朱風の刻

作者:崎田航輝

 空の青さが過ぎ去って、夕闇が始まる時刻。
 世界が朱色に染まっていくと、暑いとも寒いとも言えぬ不思議な温度の風が肌に触れる。
 こんな時刻にはこの世ならざるものが現れるのだと、いつか誰かから聞いたような話を想起しながら、アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)は歩んでいた。
「……確かに、何か現れそうだ」
 呟いたのは、ふと見回して異変に気づいたから。
 市街の中心からも遠くないこの場所には、今まで確かに人の姿があったはずだった──だが、それが無い。
 そして空の色が燃えるようになってくるにつれて、強い気配も感じた。
 風の温度が不意に高くなった気がして、アルシエルはその正体に気づく。
 空から降り立ち、こちらへ歩んでくる影があった。
 タールの翼を揺らめかせ、焔を湛えて戦意を表す。不意を打とうという気は無いのか、正々堂々と正面から近づいてくる──シャイターン。
 アルシエルは瞳を細めた。
 その姿には、覚えがあったから。
 少々声音に乱暴な色を交ぜて問いかける。
「……また、復讐でもしにきたのか?」
「復讐?」
 シャイターンはその言葉に、いいや違うと首を振った。
 そうして手のひらに煌々と炎を輝かせる。
「強い者と戦い、そしてその全てを奪いに来た。ただそれだけのこと」
 瞳に見えるのは純粋な戦意。そうであるが故の、迷いの無い殺意の矛先が、アルシエルに襲いかかった。

「ケルベロスを狙うデウスエクスが現れることが判りました」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達に説明を始めていた。
「標的とされたのは、アルシエル・レラジェさんのようです。襲撃までの時間の猶予はあまり残されていません」
 アルシエルに連絡は繋がらず、アルシエル自身も既に現場にいることが判っている。それ故に、敵と一対一で戦いが始まってしまうところまでは覆すことは出来ないという。
「それでも今から急行し、合流して戦いに臨むことは出来ます」
 合流するまでに時間のラグは生まれてしまうだろう。それでも戦いを五分に持ち込むことは充分に可能だといった。
「現場は海沿いの街にある埠頭です」
 敵が人払いをしているためだろう、周囲にひとけは無い。一般人については心配は要らないだろうと言った。
「アルシエルさんを狙った敵ですが、シャイターンのようです」
 敵の詳細については判らないことも多い。
 ただ、アルシエルには強い戦意を抱いており、危険な敵であることには違いない。
「だからこそ猶予はありません。ヘリオンで到着後、急ぎ戦闘に入って下さい」
 現場へ入ればアルシエルを発見すること自体は難しくないはずだ。
「仲間の命のために──」
 さあ、行きましょうとイマジネイターは声音に力を込めた。


参加者
天崎・祇音(霹靂神・e00948)
グレッグ・ロックハート(浅き夢見じ・e23784)
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)
安海・藤子(終端の夢・e36211)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)
ナターシャ・ツェデルバウム(自称地底皇国軍人・e65923)
ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)

■リプレイ

●力
 朱色の世界には炎熱が薫っていて、漂う気配に肌が灼けるような感覚だった。
 流れているのは、逢魔が時でも違和を覚える程の不穏な空気。だから夕闇の街を駆ける天崎・祇音(霹靂神・e00948)は、その先に敵がいると直感していた。
「わしもよく狙われるが、あやつも中々じゃのぅ……」
 少し苦笑いを零すのは、“彼”の苦境が初めてでは無いからだろう。
 くふふと笑顔を作る安海・藤子(終端の夢・e36211)も、頷いている。
「素直じゃないってところで余計に恨みでも買ったのかしら、ね?」
 そんなふうに言ってあげたらどんな言葉が返ってくるかと、そのツンとした顔を想像したりしながら。
「ま、それはそれよね」
 と、呟きながらも足を止めない。
 ただ一刻も早く助けに向かうため。
「可愛いあの子を守るのに理由は要らないんだし──頑張りますか。ね、みんな」
「……ああ」
 応えて翼で風を切る、グレッグ・ロックハート(浅き夢見じ・e23784)も心は同じ。朱の世界と対照的な蒼の瞳で真っ直ぐに見据え、ただ前を目指す。
 因縁や深い事情は知らずとも、仲間の命をみすみす奪わせる訳にはいかない。
 それだけは確かなことだから。
「──征こう」
 熱気が一層濃くなってくる。その先に戦場はあった。

 ──熱いな。
 氷棘の翼で宙を返って、アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)は炎から後退していた。
 着地して、ちらとだけ自身の体を見下ろす。
 掠めただけに過ぎないが、炎傷は確かに体を蝕んでいる。敵の攻撃は、そう何度も耐えられないだろうとすぐに理解した。
 それでも、アルシエルが零すのは素の乱暴な声音だ。
「今度は兄の方かよ。妹と一緒に来てりゃ勝ち目もあっただろうに」
 わざわざ狩られに来たのか? と。
 敵を愚かと言ってみせるかのように、氷気を巡らせ自身の体力を保つ。
 そのシャイターン──斬人は、眉根を動かして首を振った。
「無論、勝つ為に来た。妹がもういないのは無念だが」
 そう言いながらも、厳然とした態度で焔の剣を握る。
「一人で勝てないなら二人でも同じ事。即ち……俺自身が強ければ何も問題はない」
 瞬間、斬人は踏み込んで強烈な剣撃を放った。
 アルシエルは血潮すら蒸発する苦痛に見舞われながら、後ろへふらつく。
「……そうかよ。なら、先に逝った妹と同じとこに向かわせてやるよ」
 舌打ちしつつ、それでも態度は変えず。
 焔を払いのけるようにして自己の傷を癒やす。
 その口ぶりは実際、強がりでもあった。敵相手に、いや、誰にも弱音など吐き出すことはできないと。
 けれど同時にそれは、信じているからでもあったろう。
 そこに仲間が来てくれると。
 斬人は勝負をつけようと、アルシエルへ炎を撃とうとしていた──けれど。
「そこまでにして貰おうかの」
 朱色の空に、雷が奔る。
 高く跳んできた祇音が、刃を掲げて鮮烈な雷光を輝かせていた。振り下ろされた一刀は焔を切り裂き、斬人を大きく後退させてゆく。
 斬人は驚愕を見せながら、それでも反射的に焔を打とうとした、が。
 それが放たれる前に、烈しい風が吹いて攻撃を阻害する。
「どこかで見た様な赤だわ」
 ひょっとして、前の敵と縁でもあるのかしら、と。
 散った炎を見つめながら、こつこつと歩んで来るのはルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)。
 袖内の宝石を触媒に、胸の魔術回路から魔力を巡らせて。
 まあ、どちらでもいいわと呟いて紅色の陽炎を生み出すと──刹那、それを烈風にして敵の足元を掬ってみせた。
「何であれ、貴方の赤は、ここには害だわ」
「ああ。少なくとも──その炎に仲間を灼かせはしない」
 声を継いで降りてくる鮮烈な純白は、翼を広げるグレッグ。
 注意を惹くよう至近に寄ると、閃光を拳に湛えて一撃、裂帛の殴打を見舞って敵を吹き飛ばす。
 その頃には、カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)が合流。かしゃりと美しい騎士鎧を鳴らしてアルシエルの肩を支えると、『Przewodnik』──そのまま敵から護れる位置に移動させて手当をした。
「大丈夫か……!?」
「……ああ、まぁ、何とかな」
 アルシエルは仲間の姿に、少しだけほっとした表情を見せて。小さくそう応えている。
「では残る傷も癒やしてしまおうか!」
 と、頷いて歩み寄るのはナターシャ・ツェデルバウム(自称地底皇国軍人・e65923)。
 軍服のマントをひらりと揺らし、自らの血を一滴落として。濃密な癒やしの力を加えることで劇的に傷を治していく。
 面を外した藤子も、大地から魔力を引き上げてアルシエルの不調を治癒。
 そのまま藤子が「後は頼むぜ」と向けた声に応えるのは──ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)。
 頷くと、宙に浮かべた数多の氷粒に星座を映し出すようにして。眩い光で加護を招来し、アルシエルを含む前衛の護りを強めていた。
「……大丈夫かい?」
「ま、助かったぜ」
 と、アルシエルが目を向けたのはラグエルではなく皆に対して。兄には目も合わせない、その態度は変わらずだった。
 カジミェシュはそんな様子を見つつも、一先ずアルシエルに声をかける。
「戦えるか?」
「ああ」
 頷いて、アルシエルは敵に視線をやる。
 斬人は間合いを取った位置から、現れた面々を見回すようにしていた。
「皆、お前の仲間というわけか」
「そういうこった。一体多数だが──これも俺が手にした“力”ってヤツなんでね」
 アルシエルが不敵な笑みを見せると、ナターシャも声を差し向けてみせる。
「一人でいるところを狙い撃ちに来たのだ、卑怯などとは言うまいな? ケルベロスを狩りに来たのなら、狩られる覚悟もあったろう」
「……いいだろう」
 斬人は多くを語るでもなく。ただ、全てを捻じ伏せんと迫ってきた。
 が、祇音がそう好きにはさせない。黒竜のレイジを宙に羽ばたかせ、霊力の霧でその視界を包ませていた。
「今じゃ!」
「ああ──すまねえな」
 アルシエルは祇音の手助けに、素直な喜びも覚えながら。氷のように透明な刃を滑らせて、敵へ横一閃の強撃を叩き込んだ。

●宿縁
 斬人は苦痛を滲ませながらも、抱く戦意に変わりはないようだった。
 寧ろ強者が揃ったことに悦びの感情すら覚えているのか。気力を充足するように自身を焔で包み態勢を整えていた。
(「……やはり似ている」)
 ルベウスはその炎の色を見つめて、瞳を細める。
 以前に戦ったアルシエルの赤い敵。その姿を想起しながら。
「あの敵は──」
「……あの時倒した盗人、トウカの兄さ」
 アルシエルはルベウスの視線に、応えるように言った。
 そう、と。ルベウスは紅の瞳を真っ直ぐに戻す。あの赤色が別物であるわけはないと、その事実が判ったから。
「ならば尚更、捨て置け無いわ、ね」
「……勿論だよ」
 頷くのはラグエルだった。
 前に討ったあの敵と関係があるというのなら、即ちアルシエルの過去に関する相手ということだろう。だから、気になる点は幾らもある。
 けれど弟を害するのであれば、容赦する理由はない。
「炎を氷に閉ざしてやるよ」
 一瞬、空の朱色が薄まる程の冷気を揺蕩わせ、狂気の漏れ出す笑みを浮かべて。
 それでも狂気に飲まれて弟を傷つけたくなはないから、瞬時に自制して──冷気を操り仲間に加護を授けていく。
 斬人はあくまでアルシエルを狙い炎剣を振るってくる。が、素早く地を蹴ったカジミェシュが、甲高い音を響かせて鎧で防御していた。
 惑わずに、勇壮に、決して退かず。
「なにゆえ彼に執着しているかは知らんが……その剣、通させはせんよ」
「一度負けた相手、今度は断ち切るというだけのこと」
 斬人は力で押し通ろうとする。
 けれどカジミェシュは逆に組み付いて。騎士の末裔として、護る事を全うするために──前進を許さない。
 だけでなく、聖人を祀った籠手を淡く輝かせて小さな騎士達を顕現。仲間の護りまでもを十全にしていた。
 斬人は突き崩そうと刃を振り上げるが──そこにグレッグだ。
「こちらにも、目を向けてもらおうか」
 白銀を纏った拳を輝かせ、真っ直ぐの拳で炎刃を弾き返してみせる。敢えて近接戦を挑むのは、グレッグ自身がそれを得意とするため。
 敵が攻めてくれば、下がらず拳を打ち合わせて。
 真っ向勝負は望むところと、その相貌に静かな戦意を湛えてみせ、連撃。痛打を顔面に浴びせていく。
 同時に一瞬だけ視線を送れば、アルシエルは頷いて。
 信頼するグレッグの意志に応えるよう、XIX【Sonne】──カードから太陽の化身を召喚し、敵にすら苦渋をもたらす炎熱を齎した。
 斬人は呻きながらも、距離を取って炎の壁を放ってくる。
 だがナターシャは、それを甘んじて受けるつもりはなかった。
「武人と名乗る割には随分いやらしい戦い方だな。ならば、こちらも対処するまで!」
 決して敵を謗りはしない。
 勝てば良いのは此方も同じなのだから。
 故に、出来ることはやってみせると。身の丈ほどのシャベルを地に突き刺し『即席防壁構』──流し込んだグラビティによって地を隆起させ、防壁にして仲間の負傷を抑えていた。
 そこへラグエルが癒やしの霰を降らせると、カジミェシュの焔竜ボハテルも治癒の炎を生み出して、即時に皆の治療を助けていく。
 藤子も金に輝く粒子を舞わせて──仲間を回復強化しながら視線を横にやっていた。
「さて、アルシエル。疲れたりしてないな?」
「……心配されなくてもな」
 アルシエルは少しツンとしつつも健常な返事。
 なら反撃だ、と藤子自身はあくまで笑顔のままで。アルシエルの斬撃に合わせてオルトロスのクロスを奔らせ、剣撃を重ねていった。
 斬人は再度焔を撒こうとする、が。
「火気を扱うのに埠頭でしかけるとは、安全に配慮しているの、ね」
 ルベウスはそんな言葉を聞かせながら、呪銭を縄のように形作っていた。
「それでも、火遊びはよくないわ」
 だからそこまで、と。
 蛇のようにそれを奔らせ敵の手元を縛り付けていく。
「任せるわ、ね」
「うむ!」
 声を受けた祇音は、雷光を爆ぜさせながら疾駆していた。光の残滓が線を描くほど眩しく輝くそれは金山姫──稲妻を湛えた流体。
 祇音はまずはレイジに霊魂を纏った体で体当たりをさせる。そして敵が体勢を崩すと、そこへ駆け抜けて一撃。
 雷そのもので殴りつけるよう、豪速にして強烈な打突で斬人の泥翼を灼き切った。

●夕闇
 倒れ込んだ斬人は、命の灯火も薄めるようにその焔を弱めていた。
 グレッグはそれを見ながらも油断はしない。敵の猛攻を受け、此方とて無傷ではないのだから。
 視線を動かしアルシエルを窺う。
 敵は強い。故に大切な友人に、最後まで無茶をしてほしくはない。けれど同時に後悔を残してほしくもなかった。
 だから小さく聞く。
「……やれるか?」
「勿論だ」
 アルシエルは応える。
 ならばとグレッグも頷き、全力で。敵に肉迫し、氷気を収束させた拳を打ち込んでいく。
 そこへ軍靴を鳴らし、ナターシャが跳んでいた。
「これ以上の抵抗はさせん。勝負をつける!」
 くるりと廻り、回転力を威力に転化するように殴打。手甲の一撃で敵の護りを砕く。
 そこに燦めく黄金色は、ルベウスの生み出した槍の如き魔法生物。『ルイン・アッサル』──宙を奔る輝きが、翔んで腹部を貫いた。
「後はお願い、ね」
「ああ」
 声を返すカジミェシュは、草摺を流動させて刃と成すと冷気を纏わせ一閃、敵の足元を斬り裂いてみせる。同時に視線を送る先は──。
「ラグエル」
「うん、やれるだけやるよ」
 僅かに喰霊刀を抜くラグエル。CoDe:【Venator】──魂から氷の矢を作り飛ばしていた。
 狂気に飲まれるつもりはない。けれど弟の為に今少し、力になりたかったから。微かにだけその力を使って敵の胸部を穿ってゆく。
 藤子は『蒼銀の冴・馮龍』。詠唱により氷を呼び出し、龍の姿を与えて焔ごと敵の腕を喰い千切らせていた。
「次は譲るぜ、祇音」
「……いいだろう!」
 祇音は四肢を獣化させ『覇狼・風迅雷塵撃』──爆発的な加速で雷の斬撃を見舞った。
 宙へ煽られた斬人へ、アルシエルは凍気を靡かせて迫っていく。
「こいつで最後だ」
 朱空を裂くような、怜悧で澄み切った斬閃。両断された斬人は、風に散るように消滅していった。

 火の粉の残滓も、深まる夕闇に消えていく。
 ルベウスは暫し敵が散っていくその姿を見ていた。
(「綺麗な赤……私はその色を忘れない」)
 そうして目を伏せて、それから皆へと振り返っている。
 カジミェシュも武器を収め、アルシエルに視線を向けた。
「大丈夫か?」
「ああ……」
 アルシエルは頷いて、それから少しだけ口ごもりつつ。
 素直には言えないけれど、皆へ「ありがとな」と。少しばかり目をそらしながらも小声で言っていた。
「……皆に、助けられよ」
「くふふ、皆に好かれてるのよ」
 それを受け入れたらどう? と。面を着けた藤子は笑みを含みつつ、ラグエルにも視線を向けていた。
「いっとう大切に想ってくれてる人もいるんだし、ねぇ? ラグエル」
「……うん。今はとにかく、アルシエルが無事でよかった」
 ラグエルはからかうような言葉は否定はせずも、今しばらくは静かな声音を返し、見守る形を取っている。
 藤子はそんな兄弟に微笑みつつも。みんな無事みたいでよかったわぁ、と改めて皆の健常を喜んだ。
 ナターシャは見回して、景色のヒールを始めていく。
「余り荒れてはいないが……それでも、できるだけ修復はせねばな」
「そうじゃな」
 祇音は頷きつつも作業はレイジに任せつつ。周囲に敵の気配が無いことを確認しながら……ふと、照れ隠しのように片付けをしているアルシエルに目をやっていた。
「しかし、縁が多いのはいいが……狙われすぎじゃの?」
「あら、祇音が言っても説得力ないわよねぇ。数が多いってのはお互い様ってやつじゃないの?」
 と、言葉を挟んだ藤子がそんなふうに笑みを向ける。
 祇音はとぼけるように首を振った。
「それを言うのなら、わしなぞより安海殿の方が余程狙われておるじゃろうに」
「私? ふふ」
 それには藤子もまた笑ってしらを切る。道化ならば真実を隠してこそと言うように。
 そんなやり取りを眺め、グレッグはほっと安堵した様子だった。激しい戦いではあったが、禍根が残らないであろうことは、素直に喜べたから。
 そうしてグレッグは、そっとその場を後にする。
 皆が帰路についていくと、アルシエルも歩み始めた。
 と、祇音がこっそりとその横に並ぶ。
「無事で何よりじゃ」
 そして小さくそうとだけ言うと、頭を撫でて。反応が来るよりも早く、何事もなかったかのように過ぎ去っていった。
 アルシエルは少しだけ驚いてから……その背を見つめて、頭を軽く掻いて。
 それから一度だけ空を見上げて、歩みを再開していった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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