城ヶ島制圧戦~蒼氷の煌き

作者:小鳥遊彩羽

●蒼氷の煌き
 城ヶ島の強行調査により、島に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明した。
 この固定化された魔空回廊に侵入し、内部を突破出来れば、ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定することが可能となる。
 ゲートの位置さえ判明すれば、その地域の調査を行った上で、ケルベロス・ウォーによりゲートの破壊を試みることも出来るだろう。
 ゲートの破壊は、即ちドラゴン勢力の新たな地球侵攻の阻止にも繋がることとなる。
 つまり、城ヶ島を制圧し、固定された魔空回廊の確保が出来れば、ドラゴン勢力の急所を押さえることが出来るのだ。
「ドラゴン達は、固定された魔空回廊の破壊は最後の手段であると考えている。……つまり、ここで一気に電撃戦を仕掛けて城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取することは――決して不可能じゃない」
 ドラゴン勢力のこれ以上の侵略を阻止するために、力を貸してほしい。
 トキサ・ツキシロ(レプリカントのヘリオライダー・en0055)は、その場に集ったケルベロス達へと語った。

 今回の作戦は、同胞達が築いてくれた橋頭堡から、ドラゴンの巣窟である城ヶ島公園に向けて進軍するところから始まる。
「進軍の経路については、全て俺達――ヘリオライダーがもう割り出してある。だから、君達は俺達を信じて、前に進んでほしい」
 固定化された魔空回廊の奪取には、まずドラゴンの戦力を大きく削ぐ必要がある。
 強敵ではあるが、絶対に勝つ――そんな気概で臨んでほしいと、ヘリオライダーの青年は続けた。
 戦いの舞台は、ドラゴンの巣窟となっている城ヶ島公園となる。
「君達の相手は、深い海の色のような、瑠璃の瞳を持つ氷のドラゴンだ。白に近い、淡い水色の鱗で覆われていて、氷柱みたいな角が生えている。鱗の表面も所々が氷みたいになっていて、きらきらしているみたいだよ」
 だが、どのような見た目を備えていようとも、相手はドラゴンだ。倒すべき敵であることに、変わりはない。
 ドラゴンの攻撃方法は三つ。守りを砕く力を秘めた、超硬化された手足の爪、近くにいる敵を纏めてなぎ払う、太く長い尾による一撃――そして、敵群を氷に閉ざす氷の息だ。
 主に体力の低い者や深い怪我を負った者などを率先して狙う傾向があるため、その点は注意してほしいとトキサは続けた。
 もし、この戦いで敗北するようなことがあれば、そして、その敗北が積み重なれば――魔空回廊の奪取作戦そのものを断念せざるを得ない可能性もある。
 作戦の成功は、まさにケルベロス達の手にかかっていると言っても過言ではないだろう。
「ドラゴンの力はとても強大だ。生半可な覚悟で倒せるような相手じゃないだろう。……でも、君達なら絶対に大丈夫だって、俺は信じてる」
 常と変わらぬ穏やかな眼差しに、ケルベロス達への揺るがぬ信頼を秘めて――ヘリオライダーの青年は、そう締め括った。


参加者
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)
如月・ありさ(ピンクの要塞・e01137)
御巫・かなみ(甘い物大好きオラトリオ・e03242)
ロジェスタ・アーレイ(ドラグザネゴシエイター・e04340)
リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)

■リプレイ

 満ちるのは、冬の風よりも冷たい凍えた空気。
 ドラゴンの巣窟と謳われた城ヶ島公園の一角にて、ケルベロス達は今まさに、硝子の煌めきにも似た氷の鱗と氷柱の角を持つ、白とも水色ともつかぬ色彩を纏うドラゴンと相対していた。
 瑠璃色の瞳が、ケルベロス達を見やる。殺気を孕む凍てついた眼差しはそれだけで心を震わせるものだったが、誰一人として怖気づく者はいなかった。
「ねえ、ボク達の仲間を暴走させた金色のドラゴンを探してるんだけど、どこにいるか知らないかなー?」
 アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)が尋ねたのは、先日の強行調査において相見えた灯台守の黄金竜のことだった。
「それを知っていたとして、お前達に答える必要がどこにある?」
 気怠げに長い尾で地面を叩くドラゴンの予想通りの返答に、アンノは大げさに肩を竦めてみせる。
「だよねー。こんな雑魚ドラゴンに聞いても、わかるわけないか。残念だなー」
 そのある意味わざとらしい挑発にドラゴンがゆっくりと身を起こし、煌めく翼を広げた。
「……余程死に急ぎたいようだな、脆弱なる者よ」
 アンノは薄っすらと目を開き、己よりも遥かに大きなドラゴンの姿をしっかりと目に焼き付ける。
 仲間によって、助けられたこの命。その借りをしっかりと返さなければという想いが、アンノの心に確かな力を灯す。
(「……そのためにも、こんなところで足止めを食らうわけにはいかないんだ」)
 すぐに彼の目は弧を描く一本の糸になり、口元の笑みも深まった。
「君には言葉は通じても、意思を曲げるようなことはあり得ないんだろう?」
 ロジェスタ・アーレイ(ドラグザネゴシエイター・e04340)フン、と小さく鼻を鳴らし、己とは違う存在であるドラゴンを見やった。
「なら、あとは物理的交渉でこちらの目的を達するのみだ」
 言葉は要らない。強いほうが勝者となる。ロジェスタにとっては、ただそれだけの話だ。
「皆で無事に帰還出来るよう、全力を尽くします!」
 御巫・かなみ(甘い物大好きオラトリオ・e03242)はいつになく緊張した面持ちながらも、ウイングキャットの犬飼さんと共にしっかりと竜を見据える。
「ドラゴン、か。随分と大物だな。……俺達など、羽虫のような存在にさえ思えるのだろうか」
 三和・悠仁(憎悪の種・e00349)は静かに、右目に灯された地獄の炎を燃え上がらせた。
 それは悠仁の内面を満たしながら、決して尽きることのない怒りの心。
「……ああ、本当に」
 ――殺し甲斐が、ありそうだ。
 落とされた言の葉が、竜の耳に届くより先に。
 地獄の炎によって仮初の命を注ぎ込まれた暗器が、的確にドラゴンの巨躯に取り付いて回り動きを阻む。
 悠仁の、不意打ちにも似た戯生の一手を契機として、ケルベロス達は素早く戦闘態勢へと移行した。
 ドラゴンに反撃の機を与えまいと、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)がすぐさま続く。
 陣内もまた、黄金竜の行方を――否、竜と戦い暴走した少女の行方についての手掛かりを求めていたのだが、望んでいた答えは得られなかった。
 胸中で燻るやり場のない感情を今は押し込めて、陣内は目の前の竜を倒すことに全霊を傾ける。
 生半可な気持ちでは、ドラゴンに勝つことなど出来ない。
「ドラゴンって強いんだよね? ワクワクしちゃうなー!」
 それでも、リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)は、強敵との戦いを前に心を昂ぶらせていた。
「でも油断は禁物! 全身全霊、気合いMAXで行くよー!」
 戦場に降る花のような声が響くや否や、素早くドラゴンとの距離を詰めるリィンハルト。
「何にも知らないなら、もう用はないかなー。だから、すぐに倒れちゃっていいよ」
 そう言って笑うアンノもまた、攻撃の準備は出来ていると言わんばかりに爪先で地面を叩いてから地を蹴った。
 彼らの作戦は、ドラゴンの動きを可能な限り鈍らせ、こちらの攻撃をなるべく避けられないようにすること。
 そのため、ほぼ全員が初手の攻撃として足止めを狙えるものを選んでいた。
 陣内、リィンハルト、ロジェスタ、かなみ、そしてアンノが、繋いだ心そのままに流星の煌めきを繋ぎ、重力を纏わせた蹴りを叩き込む。
 悠仁から続いた六名による連携攻撃は鮮やかに決まり、砕け散る氷と混ざり合うように溢れた星の瞬きが、真昼の空に消えてゆく。
 だが、不意にケルベロス達の攻撃が途切れた瞬間を、ドラゴンは見逃さなかった。
 大きく身を起こしたドラゴンが、丸太よりも太く重い、けれど鞭のようにしなやかに動くその尾で前衛を薙ぎ払ったのだ。
 尻尾に払われながらも空中でくるりと旋回し、にゃあと鳴いた陣内の猫が尾を飾る花輪を振り飛ばす。
「回復はお任せください!」
 すぐさま凛と声を上げ、かなみが前衛陣の背後にカラフルな風を巻き起こす。さらに犬飼さんの翼の羽ばたきが、更なる癒しと耐性を前衛に齎した。
「ドラゴン退治っ、王道ね!」
 そう言って、目にも留まらぬ速さで地面に落ちていた石を投げつけるのは如月・ありさ(ピンクの要塞・e01137)だ。
 地面に転がる小石さえ、彼女にとっては敵を撃ち貫く武器になる。
「これ以上……貴様等には好き勝手させん……!」
 螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)にとって、ドラゴンは故郷を滅ぼした――言わば大きな因縁のある敵と言えるだろう。それだけでなく、同じ旅団の大切な仲間までもが、ドラゴンとの戦いが切っ掛けで暴走し、姿を消した。
 セイヤのドラゴンに対する敵意と殺意は、極限まで高まっていた。
 下手にドラゴンを刺激することのないようにとセイヤはその殺意を押し殺し耐えていたが、もうその必要もない。
「故郷、家族……そして、今回は仲間……貴様等は、一体どれだけ俺から大切なものを奪っていく気だ……!!」
 叫ぶ声と共にセイヤは一気にドラゴンへ迫ると、彼もまた、流星の煌めきを帯びた鮮烈な蹴りを刻みつけた。

 痛み、あるいは怒りか。
 凍える風にも似た竜の咆哮が響き渡る。
 自分達の踏ん張りが、この先で戦う味方の命運を握るのだ。
 そう簡単に、諦めるわけにはいかない。
 己に言い聞かせるように、背を押す風に高まる士気を攻撃の力に添えて、陣内は空の霊力を添わせたナイフでドラゴンの小さな傷跡を抉った。
 すぐさま続いたのはロジェスタ。
「この程度で倒れてくれるなよ?」
 ジグザグに斬り広げられた傷跡を狙い、ロジェスタが鉄塊剣を振り下ろせば――硬い鱗に弾かれるようなものではない、肉を斬るような確かな手応えがあった。
 戦場を縦横無尽に駆け巡りながらも、時に悠仁の瞳は仲間達の動きを冷静に注視していた。
 スナイパー以外の攻撃がしっかりと命中しているかを案じていたのだが、どうやら心配する必要はなさそうだった。
 鉄塊剣を握り締め、悠仁は一息にドラゴンとの距離を詰める。上から下へ、腕の力だけで振り抜かれた鉄の塊による単純かつ重厚無比な一撃が、ドラゴンの側面に叩きつけられる。
 それはデウスエクスであるドラゴンに対する、明確な憎悪と殺意を伴う一撃だった。
「丸呑み無理でももぐもぐしちゃえ! ムーちゃんGO!」
 陽気な声を響かせながら、リィンハルトはデウスエクスの残滓たるブラックスライムを解き放った。
 リィンハルトがきらきらと目を輝かせながら見守る中、瞬時に捕食モードへと変じたブラックスライムは頑張ってドラゴンを丸呑みにしようとする。
 大きなドラゴンはやはり物理的に呑み込むことが出来なかったが、ドラゴンの薄水色の身体についた黒色は、紛れも無くムーちゃんの攻撃によるものだ。
「くらうといいのよっ!」
 ありさが放った弾丸のような礫が、ドラゴンの身体に小さな穴をいくつも開ける。
「あはっ、氷の息ばっかり吐いてたら寒いでしょ? だからあったかくしてあげるねー」
 陽炎のようにゆらりと現れた半透明の御業は、アンノの手によって編み上げられたもの。
 アンノが定めた狙いは寸分の狂いもなく、御業が放った炎はドラゴンを包み、鮮やかに燃え上がる。
 まるで、肌を焼く炎を掻き消そうとするかのように、身を捩らせるドラゴンが吐き出した吹雪が後衛を襲った。
 アンノの前に身を挺した陣内の脇を抜け、セイヤがドラゴンへと肉薄する。
「貴様はッ……殺すッ!!」
 手のひらから放たれたのは降魔真拳。セイヤの心を込めた魂を喰らう降魔の一撃が、竜の巨体をぐらりと揺らす。
「まだまだ、大丈夫です! ――お任せください!」
 かなみの手によって押される爆破スイッチ。刹那、寒空に爆ぜた新たな風が戦場を華やかに染め上げた。
 広い公園の至るところで、ケルベロス達とドラゴンとの激しい戦いが繰り広げられていた。
 響き渡る剣戟の音に新たな旋律を重ねながら、彼らはただひたすらに己の力を振るう。
 時間にして、わずか数分。
 戦況は、ケルベロス達が優位のように思えた。
 初手で足止めを刻んだことが何よりも功を奏し、ケルベロス達の攻撃はこの頃にはほぼ確実にドラゴンへと命中するようになっていた。
 それでもなかなか倒れる気配を見せないのは、ドラゴンが元々持ち合わせている体力の高さ故か。
 持久戦かつ長期戦という戦いであったが、このまま攻撃を重ねてゆけば遅からず倒せるはずという確信が、ケルベロス達の中に生まれつつあった。
「敵は確実に弱っている! あともうひと踏ん張りだ!」
 陣内が仲間達へと発破をかけ、かなみ一人では賄いきれない、己を含む守り手達の回復に回る。
 体力の低い者や深い怪我を負った者などを率先して狙う傾向がある――そう言われたドラゴンであったが、後衛陣がその攻撃を引きつけるべく弱った振りをしたところで、ドラゴンは特にそれを意識するようなことはなかった。
 だが、悠仁とロジェスタが怒りを付与していたこともあり、結果的にケルベロス達が狙った通り、ドラゴンの攻撃は後衛陣に集中することが多かった。
 けれども、それが確実なものであるかと言えば、やはりそうではなく――。
「あれれっ、こ、こんなはずではなかったのよさっ……」
 後衛陣へとヒールドローンを飛ばした直後、ありさが見上げたすぐ先に、ドラゴンの姿があった。
 連携が途切れたわずかなタイミングに割り込んできたドラゴンが、繰り出したのは通常よりも力の篭った竜爪の一撃。
 意識ごと裂かれ、呆気無く血の海に沈むありさ。
「ありささん! 大丈夫ですか!?」
 かなみがすぐにウィッチオペレーションを施そうとしたが、ありさは既に意識を失っていた。
 ドラゴンという、仮にも強敵と謳われた相手に対し、ありさが示したのはごく最低限の行動のみ。
 ケルベロス達の前に現れた竜は、少なくともそれだけで押し通せるような存在ではなかったということだろう。
 氷柱のような角を圧し折って、それでドラゴンを殴るという彼女の願いは、残念ながら叶いそうになかった。

 誰もが傷を負い、徐々に蓄積していく痛みに疲弊していた。
 終わりの見えない戦いのようにも思えたが、相手は自らを癒す術を保たぬ竜。
 ケルベロス達は粘り強く攻撃と回復を繰り返し、戦いの終わりを導きつつあった。
 ドラゴンの力ある攻撃に対し、ほぼ全員が自己回復を備えていたとはいえ、メディック一人で戦線を支え続けるには少々苦しかったかもしれない。
 だが、かなみは懸命に仲間達の元へ癒しを運び続け、同時に力を与え続けていた。
「お任せください!」
 それはかなみの口癖だったが、同時にかなみ自身を支える魔法の言葉でもあった。
「僕もまだまだ大丈夫だよー!」
 そう、かなみに応えたリィンハルトは傷の痛みを表に出さず、気力を奮い立たせる。
 少年もまた竜の目を誤魔化そうとしていたが、その意図は後衛陣とは別のところにあった。
 ――ただ落とされるのだけはごめんだからという、ささやかな意地。
 リィンハルトは開いた魔道書に重ねた手を、そのままドラゴンへ向けて翳した。
「ドラちゃんおいで! 炎攻撃だー!」
 呼ぶ声と共に手のひらから躍り出た幻の竜が、焼き捨てんばかりの激しい炎を浴びせかけ、ドラゴンを鮮やかに彩ってゆく。
 ドラゴンの爪が、陣内の身体を斜めに抉った。
 その痛みを、きつく歯を食い縛ることでやり過ごしながら、陣内はナイフを握り締める。
 ここにはいない。手掛かりもない。
 逢いたい、辛いと言うことさえ許されなかった。
 姿を見たら、すぐにでも追って行きたくなるだろう。
 ――だから今ここに『彼女』がいなかったことは、ある意味幸いだったのかもしれない。
 追憶の名を刻むナイフの刀身に描き出された亡者の怨念が、鏡像となって竜の心を抉る。
 刹那、ドラゴンが悲鳴にも似た鋭い咆哮を上げた。
 身体中から止めどなく流れる血。既に生命の灯火が消えかかっているのは、誰の目にも明らかだった。
 どこかへ逃れようとでもしたのか、ドラゴンがケルベロス達に背を向けようとする。
「おのれ……! このような、所で……!!」
 しかし、苦しげに呻くドラゴンは重い身体を引き摺るだけで、もはや自力で動けるほどの力を残していなかった。
 地に落ち、もがくことしか出来ぬ哀れな竜。
 それでも、逃がすわけにはいかない。
 コードネーム『デウスエクス・ドラゴニア』――それは人類の、そしてケルベロス達の敵なのだから。
「打ち砕けッ!! 魔龍の咢ッッ!!」
 漆黒のオーラを纏い、セイヤが地を蹴った。
 墜ちる星のような超高速の蹴りが、オーラが変じた漆黒の龍が喰らいつくと同時、ドラゴンの背に炸裂する。
「――交渉決裂、この言葉の意味が君にわかるかね?」
 ロジェスタは不敵に笑い、練り上げた気と魂を込めた渾身の一撃を見舞った。
 二手、三手と連続して打ち込まれた拳の衝撃がドラゴンの体内で爆ぜ、その巨躯が跳ね上がる。
「あはっ。……もう少し格好いい所、見せてくれても良かったのになー」
 にっこりと深めた笑みとは裏腹に、冷めた声色でアンノは紡いだ。
 その手の先から鋭く伸びたブラックスライムが、鋭い槍の穂先となってドラゴンの身体を深く穿つ。
「どんな困難にも、打ち勝つ力を……!」
 かなみの祈りの声が、まだ攻撃の手を残していた悠仁へ確かな力を添えた。
 ――幾度踏まれてもなお、決して芽を出すことを諦めぬ憎悪の種。
 憎悪の対象は――かつての仲間達の命を喰らい尽くしたデウスエクスであり、それに対して無力であった己自身。
 デウスエクスがいる限り、彼の戦いは終わらないだろう。
 その身に宿る全ての憎悪を炎に変えて、悠仁は一気にドラゴンへと迫り、地獄を纏わせた鉄塊剣を叩きつけた。
「……終わりだ」
 地響きのような咆哮と共に、崩れ落ちる竜の巨体。
 ──砕けて消えた硝子のような氷の煌きに、ケルベロス達は戦いの終わりと自分達の勝利を知った。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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