけだった。
「「「いただきます!」」」
 サクゥッ!
 ――世界は幸せに満ちていた。
 蜜が、リンゴが、パイが、口の中でとろとろジュワァ。
「美味しいですー! 美味しいですー!」
 ジェミが堪らず身体を揺らし、
「……ン、何とも美味デス」
 エトヴァも幸せそうに目を細める。
「はぅ……サクサクトロッとした甘さに包まれて、至福ぅー……」
 ほふぅと顔を傾けながら、環は夢心地。
「♪ ♪」
 恭志郎は世界を手に入れた。
「ジェイドおすすめのアップルパイ。楽しみにはしていたけど、これ程とはね」
 うんうんと頷きながら、アンセルムが人形と顔を合わせる。
「だろう? 美味いんだよ」
 ナザクはドヤ顔。
「だろう? 美味いんだよ」
 ドヤフレッドもドヤッドヤ。
「……んー、味わって食べるとめちゃくちゃうまいな、これ!!」
 ラルバは尻尾プルプル、キラッキラ。
「んん、とっても美味しいです」
 ルリは頬に手を当て友を見て、
「ふふ、美味しいですね」
 レカも微笑を分かち合い、幸せそうに笑みを零した。

「やっぱり料理長はあのパティシエだったな。味には相当期待できそうだ」
 ヒノトは友人のクィルをアモーレに紹介し終え、ウキウキムードで小動物の頭を撫でている。
「俺はデザートメインでいくぜ!」
「うん、勿論デザートメインで」
 二人は見渡す。絢爛豪華な食事の森を。
「俺はサツマイモプリンにミルクレープ……さっぱりした味も欲しいし、柚子シャーベットも貰うか」
 純白の皿がヒノト色に染まっていく。
「僕はチョコ尽くしでいってみよう」
 ショコラプリン。チョコフォンデュ。ガトーショコラ。ブラウニー。
 あっという間にギッシリずっしり、クィルの皿はダークブラウンに染められた。
 狩りから戻った二人は互いにギッシリの皿を見て、ニィ。
「いただきますっ」
 同時にパクリ。もむもむもむ。
「「……!?」」
 驚きと嬉しさで目を丸くして、思わず顔上げ見つめ合う。
 ――ホックリとしたイモの味。なめらかトゥルンと舌を滑る。そのままジュワァと溶け消えて、身体の奥から甘みが溢れる。
「完璧すぎて言葉で言い表せねえ……」
 ――カカオの香りが吹き抜けた。シットリ馴染んだ食感が、甘みと共にまったりゆったり沁みていく。
「んんーーーー、しあわせ……ほっぺが蕩けちゃいます」
「これが食べ放題ってやべえ」
 思わず会場を見渡す。食べていない料理はまだまだいくらでもある。
 色々食べたいけど俺の胃袋じゃ……。
「そうだ! クィル、少し交換しないか?」
「うんうん、交換こしよう――あ、僕の方チョコばっかりだけど大丈夫かな……でも美味しいよ」
「大丈夫だ。チョコも好きだしクィルのお墨付きなら尚更食べたい」
 半分に分かれる戦利品たち。これぞ友達。嬉しいも楽しいも二人なら二倍に増える。
 輝く時間が過ぎていく。美味しいものも共有も、ヒノト/クィルとだと一層楽しい。

 さてカメラは動き、ルリとレカ。
「今日はご馳走をたくさんいただく気で参りましたから!」
「私も今日は食事を抜いて参りましたともっ!」
 ふんっ。とした顔で見つめ合う。それはまるでにらめっこ。3秒持たずに笑いだす。
 ルリの視線はタルトに釘付け。ふふ、とレカが口元を隠し、
「やはりルリさんはタルトが気になるご様子ですね」
「自作以外のタルトを楽しみたくて」
 照れるように笑みを返せば、
「つまり――求めているんだな? コイツを」
 パチンッ。あいつが現れる。
「思わず歌う、『ラ・ラ・ラフランス』。舞うぜ? 天に」
 それは黄色いタルト。表面の蜜がキラキラ艶々。
「白桃のものもありますか」
「誰もが求める『桃の姫』。気づいた時には、もう虜」
 溢れんばかりに桃の載る、優しい香りの桃タルト。
「「ありがとうございます!」」
「召し上がれ」
 期待に頬を染め上げて、2人同時に、
 パクリッ!
 ――洋ナシが吹き抜けた。爽やかでみずみずしい。酸味と甘みが溢れ出し、思わずギュッと目を瞑る。
 ――しなりとした果肉から、桃の果汁が溢れ出す。どこかお洒落な甘酸っぱさ。思わずギュッと目を瞑る。
 タルトはホロホロ甘じょっぱい。
「とろけてしまいそうな美味しさですね……っ」
「ええ!」
「レカさん、こちらのタルト一口どうぞ」
「まぁ、ありがとうございます」
 優しくあーんと口に運び、
「ルリさんも!」
 優しくあーんと口に運ぶ。ルリの眦は思わず下がり、
「どちらも果実の味が引き立っていますね!」
 今日一番の花が咲く。
「ふふ、幸せな時間ですねぇ」
「ええ、幸せです」
 この人こそ『しあわせ』。心の中で互いにソッと命名した。

 次に捉えた被写体は、ずんずん歩く黒の耳。ミリムはニコニコ歩を進める。
 『アレ』ができるまで、存分に楽しまなければ!
 黄色く輝くターメリックライス! オレンジ色のバターチキンカレー! 緑色が鮮やかな、ほうれん草カレー!
 こんもりよそって席に着く。いざ!
 パクッ!
「んんッ!」
 スパイスが暴れる。バターがとろける。ご飯が進む。止まらない。
「スパイスと辛味が効いたシークカバブもおいひいれふ……!」
 肉の塊を串から一気に引き抜きモッモと頬張る。だめだ。旨みが。肉が。止まらない。
 シメにパリパリ食感のパパドを堪能して、よく冷えたアイスのチャイに手を伸ばし、プハッ! んー、ひと心地ー! 気持ちいいー!
 椅子に身体をあずけてのけぞると、ハニーの姿が目に映る。
 ミリムは、よーしと席を立つ。

 さて、ヴィルフレッドは優雅に食事を楽しんでいた。
 あっさりスッキリ夏野菜のスープを口に運び、
 お次は鴨肉のロース・フルーツソースかけ。肉の風味を楽しみながらもあっさりサッパリもたれない。
 あっさり料理を次々口に、さてさてそろそろ甘~い時間。
 鮮やかオレンジひんやりゼリー。大粒ぎっしりブルーベリータルト。
 両手に甘味をこんもり載せて、鼻歌交じりにホールを歩く。
 いたいた見つけたターゲット。その横には見た顔も。二人の声が聴こえてくる。
「食べられちゃうの??」
 うん。ごめん。なんの話だろう。
 首を傾げるハニー。慌てているのはラルバ。まったく話は掴めないけど、
「食べられちゃうみたいだね」
 シレッとドヤ顔で参入する。
「うおおヴィルフレッド! 違うんだって!」
 ピュアな反応はちょっと面白い。
「オレは『チョコ』を一緒に食べないか? って聞いただけで!」
「見て。『チョコ』の涙に濡れたつぶらな瞳」
「チョコレートのことだよ!」
 漫才かな? そもそもボクスドラゴンって食べられるのかな?
「ヴィルフレッドさんも一緒する?」
「そういうことなら、スイーツを持ってきたところだよ。ハニーさんは主役だから、ね」
 ドヤ。
 ということで、人も増えてのティータイム。食いしん坊3人で、パクパクムシャムシャ素敵な時間。
「一杯チャイはいかがです?」
 甘い誘惑。黒耳少女も現れた。
「飲む飲むー!」
 そのままミリムも合流し、楽しいお茶会ワ~イワイ。
「そろそろお代わり取り行くか?」
「ハチミツを使ったお菓子が食べたいかな。作っているところも見たいかも」
「つまり、求めているんだな? 俺を」
 はい。あの人です。
「流れる滝は金色の蜜、『ゴールデン・タルト・ラッシュ』」
 キラキラ光る金箔・ハチミツ。一口サイズのタルトがツヤツヤ輝き、ラルバのチョコをトロトロ加え、
「誘われるぜ? 夢に」
「「「「いただきます!」」」」
 パクゥッ!
 ――上品な甘さに、大人な風味のシットリタルト。広がる広がる。蕩ける蕩ける。
 4人は顔を見合わせて、
 パシーンッ!
 言葉を越えた喜びを爆発させるのだった。

 さてさて【星辿】の仲良し6人。モグモグ! パクパク! ガツガツ! ゴックン!
 重ねた皿はエッフェル塔。ステーキの肉がほとばしり! ソーセージはパリッと肉汁を飛ばす! ハンバーグは口内で旨みを撒き散らし! 大トロはトロリと舌の上で溶けた!
「今回ばかりは別腹を開放しても許されますよね! ねっ!」
「ですよね環さん! これだけのご馳走を前に食べない訳には!」
「別腹どころかもう1つぐらい、替えの胃袋用意しても許されるんじゃないかな」
 ふううううん。環と恭志郎はなにやら解放の儀式を始める。アンセルムは替えの胃袋を装着した。ように見えた。
「別腹に、替えの……胃袋……?」
 真面目なエトヴァは目を丸くする。
「取り外すんだ。カパッと」
「そうなのですカ」
 シレッとナザク。純粋エトヴァ。
「なかなか便利なものだよ」
 アンセルムも乗っかり、
「レプリカントなら出来るかもしれませんね!」
 ジェミもポジティブ。
「冗談だ」
 ツッコミ不在にナザクが折れた。
 他愛ない会話はご飯の量だけ積み重なり、時もどんどん積み重なる。
 溢れる肉汁。とろける甘味。珍しい料理を見つけては感想を語り合い、逸品を見つけてはシェアし合う。
 重なる瞳。重なる想い。
 皿もどんどん積み重なる。
 6人がイルミに移動した後。現れた給仕はこう語ったという。
「バベルの塔か」

●イルミ
 さてさてお腹も満ちてきて、皆それぞれにイルミへ向かう。
 ある者は大事な人の手を握り、ある者は両手にお気に入りの逸品を持ち、神秘の路をコツコツ歩く。

「イルミネーション綺麗です。冬の祝祭みたいです」
「ああ、とても綺麗だね。彫像達も立派だし、涼しくて良い」
 こちらはホリィとロコの竜人2人。
 光に色付く路と像。太古の偉人が色を変え、
 イルミのうねりは相手の顔も染め上げる。青、緑、黄、赤。
 色付くソレは、どこか非日常的で、いつもと違った面を見せる。ほんのり胸がトクトク高鳴る。
「エピカさん、赤、好きですか?」
「……赤い色ばかり見ているって? さて、どうしてかな。何となく目がいくんだよ。金銀青と黒が僕っぽい? アハハ、そうかもね」
 金銀青に黒……。ホリィは思わず似た色の像を探し、
「……は……奥にハニーさんががが」
 ハニーの姿を見つけてトトトと駆けだした。
 実は先ほどお祝いのメッセージをかける時、緊張のあまり言い損ねたことを引きずっていたりする。
 今リベンジの時。
「待って何処行くの。それはハニーじゃない、像だ。似てるけどね、似てるけど」
 後半は少し笑っている感じで。
「像ですか? 像でした……完成度が罠でした……」
 うなだれるホリィ。ロコはそれを優しい瞳で見つめ――、
 ヒュ。
 スマートにホリィの前へと尻尾を差し出す。
 ホリィは顔と尻尾を交互に見つめ、
 おずおずと、ゆっくり、優しく、その尻尾をギュッ。
 ――さりげない優しさ、安心します。
 そのまま二人、イルミの海をゆったり泳ぐ。先導するのは、優しく、儚げなひと。
 ホリィの頭の中に、あの日のイルミが蘇る。
 ――いつも気怠そうな人です。最近少し儚げです。街で噂を聞きました。ナイトクルーズのお話でした。イルミの色で閃きます。わたしの勇気が試されます。
 その想いは、尻尾の先から温かさとなって、ロコに伝導する。
 ――僕の尾先を握りながら光の海を見ている君。誘ってくれてありがとう、心配してくれたんだろ。その勇気に何を返そう。
 考えながらのんびりと、真夏の柊と別れ際まで。
 別れ際に手を振ると、黒い夜空に蒼が舞いました。

 さて、一方ミリムは『アレ』の完成を見に来ていた。
 それは、イルミの光に照らされて、クリスタルのように輝くナノナノ像!
 ご飯の前に職人さんへオーダーしておいたのだ。
 思った以上に幻想的! 胸にキュンとくる可愛さもある!
「最近友のお陰でだんだん好きになってきたんです」
 分かりますよと職人は笑い、なにやらゴソゴソ他の氷像にかかった布を次々と剥いでいる。
「こ、これは!」
「俺の中のダヴィンチが、囁いてしまいましてね」
 ズラッと並ぶ15の氷像。両サイドにはハニー像とアモーレ像。イルミに照らされキラキラ瞬く。
 その光景は圧巻で。
 声につられて、仲間も集まる。
「イルミネーションもキレイだし、氷像もリアル……って! オレたちの氷像も作ってくれたのか!?」
「おや、ボクの人形もしっかり彫ってくれたんだね」
「……素敵な光景ですネ」
「そういえば、去年アモーレさんに聞きそびれたことがあった気がする」
「それな」
 思い思いに語り合う。

 光は輝く。時も輝く。
 仲間はどんどん歓声に呼ばれ、そして始まる撮影タイム。
「とりあえずアモーレ像とハニー像は撮らなきゃですね」
「それじゃあ俺が撮りますよ。……はっ、両手塞がってて写真が撮れない!?」
 集まった仲間たちは思う存分、笑い、話し、時を切り取った。
 筋書きは無い。その時そこに居たいと思った者は、余すことなくその場を楽しんだのだ。
「さぁ笑って笑って!」
「撮りますよー!」
 パシャ!
 笑顔が残る。写真に。記憶に。
 今度は誰と撮ろうかな。

 大賑わいのパーティーを終え、ハニーは夜空を見上げた。
 今日みんなと撮った笑顔は、これからもずっと胸に残ることだろう。
「今度はどんなパーティーが良いかな?」
「今から楽しみですね」
「うん!」
 キラリ一すじ、星に願う。
「これからもみんなが幸せでありますように♪」

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月19日
難度:易しい
参加:15人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 3
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