十字島に鳴く化狐

作者:坂本ピエロギ

 東京から東に1200kmを飛んだ海上に、ひとつの島がある。
 名を『竜十字島』。
 かつてデウスエクス・ドラゴニアの拠点であり、ドラゴニアゲートの破壊に伴い住む者のいない無人島と化していた地の岸辺に、今、静かに者達の蠢く影があった。
「ウウウ……」「ヴヴヴヴ……」
 岸辺のあちこちで穴を掘り、瓦礫を撤去し続けるのは、全身を植物に覆われて攻性植物化したと思しき緑色のオーク達。彼らの動きはまるでバラバラで、島にある『何か』を闇雲に探しているようである。
 そんな彼らへ混じり、岸で釣り糸を垂らしていた狐の男がいた。
 笠を被り、手には魚籠と洋式灯篭。二本足で立って歩く螺旋忍軍が。
「さぼらず働くコン、オークども」
 狐の指図を聞いて、改造オーク『オークプラント』達は追い立てられたようにきびきび動き始めるが、はかばかしい成果は一向に上がらないようだ。
「役立たずの触手オークどもめ。お前らの頭は何のために付いてるコン?」
 求める『モノ』が出てこない事に業を煮やしたように、狐は大きく嘆息する。
 今頃は、他の忍軍達も島で探索を行っている事だろう。ここで奴らに後れを取るわけにはいかないというのに。
「まったく……脳ミソも触手も、俺の住んでた島のタコの方が百倍マシだコンよ!」
 波間の浮きに目を戻しつつ、狐は黙考する。
 『アレ』が島に眠っているという噂は、果たして本当なのだろうか――と。
「……なかなか、アタリが来ないコンねえ」
 無為に流れていく時間に、螺旋忍軍――こんこん狐は嘆息するのだった。

「竜十字島で、螺旋忍軍の活動が確認されました」
 ヘリポートに集まったケルベロスに、ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)は穏やかな表情で告げた。
 ドラゴンとの決戦が行われた彼の地で、螺旋忍軍が『何か』を探しているらしい、と。
 しかも、島には螺旋忍軍の他に、オーク型の攻性植物とみられる『オークプラント』の群れも確認されているという。
「彼らは、何処かのデウスエクス勢力の意思の下で動いている可能性が高いと思われます。可能性としては大阪城の攻性植物、あるいはドラゴンの残党などが考えられますが、現時点で詳しい事は分かっていません」
 作戦の目標は、敵勢力の探索を妨害し、オークプラントを撃破すること。
 そう告げた上で、ムッカは依頼遂行に必要な情報をケルベロスへ伝えていく。
「敵はオークプラントが10体と、彼らを統率する螺旋忍軍が1体の、計11体で編成される部隊です。オークプラントは忍軍の命令に従って探索に従事していますが、戦闘力は高くありません。統率する忍軍も、突出するほどの戦闘力は持っていないようです」
 統率者は『こんこん狐』と呼ばれる螺旋忍軍の男で、携えた魚籠を利用して戦う。かつて三河のとある島で活動していたらしいが、彼がいかなる経緯で十字島の探索に加わったのかは不明だという。
 ムッカによるとこんこん狐はケルベロスと遭遇した時点で、隙あらばオークプラントに足止めを任せて撤退を図るようだ。恐らくは、得られた情報を雇い主に報告するためだろう。
「本作戦の達成目標に、こんこん狐の排除は含まれていません。逃げられても作戦失敗にはなりませんが、もし彼の全滅を狙おうとするなら……」
 オークプラントは単体では雑魚だが、群れるとそれなりに鬱陶しい。こんこん狐は突出した力こそないが、雑魚と侮れる敵では決してない。敵勢力の全滅を狙っていく場合は、激しい戦いが予想されるとムッカは付け加えた。
「彼らの探索を邪魔するだけでなく、可能ならば何を探しているかの情報も得たい所です。もし探している物を予測出来れば、私達がそれを獲得する事も可能かもしれません」
 ドラゴン・ウォーに勝利した後も、島にはなお暗い影が残っているようだ。
 どうかお気を付けて、そう言ってムッカはヘリオンの発進準備を進めるのだった。


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
影守・吾連(影護・e38006)

■リプレイ

●一
 竜十字島の端へ降下したケルベロス達は、気配を殺しながら島の岸辺へと向かった。
 東京から東へ1200km、中央には火山を抱えるこの島に、主人であったドラゴン達の姿は最早ない。
 代わって蠢き始めたのは、新たなる脅威の影。螺旋忍軍と配下のオークプラント達だ。
「敵影は未だ発見できず、か……」
「予知のポイントまであと少しね。注意して行きましょう」
 岸辺の岩影に身を隠しながら、隠密気流を纏って先頭を行く空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)に、アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)は望遠鏡で周囲を探りつつそう返した。
 アウレリアが注視しているのは敵影だけではない。彼らが探しているという『何か』の痕跡もそうだ。その詳細は全くの不明だが、かつて島の主だったドラゴン勢力が関わるものであろう事は容易に想像がつく。
 そして恐らくは、それが録でもない代物であろう事も。
(「魔竜王の遺産、屍霊兵の研究、古代の封印解除の演算。彼らが仕出かしてきた所業を考えれば……ね」)
「一体何を探してるのか、気になるわね! 頑張ろうね、ぶーちゃん!」
 いっぽう大弓・言葉(花冠に棘・e00431)は、ぶるぶる震える箱竜『ぶーちゃん』を笑顔で元気づけていた。熊蜂型の箱竜は言葉を見上げ、己を奮い立たせるように鳴く。
 それに満足そうに頷く言葉。ぶーちゃんは、やればできる子なのだ。
「うんうん。敵は狐さんの忍軍だけど……逃がさないでキッチリ倒さないとね!」
「同感ね。情報を持ち帰られるのは避けたいし」
 予知ポイントに近づくにつれ、アウレリアは周囲の警戒を一層強めた。
 岸辺のそこかしこには、真新しい穴の跡がちらほら見える。オークプラントが掘り返したものだろう。それを見た影守・吾連(影護・e38006)は、静かに怒りを滲ませる。
「気に入らないな。奴らが何を探してるのか知らないけど……」
 研ぎ澄ました殺気で五体を覆う吾連。その時、先頭のモカがそっと警告を発した。
「皆、静かに。……いたぞ」
 モカが指さした先、前方の岸壁付近では攻性植物化したオークの群れが探索を行っているのが見えた。その群れの中に1体、大きな狐の姿も混じって見える。
『さぼらず働くコン、オークども!』
 魚籠を腰に岸壁で釣り糸を垂らし、ぶつくさと文句を言う大狐。
 あれが統率者の螺旋忍軍『こんこん狐』なのだろうか。
(「ふむ。なんともコミカルな外見だが」)
 アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)は息を潜めつつ、千手・明子(火焔の天稟・e02471)に小声で尋ねた。
(「あきら。あの狐がそうなのか?」)
(「ええ、『こんこん狐』よ。千手家の絵巻で見た姿とそっくりだわ」)
 明子は信じられないといった目つきでこんこん狐を眺めていた。
 二本足でひょこひょこ歩く可愛らしい姿。刺すような鋭い目つき。洋式灯篭と魚籠は攻撃に用いる道具だろう。
(「なんだか不思議。有名人でも見てるみたい」)
 小さい頃からおとぎ話のように親しんだ相手が目の前にいる――込み上げてくる懐かしいような嬉しいような複雑な気持ちを、明子はそっと胸にしまい込んだ。
 ここは敵地で、あの相手はデウスエクス。
 自分はこれから、ケルベロスとしての任務を果たさねばならないのだから。
 明子は仲間と一緒に岸辺の岩に身を隠し、こんこん狐達との距離を限界まで詰めた。
「……よし、行くか。皆よろしく頼む」
 竜の翼を広げた神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)に頷き、ケルベロスは一斉に動き出す。
 地上と空から現れたケルベロスを察知したこんこん狐は、すぐ配下に応戦を命じる。
『敵襲!? オークども、応戦しろコン!』
『ウウウ……』『ヴヴ……ブヒヒヒッ!!』
「こんこん狐! わたくし達ケルベロスが成敗いたしますわ!」
 釣り上げた魚を魚籠に放り込むこんこん狐。その前後を固めながら、背中の触手を一斉にケルベロスへ突きつけるオークプラントの群れ。
 明子が構えた日本刀『白鷺』の光が、戦いの始まりを告げる。

●二
「覚悟なさい、こんこん狐!」
 狐を狩る猟犬の如き素早さで、明子はあっという間に敵の間合いへ潜り込んだ。
 ヒュン――。
 こんこん狐へ放たった氷の輝きを帯びた斬撃は、しかし配下であるオークプラントの割り込みによって阻まれる。
『お前達! ケルベロスを足止めしろコン!』
 こんこん狐の命令を合図に、オークプラントの触手が一斉に溶解液を噴射した。
 前から後ろから一斉に降り注ぐ溶解液の嵐。味方の盾となって集中的に攻撃を浴びた晟とアウレリアの防御が、瞬く間に剥がれ落ちていく。
「捉えました――逃がしません」
 前衛のガードを洩れた溶解液を浴びるのも構わず、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)は金剛石を取り付けたドラゴニックハンマーを変形させ、こんこん狐めがけ竜砲弾を発射した。
 地を抉り、空気を揺さぶる砲撃に、こんこん狐はたまらず足を止める。
『くうう、五月蠅い奴らだコン!』
 こんこん狐はお返しとばかり、灯篭の火をフローネのいる後衛めがけ放ってきた。溶解液で剥ぎ取られて露出したケルベロスの体を、重力を帯びた火がじりじりと焼き焦がす。
(「……ふむ。出だしはまずまずと言ったところか」)
 晟は敵の頭上を旋回しながら、戦況を俯瞰した。
 サーヴァントを含めれば、彼我の頭数はちょうど同じ。こんこん狐の逃亡を阻むために、ケルベロスは海を背に布陣していたが、11対11では敵に強行突破を許す恐れもゼロとは言えない。
(「まずは邪魔な雑兵の掃除からだな。塵も積もれば何とやらだ」)
 箱竜の『ラグナル』に仲間の回復を命じ、晟は前衛のオークプラントを射程に収める。
 事前の情報通り、オークプラントの戦闘力は弱敵と言って差し支えないレベルだが、数があまりに多い。放置するのは危険だった。
「焔焔に滅せずんば炎炎を若何せん。無論、消すつもりは毛頭ないのだがな」
 晟は蒼炎の息吹で火炎旋風を作り出し、敵の前衛を炎で包み込んだ。
 火達磨になって転がるオークプラント達。それを合図に、ケルベロスの攻撃が息つく間もなく敵の隊列へ殺到する。
「美しい薔薇には棘があるのさ!」
 敵後衛に降り注ぐのは、モカの指先から発射された針の雨。
 ジャマーであるモカが放った針の威力は凄まじく、それを浴びた数体のオークが、早くも麻痺効果によって体を痙攣させ始める。
「ぶーちゃん落ち着いてクールになるの!」
 一方の敵前衛へは、言葉の呼びかけで冷静な心をインストールしたぶーちゃんが、純白の爪を豪快に振るう。
「殲滅殲滅!」
『ウウウ……!』『ブヒッ! コ、凍エル!』
 荒れ狂う竜爪の嵐。
 臆さぬ心を得たぶーちゃんに傷跡を刻まれたオークプラント達は悲鳴を上げながら、瞬く間にその身を凍りつかせる。
 しかし彼らも黙って死ぬ気はない。進化光線を放ち、こんこん狐と自身の状態異常を次々に取り去っていく――もっとも、後衛の数体は麻痺の力で倒れこんだままだったが。
「よし、ここで一気に蹴散らすぞ。ノーチェ、影守、頼んだ!」
 アジサイは爆破スイッチに指をかけ、前衛をカラフルな煙幕で包み込んだ。
 アウレリアは高揚する心を感じながら、電磁凍結榴弾を装填したグレネードランチャーの照準を敵の前衛へと合わせる。
「女性の服を破いた罪、重いわよ――コキュートス(氷獄)の底へと沈みなさい」
 隊列の頭上に、グレネード弾が弧を描いて飛ぶ。
 身を切って回避を試みるオークプラントの1体がビハインド『アルベルト』の操る岩石を眉間に浴びて倒れこむ。炸裂する凍結榴弾。前衛のオークプラントは厚い氷に覆われ、緑色の体液をそこら中にまき散らして悶える。
 そこへ降りてきたのは、吾連が呼び寄せた氷河期の精霊だ。
「容赦はしない。ここで朽ち果てろ!」
 暴れ狂う精霊の力で、前衛のオークプラントはたまらずバタバタと屍を晒していく。
「晟さん、オークプラントの残りは?」
「前に2、後ろに4。合計6体――」
 モカの問いかけに、晟は敵後衛へ炎のブレスを放ち、消し炭になった1体を見下ろして付け加えた。
「訂正だ、いま5体になった」
「了解。私は狐を狙う」
 モカは晟に頷くと、掌に螺旋の力を込める。
 向かう先は、こんこん狐だ。

●三
 こんこん狐は未だ逃走を諦めていないようだった。
 明子、フローネの二人と切り結びながら、執拗に包囲を突破する隙を伺っている。
「観念なさい、こんこん狐!」
『コンコン! このお魚、欲しくないコン?』
「あら立派な鯛ね――って、痛たたたた! 魚籠が、魚籠が噛みつく!」
 ほんの一瞬気を緩めた明子の後頭部めがけ、標的を封印せんと魚籠が飛びついた。
 こんこん狐はそれを見て、忌々しげに舌打ちする。
『ちっ、ケルベロスだと上手く呑み込めないコンね。けど動きさえ封じれば十分コン!』
「ふ……ふふふ、やってくれるわね。許さないわよこんこん狐……!」
「なるほど。中々に厄介な魚籠ですね……逃がしませんよ!」
 刀と共に火花を散らす、明子の舌鋒。隙ありと逃げようとするこんこん狐へ、フローネはすかさずスターゲイザーを叩き込む。
「大丈夫かあきら。これも上乗せだ、持っていけ」
「ありがとうアジサイ、助かるわ」
 アジサイは『呪破』で明子に破剣を付与しつつ、魚籠の拘束を緩めた。
 そこへ螺旋を掌に込めたモカが、真っ先に加勢する。
「観念しろ、こんこん狐!」
「前衛の敵は、これで最後かしらね」
 こんこん狐めがけて迫る螺旋掌。それを盾となって受けたオークプラントが、血反吐を吐いて斃れた。残る瀕死の1体もアウレリアの氷結輪に切り刻まれ、躯となって果てる。
 これで残りは後衛の3体のみ。
 ここへ来て、オークプラントを攻撃していた他のケルベロスも、次々にこんこん狐へ狙いを切り替え始めた。
「ふふーん。逃がさないわよー!」
「捉えた。ここで終わらせる!」
 地獄炎に覆われた簒奪者の鎌で、炎の斬撃を放つ言葉が。
 ドラゴニックパワーの噴射で宙を舞い、竜鎚の一撃を叩きつける吾連が。
 こんこん狐を、じわりじわりと追い詰めていく――。
『ぐぬぬぬ、ケルベロスめ中々やるコン……!』
 こんこん狐は歯ぎしりを立てながら、魚籠の鯛をばりぼりと貪って傷を癒し始めた。
 生き残ったオークも一斉に回復の光を放ち、こんこん狐の状態異常を回復していく。どこまでもしぶとく抵抗を続ける気のようだ。
(「皆さん、好機かもしれません」)
 動力剣の騒音をこんこん狐に浴びせながら、フローネは仲間達に視線を送る。
 既に手勢の多くを失ったこんこん狐が逃げられる望みは皆無。
 ならば、倒す前に聞いてみても良いのではないか?
 彼らの探す、『あれ』の事を――。
(「駄目で元々だけれど、試す価値はありそうね」)
 氷結輪の嵐で後衛のオーク1体を葬りながら、アウレリアは口を開いた。
「逃げるの? 『貴方達』の命運を変え得る『あれ』を置いて?」
「ご苦労なことだ。そりゃ、オークを使ってでも探し出したかったよな……」
 そこへ『呪破』を発動したアジサイが、明子から魚籠を引きはがして言った。
 対するこんこん狐は、そ知らぬ風情で洋式灯篭に火を灯し、反撃の機を伺う。
『……くくく、何の事だコン? さっぱり分からないコンね』
「ん? ああ、言ってはならん話か。すまんな、忘れてくれ」
 思わせぶりなセリフでブラフをかますアジサイの前方では、晟が超高速の刺突を繰り出しながら、こんこん狐を追い詰める。
「ふむ。どうやら例のアレは、奪われないで済みそうだな」
「そーそー! あとはあんたを倒すだけなの!」
 モカの螺旋氷縛波。言葉の時空凍結弾。
 凍りに覆われたこんこん狐は見る間に負傷を増やし、崖っぷちに追い詰められていくが、それでも口を割らない。
 敵は腐っても螺旋忍軍、予想できた結果ではあった。
 吾連は利き腕にドラゴンと自身の魔力を混合して装填し、今一度、問いを投げる。
「え、逃げちゃうの? まあ俺達にとっては都合がいいけど」
『そんなハッタリで、俺が喋ると……っ!』
 吾連の『竜星崩拳』が鉄杭の如き一打と化し、こんこん狐を軽々と吹き飛ばす。
 クラッシャーの吾連が、ブレイブマインの重ね掛けを受けて放った一撃だ。致命傷を負うこんこん狐へ、フローネは容赦なき追撃を叩き込む。
「敵を止めます! アメジスト・ドローン、発進!」
 ドローンの群れがこんこん狐を包囲し、紫色に輝く結界で彼を捕えた。
 プラズマ結界に焼かれながらも、こんこん狐はなおも逃亡を諦めない。フローネは明子の背中を押すように、最後のとどめを促す。
「千手さん、今です」
「ありがとう、フローネさん」
 明子が、ゆっくりと間合いを詰めていく。
 体の構えは右半身。剣は片手右上段だ。
「さあ覚悟なさい、こんこん狐」
『ふ……ふふふ……そんなに知りたいコン? 俺達の探し物が』
 明子から刀を向けられても、こんこん狐の眼は死んでいなかった。
『俺の答えは――これだコン!』
 こんこん狐が、洋式灯篭を明子へ向ける。
 明子を包み込む、燃え盛る炎。
 人を化かし、食らう狐の笑みを浮かべて跳びかかるこんこん狐。
 刹那――。
「見切った!」
 狐の手を、明子の白鷺がぐるりと絡め取った。
 巻き落とされて吹き飛ぶ、こんこん狐の洋式灯篭。
 迎え撃つ刃でグラビティを心臓に撃ち込まれたこんこん狐が、断末魔の絶叫をあげて爆発し、明子の背中を照らした。
『コ――ココオオオオォォォォン!!』
「……さようなら、こんこん狐」
 別れを告げる明子の眺める先、海の彼方へコギトエルゴスムの破片が散っていく。
 螺旋忍軍『こんこん狐』、撃破完了。
 生き残ったオークプラントの掃討には、1分を要しなかった。

●四
 デウスエクスが消え去った竜十字島は、再び静穏を取り戻しつつあった。
 吾連は任務完了の報告を済ませ、仲間達に簡単な連絡を伝えていく。
「もうすぐヘリオンが来るって。皆、お疲れ様」
「了解だ。お疲れ様、影守」
 アジサイが吾連を労っていると、明子がぽつりと呟いた。
「実家へ、一度帰ってみてもいいかもしれない、かも」
「実家だって?」
 予想外の呟きに思わず問い返すアジサイへ、明子は小さく頷く。
「ずいぶん長い事帰ってなかったけど……ね」
「……そうか」
 そう言ったきりアジサイは沈黙を守る。明子の家の事は、彼もよくは知らないのだ。
 ――色々と事情があるのだろう。言いたくなったら言うさ。
 いっぽう言葉は、ぶーちゃんと一緒にぼんやり島の空を眺めていた。
「終わったね、ぶーちゃん……」
 ゲートが破壊され、ドラゴンが去ったこの島に隠された『何か』。それの正体が判明したとき、自分達には新たな戦いが待っているのだろうか。
 それに答えられる者は、今はまだ誰もいない。
 一面に広がる青空の果てから、1機のヘリオンが向かってくるのが見えた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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