大阪市街戦~戦禍の馬

作者:土師三良

●宿縁のビジョン
 轟音が響き、土煙が舞い上がった。
 大阪市内にある小学校のグラウンドで。
 昼休みということもあって、少なくない子供たちがそこにいたのだが、幸運にも死傷者は一人も出なかった。
 この時点では。
「なんや、これ!?」
「ミサイル? UFO?」
「あっちのほうから飛んできたでぇ」
 子供の一人が指さした『あっちのほう』とは、変わり果てた大阪城がある方角――デウスエクスの占領地帯だ。
 やがて、土煙が晴れ、落下物が姿を現した。頭(あるいは尻か?)を地面に減り込ませた大きなカプセル。
 子供たちが遠巻きに眺めていると、カプセルのハッチがエア音とともに開き、異様な姿をした者が現れた。
 黒い甲冑に身を包んだ、馬頭人身の騎士だ。
 馬の獣人型ウェアライダーに見えなくもないが、甲冑のあちこちから機械やコードが覗き、駆動音と電子音が漏れ出ている。
 騎士は長い顔を左右に動かし、呆気に取られて言葉も出ない子供たちを見回すと――、
「殲滅ヲ開始スル」
 ――静かに宣言した。
 そして、躊躇する素振りを微塵も見せることなく、それを実行に移した。

●ダンテかく語りき
「大阪城に巣くってるデウスエクス連合軍はあいかわらず鬱陶しい動きを続けてるっすよ」
 ヘリポートに召集されたケルベロスたちの前で渋面をつくっていうのはヘリオライダーの黒瀬・ダンテ。
「自分たちの占領地域を広げるために、大阪市内に兵士を送り込んで暴れさせる――そういう動きなんすけどね。どちらかというと、兵士じゃなくて鉄砲玉っす。失ってもあまり痛手にならない者を選んでるみたいっすから」
 今回、その『鉄砲玉』が送り込まれた場所は大阪市内の小学校。
 そして、鉄砲玉を務めているのは、馬のような頭をした騎士であるという。
「その騎士はダモクレスの勢力に属していますが、生粋のダモクレスじゃないっす。元は獣人型のウェアライダーだったのですが、死後に脳を抜き取られ、代わりにダモクレス製の人工脳を埋め込まれて……なんというか、機械制御のゾンビ? あるいはダモクレス流の屍隷兵? まあ、そんな感じの半機械兵にされたみたいなんすよ」
 脳が除去されているため、生前の記憶や感情は残っていない。だが、鍛え上げられた肉体は健在。いや、それどころか、ダモクレスの技術が組み込まれたことにより、強化されているはずだ。
「で、その騎士の素性なんですが――」
 眉根を寄せて悲痛な表情を見せるダンテ。
「――どうやら、エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)さんの亡きお父さんらしいです。名前はフレダンデリック・スコルークさん。先程も言ったように脳を抜き取られてますから、エニーケさんを娘として認識することは決してありませんが……」
 たとえ肉親であっても、心が残っていないのであれば、躊躇うことなく倒すことができるだろう……などと言い切ることはできない。
 ただ一つだけ確かなのは、フレダンデリックを倒さねば、多くの犠牲が出るということ。
「そう、倒さなくちゃいけないっす。きっと、自分の体を虐殺に利用されるなんてことは、フレダンデリックさんも望んでいないはずっすから」
 そう言って、ダンテはヘリオンに向かって歩き始めた。


参加者
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)
フレデリ・アルフォンス(青春の非モテ王族オラトリオ・e69627)

■リプレイ

●戦禍は酷しく……
 昼休みの小学校。
 先程まで喧噪に満ちていたグラウンドも今は静まり返り、不気味な緊迫感に包まれている。
 言葉を失った子供たちの前に立っているのは馬頭人身の騎士――フレダンデリック・スコルーク。
 ダモクレスの半機械兵と化した彼は片刃の大剣を構え、無機質な電子音声で宣言した。
「殲滅ヲ開始スル」
 しかし、なにも『開始』できなかった。
 行動に移ろうとした矢先に十数人のケルベロスが降り立ったのだ。
 フレダンデリックと子供たちの間に。
「いくわよ、紅焔! 変身!」
 レプリカントのジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)が叫んだ。その身を包む赤いクールクロス『紅焔』がアルティメットモードに変わり、子供たちを放心状態から回復させていく。
 続いて、人型のウェアライダーのミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が拡声器を手にして呼びかけた。
「はい、コッチに注目ぅーっ!」
 にっこりと笑っているが、それは状況が把握できていないからではなく、子供たちを安心させるためだ。
「慌てず騒がず、私と犬とこの黄色のおじさんたちについてきて!」
「黄色じゃねーし! 俺は金色だからー! 金色だーかーらー!」
「はいはい」
 駄々っ子のように腕を振り回す『黄色のおじさん』ことヴァオ・ヴァーミスラックス(憎みきれないロック魂・en0123)を適当になだめつつ、ミリムはオルトロスのイヌマルとともに子供たちの先頭に立ち、避難誘導を始めた。
「大丈夫です。大丈夫ですよー」
 そう言いながら、殿を守るのはドワーフのイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)。子供たちを整然と行動させるべく、防具特徴の『凛とした風』を用いている。
「俺たちケルベロスが来たからには、もう安心だ! 落ち着いて避難してくれ!」
 オラトリオのフレデリ・アルフォンス(青春の非モテ王族オラトリオ・e69627)もまたミリムと同じように拡声器を持って、離脱する子供たちに声をかけた。
 更に二人分の拡声器越しの声が響く。ジュスティシア・ファーレルとアルベルト・ディートリヒだ。
 子供たちの中にはまだ身を竦ませている者もいたが――、
「俺に任せろ」
 ――相馬・泰地に軽々と抱え上げられ、避難行に加わった。
「殲滅……」
 と、フレダンデリックが電子音声の呟きを漏らした。ミリムや子供たちを追いかけようとはしていない。いや、追いかけたくてもできないのだろう。他のケルベロスたちが立ち塞がっているのだから。
「脳を抜き取って、代わりの脳を埋め込むなんて……ひどいことをするものだね」
 フレダンデリックの兜のスリットに灯った仄暗い光点――赤い双眸を見据えて、燈家・陽葉(光響射て・e02459)が身構えた。その手にある武器は『鎖突杭剣』。名前の通り、杭にも剣にも似たエクスカリバールだ。
「うむ。本当にえげつないな……」
 フレデリが陽葉の言葉に頷き、一瞥を送った。
 今回のチームの一員であるエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)に。
 フレダンデリックがそうであるように、エニーケもまた馬の獣人型ウェアライダーだった。それに姓も同じ。
 そう、彼女はフレダンデリックの娘なのだ。
「エニーケには思うところもあるでしょうが――」
 エニーケを庇うかのようにずいと前に出たのはカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)。
「――ここで息の根を止めるのがせめてもの慈悲」
「判っております。お気遣いは無用ですわ」
 エニーケは屠竜の構えを取り、己の攻撃力を上昇させた。風が前髪(鬣?)を揺らし、ほんの一瞬だけ、隠されていた目が覗く。殺気に血走った目。フレダンデリックのそれのように光こそ放っていないが。
 その激しい殺気に背を押されるようにして、カトレアが地を蹴った。
「氷漬けにしてあげますわ!」
 真紅のフェアリーレイピア『姫薔薇の剣』から繰り出されたのは達人の一撃。
 レイピアの切っ先が兜に突き刺さり、傷口が一瞬にして氷結した。
 何分の一秒かの間を置いて、別の刃がフレダンデリックの右前腕部を斬り裂いた。陽葉の『鎖突杭剣』である。放たれた斬撃は『破・残風止水(ハ・ザンフウシスイ)』。
 しかし、二人の攻撃をものともせずに――、
「……殲滅!」
 ――フレダンデリックは飛び出した。
 この場合の『飛び出した』は比喩ではない。甲冑の背部が展開してブースターが覗き、それが火を噴いている。
 土煙を巻き上げて突進した先にいるのは娘のエニーケ。もっとも、フレダンデリックにとっては娘などではなく、『殲滅』すべき敵の一人に過ぎないのだろうが。
 父と娘の距離(あくまでも物理的な距離だ)は一瞬にして縮まり、前者の溜め斬りが放たれた。残像を生み出すほどのスピードで。
 しかし、エニーケは無傷。
 ジェミが素早く割り込み、鍛え上げた腹筋で大剣の刃を受け止めたのだ。
「心の乗ってない斬撃など、この腹筋に効くかぁーっ!」
 叫びとともにグラビティ『クラッシュ!』を発動させて、自らの傷を癒すジェミ。
 彼女とエニーケの頭上を小さな人影が飛び越えた。
 光の翼を広げたトリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)だ。
「いやー、こんなのが物凄い勢いで突っ込んできて溜め斬りなんかを食らわせてきたら、ひとたまりもないと思ってたけど――」
 ヴァルキュリアの少女は空中で弧を描き、スターゲイザーをフレダンデリックにぶつけた。
「――ジェミの場合、ふたたまりでもさんたまりでも耐えられそうね」
「当然よ!」
 トリュームの呆れ半分の賛辞に対して、力瘤をアピールするジェミ。その力瘤の上にボクスドラゴンのギョルソーが止まり、属性インストールで傷を癒すと同時に異常耐性を付与した。
 ジェミへのエンチャントはそれだけでは終わらなかったし、新たなエンチャントの対象は彼女だけでもなかった。
 フレデリがケルベロスチェインを蠢かせて魔法陣を描き、前衛陣の防御力を上昇させたのだ。
「……殺してさしあげますわ」
 と、呪詛するように呟いたのは、魔法陣の恩恵を受けたエニーケ。
 馬革製のフェアリブーツ『マリアンデール』に包まれた足が風を切り、フォーチュンスターのオーラが飛んだ。

●戦火は激しく……
「荒れてますね」
 それが避難誘導を終えてグラウンドに戻ってきたイッパイアッテナの第一声であった。
 視線の先にいるのはエニーケ。イッパイアッテナと一緒に戻ってきたミリムのルナティックヒールを背中で受け止め、戦槌型のドラゴニックハンマー『メーレスザイレ』を砲撃形態に変えている。
「荒れてるのはエニーケさんだけじゃないよ!」
『メーレスザイレ』から竜砲弾が発射されると同時にジェミが走り出した。
「あたしも今日はちょっと激おこなの! あまり笑ってられないかな!」
 竜砲弾の直撃を受けて体勢を崩したフレダンデリックに肉迫し、ゲシュタルトグレイブの稲妻突きを見舞う。
『激おこ』というのは嘘ではないが、怒りの対象は目の前のフレダンデリックという個人にして故人ではなく、彼の死体を道具として利用しているダモクレス勢である。自身もかつてダモクレスだったという事実が怒りを更に激しいものにしていた。
「うんうんうんうん。怒って当然だよねー」
 惨殺ナイフを構えてフレダンデリックを牽制しながら、トリュームが何度も頷いた。
「身内がダモ化されるとか、キツすぎるしー」
 軽い口調ではあるが、スコルーク家の父子に寄せる同情に偽りはない。彼女もまた肉親をダモクレス化されたことがあるのだから。そして、肉親だということに気付かない振りをして、自らの手で倒したのだから。
 その悲劇の場に居合わせていたフレデリ(彼だけでなく、ジュスティシアも居合わせていた)がなにか言いたげな顔をして、トリュームを見たが――、
(「フクザツな家庭の事情を抱えているのは俺だけじゃないってことか……」)
 ――口には出さずに幾度目かのサークリットチェインを発動させた。
 フレデリの使うケルベロスチェインは通常のもの違い、煌めくような輝きを有している。しかし、今回のサークリットチェインの対象者を下から照らしたのはその輝きだけではなかった。
 対象者の一人であるカトレアがエアシューズのローラーで地面を擦り上げ、紅蓮の炎を巻き起こしたからだ。
「その身を焼き尽くしてあげますわ!」
 薔薇の飾りが付いたエアシューズから炎の線が伸び、フレダンデリックの身を焼いた。だが、カトレアの宣言通りに『焼き尽く』すには足りない。
 その不足分を補うかのようにイッパイアッテナが素早く追撃した。得物は『Plasm』。『相箱のザラキ』と名付けたミミックがエクトプラズムで形成したルーンアックスである。
 フレダンデリックに迫るルーンアックスは一つではなかった。ミリムも数瞬前まで背に負っていた黒い大斧『Beowulf』を渾身の力でスイングしている。
「ふんっ!」
「とりゃあぁーっ!」
 二人の咆哮に続いて、金属同士がぶつかる鈍い音が響いた。
『Plasm』はフレダンデリックの甲冑の右脇腹に食い込み、『Beowulf』は盾に減り込んだ。後者は防がれたわけではない。最初から盾を狙ったのだ。
「て、手が痺れるぅぅぅ~っ!?」
 予想以上の反動と衝撃を受け、目を白黒させるミリム。
 一方、少なくないダメージを受けたはずのフレダンデリックは動揺の素振りも見せずに滑るように後退し、盾を掲げた。
 盾の表面の紋様が閃き、無数の光線がケルベロスの前衛陣に注がれる。
「うおっ!? まぶし!」
 と、光線を受けてもいないのにわざとらしいリアクションを示したのはトリューム。いつの間にか、その手にはレーザー銃が握られている。
「でも、目には目を、ビームにはビームを!」
 レーザー銃から極太の光線が迸り、フレダンデリックの頭部に命中した。ジグザグ効果を有した『ビリビリビーム!(ジグ・ザグ・サッパー)』なるグラビティだ。
 そして、光線が描いた軌跡をなぞるようにして石礫が飛び、またもやフレダンデリックの頭部を打ち据えた。陽葉のクイックドロウである。
 もっとも、陽葉はフレダンデリックなど見ていなかった。気遣わしげな眼差しはエニーケに向けられている。
「エニーケ……無理しないでいいんだよ」
「ありがとうございます。ですが、カトレアさんにも言ったように、お気遣いは無用ですわ。この程度のことで私の心は折れたりしません。そもそも、パパを最初に死に至らしめたのは――」
 フォーチュンスターの構えを取るエニーケ。
「――この私なのですから」
「え!?」
「……」
 唖然とする陽葉に構うことなく、エニーケは星形のオーラを蹴り出した。

●戦果は虚しく……
 機械仕掛けの屍人は疲れを知らない。
 にもかかわらず、戦いが長引くにつれてフレダンデリックの動きは鈍くなり、攻撃も空振りに終わることが多くなった。
 疲労ではなく、ダメージと状態異常が蓄積しているのだ。
「あらあら。体のあちこちにガタが来ているようですね、ブリキの兵隊さん。錆ついた間接に油を注したほうがよろしいんじゃなくて?」
 ダッシュからの溜め斬りを余裕の表情で躱し、痛罵を浴びせるエニーケ。
 その辛辣な言葉の根底にある感情を当人に代わって発露させるかのように、イッパイアッテナが『ブリキの兵隊』に突進した。ただの杖にしか見えない如意棒を持って。
「油の代わりにこれをどうぞ!」
 杖が一瞬にしてヌンチャク型に変形し、フレデリックの右手首を打った。斉天截拳撃だ。
 甲冑の破片が砕け散り、それらのうちのいくつかは地に落ちる前に凍りついた。陽葉が放った武器――蓮の花の形をした氷結輪『氷天蓮華』の冷気を受けて。
「こうやって続けざまに右手を攻撃をされても剣を落とさないとは……たいしたものだねえ」
 フレダンデリックの右腕を斬り裂いて戻ってきた『氷天蓮華』を陽葉は受け止めた。
「さすがは騎士といったところか」
 自身も騎士であるフレデリが膝を折って上体を沈め、愛剣『サンティアーグ』を横薙ぎに払った。刃から生み出された風が斬撃となり、フレダンデリックの脚を傷つける。『メドューサ・スラッシュ』という名のグラビティだ。
 その実体なき斬撃の後に来たのは物理的な打撃。ジェミの拳である。ただの殴打ではなく、破鎧衝だが。
「こいつはもう――」
 トリュームが『ビリビリビーム!』を発射した。
「――限界っぽいね。エニーケがとどめっちゃっていいんじゃない」
「そうですね」
 ビームの残光が消えるより早く、カトレアが『姫薔薇の剣』を一閃させ、フレダンデリックの傷口を斬り広げた。
 そして、エニーケに振り返った。
「どうぞ、貴方の手で引導を。脳を抜き取られているとはいえ、彼は貴方の父なのですから」
「うん。ケリつけてよ、エニーケさん!」
 ジェミが叫ぶ。
「悔いのないように……なんてことを言るところじゃないけどさ」
 と、付け加えた言葉はエニーケには聞こえなかった。
 ミリムの大音声にかき消されたからだ。
「えぇぇぇーい!」
 ウェアライダーの戦士が発したのは声だけではない。ルナティックヒールの光球も投じていた。もちろん、標的はエニーケ。
 光球を胸板に受け、エニーケは走り出した。
「殲滅……殲滅……殲滅……」
 壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返しながら、フレダンデリックは剣を振り上げた。
 かつて自分を殺した/今また殺そうとしている娘を迎え撃つために。
「センメツッ!」
「死ねえぇぇぇぇぇーっ!」
 割れた電子音と怒りの咆哮が同時に響く。
 二種の呻りがそれらに重なった。
 振り下ろされた剣の呻り。
 蹴り上げられた脚の呻り。
 剣は娘の残像を断ち、脚は父の首をへし折った。

「このような結果になることは判っていたとはいえ……やりきれんな」
「そうですね。子供たちが犠牲にならなかったのがせめてもの救いです」
 グラウンドに刻まれた戦いの傷跡をヒールするアルベルトとジュスティシア。
 戦闘中にエニーケが口にした『パパを最初に死に至らしめたのはこの私』という言葉が両者ともに気になっていたが、彼女の心に土足で踏み込むつもりはなかった。
 同じくヒールをおこなっている者たち――カトレア、ミリム、イッパイアッテナ、フレデリ、ヴァオもエニーケになにも問い質してはいない。
 エニーケと似たような体験をしたトリュームの姿はなかった。早々に立ち去ったのである。
「……」
 ミリムが作業の手を休めて、グラウンドの中央に目を向けた。
 エニーケの後ろ姿が見える。
 それに燃え盛る炎も。
 フレダンデリックの亡骸がアームドフォートのナパームで焼却されているのだ。
『死ねえぇぇぇぇぇーっ!』
 エニーケの叫びがミリムの脳内に再生された。
「エニーケさんにあんな言葉を吐かせたデウスエクス……絶対、許せない」
 ミリムの漏らした呟きが風に乗り、エニーケの耳に届いた。
 そして、別のものも届いた。
 ジェミが後方に立ち、肩に優しく手を置いたのだ。
 だが、エニーケは振り返ることなく、炎をじっと見つめていた。
 父を灰に変えていく炎を。
「パパ……ごめんなさい」
 その独白の声も炎に焼かれて消え去った。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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