焼きおにぎりのよろこび

■リプレイ

●焼きおにぎりの誘惑
　ヘリオンから降り立ったケルベロス達は神奈川県の住宅街に降り立った。現場のゴミ捨て場までは少し歩いて向かう。こころなしか醤油の焼ける匂いが漂っていた。
「……冬兄、千も焼きおにぎりマシン欲しい！　毎日焼きおにぎりで朝ごはんしたいのだ！　ちゃんと面倒見るから！　リムも吾連も朝ごはん焼きおにぎりしたいよな？　な？」
　香ばしい匂いに焼きおにぎりへの思慕が爆発したらしく、鉄・千（空明・e03694）が鉄・冬真（雪狼・e23499）の裾をつんつん引っ張りながらおねだりする。
「朝に焼きおにぎり、何それ、すっごい幸せ！　じゃなくて手早く片付けよう！　何よりすっごいお腹すいてきたし。またダイレクトに食欲を刺激してくるダモクレスかぁ……」
　影守・吾連（影護・e38006）は千の主張に引っ張られながらも自分たちの使命を忘れない。がお腹はやや切ない。そんなどらごにあんずの間でわたわたと反応する小竜のリムを抱き上げる御影・有理（灯影・e14635）。
「リム……もう食べることで頭がいっぱいみたい。ご飯は戦いの後でね」
「焼きおにぎりマシンへの熱意は伝わったから考えておくよ。まずは戦闘頑張ろうね」
　鉄・冬真（雪狼・e23499）は浮き足立つ吾連と千の頭をぽんぽんと軽く撫で、落ち着かせた。ゆらゆらとしっぽを揺らして嬉しそうなどらごにあんず。
「焼きおに機って初めて聞いたかも！」
「焼きおにぎり機かぁ。説明を聞く限りだと違う料理にも使えるみたいだけど、一つの料理に特化した機械って面白いな」
　フィー・フリューア（歩く救急箱・e05301）とピジョン・ブラッド（陽炎・e02542）は家電としての焼きおにぎりの特異性の魅力について軽く話し合っている。
「食生活を豊かにしてくれた家電品が誰かを傷付けてしまう、そんな哀しい事件が広まらない内に止めてやりましょう……私達で！」
「そうですね、一般の人に被害が出る前に、焼きおにぎりダモクレスには落ち着いてもらいたいです」
　ミリム・ウィアテスト（リベレーショントルーパー・e07815）が意気込みを新たにすると、御春野・こみち（シャドウエルフの刀剣士・e37204）もそれに同意する。
　今日の戦いへの心構えが整ったタイミングでちょうど現場にたどり着いた。そこにはおにぎりマシンダモクレスが佇んでいる。
『おにぎり……いっぱい』

●おにぎりの雨あられ
「いつもこうした家電品に取り付き暴れるダモクレスを見ると役目を果たした道具の哀れな姿を見ると虚しい気持ちになります……」
　悲しそうに呟くとミリムは稲妻の突きを放つ。
『おにぎりっ！』
　ビリビリとした電気が走るのが見え、おにぎりマシンダモクレスが小さく叫んだ。
「皆に付与を」
　有理がスイッチを押すと前衛の仲間の背後にカラフルな爆発が起こり、士気を上げた。箱に入ったリムがそのまま体当たりをしようとする。
『おにぎりいっぱーい！！！』
　叫びとともに大量の焼きおにぎりが放出された。そのひとつがリムのタックルを相殺する。冬真とフィーが、吾連とミリムをかばって攻撃を受けた。
「焼きおにぎりマシン……敵として会いたくなかったのだ！」
　千が螺旋を帯びた掌でおにぎりマシンの足元を払う。
「焼きおに機ってこういう感じなんだー……せっかくの焼きおにもこんな剛速球じゃ食べられないね！」
　お返しとばかりにフィーの夕小花のブーツによるフォーチュンスターが蹴り込まれた。
　足元を狙われてすぐに上半身に攻撃を受け、おにぎりマシンダモクレスはおたおたしている。
「さすがフィーだ」
　攻撃を受けてすぐさま反撃にでるフィーを横目に、冬真もまた攻撃に出る。礎に流星の煌きと重力を載せ、飛び蹴りを放った。
「足止めか」
　ピジョンのドラゴニックハンマーが砲撃で足止めを重ねる。
「おにぎりは弾丸として使うものじゃないよ！」
　吾連の斉天截拳撃がおにぎりの発射される部分を攻撃して武器封じを試みた。
「武器封じ、今したばっかり……なら防御の方をなんとかしてみます！」
　仲間の攻撃をよく見て判断したこみちのオウガメタルがおにぎりマシンダモクレスの装甲を弱らせにかかる。
『おにぎり……いっぱいいっぱい！』
　戦いは始まったばかりだ。

●おおきいおにぎり
「その足、切り飛ばしてあげます！」
　ミリムが薔薇の幻影が舞う剣戟で敵を幻惑しながら斬りつける。
「冥き処に在して、三相統べる月神の灯よ。深遠に射し、魂を抱き、生命の恵みを与え給え」
　有理の詠唱で月と魔術の女神が白い光の姿で現れ、先程傷を負った冬真を包み込み傷を回復させた。その間にも薔薇の幻影の間を縫って飛ぶリムのブレスがおにぎりマシンダモクレスに浴びせられる。
『おにぎりいっぱーーーーい！！！』
　おにぎりマシンダモクレスはケルベロス達の猛攻にもめげず、一番近くにいたフィーにおにぎりの連撃を撃ち出すが、再び冬真がそれを受け止めた。
「おにぎりもったいないなあ、お米無駄にならないようにさっさと倒そ！」
　フィーはファミリアロッドのツバキを小動物の姿に戻し、仲間たちの付与した効果を重ねていく。
「――終焉を」
　冬馬は黒塗りの短刀、哭切でおにぎりマシンダモクレスの脆弱なつなぎ目などを貫いていく。
『おにぎり！　おにぎり！』
　ダモクレスが耐性を整える前に、ピジョンがすかさず駆け寄って殴った。
「攻撃すればいつかは倒れる、いいね？　……でもこのグラビティは自分でもちょっとスマートじゃないと思うんだよなぁ」
「スマートじゃなくても先生はぜんぜんつよくてかっこいいですのだ！　千も負けないぞ！　唸れ！らいおん丸！」
　駆け寄って殴るピジョンにならって千も拳を覆ったにゃんグローブででこでこと殴る殴る！！
「おにぎり、もっと焼いてしまうのはどうだろう！！」
　吾連のドラゴニックミラージュが火を噴いた！
　こみちは、どんどん上がっていく温度に額の汗を拭う。
（やっぱり戦闘は少し苦手……でも気は抜けません！　皆さんの邪魔にならないように、頑張るんです！）
　空の霊力を帯びた武器で、そのまま皆がつけた傷を切り広げるこみち。ダモクレスのダメージは確実に蓄積できている。このまま突っ切るのだ！

●おにぎりスパーキン
　激しい攻防戦が続いた。効果の蓄積とジグザグの効果で、ダメージを効率的に与えられている。
「裂き咲き散れ！」
　ミリムの闘気が緋色に輝き、牡丹のように八重に躍る。
「皆さん！　あと少しです、でも、気をつけて！！」
　こみちが周りに気を使いながら、さらにおにぎりマシンダモクレスの傷を広げた。
『おにぎり……どっかん！』
「あちちちっ！！　いっ！！」
　切り広げられた傷の奥から、熱い魔力を込めたおにぎりが連射される。ディフェンダーたちが奔ったが、至近距離にいたミリムは体をくの字にして吹っ飛んだ。
「危ない！！」
　有理の詩篇で顕現した加護がふわりとミリムを優しく抱きとめ、同時に傷を癒していく。リムはタックルを繰り出し、主人を守っている。
「楽しい記憶だけで眠らせたかったけど……声が届かないのじゃ仕方がないね。せめて安らかに眠らせよう」
　加護により勢いを殺されたとは言え、人一人を受け止めた最愛の人を抱きとめて降ろした冬真は、すぐさま達人の一撃を叩き込む。
『おにぎり……おにぎり……』
「焼きおにぎりより二人の方が熱いね！」
　あらっ！　という顔の有理を尻目にフィーは愛用のバスケット片手に敵の前に躍り出た。中に忍ばせた攻性植物が急速に成長し、実った果実が降り注ぐ。
「栄養満点に育った果実をあげる！」
『おに、おにぎり！！』
　落ちた果実はどかんどかんと爆発し、ダモクレスを翻弄した。
「いいねホーミング。あとに続くよ！」
　ピジョンのドラゴニックハンマーが砲撃を放ち、煙の匂いが立ち込めた。おにぎりマシンダモクレスにはもう積極的に攻撃する機能は残っておらず、停止すれば終わりになるだろう。
「ちょわっ！　ちょわー！！！」
　視界の悪い中、煙を割いて翼を広げた千が現れ指天殺でとすとすとダモクレスの外殻に穴を開けていく！
「今なのだ吾連、焼きおにぎりマシンさんにおやすみしてもらお！」
「そうだね、千。皆を笑顔にしてた焼きおにぎりマシンに戻してあげよう！　――撃ち祓え！」
　千が切り開いた道を自らも翼で通り抜ける吾連。利き腕に雷の魔力を装填し、一気に対象へと放つ！！
『おにぎりわっしょーーーーーーーーい！！！！！！！』
　バリバリと稲妻が走ったかと思うと、おにぎりマシンダモクレスは断末魔の叫びをあげ、大量のおにぎりをぽぽぽぽんと放出し、ガラガラと崩れ落ちた。空へと打ち上げられたおにぎりは、地面に落ちる前に消えてなくなる。
　戦いは終わった。あとには、機械と醤油の焼ける匂いだけが残った。

●おにぎりパーティ
「有理、怪我はない？」
「冬真こそ、深い傷はない？」
　冬真と有理は抱き寄せ合い、お互いの無事を確かめ合う。
「みんな怪我ないか？　言ってくれればヒールするぞー？」
　千の呼びかけに、他の皆も声かけしあい、みんなで現場を整えた。
「怪我は大丈夫だけど、とにかくお腹が減ったよね……」
「そうだね、みんな。今作戦終了の連絡をしたんだけど、この土地の持ち主が別に持ってる場所を貸してくれるらしいからおにぎりを焼いて食べないかな？　どうやって焼くかって？　こんなこともあろうかと七輪を用意して来た！」
　吾連が空腹にしょんぼりした声をだすと、電話をかけていてちょうど戻ってきた冬真がメガネをキラリと光らせてそんな提案をしてきた。
「七輪を持参？　すごい！　ヒールは手伝えなかったからセッティングを手伝うよ」
「わーい、焼きおに食べる！」
　ピジョンとフィーがその提案に乗り、みんな次々におにぎりの予感に沸き立った。小一時間後、貸してもらった多目的広場に各々必要なものを持ち寄り、おにぎりパーティが始まる！
「むふー、お姉ちゃんお手伝いして一緒におにぎり作ってきたぞ、カリカリ梅とか黄色いたくあんとか、お漬物も持ってきましたのだ。皆の作る焼きおにぎりも楽しみ！」
「おにぎりって奥深いんだよー、握り加減ひとつとっても、焼きおにぎりに最適な、ふっくらしつつ崩れないバランスってのがあってねー。その点、さっすが有理さん（旦那ちらっ）元々料理上手だけど、日々の成果が出てるよねっ（ちらちらっ）　」
　千と有理が用意してきた大量のおにぎりを眺めるフィーが有理を褒めると、彼女がチラチラするたびに冬真がぐっ！　ぐっ！　と親指を立てる。妻を褒められて喜んでいるらしい。
「俺、冷たいほうじ茶持ってきたんだ！」
「お皿とお手拭き用意してきました」
「ダモクレスの焼きおにぎりは熱くて嫌いになっちゃいそうだったのですが、このおにぎりはとっても美味しそうです。甘辛い味付けで焼きおにぎりを大好きになってやりましょう！」
　吾連とこみちからお茶やお皿を受け取って、一番おにぎり攻撃をくらっていたミリムもニコニコ顔だ。
「明太子、お味噌、バターにチーズにそれから七味。みんないろいろ持ってきてくれたからいっぱい楽しめそう。リム、焼きあがるまでちょっと待ってね」
　集められた食材を見回して、七輪でおにぎりを次々と焼く有理。団欒の空気に心がウキウキしているように見える。
「僕はお味噌のやつ貰うね！　あとチーズ乗せもー。焼き海苔も持ってきたから要る人どうぞ、明太のやつとかすっごく合うんじゃないかな！」
　フィーが先陣を切り、それぞれがおにぎりに手を伸ばした。
「うん、やっぱり醤油バターの香ばしさは最高だ……あ、リム。いいよ、半分あげよう」
「ふふ、ピジョン先生もリムも早速止まらなくなってますのだ。千と一緒にいっぱい食べよ！　こみちもどんどん食べるのだ」
「えへへ……とってもおいし……あひゅいっ」
「よし、全制覇目指すよ！　まずは醤油から！　焼きたて、すっごく良い香り！　どうしたの、リム。お代わり？　って、うわ！ご飯粒だらけ！　そんなに急いで食べなくてもおにぎりは逃げないよ」
「わはは、吾連もご飯粒まみれになったのだ」
　それぞれが焼きおにぎりを堪能するのを眺めながら、有理もまたおにぎりを一口ぱくりと食べる。
「みんなで賑やかにご飯食べるの、私好きだな」
「有理、ついてるよ」
「えっ？」
　冬真の言葉に驚いて顔を向けるとやわらかな感触が唇をかすめる。
「ご馳走様」
　いたずらっぽく笑って、冬真は有理の頬に再びやさしいキスを落とす。
「もう……冬真ったら」
　頬を赤く染め、ついばむようにお返しのキスをした有理に微笑み、冬真は今度こそちゃんと唇にキスをした。
「わおー、わおわお、僕七味かけすぎちゃった？　火ぃ吹いちゃいそうかも」
（おやおや……僕も大事な人が恋しくなってしまいそうだ）
「大丈夫ですか？　冷たいお茶をどうぞ」
　そんな二人に当てられながら遠巻きに微笑ましく見守るフィーとピジョンに、こみちがお茶を差し出したのだった。

作者：星野ユキヒロ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年8月1日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 1
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