竜の島の陰陽狐

作者:秋月きり

「よーし。探せ。探すのじゃ」
 竜十字島に少女の声が響き渡る。
 声の主は和装姿の少女――狐耳の美少女だった。その外見は齢にして15前後。だが、陰陽師を想起させる前掛けの内から主張する女性の膨らみは、外見年齢を遙かに凌駕していた。
 彼女の名は飯綱大師。螺旋忍軍の一員である。故に、実年齢はその外見通りの年齢ではない。
 口元を扇の様に広げた呪符で覆いながら、配下の緑色のオークじみた何か――オークプラントへ命じる様は、まさしく上に立つモノの所業。組んだ腕に強調される膨らみや健康的に張り出した太股は、並のオークであれば劣情の対象だっただろう。しかし――。
「いや、主らどっちなのじゃろうな?」
 攻性植物か。オークか。それとも主に忠義を尽くすだけなのか。まぁ、自身が劣情の対象となっていないのは助かる。オーク如きに嫌悪する程の生娘のつもりはないが、働いてくれないのは一番困る。
「まぁ、良い。探せ探せ。この地にあるはずじゃ!」
 必要なら穴を掘れ。瓦礫をどけろ。海にすら潜れ。
 自身は自身で鼻をひくつかせながら、配下と共に移動を繰り返す。
(「本当にあるのかのぅ? ……いいや、信ずるモノは救われる、じゃ」)
 空は青く、日は明るく。
 のんびりとは出来ないが、バカンスの代わりと思えば多少は許せる。ただ……。
「邪魔者の予感がするのぅ」
 獣の勘は当たるのだ。特に女の勘、そして狐の勘は。

「ドラゴン・ウォーの戦場となった竜十字島で、螺旋忍軍が何かを探している。そんな予知が見えたわ」
 リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の発した言葉に、集ったケルベロス達は神妙に頷く。
 彼の激戦から既に二ヶ月が経過しようとしていた。デウスエクス達に放棄され、何もないと思われた竜十字島だが、その実、何か重要なモノがまだ眠っているらしい。
「……多くの螺旋忍軍が探索を行っているから、『重要な物があるに違いない』って言う消極的は判断なんだけど」
 ともあれ、デウスエクスが多くの戦力を割いて行っている探索だ。妨害そのものに利益はあるだろう。
「いやー。言ってる事は黒いなぁ、と思うんだけどね」
 ただ、気になる事もあるという。探索に割かれた人員は螺旋忍軍のみならず、オーク型の攻性植物、オークプラントも居るようなのだ。それを配下としている事から、大阪城の攻性植物、或いはドラゴンの残党とも密接な関連があるのでは? と言う疑いが持たれている。
「だから、みんなには探索を行っている螺旋忍軍とオークプラントの撃破を行って欲しいの」
 可能ならば何を探索しているか、突き止めるのも良いだろう。螺旋忍軍が口を滑らせる事は無いだろうが、対峙する事で、或いは竜十字島の空気に触れる事で何か見えるかも知れない。
「ま、そこまで気負い過ぎなくても良いと思うけどね」
 撃破以上の事は気軽にやって欲しいとリーシャは微笑む。
「それで、今回、みんなが相手して貰うのは『飯綱大師』と言う名の女性螺旋忍軍になるわ」
 なお、外見だけ言うならば15歳程度の美少女だが、相手はデウスエクスだ。外見年齢など当てになるはずもない。
「それと、配下のオークプラント」
 こちらはオークと攻性植物の合いの子の様な攻撃を行ってくる。戦闘力は高くなく、数の対処さえ間違えなければ苦戦する相手ではないだろう。
「だからこっちは最低限度程度に気をつければいいけど、注意が必要なのは螺旋忍軍の方ね」
 戦闘力はそれ程高くないので油断さえしなければ倒せる相手だ。だが、螺旋忍軍の目的はケルベロス達の撃破ではなく、何かの探索だ。
 故に。
「そう。戦闘になれば逃亡を図る可能性が充分に高いわ」
 年の功か、戦局を見渡す冷静な目は十二分に持っているようだ。
 逃亡を阻止する為には速攻でオークプラントを撃破し、配下を動かす隙を与えないか、もしくは、彼女に不利を悟らせないべく、何らかの方策を取る必要があるだろう。
「速攻撃破を行うなら、敢えてみんなの攻撃をダメージ増に偏らせる、と言う辺りかな? 不利を悟らせないならある程度の演技が必要になると思う」
 なお、飯綱大師は螺旋忍軍らしく、忍術じみたグラビティを使用する。戦力が高くないとは言っても、それなりの戦闘力はあるので、努々油断はしないで欲しいとの事だった。
「仮にだけど、螺旋忍軍が探している物を予測する事が出来れば、それを私たちが獲得する事も可能かも知れないわね」
 その為には現地調査は欠かせない。飯綱大師を撃破しつつ、その予測の為の情報収集も悪くはないだろう。
「それじゃ、いってらっしゃい。吉報、期待しているわ」
 そして、リーシャはケルベロス達を送り出すのであった。


参加者
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ

●竜の島の陰陽狐
 臭いがする。島特有の潮風の臭い。そして、焦げた臭い。
 それが竜十字島の全てだ。ドラゴン達が支配していたこの地は、既に遺棄されたに等しい。焦げた臭いはその原因となった戦争の物。
「本当にあるのかのぅ」
 陰陽狐こと飯綱大師は扇状に広げた符で口元を隠しながら、雅に笑う。自慢の鼻で、失せ物を捉える事は未だ出来ていないが、それでも配下のオークプラントの働きは上々。発見は時間の問題だ。
 邪魔者が現れなければ。
(「来おったな」)
 予感的中に、呻き声を零してしまう。
 潮に混じる臭気は硫黄や窒化水素。まさしく地獄の臭いだ。
(「ひぃふぅみぃよぅ。……8つか。どうするかのぅ」)
 捜し物の優先度は決して低くない。だが、何より勝る物は自身の命だ。
 故に、デウスエクスを殺す能力を持つ地獄の番犬との抗戦は避けたかった。だが、そんな彼らの身体能力は、現地人と大差ない。ならば殺傷能力のある牙のみに怯え、尻尾を巻いて逃げるのも如何かとも思う。
(「お手並み拝見、と言う奴か」)
 鼻を鳴らし、視線を向ける。
 視線の中では配下達が調査作業を続けている。
 今現在、彼奴らは出る隙を窺っているのだろうか?

 その予感は的中したのか。
 10体のオークプラントと、彼らを指揮する螺旋忍軍の動向を見守る人影があった。
「何を探しているかは気になるでありますが……先ずは撃破が先決でありますね」
「どどーん! と邪魔しちゃうんだよ!」
 テレビウムのフリズスキャールヴと共に立つクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)が小声で宣言し、ミミックのタカラバコを携えた火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)が同意を示す。
 飯綱大師率いるデウスエクス達が何を探しているのかは未だ不明。だが彼女のみならず、多くの螺旋忍軍が投入されている本件は、おそらく大規模な作戦なのだろう。
「金銀財宝? 至高のお酒? それとももっと大事なもの?」
 推測半分。願望半分。七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)の想像は趣味に偏った物だった。だが、残念ながら突っ込み役は此処にいない。
「竜のお宝なら金銀財宝ざっくざくだと良いなぁー」
 それは遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)から零れた呟き。青い瞳は期待に輝いている。
「まー。多分ろくでもないものなんやろうな」
 八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)の言葉は呆れ半分と言った処だった。
「ともあれ、デウスエクスの好きにはさせないよ」
 何を探しているのかは不明だが、その阻害は敵対する自身らにとっては有益の筈。
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)の言葉に、一同は応と頷く。

●CかKかそれが問題だ
「そろそろ出てきたらどうじゃ?」
 にらみ合いは小一時間程、続いただろうか。
 痺れを切らした飯綱大師の言葉に、ケルベロス達は顔を見合わせる。
「不意打ちの隙は無かったし、仕方ないよね」
 カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)が肩をすくめ、残りのメンバーはそれに従う。
 狐と犬との化かし合いはまずは狐が制したと言う事か。それは相手が超常存在デウスエクスで、まして、その中でも策謀に特化した螺旋忍軍なのだから仕方ないと考える。
 出でたケルベロス達相手に飯綱大師は目を細め、にんまりと笑みを浮かべる。そこに驚愕影が無い事は、彼らの出現を予想していた、と言うだろう。
「さて。主らは妾らの邪魔をしに来た。そうよな?」
 しかし、その問いは答えを求めていない事が明白だった。散開していたオークプラント達が壁の如く、飯綱大師とケルベロス達の間に立ち塞がり始めたからだ。
(「強引な突破は不可能じゃないけど」)
 タカラバコを片手で制しながら、ひなみくはそんな感想を抱く。
 オークプラントの動きは緩慢で、彼らが戦闘用ではない事は見て取れた。おそらく戦闘時、脅威となるのは飯綱大師のみ。だが、いくら弱いと言え10体からなる物量は無視出来る話ではない。囲まれれば窮地に陥るだろう。
「今日のボクはお邪魔虫デスよ、そう! ロックに!」
 シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)がぎゅるーんとバイオレンスギターを掻き鳴らす。
 それが開始の合図となった。

「あ、延長お願いします~」
 ひなみくからは氷の、タカラバコからは黄金の乱舞が放出される。
 それを受けたオークプラント達はしかし、10体からなる減衰の壁のお陰か、大きな被害は見うけられない。故に――。
「あれれ!? どうしよう、思ったより凍らないんだよ!」
 ひなみくが上げた戸惑いは至極真っ当な物であった。
(「なーんて」)
 内心で舌を出す。続くシィカやカッツェの息吹も、ひなみく同様、複数を対象とした際の減衰に阻まれ、外皮に焦げ目を残したのみ。
 倒すべきは螺旋忍軍、飯綱大師だ。その為には、彼女に自軍の不利を悟らせてはいけない。可能な限りオークプラントに均等なダメージを与え、同時に撃破する。飯綱大師の逃亡を妨げる為には、そのお膳立てが必要だった。
「もー、早くオーク倒してよー! 全然攻撃が当たらないじゃない!」
「せや! どーしてくれるん?!」
 だから篠葉が氷結輪を投擲しながら零す文句も、瀬理が氷を宿した螺旋を放ちながら叫ぶ怒りも、作戦の内だ。決して仲間割れではない。
「攻撃が甘いぞ、ケルベロス!!」
「く早いであります!」
 紙兵散布とフリズスキャールヴの応援動画も何のその。飯綱大師の金色の尾がクリームヒルトを盾ごと、捕縛する。
 ぎちぎちと締め上げた後、ぽいと捨てられた戦乙女の身体は空中で翼を広げ、地面との衝突は回避。だが、白銀の重鎧に刻まれた痕は、そこに宿る膂力を示していた。
「ほれほれ。どうしたどうした? 音に聞く地獄の番犬の力とはこの程度なのかえ?」
 にんまりと笑い、胸を反らす飯綱大師。仰け反りと同時に規格外の対の膨らみがふるりと柔らかく揺れ、余韻を残して動きを収める。
「なんかむかつく!」
 とは篠葉談。細身体型も何かと思う事があるのだ。
「あんなに大きいと動きにくそう」
「と言うかあんな零れ落ちそうな服を着て! これだから最近の若い子は!!」
 ぽつりと零すリリエッタの呟きに、さくらが口を尖らせる。
 対する飯綱大師が口元に浮かべた笑みは、むしろ女狐然した魔性の笑みでもあった。その笑いを二人共知っている。あれは、自身の魅力を自覚し、そしてそれを強調している者の微笑だ。
「くふっふっふ。この場所に女だけなのはちと残念だが……」
 腕を組めば強調される膨らみを突き出し、飯綱大師は笑う。
「妾の美貌、拝んで死ぬ事を許そうぞ!」
「ぐっふっふっふ」
 過度とも言える飯綱大師の宣言を強調する様、配下のオークプラント達はぐへへと下卑た笑みを浮かべていた。

 そして戦いは10数分の経過を刻む。
 炎天下の中、目まぐるしい10分の攻防は、如何にデウスエクスとは言え如実に体力を奪っていく。白虎のウェアライダーの冷凍光線を躱し、応戦とばかりに突き刺した尻尾の一撃はしかし、彼女の軍服を抉るに留まる。
「冥府より出づ亡者の群れよ、彼の者と嚶鳴し給え」
 白虎の次は茶狐から。彼女が召喚した怨霊達は怨嗟を口にし、飯綱大師を喰らおうと纏わり付いてくる。
「はん! 陰陽師たる妾に降霊術で挑むとはな!」
 怨嗟には怨嗟を。陰陽術には陰陽術を。
 手にした符で怨霊を掻き消した飯綱大師は、勝ち誇った笑みを篠葉に向け、ふふりと笑う。
 なお、二人のキャラが被っている事は誰も突っ込まない。大きさが違う故だろうか。
「ちょっと! 植物から削るって作戦だったでしょー!? さっきから作戦と違うことするのやめてよ!」
 代わりに飛んだのはひなみくからの叱責だった。だが、それに対して虎と狐のウェアライダーは黙れと大声で返している。
(「おかしくないか?」)
 飯綱大師は小首を傾げる。
 10数分の戦いで、ケルベロス達の粘りは理解出来る。数年の単位でデウスエクスと戦った彼らだ。そう簡単に排除出来るとは思えない。
 だが、ならば、何故、こちらのオークプラントは10体とも健在なのだ?
 確かに自己治癒もある。ディフェンダーとしての加護もある。だが、戦闘用ですらない彼らが今も尚、健在なのはケルベロス達が弱いからか?
 否――。
「レッツ、ロックンロール! ボクのロックを見せつけてやるのデス!」
 ぎゅるぎゅる掻き鳴らされるギターの音と、シィカの歌声が思考をかき乱す。ブレスと共に繰り返された戦歌は、しかし複数を相手取る悲しさ。オークプラント達に入るダメージは僅かに過ぎない。
 だが。だが、それでも、ダメージは蓄積していく。
「主ら!!」
「もう遅い。――死に誘う素敵な化粧をしてやるよ」
 飯綱大師の叫びと同時に、カッツェが動く。
 自身から剥がれ落ちた鱗を手裏剣の如く投擲。突き刺さったオークプラント達は呻き声と共に疵口を掻き毟っていく。
 緑の皮膚が黒く斑に染まっていく姿は、褐斑病を想起させる物でもあった。
「植物とは言え、オークは気持ち悪いでありますよ」
 苦々しい表情でクリームヒルトが冷気の手刀を放つ。
 凍り、砕け、そしてオーク達は無数の粒子へと拡散していった。

●陰陽狐、力の限りに
「さて。後は貴方だけ」
 リリエッタの宣言は静かな声で響く。その一方で、飯綱大師の出方を窺う事を忘れない。
 8人、正確には8人と2体で四方八方を囲んでいる。逃げ場はない筈だが、相手は権謀術数を得手とする螺旋忍軍だ。万策尽きた訳ではあるまい。
「冥土の土産に探していた物を教えてくれる位してくれても良いんだけど」
 カッツェの声色は何処となく優しく響いていた。
 かまかけなりを用いて捜し物を予測しようとした彼だったが、一目、飯綱大師を見てその思いは捨てる事にした。抜け目なく逆に利用されかねない。
 それだけの圧を彼女に感じてしまったのだ。
「観念しなさい!」
 大胆な勝利宣言は篠葉から放たれる。配下のオークプラントは全滅した。オークプラントや飯綱大師から受けた傷は悪態混じりながら、さくらのヒールによってほぼ治癒している。ケルベロス達が敗する理由はない。
 だが。
「降参とでも言うと思ったか! この妾が! 地獄の番犬如きに尻尾を振るとでも?!」
 それは怒りであった。慟哭であった。敗北を認めない痛みであった。
 つまり、負けず嫌いの叫びだったのだ。
「マズいんだよっ」
 最初に動いたのはひなみく。同時にクリームヒルト、フリズスキャールヴが地を蹴る。
 そして三者が前に飛び出たその刹那。
 全てを吹き飛ばす大爆発が、ケルベロス達の視界を覆ったのだ。

 微塵隠れ。
 多くが創作で語られるこの忍術は、要するに爆発と共に逃げる手法である。
 火遁や水遁と同じく、遁走の為に鍛えられたこの術は、仕込んだ爆薬を大量に起爆させ、目くらまし、或いは殺傷する術だ。本家本元を辿れば爆死に見せる術だったとの記述も見受けられるが、それを殺人術まで昇華させたのがこの『超忍法・微塵隠れ』である。
「ふ。流石にこの術を受けてはケルベロス達もひとたまりも無かろう」
 露わとなった乳房と下腹部を押さえながら、飯綱大師は憐憫を好敵手達に捧げる。
 ちなみに術の触媒となったのは彼女の衣服だ。故にボロボロになっている。致し方ない。
 犠牲となったオークプラント達へ。そしてケルベロス達へ捧げた黙祷は煙の中に溶けていき、そして。
 けほけほ。
「――ッ?!」
 咳はさくらから零れたものだった。
「な、な、なっ」
 その脇を固める篠葉は震える声を上げ、瀬理は、
「ふ。大きさなら負けへんで」
 と胸を張っている。体型:豊満の矜持であった。
 なお、無事なのは三者だけではない。
「オークの居た場所でそんなあられもない格好……むぅ……」
「いやはや、まぁ、いやはや」
 その絵面は如何かとリリエッタは顔をしかめ、たわわな膨らみに何を思うのか、クリームヒルトは口を尖らせていた。
「タオル、貸そうか?」
 同情の声はひなみくから紡がれる。タカラバコの中から黄金色のタオルを取り出すあたり、先の台詞は皮肉ではなく、本心であったようだ。
 なお。至近距離で爆風を受けたクリームヒルト、ひなみくの両名は顔や肌、髪や服には焦げの汚れが付着している。超忍法・微塵隠れの恐ろしさを物語っていた。
「馬鹿な! 妾の秘密兵器が! 超必殺が!!」
「格ゲーか?!」
 切れ気味の突っ込みを紡いだのはカッツェだった。黒髪にも水着を思わせる黒い忍装束にも焦げ目がないのは、クリームヒルトのサーヴァント、フリズスキャールヴの功績だろう。消失してしまった仲間に哀悼を捧げ、そして黒き名を持つ大鎌を飯綱大師に突きつける。
「ヘイ! これがロックデスよ! イッツクールッ! フライハイッ!」
 そしてギター片手に黒煙の中、シィカが現れ出でる。
 至近距離で爆発を受けた為だろう。肌は焼け、防具は飯綱大師と同じく只の布きれと化し、もはや申し訳程度しか残っていない。
 だが、それでも彼女は仁王立ちする。大切な物はこの手の奏でる音楽のみ。それが彼女の生き様――ロックンロールなのだ!!
「?! いや、分かった。分かった。話せば判るのじゃ――」
「「問答無用!」」
 ケルベロス達の言葉が重なる。彼らの目的は螺旋忍軍の阻害。そしてデウスエクスを葬る事だ。
 言葉と共に光が煌めく。それは9のグラビティで、そして9つからなる全身全霊の一撃だった。
 そして、飯綱大師は星となったのであった。

●斯くして狐の探していた物は
「まー。残念やけど仕方ないわなー」
「あれ以上会話しても、捜し物が何だったのか、明かしてくれなかっただろうしねー」
「捜し物も『手当たり次第』と言った感じでありますな。推測は少々難しいかも、であります」
 それぞれ瀬理、カッツェ、クリームヒルトの台詞であった。オークプラント達が穴を掘り、瓦礫を除けていた事を考えると巨大な物体ではなさそうだが、手がかりが少ないのも事実だった。
「みんな、ごめんね」
 悩む同胞へひなみくがぺこりと頭を下げる。仲間割れの演技とは言え、皆を面罵した事に心を痛めているのだ。
「大丈夫。みんな、分かってる」
「そうそう。全ての元凶はデウスエクス。飯綱大師に呪いあれ、よ」
 リリエッタの静かな声と、にふりと笑う篠葉の禍々しい返答が重なり、少女に笑顔が戻る。
「とりあえず、勝利を奏でるデース!」
「その前にっ、服をっ、ヒールっ、させなさいっ!」
 ギターと共にぷるんと持ち前のスタイルの良さを誇示するシィカに、保護者よろしくさくらの悲鳴が響いた。
 斯くして、陰陽狐の探していた物が何だったのか、明かされる事はなかったけれども。
 ただ、デウスエクスの野望を挫く事の出来たケルベロス達の笑いだけが、竜の島に広がっていくのだった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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