求む何かは彼の地に在れ

作者:森高兼

 数か月前までドラゴンの拠点だった『竜十字島』に広がる森にて、星明りを頼りに動く複数の影があった。その正体は……攻性植物の力を持つように改造された『オークプラント』である。
 10体のオークプラントは川の砂利を掻き分けたり、川辺にある木の側で土を掘ったりしていた。彼らは何をしているのだろうか?
 螺旋忍軍の一派閥『神楽派』で筆頭たる『神楽・天狐』が、川から少し離れた木陰より閉じている扇子を小さく振る。
「絶対に見逃してはならぬぞ」
 そう言った天狐自身は地面に届きそうな程に長髪を揺らして木陰で佇んだまま、指示通りには行動する配下達に作業を任せるだけだ。両方の親骨に飾り紐が付く洒落た扇子の先端で顎を軽く叩きながら、彼女に物憂げな表情が浮かぶ。
(「妾が集めた情報に不足があったのかや……?」)
 作業の進捗状況は半分くらいと言ったところ。
 天狐は徐に扇子を開き、裾が膝丈の着物で全体的に暑くはなくとも顔を扇ぎ始めた。自分の分析結果を信じることに決めた以上、結局は配下達の作業を待つしかない。
「お主達、キリキリ働くのじゃ!」
 そんな天狐の声が森に響く中、オークプラント達による星夜の作業は続く。

 ケルベロス達が集まると、サーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)は笑顔で迎えてきた。
「君達、よく来てくれたな」
 サーシャから配られた資料の概要によれば、竜十字島で多数の螺旋忍軍が重要と思われる物を捜索している模様。配下としてオークプラントを連れており、ドラゴンの残党および大阪城の攻性植物との関連も疑わしいだろう。
「奴らの捜索が順調かどうか不明だが……手遅れとなる前に一部隊を仕留めてくれ」
 サーシャが手書きの地図を出し、森を両断するような狭く長い川のある地点を指し示した。
「君達には、ここで螺旋忍軍の『神楽・天狐』を討ってもらいたい。奴は全てのオークプラントに守りを固めさせながら、君達から極力離れた位置で攻撃を仕かけてくるぞ」
 戦場は無数の木々がそびえる森と不安定な足場の川という地理条件だ。普通に戦うことは可能なものの、逃走しようとする天狐に隙を突かれると見失ってしまうかもしれない。
「天狐が君達に接近するのは扇で急所を打つ時だけだ。あとは距離をとった上で呪言を唱えるか、舞って広範囲にカマイタチを放つ」
 戦闘力の高くないオークプラントは、触手で槍のように貫いてくる。他には冷静さを奪う悪臭の溶解液または催眠を誘発する花粉を振り撒く。
「配下に選んだオークプラントから察するに、天狐は最初から非常時に脱兎するつもりだったようだな」
 皆より少し遅く資料を読み終え、綾小路・千影(がんばる地球人の巫術士・en0024)が真摯な眼差しで皆を見てくる。
「探し物を発見されてしまうと何が起こるか分かりません。私達が入手できる可能性も踏まえて色々と考えて参りましょう!」


参加者
皇・絶華(影月・e04491)
岡崎・真幸(花想鳥・e30330)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
星乃宮・紫(スターパープル・e42472)
嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)

■リプレイ

●彼の地にて
「既に螺旋忍軍はゲートを失っているが。それでも動きは変わらないな」
 可能ならば倒したい天狐のいる森の前に到着し、皇・絶華(影月・e04491)が歩を進めながら続けて呟く。
「何かはドラゴンとの交渉材料として探しているのかもしれない。或いはゲートを再度見出す為の道具……それとも手がかりを探しているのか?」
 いくら思考を巡らせても、まずは天狐と接触してみないことには推測の域を出ない。
「彼女らが探しているものが何か。それだけでも興味は湧くところですね……」
 クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)は妙に色気が漂う仕草で頬に片手を添えた。
 大人の魅力全開なクノーヴレットとは対照的に、八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)が年相応の子供らしさで明るく元気に述べる。
「一体何を企んでいるのか気になるのです!」
 あこのハイテンションに応じるように尻尾を揺らめかせたのは、マッチョもふもふのウイングキャット『ベル』だった。
 お手製のヒーロースーツに着替えている星乃宮・紫(スターパープル・e42472)も、熱くやる気を露わにする。
「螺旋忍軍がなにを企んでるかは知らないけど、やらせはしないわ!」
(「忍軍の一派の筆頭か……相手にとって不足はない。あちらは、その気でないのが残念だがな」)
 嵯峨野・槐(オーヴァーロード・e84290)は馴れ合いを嫌っており、あえて皆の前で意気込みを口にはしなかった。
 敵はオークプラントもいることを忘れてはならないだろう。
 もういない妹の名を冠するナイフ『ミサキ』の柄を……岡崎・真幸(花想鳥・e30330)が強く握り締める。
「うちの面子、大丈夫だろうか。オークプラントは早く殲滅しねえとな」
 ボクスドラゴン『チビ』は真幸に心配されている仲間の1人である綾小路・千影(がんばる地球人の巫術士・en0024)を見やった。
 足は止めない千影が、不安の色を感じさせない面持ちで声を上げてくる。
「岡崎さんが考えているオークとは違いますから大丈夫ですっ」
 絶華は森の地図を頭に叩き込んできていた。現地でも内容を更新しており、天狐を見失わないための準備に余念が無い。道中にオークプラント達が掘った穴を発見して少し分析する。
「大きな穴は無いようだな」
 作業の痕跡から解ったのは『何か』が巨大ではなさそうな点くらいだ。
 目的地へと近づいていき、紫が天狐とオークプラント達を目撃して叫ぶ。
「危機ある所に輝く美しき紫の星! スターパープル見参!」
 天狐はあまりに堂々と紫に名乗られ、逃げることを思わず忘れたようにケルベロス達を注目してきた。
 面を食らった天狐にハッタリをかけようと、絶華が適当な物を入れておいた腰ポケットに触れる。
「……少しだけ危なかった。貴様らより先んじて手に入れる事が出来たのは僥倖だ」
 星明りの下に浮かぶ天狐の表情に変化があれば、彼女が探す物のサイズに見当をつけられるかもしれない。
 しかし、絶華に関心すら示さずに皆を警戒してくる天狐。最初こそ紫の口上に驚いていたが、情報に重きを置く者としてハッタリが簡単に通用する程……何かについてのヒントは安くないわけか。
 真幸は有益な情報を望めそうにないのは承知の上で、天狐に鎌をかけてみることにした。
「誰かと取引しているのか?」
 あくまで天狐には沈黙を貫かれ、これ以上の問答は無駄のようだ。ここで絶対に彼女を討つという意志をもって『ミサキ』を構える。
 森のざわめきと共に、戦いの幕は上がった。

●10の盾
 愚鈍なオークプラント達に天狐の号令がかかり、密集陣形でケルベロス達に立ちふさがってくる。だが壁は厚くとも著しく攻撃を遮られることはない。
「先手必勝じゃ」
 天狐は着物の袖で口元を隠してきた。やはり聞こえてこない声による呪詛の相手は絶華だ。
 ドラゴンの幻影を生み出し、真幸が後方からオークプラントを燃やす。
「……ッ」
 幻に襲われながらも飛び上がった絶華は、手製のエアシューズ『斬狼』に流星の煌めきと重力を宿した。距離を詰めて猛攻と牽制をしくべく、燃えるオークプラントに手応え抜群で飛び蹴りをかます。
 集中したクノーヴレットがオークプラント達に火の玉を撃ち、ミミック『シュピール』の刃物は狙わなかった1体がくらった。
「紫の連撃、味わいなさい!」
 紫が天狐の挙動に目を光らせながら、かなりの傷を負っているオークプラントに拳を突き出す。
「パープルパンチ! パープルエルボー! パープルヒップ! パープルアッパー!」
 前のめりで目標の敵に命中させた各打撃は幸運にも急所へと直撃していた。
「パープルキィィィック!」
 止めに蹴り飛ばされ……オークプラントが地面に倒れ込む前に消滅する。
 1体減ったところで残り9体のオークプラント達の頭部にある花より、吐き気を催すような悪臭の溶解液が一斉に撒き散らされた。攻撃の要達に降りかかろうとしていく。
 体を張って紫の代わりに、シュピールは臭う溶解液を浴びた。もう1人の攻め手たる絶華が自力で回避したため、背後にいる仲間達の守護をあことベルに託す。
「危ないのです!」
 あこが治癒を担う千影を庇った。
「あ、ありがとうございますっ」
「なんのなんのなのなのです」
 どこか早口言葉のような返事をしてオークプラント達の溶解液が止んでから、企みとは別で気になっていたことを天狐に問いかける。
「オークの改造はさがしものに向いているのですか……?」
「はて、その問いに意味はあるのかや?」
 無視はしてこなかった天狐だが、質問に質問で返された。彼女の情報はどれも高く付くのだろうか。
 千影の起こした薬液の雨が彼女の前方にて戦うクノーヴレットと槐、チビを癒す。
 視界が開ける浅い川の方へと誘導された天狐は、せせらぎに水の跳ねる音を潜ませて絶華の背後に回り込んできた。扇で居合いのように彼の頸椎を強打して即座に後退していく。
 真幸が肉迫したオークプラントの裂傷を『ミサキ』で斬り刻み、その傷口を拡大させた。
(「触手やら粘液やらは大嫌いなのだが……」)
 呪詛の幻として出現してくるかもしれない。そもそも目の前に実物がいるか。
 千影ばかりに負担をかけられず、あこはバイオレンスギターの弦に指をかけた。
「あこの歌を聞いてゆくと良いのです!」
 元気一杯な歌声が槐達に完全な冷静さを取り戻させる。
 ベルも羽ばたいて槐達に邪気を祓う魔力を授けた。紫の卓越した一撃がオークプラントの息の根を止める。
 ガジェットを『鋼鞭形態』に変形させた槐が、オークプラント達を打ち据えていった。まだオークプラントは8体いるため、どれだけ鞭を器用に扱おうと衝撃を殆ど浸透させづらいのは仕方ない。
(「私の役目は盾を壊し尽くすことだ」)
 ちなみに天狐の油断を誘おうと、オークプラント達に注意がいっているような素振りを見せている。川の対岸で応戦する際に木々が邪魔となれば、障害物を敵ごと薙ぎ倒すこともいとわないつもりだ。自然のヒールは千影達がしてくれるだろう。
 天狐は逃走を図るのを諦めていないはずで、いつ仕かけてくるかは分からない……。

●不気味な静けさ
 頭部の花に催眠効果のある花粉を溜め、オークプラント達が中衛陣と後衛陣に散布してきた。硬化した触手による刺突もクノーヴレットに繰り出される。
 クノーヴレットは直接攻撃に何故か艶めかしく体をくねらせて天狐にどん引きされた。
「その……最近オークとはご無沙汰だったというのもありまして」
 どうやら、リアクションのツッコミは無用のようだ。
 自らを犠牲に、ベルが槐からオークプラント達の花粉を遠ざけることに成功した。
「偉いのです!」
 あこに褒められながら、この先も羽ばたかせる両翼の羽繕いをする。オークプラントが5体になるまで加護の付与を優先中のため、筋肉質な腕より爪を振るうには早い。
 離れた位置にて皆を援護する泰地は、ボディビルのポーズで温かい光のオーラを放出して千影達に活力を与えた。
 治療対象を見誤らないように落ち着いて、千影が薬液の入った瓶を槐達の頭上に投げて雨を降らせる。
「皆さん、がんばりましょう!」
「しつこい奴らじゃ」
 天狐は川を出ると、軽快な音を響かせて開いた扇を星空に掲げた。雅に一回転する度に暴風が吹き荒れ、数多のカマイタチが紫達を切り刻んでくる。彼女達を守っていた魔力の大部分は消し去られてしまった。
 ある者の魂が宿っていると伝わる斬霊刀の『Durandal Argentum』に、絶華が空の霊力を帯びさせる。霊剣でオークプラントの火傷を斬り広げ、彼らの間にちらつく天狐を一瞥した。
「貴様を放置はできないからな」
 皆はオークプラント達に攻めながら、天狐を森の奥に奥へと追いやっている最中だ。彼女がどこまで地理を把握しているのかは不明だが……森を抜けられると追跡が困難になりかねない。
「道を切り開いていきましょう」
 クノーヴレットはファミリアロッドから轟々と燃え盛らせた火球を放ち、オークプラント達の中心で爆破した。ふと妖艶に微笑んでシュピールに目配せする。
 火の粉が舞い散る一帯を駆け、シュピールがエクトプラズムで作り出したのは切れ味の鋭そう得物。そして、綺麗にオークプラントを解体した。
 あことベルは引き続き支援に徹し、槐がオークプラント達と木々に光弾を発射する。千影は花粉による催眠にかかり、治癒の力は弱まりながらも敵の前衛陣をヒールしてしまった。
 天狐が無表情で再び扇を閉じて紫の背中を打ってくる。
 先程は微々たる回復だったこともあり、絶華は滞りなく4体目を屠った。チビが自身の属性を色濃く注入する。全体的にも地道にダメージを蓄積させているため、そろそろオークプラントを5体にできるだろうか。
 槐が心成しか気落ちしているような千影に気づき、ややぶっきらぼうに告げる。
「いちいち気にするな」
「ありがとうございます。嵯峨野さんは優しいのですね」
「……そうかしら」
 実は押しには弱い槐だった。千影の素直な態度に少々戸惑いながらも詠唱を始める。
「花は見えども実をつける、夢見し日々は甘露となりて裡に有り」
 槐の片手に魔法の果実が顕現し、それを紫に投げ渡した。
 とても芳醇な果実が紫の鼻孔をくすぐって癒しの効力を高める。
「感謝するわ!」
 その一言だけで、槐にとっては十分だった。
 天狐達の攻撃を耐える仲間達に自分ができることは戦闘を有利することであり、真幸は『竜語魔法』で掌にドラゴンの幻影を呼び出した。幻影がオークプラントを業火に包み込んで跡形も無く焼き尽くす。
「これで半分だな」
 ようやく、複数を巻き込んでも効率的に攻撃できる状況となってくれた。もはやグラビティで威力の低下と効果の著しい不発には悩まされない。
 絶華が1体に斬りつけ、クノーヴレットはオークプラント達を纏めて焼いた。ベルの爪は支援の継続でお預けだ。
 大きく息を吸い込んだ紫が、森の全域に轟くように声を張り上げる。
「パープルシェイキング!」
 裂帛の気合は威圧感を伴う重力震動波に変換された。それをオークプラント達に炸裂させて吹き飛ばし、1体を瀕死に陥らせる。
 槐はオークプラント達に向けた縛霊手の掌に光を収束させた。視界よりも聴覚などを頼りにするためにワイルド化している両目をつぶる。
「6体目だ」
 淡々と言って正確に巨大な光弾を撃ち出し、虫の息だったオークプラントの始末は済ませた。
 手数の減少から的を絞り、あこ達に集団で花粉を振り撒いてくるオークプラント達。
 槐の言葉は励みになっていたのか、千影が花粉をかけられたあこ達へと機敏に薬の雨を届けてきた。
「八点鐘さんもお気をつけくださいっ」
「りょうかいなのです!」
 もう誰であろうと、二の舞を演じさせたくないのだろう。
 オークプラント達を先に殲滅する皆の狙いは順調だ。むしろ順調過ぎる。無傷の天狐が逃走しようとすれば標的変更だが、その時点の余力次第では彼女を討ち果たせないかもしれない。
 天狐は一定以上の移動を阻まれているゆえに様子見を継続してきた。彼女の動向が戦局を左右する。

●駆け引きの結末
 本当にケルベロス達を引き離す気はあるのか、天狐は絶華に扇の一撃を見舞ってきて付かず離れずの位置を維持してきた。
 強烈な一撃で、真幸と絶華がオークプラントを1体ずつ蹴散らす。クノーヴレットとシュピールは氷河期の精霊と偽物の財宝で2体に畳みかけた。
 あこが『お腹が空いた』と強く念じて空に手を伸ばすと、どこからともなく虚空に缶詰が現れる。
「ご飯よ、飛んじゃえ!」
 ひとりでに開封された缶詰より食欲をそそられるサバ水煮の匂いが拡散され、缶詰は中身と一緒に消失した。不思議なパワーが絶華の身体を硬直させる原因を払拭していく。
 2体のオークプラントは頭部の花に力を込めてきた。大量の魚を腐らせたかのような汚臭の溶解液が前線にぶちまけられる。
 天狐が徐に袖で口を隠した。また呪いをかけてくる……かと思いきや、不意に踵を返してくる。
「さらばじゃ」
 皆に生じてもおかしくない心の余裕を突く算段だったらしく、今まさにほくそ笑んでいるのだろう。
「させるか!」
「はいなのです!」
 天狐の逃走経路を先読みする絶華の指示に耳を傾け、あこはオークプラント達もついてこさせて彼女を通せんぼした。
「ぬぅ……」
 クノーヴレットがぽつりと……耳の痛いツッコミを入れる。
「情報不足で慈愛龍を地球に呼び出せずに敗走ですか?」
 話の始めに怒髪天を衝いたようで、眉を吊り上げてクノーヴレットを睨んできた天狐。今も彼女の口は見えないが、真一文字に結ばれていることは容易に目に浮かぶ。
「観念するんだな」
 真幸はガネーシャパズルから稲妻を迸らせた。電撃を竜の形に模り、あこのために射線に気をつけて解き放たれた雷竜が天狐を痺れさせる。
 虎型の獣人であるあこは、右手へと重力を集めていった。今の彼女は遠方の天狐に攻撃できないのだ。
「あこはこっちなのです」
 小さな体からは想像しがたい重さでオークプラントを殴打する。
「ベルはそっちなのです」
 満を持して鳴き声を上げ、ベルが爪を伸ばした。飛翔していくと天狐を二度引っ掻く。
 絶華は炎の蹴り、クノーヴレットは黒色の魔力弾、紫は遠隔の爆破で天狐を攻撃した。だが見切らせないのならば、連続では彼女に攻撃できない。
 槐はあこと同じく遠い天狐を攻撃する術が無かった。
「こちらを片づけておくか」
 縛霊手でオークプラントを思い切り殴りつけ、放射した網状の霊力で身動きを鈍らせた。
 オークプラント達の花粉がばら撒かれ、千影が薬液の雨で洗い流してくる。
「おのれ、おのれ」
 天狐は逃亡の気力を完全に削がれており、まるで八つ当たりするように扇でクノーヴレットを叩いてきた。
 オークプラントに抱きつき、クノーヴレットが淫靡に囁く。
「うふふ、捕まえました……私のこの指で奏でて差し上げますから、素敵な声で歌ってくださいね……♪」
 千影は何かを察し、あこと槐を呼んで振り向かせてきてから自身も余所見した。
 オークプラントの全身へと優しく、時に激しく魔力を籠めた指先を這わせるクノーヴレット。強い刺激で生命力を奪うと、そのまま死に至らせる。
 最終的には己の番が訪れることになる天狐は、オークプラントを誘惑したクノーヴレットに戦慄させられていた。あこが微力ながらも歌で彼女の精神に負荷をかける。紫はオークプラントを殴り、反撃として触手で左肩を刺された。
 天狐が回転の舞で必死に無数のカマイタチを発生させてくる。
 紫達から魔力をひっぺはがされてしまい、チビが属性を彼女に再インストールしておいた。万が一のことがあってはならないのだ。
 今一度、絶華とクノーヴレットは天狐に深手を負わせた。
 紫が槐の真似というわけではなく、目を閉じて極限まで集中力を高める。それは一瞬で天狐を爆破するために見開いた。
「パープルサイコボンバー!」
 研ぎ澄まされた感覚にて爆撃を行って天狐をふらつかせた。
 そんな天狐を最大の攻撃で絶華に仕留めさせようと、槐が縛霊手でオークプラントを殴り飛ばす。
「これで終わりか」
 最後のオークプラントは粉砕された。もう絶華を邪魔する者はいない。
「まだじゃ……!」
 力無く絶華に扇を打ちつけてきた天狐を、真幸はドラゴンの幻影で焼き払った。
 絶華が身体能力を向上させる魔法少女の衣装へと転身し、精霊魔法を操る魔法少女の残霊も召喚する。
「我が武技と精霊魔導の競演……特と味わい散るがいい」
 魔法少女による精霊魔法の砲撃を受けた天狐の懐に、雷光のごとく潜り込んでいった。霊剣を命の糸を断ち切るように振り下ろして膝を突く。
 斬り伏せられた天狐の体は……死して情報を遺すまいと消え去った。
 標的変更のタイミングを明確に決めておけば、スムーズに勝利できていたかもしれない。オークプラントが強くはなくて助かった。
 何はともあれ完全勝利で、紫が早着替えして気弱な雰囲気を醸し出す。
「お疲れ様です」
「はい、お疲れ様でした」
 千影とお辞儀し合って似た者同士だ。ヒールを手伝えないから天狐と遭遇した地点では調査してみたが、怪しいものは存在しなかった。
 はたして、天狐の探し物とは……どんなものだったのだろうか?

作者:森高兼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月13日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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