城ヶ島制圧戦~光明へつながる希望のために

作者:高畑迅風

●激闘の予感
「城ヶ島の強行調査で新たに判明したことがあります」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は強く、凛々しい口調で言った。
「それは、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』があるということです。この魔空回廊に侵入し、内部を突破すれば、ドラゴン達の『ゲート』の位置が特定できるようになります。位置の特定さえできれば、調査を行った上でケルベロス・ウォーを発動して『ゲート』の破壊を試みることができるでしょう」
 セリカはケルベロスたちを見回した。怖気づいている者は一人もいない。
 セリカは安心したように言った。
「『ゲート』を破壊することは、ドラゴンたちの新たな侵略を止めることを意味します。つまり、城ヶ島を制圧し、固定化された魔空回廊を確保することで、ドラゴンたちの勢力に大きな打撃を与えることができるということです」
 ケルベロスたちの士気が上昇するのを肌に感じながら、セリカは続けた。
「強行調査の結果から、ドラゴンたちは魔空回廊の破壊を最終手段と考えているように思われます。ならば、城ヶ島の制圧は不可能ではありません。皆さんの協力でこの作戦は可能にできるのです」
 セリカの言葉はケルベロスたちを鼓舞し、士気はますます上昇した。しかし、彼女の表情はその作戦が容易ではないことを示していた。
「制圧作戦は、まず警備の手薄な西側から城ヶ島に水陸両用車部隊が侵攻し、市街地のオークを制圧して橋頭堡を確保した後、本隊が突入し、島の東側の、魔空回廊がある城ヶ島公園の白龍神社に侵入する手はずになっています」
 ただ、この作戦には解決すべき問題がある、とセリカは断りを入れて説明を続けた。
「その問題というのが、三崎工場に集められている竜牙兵の大群です。彼らは『島への侵入者に反応して自動的に迎撃する』よう指示されているようで、その戦力はかなりのものです。作戦を成功させるためには、彼らの迎撃を何としても防がなければなりません」
 ケルベロスたちの視線がセリカに集まる。彼らの緊張が一瞬セリカを戸惑わせた。彼ら全員が無事に戻ってくるかはわからないのだ。それでもセリカは言葉を継いだ。
「皆さんには、城ヶ島大橋を通って城ヶ島に進軍し、竜牙兵の攻撃を引き受けてほしいのです」
 何人かのケルベロスが息を飲んだ。
「2チームが隣り合って戦闘をすることになりますが、相手はいくら倒しても後続がいます。敵を倒すことが目標というより、できるだけ長時間戦い続けることが目標となります。左右にそれぞれ第一陣、第二陣、第三陣を配置し、各チーム30分ずつ、合計1時間30分の間だけ持ちこたえてください」
 ケルベロスたちの間に緊張の糸が張り詰めた。空間までもがピンと糸を張ったように静かで、セリカの声だけが響いている。
「城ヶ島大橋は片側一車線で比較的狭い場所です。だから左右にそれぞれチームを組むのですが、皆さんに頼みたいのは、『橋の左手側の第三陣』です。どのチームも竜牙兵5体と同時に戦うことになります。この竜牙兵は先ほど言ったように倒しても後続が現れるので、敵の戦力が低下することはありません」
 セリカの声が静まった空間の隅まで届いた。
「どうやって戦闘を長引かせるか、ということが最も重要ですが、他チームと入れ替わるタイミングやその時の作戦を考えておくことも必要です。また、戦闘で不利な状況になり、三浦半島側まで竜牙兵の大群に押されてしまった場合、竜牙兵の一部が城ヶ島公園の方へ移動する可能性があります。そのような事態は避けなければなりません」
 セリカはわずかに心配そうに、もう一度ケルベロスたちを見回した。この作戦は決して容易ではない。しかし、心配すると同時に彼女は信じていた。ケルベロスたちが胸の内で燃やしている闘志を、そして彼らの強さを。
 セリカは最後に、ケルベロスたちを勇気づけるように言った。
「苦しい戦いになるかもしれませんが、皆さんが協力すれば、きっと作戦は成功します。皆さんが無事に戻ってくることを、信じています」


参加者
岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
エリース・シナピロス(少女の嚆矢は尽きること無く・e02649)
月乃・静奈(雪化粧・e04048)
柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)
有内・アナベル(かけだしディーヴァ・e09683)
八雲・要(英雄志望のドラゴニアン・e14465)

■リプレイ

●命運をかけて
 有内・アナベル(かけだしディーヴァ・e09683)の持つ携帯電話に連絡が入ったのは、第2陣の突撃から30分程が経った頃だった。
「そろそろ交代よ!」
 ケルベロスたちの間に緊張が走った。
「攻撃の順番はわかってるね?」
 岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)の確認にケルベロスたちは応じた。彼らは事前に敵の撃破する順番も考え、あらゆるケースを想定して緻密な作戦を構築していた。
「最後まで踏みとどまっていろってことだろ? なら俺が倒れなければいい。それだけの話さ」
 八雲・要(英雄志望のドラゴニアン・e14465)が奮い立たせるように言った。四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)は静かに左手で刀印を結ぶと、当主の証でもある『神霊剣・天』の刀身をなぞり、要の言葉に応えるように言った。
「ここを突破されるわけにはいかないし、踏ん張りどころだね。陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。……参ります」

 2陣のジャック・ランプ(カボチャ頭・e14418)の誘導で、3陣のメンバーたちは戦線へと到着した。それを確認した2陣の中衛、後衛は素早く撤退を始める。同時に、3陣の前衛が戦線へと進む。2陣のメンバーにいた茅乃・燈(キムンカムイ・e19696)は響の姿を見ると、すれ違い様に言った。
「響さん、あとはお願いします」
 響は小さく頷き、答えた。
「ええ、任せて」
 すぐに、2陣の前衛が後ろに下がりその空白を3陣の中衛、後衛が詰める。2陣のレーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)は、ふと橋の右側を見やる。
「右側の戦闘はどう? 大丈夫かしら?」
 レーンには、右側が現時点で不利な状況にあるように見えた。月乃・静奈(雪化粧・e04048)は冷静に答えた。
「なんとか持ちこたえているという印象ですね。場合によっては、こちらからも援護しますが、まずは目の前の敵に集中、ですね」
 山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)は撤退しながら声をかけた。
「うん、その通りだべな。あとは、任せただ!」
 響は2陣のメンバーたちを横目に見送ると、現時点の距離を報告した。
「現在、170m」
「……防御重視でいけそうだね」
 シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)の言葉にケルベロスたちは首を縦に振って答えた。響はくすっ、と笑みを浮かべて呟いた。
「さて、狩りの時間だ。狩り放題、だね」

●衝突
 先手を打ったのはケルベロスたちだった。
「けん制だ」
 柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)の手から放たれた巨大な光球は、竜牙兵の隙を生むには十分だった。先陣を切っていた竜牙兵が光球に当たって、動きを一瞬だけ止めた。
「良い判断だね」
 沙雪は小さな声でそう言うと、史仁の攻撃に合わせて踏み込み、わずか一瞬で竜牙兵の目の前まで距離を詰めると、そのまま竜牙兵に鋭い突きを繰り出した。不意を衝かれた竜牙兵は突きを正面から食らって後ろずさりする。 
「回復と補助は任せてください」
 静奈は落ち着いた様子で仲間たちの守護のために紙兵散布を行った。
「私も……止める」
 エリース・シナピロス(少女の嚆矢は尽きること無く・e02649)はボウガンを構えると、体勢を立て直しきれていない竜牙兵に矢を放った。その矢は真っ直ぐ竜牙兵に向かって飛び、そして竜牙兵に直撃した。矢尻に塗られた麻痺毒によって、さらに竜牙兵の動きが少し鈍くなった。
「良い感じだね」
 シェイは事も無げな様子で言うと、姿勢を低くして竜牙兵との間合いを詰め、気をまとった足で勢いよく竜牙兵を蹴り上げる。彼はさらに、その勢いを利用して、竜牙兵を地面に叩きつけた。
 集中的に攻撃を受けていた竜牙兵は反撃のタイミングも上手く掴めず、攻撃を受ける一方だったが、その後ろにいる4体の竜牙兵は、ケルベロスたちに少しずつダメージを与えながら、じりじりとケルベロスたちを後退させていく。
 まず1体、竜牙兵を撃破しようと、エリースは響に目配せをした。響もそれに応え、2人は息を合わせて回り込む。そして左と右の双方から狙撃し、上手くかわせずにまたも体勢を崩した竜牙兵に、エリースは至近距離まで詰め寄り、竜牙兵を素早く投げ飛ばした。予想外の行動に対応できなかった竜牙兵はそのまま地面に投げ出された。そのとき既に、響は竜牙兵の真上に陣取っていた。
「……雷神の怒りにて、跡形残さず疾く滅べ!」
 響は雷神の力を纏い、認識すら追いつかないほどの速度で、竜牙兵に大きな一撃を与えた。
 そうして竜牙兵はまもなく死を迎えた。
「ひとまず1体撃破ね」
 響が撃破した敵の数を数える。
「やれやれ……こうも多いとゲンナリするね。終わりが見えないとなると尚更さ」
 シェイは溜め息をつきながら、半ば冗談っぽい口調で言った。
「まだまだこれからですよー」
 アナベルはシェイを励ますように言う。
「美人さんに抱擁してもらったら、少しはやる気が出るんだけどね」
 シェイは少し笑いながら答えた。やはり軽い口調で、シェイには余裕があるようにも見える風だった。
「抱擁はしませんけど、回復ならしますよー」
 アナベルはシェイの冗談めいた言葉をあしらうと、シェイを治癒した。
「……ありがとさん」
 しかし、実際はどのメンバーも多少の余裕があった。竜牙兵を1体ずつ撃破していくのは、困難なことではなかった。
「邪悪は俺が絶とう」
 沙雪が手で九字を結び、九印を唱える。その聖なる光の力が指先に集まり、やがて光の刀身を作り出す。沙雪はそれを振るい、竜牙兵の1体を切り裂いた。彼の攻撃を受けた竜牙兵は倒れた。
「これで2体目、ね。丁度5分経過」
「良いペースですね」
 響の声に静奈が応える。希望の音色を含んだ彼女の声は、仲間たち全員の士気を上昇させた。

●仲間たちのために
 戦闘開始から15分が経過した時点で、ケルベロスたちは竜牙兵を5体撃破しており、優勢に戦いを進めていた。
「既に6体を撃破していて、現時点でおおよそ185mってところだね」
 響は冷静に戦況を分析していく。そのとき、史仁が口を開いた。
「この戦法を続ければ、最終的には余裕が出てくるだろう」
 静奈はこの考えに同意を示し、さらに提案をした。
「そうですね。ずっと気にしてはいたんですけど、橋の右側の戦況が、かなり危険な状況です。これは右側の救援を行うことを考えた方が良いかもしれません」
 しかし、それを実行するということは、同時に自分たちの陣営が崩れる危険性が発生するということも意味していた。
「リスクはありますよ」
 アナベルは援護すること自体は反対ではなかったが、それによって自らまでもが危機に瀕してしまうのではないかと不安だった。エリースはアナベルの不安を認めながらも言った。
「リスクは、ある……。でも、援護しないと……右側が、突破されて……しまう、かもしれない……。そういうこと……よね?」
 静奈はエリースの問いかけに頷いた。
「右側が突破されてしまう可能性は十分に予測できる、と思います」
 要は戦いながら言った。
「つまりは、俺たち前衛がここを守りきればいいってことだろう? それなら大丈夫さ!」
「そうだね。俺も全力で戦おう」
 沙雪もそれに応える。
「わかりました。ただ、右側の敵は後方にいます。ここは敢えて後退して少し右側の敵との距離を近づけましょう」
 静奈は的確に指示を出し、ケルベロスたちはその指示の通りに動いた。敵の圧力に負けたように少しずつ後退し、右側の敵との距離がある程度近づいたところで、ケルベロスたちは右側の敵に攻撃を仕掛け始めた。
「俺は右側で戦っている仲間たちのことも信じてる。だからこそ、俺は彼らを助けなければならないんだ」
 史仁は静かに呟き、武器を構え直すと、巨大な光球を作り出し、敵の後衛に向かって放った。その攻撃は後衛に着弾し、史仁は竜牙兵たちの攻勢が一瞬止まったような感じを捉えた。
「攻撃は通じてるぞ」
 史仁の攻撃に続いて、響が攻撃を放つ。
「どこにいようと、必ず届く」
 その言葉通り、響の攻撃は敵の竜牙兵の1体に直撃、そして撃破した。
「私も……負けて、いられない」
 エリースも史仁、響に続いてボウガンを構え、1体の竜牙兵を貫き、その竜牙兵も、次の瞬間には倒れていた。
 だがその間、左側の陣営は後退し続けていた。前衛で沙雪とシェイと要が竜牙兵を押さえ、静奈とアナベルは3人の回復に専心していた。竜牙兵にダメージを与え、着実に1体ずつ撃破していく。
 右側の敵に一定のダメージを与えて、3人の狙撃手が元の位置に戻ったときには、5人は1体の竜牙兵を倒し、経過時間は21分、その時点での距離は225mとなっていた。

●希望をつなぎ、託す未来
 右側の援護を通して前衛の消耗は激しくなっていた。特に、要の消耗は最も激しかった。自分で体力を回復しながら戦ってもなお、体力は少しずつ減っていった。彼女の顔にも段々と苦しさが表れていた。
「俺は……! 倒れるわけには……いかないんだ……!」
 途切れ途切れになりながらも、彼女は力を振り絞って戦っていた。
 後衛にいるケルベロスたちはこの状況を打開しようと要の体力を回復させることを優先したが、既に彼女の体は限界に達していた。
 それは一瞬であり、突然だった。
 彼女の力がふっと緩んだほんのわずかな間に、竜牙兵は要に痛恨の一撃を与えた。
「ぐッ……」
 要はうめき、地面に倒れた。しかし、別の竜牙兵がとどめを差そうと要に近づいた瞬間。今度は、その竜牙兵が倒れていた。要の体は限界に達していたが、要の魂が、肉体を凌駕したのだ。
「言っただろう……? 俺は、倒れるわけには、いかないって」
 丁度、響が作戦終了まで残り5分を宣告したところだった。しかしながら、ケルベロスたちはかなり疲弊していた。
「がんばってください……! あと少し、あと少しですよ!」
 その間、静奈はずっと励まし続けた。その励ましと回復のお陰か、ケルベロスたちは奮闘し続けた。最後の最後の一瞬まで。
 そして3陣の戦闘が始まってから30分。
「30分ね」
「撤退しましょう!」

 こちらの撤退を見て、竜牙兵達も城ヶ島に撤退していく。
「……終わったな」
 それを確認して史仁が呟いた。アナベルはいかにも大変だったという表情をした。
「みなさん怪我はありませんか?」
 静奈がケルベロスたちに問いかける。
「見ての通り、ボロボロさ」
 シェイが笑いながら言葉を返す。
「い、今ヒールしますね」
 静奈は焦ったような反応をしたので、シェイはますます笑っている。
 沙雪は戦いの後の儀式として指を弾き鳴らしてから言った。
「ふぅ……後のことは、後のチームに任せましょう」
「そうだな、十分時間稼ぎをしたんだから、ドラゴンなんて軽く倒してきてほしいね」
 要は魔空回廊がある方向へ顔を向けた。つられて全員が魔空回廊の方向を向いた。静奈はドラゴンと戦っているであろう同胞たちが無事であるようにと、祈りを捧げていた。

作者:高畑迅風 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 17/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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