夏空に竜十字

作者:犬塚ひなこ

●探しもの
 竜十字島、太陽の光が燦々と降りそそぐ時刻。
「この辺りだと思うんだけどなぁ」
 褐色肌の少年忍者は髪と同じ色の獣耳をぴんと立て、長い尻尾を揺らした。彼の周囲には植物めいた見た目のオーク、その名もオークプラントが十体ほど控えている。
 少年――尻尾集めのリッキーとの異名を持つ少年は周囲を見渡す。
「ほら、さっさと探してよ。じゃないとお前たちの尻尾を斬り落とすからね」
 リッキーはオークプラントたちに周辺の探索を命じた。
 すると配下たちは其々に草むらをかき分けたり、穴を掘り始めたりと何かを探しはじめる。少年も目を凝らし、懸命に探してゆく。
 そのとき、リッキーは風に揺れる何かを見つけて表情をぱっと輝かせた。
「尻尾だ!」
 思わず飛びついた先にはふんわりとした塊があった。手にした刃でそれを斬り落としたリッキーだったが、すぐにそれが尻尾ではないことに気付いた。
「なーんだ、エノコログサかぁ。こんなのを見間違えるなんて疲れてるのかな。あーあ、『あれ』よりも尻尾を探して集めたいのに」
 はあ、と溜息をついた少年はオークプラントたちを見遣った。
 早くあれを見つけて帰りたい。自分本意な少年らしい、つまらなさそうな表情を浮かべた彼は手にしていた草を放り投げる。
 そうして振り仰いだ空の色は、眩いほどに夏の色を宿していた。

●竜十字島と螺旋忍軍
 彼らが一体何を探し求めているのか。それは未だ分からない。
 だが、竜十字島で螺旋忍軍が何かを捜索していることは確かだ。雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)はかなりの数の螺旋忍軍が探索を行っているらしいと話し、捜し物がかなり重要な物であると推測されると皆に告げる。
「いま、位置が捕捉できているのは『尻尾集めのリッキー』という獣人っぽい男の子の姿をした螺旋忍軍です」
 彼は現在、草が生い茂る平野で何かを探している。
 探索の配下としてオーク型の攻性植物、オークプラントを連れていることから大阪城の攻性植物、ドラゴンの残党との関連も疑われる。
「皆さまには探索を行っている螺旋忍軍の撃破をお願いしたいのでございます」
 捜索しているものの正体が何であれ、相手側に見つけられてしまえばなにか悪いことが起こることは想像に難くない。
 敵が連れているオークプラントは全部で十体。
 幸いにも捜索位置は予知によって判明しているゆえ、すぐに其処へ向かうことが出来る。
「オークプラントは愚鈍で力は強いですが、あまり頭は良くないようです。尻尾集めのリッキーも戦闘能力においてはそれほど警戒は必要ないみたいなのです。ですが……」
 リッキーはその名の通り、尻尾に執着している。
 もしケルベロスの中に尻尾を持つものがいれば重点的に狙われるだろう。また、リッキーは隙あらばオークプラントに足止めさせて逃げ出そうとする。その二点に注意が必要だと説明したリルリカはケルベロスたちに真っ直ぐな視線を向けた。
「螺旋忍軍を撃破して探索を邪魔するだけではなくて、敵が何を探しているかの情報も欲しいところです。でもでも、聞いて正直に答えてくれるとは思えないのでそこは駆け引きが必要かもしれませんです!」
 どのように敵と相対するかは向かった者次第。
 螺旋忍軍達が探している物を予測することが出来れば、敵の探しているものを我々が獲得することも可能かもしれない。そう告げ、リルリカはヘリオンの発着準備を整えた。
「それでは参ります! 竜十字島までびゅーんと向かいますですよー!」
 そして、ヘリオンは夏の空へと飛び立った。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)
深月・雨音(小熊猫・e00887)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
六角・巴(盈虧・e27903)
天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)

■リプレイ

●邂逅
 夏の陽射しは眩く平野を照らす。
 熱を孕んだ風が吹き抜けてゆく中、ケルベロス達は先を見据えた。
「ドラゴンがいなくなればこうも穏やかな島になろうとは……」
 先の戦争が嘘のようでにゃんすなぁ、と口をひらいた天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)は夏色の景色をぐるりと見渡す。
 ちょっとした夏旅行のようで気分も少し浮かれてしまいそうだが、まずは役目を果たさねばならない。
「ドラゴンの遺産探しですか」
「人様の土地で好物収集とは良い身分なことで」
 其々の思いを言葉にしたカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)と六角・巴(盈虧・e27903)は視線の向こうで動く者達を見遣った。
 地面を掘る十体のオークプラント。そしてそれらに指示を出す螺旋忍軍、尻尾集めのリッキーと呼ばれる少年。
 彼らの探す物が何であるかは不明だ。
 掘っているということは地下室か何かだろうか。カルナの予想にマルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)は首を振り、まだ分からないと示す。
「螺旋忍軍の狙い……一体何なのか」
 その謎が今回で探れれば良いと考え、マルティナは刺突剣を握り締めた。
 夏の風が彼女の纏う白軍服の裾や、結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)の白い毛並みを撫でていく。
 それによってレオナルドの尾がゆらりと揺れた。
 そのとき、リッキーが振り向く。
「尻尾の気配っ! しかもたくさんだ!」
 それまでつまらなさそうにしていた少年はぱっと目を輝かせた。それと同時にオークプラントたちも地面を掘るのをやめて此方に向き直る。
 敵だ、とは言わずに尻尾に真っ先に興味を示すリッキー。その様子を見たメロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)とウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)は軽く首を傾げた。
「尻尾収集……ふしぎな趣味ね」
「尻尾のコレクション?」
 どんなのだろう、と考えるウリルにメロゥが頷く。
 確かにもふもふふかふかで魅力的だけれど、切り取って集めるとなると趣が違う。
 数を集めたいだけなのか、何か拘りや縛りがあるのか。されど尻尾と忍軍の目的は全く別のもの。此方を襲うために地を蹴ったリッキーの気配に気付き、深月・雨音(小熊猫・e00887)は身構える。
「その尻尾、貰ってあげる!」
「尻尾にひどいことをするやつは許せないにゃ!」
 雨音はふわふわの尾をぶんぶんと振ってそうはさせないと威嚇する。即座にメロゥが前衛に雷壁を張り巡らせ、巴とマルティナも戦闘態勢を整えた。
「捜し物が何かを吐いてくれりゃ、耳くらいは出してやらんことも……」
「気を付けろ、来るぞ」
 見れば此方を探索の邪魔者として認識したオークプラントも迫って来ている。レオナルドは其方に向かい、刀を確りと構えた。
 螺旋忍軍の目的は何であるのか。それは一体、何処にあるのか。
 謎を巡る戦いが今、幕開けた。

●尻尾の魅力
「いけっ、尻尾がないやつはお前らが倒しといてね!」
 リッキーは此方の尾の有無を確認し、配下を嗾ける。巴は望む所だと敵を迎え撃ち、マルティナも伸ばされた蔓触手を受け止めてゆく。
 その間、少年忍者は雨音に向かった。
 カルナは彼女だけが狙われるわけにはいかないとして氷晶を伴った嵐を巻き起こす。更に猫丸は霊体の力を解放して仲間たちの援護に入った。そして、猫丸は探りを入れる為にリッキーに話しかける。
「何やら探し物をしていたご様子。尻尾集めより優先すべき代物とは、その探し物はさぞ魅力的な品なのでしょうなぁ」
「お宝探しって響きは、ちょっとわくわくしますね」
 其処にカルナも続き、宝の地図は無いのでしょうかと零した。
「あれは全然お宝なんかじゃないし、地図なんかで探せるものじゃないよ」
 するとリッキーは首を振る。探し物は彼にとっては宝に思えないものらしい。
「それはどういう……?」
 レオナルドが不審に思った瞬間、オークが放った触手が彼を絡めようと迫ってきた。それを刃で切り放ったレオナルドは竜槌に持ち替え、一気に敵を叩く。
 敵が揺らいだことを察したウリルは地面を蹴り上げて炎を纏う蹴撃を見舞った。
 それによって一体目の敵が崩れ落ちる。
 配下達の力は強くはない。それに加えて皆が容赦なく動いている故に撃破は容易だ。
 そのことにウリルは一抹の不安を覚えるが、手を抜くわけにはいかない。メロゥは再び守護の力を放ち、次は後衛の仲間へと加護を与えていった。
「あなたもすてきな尻尾を持っているわね。そんなにいい尻尾があるなら、他の尻尾なんていらないでしょう」
「関係ないよ。欲しいものは欲しいからね!」
 メロゥの呼びかけに少年は否定の意思を示す。
 雨音は更に自分に注意を引き付ける為に尾をアピールしてみせた。
「どうだにゃ! この尻尾、素敵だよにゃ?」
「うん、欲しい!」
 称賛の交じる声で答えた敵に対し、あんたもわかるやつだにゃ、と告げた雨音は全力で胸を張る。しかしリッキーは素早く雨音の背後に回り、尻尾を切り落とそうと螺旋の力を放った。
「こらにゃーっ、尻尾に傷つけるんじゃないにゃ! 収集家ならもっと大事に扱えにゃ!」
 手入れの行き届いたもふもふ尻尾だからこそ一番に狙われたのだろう。だが、やはり実際に自慢の尾を攻撃されるとなると怒りも募る。
 敵の一閃が強力だと察したカルナと猫丸はリッキーの側面に回り込んだ。二人が其々に尻尾を振れば少年の目が此方に向く。
「リッキーさんのお気に召すでしょうか」
「ふっふ、仮にもわちきは猫の名を冠する者。お手入れは万全を期しておりまする!」
「そういう尻尾も良いね。わあ!?」
 視線は見事に釘付け。其処に生まれた隙を利用してカルナは轟竜の砲撃を見舞った。痛みを感じたらしき少年は思わず後ろに下がる。
「ですが、はいどうぞと渡せるものでもないでにゃんす!」
 猫丸は大自然の護りを発動させ、傷を受けた雨音に癒やしを施した。
 しかし、主を助ける為にオークプラントが蔓草を伸ばしてくる。猫丸達の危機を察したマルティナは即座に地を蹴った。
 風をも切る刃で以て蔓を斬り落とし、捉えられなかったものは自らの受け止める。
 大丈夫かと視線で問うマルティナにカルナが頷いた。
 その間に巴とレオナルド、そしてウリルがオークへと攻撃を仕掛けていく。
「これ以上は通しません……!」
 レオナルドが呪怨を込めた斬撃で敵を切り裂き、ウリルが追撃を与えに向かった。オークはウリルを躱そうとしたが、その動きは鈍い。
「逃がさない」
 黒き竜が嗤い、禁断の契約が闇黒と血の虜となって迸る。
 其処で二体目が倒れ、更に巴が電光石火の一撃で以て三体目を蹴り倒した。巴にも触手が襲いかかったが、その威力は耐えられる程度のものだった。
「……拙いな」
 巴は呟く。それは敵を逃さぬよう不利な演技をしようとして発した言葉ではない。
 そんな演技を挟めぬ程に此方が敵を圧倒できているからだ。
「お前らって、もしかして強いの!?」
 現にリッキーは次々と配下が倒されている事に驚いている。メロゥも危惧を抱いていたが、少しでも相手を有利に見せようと苦戦を装う。
「気をつけて、皆。あの触手はとても厄介みたい……」
 嘘は言っておらず確かにそうだ。
 しかし明らかに番犬の有利になりつつある現状で演技は通じない。それに五体までは敵を倒すと決めた以上、それまでは攻撃の手を緩めることは出来なかった。仲間にはまだ回復の必要はなく、メロゥは竜砲弾を撃ち放つ。
 このまま行けばオークとの戦いには勝てるだろう。
 だが、肝心の情報を持っているリッキーを留まらせることができないかもしれない。懸念と不安は徐々に広がり、そして――。

●遁逃
 マルティナの放つブラックスライムがオークを包み込む。
 飲み込まれた敵はその場で力を失い、四体目が倒れ伏した。リッキーはそれを見て逃げ腰になっているようだ。
「や、やばい……」
 分身の術を用いた少年は自らの体力を回復させた。
 そして配下にカルナを襲わせ、攻撃の矛先を自分から逸らそうと狙う。カルナは蔓を受け、敢えて避けずに大袈裟に顔を顰めた。
 されどリッキーを逃さぬ為に今一度、氷晶の嵐を起こしてゆく。魔力を帯びた氷が少年を包み込む中、巴が五体目の敵を打ち倒す。
 メロゥはリッキーが逃走を計ってしまわぬよう声をかけた。
「……そんなに尻尾が好きなのね。メロも尻尾は好きだけれど、あなたの執着には負けるわ。今まででどれだけの尻尾を集めてきたの?」
「ふふーん。いっぱいだよ!」
 胸を張ったリッキーはこれまで集めた物について語り出した。饒舌にこのまま探し物についても話して欲しかったが、彼が口にするのは尻尾のことだけ。
 だが、気を良くして話していたのも束の間。
 これまでオークプラントを相手取っていたウリルやレオナルドがリッキーへと狙いを変えたことで、相手に更なる警戒を与えてしまった。
 雨音は麗しい毛並みを見せつけながら、自分の尻尾に再び興味を持たせようと試みる。
「尻尾よりも優先なものがあるわけないよにゃ!」
「あるにきまってるよ……!」
「それはなにかにゃ?」
「自分! 自分の命! 死んじゃったら尻尾集めもできなくなるから!」
 そういってリッキーは本格的に逃げようとした。だが、追い縋った雨音が流麗なステップで以て尻尾撃を打ち込みに向かう。
「もふもふ・ている・ですとろーい!!」
 この尻尾を見て魅了されない者がいない。雨音自身はそう確信していたが、あまりの威力にリッキーは更に逃げる決意を固めてしまった。
「お前ら、囮になれ!」
 リッキーは配下に命じる。するとオーク達がケルベロスに突進していった。
 巴は即座に煙草の煙を狼へと変え、配下へと吶喊させた。ゆらりと揺れる灰狼の尾が棚引き、敵を穿ってゆく。
「彼の尻尾も欲しいならくれてやろう。なんならほら、捜し物を見つけるのを手伝っても良い」
 早く見つかれば尻尾集めに集中できるだろうと呼びかけるが巴の言葉は届かず、代わりに六体目の敵が倒れる。空いた射線を利用して駆けたカルナや猫丸がリッキーを囲もうと動いているも、残っているオークが邪魔をするので上手く取り囲めないでいた。
 不利を悟らせぬ演技も通じない。
 配下が残った状態での逃走阻止も叶わない。また、肝心の情報も引き出せない。
 メロゥとマルティナは失策だと感じて頷きあう。
 例えば配下を先に倒さずにリッキーだけを集中攻撃する策もあった。
 情報を引き出すならば、尻尾の話題よりも探し物そのものについて其々の予想を突きつければ良かった。
 そうすれば反論という形で相手が口を滑らせたかもしれない。
 しかしそれはもう出来ないと巴は悟っていた。
 リッキーは再び分身を出現させながら肝心の戦闘はオークに任せている。
「尻尾も手に入りそうにないし、『あれ』もこの辺にはなかったみたいだし……」
 つまらなさそうな表情に戻った少年は肩を落とした。そうしてオークを盾代わりにしてケルベロスを翻弄するように駆けた。
 カルナがその後を追うが、オークの蔓が足下に伸びてきた。足を取られたカルナを解放するためにウリルが竜尾を振るう。
「竜の尾は好きじゃない?」
 その際にウリルは少年に問いかけた。だが、尻尾よりも逃走を優先した相手から答えは返ってこない。
 猫丸は筆を取り、リッキーの腰に提げられた尻尾コレクションに狙いを定める。自分達から興味を失っても、集めた尻尾を落とせば多少は足止めできるかもしれない。
「逃さないでにゃんす!」
 鋭い筆捌きでリッキーを穿てば、コレクションの一部が取り落ちた。
 あっ、と慌てた声があがったがリッキーはそれを即座に拾い上げる。そしてこれ以上の攻撃を受けぬようオークの後ろに隠れた。
 そうはさせません、と口にしたレオナルドは邪魔な配下を蹴散らしにかかる。
「――ガオオオオオオッ!!」
 咆哮が響き渡る最中、メロゥが天上の火を顕現させた。
 光が雨の如く降り注ぎ煌めく。すると七体目と八体目の敵が倒れる。しかしそのときにはもうリッキーは離脱直前であり、不敵な笑みを浮かべていた。
「じゃあね、バイバーイ! また会うことがあったらその尻尾、貰うからね!」
「待つにゃーっ!」
 去り際に手を振ったかと思うと少年忍者は草むらの中に姿を消した。雨音が草を掻き分けて行ったが、その気配は完全に感じられなくなっていた。
「逃したか」
 オークからの攻撃を受け続け、皆の盾となっていたマルティナは短く呟く。巴は冷静に状況を判断し、残されたオークに視線を向けた。
「仕方ない。残りのこいつらを倒すぞ」
 放たれた灰狼が敵の喉を喰い千切る様を見据え、マルティナも暴風を伴う強烈な回し蹴りで以て敵を穿った。
 そして九体目が倒れ、残るは一体となる。
 カルナとウリルは頷きを交わし、今は自分達に出来ることをしようと心に決めた。
「何を探しているかは分からなかったけれど――」
「これ以上、何もさせない」
 凍楔を解き放つカルナの言葉を次ぐ形でウリルが告げ、炎を纏う。燦めく氷晶の嵐の中で焔が躍り、敵を包み込んでいった。
 次の瞬間、最後のオークがその場に崩れ落ちる。
 其処で戦いは終わり、辺りに静けさが満ちた。

●十字島の謎
 真夏の太陽が照り付ける。
 ケルベロス達が周辺を調べてみても、オークが掘った穴が見つかっただけで何の痕跡も手掛かりもなかった。
「ここに『あれ』はない、と奴は言っていたな」
 マルティナは念の為に録音していた戦闘中の会話を聞き直す。ウリルは頷き、敵が探し求めていたものを思う。
「あれ、か……」
「結局は何だったのでしょうね」
 レオナルドも考え込む。尻尾についての話は聞き出せていても、螺旋忍軍全体が求めているものは最初から別のものだと分かっていた。
「何だか、試合に勝って勝負に負けた気分ね」
 メロゥはうまく情報が引き出せなかったことに肩を落とすが、雨音が大丈夫にゃ、と告げて労いの言葉を向ける。
「逃げられたけど、誰も尻尾を取られずに済んだにゃ!」
 少し傷はついてしまったが雨音や皆の尻尾は健在だ。もし奪われていたらと思うとぞっとしてしまう。
 ――また会うことがあったら。
 少年はそんなことを言っていたが、再会したとしても尻尾を奪わせたりなどしない。
「それにオークは倒せたからな」
 巴も気を取り直し、自分達の勝利は間違いないのだと語る。違いないですと答えたカルナは暫し敵が言っていたことについて考える。
「地図では探せないもの……地図を残すわけにはいかない、もの?」
「其処から考える必要がありそうでにゃんすなぁ」
 深まる謎に猫丸は首を捻り、来たときと同じように竜十字島の景色を眺めた。
 この島の何処かに何かが眠っている。
 それが新たな激動を巻き起こす予感を覚え、番犬達は夏の空を振り仰いだ。
 

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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