疑惑の潮干狩り

作者:そうすけ

●竜十字島、海岸
「おーい。もっとしっかり探せよ。ほら、そこ。ちゃんと掘ったのか。まだ腰の下ぐらいまでしか隠れてないじゃねぇか……ちっ、この調子じゃ日が暮れちまうぜ。マジで使えねぇ連中だな」
 ここにいるのはオークプラントどもとカモメだけだ。誰に媚びる必要もない。
 禍斗は潮風に吹かれながら、日ごろのかわいこぶりっこな喋り口調を引っ込め、残忍で尊大な本性をのびのびと晒していた。
 どこから持ってきたのか……赤と白のビーチパラソルを白く焼けた砂の上に立て、作った六角形の影に寝そべりながら命令をしている。
「オレの野生の感が、『アレ』はここにあるって告げているんだよ。高確率で見つけ出せる……あん? 水が欲しいだと……海水でも飲んでろよ。イヤなら干からびる前に見つけ出せ。だいたい光合成できんだろ、お前たち」
 オークプラントたちが、ブヒっと不満げに鼻を鳴らす。
「だいたいオークのくせして生意気だぞ。でぶでぶ太りやがって……枯れても薪にもならねえ。ほら、さっさと女を襲うときぐらいの熱心さで砂を掘り返せよ」
 砂浜で穴を深く掘るのは危険だ。はまって抜けられなくなったところに砂が崩れてうまったり、満潮になって海水が穴の中に流れ込み、おぼれ死んでしまうことがある。
(「ま、こいつらが死んだところでどーってことねぇけどな」)
 スイカでも持って来ればよかった。気晴らしにスイカ割りして遊べるし、あとで食べることもできる。
 そんなことをつらつら考えていると、穴を掘っていたオークプラントの一体か、ブヒーと喜色の声をあげた。
 期待を持たせた響きに、おっ、と禍斗は体を起こした。
 オークプラントが涎を口の端から流しながら、嬉しそうに駆け寄ってくる。手にキラキラと輝く――。
「ガラス瓶じゃねーか、バカ!!」
 どうして竜十字島の浜に、某炭酸水飲料の空き瓶が埋まっていたのか。それはそれで謎ではあるが、探しているものは断じてそれではない。
「ぬか喜びさせやがって……死ね!!」
 禍斗はごろんと横になると、しゅんとしょげかえるオークプラントに背を向けた。

●ヘリポート
「みんな、よく聞いてね。ドラゴン・ウォーの戦場となった竜十字島で、螺旋忍軍が何かを捜索している事が判明したよ」
 『何か』ってなんだ。すぐに集まったケルベロスたちから突っ込みが返ってきたが、ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は明確な答えを持っていなかった。
「あ~、実は……彼らが何を探しているかは判らないんだ。かなりの数を出して竜十字島中を捜索してるみたいなんだけど」、と煮え切らない事を言う。
 とにかく、とゼノは目に力を込めてケルベロスたちの顔を見回した。
「螺旋忍軍の手に渡るととても厄介なことになりそうな予感はあるんだ。だからみんなには、探索を行っている螺旋忍軍の撃破をお願いしたい」
 螺旋忍軍は、オーク型の攻性植物オークプラントを配下として連れている事から、大阪城の攻性植物とドラゴン残党らとの関連が疑われる。
「できれば何を探しているのかまで突きとめて欲しいけどね。でも、まあ、彼らを竜十字島から追い払うだけでもとりあえずはよしとするよ」
 追い払えというがが、敵の勢力がわからない。
 それをいまから説明すると言って、ゼノはケルベロスたちの前に竜十字島の簡単な地図を広げた。
「みんなに向かってもらうのはここ、竜十字島の南端の海岸だよ。一部砂浜になっていて、オークプラントたちが砂を掘り返しているんだ。彼らを指揮する螺旋忍軍は、探し物は砂の中に埋まっていると考えたみたいだね」
 オークプラントとは、攻性植物の力を持った改造オークのことだ。
 植物っぽく触手や溶解液、催眠花粉などでで攻撃してくる。元がオークらしく、触手を使ったセクハラ攻撃にも気をつけなくてはならない。
「あとで海水浴を楽しむつもりで水着は着て行かない方がいいよ。とくに女の子。確実に狙われるから」
 にやりと笑うゼノの目がいやらしく光った。
 純朴そうな顔をしているが、サキュバスなのだ。セクシーな出来事は、見るのも聞くのも体験するのも大好きなのである。
「オークプラントの数は十六体だよ。めっちゃ弱いけど、十分気をつけてね。足元にあいた穴に落ちて身動きが取れなくなったところを狙われたら……」
 ボクはオーク(♂)の触手になんて触られたくないな、と顔をゆがませた。鳥肌の立った二の腕をさすりながら、指揮官の説明に移る。
「指揮官はウェアライダーの螺旋忍軍で、子供のように見えるけど、実は大人なんだ。ピンチになるとあざとくすり寄ってくるけど、気を許さないようにね。名前は確か……禍斗って呼ばれてた、予知夢の中で」
 禍斗は螺旋手裏剣を持ち、分身の術、ハウリング、獣撃拳を駆使して攻撃してくる。
「禍斗は危ないと思ったら躊躇なくオークプラントたちを見捨て逃げ出すよ。そういう奴みたい。逃げ出したら無理に追って倒す必要はないけど、あたりの景観と品位を保つためにもオークプラントだけは全滅させてね」
 ゼノはヘリオンの扉を開いた。
「そうそう、螺旋忍軍たちが探している物を予測する事が出来れば、敵の探しているものをボクたちが先に手に入れることができるかもしれない。竜十字島に着くまで、彼らが何を探しているか、推理するといいんじゃないかな」
 螺旋忍軍たちが探しているものについて思いついたことがあれば、この任務の終了後に出して欲しい、と締めくくった。
「じゃあ、出発しよう。さあ、みんな乗って!」


参加者
天満・十夜(天秤宮の野干・e00151)
アルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
レミリア・インタルジア(薔薇の蒼騎士・e22518)
マッド・バベッジ(神の弩・e24750)
レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)

■リプレイ


 窓から島の南へ目を向ける。禍斗ら螺旋忍軍の一派が宝探しをしているはずなのだが、上空から確認できない。
 天満・十夜(天秤宮の野干・e00151)は窓から離れると、ひとつ息を吸って腹の底に落とした。体からキラキラと星光が飛ぶ。
「アギャ!」
 相棒のアグニに見守られつつ、少年から青年へと変貌を遂げた。
(「禍斗……グランドマスターの仇、今日こそ討たせてもらうんだぜ!」)
 小聡明い禍斗は薄い胸の内で野心を燻らせながら、見せかけの誠実さでグランドマスターを籠絡。秘術を盗みつくした挙句に殺した。思い出せばいまも怒りの炎が魂の奥を焼き焦がす。
「この紋様に掛けて、今日こそとっちめてやる!」
 憂い顔のカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)が、そういえば、と腰をあげた。腕にもたれてウトウトしていたフォーマルハウトが、ソファから転げ落ちる。
「ごめんね。……うん、着いたよ」
 竜十字島にはあまりいい思い出がない。それはみんなも同じなのだろうけど。
 カロンは歯をガチガチならす相棒に手を貸し、体を起こしてやった。
 降下準備のため立ち上がったレミリア・インタルジア(薔薇の蒼騎士・e22518)が、体をほぐしながらカロンに問い掛ける。
「そういえば、なんですの? 続きが気になりますわ」
「『あざとい』って本来は、悪知恵が働くとか、ずる賢い、抜け目がないっていう意味です。禍斗の『あざとい』は媚びる……少々大げさに自らの可愛らしさをアピールし、あからさまに相手の心をくすぐる振る舞いをする方ですよね」
 アルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)が会話に入ってきた。
「どっちも禍斗を言い表しているんじゃないか、なあ十夜?」
 ビン、とバイオレンスギターを弾く。
「その通り。表も裏も『あざとい』やつなんだ。みんなも騙されないようにな、気をつけてくれ」
 心配いりませんわ、とレミリアは淡く微笑み返す。
「正体が解っていれば、騙されることもないでしょう」
「こっちはオークに指示する時の様子を聞いてたっすからね」
 セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)も調子を合わせる。
 アルメイアがまたギターを弾いた。
「禍斗を絞めあげるとして、その前にうじゃうじゃいる失敗作どもを蹴散らさないとな」
 しかし、と呆れたように頭を掻く。
「あのマッドサイエンティストめ。どっかで懲りろよ」
 失敗作というのは、禍斗とお宝を探すオークプラントのことだ。改造オークの一種で、創造主のラグ博士はアルメイアたちによって倒されている。
「元はと言えばヤツが出したゴミ。しっかり後始末しなきゃな」
「全部で十六体だったっけ? みんなで手分けして速攻で倒そう」
 ルーク・アルカード(白麗・e04248)は腕を上げ、文字盤の月を駆ける狼のうち一頭を十二の位置に戻してプッシュボタンを押した。ドアの前に立ち、肩越しにウインクを飛ばす。
「作戦開始だ。さあ、いこうか」
 島にいる螺旋忍軍にヘリオンの羽音を聞きつけられぬよう、高高度からの落下となった。
 空気抵抗による減速を避けるため頭から落下、空気の層を突き抜けていく。枝を折りながら落ちて、竜十字島の土を踏んだ。ゆっくり足の先を起こすと、靴の上を白砂がさらさらと流れるように下りる。
 レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)たちはつかず離れず、距離を保ちながら、草をかき分け、浜を目指して進んだ。
「しかし、連中は何を探しているんだろうな」
 マッド・バベッジ(神の弩・e24750)が潜めた声で呟く。
「キラキラした――宝石の類いか。竜十字島の、それも浜に宝石が埋まっているわけないと思うけど」
 そうだな、とレヴィン。
「推理はあとだ。連中が探しているモノが解ったら、報告すればいい」とルーク。
「それよりあそこを見るっすよ」
 セットは腕を伸ばすと、浜の一点を指さした。
 禍斗が波打ち際へ向かって歩いていく。オークたちが何か掘り当てたらしい。
 マッドが肩から上着を脱ぎ捨てる。
「僕がオークを引きつけるよ。水着の女が大好きらしいからね」
 ケルベロスたちは一足飛びに木陰の草むらを飛び出し、太陽が眩く照らすビーチに出た。


「禍斗、会いたかったぜー!」
「アギャー!」
 十夜は畳んだビーチパラソルの先を禍斗の胸へ向けた。
 アグニがぼっと火の玉を吐く。
「わっ。なんだ、お前たち!?」
 言いながら後ずさる。禍斗はすでに及び腰だ。
「俺様を忘れたとは言わせないぜ!」
「十夜? し……しばらく会わないうちにずいぶん大きくなったな」
「お前がグランドマスターから盗んだ秘術と、真逆の術を使ったんだぜ!」
 禍斗は「へぇ、すごーい」と抑揚をつけずにいうと、逃げ道を求めて目を泳がせた。いきなりのピンチにバケーション気分も吹っ飛んでしまったようで、耳が後へ倒れている。
 十夜はビーチパラソル投げ捨てた。
「覚悟しろ!」
 その時、オークたちが波打ち際から駆けてきた。指揮官のピンチを救う……のではなく、水着を着た美少女が目当だ。
「その顔、えっちいこと考えてるっすね? 彼女には指一本触れさせないっすよ!」
 セットが乙女を守る竜騎士のごとくマッドの前に出た。
 が、乙女は乙女でもマッドは戦乙女である。大人しく守られる側ではない。青い翼を広げるセットの肩をぽん、と叩き、「気持ちは嬉しいけれど」と笑いながら横に並んだ。
「ブヒッヒッヒ」
 オークたちが黒ビキニへ触手を伸ばす。
 横のセットもとばっちりをうけるが、「恥ずかしい? 眠い? そんなもの効かぬ!」と触手をガン殴る。
 マッドは最小限の動きで触手を避け、水着が溶かされるのを防いだ。解溶液で肌が少し火傷したが。
「今日だけはこの身体に感謝しようじゃないか! 油断すれば死ぬことには変わりないが、このやろー!!」
 器用に体をよじり、ゲシュタルトグレイブを高く投げる。
 天で割れた槍は、感覚を狂わせる音とともに敵群に降り注いだ。
 しかし、触手の動きは止まらない。大したスケベ心だ。
「余計なところだけキッチリ影響受けやがって!?」
 アルメイアが吐き捨てる。
「どんどん行け! やっちまえ!」
 禍斗は命令しながら、後ろ歩きで海に入った。腰まで海水につかり、ケルベロスたちの動きを追いながら、逃げるか留まるかを天秤にかける。
「涎まみれの醜い顔……。しかし、誰も穴に落ちませんね。そこまで馬鹿ではない?」
 カロンは長い耳をピンと立てて、青紙を張りつけたような空へ杖を掲げた。顔を前に向けたまま、小さな友に声をかける。
「準備はいいかい。同時にやるよ」
 フォーマルハウトが大きく口を開く。
 カロンが手にする杖の先より銀に光る六花が吹雪き出て、宝箱から吐き出された偽の財宝を巻き上げ、オークたちの前にばら撒いた。
 緑色のまぶたが重く垂れ下がり、触手の動きが極端に落ちる。
「まずは一体。確実に仕留めてまいりましょう」
 レミリアは盾の後ろから飛び出すと、フケ、いや、花粉を飛ばすオークの腹に、破剣を帯びた槍を突き刺した。
『雷竜の牙――――轟け咆哮! 我が敵を貫き滅せよ!』
 刹那、レミリアとオークとの間で閃光と轟音がはじけた。雷光が迸り、太陽を陰らせる。
「ブビビビーッ」
 薄く煙を上げる黒焦げの塊が、ガラリと崩れ落ちた。
 相方を失ったオークが重い目蓋を開き、拳を怒りで固めてレミリアに迫る。
「はいはい。そこでストップっすよ」
 セットは砲撃形態にしたハンマーを撃った。
 天地を揺るがす竜の咆哮が鳴り響き、牙を向く竜の波動が丸々と肥えた腹に食らいつく。――と、オークの腹が爆発し、スイカのような赤い身が飛び散った。花びらを散らせた頭が、赤く染まった砂の上にすとんと落ちる。
「え、足止めするだけのつもりだったっすのに……」
 弱い。とんでもなく弱い。
 ここにいたり、ようやく意識がセクハラから戦いにちょっぴりシフトしたオークたちが、的を絞られないように散開する。
 ケルベロスたちも散開した。オークを追いかけ、時には追われ、砂浜を駆ける。落とし穴対策はばっちりだ。海水に没した穴に近づかない限り大丈夫だろう。
 ルークが伸ばしたブラックスライムの先が大きく開き、一体を丸呑みにした。シャク、シャクっと小気味いい咀嚼音を立て、あっという間に消化してしまう。
「食べ応えがなさそうだな。味は……と、レヴィン!」
「任せろ」
 改造しても所詮はオーク。なぜ散開したのかもう忘れたらしく、ブヒブヒ鼻を鳴らしながら、女を目指し集まっていく。
 レヴィンは如意棒を伸ばした。両端から炎が噴き出し、ゴーグルグラスが赤く染まる。如意棒をぐるぐる回しながら、走るオークたちを追った。
 気配に振り返った豚の目が、「寄ってくんな、男に用はねぇ」と生意気に語る。のみならず、プッブップーと走りっ屁をかます。
「まとめて焼いてやる!」
 レヴィンはザコ敵の群れに走らせた地獄の火車を突っ込ませ、まとめて閻魔の元へ送ってやった。
「私もやるか。バラバラにぶった切ってやる! サヨナラバイバイしやがれ!」
 アルメイアはギターを熱く激しくかき鳴らすと、巨大な鋏に変形させた。
『breaking memories with you! バラバラに切り刻め! 涙で濡らした夜も、こいつでサヨナラして!』
 美声で夏の空気を震わせながら、胸元へするりと伸びてきた緑色の触手をぶった切る。
「ブヒーッ!」
 サイコロ状に切られた触手の断面から、どろりとしたものが流れ出た。ぬらぬらと濡れ光っている。きもい。
「まさか、触手に絡まれると美容にいい……なんてことはないよな?」
「ブヒ~ィ?」
 絡んでみる、とオークが二重、三重にブレながら淫らに笑う。禍斗の支援を受けて再生した触手を振り、溶解液を飛ばした。
 直撃を受けたアルメイアは服を溶かされ、よろめいた拍子に後ろの穴に落ちた。
「ええい、野郎やりやがったな!! 死ねえ!!!」
 穴の中から突き出した巨大鋏で腹の下を突き刺す。オークは白目をむいて、手で刃を掴んだまま絶命した。
 穴の中のアルメイアに、コンビの片割れが襲い掛かかる。
 ルークは穴と敵の間に体を滑り込ませた。粘ついた触手の先端が、胸の白い毛を濡らし押す。
 くらり、体が傾いで落ちる寸前に、アルメイアが穴から這い出た。
 入れ替わり落ちたルークに影がかかる。
「あ?」
 見上げた先に巨大な尻。
 直後、尻に埋まったルークの顔に屁が吹きかけられる。苦痛に体が揺ぎ、消えた。
 穴に落ちたのは分身だったのだが――。
『くせー! マジでくせー!!(そこだ! アサシネイト!!)』
「ブヒっ!?」
 背後を取った涙目の本体から無数の白く光る刃が繰り出され、豚の背目掛けて降り注ぐ。
 オークは臭い穴にバラバラと落ちた。
 カロンが石化させたオークを、フォーマルハウトが噛みついて粉々にする。
「くそ! おい、豚ども。俺さまが逃げる時間を稼ぎやがれ」
 手下の過半数をあっという間に倒され、焦りを滲ませた声で禍斗が吼えた。
 生き残りの六体が、十夜とアグニを囲む。
 体はともかく目は残らず女に向けられている。ヤル気がないのが丸わかりだ。
「どけ!」
 十夜の体に刻まれた紋様が蠢く。囲いはこうしてつくるんだぜ、と正面にいるオークの回りに死霊の壁を作りだした。
「ブヒヒ~~ッ」
『死霊と氷塊、好きな方で逝っちまいな!』
 囚われに作り出した氷塊を落とし、沈める。アグニが吹きだす炎が、砂の上の花頭を焼き払った。
「ザコは任せな」
 アルメイアがギターを鳴らして歌うと、溶解液に触れてかぶれた皮膚が癒された。
 十夜とアグニは残ったザコの始末を仲間に任せ、囲いの破れ目から勢いよく飛び出した。
「すごーい! どこで覚えたの。ねえねえ、みんな。十夜のいまの技、すごーいって思わない?」
 禍斗が媚びへつらいながら言う。
「ボクもその技、覚えたいな。……ねえ、定命化を受け入れたら弟子にしてくれる? ボク、心を入れ替えて頑張る」
 お願い、弟子にして。胸の前で手を組み、赤い目を潤ませる。
「断るぜ!」
「ひどい……ケルベロスは命乞いする子供を手にかけるんだ……」
「二つ間違ってる。お前は子供じゃない。そして本気で改心する気がない! お前がどんな顔をしてグランドマスターを殺したか、俺様はしっかり――」
 海面に鼻先をつけた禍斗から、低い笑い声が流れ出た。
「くくく……そうだ。あの時のヤツの顔ときたら……吐息がこぼれてゾクゾクしちまったぜ」
 狂熱のことき怒りが十夜の頭をもたげた。怒りにまかせて波を蹴る。
 ――がぼっ!
「(しまった! 俺様としたことが、ヤツの挑発にまんまと引っかかっちまったぜ)」
 アグニが海中の穴から十夜を引き上げている隙に、禍斗は泳いで沖へ向かう。
 レミリアは含みを持たせた声で引きとめにかかった。
「何をこそこそと探し回っていたのでしょうね。あなた方の探し物は私たちが……ああ、余計な事は言わない方が良いですよね」
 立ち泳ぎになって振り返った禍斗に、マッドが指を突きつける。
「この島の主たちは態度が大きく図体も大きく誇り高い勇士だった。その彼らが散った場所を遠慮もなく気負いもなく掘り返すとは、無粋だと僕は思うぞー」
「無粋? そんなもの、あの――おっといけねぇ、うっかり口を滑らせるところだった。じゃあな」
 禍斗が再び沖へ向かう。
 十夜はまだ沈んだままだ。
 カロンはフォーマルハウトの前にかがみ込んだ。
「何か見つけたの? あ、これは!! すごいものを見つけたね、盗まれないように体の中にしまっておいて」
「おい! テメーもウェアライダーなら、それを化箱なんぞに食わせるな!!」
 慌てて戻って来た禍斗を、レミリアとレヴィンが迎え撃つ。
 リボルバーから放たれた弾丸が流星の螺旋に乗って、浜にあがった禍斗の肩を射抜いた。
「禍斗ーっ!」
 十夜は穴から抜出ると、リブラの重力を宿した剣を振った。重い斬撃は易々と海を割り進み、禍斗の体を切った。
 若返りの術が解けて年相になった禍斗が、腐りきった目でかつての兄弟弟子を睨む。
「テメーッ」
 禍斗は走りながら拳を振り抜いた。
 十夜は庇いに入ったアグニを腕で押しのけ、咆哮をあげる百獣の拳を腹に受けた。
「この程度で……俺様を倒せるなんて思うんじゃねえ。グランドマスターだって、油断さえしていなければ――」
「油断していなければ? ふん、あの老いぼれは俺に騙されて気を許した時点で死ぬ運命だったんだよ」
 下卑た口元。おぞましいまでの野卑な顔。禍斗はサディスティックな性癖を露わにして笑う。
 ああそうだ。お前はそういう奴なんだ。醜い、本当に醜い――。
 体に彫られた模様が憎悪に動く。
「臭い息を吹きかけるな、鼻が曲がる」
「ああん?」
 十夜は息を止めると、極大化させた氷塊を禍斗の頭へ叩きつけて潰した。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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