きつねのもり

作者:雨音瑛

 地図とパンフレットを片手に、ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)はケルベロスたちを迎えた。
「デウスエクスの攻撃による被害が出ている場所がある。今回は、こちらの山、というか森に行って欲しいんだ」
 指先でくるりと囲った場所は、そう広い範囲ではない。けれど、そこにあるのは「きつねの牧場」だという。
「幸いなことにスタッフやきつねたちは全員無事だったようだ。しかし、施設や施設周辺を破壊されてしまったようでな」
 現在は応急手当的に修復して施設を使っているらしいのだが、ずっとそのまま、というわけにもいかない。何より、これから暑い季節がやってくる。スタッフときつねたちの体調管理のためにも、今のうちに施設を修復しておきたい。
 そこでケルベロスにヒール要請が来ている、というわけだ。
 ヒールで施設周辺を修復した後は、とウィズは笑みを深めた。
「……ふふ、プレオープンした施設内できつねたちと戯れることができるそうだ。きつねたちをもふもふし放題だし、ご飯をあげることもできるぞ」
 また、ケルベロスがきつねたちと戯れている写真や動画を撮影して「牧場はもう大丈夫ですよ!」というPRもするらしいから、全力できつねとキャッキャウフフして楽しむのも仕事のうちだ、間違いなく。写真や動画撮影もちろんオッケー。お気に入りの子を見つけて一緒にいちまい、というのも楽しいかもしれない。SNSに上げるのも問題ないらしいから、ケルベロスへの期待がうかがえる。
「修復作業で疲れた、というケルベロスには一時的にカフェを開いてくれるそうだ。こちらは『きつね色』のパンケーキやきつね型のクッキーなど、きつねをイメージした、あるいはあしらったメニューが用意されているらしい」
 カフェで一休みする場合にも、窓からきつねたちを眺められる。修復した施設内を駆け回ったり、ごろごろしたり、ぐっすり寝ているきつねたちはさぞ可愛らしいことだろう。
「――というのが、今回の仕事の内容だ。きつねたちの生活のためにも、どうか協力を頼む」
 パンフレットに書かれた「もふもふ!」の文字に頬を緩ませつつ、ウィズはケルベロスたちに頭を下げた。


■リプレイ

●もふもふタイム
 全力のヒールを終えた帰月・蓮は、遠くからこっそりこちらを見てくる狐に気付いた。
「おいでおいで~恐くないぞ~」
 しゃがんで優しく手を出し、狐が来るまで待つ。
 おずおずとやってきた狐をそっと撫でると、堪らぬふわふわが手を包み込む。幸せな顔で一通り堪能した後は、
「ふむ……堪能させてくれて、ありがとう」
 と、しっかりと礼を述べて。
 さて一緒に訪れた者たちはといえば。まず蓮の目についたのは、狐に囲まれている楡金・澄華の姿だ。
 日陰で涼む狐たちのかたわらに座り、ブラッシングをしてあげている。大人狐も子供狐も、気持ちよさそうに目を細めている。
「よしよし、気持ちいいか?」
 整った狐たちの毛並みは、木漏れ日できらきらと輝いていた。時折尻尾を触らせてもらいながらブラッシングする澄華の表情は、毛並みに負けないほど柔らかい。
「クールなお主も、ふわもふには形無しだな! ……っ!? こ、これは……!」
 蓮の目に映るのは、もふリスト垂涎のとんでもない光景だ。戦闘時もかくやという速度でスマホを取り出す。
「よしよし、可愛いなぁ」
 人懐っこい大人狐を撫でている左潟・十郎は、まだ気付いていない。
「……ん?」
 しかしすぐに違和感を覚えて振り返ると、尻尾に数匹の子狐がじゃれついているではないか。
 そう、蓮がスマホを向けて動画撮影をしているのはこの光景だ。
 困ったように笑う十郎は面白がって尻尾をぱたぱたしてみる、のだが。
「……痛って!? あ、こら噛むなって! 蓮と澄華も見てないで何とかしてくれ!」
「いいぞ~そこで尾を左右に……」
「おやおや、左潟殿の尻尾のモフは狐にも人気か? 羨ましい限りだ」
 夢中で撮影する蓮の耳に、十郎の声は届いていなかった。無論、澄華も蓮を止めたりはしない。ブラッシング待ちの行列が出来ているからそちらを優先する。
「蓮、そんながっつり撮ってないで……澄華も、そのポニテをがぶがぶされたら俺の気持ちが解るよ。……そのブラシ、後で貸してくれ……」
 肩を落としつつも、十郎は仕方なしに尻尾にじゃれつく子狐たちに身を任せる。夏毛に変わったばかりの毛並みがむしられないようにと、ひやひやしながら。
「……蓮殿、あとでその動画と写真は送ってくれな?」
 スマホを十郎に向けたまま、蓮は当然、とサムズアップした。

 ヨハン・バルトルトは薬液の雨を、クラリス・レミントンは癒しの風を送って牧場内の設備をヒールした。これからますます暑くなる季節だ、これでスタッフ含め快適に過ごせるようになることだろう。
「わぁ、かわいい……!」
 クラリスは屈んで目線を低くし、狐にそっと近付く。まるで毛玉が転がるようにして駆け寄ってくる子たちは皆元気だ。どの子も毛並みがふかふか、目はつやつやなものだから、つい家に連れて帰りたくなってしまう。暑さも吹き飛ぶ可愛さに、クラリスはただただ笑顔になる。けれどヨハンとはぐれそうになっていることに気づき、慌ててクラリスは彼のいる方を振り向いた。
「……かわいい」
 重低音の感想を述べ、ヨハンは咳払いをした。立派な毛並みは野性的でどこか儚く、何よりもふもふだ。
 しかし動物にデレデレするのは、男として、何より戦士として如何なものか。何より狐を怖がらせたら可哀想と葛藤をしていたら、一匹の狐がヨハンに近寄ってきた。
 恐る恐る撫でると、まず驚くのはその暖かさ。そしてもちろん、もふっとした毛並み。
(「ふふ、お誘いしてよかったなあ……」)
 そう思いながら、クラリスは一匹を抱き上げてヨハンの近くへ向かう。
「この子も人懐こくて可愛いよ」
「なるほど、またとても人馴れしていますね」
 そうだ、とクラリスが取り出したのはスマートフォン。狐を、狐と共に映るヨハンを映す。そう、PRも仕事のうちなのだ。
「ね、幸せだねぇ」
「ふふふ、幸せですね。幸せですね……!」

 深緋・ルティエは、予想していたよりも多いきつねの数に驚いた。ボクスドラゴンの紅蓮が、狐と共に昼寝をしようとしているのもまた、可愛らしい。
 そしてさっそく大人気のステラ・フラグメントを見て微笑む。
「……なんだよ、俺の周りに集まってくるな!」
「ははっ、ステラのお友達いっぱいだね。可愛い~♪ ユエも見てみて、可愛い子たち沢山!」
 写真をぱしゃりと撮影しながら、月岡・ユアはビハインドのユエに話しかける。
 しかし、当のステラは複雑な気持ちだ。というのもステラはアカギツネのウェアライダー。同胞が愛でられているのを見ると、自分が愛でられているように感じるからだ。
 しかしクレーエ・スクラーヴェは、嫉妬全開の態度でステラを見ていた。
「みゃっ、ステラばっかりモテモテでうらやましい……うらやましい……もふはーれむ……」
 もちろんクレーエももふに埋もれたい。そこで気付く。ステラといれば、クレーエももふはーれむ入りできるのでは、と。
「そうとわかれば、ステラ覚悟ー!!」
「うわっ、クレーエ!」
 クレーエに飛びつかれたステラは、彼を支えきれずに倒れてしまう。ノッテに助けを求めるが、ノッテでは残念ながら力及ばないようで、肉球の柔らかさだけがちょっとだけステラを癒してくれるにとどまった。
 しかしクレーエにとっては怪我の功名、もふもふの海である。
「にゃはははははー!」
 なんてご機嫌に堪能するクレーエを、ルティエは少しばかり呆れた様子で見遣る。
「クレーエ、一回落ち着いて。きつね達がびっくりしちゃうから」
「……はい、落ち着きます。ごめんなさい」
「や、そっとならもふってもいいんじゃないかな」
「それは無理ぃ!」
 夫婦がそんな会話をしている間、ユアのそばにも狐が次々と集まってきた。
「見てみて、ルティエ、クレーエ! もふもふいっぱいだよ! 一緒に触ろう!」
 無邪気に手を振るユアに、ルティエは手を振り返した。そうして近寄って来る狐たちをもふもふし、ご機嫌に尻尾を揺らすルティエ。
 時折にゃんともたちの写真を撮影すれば、増える思い出にいっそうご機嫌になる。
 一方、ステラはユアに群がる狐に嫉妬心を抱き、押しのけはじめた。自分の尻尾の方がトリートメントも怠らない、と敵対心マックスである。
「どうしたのステラー! 狐さん達行っちゃうよー!」
「いいんだ、あいつらにはユアはまだ早い」
 不思議そうに首を傾げ、逃げ行く狐を名残惜しそうに見遣るユアの肩を掴み、ステラは声を張り上げる。
「そんなにあいつらのもふもふがいいなら! 俺の尻尾を触る権利をやるから……!」
 血が滲むほど恥ずかしいし、とても紳士とは言えない言葉だけれど。
「ふふふ、きつね達にヤキモチかな?」
「ステラー、ヤキモチかっこ悪いよー?」
 思わず笑いが零れてしまうルティエとクレーエの声を聞きつつ、ステラは続ける。
「俺の尻尾で満足しておいてくれ……!」
「! ……うん!」
 少しばかり驚いたユアであったが、ステラの大きな尻尾にぎゅーっと抱きついたのだった。

「日本には、こんな素敵な場所があるのですね」
 恋人のクー・アアルトと共に牧場を訪れたルムア・フェネークは、表情を和らげた。
 頬を舐めてくる仔にはくすぐったそうに笑い、撫でるクーの様子を、ルムアは微笑ましく眺めている。
 さて、とルムアは獣変身する。砂漠出身のフェネックのウェアライダーは、国際交流と称し狐たちと戯れる。
「ルムアも来るか?」
 今日一番の笑顔で腕を広げるクーに、ルムアは一も二も無く全力で走り寄った。尻尾をぱたぱたさせながら気付くのは、自分より尻尾がもふもふな狐の存在。しかし自分の方が耳が大きいとぴこぴこさせ、謎の対抗意識を燃やしたりもする。
 ルムアも充分に可愛いと思うクーであるが、言うのはなんだか悪いような気がして、ここは胸に秘めておく。
「皆、元気だな。ほら、おやつもあるぞ。沢山食べてくれ」
 ファミリアロッドのヴァロが袖を引くのに気付いて、クーはそちらにもおやつを分ける。
 ヴァロと狐たちは、なんの垣根もなくじゃれあい、遊んでいる。賑やかな声が溢れている場所にいると、釣られて笑顔になってしまうクーだ。
「……良いな、こういうの」
「……えぇ、良いですね」
 ひとしきり遊んだルムアは人の姿へと戻り、クーの隣に座る。
「貴女の隣で一緒にこうして愛しいものを眺めて居られる事が、そして貴女の笑顔が何よりも愛しいのです」
 その言葉に赤面したクーは、小さな口付けを返答とした。

 ヒールを施した後は、お楽しみの時間だ。
「うりるさん! ルル、あのこがいいの」
「え、どのこ?」
 はしゃぐリュシエンヌ・ウルヴェーラに手を引かれ、ウリル・ウルヴェーラは問いかける。
 それは、ひときわ尻尾の大きいもっふりした狐。コロコロ転がるその狐は、リュシエンヌがヒールの合間から熱い視線を送っていた子だという。
「その視線、気付いていたんじゃないかな」
 ウリルが呟くが早いか、リュシエンヌは抱き上げた狐のあまりの可愛さにウリルに自慢するように差し出した。
「うりるさん、見て見て! お尻尾すごい!」
「結構大人しいんだね……って、……これは嫌がられているのか、誘われているのか……どっちだろう?」
 大きな尻尾で頬をぱふぱふされるものだから、ウリルは困惑したように首を傾げる。
「うりるさんのこと好きみたい! だっこしてみる?」
「うん、抱いてみる」
 すると予想以上のふかふかっぷりと軽さに、ウリルはただただ驚いた。けれど腕の中で丸まっている様子は可愛らしく、思わず頬を緩ませてしまう。
 そんな旦那様の様子にほわっとするリュシエンヌ。しかしすぐにきりっとした表情に戻ったものだから、写真撮影していないのが悔やまれるのだった。
「ね、最後にいっしょにお写真撮ってもらいたいな」
「うだね、せっかくだから一緒に写真を撮ろうか」
 手すきのスタッフを呼び止め、撮影を依頼する。
 夫婦と狐が一緒に映った笑顔の写真は、きっと大切な想い出の一枚になることだろう。

 ヒールは無事に終えたし、狐たちは可愛いし、もふもふした感触も気持ち良い。
 アンセルム・ビドーとエルム・ウィスタリアは楽しそうに狐と戯れている。
「合法のもふもふって最高だよね……触る栄養素だよ……」
 ぬいぐるみもそうだが、生きている狐もなかなかに良いものだ。
「大きな子も小さな子も可愛くてもふもふで、幸せです……ね、アンセルムさん、朱藤さ……」
「そうだよねウィスタリア。環も、あー……」
 だが、二人が話しかけた朱藤・環は上の空であった。
 どこか空虚に感じる環は、その理由を理解している。
「せっかく遊びにきたのになぁ……」
 ジュエルジグラットの決戦で『守護の心』を失いかけた恐怖を、今もひきずっているのだ。
「……よし。ここは狐さんの力を借りましょう」
 抱き上げた子狐の前足で、環の頬をぷにっとするエルム。
「便乗して、えい」
 ふかふかの子狐を、環の頭の上に載せるアンセルム。
 さすがにびくりとした環は、目を見開いて二人を見た。
「元気ないみたいなので……もふ分追加しようかなと」
 にこり笑ったエルムは続ける。
「今は無理にとは言いません。七夕の戦いで何があったとも聞きません。でもいつか元気になったら、また笑って欲しいなって。――だって貴女の笑顔は皆に勇気と幸せを運ぶものですから」
 うんうん、とエルムも話し始める。
「ボクもキミに何があったかとか聞かないし、そういう事をほじくり返すような趣味もないけど……ボク、環の笑顔が一番好きなんだ。だから、その……今は無理でも、いつかまた笑ってくれたら、嬉しいなって。キミの顔見てたら、あったかい気分になるんだよね」
「僕もあなたの笑顔が好きです。ね、朱藤さ……環さん」
「二人とも……もー、どこでそんな口説き文句覚えてきたんですかー?」
 加えて、エルムにまで不意打ちの名前を呼びをされたのだ。それだけで反則級なのに、狐にも慰められたら、環としては笑うしかない。嬉しさと恥ずかしさが混じってちょっと変な笑い方になっても、構うものか。
 環のそんな顔を見て、エルムとアンセルムは笑顔で顔を見合わせる。
「アンちゃん、エルムさん。ありがとです」
 狐の背中に顔をうずめながら、環は呟いた。

 お待ちかねのもふもふタイムに、ラズリー・スペキオサと茶菓子・梅太は目を輝かせた。
「狐は初めてだけど、意外と人懐こいんだね。わぁ、子狐も来たよ」
「ほんとだ懐っこ……こぎつね! かわいい……!」
 手を伸ばしたもふもふの中にひときわ小さいのを見つけ、梅太はスマホを取り出して動画に収める。
「おいで、おいで」
 と、子狐を招き寄せて幸せそうになでもふするラズリーも、もれなく写真に収めて。
 その後はそっと抱き上げてみれば、撫でるのとは違うもふもふが腕の中にある。
「そうだ、ごはん、あげてみたいんだけど……どうだろう?」
 抱えた子狐と共に期待の眼差しを向ければ、二つ返事で勿論、と返ってくる。梅太と子狐の眼差しに抗えないラズリーであった。
 ごはんを手に子狐たちに分け与える梅太を、ラズリーはスマホで連写する。可愛さの相乗効果で、ラズリーの心がお腹いっぱいになる。
「たくさんお食べ……って、いつの間にかきつねに囲まれて……る? ……ラズリーさん、どうしよう……」
 撮るのに夢中だったラズリーが梅太の声で我に返り、周囲を見渡すと、ごはん待ちの包囲が完成していた。
「ほんとだ……! あはは……どうしようね。今度は俺達が狐にもみくちゃにされてしまうかも!?」
「えっ、もみくちゃ……きつねまみれ?」
 なんて梅太が言うそばから、もふもふたちはツギから次へと押し寄せてくる。
 けれど、それもまた楽しい思い出として二人の記憶に残ることだろう。

●もぐもぐタイム
「ふふふ……狐さんも柵も、もふもふです!」
 テラス席に座ったミリム・ウィアテストは、自身の修復とヒールによって幻想を伴った形になった柵を満足げに眺めていた。
 疲れはあるが、どこか心地よいもの。注文したパンケーキは、狐型の焼き印がこんがりとしていて可愛い。寄ってくる狐にドッグフードをあげてつつ、写真も撮影する。
「可愛いですね……ふふ、これを現像して飼育員さんたちに渡しましょう!」
「なるほど、それはいいアイディアだな」
 笑顔で言葉を向けるのは、きつねをもふもふしていたウィズ・ホライズンだ。
「あっ、ウィズさん! ウィズさんも良かったら一緒に撮って食べましょう!」
「ありがとう。ではお言葉に甘えて同席させてもらうとしようかな」
 狐とお別れしたウィズはカフェに入店し、ミリムの向かいに座った。
「そうそう、ここの牧場はエキノコックスの予防が徹底されてるそうです」
「ほう、そうなのか」
 パンケーキにメープルシロップを垂らしながら嬉しそうに話すミリムに、ウィズはうなずく。その後は、ミリムが注文したものと同じパンケーキが手元に置かれたのを写真に収めて。
「病魔に恐る心配なく狐と戯れられるなんてホント素敵な所ですね!」
「そうだな。狐たちがまたいつもと同じ日常を送れるようになるのも、君たちケルベロスがいてくれるからこそだ。本当に、ありがとう」
 パンケーキを口に入れたミリムは、ウィズの言葉に恥ずかしそうに笑ったのだった。

 注文したものが届くまでの間、水無月・一華は厳しい表情をして窓にくっつく狐たちを見ていた。
「これは……わたしのきつね力が試されているのかしら、万里くん」
 さあ、と首を傾げる暁・万里は、知っている。狐のウェアライダーである一華が、もふもふな生き物に対して謎の対抗心を燃やすことを。だから万里が狐をもふもふするようなことがあれば拗ねることを。
 先に運ばれてきた狐クッキーを一枚つまんだ万里は、窓越しに覗く子狐たちとならべて写真を一枚。
 続いて届くきつね力高めのパンケーキに、一華の顔はふにゃりとなった。口から零れる謎リズムの歌、次いで写真を撮ろうと小さな範囲で忙しくする一華は、次の瞬間困り顔ととなる。
「一華、食わねぇの?」
「わたし女子りょ……いえ、きつね力高くて食べられないか、も?」
 けれど尻尾は正直に、焼きたてパンケーキの良い香りにぱたぱたそわそわしている。
 そして万里はやっぱり知っている。昨夜リビングにあった変な雑誌の見出し『大食い女子はNG! 目指すは繊細系甘えガール!』。今さらすぎる謎の小食アピールは、あれのせいなのだろう。
 けれど甘やかな香りには我慢できなかったようで。
「……万里くんが、あーんしてくれたら食べます」
「ほら、あーん。俺は小食女子より、美味そうに沢山食べる一華が好きだがな」
「えへへ、あー……ん?! ふぉ、ふぉんなことないれふよ!」
 恥ずかしさと照れの混じった赤い顔でじたばたする一華を、窓から離れずにあんぐりす狐と共に撮影する万里であった。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年8月4日
難度:易しい
参加:21人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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