うせものさがし

作者:あき缶

●ドラゴンのいない島
 潮騒に交じり、水鳥が鳴き交わす声が遠くから聞こえるなか、無人島をうろつく緑のオーク。
 ここは竜十字島。かつてドラゴンがゲートを開いていた場所だ。
「ふむ。……おそらくこのあたり。次はこの岩の下を掘るのです」
 と、灰色狼の耳と尻尾を持つ螺旋忍軍の青年がせっせと緑の植物めいたオークに命じる。
 愚直に植物オークは穴を掘るが、どうやら目当てのものはなかったらしい。
「む……違うか。では……」
 螺旋忍軍は周囲の光景と手帳を見比べ、緑オークに次の探索場所を指示するのだった。

●ゆめの跡地
 ドラゴン・ウォーの戦場だった竜十字島で、螺旋忍軍の動きが予見されたと香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)がヘリポートにやってきた。
「何探してるんかはサッパリなんやけど、かなりの数の螺旋忍軍が島を探索しているんや。奴らの探し物は生半可なものではなさそうやと思わんか?」
 螺旋忍軍が手下として使っているのはオークプラントという『オーク型の攻性植物』だ。
「オークプラントの調達元は、ドラゴンの残党なんか、大阪城の攻性植物なんか、……どっちにせよ、きな臭いよな」
 ケルベロスとして、怪しい動きをするデウスエクスは排除せねばならない。
 今回、標的とするのはアブランカ・リンドウと名乗る螺旋忍軍とその配下のオークプラントである。
「島でも海に近い断崖絶壁の上の岩場で、オークプラントに岩の下をせっせと掘り返させてるんや。オークプラントは全部で十体もいるけど、探索専用なのか戦闘は得意じゃないみたいやね」
 アブランカ・リンドウも強敵というほどの戦闘能力はないが、オークプラントを盾になんとか自分だけでも逃亡しようとするので、注意が必要である。
「逃がしたところで探索の邪魔は出来てるさかい、まぁええんやけど……」
「いや、螺旋忍軍もデウスエクスだ。ここで倒す」
 アーヴィン・シュナイド(鉄火の誓い・en0016)は地獄の勢いを増しながら、言い切った。
 その意気や良し、といかるは頷き、続ける。
「螺旋忍軍が探してるものが何かわかれば、こっちが先にソレを手に入れることもできるやろう。頑張ってな!」


参加者
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
エレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)
小車・ひさぎ(センチメンタルベリー・e05366)
巽・清士朗(町長・e22683)
美津羽・光流(水妖・e29827)
岡崎・真幸(花想鳥・e30330)
 

■リプレイ

●かごめかごめ
「ふーん、なんだかと思ったら螺旋忍軍のネズミか。この島になぁに穴を掘ってるの」
 エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)の声が潮騒の間をつんざく。
 彼女を含めたケルベロスに取り囲まれ、螺旋忍軍とその配下の攻性植物は探索の手を止めた。
 しかし、デウスエクス達は一箇所に固まっていたわけではないので、数で劣るケルベロスの包囲網は隙間だらけだ。
「誰に断ってここに入り込んでんねん。ここは俺らの島やで。油断も隙もあらへんな」
 美津羽・光流(水妖・e29827)が睨めつけるも、アブランカ・リンドウはケルベロスの浅はかさを嘲笑うように口端を曲げた。
 その頭上から、巽・清士朗(町長・e22683)とエルスが強襲する。
「……まさか、再びこの島へ来ることになるとはな」
「あの忌々しい一族の残滓でも拾いたいのか?」
 流星の蹴りと虹色の蹴りがアブランカ・リンドウに迫るが、螺旋忍軍は軽く身を捻って避けた。
「墓荒らしでもしてるの?」
 続き、小車・ひさぎ(センチメンタルベリー・e05366)がゲシュタルトグレイブを抱えて螺旋忍軍に突撃していった。
 アブランカ・リンドウはひさぎの問いに片眉を上げる。
「ほう、単なる縄張り争いに出てきただけかと思っていたら、それなりに考えは巡らせてきた、と」
 そんな狼に岡崎・真幸(花想鳥・e30330)は声をかける。
「ラウロは世間知らずで皆と仲良く暮らしたいなどと甘い考えでいる。俺も個人的には戦いたくない。全体の雰囲気からそれがやりにくい、出来れば戦いたくないって奴、そっちも居るんじゃね?」
 彼を親族とする少女を、真幸は教え子としている。教え子の涙は見たくないから、彼は言葉をかける。できれば、殺したくはないのだ。
 しかし彼に返された答えは冷笑だった。
「本当に甘い。螺旋忍軍の何たるかを、ケルベロスは知っているかと思ったが」
 真幸は瞑目し軽く首を振ると、ガネーシャパズルから龍雷を呼んで、ボクスドラゴンのチビと共にオークプラントを襲わせる。
(「一体何を狙っているのでしょうか……」)
 真幸とアブランカ・リンドウの問答を聞きながら爆破スイッチのボタンを押したエレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)は、デウスエクスの目的に思いを巡らす。
「島を耕して緑化運動をしてる、というわけではなさそうだね」
 ぼんやりとウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)は首をかしげた。
 また魔竜王の遺産のようなとんでもないものを発掘されてしまっては事だ。彼らの目的が何であれ、妨害せねば。
 ウォーレンはエルスに向かって分身の術を行使する。
 アーヴィン・シュナイド(鉄火の誓い・en0016)の鉄塊剣がオークプラントの触手を切り飛ばす。
 続き、エレのサーヴァント、ラズリの加護を受けた光流が稲妻の勢いでオークプラントに突進、貫く刃、オークプラントはギエエと聞くに堪えない声を漏らして息絶えた。
「……役立たずめ」
 唾棄とともにアブランカ・リンドウはオークプラントの無様な最後を眺め、吐き捨てた。

●迫る触手
 アブランカ・リンドウの手信号と同時に、オークプラントは反撃に出る。
 うごめく触手がケルベロスに向かってうぞうぞと次々伸ばされていく。
「このブタ共……この類は大っ嫌いだ」
 帰りたいと思いながらも、真幸は伸びてくる粘液にまみれた触手を惨殺ナイフ『ミサキ』で切り落としながら掻い潜り、『ブタ』の急所を掻っ切る。トドメはチビがブレスでさした。
 いい香りも同時に漂った。素晴らしい芳香だが吸い込めばオークプラントの奴隷に成り下がる屈辱のアロマである。
「!」
 エルスは僅かに震えたが、落ち着いてオラトリオの翼を広げてヴェールの光でアロマをかき消す。
「やっぱ女連中がタゲられるんやろか。しっかり守らな……。レニは下がっとき」
「え、でも、やっぱり僕がディフェンダーやった方が良かったんじゃ……」
 光流の勧告に戸惑いを見せるウォーレンの耳朶に、光流は何やら囁く。
「あ、うん、じゃあ。気を付ける」
 頬を赤らめ、素直にウォーレンは一歩下がった。
 ニャッとウイングキャットが悲鳴を上げて、ぬるぬるした緑の触手に巻き取られた。
 エレが驚きのあまり、彼女の名前を叫ぶ。
「ああっ、ラズリ!」
 ふにゃああんっと体中を何かがうごめく感覚にラズリはもふもふした真っ白の体をよじって嫌がる。
「えっ。女やなくて猫もふっとる!」
 光流が意外さに目を見張ったが、ラズリだって立派な女の子なんですぅ!
「ら、ラズリから離れてくださいぃぃ!」
 エレは無我夢中でエクトプラズムを練り上げ、ラズリの体にうぞうぞ這い回る触手を引っ剥がした。にゃんこにえっちなのはいけません! いけません~~!!
「爆ぜろ、凍星」
 ひさぎの御業がアブランカ・リンドウを穿とうとするのを、体を張ってオークプラントが防ぐ。
 腹の真ん中に穴が空いたオークプラントを、アーヴィンが殴り、手伝いに来た降魔拳士のオーラの弾丸が吹き飛ばし、ウォーレンの螺旋が粉砕する。
 十体のオークプラント相手の乱戦、入り乱れる敵味方。その混乱に乗じて……。
 逃げようとするアブランカ・リンドウの背に清士朗が天真正伝鞍御守神道流剣術 朧にて瞬間移動のごとき速度で迫り、その足を掬うように蹴る。
「ぐっ」
 転びはさすがにしなかったものの、逃亡を阻止されたアブランカ・リンドウは歯痒げに清士朗を睨んだ。

●まるはだか
 どぱぁ。豚口から吐かれる大量の消化液。
 どろりとした白濁液を頭から浴びてもエレはなんとか笑顔を保っていた。笑っていれば絶対大丈夫だと内心何度も呟く。
「にゃぁ……ぁん」
 ラズリもあれから何度もうごめく触手の餌食にされて、主従共に疲労困憊である。
「やっぱり攻性植物でもオークっぽいし、女狙いなんやな!」
 とは言いつつ、自身もディフェンダーなので何度か巻かれたり、催眠状態でオークプラントに従属してしまったり、粘液でデロデロにされたりと屈辱を味わった光流だ。
「だ、大丈夫……?」
 雨粒散らしながら最後のオークプラントを殴り潰したウォーレンが心配そうに光流を見やる。
「大丈夫や……レニがひどい目に合うよりはマシや」
 男らしい。が、白いドロドロまみれだ。
 エルスが前衛に星座の加護をかけてやる。
「さあ、これでお前は単騎だが……」
 真幸が眉を下げた。ここまでアブランカ・リンドウはこちらに攻撃もせず、ひたすらに逃亡を試み続けた。
 その度に、ひさぎと清士朗によって邪魔をされ、ここに螺旋忍軍は一人立つ展開へと追い込まれた。
(「俺はリンドウを倒したり捕縛出来るとは考えてなかったが……」)
 ここまで来てしまったら、倒すしかないだろう。真幸は、殺したくないが。
 アブランカ・リンドウは肩をすくめ、とうとう魔導書を広げる。口の中で詠唱される呪文が緑色の粘菌を召喚し、エルスの脳を犯す。
 エルスは極彩色で広がる悪夢に目を見開き、声にならない悲鳴をあげた。こみあげてくる涙、慟哭、おさまらぬ悲しみ。
 無理やり粘菌がエルスに見せる『竜十字島の悲劇』。
 清士朗とひさぎは、エルスが見ているものを『知っている』。
「アブランカ!!!」
 怒りを叫び、ひさぎは体をバネのようにたわめるなり、爆ぜるようにアブランカ・リンドウに取り付く。ゼロ距離で撃ち込む鏤氷敲氷弾・零に、アブランカ・リンドウはたまらず血を吐いた。
「これやから螺旋忍軍は嫌いや……」
 光流が眉根を寄せる。
「……清浄なる力を秘めし、空の石よ。……神聖なる輝きで穢れを、祓い賜え!」
 島に凛としたエレの声が響き、天青石の煌々とした光が粘菌を祓う。エルスの悪夢は次の瞬間、かき消えた。
「大阪連合は利害関係で結びついているなら立場が弱くなれば追い出されるだろう。互いに種を危険に晒したくないはず。そちらも利害関係で動いているなら、俺達と話し合えないか考えるだけでもしてくれないか」
「甘い」
 真幸の再度の説得を、唇から赤を垂らすアブランカ・リンドウは一蹴し、物覚えの悪い生徒相手に言い聞かせるような口調で言う。
「その立場を守るのが我が役目。故に、任務は達成せねばならない」
 とん、とアブランカ・リンドウは後ろに軽く跳んだ。
「畜生! 行かすか!」
「光流さん、僕も行く……!」
 断崖絶壁から身を躍らせたアブランカ・リンドウへ追いすがろうと、地を蹴る光流とウォーレン。
 しかしそれよりも速く。
「照りもせず 曇りもはてぬ 春の夜の おぼろ月夜に しく物ぞなき」
 一時的に重力の軛から逃れた清士朗が空中に躍り出、アブランカ・リンドウが落下する前に、彼の命を蹴り潰した。
 躯が波飛沫の中へと落ちていく。
 きっと岩肌にぶつかる激しい荒波が、あっという間に遺骸を砕いて、その一切を深海へと引き込んでいくだろう。
 その様子を見届け、真幸は顔をしかめて目を閉じる。――嗚呼、あの子は泣いてしまうだろうか。

●潮騒
 戦場は静寂を取り戻し、海鳥の声と風と波の音だけが竜十字島に響く。
「お疲れ様でした……」
 ウォーレンが疲れ切った顔で仲間たちをねぎらう。
「とりあえず、何とかなりましたでしょうか……」
 ラズリの体を拭ってやりながら、エレは長い溜息を吐く。
 ディフェンダーをうけおったときに覚悟はしていたが、大変な目にあった……。
「螺旋忍軍まで倒せて、上々の上がりだと思おうぜ」
 アーヴィンが不器用なりにエレを励ました。
「アブランカ、ソフィステギア直属だと思うけど……またコギトエルゴスム使った悪さでも企んでんのかな」
 目を閉じる真幸の横で、ひさぎは崖下を睨みつけ、呟く。
「ちょっとここらへん調べてまわるわ。ゲートでも開いてたら敵わんさかいな。ほな行こか、レニ」
「あ、うん。それにしても一体何が埋まってるんだろうね」
 と光流とウォーレンは探索に向かった。
 ゲート、という言葉に反応したエルスは、かつてドラゴンのゲートがあった方角を見やる。
 もう混沌の粘菌は頭に居ないのに、エルスはまた『あの日』を思い出して泣きそうになった。
 思わず掴む清士朗の袖――彼はちゃんと、此処にいる。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月28日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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